【実施例】
【0017】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の身体装着品及び製造方法を用いて制作した腕時計Aである。
腕時計Aは、身体装着品となる腕時計用ケース10及びバンド20と、腕時計用ケース10内に収納された時計機構30等から構成される。
腕時計用ケース10は、ケース枠本体11と、該ケース枠本体11の裏面側に装着される裏蓋12とを具備し、一体に構成される。
【0019】
ケース枠本体11は、表面側から裏面側へ貫通する空間を有する枠状に形成され、時計機構30を内在した状態で、その表部側の開口部がカバーガラス13により塞がれ、裏面側の開口部が裏蓋12によって塞がれる。
【0020】
裏蓋12は、薄板状の部材であり、ネジ止めや、嵌合、螺合等の止着手段によってケース枠本体11の裏面側に固定されている。
この裏蓋12は、ニッケルを含む金属ガラスを原材料とした金型成形加工により形成され、その裏面を、人肌に触れられる身体接触部12aとしている。
身体接触部12aを含む裏蓋12の全表面は、後述する除去加工により、前記金属ガラスの原材料を含まない異物であって且つ前記金型成形加工に用いた金型の原材料を含む異物が除去される。
【0021】
金属ガラスの具体例としては、ジルコニウム(Zr)−銅(Cu)−アルミニウム(Al)−ニッケル(Ni)を組成とする金属ガラスが挙げられる。
本実施例では、特に好ましい態様として、Zr55Cu30Al10Ni5(atm%)を組成とする金属ガラスを用いた。
【0022】
また、金型成形加工とは、原材料を金型に接触させて成形するようにした加工を意味し、この金型成形加工の具体例としては、射出成型加工、鋳造加工、鍛造加工、引き抜き成型加工、押出し成形加工、プレス加工等が挙げられる。
【0023】
また、金型成形加工に用いる金型の原材料は、その一部が成形品(裏蓋12)に転写されて、該成形品の腐食の起点となる可能性のある材料である。
本実施例では、前記金型の原材料として、前記金属ガラスの組成には含まれない鉄(Fe)を一成分に含む金属材料を用いた。
【0024】
除去加工の具体例としては、研磨加工(バレル研磨、ラップ研磨、バフ研磨、ブラスト研磨、CMP研磨、化学研磨、ポリッシュ加工等を含む)や、研削加工(ヘアライン加工を含む)、切削加工等を含む。
【0025】
次に、上記構成の実施例について、比較例と対比して、ニッケル溶出試験を行った結果について詳細に説明する。
【0026】
図2中の実施例1〜6及び比較例1〜3の各々は、上記金属ガラスを原材料とした試験片である。この試験片は、射出成型により腕時計Aの裏蓋12と同程度の大きさの板状に形成される。
比較例1〜3は、射出成型された後、除去加工を行わなかったもの(As Cast品)である。
実施例1〜3は、射出成型された後、回転する円盤状の研磨材に摺接させて研磨加工を施したものである。
実施例4〜6は、射出成型された後、回転する円盤状の研磨材に摺接させて研磨加工を施し、さらにヘアライン加工によって表面に微細な凹凸を形成したものである。すなわち、これら実施例4〜6は、前記凹凸により試験片の表面積を増加したものである。
【0027】
図2のグラフは、実施例1〜6、及び従来技術による比較例1〜3について、欧州規格EN1811に基づくニッケル溶出試験を行った結果を示している。この試験では、各試験片を所定の溶液に所定期間漬けておき、その間の単位面積あたりのニッケル溶出量を求めた。
この結果より、実施例1〜6では、比較例1〜3と比べてニッケル溶出量が顕著に少なく、全てがEN1811の基準値0.50μg/cm
2/weekを大幅に下回っている。加えて、装飾品業界の少なくとも一部では、0.28μg/cm
2/week以下であることを望ましい判定基準としているが、この判定基準値からも大きく下回っていることがわかる。
また、比較例1〜3は、実施例1〜6と比べてニッケル溶出量が顕著に大きく、3つのうち二つが基準値を上回っている。
また、実施例1〜3と、実施例4〜6とを比較すると、ニッケル溶出量に顕著な差がないことがわかる。
【0028】
また、
図3は、上記比較例1〜3について、これらの表面の一部分を電子顕微鏡により観察した際の代表画像を示している。この画像より、比較例1〜3の表面には、突起状の異物(付着物)があることがわかる。
本願発明者らは、この異物について、電子顕微鏡を用いた周知の表面分析装置により、電子線照射時に放出される特性X線を利用した元素分析(エネルギー分散型X線分析)を行った。
この分析の結果、この異物には、上記金属ガラスの原材料には含まれない成分であって、且つ上記金型成形加工に用いた金型の原材料に含まれる成分(例えば鉄(Fe)等)が含まれていることがわかった。
【0029】
また、
図4は、上記実施例1〜6について、これらの表面の一部分を電子顕微鏡により観察した際の代表画像を示している。この画像では、異物が観察されなかった。
【0030】
以上の結果より、比較品1〜3に観察された異物(
図3)は、上記金型成形加工に用いた金型の一部が転写されたものであると考えられる。
また、実施例1〜6では、異物が研磨加工により除去されたものと考えられる。
【0031】
本願発明者らは、比較品1〜3では異物を起点とした腐食が進行して、ニッケルの溶出量が顕著に多くなるものと推定し、これに対し、実施例1〜6では異物が除去されているため、ニッケルの溶出量が顕著に少ないものと推定した。
【0032】
なお、本願発明者らは、異物による表面積の増加が、ニッケルの溶出量を多くする原因になるとも仮定した。しかしながら、研磨加工をした実施例1〜3と、ヘアライン加工により表面積を増加した実施例4〜6との比較において、ニッケル溶出量に顕著な差がないことから前記仮定は否定された。
【0033】
よって、本実施例によれば、金型成形加工に用いた金型の原材料を含む異物を起点として、腐食が進行するのを防ぐことができ、この結果として、裏蓋12の身体接触部12aからニッケルが溶出するのを抑制することができる。
【0034】
なお、上記実施例によれば、特に好ましい態様として、裏蓋12の全表面に除去加工を施すようにしたが、他例としては、裏蓋12の身体接触部12aのみに除去加工を施すようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施例によれば、ケース枠本体11及びバンド20については材質や表面処理方法等を特定しなかったが、他例としては、ケース枠本体11及び/又はバンド20についても、ニッケルを含む金属ガラスを原材料として金型成形した後、少なくとも身体接触部の表面に対し、上述した除去加工を施すことが可能である。