(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに異なる周波数の複数の第1の光と互いに異なる周波数の複数の第2の光とを、前記第1の光と前記第2の光との周波数の差が異なる組み合わせで干渉させることよって、ビート周波数の異なる複数の干渉光を生成する干渉光生成部と、
複数の前記干渉光を照射する干渉光照射部と
を備えることを特徴とする照射装置。
前記干渉光生成部は、レーザ光源から出力された光を回折させ、入力されるコム信号の周波数に応じた複数の回折光を複数の前記第1の光として射出する第1音響光学ディフレクタと、
前記レーザ光源から出力された前記光を回折させ、入力されるコム信号の周波数に応じた複数の回折光を複数の前記第2の光として射出する第2音響光学ディフレクタと
を備えることを特徴とする請求項1に記載の照射装置。
前記第1音響光学ディフレクタ及び前記第2音響光学ディフレクタは、隣接または離れた位置の第1の光と第2の光との干渉によるクロストーク成分を抑制する位相に各コム成分が設定された前記コム信号が入力されることを特徴とする請求項2または3に記載の照射装置。
前記干渉光生成部は、レーザ光源から出力された光が正負の異なる入射角度でそれぞれ入射され、コム信号の周波数に応じた2組の複数の回折光を複数の前記第1の光及び複数の前記第2の光として射出する音響光学ディフレクタを有することを特徴とする請求項1に記載の照射装置。
複数の前記第1の光の第1の周波数範囲と複数の前記第2の光の第2の周波数範囲とは、周波数範囲が重ならないことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の照射装置。
前記干渉光照射部は、同じピッチで並ぶ複数の前記第1の光と複数の前記第2の光との入射により、前記干渉光の照射位置に複数の前記第1の光及び複数の前記第2の光のそれぞれのスポットを同じ配列ピッチでライン状に並べ、
前記干渉光生成部は、前記干渉光の照射位置で前記第1の光のスポットに対する前記第2の光のスポットの位置を前記配列ピッチの半分だけスポットの並ぶ方向にずらし、前記第1の光のスポットと前記第2の光のスポットとが重なった前記干渉光のスポットを形成するずらし量及び方向に複数の前記第1の光と複数の前記第2の光との相対的な位置をずらすことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の照射装置。
複数の前記干渉光のスポットが並んだ方向と交差する方向に、複数の前記干渉光のスポットと前記試料とを相対的に移動させる走査部を備えることを特徴とする請求項11に記載のレーザ顕微鏡システム。
前記回折光生成ステップは、レーザ光源から出力された光を、第1音響光学ディフレクタと第2音響光学ディフレクタとにそれぞれに入射して回折させ、複数の前記第1の光として、入力されたコム信号の周波数に応じた複数の第1回折光を前記第1音響光学ディフレクタで生成し、複数の前記第2の光として、入力されたコム信号の周波数に応じた複数の第2回折光を前記第2音響光学ディフレクタで生成することを特徴とする請求項15または16に記載の照射方法。
前記回折光生成ステップは、隣接または離れた位置の第1の光と第2の光との干渉によるクロストーク成分を抑制する位相に各コム成分が設定された前記コム信号を、前記第1音響光学ディフレクタ及び前記第2音響光学ディフレクタに入力することを特徴とする請求項17に記載の照射方法。
前記回折光生成ステップは、レーザ光源から出力された光を正負の異なる入射角度で音響光学ディフレクタに入射し、コム信号の周波数に応じた2組の複数の回折光を複数の前記第1の光及び複数の前記第2の光として射出することを特徴とする請求項15または16に記載の照射方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
図1に示すように、本発明を実施したレーザ顕微鏡システム10は、干渉光生成部11と、干渉光照射部12と、光検出部13と、信号処理部14とを備えている。このレーザ顕微鏡システム10は、干渉光生成部11で生成した複数の干渉光を主走査方向(M方向)にライン状に並べた状態で干渉光照射部12から試料Tに照射して試料Tの画像を取得する。この例のレーザ顕微鏡システム10は、干渉光が励起光として試料Tに照射され、試料Tから放出される蛍光を光検出部13で検出し、得られる検出信号を信号処理部14で処理することにより、各副走査ラインにおける蛍光物質の分布を取得して、蛍光物質の分布を示す1フレーム分の観察画像を生成する。
【0016】
干渉光生成部11は、干渉光照射部12とともに照射装置を構成する。干渉光生成部11は、レーザ装置15、偏光ビームスプリッタ16、第1及び第2アーム17、18、ビームスプリッタ19等で構成される。第1光生成部としての第1アーム17は、互いに周波数が異なる複数の第1の光としての複数の第1回折光を生成するユニットであり、1/2波長板21、アナモルフィックプリズムペア22、ミラー23、第1音響光学ディフレクタ(以下、AOD(Acousto-Optic Deflector)と称する)24を備える。第2光生成部としての第2アーム18は、互いに周波数が異なる複数の第2の光としての複数の第2回折光を生成するユニットであり、ミラー31、音響光学周波数シフタ(以下、AOFS(Acousto- Optic Frequency Shifter)と称する)32、アナモルフィックプリズムペア33、第2AOD34を備える。
【0017】
レーザ光源としてのレーザ装置15からのレーザ光は、1/2波長板41を介して偏光ビームスプリッタ16に入射する。レーザ装置15は、連続発振タイプであり、直線偏光のレーザ光を連続的に出力する。この例では、レーザ装置15としては、波長491nmのレーザ光を出力するDPSS (Diode Pumped Solid State)レーザを用いている。
【0018】
偏光ビームスプリッタ16は、レーザ装置15からのレーザ光を分割する光分割部として設けられている。この偏光ビームスプリッタ16は、入射するレーザ光の一部を透過して第1レーザ光として第1アーム17の1/2波長板21に射出し、残りのレーザ光を反射して第2レーザ光として第2アーム18のミラー31に射出する。この偏光ビームスプリッタ16は、レーザ光の偏光方向に応じた強度比でレーザ光を透過及び反射する。偏光ビームスプリッタ16に入射するレーザ光の偏光方向は、1/2波長板41の光学軸の方位によって調整することができる。これにより、第1アーム17、第2アーム18における各レーザ光の損失を考慮して、第1レーザ光と第2レーザ光との強度比を調整している。例えば、第1、第2AOD24、34に入射する第1レーザ光と第2レーザ光との光強度が同じになるように調整している。なお、第1レーザ光と第2レーザ光との強度比を調整する必要がない場合には、光分割部として、偏光ビームスプリッタ16に代えて、ハーフミラーや無偏光タイプのビームスプリッタを用いることができ、この場合には1/2波長板21、41は不要である。
【0019】
また、後述するように第1レーザ光から生成される第1回折光と、第2レーザ光から生成される第2回折光とを干渉させることができれば、第1レーザ光を出力するレーザ装置と第2レーザ光を出力するレーザ装置とを別々に設けてもよい。
【0020】
第1アーム17では、偏光ビームスプリッタ16からの第1レーザ光が1/2波長板21、アナモルフィックプリズムペア22、ミラー23を介して第1AOD24に入射する。1/2波長板21は、第1レーザ光の偏光方向を、第2レーザ光の偏光方向に一致するように回転する。
【0021】
アナモルフィックプリズムペア22は、第1レーザ光のビーム形状(断面形状)を円形から楕円形に変形させる。この変形では第1AOD24による第1レーザ光の回折方向(AOD内で進行波が進む方向)に沿ってビーム形状を引き延ばすことにより行う。このように、第1レーザ光のビーム形状を変形することで、第1AOD24から射出される各第1回折光の広がりを抑え、分解能の低下を防止している。
【0022】
第1AOD24は、コム信号発生部42からの第1コム信号によって駆動され、回折によって第1レーザ光から複数(N本)の第1回折光を生成する。この第1AOD24からの各第1回折光は、ビームスプリッタ19に入射する。コム信号発生部42は、例えば任意波形発生器で構成されている。
【0023】
第1コム信号は、互いに異なる複数の周波数の駆動信号を重ねたものであり、この第1コム信号の入力によって第1AOD24は、偏向角が異なるN本の第1回折光を同時に射出する。また、第1AOD24は、駆動信号の周波数に比例して、第1回折光の偏向角を大きくするとともに、第1回折光を、第1レーザ光に対して周波数シフトする。この周波数シフトは、第1レーザ光に対して駆動信号の周波数だけ第1回折光の周波数が高くまたは低くなる。この例では、第1レーザ光に対して駆動信号の周波数分だけ周波数が高くなった第1回折光が第1AOD24から射出する。したがって、偏向角が大きい第1回折光ほど周波数が高くなる。なお、偏向角は、0次の回折光と第1回折光とのなす角度である。また、第1レーザ光に対して駆動信号の周波数分だけ第1回折光の周波数を低くしてもよい。
【0024】
図2に示すように、第1コム信号は、一定な周波数間隔Δfで周波数f
11から周波数f
1NまでのN個の駆動信号を重ねたものである。これにより、第1AOD24からは、周波数間隔Δfで周波数f
a1から周波数f
aNまでのN本の第1回折光が出力される。ここで、第1レーザ光、すなわちレーザ装置15から出力されるレーザ光の周波数をf
0、iを1、2・・・Nとすると「f
ai=f
0+f
1i」となる。また、周波数間隔Δfを一定にすることで、隣接した第1回折光同士の偏向角の差をいずれも等しくしている。
【0025】
この例では、第1AOD24として、動作可能な駆動信号の範囲(以下、動作帯域という)が100MHz〜200MHzのAODを用いている。また、第1コム信号における周波数間隔Δfを1MHzとして、101MHz(=f
11)から200MHz(=f
1(100))までの駆動信号を重ね合わせており、これにより周波数が1MHz間隔(=Δf)で変化する100(=N)本の第1回折光を生成する。
【0026】
図1において、第2アーム18では、偏光ビームスプリッタ16からの第2レーザ光は、ミラー31、AOFS32、アナモルフィックプリズムペア33を介して第2AOD34に入射する。周波数変換部としてのAOFS32は、シフト信号発生部43からのシフト信号によって駆動され、第2レーザ光の周波数をシフト周波数f
sだけ低くする。このAOFS32は、第2AOD34として、第1AOD24と同じ動作帯域であり、同じ特性を持つAODを用いながら、複数の第1回折光の周波数範囲(第1の周波数範囲)と第2AOD34から射出される複数の第2回折光の周波数範囲(第2の周波数範囲)とが重ならないようにしている。このため、シフト周波数f
sは、複数の第1回折光の周波数範囲と複数の第2回折光の周波数範囲とが重ならないように決められている。この例では、シフト周波数f
sは、100MHzとしてある。また、AOFS32によって、第2レーザ光の周波数をシフト周波数f
sだけ高くしてもよい。
【0027】
上記のように、AOFS32は、複数の第1回折光の周波数範囲と複数の第2回折光の周波数範囲とが重ならないようにするために設けているので、第1、第2AOD24、34によって第1、第2レーザ光から直接に周波数範囲が重ならない複数の第1回折光と複数の第2回折光とを生成することができる場合には、AOFS32は、不要である。また、後述するように、第1AOD24からの第1回折光と第2AOD34からの第2回折光とを組み合わせて干渉光を生成することで、干渉光のビート周波数を低くできるので、光検出部13の応答性や試料Tの蛍光物質の応答速度に対応させてビート周波数を低くするためのAOFSを不要とすることができる。
【0028】
アナモルフィックプリズムペア33は、AOFS32からの第2レーザ光のビーム形状を円形から楕円形に変形させる。この変形では第2AOD34による第2レーザ光の回折方向に沿ってビーム形状を引き延ばすことにより行う。アナモルフィックプリズムペア33は、アナモルフィックプリズムペア22と同様に、第2AOD34から射出される各第2回折光の広がりを抑え、分解能の低下を防止している。
【0029】
第2AOD34は、コム信号発生部42からの第2コム信号によって駆動され、回折によって第2レーザ光からN本の第2回折光を生成する。第2AOD34からの各第2回折光は、ビームスプリッタ19に入射する。第2コム信号は、第1コム信号と同様に、互いに異なる複数の周波数の駆動信号を重ねたものであり、この第2コム信号の入力によって第2AOD34は、偏向角が異なるN本の第2回折光を同時に射出し、各第2回折光は、その周波数が周波数シフトによって駆動信号の周波数分だけ第2レーザ光よりも高くされている。
【0030】
この例では、第2AOD34としては、上述のように第1AOD24と同じAODを用いている。すなわち、同一の周波数の駆動信号に対する回折光の偏向角が同じになり、駆動信号の周波数の変化量に対する第1回折光と第2回折光の偏向角の変化量が同じになる第1AOD24と第2AOD34とを用いている。また、
図2に示すように、第2コム信号の各駆動信号の周波数と第1コム信号の各駆動信号の周波数とを同じにしている(f
1i=f
2i)。したがって、第2コム信号は、周波数間隔Δfで周波数f
21(=f
11)から周波数f
2N(=f
1N)までのN個の駆動信号を重ねたものになっている。第2AOD34からは、周波数間隔Δfで周波数f
b1から周波数f
bNまでのN本の第2回折光が出力される。第2回折光の周波数f
biは、対応する駆動信号の周波数f
2iを用いて「f
bi=f
0−f
s+f
2i」となる。
【0031】
第1AOD24と第2AOD34として、同じAODを用いることによって、複数の干渉光を生成するための複数の第1回折光と複数の第2回折光との重ね合わせを容易にしている。すなわち、コム信号中の駆動信号の周波数の変化量に対する第1回折光と第2回折光の偏向角の変化量が同じになる第1AOD24と第2AOD34とを用いることによって、複数の第1回折光と複数の第2回折光の偏向角の角度間隔を互いに同じすることができ、それらの重ね合わせを容易にしている。例えば、後述するようにビームスプリッタ19のように簡単な構成で複数の第1回折光と複数の第2回折光とを重ね合わせて、所望の複数の干渉光を得ることができる。
【0032】
上記第2AOD34は、第1AOD24と同じく周波数が1MHz間隔(=Δf)で変化する100(=N)本の第2回折光を生成する。また、同じ周波数の駆動信号に対する第2回折光と第1回折光との各偏向角は同じであるが、各周波数はAOFS32のシフト周波数fsだけ第1回折光の周波数が高くなる(f
ai=f
bi+f
s)。
【0033】
重ね合わせ部としてのビームスプリッタ19は、複数の第1回折光と複数の第2回折光とを互いに周波数が異なる同士で組み合わせて重ねることで、第1回折光と第2回折光とが干渉したN本の干渉光を生成する。
図3に示すように、第1AOD24と第2AOD34とは、同一の水平面に各第1回折光、各第2回折光を射出するように配置され、第1回折光L
aiの周波数をf
ai、第2回折光L
biの周波数をf
biとしたときに、ビームスプリッタ19によって、第1回折光L
aiと第2回折光L
b(N―i+1)とを重ね合わせて干渉光L
abiを生成するように、その向きが調整されている。すなわち、第1回折光については周波数が高くなる順番で、また第2回折光は周波数が低くなる順番で、第1回折光と第2回折光とを組み合わせてN本の干渉光を生成する。このようにして、第1の光としての第1回折光については周波数が低いものから、また第2の光としての第2回折光は周波数が高いものからそれぞれ順番に選択される第1回折光と第2回折光とを組み合わせてN本の干渉光を生成している。なお、第1回折光L
ai及び第2回折光L
biの周波数f
ai、f
biは、「i」が大きいほど周波数が高い(f
a(i+1)≧f
ai、f
b(i+1)≧f
bi)。
【0034】
なお、干渉光を生成する際に、第1回折光に対応する第2回折光が完全に重ならなくてもよい。また、第1アーム17と第2アーム18の各レーザ光の光路長は、第1回折光と第2回折光とが干渉する範囲(コヒーレント長の範囲)で一致させておく。
【0035】
上記のように、第1回折光と第2回折光とを重ね合わせることにより、
図4Aに示すように、各干渉光の隣接したビート周波数f
abi(=f
ai−f
b(N―i+1))を一定な周波数間隔Δf
ab(=f
ab(i+1)−f
abi)にするとともに、その周波数間隔Δf
abを従来よりも広くしている。具体的には、特許文献1に記載される手法による隣接したビート周波数の周波数間隔は、回折光を生成するAODの駆動信号の周波数間隔と同じであって、この例の周波数間隔Δfに相当する。しかし、この例では隣接したビート周波数f
abの周波数間隔Δf
abは、AODの駆動信号の周波数間隔Δfの2倍(Δf
ab=2・Δf)になる。
【0036】
図4Bに示すように、各ビート周波数f
abiは、それぞれ試料Tを蛍光、すなわち蛍光の光強度の変化に応じて変化する光信号の搬送周波数(中心周波数)となり、搬送周波数ごとに側波SBとして利用可能な幅、すなわち帯域幅が周波数間隔Δf
abとなる。したがって、搬送周波数ごとの帯域幅と、N本の干渉光による検出で利用可能な全帯域幅が従来手法の2倍になる。具体的には、この例では周波数間隔Δfが1MHzであるから、従来手法では搬送周波数ごとの帯域幅が1MHz、全帯域幅が100MHzであるのに対して、この例では搬送周波数ごとの帯域幅が2MHz、全帯域幅が200MHzである。
【0037】
また、上記のように複数の第1回折光のそれぞれに、対応する第2回折光を重ねて干渉光を生成しているので、各第1回折光の周囲に分布する干渉に利用されないレーザ光が少なくなる。このため干渉光の生成効率が高くなるとともに、各干渉光の光強度を高めることができるので、ショットノイズの低減を図ることができる。
【0038】
上記のようにビート周波数の異なる複数の干渉光を生成する際の第1回折光と第2回折光の組み合わせは一例であり、これに限定されるものではない。ビート周波数の異なる複数の干渉光を生成するには、第1の回折光と第2の回折光との周波数の差が異なるように複数の第1回折光と複数の第2回折光を組み合わせればよい。
【0039】
図1において、ビームスプリッタ19からのN本の干渉光は、等角度間隔で水平面上に並んで射出され、干渉光生成部11の一部であるアナモルフィックプリズムペア44、リレー光学系45を介してダイクロイックミラー46に入射する。このときに、N本の干渉光が並ぶ方向が主走査方向に相当する方向であり、この主走査方向に直交する方向が副走査方向である。なお、この例では、干渉光照射部12では、主走査方向は矢印Mで示す上下方向になり、副走査方向は矢印Sで示す水平方向になる。
【0040】
アナモルフィックプリズムペア44は、アナモルフィックプリズムペア22、33によって楕円形となっている各干渉光のビーム形状を、その短軸方向に引き延ばすことによって円形とする。アナモルフィックプリズムペア22、33、44に代えてシリンドリカルレンズ等を用いてもよい。
【0041】
リレー光学系45は、ビームスプリッタ19側に配されたレンズ45aとダイクロイックミラー46側に配されたレンズ45bとから構成されており、レンズ45aの前側焦点位置が第1、第2AOD24、34の出力面に、レンズ45bの後側焦点位置が後述する走査ミラー47aの反射面に一致するように配されている。これにより、各干渉光を所定のビーム径を保持した状態で走査ミラー47aに入射させる。ダイクロイックミラー46は、リレー光学系45を通った各干渉光を干渉光照射部12に向けて反射し、干渉光照射部12からの検出光を透過して光検出部13に送る。
【0042】
干渉光照射部12は、走査ミラー47aを備えたレゾナントスキャナ47、ミラー48、リレー光学系51、対物レンズ52、試料Tを載置するステージ(図示省略)等で構成されている。ダイクロイックミラー46からのN本の干渉光は、走査ミラー47a、ミラー48、リレー光学系51を介して対物レンズ52に入射し、試料Tに照射される。ダイクロイックミラー46で反射された各干渉光は、走査ミラー47aによって上方に90度折り曲げられてから、ミラー48に入射する。
【0043】
レゾナントスキャナ47は、干渉光の入射方向と直交する水平方向に平行な回転軸47bを中心に走査ミラー47aを揺動させることによって、各干渉光を副走査方向に周期的に偏向して等角度走査する。
【0044】
リレー光学系51は、ミラー48側に配されたレンズ51aと対物レンズ52側に配されたレンズ51bとから構成されており、レンズ51aの前側焦点位置が走査ミラー47aの反射面に、レンズ51bの後側焦点位置が対物レンズ52の入射瞳に一致するように配されている。このリレー光学系51によって、各干渉光は、対物レンズ52の入射瞳にほぼいっぱいに広がって入射する。
【0045】
対物レンズ52は、入射するN本の干渉光をそれぞれ集光して試料Tに向けて照射する。
図5に示すように、対物レンズ52によって、その焦点面に各干渉光をそれぞれ集光したN個の照射スポットSP
1〜SP
Nが形成される。照射スポットSP
1〜SP
Nは、それらの直径とほぼ同じピッチで主走査方向にライン状に並ぶ。照射スポットSP
1〜SP
Nの直径(半値全幅)は、この例では、約330nmである。
【0046】
照射スポットSP
1〜SP
Nは、上記走査ミラー47aの揺動によって、ライン状に並んだ状態を維持して副走査方向に同時に移動する。これにより、照射スポットSP
1〜SP
Nの1回の副走査方向の移動で試料Tを2次元的に走査する。このときに、光の入射角度の変化に比例して像高が変化する対物レンズ52の領域を使用することで、走査ミラー47aによる干渉光の副走査方向の等角度走査は等速直線走査になる。そして、照射スポットSP
1〜SP
Nが1方向に1回移動することで、1フレーム分の走査が完了する。なお、以下では照射スポットSP
1〜SP
Nを特に区別する必要がない場合には照射スポットSPと記す。
【0047】
この例においては、レゾナントスキャナ47が、試料Tに対してライン上に並んだ照射スポットSP
1〜SP
Nの照射ラインを副走査方向に移動させる走査部であるが、走査部としては、レゾナントスキャナ47に代えて、ガルバノミラーやポリゴンミラーなどの他の光偏向手段を用いてもよい。
【0048】
また、この例では、固定された試料Tに対して、ライン上に並んだ照射スポットSP
1〜SP
Nの照射ラインを副走査方向に移動させているが、走査部による試料Tの2次元的な走査は、試料Tと照射ラインとを相対的に移動すればよい。したがって、後述する第4実施形態のように、固定された照射ラインに対して試料Tを副走査方向に移動してもよい。また、この例では、試料Tと照射ラインとの相対的な移動方向を、照射スポットSP
1〜SP
Nが並ぶ主走査方向と直交する副走査方向に一致させているが、その移動方向は、副走査方向の成分が含まれていればよい。すなわち、試料Tと照射ラインとの相対的な移動方向が主走査方向と平行にならなければよく、照射ラインと試料Tとの相対的な移動方向とのなす角度をθとしたときに、「0°<θ≦90°」を満たせばよい。したがって、主走査方向と交差する方向に、試料Tと照射ラインとを相対的に移動させればよく、この例では、照射ラインを主走査方向と交差する方向に移動すればよい。
【0049】
試料Tと照射ラインとの相対的な移動方向が、主走査方向に対して直交する方向ではない場合、すなわち「0°<θ<90°」となる場合、移動方向と直交する方向における照射スポットの間隔が実質的に狭くなる(cosθ倍になる)ため、この方向のピクセルサイズを小さくする(ピクセル分解能を向上する)ことになり、解像度向上の効果が得られる。
【0050】
なお、対物レンズ52は、その光軸方向に移動自在にされており、例えばモータ(図示省略)によって移動できる。これにより、試料Tに対する対物レンズ52の焦点面の位置を変えて走査を行うことができる。試料Tを載せたステージを対物レンズ52の光軸方向に移動させてもよい。
【0051】
照射スポットSP内の試料Tに干渉光が照射されることで、照射スポットSP内の試料Tの蛍光物質が励起して蛍光を発生する。そして、照射スポットSP
1〜SP
Nが副走査方向に移動することによって、主走査方向に並んだN個の照射スポットSP
1〜SP
Nによって主走査方向に並んだN本の副走査ラインにそれぞれ干渉光が照射される。これにより、各副走査ラインから蛍光が放出される。各副走査ラインから放出される蛍光の光強度は、照射される干渉光のビート周波数に応じて変化するとともに、照射スポットSPの副走査方向への移動によって、副走査ラインにおける蛍光物質の分布に応じて変化する。すなわち、蛍光は、照射された干渉光のビート周波数を搬送周波数とした信号を蛍光物質の分布に応じて強度変調した光信号である。
【0052】
第1回折光と第2回折光とは、いずれも強度分布がガウシアン分布となったものであり、干渉光は、第1回折光と第2回折光とを重ね合わせたものになるので、強度分布の半値幅が狭く尖度が大きくなる。このため、第1回折光と第2回折光とを重ね合わせた干渉光を試料Tに照射する手法は、従来の手法に比べて空間分解能が高くなるという利点がある。
【0053】
図1において、上記のようにして、照射スポットSP
1〜SP
Nから放出される各蛍光は、対物レンズ52によって集光され、それら各蛍光からなる検出光が対物レンズ52からリレー光学系51に入射し、リレー光学系51に入射した検出光は、干渉光と逆の経路を通ってダイクロイックミラー46に入射する。
【0054】
ダイクロイックミラー46に入射した検出光は、ダイクロイックミラー46を透過して、光検出部13に送られる。光検出部13は、ミラー54、集光レンズ55、スリット板56、光検出器としての光電子増倍管(以下、PMT(Photomultiplier tube)という)57、増幅器58、デジタイザ59を備える。検出光は、ミラー54、集光レンズ55を介してPMT57に入射する。集光レンズ55の焦点位置には、スリット板56が配されており、スリット板56に形成されたスリット56aを透過した検出光だけがPMT57に入射する。これにより、レーザ顕微鏡システム10を共焦点式として、対物レンズ52の焦点面からの蛍光成分だけをPMT57に入射させ、コントラストや空間分解能を向上させている。スリット56aの長手方向は、対物レンズ52の焦点面における主走査方向を焦点面とスリット板56との間にある光学系を通して投影した向きである。光検出器としては、PMT57に代えてアバランシェフォトダイオード等を用いてもよい。なお、スリット板56を省略してもよい。
【0055】
PMT57は、入射する検出光の強度に応じた検出信号を出力する。すなわち、各照射スポットSP
1〜SP
Nから、それぞれ蛍光物質の分布に応じて変調された蛍光が光信号として放出され、それら光信号を重ね合わせて多重化された多重化信号としての検出光がPMT57で検出され、その多重化信号に相当する検出信号が出力される。このとき、各光信号は、上記のように照射される干渉光のビート周波数が搬送周波数となっている。
【0056】
PMT57からの検出信号は、増幅器58で増幅されてからデジタイザ59によって、その信号レベルが所定のサンプリング周波数でサンプリングされて検出データにデジタル変換される。走査ミラー47aの揺動に同期してレゾナントスキャナ47が出力する同期信号によって、デジタイザ59が1フレームの走査開始と終了を検知することで、1フレームの検出信号を検出データに変換する。デジタイザ59のサンプリング周波数は、検出光の帯域の上限周波数の2倍よりも高くされている。検出光の帯域の上限周波数は、最も高いビート周波数より周波数間隔Δf(=Δf
ab)だけ高いから、この例では上限周波数が200MHzであり、サンプリング周波数を例えば1GHzに設定している。
【0057】
検出信号から変換された検出データは、信号処理部14に送られる。この信号処理部14は、例えばPCで構成されており、検出信号から試料Tの情報、この例では蛍光物質の分布を取得するものである。信号処理部14は、フーリエ変換部14a、逆フーリエ変換部14b、画像処理部14c、モニタ14dを有する。まず、フーリエ変換部14aによって、1回の副走査で得られる1フレーム分の検出データに対して高速フーリエ変換を行い、周波数スペクトルが求められる。
【0058】
なお、照射スポットSP
1〜SP
Nのビート周波数を、デジタイザ59による1フレームに対するサンプリング数(Nd)とサンプリング周波数(fd)との比(=fd/Nd)の整数倍になるように設定するのがよい。これにより、フーリエ変換後の周波数データ点に、各照射スポットSP
1〜SP
Nのビート周波数が正確に一致するため、後段のデータ処理の精度を向上させることができる。
【0059】
次に、逆フーリエ変換部14bによって、フーリエ変換部14aで求められた周波数スペクトルから、干渉光のビート周波数ごとに、ビート周波数を搬送周波数とした所定の帯域幅Δf
w(≦2Δf)で周波数スペクトルを分離し、それら分離した各周波数スペクトルに逆フーリエ変換をそれぞれ行う。周波数スペクトルを分離することは、周波数スペクトルを副走査ラインごとに分離することに相当し、副走査ラインに干渉光が照射することで得られる変調された蛍光(光信号)の周波数スペクトルである。この逆フーリエ変換により、周波数スペクトルから時間軸方向、すなわち各副走査ラインに沿った蛍光物質の分布が求められる。逆フーリエ変換部14bで求められたN本分の副走査ラインについての蛍光物質の分布は、画像処理部14cにより、その分布を2次元にマッピングした観察画像に変換されてモニタ14dに表示される。なお、上記高速フーリエ変換と逆フーリエ変換の代わりに短時間フーリエ変換(STFT)を行った画像取得も可能である。この場合、主走査方向のピクセルに相当する時間範囲でのSTFTのスペクトルが副走査方向の輝度分布に相当し、STFTのスペクトルの時間変化が観察画像となる。
【0060】
上記のように、搬送周波数ごとの帯域幅が従来よりも広くなっているので、従来よりも高い周波数の変調成分まで利用して副走査ラインに沿った蛍光物質の分布を求めることが可能になる。したがって、各照射スポットSPの副走査方向への移動速度を高くしても良好な観察画像を得ることができる。
【0061】
ところで、一対の照射スポットSPの間でクロストークが生じ、不要なクロストーク成分(ビート周波数)が発生することがある。例えば、
図6に模式的に示すように、隣接した照射スポットSP
i、SP
i+1の間では、照射スポットSP
iを形成する干渉光の第1回折光L
aiと照射スポットSP
i+1を形成する干渉光の第2回折光L
b(N−i)との干渉、及び照射スポットSP
iを形成する干渉光の第2回折光L
b(N−i+1)と他方の照射スポットSP
i+1を形成する干渉光の第1回折光L
a(i+1)との干渉のそれぞれにより、隣接したビート周波数f
abiとビート周波数f
ab(i+1)の中間に不要なクロストーク成分が発生する。
【0062】
また、
図7に示すように。1つの照射スポットSP
iを挟んだ一対の照射スポットSP
i−1,SP
i+1の間では、照射スポットSP
i−1を形成する干渉光の第1回折光L
a(i−1)と照射スポットSP
i+1を形成する干渉光の第2回折光L
b(N−i)との干渉、及び照射スポットSP
i−1を形成する干渉光の第2回折光L
b(N−i+2)と照射スポットSP
i+1を形成する干渉光の第1回折光L
a(i+1)との干渉のそれぞれにより、それら中間の照射スポットSP
iを形成する干渉光のビート周波数f
abiと同じ周波数のクロストーク成分が発生するため、ビート周波数f
abiの成分の振幅を大きくしたり小さくしたりする。
【0063】
上記のようなクロストークは、次の2つの条件を満たすことで抑制することができる。1つ目の条件は、隣接する一対の照射スポット間のクロストークについて、第1回折光と第2回折光の2つの干渉によって発生するクロストーク成分が互いに打ち消すように、一対の照射スポットの各第1回折光と第2回折光の位相を設定することである。2つ目の条件は、1つの照射スポットを挟んだ一対の照射スポット間のクロストークについて、いずれのクロストーク成分も影響を与えるビート周波数の干渉光に対して一定の位相を有するようにすることである。具体的には、各第1回折光については位相を「0」とし、第2回折光の位相を周波数(波数)の順番で0、π、0、π、0・・・・のように1つおきに半周期(π)ずらせばよい。
【0064】
第1、第2回折光の位相は、第1、第2コム信号の駆動信号(コム成分)の位相に一致するので、上記のように各第1、第2回折光の位相を設定するには、第2コム信号の各駆動信号の位相を周波数の順番で0、π、0、π、0・・・・のように1つおきに半周期(π)ずつずらせばよい。なお、各第2回折光の位相を「0」とし、第1回折光の位相を周波数の順番で0、π、0、π、0・・・・のように1つおきに半周期(π)ずらしてもよい。
【0065】
なお、第1コム信号、第2コム信号は、いずれもその各駆動信号が干渉することで、瞬間的に非常に高いピーク値を示すことがある。このような現象が生じる場合では、非常に高いピーク値の影響を受けて、第1コム信号、第2コム信号の全体的な振幅が小さくなり、この結果、干渉光の全体的な振幅も小さくなってしまう。このような非常に高いピーク値の発生の防止と、クロストーク成分の抑制のため、第1回折光については、例えば周波数が低いものから順に位相を0、φ、3φ、6φ、10φ・・・・とし、第2回折光については、周波数が高いものから順に位相を0、π−φ、−3φ、π−6φ、−10φ・・・・とするのがよい。すなわち、iを1、2・・・Nとしたときに、第1回折光L
aiと第2回折光L
b(N−i+1)を組み合わせて干渉光を生成する場合、第1回折光L
aiの位相を「φa+i(i−1)φ/2+(i−1)π」に設定し、第2回折光L
b(N−i+1)の位相を「φb−i(i−1)φ/2+(i−1)π」に設定することである。φa,φbは、いずれも任意の定数であり、値φは、非常に高いピーク値の発生の防止するために設定される定数であって3°程度に設定すればよい。また、値φを183°程度に設定してもよい。この場合は、所望のビート周波数成分に対してクロストーク成分がほぼ同位相で加算されるので、信号増強効果がある。第1回折光と第2回折光とに与える位相の順番は逆でもよく、与える位相を第1回折光と第2回折光と入れ替えてもよい。この場合にも、第1、第2回折光の位相を第1、第2コム信号の駆動信号の位相として設定すればよい。
【0066】
値φを3°程度に設定した場合、第1,第2コム信号のp―p値(最大値と最小値との差)が理論上の最小値とほぼ一致する。また、各干渉光の強度を合成した強度変化を示す信号のp−p値も理論的最小値に近くなる。したがって、第1AOD24、第2AOD34の回折効率、光検出部13のダイナミックレンジが大きくなって有利になる。
【0067】
なお、上記でキャンセルするクロストーク成分を逆に信号として利用することも可能である。この場合には、クロストーク成分の抑制がなされないように設定するため、例えば、上記と同様にして第1回折光L
aiの位相を「φa+i(i−1)φ/2」に設定し、第2回折光L
b(N−i+1)の位相を「φb−i(i−1)φ/2」に設定する。さらに、クロストーク成分に十分な振幅を持たせるために、主走査方向に並ぶ複数の照射スポットSPについて、隣接した照射スポットSPの一部が互いに重なり合うように、隣接した照射スポットSPの中心間隔を照射スポットSPのスポット径よりも小さくする。これは、クロストーク成分もこれまでに述べた信号成分と同様に、回折光の重なりによって生じるため、クロストーク成分を信号として用いる場合には重なりを大きくして振幅をなるべく大きくするのが望ましいからである。この場合、隣接した干渉光間の2組の第1回折光と第2回折光とのクロストーク成分が本来の第1、第2回折光の干渉によるビート周波数成分と同程度の振幅を持つようになり、主走査方向のピクセル数(副走査ラインのライン数)を倍増させることができる。その分1ピクセルあたりの周波数帯域が半減することになるが、従来の方法に比べて周波数帯域が倍増したことにより、同一の速度で2倍のピクセル数の情報取得が可能になるため、結果的に周波数帯域の増大による情報量の増大という効果が得られる。
【0068】
上記レーザ顕微鏡システム10の構成は、一例であり、上記構成に限定されるものではない。複数の第1回折光と複数の第2回折光を生成する構成についても、上記構成に限定されない。例えば、第1、第2AOD24、34として同じAODを用いながら、第1、第2AOD24、34を互いに重ならない周波数範囲のコム信号でそれぞれ駆動して第1、第2回折光を生成してもよい。具体的には、第1、第2AOD24、34として、いずれも動作帯域が例えば100〜300MHzの同じAODを用い、第1AOD24を101〜200MHzの周波数範囲の第1コム信号で動作させ、第2AOD34を201〜300MHzの周波数範囲の第2コム信号で動作させてもよい。
【0069】
また、第1、第2AOD24、34として同じAODを用い、第1、第2レーザ光を互いに正負逆の入射角で対応するAODに入射することによって、第1、第2AOD24、34による周波数シフトの正負を互いに逆にして第1、第2回折光を生成してもよい。この場合には、同じ周波数範囲の第1、第2コム信号を用いても、第1、第2レーザ光に対する第1、第2回折光の周波数シフトの正負が互いに逆になるため、第1、第2回折光の各周波数範囲が重ならない。なお、第1、第2AOD24、34に対する第1、第2レーザ光の入射角の大きさは、干渉光の生成効率を高くするために同じにすることが好ましい。
【0070】
上記2つのいずれの構成においても、複数の第1回折光と複数の第2回折光との重ね合わせが容易になるとともに、第1、第2回折光の各周波数範囲が重ならないのでAOFS32が不要になり、部品点数を削減する上で有利である。
【0071】
第1、第2AOD24、34は、異なるAODを用いてもよい。この場合であっても、コム信号中の駆動信号の周波数の変化量に対する偏向角の変化量が第1AOD24と同じになる第2AOD34を用いることによって、上記同様に、複数の干渉光を生成するための複数の第1回折光と複数の第2回折光との重ね合わせが容易になる。また、このときに、第1コム信号の周波数範囲と重ならない周波数範囲の第2コム信号で動作可能な第2AOD34を用いれば、第1、第2回折光の周波数範囲が重ならないのでAOFS32を設ける必要がなくなる。
【0072】
また、第1、第2回折光の周波数範囲の一部範囲が重なることによって、同じビート周波数の干渉光が生成されてもよい。この場合には、同じビート周波数の干渉光のうちの1の干渉光を残して他の干渉光を、例えばリレー光学系45のレンズ45a、45bの間で干渉光が集光される位置で遮光する等して除去すればよい。このような場合にも、実際に利用する干渉光が、周波数範囲の重ならない第1、第2回折光を用いて生成されているので、AOFS32を省略することができる。
【0073】
[第2実施形態]
第2実施形態は、対物レンズとは反対側に放出される試料からの蛍光を検出するようにレーザ顕微鏡システムを構成したものである。なお、以下に説明する他は、第1実施形態と同じであり、実質的に同じ構成部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、この第2実施形態のレーザ顕微鏡システムは、干渉光生成部の構成は第1実施形態と同じであるから、
図8では干渉光生成部を省略して描いてある。なお、後述する第3、第4実施形態の
図9、
図10や、
図13についても、
図8と同様である。
【0074】
図8に示すように、干渉光生成部で生成されたN本の干渉光は、ミラー71で反射されて干渉光照射部12に送られる。干渉光照射部12では、第1実施形態と同様に、N本の干渉光は、走査ミラー47a、ミラー48、リレー光学系51、対物レンズ52を介して試料Tに照射され、主走査方向に並んだN個の照射スポットが走査ミラー47aの揺動で副走査方向に移動されて1フレーム分の走査が行われる。試料Tを挟んで対物レンズ52の反対側に、光検出部73が配されている。光検出部73は、試料T側から順に、バンドパスフィルタ74、集光レンズ55、PMT57が配されている。バンドパスフィルタ74は、干渉光をカットするとともに、試料Tから放出される蛍光を透過する。これにより、干渉光が照射されて試料Tから放出される蛍光のうち、背後側すなわち対物レンズ52と反対側に放出される蛍光がバンドパスフィルタ74、集光レンズ55を介してPMT57によって受光される。
【0075】
第1実施形態と同様に、検出光の帯域幅を広くしているので、例えば、各照射スポットSPの副走査方向への移動速度を高くしても良好な観察画像を得ることができる。
【0076】
[第3実施形態]
図9は、検出光を複数の波長に分解して検出する第3実施形態のレーザ顕微鏡システムを示している。なお、第3実施形態のレーザ顕微鏡システムは、以下に詳細を説明する光検出部が異なる他は、第1実施形態と同じであり、実質的に同じ構成部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。この例では、例えば、干渉光の照射によって、互いに波長の異なる第1〜第3波長成分の蛍光を放出する3種類の蛍光物質のいずれか1つ、あるいは2以上を含有するような試料Tが用いられる。
【0077】
図9に示すように、光検出部81は、波長分離部としての第1、第2ダイクロイックミラー82a、82bと、第1〜3検出ユニット83a〜83cを備えている。第1ダイクロイックミラー82aは、検出光に含まれる第1波長成分の蛍光を第1検出ユニット83aに向けて反射して、それ以外の波長成分を透過する。また、第2ダイクロイックミラー82bは、第1ダイクロイックミラー82aを透過した検出光のうちの第2波長成分の蛍光を第2検出ユニット83bに向けて反射して、それ以外の波長成分の蛍光を第3検出ユニット83cに向けて透過する。
【0078】
第1〜第3検出ユニット83a〜83cは、いずれも集光レンズ55、スリット板56、PMT57を備えている。第1検出ユニット83aは、第1ダイクロイックミラー82aで反射された第1波長成分の蛍光を集光レンズ55、スリット板56を介してPMT57で受光して、第1波長成分の蛍光の光強度に応じた検出信号を出力する。第2検出ユニット83bは、第2ダイクロイックミラー82bで反射された第2波長成分の蛍光を集光レンズ55、スリット板56を介してPMT57で受光して、第2波長成分の蛍光の光強度に応じた検出信号を出力する。第3検出ユニット83cは、第2ダイクロイックミラー82bを透過した第3波長成分の蛍光を集光レンズ55、スリット板56を介してPMT57で受光して、第3波長成分の蛍光の光強度に応じた検出信号を出力する。
【0079】
上記のように構成することにより、3種類の蛍光物質のいずれが試料Tに含まれているか、また試料Tの内部に各蛍光物質がどのように分布しているか等を観察することが可能になる。もちろん、第1実施形態と同様に、検出光の帯域幅を広くしているので、例えば各照射スポットSPの副走査方向への移動速度を高くしても良好な観察画像を得ることができる。
【0080】
上記では、検出光を3つの波長成分に分離しているが、分離する波長成分は2以上であれば良い。また、第2実施形態のように対物レンズ52の反対側に試料Tから放出される蛍光からなる検出光や、後述するように干渉光が試料Tで反射した反射光からなる検出光、試料Tを透過した干渉光からなる検出光についても波長成分に分離して検出することができる。
【0081】
[第4実施形態]
図10は、試料を副走査方向に移動することにより、照射スポットと試料とを副走査方向に相対的に移動する第4実施形態のレーザ顕微鏡システムを示している。なお、第4実施形態のレーザ顕微鏡システムは、以下に詳細を説明する他は、第1実施形態と同じであり、実質的に同じ構成部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0082】
図10に示す例は、フローサイトメータに、本発明のレーザ顕微鏡システムを適用した構成になっている。干渉光照射部86は、フローセル(フローサイトメトリー用セル)87に形成された微小流路87aに対して、対物レンズ52から干渉光を照射する。微小流路87aの内部に対物レンズ52の焦点面が位置し、主走査方向が微小流路87a内の流れ方向と直交する方向になるように調整されている。すなわち、微小流路87a内の流れ方向と直交する方向に照射スポットSPをライン状に並べて形成する。微小流路87a内に試料Tを水等の流体とともに流すことにより、ライン状に並んだ照射スポットSPに対して試料Tが副走査方向に移動する。
【0083】
この例では、走査用ミラー等で照射スポットSPを副走査方向に移動する必要がないため、ダイクロイックミラー46で反射させたN本の干渉光をリレー光学系51を介して対物レンズ52に入射させている。微小流路87a内を試料Tが高速に流れても、搬送周波数ごとの帯域幅を広くしてあるので、良好な観察画像を得ることができる。
【0084】
なお、上述のように試料Tの2次元的な走査を行う場合、試料Tと照射スポットSP
1〜SP
Nが並ぶ照射ラインとの相対的な移動方向に副走査方向の成分が含まれていればよいので、この例では副走査方向となる微小流路87a内の流れ方向に対して複数の照射スポットSPの並ぶ主走査方向が交差していればよい。
【0085】
[第5実施形態]
図11は、第1回折光と第2回折光とをずらした第5実施形態を示している。なお、第5実施形態のレーザ顕微鏡システムは、以下に詳細を説明する他は、第1実施形態と同じであり、実質的に同じ構成部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0086】
この第5実施形態では、
図11に示すように、対物レンズ52の焦点面、すなわち干渉光の照射位置で、第1回折光の照射スポットSP
11〜SP
1Nと第2回折光の照射スポットSP
21〜SP
2Nとを、それぞれその直径とほぼ同じ配列ピッチPで主走査方向に平行な同一のライン上に並べて形成する。例えば第2アーム18内のミラー31の傾きを調整することによって、第2回折光の照射スポットSP
21〜SP
2Nを配列ピッチPの1/2だけ主走査方向にずらして照射スポットSP
11〜SP
1Nに重ね合わせる。
【0087】
なお、ミラー23の傾きの調整に代えて、第1コム信号または第2コム信号のいずれか一方の各駆動信号の周波数を他方に対してずらすことでも実現できる。また、位相の設定は、第1実施形態において説明したクロストーク成分を信号として利用する場合と同様に、クロストーク成分の抑制がなされないようにするため、例えば第1回折光L
aiの位相を「φa+i(i−1)φ/2」に設定する。さらに第2回折光L
b(N−i+1)の位相を「φb−i(i−1)φ/2」に設定する。さらに、第1、第2回折光のビーム径を大きくして、隣接する第1回折光と第2回折光の中心間隔と、回折光の照射スポットのスポット径とが同程度、あるいは前者が後者よりも小さくなるように設定すればよい。このときに第1、第2回折光の中心間隔に対してスポット径を大きくする調整を行ってもよい。第1、第2回折光の照射スポットの重なりを大きくするのがよい。第1、第2回折光の照射スポットの重なりが大きいほど干渉光の強度が大きくなり、それに応じて検出信号の信号レベルを大きくできることから、このような設定を行うことが望ましい。
【0088】
上記のように第1回折光と第2回折光を重ね合わせることで、図中ハッチングで示すように、干渉光の照射スポットを、第1回折光の照射スポットSP
11〜SP
1Nと第2回折光の照射スポットSP
21〜SP
2Nとが重なった部分として形成する。これにより、主走査方向に並ぶ干渉光の照射スポットが上記第1実施形態に比べて約2倍になる。すなわち、主走査方向に並ぶピクセル数(副走査ラインのライン数)を倍増させることができ、主走査方向の空間解像度が向上する。この場合、1ピクセルあたりの周波数帯域が半減することになるが、従来の方法に比べて周波数帯域が倍増したことにより、従来と同一の速度で2倍のピクセル数の情報取得が可能になるため、結果的に周波数帯域の増大による情報量の増大という効果が得られる。
【0089】
本実施形態は、隣接する第1、第2回折ビームの中心間隔が小さくなる極限で、第1実施形態で説明したクロストーク成分を利用する場合と一致する。これは、隣接する第1、第2回折光の中心間隔が小さくなると、主走査方向にずれて配置された隣接する第1、第2回折光の空間的重なりが100%に近づくためである。
図11において第1、第2回折光の中心間隔を一定に保ったままビーム径を大きくしていく状況と同義である。
【0090】
[第6実施形態]
図12は、第1AODと第2AODとして1つのAODを用いて、第1回折光と第2回折光を生成する第6実施形態を示している。なお、この第6実施形態におけるレーザ顕微鏡システムの構成は、干渉光生成部において1つのAODを用いて第1回折光と第2回折光を生成する点が第1実施形態と異なるだけである。このため、
図12には、干渉光生成部の要部のみ描いてある。また、第1実施形態と実質的に同じ構成部材については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。また、第6実施形態のレーザ顕微鏡システムの干渉光照射部、光検出部、信号処理部については他の実施形態と同様な構成とすることができる。
【0091】
図12に示すように、レーザ顕微鏡システムの干渉光生成部11は、レーザ装置15、AOFS91、アナモルフィックプリズムペア92、λ/2板93、リレー光学系94、AOD95、リレー光学系96、ウォラストンプリズム97、ポラライザ98等で構成されている。レーザ装置15からの直線偏光のレーザ光は、AOFS91に入射する。AOFS91は、レーザ光を第1レーザ光Baと第2レーザ光Bbとに分けている。AOFS91は、入射するレーザ光をそのまま透過した透過成分を第1レーザ光Ba(透過光)として、また回折した成分を第2レーザ光Bb(変換光)として射出する。
【0092】
本実施形態でのAOFS91は、第1実施形態と異なり、AOD95で発生する2種類の回折光の周波数範囲を近づけ、干渉光のビート周波数を低くするために設けてある。例えば、AOD95への駆動信号の周波数範囲が100MHzから200MHzの間である場合、第1レーザ光Baから生成される第1回折光の周波数シフトの範囲は100MHzから200MHz、第2レーザ光Bbから生成される第2回折光の周波数シフトの範囲は「−100MHz」から「−200MHz」となる。これらによる干渉光のビート周波数の周波数範囲を0Hzから200MHzの間に設定するためには、AOFS91の周波数シフト量を「+200MHz」にすればよい。仮にAOFS91による周波数シフトがない場合、干渉光のビート周波数の周波数範囲は200MHzから400MHzの間となる。このような高周波成分は励起する蛍光物質の種類やPMT57等の動作帯域によっては十分な信号レベルが得られない恐れや、信号レベルの変化を十分な精度で検出できない恐れがある。そこで上記のようにAOFS91により干渉光のビート周波数の周波数範囲を全体的に低周波領域にシフトさせることで、信号レベルの低下を避け、また十分な精度で信号レベルの変化を検出できるようにしている。
【0093】
第1、第2レーザ光Ba、Bbは、それぞれアナモルフィックプリズムペア92を通過して横方向(AOD95による回折方向)にビーム形状が拡大された後、レンズ94a、94bからなるリレー光学系94を介してAOD95の入射面にそれぞれ正負が異なる入射角で入射する。なお、アナモルフィックプリズムペア92とリレー光学系94との間の第1レーザ光Baの光路上には、λ/2板93が配されており、第1レーザ光Baは、λ/2板93を透過することで偏光方向が90度回転する。なお、第1レーザ光Baに代えて第2レーザ光Bbの偏光方向を90度回転してもよい。また、リレー光学系94は、その前側焦点位置がAOFS91の出力面に、また後側焦点位置がAOD95の入射面に一致するように調整されている。
【0094】
AOD95は、レーザ光から複数の第1回折光を生成する第1AODと、レーザ光から複数の第2回折光を生成する第2AODとして機能するものである。AOD95は、一定な周波数間隔ΔfのN個の駆動信号を重ねたコム信号が入力されている。このAOD95により、入射する第1レーザ光Baから複数の第1回折光が生成され、第2レーザ光Bbから複数の第2回折光が生成される。第1、第2レーザ光Ba、Bbが互いに正負逆の入射角でAODに入射することによって、AOD95から射出される第1回折光と第2回折光との周波数シフトの正負が互いに逆になる。ここで、第2回折光は、結果的に元のレーザ光の周波数に対して、AOFS91とAOD95とによって周波数シフトされるから、AOFS91による周波数シフトを、AOD95に駆動するコム信号の最低周波数成分の2倍とするのがよい。また、AOD95に対する第1、第2レーザ光の入射角の大きさは、干渉光の生成効率を高くするために同じにすることが好ましい。
【0095】
上記のようにAOD95で生成される複数の第1回折光および複数の第2回折光は、レンズ96a、96bからなるリレー光学系96を介して、重ね合わせ部としてのウォラストンプリズム97に互いに異なる方向から入射する。なお、リレー光学系96は、その前側焦点位置がAOD95の出力面に、また後側焦点位置がウォラストンプリズム97に一致するように調整されている。
【0096】
ここで、AOD95から射出される第1、第2回折光は、それぞれ元の第1レーザ光Ba、第2レーザ光Bbの偏光状態を保つため、互いに偏光が直交している。そして、これら第1、第2回折光がリレー光学系96を介してウォラストンプリズム97に入射することによって、周波数が異なる回折光同士で第1回折光と第2回折光が合波された、すなわち重ね合わせられた合波光がウォラストンプリズム97から射出される。
【0097】
ウォラストンプリズム97からの合波光の光路上に、45度直線偏光のみを透過するポラライザ98が配されている。ウォラストンプリズム97からの合波光がポラライザ98に入射することにより、合波光から45度直線偏光となる干渉光だけがポラライザ98を透過する。これにより、上記第1実施形態におけるビームスプリッタ19から射出される干渉光と同等の複数の干渉光が生成される。複数の干渉光は、そのビーム形状を短軸方向に引き延ばすことによって円形とするアナモルフィックプリズムペア等(図示省略)を介して干渉光照射部に送られる。
【0098】
なお、AOD95から第1レーザ光Baが回折されないで透過する0次成分が第2回折光の一部に同軸に重なるが、その第1レーザ光Baの0次成分は、重なる第2回折光と偏光が直交しているので、ウォラストンプリズム97から合波光とは異なる方向に射出されるため、無視することができる。同様に、AOD95から第2レーザ光Bbが回折されないで透過する0次成分は、第1回折光の一部に同軸に重なるが、それらの偏光が互いに直交しているので、第2レーザ光Bbの0次成分がウォラストンプリズム97から合波光とは異なる方向に射出されるため、無視することができる。
【0099】
上記のように、この例では1つのAOD95を用いてそれぞれ複数の第1、第2回折光を生成して複数の干渉光を生成することができ、第1、第2回折光を生成する部品点数を減らすことが可能である。
【0100】
別の手法により、1つのAODを用いて複数の第1回折光と複数の第2回折光とを生成することも可能である。例えば、AODの一方の面から第1レーザ光を入射して、他方の面から複数の第1回折光を射出させるとともに、AODの他方の面から第2レーザ光を入射して一方の面から複数の第2回折光を射出させるようにする。このようにしても第1、第2回折光を生成するAODが1つになり部品点数を減らすことが可能である。
【0101】
上記の各実施形態では、試料Tからの蛍光を検出するが、これに限られない。例えば試料Tを透過した干渉光や、試料Tで反射(もしくは後方散乱)した干渉光を検出してもよい。反射光を検出する場合には、干渉光と検出光を分離するダイクロイックミラーに代えて、例えば
図13に示すように、偏光ビームスプリッタ99aと1/4波長板99bとを用いればよい。1/4波長板99bは、偏光ビームスプリッタ99aの干渉光照射部12側に配置する。これにより、偏光ビームスプリッタ99aに入射する反射光は、干渉光生成部からの干渉光に対して偏光方向が90度回転したものとなり、光検出部13に向けて偏光ビームスプリッタ99aを透過する。また、干渉光は基本的に蛍光と波長が異なるため、上記透過光や反射光と蛍光を第3実施形態と同様に別々の検出器で同時に検出してもかまわない。
【0102】
上記各実施形態では、AODを用いて、それぞれ周波数の異なる複数の第1及び第2の回折光を生成し、これらから複数の干渉光を生成したが、複数の干渉光の生成は、これに限られるものではない。
【0103】
図14は、所定の透過率あるいは位相のパターンが表面に形成された変調ディスク101を用いて、周波数の異なる複数の回折光L
1、L
2・・・L
Nを生成する例を示している。変調ディスク101は、その中心軸102がモータ103に取り付けられており、モータ103によって高速に回転される。この回転している変調ディスク101に、その一方の面からレーザ光Lをシリンドリカルレンズ104を介して照射することによって、変調ディスク101の他方の面から回折光L
1、L
2・・・L
Nを射出する。
【0104】
図15に示すように、シリンドリカルレンズ104を介してレーザ光Lを照射することによって、変調ディスク101には、その径方向に沿ったライン状にレーザ光Lが照射される。また、変調ディスク101には、パターンは変形した縞状のパターンとなっており、縞の周期が照射されるレーザ光の波長よりわずかに長い程度にしてある。これにより、変調ディスク101上のレーザ光Lの照射領域内の各位置から、他の回折光と重なることなく1次回折の回折光L
1、L
2・・・L
Nが射出される。また、変調ディスク101の縞の周期は、変調ディスク101の径方向で異なるため、回折光L
1、L
2・・・L
Nの周波数シフト量が変調ディスク101の径方向に沿って異なる。この結果、上記実施形態と同様に、AODから生成される回折光と実質的に同様の性質を持つ第1の光または第2の光としての複数の回折光が得られる。なお、このような変調ディスク101の詳細は次の文献1、文献2等に記載されている。
文献1:JEFFREY J. FIELD,DAVID G. WINTERS,AND RANDY A. BARTELS, J. Opt. Soc. A 32(11) 2156 (2015).
文献2:Jeffrey S. Sanders, Ronald G. Driggers, Carl E. Halford, and Steven T. Griffin, Opt. Eng. 30(11), 1720-1724 (1991).
【0105】
干渉光の生成は、例えば
図1に示される第1実施形態の第1AOD24、第2AOD34の代わりにそれぞれ
図14の変調ディスク101を用いた構成を用い、一方の変調ディスク101から生成される周波数シフト量が大きい回折光部分を第1回折光として、またもう一方の変調ディスク101から生成される周波数シフト量が小さい回折光部分を第2回折光として用い、それらを重ねればよい。もちろん、各変調ディスク101から得られる回折光の周波数が異なるように2枚の変調ディスク101のパターンが互いに異なっていてもよい。
【0106】
[実施例]
図1のレーザ顕微鏡システム10と同様な構成を用いて試料Tを観察した。この観察では、レーザ顕微鏡システム10は、第1AOD24、第2AOD34として102MHz〜201MHzの駆動信号で動作可能な同じAODを用いた。また、第1AOD24は、周波数間隔Δfを1MHzとして102MHから201MHzまでの各駆動信号を重ね合わせた第1コム信号で駆動した。また、第2AOD34についても、周波数間隔Δfを1MHzとして102MHから201MHzまでの各駆動信号を重ね合わせた第2コム信号で駆動した。第1コム信号と第2コム信号は周波数成分間の位相の設定値として上に述べた数式に従ってクロストークがキャンセルされるように設定し、φa=φb=0、φ=3.3°とした。
【0107】
また、第1、第2AOD24、34に対する第1、第2レーザ光の入射角の正負を互いに逆にすることによって、複数の第1回折光の周波数範囲と複数の第2回折光の周波数範囲が重ならないが、干渉光のビート周波数を低周波領域に下げるためにAOFS32で周波数を上げた第2レーザ光を第2AOD34に入射させた。このAOFS32は、周波数200MHzのシフト信号で駆動することで、第2レーザ光の周波数シフト量を「+200MHz」とした。第1回折光はその周波数が低いものから、第2回折光はその周波数が高いものから順番に組み合わせられるようにしてビート周波数が異なる100本の干渉光を生成した。なお、第1、第2AOD24、34は、動作帯域が100〜200MHzであるが、AODの動作帯域は回折効率が最大値の−3dBとなる周波数で規定されるため、動作帯域からわずかに外れた周波数で励起しても十分に動作する。
【0108】
上記のように駆動される第1、第2AOD24、34からの第1回折光、第2回折光から生成されて、対物レンズ52から出力された複数の干渉光を測定して得られた周波数スペクトルを
図16に示す。周波数スペクトルから、ビート周波数が2MHz間隔で4MHzから202MHzまでの100本の干渉光が形成されていることが確認でき、200MHzの帯域幅が得られることが分かった。また、上記周波数スペクトルをフーリエ変換したところ、
図17に示すような信号波形が得られた。この信号波形は、重ね合わせる第1回折光と第2回折光とが完全に重なったときの理想的な信号波形の約70%の振幅であり、干渉光の生成効率が約70%であることが分かった。
【0109】
フレームレート、すなわち走査ミラー47aを16KHzで揺動して、試料Tとして平均直径6μmの蛍光ビーズを検出した。この検出から得られた観察画像を
図18に示す。
図18の観察画像は、横方向が照射スポットSPが並ぶ主走査方向(M)であり、縦方向が照射スポットSPが移動する副走査方向(S)である。
多重化信号としての検出光の帯域幅をより広くすることができる照射装置、レーザ顕微鏡システム、照射方法及びレーザ顕微鏡の検出方法を提供する。レーザ光を分離して第1AOD(24)、第2AOD(34)にそれぞれ入射することによって偏向角と周波数シフトの大きさが互いに異なる複数の第1回折光及び第2回折光を生成する。ビームスプリッタ(19)で第1回折光と第2回折光とを重ね合わせて、互いにビート周波数が異なる複数の干渉光を生成する。対物レンズ(52)は、主走査方向に複数の干渉光の照射スポットをライン状に並べて形成し、試料(T)に干渉光を照射する。走査ミラー(47a)の揺動で照射スポットを主走査方向と直交する副走査方向に移動する。各干渉光の照射で試料(T)から放出される蛍光を光検出部(13)で検出する。