特許第6232505号(P6232505)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232505
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】燃料電池用電極触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20171106BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20171106BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20171106BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20171106BHJP
【FI】
   H01M4/86 M
   H01M4/92
   H01M4/88 K
   !H01M8/10
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-555401(P2016-555401)
(86)(22)【出願日】2015年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2015079926
(87)【国際公開番号】WO2016063968
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2017年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-216946(P2014-216946)
(32)【優先日】2014年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100168893
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 正路
(72)【発明者】
【氏名】堀内 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】寺田 智明
(72)【発明者】
【氏名】堀 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】水谷 宣明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐介
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/119640(WO,A1)
【文献】 特開平10−069914(JP,A)
【文献】 特開平10−092441(JP,A)
【文献】 特開2010−253408(JP,A)
【文献】 特開2010−027364(JP,A)
【文献】 特開2013−033701(JP,A)
【文献】 特開2013−118049(JP,A)
【文献】 特表2012−529135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86−4/96
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含み、
前記合金における白金とコバルトとのモル比が4〜11:1であ
70〜90℃で酸処理されている、燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
前記合金における白金とコバルトとのモル比が7〜11:1である、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
前記合金の平均粒径が3.5〜4.1nmである、請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
X線小角散乱法により測定した前記合金の分散度が44%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
コバルトの溶出量が115ppm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を含む、燃料電池。
【請求項7】
中実カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程;及び
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程;及び
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとの合金を70〜90℃で酸処理する酸処理工程;
を含み、
担持工程において、白金とコバルトとを2.5〜6.9:1のモル比で担持し、
合金化工程において、白金とコバルトとを700〜900℃で合金化する、燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項8】
担持工程において、中実カーボンに白金を担持させて得た白金担持触媒に対し、白金担持触媒の表面上の酸素量を4重量%以下に低減させてから、コバルトを担持する、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料を補充することにより継続的に電力を取り出すことができ、且つ環境への負担が小さい発電装置である。近年の地球環境保護への関心の高まりにより、燃料電池には大きな期待が寄せられている。また、燃料電池は発電効率が高く、システムの小型化が可能であるため、パソコンや携帯電話等の携帯機器、自動車や鉄道等の車両等の様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
燃料電池は、一対の電極(カソード及びアノード)及び電解質から構成されており、当該電極には担体、及び当該担体に担持された触媒金属からなる電極触媒が含まれている。従来の燃料電池における担体としては一般的にカーボンが使用されている。また、触媒金属としては一般的に白金又は白金合金が使用されている。
【0004】
燃料電池の性能を向上するためには、電極触媒の活性を高めることが必要である。活性の向上を目的とした多くの技術が報告されている(例えば、特許文献1〜7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−124001号公報
【特許文献2】特開2013−252483号公報
【特許文献3】特開2012−248365号公報
【特許文献4】特開2012−236138号公報
【特許文献5】特開2005−317546号公報
【特許文献6】特開2005−166409号公報
【特許文献7】特開2009−140657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、白金(Pt)とコバルト(Co)との合金(以下「PtCo合金」という)をカーボン担体に微細に担持させた電極触媒を使用することにより、燃料電池の初期性能を向上させることが行われていた。しかしながら、PtCo合金を含む電極触媒は、長期耐久試験においてCoを溶出し、燃料電池のプロトン抵抗を上昇させてしまう。即ち、PtCo合金を使用することにより、燃料電池の初期性能は向上するものの、耐久性能が低下するという問題が存在していた。
【0007】
この問題に対して、例えば、PtCo合金におけるCoの比率を低下させる試み、Coの溶出を抑制するために電極触媒に対して酸処理を行う試み等が行われていた。しかしながら、Coの溶出を十分に抑制することは困難であった。
【0008】
そのため、本発明は、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のことが判明した。
従来使用されていた中空カーボン担体にPtCo合金を担持すると、一部のPtCo合金が中空カーボン担体の内部に包含されることになる。この場合、Coの溶出を抑制するための酸処理を行っても、担体内部に存在するPtCo合金を十分に処理することは困難である。その結果、担体内部に存在するPtCo合金からCoが溶出しやすくなる。
【0010】
そこで、本発明では、中空カーボン担体の代わりに中実カーボン担体を使用することにより、担体内部にPtCo合金が包含されることを回避した。これにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができる。その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となる。
【0011】
また、PtとCoとが特定のモル比を有する場合に、燃料電池の初期性能及び耐久性能が更に向上することが判明した。加えて、PtCo合金が特定の平均粒径を有する場合に、燃料電池の初期性能及び耐久性能が更に向上することが判明した。
【0012】
更に、適切な条件で酸処理を行うことにより、反応に寄与しないCoを十分に除去し、Coの溶出を更に抑制できることが判明した。
【0013】
即ち、本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
中実カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含む、燃料電池用電極触媒。
[2]
前記合金における白金とコバルトとのモル比が4〜11:1である、[1]に記載の燃料電池用電極触媒。
[3]
前記合金の平均粒径が3.5〜4.1nmである、[1]又は[2]に記載の燃料電池用電極触媒。
[4]
X線小角散乱法により測定した前記合金の分散度が44%以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
[5]
70〜90℃で酸処理されている、[1]〜[4]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
[6]
コバルトの溶出量が115ppm以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
[7]
[1]〜[6]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒を含む、燃料電池。
[8]
中実カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程;及び
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程;
を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法。
[9]
担持工程において、白金とコバルトとを2.5〜6.9:1のモル比で担持する、[8]に記載の製造方法。
[10]
合金化工程において、白金とコバルトとを700〜900℃で合金化する、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとの合金を70〜90℃で酸処理する酸処理工程を更に含む、[8]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立させることができる。
【0015】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願第2014-216946号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】Pt/Coモル比と質量活性との関係を示す。
図2】PtCo合金の平均粒径と質量活性との関係を示す。
図3】PtCo合金の平均粒径とECSA維持率との関係を示す。
図4】Co溶出量とプロトン抵抗との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<燃料電池用電極触媒>
本発明の一実施形態は、中実カーボン担体と、当該担体に担持されたPtCo合金とを含む、燃料電池用電極触媒(以下、単に「電極触媒」ともいう)に関する。
【0018】
本実施形態では、中空カーボン担体の代わりに中実カーボン担体を使用することにより、担体内部にPtCo合金が包含されることを回避することができる。これにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができる。その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となる。
【0019】
中実カーボンとは、中空カーボンと比較して、カーボン内部の空隙が少ないカーボンであり、具体的は、N吸着によって求められるBET表面積とt−Pot(粒子サイズから粒子外部の表面積を算出した)による外表面積との比率(t−Pot表面積/BET表面積)が40%以上あるカーボンである。
【0020】
中実カーボンとしては、例えば、特許第4362116号に記載のカーボンを挙げることができる。具体的には、比表面積が500〜1100m/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が15〜40Åであるアセチレンブラックを挙げることができる。より具体的には、電気化学工業株式会社製のデンカブラック(登録商標)等を挙げることができる。
【0021】
中実カーボン担体の平均粒径としては、好ましくは30μm以下、より好ましくは13μm以下、特に好ましくは10μm以下等を挙げることができる。平均粒径の下限としては、例えば0.01μm、0.1μm等を挙げることができる。平均粒径の前記上限及び前記下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0022】
本実施形態では、電極触媒においてPtCo合金を使用することにより、燃料電池の初期性能を向上させることができる。ここで、PtCo合金におけるPtとCoとのモル比を11以下:1とすることにより、電極触媒の質量活性を更に高めることができる。また、PtCo合金におけるPtとCoとのモル比を4以上:1とすることにより、Coの溶出を更に抑制することができる。従って、PtCo合金におけるPtとCoとのモル比を4〜11:1とすることにより、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。より好ましいPtとCoとのモル比としては、例えば5〜9:1等を挙げることができる。モル比の前記範囲の上限及び下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0023】
また、PtCo合金の平均粒径を4.1nm以下とすることにより、電極触媒の質量活性を更に高めることができる。また、PtCo合金の平均粒径を3.5nm以上とすることにより、一定の電気化学的活性表面積(ECSA)を維持することができる。ECSAの維持率は耐久性能の指標とすることができる。従って、PtCo合金の平均粒径を3.5〜4.1nmとすることにより、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。より好ましいPtCo合金の平均粒径としては、例えば3.6nm〜4.0nm等を挙げることができる。平均粒径の前記範囲の上限及び下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0024】
中実カーボン担体に担持されたPtCo合金の分散度は、X線小角散乱法(SAXS)により測定した場合に、好ましくは44%以下、より好ましくは40%以下、特に好ましくは36%以下である。X線小角散乱法による分散度は、PtCo合金の均一性の指標とすることができる。44%以下の分散度を有することにより、燃料電池の性能を更に向上させることができる。分散度の下限としては、例えば、5%、10%等を挙げることができる。分散度の前記上限及び前記下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0025】
X線小角散乱法による分散度は、解析ソフトを用いて算出することができる。解析ソフトとしては、例えば、nano−solver(株式会社リガク製)等を挙げることができる。
【0026】
中実カーボン担体に対するPtCo合金の担持量は、例えば、中実カーボン担体とPtCo合金との合計重量を基準として、好ましくは47.7〜53.6重量%、より好ましくは48.0〜52.9重量%、特に好ましくは49.1〜51.5重量%である。担持量の前記範囲の上限及び下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0027】
中実カーボン担体に対するPtの担持量は、例えば、中実カーボン担体とPtCo合金との合計重量を基準として、好ましくは46.5〜49.9重量%、より好ましくは47.1〜49.1重量%、特に好ましくは47.3〜48.7重量%である。担持量の前記範囲の上限及び下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。なお、Ptの担持量を、例えば、10〜50重量%の低担持量、又は50〜90重量%の高担持量としてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態では、電極触媒は適切な条件(70〜90℃)で酸処理されているため、Coの溶出が抑制されている。具体的には、酸処理された電極触媒は、特定の条件(硫酸溶液20mLと電極触媒0.5gをサンプル瓶中に撹拌子と共に入れ、スターラーで混合分散し、室温下で100時間混合する条件)において、Coの溶出量が好ましくは115ppm以下であり、より好ましくは40ppm以下であり、特に好ましくは30ppm以下である。Coの溶出量の下限としては、例えば、0ppm、5ppm等を挙げることができる。Coの溶出量の前記上限及び前記下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0029】
<燃料電池>
本発明の一実施形態は、上記電極触媒とアイオノマーとを含む燃料電池用電極(以下、単に「電極」という)と、電解質とを含む燃料電池に関する。
【0030】
アイオノマーの種類としては、例えば、Du Pont社製のNafion(登録商標)DE2020、DE2021、DE520、DE521、DE1020及びDE1021、並びに旭化成ケミカルズ(株)製のAciplex(登録商標)SS700C/20、SS900/10及びSS1100/5等を挙げることができる。
【0031】
燃料電池の種類としては、固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)等を挙げることができる。特に限定するものではないが、燃料電池は固体高分子形燃料電池であることが好ましい。
【0032】
上記電極触媒を含む電極はカソードとして使用してもよいし、アノードとして使用してもよいし、カソード及びアノードの両方として使用してもよい。
【0033】
燃料電池はセパレータを更に含んでいてもよい。一対の電極(カソード及びアノード)と電解質膜とからなる膜電極接合体(MEA)を一対のセパレータで挟持した単セルを積み重ね、セルスタックを構成することにより、高い電力を得ることができる。
【0034】
<燃料電池用電極触媒の製造方法>
本発明の一実施形態は、上記電極触媒の製造方法に関するものであり、具体的には、中実カーボン担体にPtとCoとを担持する担持工程;及び中実カーボン担体に担持されたPtとCoとを合金化する合金化工程;を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法に関する。
【0035】
担持工程では、PtとCoとを好ましくは2.5〜6.9:1のモル比、より好ましくは3.1〜5.7:1のモル比で担持する。以下で説明する酸処理工程においてCoの一部が除去されるため、担持工程では、完成品の電極触媒におけるPtとCoとの好ましいモル比と比較して、Coを多く担持する。このようなモル比を採用して製造された電極触媒を使用することによって、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。
【0036】
合金化工程では、PtとCoとを好ましくは700〜900℃、より好ましくは750〜850℃で合金化する。このような合金化温度を採用して製造された電極触媒を使用することによって、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。
【0037】
本実施形態の製造方法は、中実カーボン担体に担持されたPtCo合金を酸処理する酸処理工程を更に含むことが好ましい。
【0038】
酸処理工程では、中実カーボン担体に担持されたPtCo合金を好ましくは70〜90℃、より好ましくは75〜85℃で酸処理する。このような温度で酸処理することによって、反応に寄与しないCoを十分に除去することができる。これにより、Coの溶出を抑制することができる。
【0039】
酸処理工程において使用する酸としては、例えば、無機酸(硝酸、リン酸、過マンガン酸、硫酸、塩酸等)、有機酸(酢酸、マロン酸、シュウ酸、ギ酸、クエン酸、乳酸等)を挙げることができる。
【0040】
本実施形態の製造方法における材料、製造物、それらの特徴等については、<燃料電池用電極触媒>の項目において既に説明している。上記項目において説明した事項を本項目において適宜参酌するものとする。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例は特許請求の範囲に包含されるか否かによって区別されるものではない。特に良好な結果が得られた実施形態を実施例とし、それ以外の実施形態を比較例とした。
【0042】
<電極触媒の製造>
[実施例1]
担持工程:デンカブラック(1.0g:電気化学工業株式会社製)を純水(41.6mL)に分散させた。白金(1.0g)を含むジニトロジアミン白金硝酸溶液(特許第4315857号:キャタラー株式会社製)を滴下し、デンカブラックと十分に馴染ませた。還元剤としてエタノール(3.2g)を加え、還元担持を行った。分散液をろ過洗浄し、得られた粉末を乾燥させ、白金担持触媒を得た。次に、白金担持触媒の表面上の酸素量を4重量%以下まで低減させ、製品比率(モル比)でPt:Coが7:1となるようにコバルト(0.03g)を担持させた。
【0043】
本実施例で使用したデンカブラックは、中実カーボンであって、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が19Åであり、N吸着によって求められるBET表面積とt−Pot(粒子サイズから粒子外部の表面積を算出した)による外表面積との比率(t−Pot表面積/BET表面積)が49.6%である。なお、中空カーボンの場合、t−Pot表面積/BET表面積は28.1%である。
【0044】
合金化工程:得られた担持触媒をアルゴン雰囲気下、800℃で合金化した。
酸処理工程:合金化した担持触媒を0.5N硝酸を使用して80℃で酸処理し、電極触媒を得た。
【0045】
[実施例2〜27、比較例1〜73]
Pt:Co(モル比)、合金化温度、酸処理温度を変更したこと以外は実施例1と同一の工程で電極触媒を製造した。
実施例及び比較例の製造条件を表1〜4に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
<MEA評価>
実施例及び比較例で製造した電極触媒を有機分溶媒に分散させ、分散液をテフロン(登録商標)シートへ塗布して電極を形成した。電極をそれぞれ高分子電解質膜を介してホットプレスによって貼り合わせ、その両側に拡散層を配置して固体高分子形燃料電池用の単セルを作成した。
【0051】
セル温度を80℃、両電極の相対湿度を100%とし、スモール単セル評価装置システム(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)及びIV測定を行った。
【0052】
CVについては、範囲を0.05〜1.2V、速度を100mV/sとして電位走査を5度行い、5度目のCVのH吸着領域の電荷量からECSA(Pt質量当たりの電気化学的な表面積)を算出した。
【0053】
IV測定については、0.01〜1.0A/cmの範囲で任意に電流を制御した。0.76V時のPt質量当たりの電流値を質量活性と定義した。
【0054】
<PtCo合金の平均粒径>
JIS K 0131に準拠したX線回折法(XRD法)で測定されたXRDチャートにおける、Pt金属単体が示すピークの強度から算出した。
【0055】
<Co溶出量>
硫酸溶液20mLと電極触媒0.5gをサンプル瓶中に撹拌子と共に入れ、スターラーで混合分散し、室温下で100時間混合する。その後、混合液を固液分離(ろ過)し、ろ液中のCo濃度をICPで測定した。
【0056】
<プロトン抵抗>
単セルのIVを測定後、交流インピーダンス法によりプロトンを算出した。
【0057】
<結果1>
図1にPt/Coモル比と質量活性との関係を示す。
図1における各プロットは、左から:
比較例13(Pt/Coモル比:3、質量活性:253mA/cm@0.76V);
実施例14(Pt/Coモル比:4、質量活性:200mA/cm@0.76V);
実施例1(Pt/Coモル比:7、質量活性:185mA/cm@0.76V);
実施例23(Pt/Coモル比:11、質量活性:175mA/cm@0.76V);
比較例86(Pt/Coモル比:15、質量活性:165mA/cm@0.76V);
に対応する。
【0058】
FC車に搭載する電極触媒に求められる質量活性は175mA/cm@0.76V以上である。そのため、Pt/Coモル比は11以下であることが好ましい。一方、図4から分かるように、Pt/Coモル比が3である比較例13ではCoの溶出量が多い。従って、好ましいPt/Coモル比は4〜11である。
【0059】
<結果2>
図2にPtCo合金の平均粒径と質量活性との関係を示す。また、図3にPtCo合金の平均粒径とECSA維持率との関係を示す。
【0060】
図2及び図3における各プロットは、左から:
比較例44(平均粒径:3nm、質量活性:203mA/cm@0.76V、ECSA維持率:37%);
実施例8(平均粒径:3.5nm、質量活性:191mA/cm@0.76V、ECSA維持率:40%);
実施例1(平均粒径:4nm、質量活性:185mA/cm@0.76V、ECSA維持率:50%);
実施例5(平均粒径:4.1nm、質量活性:178mA/cm@0.76V、ECSA維持率:52%);
比較例23(平均粒径:6nm、質量活性:135mA/cm@0.76V、ECSA維持率:71%);
比較例55(平均粒径:7nm、質量活性:113mA/cm@0.76V、ECSA維持率:83%);
に対応する。
【0061】
上記の通り、FC車に搭載する電極触媒に求められる質量活性は175mA/cm@0.76V以上である。そのため、PtCo合金の平均粒径は4.1nm以下であることが好ましい。また、電極触媒に求められるECSA維持率は40%以上である。そのため、PtCo合金の平均粒径は3.5nm以上であることが好ましい。従って、好ましいPtCo合金の平均粒径は3.5〜4.1nmである。
【0062】
<結果3>
図4に、Co溶出量とプロトン抵抗との関係を示す。
図4における各プロットは、左から:
実施例8(Co溶出量:4ppm、プロトン抵抗:0.50mΩ・13cm);
実施例1(Co溶出量:16ppm、プロトン抵抗:0.51mΩ・13cm);
実施例5(Co溶出量:27ppm、プロトン抵抗:0.52mΩ・13cm);
比較例13(Co溶出量:145ppm、プロトン抵抗:0.63mΩ・13cm);
比較例26(Co溶出量:350ppm、プロトン抵抗:0.80mΩ・13cm);
に対応する。
【0063】
電極触媒に求められるプロトン抵抗は0.6mΩ以下である。従って、好ましいCo溶出量は115ppm以下である。
【0064】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4