【実施例】
【0016】
図1は本実施例における回転力伝達装置100の内部構造を示す縦断面図である。機構部を収納する固定部材10と出力側支持部材12のみを縦断面で示している。
回転力伝達装置100は、
図1に示すように、固定部材10内でクラッチ機構1と遊星歯車機構2とを軸方向に連結し、遊星歯車機構2の太陽歯車62に入力される回転力をクラッチ機構1の出力回転体20から出力するようにしている。
【0017】
固定部材10は、略円柱状の内周面を有する筒状に形成され、その軸方向の一方側(
図1によれば上側)の内周面11aにより、クラッチ機構1を構成する収納室11を形成するとともに、軸方向の他方側(
図1によれば下側)の内周面により、遊星歯車機構2を構成する内歯車2aを形成している。
前記一方側の内周面11aは、凹凸のない円筒内周面状の曲面である。
内歯車2aは、固定部材10内周面の前記他方側において、全周にわたるとともに、後述する第1の遊星歯車及び第2の遊星歯車(連接遊星歯車)に跨るように、各歯部を軸方向にわたって連続して形成している。
この固定部材10の前記一方側の端部には、出力回転体20を回転自在に支持するとともに、該出力回転体20の出力軸24を貫通して外部へ露出する出力側支持部材12が固定部材10と一体に固着されている。また、固定部材10の前記他方側には、入力用の回転式モータ70が、固定部材10と一体に配置されている。そして回転式モータ70の回転軸71の一端には太陽歯車72が固着されている
この固定部材10及び回転式モータ70は、図示しない不動部位に、回転不能に固定される。
【0018】
クラッチ機構1は、
図1および
図2に示すように、固定部材10の軸方向一端側の収納室11内に、該収納室11と同軸状に配置された出力回転体20と、出力回転体20に対し同軸状に設けられた入力回転体30と、収納室内周面11aと出力回転体20の外周面との間に位置する一対の係合子41,42と、一方の係合子41を周方向の一方側(
図2によれば時計方向側)へ付勢するとともに他方の係合子42を周方向の他方側(
図2によれば反時計方向側)へ付勢する付勢部材50とを具備する。
そして、このクラッチ機構1は、後述する遊星歯車機構2から、入力回転体30に回転力を受けた際に、この回転力を出力回転体20に伝達して出力回転体20を回転させ、また、出力回転体20に対し外部から回転力が加わった際には、この出力回転体20を回転不能にロックする。
【0019】
出力回転体20は、収納室11に同芯状に配置された略円板状の部材であり、その中心側が固定部材10と一体の出力側支持部材12に対し回転自在に支持されている。この出力回転体20の軸方向の一端側(
図1によれば上端側)の部分は、固定部材10に対し回転自在に嵌め合せられるとともに、その中心部に、外部へ露出した出力軸24を一体に有する。
この出力回転体20の外周部には、周方向の一方側(
図2によれば時計方向側)へ向かって収納室11の内周面11aとの間を徐々に狭める一方のカム面21と、この一方のカム面21の前記一方側に隣接する凹部22と、前記一方のカム面21に背反するように他方側(
図2によれば反時計方向側)へ向かって収納室11の内周面11aとの間を徐々に狭める他方のカム面23と、付勢部材50を係止するための係止部25とが、所定角度(等間隔)置きに複数組(図示例によれば3組)並べ設けられる。
【0020】
カム面21とカム面23は、左右対称に設けられる。各カム面21,23は、周方向に湾曲する凸曲面状に形成され、より詳細に説明すれば、収納室内周面11aの半径から、各係合子41,42の直径を減じた値よりも大きな半径の円弧状に形成されるとともに、この円弧の中心位置を出力回転体20の中心位置からずらすようにして設けられる。
【0021】
凹部22は、出力回転体20の外周面から求心方向へ凹むとともに、出力回転体20の軸方向へ貫通している。この凹部22内の周方向の両端には、後述する入力回転体30の押圧伝達部31によって押圧される被押圧面22a,22bを有する。これら被押圧面22a,22bは、径方向へわたる平坦面状に形成され、一方の被押圧面22aは、一方のカム面21と交差し、他方の被押圧面22bは、他方のカム面23と交差している。
【0022】
係止部25は、出力回転体20の外周部において、背反する一方のカム面21と他方のカム面23との間に配置された凹部であり、詳細には、付勢部材50を挿通する挿入空間部25aと、該挿入部よりも奥側(底側)に形成された底側空間部25bとからなる。
挿入空間部25aは、一定幅の空間を形成している。また、底側空間部25bは、挿入空間部25aよりも周方向の幅の広い空間を形成している。これら挿入空間部25a及び底側空間部25bは、挿入される付勢部材50の基端側部分を、容易に引き抜けることのないように固定する。
【0023】
入力回転体30は、出力回転体20に対し軸方向へ並ぶように設けられた略円盤状の部材である。
この入力回転体30は、中心側において、軸方向の一端側(
図1によれば上端側)を出力回転体20に対し双方向へ回動するように嵌め合せ、また、軸方向の他端側に、後述する遊星歯車機構2を接続している。
また、入力回転体30における出力回転体20側の側面には、凹部22毎に対応するように、周方向に所定間隔を置いて複数(本実施例によれば3つ)の押圧伝達部31が突設されている。
【0024】
押圧伝達部31は、出力回転体20の凹部22に対し周方向の遊びを有する状態で嵌り合うとともに凹部22内から遠心方向へ突出する略扇形状に形成され、周方向の両端部に、出力回転体20の被押圧面22a,22bに当接可能であって、且つ係合子41,42にも当接可能な当接面31a,31bを有する。
【0025】
当接面31a,31bの各々は、凹部22内から凹部22外へわたって径方向へ連続している。一方の当接面31aは、凹部22における一方の被押圧面22aと略平行な平坦面状に形成され、他方の当接面31bは、凹部22における他方の被押圧面22bと略平行な平坦面状に形成される。
両当接面31a,31b間の周方向の幅は、出力回転体20における被押圧面22a,22b間の周方向の幅よりも若干小さく設定されている。
【0026】
係合子41,42は、円柱状又は球状(図示例によれば円柱状)に形成され、一方及び他方のカム面21,23に対応して一対に設けられている。
一対の係合子41,42のうち、一方の係合子41は、一方のカム面21および収納室内周面11aに接触するように配置され、他方の係合子42は、他方のカム面23および収納室内周面11aに接触するように配置される。そして、各係合子41,42は、後述する付勢部材50に押圧された状態で、凹部22の各被押圧面22a,22bよりも凹部22内側へ若干突出した位置で静止している。
【0027】
付勢部材50は、長尺平板状のばね材を略Y字状に曲げ成形してなり、出力回転体20の係止部25に止着固定された止着部51と、この止着部51から二股状に分かれるようにして延設された二つの押圧部52,52とからなり、押圧部52,52によって一対の係合子41,42を引き離すように付勢する。
止着部51は、出力回転体20外周の係止部25における底側空間部25bに対応する略円形状の部分と、同係止部25における挿入空間部25aに対応する幅狭の平行板状の部分とからなる。
各押圧部52は、止着部51から延設されてカム面21側(又はカム面23側)へ傾斜し、その傾斜方向の面を、対応する係合子41(又は係合子42)の外周面に当接させている。
【0028】
上記搆成のクラッチ機構1の入力回転体30には、固定部材10内で遊星歯車機構2が同軸状に連結される。
【0029】
遊星歯車機構2は、入力回転体30に回転自在に支持された複数の第1の遊星歯車61と、これら第1の遊星歯車61に対し中央側から噛み合う太陽歯車62と、該太陽歯車62の軸方向の他端側に固定された支持回転体63と、該支持回転体63の軸方向の他端側に回転自在に支持された複数の第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)と、第1及び第2の遊星歯車61,62に噛み合う固定部材10内周面の内歯車2aとから構成される。
【0030】
第1の遊星歯車61は、入力回転体30の中心線周りに所定間隔置きに複数(本実施例によれば3つ)配置される。各第1の遊星歯車61は、入力回転体30の側面(
図1によれば下側面)に回転自在に支持され、外周の歯部61aを内歯車2aに噛み合わせている。
【0031】
太陽歯車62は、入力回転体30の中心線上に位置し、複数の第1の遊星歯車61の中央側に噛み合って回転する。この太陽歯車62の入力回転体30側面(
図1によれば下側面)は、支持回転体63に回転不能に固定されている。すなわち、太陽歯車62と支持回転体63は、一体回転可能に保持される。
【0032】
支持回転体63は、内歯車2aよりも外径の小さい円柱状もしくは円盤状の部材であり、内歯車2aとの間に隙間を確保して固定部材10の中心側に配置され、一方の側面に同軸状に太陽歯車62を固定するとともに、他方の側面の中心軸周りに第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)を支持している。
【0033】
第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)は、支持回転体63の中心線周りに所定間隔置きに複数(本実施例によれば3つ)配置される。各第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)は、支持回転体63の側面(
図1によれば下側面)に回転自在に支持され、外周の歯部64aを内歯車2aに噛み合わせている。
また、各第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)は、回転式モータ70の回転軸71の一端に固着されている太陽歯車72に噛み合わせている。
そして回転式モータ70が起動し、回転軸71が回転するとき、太陽歯車72を介して遊星歯車64(連接遊星歯車)に回転力を伝達する。
【0034】
次に、上記構成の回転力伝達装置100について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。
先ず、回転式モータ70が起動していない状態、すなわち、出力回転体20、入力回転体30、支持回転体63等の何れにも回転力が加わっていない状態(
図2参照)では、係合子41,42が、それぞれ、付勢部材50に押圧されて、カム面21,23と収納室11の内周面11aとの間の楔状部分に押し付けられる。
したがって、出力回転体20は、一方向(
図2によれば時計方向)と他方向(
図2によれば反時計方向)の何れにも回転しないように、静止した状態に維持される。
【0035】
前記状態から、回転式モータ70が起動し、太陽歯車72を介して第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)に回転力が伝達されると、支持回転体63に支持された複数の第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)も、内歯車2aの軸方向の他半部側(
図1によれば下半部側)に噛み合って転動しながら、同中心軸周りを公転する。そして、支持回転体63が回転するとともに、該支持回転体63と一体の太陽歯車62も回転する。そして、この回転に伴い、太陽歯車62に噛み合っている複数の第1の遊星歯車61が、内歯車2aの軸方向の片半部側(
図1によれば上半部側)に噛み合って転動しながら、入力回転体30の中心軸周りを公転する。
この回転の際、支持回転体63が、軸方向の両側から第1の遊星歯車61と第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)によって支持されるため、支持回転体63及び該支持回転体63と一体の太陽歯車62は、偏心等を生じ難く、安定した回転バランスが維持される。
【0036】
そして、複数の第1の遊星歯車61の公転に伴い、これら第1の遊星歯車61を支持している入力回転体30も回転する。
入力回転体30が、例えば、
図4に示すように、時計方向へ回転した場合〔
図4(a)〕には、入力回転体30の押圧伝達部31が、先ず一方の係合子42に当接する〔
図4(b)〕ことで、該係合子42とカム面23との摩擦、および該係合子42と収納室内周面11aとの摩擦が小さくなり、その後で、押圧伝達部31が凹部22内の被押圧面22bに当接して出力回転体20を押動する〔
図4(c)〕ため、出力回転体20が反時計方向へスムーズに回転する。
また、入力回転体30に反時計方向の回転力が加わった場合には、図示を省略するが、入力回転体30の押圧伝達部31が、先ず他方の係合子41に当接することで、係合子41とカム面21との摩擦、および係合子41と収納室内周面11aとの摩擦が小さくなり、その後で、押圧伝達部31が凹部22内の被押圧面22aに当接して出力回転体20を押動するため、出力回転体20が反時計方向へスムーズに回転する。
【0037】
また、回転式モータ70の駆動を停止して、回転軸71の回転が停止した後、出力回転体20に、外部から、例えば時計方向の回転力が加わった場合には、時計方向へ回転しようとする出力回転体20の他方のカム面23と収納室内周面11aとの間に、他方の係合子42が食い込むようにして強く押し付けられるため、出力回転体20の時計方向への回転が阻まれる。〔
図2の状態〕
同様にして、出力回転体20に、外部から、例えば反時計方向の回転力が加わった場合には、反時計方向へ回転しようとする出力回転体20の一方のカム面21と収納室内周面11aとの間に、一方の係合子41が食い込むようにして強く押し付けられるため、出力回転体20の反時計方向への回転が阻まれる。〔
図2の状態〕
【0038】
よって、バックラッシュや、動力伝達部分の若干の隙間等に起因して、遊星歯車機構2等の入力側の回転部材が周方向にガタつき、このガタつきが出力側に蓄積されて、静止中の出力回転体20に比較的大きな周方向のガタつきが生じるのを低減することができる。
しかも、一体筒状の固定部材10内に、クラッチ機構1と遊星歯車機構2を軸方向に並べて、固定部材10の内周面を軸方向において有効に利用するようにしているため、細身で小型な構造を得やすく、生産性にも優れている。
【0039】
なお、上記回転力伝達装置100に付加される構成として、回転式モータ70の入力軸71を図示する歯車の何れにも接触させずに、直接、支持回転体63に連結固定して回転力が入力されるようにすることも可能である。
【0040】
さらに、他例としては、第1の遊星歯車61の入力側に、上記構造の太陽歯車62と、太陽歯車62と一体回転可能に固定された支持回転体63と、この支持回転体63に回転自在に支持される複数の第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)と、これら複数の第2の遊星歯車64を噛み合わせるように固定部材10の内周面に形成される内歯車2aとを、回転力が軸方向へ伝達するように、2段以上あるいは3段以上、多段的に連設することが可能である。
【0041】
また、上記回転力伝達装置100において、第1の遊星歯車61と第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)の歯数は同一にすればよいが、他例としては、第1の遊星歯車61と第2の遊星歯車64の歯数を異ならせ、それに対応するように、内歯車2aを軸方向に分割するとともに、その分割された片半部と他半部を、第1の遊星歯車61と第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)にそれぞれ噛み合わせることも可能である。
【0042】
また、上記回転力伝達装置100では、支持回転体63及び太陽歯車62の回転バランスを良好にするために、支持回転体63の前後に第1及び第2の遊星歯車61,64を設けるようにしたが、他例としては、上記回転力伝達装置100の構成から、第2の遊星歯車64(連接遊星歯車)を省くことも可能である。
さらに、この態様では、支持回転体63も省き、太陽歯車62に対し入力軸71の回転力が直接入力されるようにすることも可能である。
【0043】
また、図示例の回転力伝達装置100では、固定部材10を一部材から筒状に形成しているが、他例としては、固定部材10を複数の筒状部材から構成することも可能である。
【0044】
また、上記クラッチ機構1によれば、外部から、出力回転体20に対し一方向と他方向(時計方向と反時計方向)の何れの方向の回転力を加えた場合でも、係合子41,42等の作用によって出力回転体20が拘束されるようにしたが、他例としては、何れか一方向の回転力を加えた場合のみ出力回転体20を拘束する態様とすることが可能である。
この態様は、例えば、上記クラッチ機構1から一方の係合子41を全て省いた構成とすればよい。この構成によれば、出力回転体20に対し一方向(
図2によれば時計方向)の回転力を加えた場合には、各係合子42が収納室内周面11aとカム面23の間の狭まる楔状部分に押し付けられるため、出力回転体20の回転を阻止することができる。
また、出力回転体20に対し他方向(
図2によれば反時計方向)の回転力を加えた場合には、各係合子42が収納室内周面11aとカム面23の間の楔状部分から離れようとし、各係合子42と収納室内周面11a及びカム面23との摩擦が小さくなるため、出力回転体20をスムーズに回転させることができる。
また、入力回転体30に対し前記一方向の回転力が加わった場合には、押圧伝達部31が係合子42に当接した後に凹部22の被押圧面22bを押圧し、また同入力回転体30に対し前記他方向の回転力が加わった場合には、押圧伝達部31が何れの係合子にも当接することなく凹部22の被押圧面22aを押圧するため、何れの回転方向であっても、入力回転体30の回転力を出力回転体20へスムーズに伝達することができる。
【0045】
また、上記クラッチ機構1によれば、固定部材10に対し出力回転体20を回転自在に支持し、さらに出力回転体20に対し入力回転体30を回転自在に支持する構成としたが、この支持構造は、出力回転体20と入力回転体30がそれぞれ双方向へ回転する支持構造であればよく、他例としては、単一の軸部材によって出力回転体20と入力回転体30をそれぞれ回転自在に支持する構造等とすることが可能である。
【0046】
また、上記クラッチ機構1によれば、出力回転体20の外周部に、カム面21,23、凹部22、係合子41,42及び付勢部材50等を3組並べ設けたが、他例としては、これらを2組又は4組以上設けることも可能である。