特許第6232553号(P6232553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6232553身体装着品、及び該身体装着品の製造方法、並びに該身体装着品又は該製造方法を用いて構成された腕時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232553
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】身体装着品、及び該身体装着品の製造方法、並びに該身体装着品又は該製造方法を用いて構成された腕時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 37/22 20060101AFI20171113BHJP
   A44C 5/00 20060101ALI20171113BHJP
   A44C 5/02 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   G04B37/22 A
   G04B37/22 B
   A44C5/00 E
   A44C5/00 502D
   A44C5/02 E
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-571992(P2016-571992)
(86)(22)【出願日】2016年1月22日
(86)【国際出願番号】JP2016051824
(87)【国際公開番号】WO2016121639
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2017年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-17969(P2015-17969)
(32)【優先日】2015年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】富樫 望
(72)【発明者】
【氏名】清水 幸春
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−201789(JP,A)
【文献】 特開2010−138471(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/069716(WO,A1)
【文献】 特表2011−516734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 37/22
A44C 5/00 − 02
A44C 27/00
B22D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含む金属ガラスを原材料とし、金型成形加工により人肌に触れられる身体接触部が成形された身体装着品において、前記身体接触部の表面から、前記金属ガラスの原材料を含まない異物であって且つ前記金型成形加工に用いた金型の原材料を含む異物が除去されていることを特徴とする身体装着品。
【請求項2】
ニッケルを含む金属ガラスを原材料として金型成形加工する工程と、前記身体接触部の表面から除去加工によって前記異物を除去する工程とを含むことを特徴とする請求項1記載の身体装着品の製造方法。
【請求項3】
前記除去加工に、研磨加工を含むことを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記金型成形加工により成形された前記身体接触部を含む成形品の全表面から前記異物を除去したことを特徴とする請求項1〜3何れか1項記載の身体装着品又は製造方法。
【請求項5】
前記金属ガラスが、ジルコニウム系金属ガラスであることを特徴とする請求項1〜4何れか1項記載の身体装着品又は製造方法。
【請求項6】
前記金属ガラスが、ジルコニウム、銅、アルミニウム、ニッケルを含む金属ガラスであることを特徴とする請求項5記載の身体装着品又は製造方法。
【請求項7】
前記異物が、鉄を含む異物であることを特徴とする請求項1〜6何れか1項記載の身体装着品又は製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7何れか1項記載の身体装着品又は製造方法を用いて構成された腕時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕時計を構成するケース、ブレスレッド、ネックレス等、身体に装着されて人肌に触れることのある身体装着品、及び該身体装着品の製造方法、並びに該身体装着品又は該製造方法を用いて構成された腕時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属ガラス材料は、寸法精度や、耐摩耗性及び耐久性に優れていること等から、例えば特許文献1に示すように、工業製品の部品として利用されつつある。
一方、金属ガラス材料は、射出成型等の金型成形加工により複雑な形状を精度良く形成できることから、近年、腕時計の本体ケース(ウォッチケース)、バンド等の身体装着品への適用が検討されている。金属ガラスには多くの種類のものがあるが、安定してガラス化できる好ましい材料としては、ジルコニウム系の金属ガラスがあり、特にZr−Cu−Al−Ni系の金属ガラスは、機械的特性及び製造性のバランスが良好である。
そこで、前記身体装着品として、ジルコニウム系の金属ガラスを用いることが提案される。
【0003】
しかしながら、ジルコニウム系の金属ガラスなど、ニッケルを含む金属材料が人肌に触れると、該金属材料からニッケルが溶出されて、それぞれの人の体質によっては、ニッケルアレルギーが引き起こされる要因となる場合がある。例えば、Zr−Cu−Al−Ni系の金属ガラスを金型成形加工してなる成形品について、ニッケル溶出試験(欧州規格EN1811)を行うと、この成形品の金属材料に含まれるニッケルが溶出してしまい、前記規格の基準を満足できない。
そこで、ニッケルを含まない金属ガラス材料が望まれるが、ニッケルが金属ガラス形成能に大きく寄与する組成であるため、ニッケルを含まないジルコニウム系金属ガラス材料を作成するのは実質的に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2009/069716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とする処は、ニッケルの溶出を抑制することができる金属ガラス製の身体装着品、及び該身体装着品の製造方法、並びに該身体装着品又は該製造方法を用いて構成された腕時計に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための一手段は、ニッケルを含む金属ガラスを原材料とし、金型成形加工により人肌に触れられる身体接触部が成形された身体装着品において、前記身体接触部の表面から、前記金属ガラスの原材料を含まない異物であって且つ前記金型成形加工に用いた金型の原材料を含む異物が除去されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以上説明したように構成されているので、ニッケルの溶出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る身体装着品である腕時計の一例を示す斜視図であり、裏蓋を外した状態を示す。
図2】本発明に係る実施例と、従来技術による比較例について、ニッケル溶出試験の結果を示すグラフである。
図3】従来技術による比較例について、要部を拡大して示す電子顕微鏡画像である。
図4】本発明に係る実施例について、要部を拡大して示す電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態の第一の特徴は、ニッケルを含む金属ガラスを原材料とし、金型成形加工により人肌に触れられる身体接触部が成形された身体装着品において、前記身体接触部の表面から、前記金属ガラスの原材料を含まない異物であって且つ前記金型成形加工に用いた金型の原材料を含む異物が除去されていることにある。
ここで、「身体装着品」には、腕時計を構成するケースや、該ケースの裏蓋、腕時計用のバンド、ブレスレッド、ネックレス、指輪、イヤリング、ピアス、眼鏡のフレーム等が含まれる。
この構成によれば、金型成形加工に用いた金型の原材料を含む異物を起点として、この異物と金属ガラスとの電位差の影響等により腐食が進行するのを防ぐことができている。そして、この結果として、身体接触部からニッケルが溶出するのを抑制することができる身体装着品となる。
【0010】
第二の特徴としては、身体装着品の製造方法であって、ニッケルを含む金属ガラスを原材料として金型成形加工する工程と、前記身体接触部の表面から除去加工によって前記異物を除去する工程とを含むことにある。
この構成によれば、身体接触部の表面から除去加工によって異物を除去するので、金型成形加工に用いた金型の原材料を含む異物を起点として腐食が進行するのを防ぐことができる。そして、この結果として、身体接触部からニッケルが溶出するのを抑制することができる。
【0011】
第三の特徴としては、効果的に前記異物を除去するために、前記除去加工に研磨加工を含むことにある。
【0012】
第四の特徴としては、効果的に腐食の進行を防ぐために、前記金型成形加工による成形品の全表面から前記異物を除去したことにある。
【0013】
第五の特徴としては、機械的特性及び製造性の良好な具体的な態様として、前記金属ガラスに、ジルコニウム系金属ガラスを用いたことにある。
【0014】
第六の特徴としては、機械的特性及び製造性の良好な具体的な態様として、前記金属ガラスを、ジルコニウム、銅、アルミニウム、ニッケルを含む金属ガラスとしたことにある。
【0015】
第七の特徴としては、前記異物が、鉄を含む異物であることが挙げられる。
【0016】
第八の特徴としては、前記身体装着品又は前記製造方法を用いて腕時計を制作したことが挙げられる。
【実施例】
【0017】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の身体装着品及び製造方法を用いて制作した腕時計Aである。
腕時計Aは、身体装着品となる腕時計用ケース10及びバンド20と、腕時計用ケース10内に収納された時計機構30等から構成される。
腕時計用ケース10は、ケース枠本体11と、該ケース枠本体11の裏面側に装着される裏蓋12とを具備し、一体に構成される。
【0019】
ケース枠本体11は、表面側から裏面側へ貫通する空間を有する枠状に形成され、時計機構30を内在した状態で、その表部側の開口部がカバーガラス13により塞がれ、裏面側の開口部が裏蓋12によって塞がれる。
【0020】
裏蓋12は、薄板状の部材であり、ネジ止めや、嵌合、螺合等の止着手段によってケース枠本体11の裏面側に固定されている。
この裏蓋12は、ニッケルを含む金属ガラスを原材料とした金型成形加工により形成され、その裏面を、人肌に触れられる身体接触部12aとしている。
身体接触部12aを含む裏蓋12の全表面は、後述する除去加工により、前記金属ガラスの原材料を含まない異物であって且つ前記金型成形加工に用いた金型の原材料を含む異物が除去される。
【0021】
金属ガラスの具体例としては、ジルコニウム(Zr)−銅(Cu)−アルミニウム(Al)−ニッケル(Ni)を組成とする金属ガラスが挙げられる。
本実施例では、特に好ましい態様として、Zr55Cu30Al10Ni5(atm%)を組成とする金属ガラスを用いた。
【0022】
また、金型成形加工とは、原材料を金型に接触させて成形するようにした加工を意味し、この金型成形加工の具体例としては、射出成型加工、鋳造加工、鍛造加工、引き抜き成型加工、押出し成形加工、プレス加工等が挙げられる。
【0023】
また、金型成形加工に用いる金型の原材料は、その一部が成形品(裏蓋12)に転写されて、該成形品の腐食の起点となる可能性のある材料である。
本実施例では、前記金型の原材料として、前記金属ガラスの組成には含まれない鉄(Fe)を一成分に含む金属材料を用いた。
【0024】
除去加工の具体例としては、研磨加工(バレル研磨、ラップ研磨、バフ研磨、ブラスト研磨、CMP研磨、化学研磨、ポリッシュ加工等を含む)や、研削加工(ヘアライン加工を含む)、切削加工等を含む。
【0025】
次に、上記構成の実施例について、比較例と対比して、ニッケル溶出試験を行った結果について詳細に説明する。
【0026】
図2中の実施例1〜6及び比較例1〜3の各々は、上記金属ガラスを原材料とした試験片である。この試験片は、射出成型により腕時計Aの裏蓋12と同程度の大きさの板状に形成される。
比較例1〜3は、射出成型された後、除去加工を行わなかったもの(As Cast品)である。
実施例1〜3は、射出成型された後、回転する円盤状の研磨材に摺接させて研磨加工を施したものである。
実施例4〜6は、射出成型された後、回転する円盤状の研磨材に摺接させて研磨加工を施し、さらにヘアライン加工によって表面に微細な凹凸を形成したものである。すなわち、これら実施例4〜6は、前記凹凸により試験片の表面積を増加したものである。
【0027】
図2のグラフは、実施例1〜6、及び従来技術による比較例1〜3について、欧州規格EN1811に基づくニッケル溶出試験を行った結果を示している。この試験では、各試験片を所定の溶液に所定期間漬けておき、その間の単位面積あたりのニッケル溶出量を求めた。
この結果より、実施例1〜6では、比較例1〜3と比べてニッケル溶出量が顕著に少なく、全てがEN1811の基準値0.50μg/cm/weekを大幅に下回っている。加えて、装飾品業界の少なくとも一部では、0.28μg/cm/week以下であることを望ましい判定基準としているが、この判定基準値からも大きく下回っていることがわかる。
また、比較例1〜3は、実施例1〜6と比べてニッケル溶出量が顕著に大きく、3つのうち二つが基準値を上回っている。
また、実施例1〜3と、実施例4〜6とを比較すると、ニッケル溶出量に顕著な差がないことがわかる。
【0028】
また、図3は、上記比較例1〜3について、これらの表面の一部分を電子顕微鏡により観察した際の代表画像を示している。この画像より、比較例1〜3の表面には、突起状の異物(付着物)があることがわかる。
本願発明者らは、この異物について、電子顕微鏡を用いた周知の表面分析装置により、電子線照射時に放出される特性X線を利用した元素分析(エネルギー分散型X線分析)を行った。
この分析の結果、この異物には、上記金属ガラスの原材料には含まれない成分であって、且つ上記金型成形加工に用いた金型の原材料に含まれる成分(例えば鉄(Fe)等)が含まれていることがわかった。
【0029】
また、図4は、上記実施例1〜6について、これらの表面の一部分を電子顕微鏡により観察した際の代表画像を示している。この画像では、異物が観察されなかった。
【0030】
以上の結果より、比較品1〜3に観察された異物(図3)は、上記金型成形加工に用いた金型の一部が転写されたものであると考えられる。
また、実施例1〜6では、異物が研磨加工により除去されたものと考えられる。
【0031】
本願発明者らは、比較品1〜3では異物を起点とした腐食が進行して、ニッケルの溶出量が顕著に多くなるものと推定し、これに対し、実施例1〜6では異物が除去されているため、ニッケルの溶出量が顕著に少ないものと推定した。
【0032】
なお、本願発明者らは、異物による表面積の増加が、ニッケルの溶出量を多くする原因になるとも仮定した。しかしながら、研磨加工をした実施例1〜3と、ヘアライン加工により表面積を増加した実施例4〜6との比較において、ニッケル溶出量に顕著な差がないことから前記仮定は否定された。
【0033】
よって、本実施例によれば、金型成形加工に用いた金型の原材料を含む異物を起点として、腐食が進行するのを防ぐことができ、この結果として、裏蓋12の身体接触部12aからニッケルが溶出するのを抑制することができる。
【0034】
なお、上記実施例によれば、特に好ましい態様として、裏蓋12の全表面に除去加工を施すようにしたが、他例としては、裏蓋12の身体接触部12aのみに除去加工を施すようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施例によれば、ケース枠本体11及びバンド20については材質や表面処理方法等を特定しなかったが、他例としては、ケース枠本体11及び/又はバンド20についても、ニッケルを含む金属ガラスを原材料として金型成形した後、少なくとも身体接触部の表面に対し、上述した除去加工を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0036】
10:腕時計用ケース
11:ケース枠本体
12:裏蓋
12a:身体接触部
20:バンド
30:時計機構
A:腕時計
図1
図2
図3
図4