特許第6232568号(P6232568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6232568-蛍光X線分析装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232568
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
   G01N23/223
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-537853(P2017-537853)
(86)(22)【出願日】2016年8月26日
(86)【国際出願番号】JP2016075033
(87)【国際公開番号】WO2017038701
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2017年7月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-169543(P2015-169543)
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】原 真也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 尚
(72)【発明者】
【氏名】山田 康治郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 寿
(72)【発明者】
【氏名】片岡 由行
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−205080(JP,A)
【文献】 特開2002−340822(JP,A)
【文献】 特開2004−212406(JP,A)
【文献】 特開2000−310602(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0258890(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に1次X線を照射して発生する2次X線の強度を測定する走査型の蛍光X線分析装置であって、
分析対象試料に対応する検量線を作成するための複数の標準試料と、
定量分析条件として、あらかじめ、分析対象試料における分析対象元素ならびに標準試料における試料構成元素およびその含有率が設定される定量分析条件設定手段とを備え、
前記定量分析条件設定手段が、
標準試料について定性分析および定性分析結果に基づく定量分析である半定量分析を行い、あらかじめ設定された試料構成元素以外の元素を新規検出元素として検出し、
新規検出元素およびあらかじめ設定された試料構成元素についてファンダメンタルパラメーター法により蛍光X線の吸収励起に関する理論マトリックス補正係数を計算し、その理論マトリックス補正係数、新規検出元素の半定量分析値およびあらかじめ設定された試料構成元素の含有率に基づいて、分析対象元素の分析値に対する新規検出元素による蛍光X線の吸収励起の影響度を吸収励起影響度として計算して対応する所定の基準値と比較し、
あらかじめ記憶した重なり補正テーブルから分析対象元素の分析線に対する新規検出元素による妨害線の重なり補正係数を呼び出し、その重なり補正係数、新規検出元素の半定量分析値およびあらかじめ設定された試料構成元素の含有率に基づいて、分析対象元素の分析線に対する新規検出元素による妨害線の重なりの影響度を重なり影響度として計算して対応する所定の基準値と比較し、
前記吸収励起影響度および前記重なり影響度の少なくとも一方が、対応する所定の基準値よりも大きい場合に、定量分析条件として、当該新規検出元素を分析対象試料における分析対象元素として追加する蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
前記定量分析条件設定手段が、
新規検出元素の半定量分析値が所定の含有率よりも大きい場合に、定量分析条件として、当該新規検出元素を分析対象試料における分析対象元素として追加することなく、残分元素として設定する蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
前記定量分析条件設定手段が、
分析対象試料における分析対象元素として追加する新規検出元素については、定量分析条件として、あらかじめ記憶した装置感度定数を用いるファンダメンタルパラメーター法による定量演算条件を設定する蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2015年8月28日出願の特願2015−169543の優先権を主張するものであり、それらの全体を参照により本願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、試料に1次X線を照射して発生する2次X線の強度を測定する走査型の蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、試料に1次X線を照射して、試料から発生する蛍光X線等の2次X線の強度を測定し、その測定強度に基づいて、例えば試料における元素の含有率について定量分析を行う走査型の蛍光X線分析装置がある。このような装置においては、分析対象試料に対応する標準試料が備えられるとともに、定量分析条件として、あらかじめ、分析対象試料における分析対象元素ならびに標準試料における試料構成元素およびその含有率(化学分析値)が設定されており、標準試料を測定して検量線を作成し、分析対象試料の定量分析を行う。
【0004】
定量分析条件の設定に関連し、品種記憶手段、半定量分析手段、品種判定手段および定量分析手段を備えることにより、試料について、半定量分析結果に基づく試料の品種の判定、その判定した品種に適切な分析条件での定量分析が、自動的に行われる蛍光X線分析装置がある(特許文献1参照)。また、検量線を補正するための理論マトリックス補正係数を計算するにあたり、試料に対して適切な補正モデルが設定される蛍光X線分析装置がある(特許文献2参照)。これらの装置によれば、試料の品種に応じて定量分析条件の選択が自動的になされるので、熟練していない操作者でも正確な分析ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−340822号公報
【特許文献2】特開2013−205080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、標準試料に含有率が不明な元素が含まれていて、しかもその元素が含まれることで分析対象元素の分析が影響を受けて誤差を生じることがあり、そのような場合には、上述のような蛍光X線分析装置を用いても、試料の品種に応じた定量分析条件をあらかじめ設定する際に標準試料において含有率が不明な元素については考慮されていないことから、分析対象元素について正確な分析ができない。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、標準試料に含有率が不明な元素が含まれている場合でも、定量分析条件において分析対象元素の適切な追加が自動的になされ、正確な分析ができる走査型の蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、試料に1次X線を照射して発生する2次X線の強度を測定する走査型の蛍光X線分析装置であって、分析対象試料に対応する検量線を作成するための複数の標準試料と、定量分析条件として、あらかじめ、分析対象試料における分析対象元素ならびに標準試料における試料構成元素およびその含有率が設定される定量分析条件設定手段とを備えている。
【0009】
そして、前記定量分析条件設定手段が、標準試料について定性分析および定性分析結果に基づく定量分析である半定量分析を行い、あらかじめ設定された試料構成元素以外の元素を新規検出元素として検出し、新規検出元素およびあらかじめ設定された試料構成元素についてファンダメンタルパラメーター法(以下、FP法ともいう)により蛍光X線の吸収励起に関する理論マトリックス補正係数を計算し、その理論マトリックス補正係数、新規検出元素の半定量分析値およびあらかじめ設定された試料構成元素の含有率に基づいて、分析対象元素の分析値に対する新規検出元素による蛍光X線の吸収励起の影響度を吸収励起影響度として計算して対応する所定の基準値と比較する。
【0010】
さらに、前記定量分析条件設定手段が、あらかじめ記憶した重なり補正テーブルから分析対象元素の分析線に対する新規検出元素による妨害線の重なり補正係数を呼び出し、その重なり補正係数、新規検出元素の半定量分析値およびあらかじめ設定された試料構成元素の含有率に基づいて、分析対象元素の分析線に対する新規検出元素による妨害線の重なりの影響度を重なり影響度として計算して対応する所定の基準値と比較し、前記吸収励起影響度および前記重なり影響度の少なくとも一方が、対応する所定の基準値よりも大きい場合に、定量分析条件として、当該新規検出元素を分析対象試料における分析対象元素として追加する。
【0011】
本発明の蛍光X線分光装置によれば、標準試料の定性分析結果および半定量分析結果に基づいて、あらかじめ設定された試料構成元素以外の新規検出元素について、分析対象元素の分析値に対する蛍光X線の吸収励起影響度と、分析対象元素の分析線に対する妨害線の重なり影響度とから、分析対象元素として追加すべきか否かを判定する定量分析条件設定手段を備えているので、標準試料に含有率が不明な元素が含まれている場合でも、定量分析条件において分析対象元素の適切な追加が自動的になされ、正確な分析ができる。
【0012】
本発明の蛍光X線分光装置においては、前記定量分析条件設定手段が、新規検出元素の半定量分析値が所定の含有率よりも大きい場合に、定量分析条件として、当該新規検出元素を分析対象試料における分析対象元素として追加することなく、残分元素として設定することが好ましい。標準試料が例えば鉄鋼である場合、主成分である鉄は残分元素とすべきであって分析対象元素とすべきでない元素であるが、その鉄が新規検出元素として検出され得るので、この好ましい構成により、そのような新規検出元素を半定量分析値に基づいて分析対象試料における分析対象元素として追加することなく、残分元素として設定する。
【0013】
本発明の蛍光X線分光装置においては、前記定量分析条件設定手段が、分析対象試料における分析対象元素として追加する新規検出元素については、定量分析条件として、あらかじめ記憶した装置感度定数を用いるファンダメンタルパラメーター法による定量演算条件を設定することが好ましい。分析対象試料における分析対象元素として追加する新規検出元素についての定量演算方法としては、標準試料における追加した分析対象元素の含有率として半定量分析値を設定する検量線法もあるが、ゴニオメータを走査させて測定したX線強度に基づく半定量分析値の精度が今一つ十分でないところ、この好ましい構成によれば、あらかじめ記憶した装置感度定数を用いるファンダメンタルパラメーター法が適用され、ゴニオメータを固定して測定したX線強度に基づく、より精度の高い定量分析値を用いるので、全体としてより正確な分析ができる。
【0014】
請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成のどのような組合せも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲の各請求項の2つ以上のどのような組合せも、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきでない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一部分を示す。
図1】本発明の一実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
図2】同蛍光X線分析装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態の装置について、図にしたがって説明する。図1に示すように、この装置は、試料1,14に1次X線3を照射して発生する2次X線5の強度を測定する走査型の蛍光X線分析装置であって、試料1,14が載置される試料台2と、試料1,14に1次X線3を照射するX線管等のX線源4と、試料1,14から発生する蛍光X線等の2次X線5を分光する分光素子6と、その分光素子6で分光された2次X線7が入射され、その強度を検出する検出器8とを備えている。検出器8の出力は、図示しない増幅器、波高分析器、計数手段などを経て、装置全体を制御する制御手段11に入力される。
【0017】
この装置は、波長分散型でかつ走査型の蛍光X線分析装置であり、検出器8に入射する2次X線7の波長が変化するように、分光素子6と検出器8を連動させる連動手段10、すなわちいわゆるゴニオメータを備えている。2次X線5がある入射角θで分光素子6へ入射すると、その2次X線5の延長線9と分光素子6で分光(回折)された2次X線7は入射角θの2倍の分光角2θをなすが、連動手段10は、分光角2θを変化させて分光される2次X線7の波長を変化させつつ、その分光された2次X線7が検出器8に入射するように、分光素子6を、その表面の中心を通る紙面に垂直な軸Oを中心に回転させ、その回転角の2倍だけ、検出器8を、軸Oを中心に円12に沿って回転させる。分光角2θの値(2θ角度)は、連動手段10から制御手段11に入力される。
【0018】
この装置は、分析対象試料1に対応する検量線を作成するための、組成が相異なる複数の標準試料14を備えるとともに、定量分析条件として、あらかじめ、分析対象試料1における分析対象元素ならびに各標準試料14における試料構成元素およびその含有率が設定される定量分析条件設定手段13を制御手段11の一部として備えている。なお、分析対象試料1と標準試料14とを合わせて試料1,14という。
【0019】
定量分析条件設定手段13は、各標準試料14について定性分析および定性分析結果に基づく定量分析である半定量分析を行い、あらかじめ設定された試料構成元素以外の元素を新規検出元素として検出する。ここで、定性分析とは、所定の標準的な分析条件で広い波長範囲において2次X線5の強度を測定してスペクトルを得て、ピークの同定解析を行う分析のことをいい、例えば、ゴニオメータ10を走査させてFからUまで全元素のスペクトル測定を行い、測定したスペクトルから検出されたピークの同定解析を行う。半定量分析とは、定性分析で測定したX線強度に基づいて、各元素の含有率を定量する分析のことをいう。定量分析とは、ゴニオメータ10を固定して測定したX線強度に基づき、分析対象試料1に対応した検量線を用いて、またはあらかじめ記憶した装置感度定数を用いるファンダメンタルパラメーター法により、各元素の含有率を定量する分析のことをいう。
【0020】
また、定量分析条件設定手段13は、新規検出元素およびあらかじめ設定された試料構成元素についてファンダメンタルパラメーター法により蛍光X線の吸収励起に関する理論マトリックス補正係数を計算し、その理論マトリックス補正係数、新規検出元素の半定量分析値およびあらかじめ設定された試料構成元素の含有率に基づいて、分析対象元素の分析値に対する新規検出元素による蛍光X線の吸収励起の影響度を吸収励起影響度として計算して対応する所定の基準値と比較する。
【0021】
さらに、定量分析条件設定手段13は、あらかじめ記憶した重なり補正テーブルから分析対象元素の分析線に対する新規検出元素による妨害線の重なり補正係数を呼び出し、その重なり補正係数、新規検出元素の半定量分析値およびあらかじめ設定された試料構成元素の含有率に基づいて、分析対象元素の分析線に対する新規検出元素による妨害線の重なりの影響度を重なり影響度として計算して対応する所定の基準値と比較する。
【0022】
そして、定量分析条件設定手段13は、前記吸収励起影響度および前記重なり影響度の少なくとも一方が、対応する所定の基準値よりも大きい場合に、定量分析条件として、当該新規検出元素を分析対象試料1における分析対象元素として追加する。
【0023】
さらにまた、本発明の蛍光X線分析装置としては必須ではないが、本実施形態の蛍光X線分析装置では、定量分析条件設定手段13が、新規検出元素の半定量分析値が所定の含有率よりも大きい場合に、定量分析条件として、当該新規検出元素を分析対象試料1における分析対象元素として追加することなく、残分元素として設定する。
【0024】
さらにまた、本発明の蛍光X線分析装置としては必須ではないが、本実施形態の蛍光X線分析装置では、定量分析条件設定手段13が、分析対象試料1における分析対象元素として追加する新規検出元素については、定量分析条件として、あらかじめ記憶した装置感度定数を用いるファンダメンタルパラメーター法による定量演算条件を設定する。
【0025】
本実施形態の蛍光X線分析装置が備える定量分析条件設定手段13は、具体的には、図2のフローチャートに示したように動作する。なお、図2において、YESはY、NOはNと略記している。また、定量分析条件設定手段13には、定量分析条件として、あらかじめ、分析対象試料1における分析対象元素、各標準試料14における試料構成元素(分析対象試料1における分析対象元素を含む)およびその含有率、可能性のある分析線と妨害線の組み合わせごとに求められた理論強度による重なり補正係数の表である重なり補正テーブル、代表的な元素について純物質などを測定した測定強度とFP法による理論強度の比から求められた装置感度定数のライブラリである感度ライブラリなどが設定されている。
【0026】
まず、ステップS1において、各標準試料14について定性分析および定性分析結果に基づく定量分析である半定量分析を行う。次に、ステップS2において、半定量分析結果においてあらかじめ設定された試料構成元素以外の元素を検出していなければ、動作を終了し、検出していれば、その単数または複数の元素を新規検出元素として、ステップS3に進む。
【0027】
次に、ステップS3において、新規検出元素のうち、最大含有率の元素の半定量分析値が所定の含有率(例えば50%)よりも大きいか否かを判定する。これは、最大含有率の新規検出元素が主成分であるか否かの判定である。最大含有率の半定量分析値が所定の含有率以下である場合には、後述するステップS6に進み、最大含有率の半定量分析値が所定の含有率よりも大きい場合には、ステップS4に進む。次に、ステップS4において、定量分析条件として、当該新規検出元素を分析対象試料1における分析対象元素として追加することなく、残分元素として設定する。
【0028】
標準試料14が例えば鉄鋼である場合、主成分である鉄は残分元素とすべきであって分析対象元素とすべきでない元素であるが、その鉄がステップS2において新規検出元素として検出され得るので、ステップS3、S4により、そのような新規検出元素を半定量分析値に基づいて分析対象試料1における分析対象元素として追加することなく、残分元素としている。
【0029】
次に、ステップS5において、ステップS4で残分元素として設定した新規検出元素以外にまだ新規検出元素があるか否かを確認して、なければ動作を終了し、あればステップS6に進む。次に、ステップS6において、新規検出元素kおよびあらかじめ設定された試料構成元素i,jについてファンダメンタルパラメーター法により蛍光X線の吸収励起に関する理論マトリックス補正係数αik,αijを計算し、その理論マトリックス補正係数αik,αij、新規検出元素kの半定量分析値Wおよびあらかじめ設定された試料構成元素i,jの含有率W,Wに基づいて、分析対象元素iの分析値に対する新規検出元素kによる蛍光X線の吸収励起の影響度を、次式(1)により吸収励起影響度ΔW/Wとして計算する。
【0030】
ΔW/W=αik/(1+Σαij) …(1)
【0031】
なお、この計算においては、試料構成元素jにすべての新規検出元素kも含め、試料構成元素i,jの含有率W,W(新規検出元素kの半定量分析値Wを含む)については、基本的に複数の標準試料14における含有率、半定量分析値の平均値を用いるが、式(1)の吸収励起影響度ΔW/Wにおいて判定の対象となっている新規検出元素kの半定量分析値Wについては、複数の標準試料14における最大値を用い、それ以外の試料構成元素i,jの含有率W,W(判定の対象となっていない新規検出元素kの半定量分析値Wを含む)については、最大値を用いた半定量分析値Wとの合計含有率が100%(mass%、以下同様)になるように調整する。
【0032】
次に、ステップS7において、分析対象元素iごとに計算した吸収励起影響度ΔW/Wが、1つでも対応する所定の基準値よりも大きい場合、判定の対象となっている新規検出元素kについて影響ありとする。ここで、吸収励起影響度に対応する所定の基準値は、例えば、複数の標準試料14における分析対象元素iの平均含有率が0.1%よりも大きい場合は0.005とし、0.1%以下の場合は0.02とする。
【0033】
次に、ステップS8において、ステップS7で影響ありとされた場合には後述するステップS11へ進み、ステップS7で影響ありとされなかった場合には、ステップS9に進む。次に、ステップS9において、あらかじめ記憶した重なり補正テーブルから分析対象元素iの分析線に対する新規検出元素kによる妨害線の重なり補正係数γikを呼び出し、その重なり補正係数γik、新規検出元素kによる妨害線の理論強度および分析対象元素iの分析線の理論強度に基づいて、分析対象元素iの分析線に対する新規検出元素kによる妨害線の重なりの影響度を、次式(2)の重なり影響度γikとして計算する。
【0034】
γik …(2)
【0035】
ここで、分析対象元素iの分析線の理論強度、新規検出元素kによる妨害線の理論強度は、ステップS6で用いたのと同様の新規検出元素kの半定量分析値Wおよびあらかじめ設定された試料構成元素i,jの含有率W,Wに基づいて、FP法により計算される。
【0036】
次に、ステップS10において、分析対象元素iごとに計算した重なり影響度γikが、1つでも対応する所定の基準値よりも大きい場合、判定の対象となっている新規検出元素kについて影響ありとする。ここで、重なり影響度に対応する所定の基準値は、例えば、ステップS7での吸収励起影響度ΔW/Wに対応する所定の基準値と同様に、複数の標準試料14における分析対象元素iの平均含有率が0.1%よりも大きい場合は0.005とし、0.1%以下の場合は0.02とする。
【0037】
次に、ステップS11において、未判定の新規検出元素kが残っているか否かを確認し、残っていればステップS6に戻り、残っていなければステップS12に進む。次に、ステップS12において、定量分析条件として、影響ありとされた新規検出元素kを分析対象試料1における分析対象元素iとして追加して、動作を終了する。
【0038】
さて、分析対象元素iとして追加する新規検出元素kについては、標準試料14において既知の含有率(化学分析値)が設定されていないところ、分析対象試料1における定量演算方法としては、標準試料14における追加した分析対象元素iの含有率としてステップS1で求めた同元素(新規検出元素k)の半定量分析値Wを設定する検量線法もあるが、ゴニオメータ10を走査させて測定したX線強度に基づく半定量分析値Wの精度は今一つ十分でない。
【0039】
そこで、本実施形態の蛍光X線分析装置では、定量分析条件設定手段13が、ステップS12において、影響ありとされた新規検出元素kを分析対象試料1における分析対象元素iとして追加する際に、その新たな分析対象元素iについては、定量分析条件として、以下のような、あらかじめ記憶した装置感度定数kを用いるファンダメンタルパラメーター法による定量演算条件を設定する。この定量演算では、まず、次式(3)により、ゴニオメータ10を固定して測定したX線強度IMiを、あらかじめ設定された感度ライブラリから呼び出した装置感度定数kを用いて理論強度スケールに換算し、換算測定強度Miとする。
【0040】
Mi=kMi …(3)
【0041】
そして、次式(4)および(5)による繰り返し計算(逐次近似計算)を適切な収束条件で行う。ここで、iPは分析対象元素iが100%の純物質における理論強度、W(0) は初期含有率、W(n) はn回目の含有率、inは各元素のn回目の含有率による組成から計算した分析対象元素iについての理論強度、W(n+1) はn+1回目の含有率、つまり定量分析値である。
【0042】
(0) =100×MiiP …(4)
【0043】
(n+1) =W(n) ×Miin …(5)
【0044】
なお、式(4)および(5)による繰り返し計算と同時に、もともと定量分析条件に設定されていた分析対象元素iについては、検量線法の次式(6)および(7)による繰り返し計算が行われる。ここで、A,Bは検量線定数、αは理論マトリックス補正係数である。ただし、式(4)〜(7)においては重なり補正項を省略している。また、式(5)の繰り返し計算において、理論強度inを計算するための組成の一部として、もともと定量分析条件に設定されていた分析対象元素iについては、式(7)によるn回目の含有率W(n) が用いられ、一方、式(7)の繰り返し計算において、加補正成分の含有率W(n) として、追加された新たな分析対象元素iについては、式(5)によるn回目の含有率W(n) が用いられる。
【0045】
(0) =AIMi+B …(6)
【0046】
(n+1) =(AIMi+B)(1+Σα(n)) …(7)
【0047】
この構成によれば、追加された新たな分析対象元素iについては、あらかじめ記憶した装置感度定数kを用いるファンダメンタルパラメーター法が適用され、ゴニオメータ10を固定して測定したX線強度IMiに基づく、より精度の高い定量分析値W(n+1) を用いるので、全体としてより正確な分析ができる。
【0048】
以上のように、本実施形態の蛍光X線分光装置によれば、標準試料14の定性分析結果および半定量分析結果に基づいて、あらかじめ設定された試料構成元素以外の新規検出元素kについて、分析対象元素iの分析値に対する蛍光X線の吸収励起影響度ΔW/Wと、分析対象元素iの分析線に対する妨害線の重なり影響度γikとから、分析対象元素iとして追加すべきか否かを判定する定量分析条件設定手段11を備えているので、標準試料14に含有率が不明な元素が含まれている場合でも、定量分析条件において分析対象元素iの適切な追加が自動的になされ、正確な分析ができる。
【0049】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、添付の請求の範囲から定まるこの発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0050】
1 分析対象試料
3 1次X線
5 2次X線
13 定量分析条件設定手段
14 標準試料
図1
図2