特許第6232588号(P6232588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232588
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】加熱調理装置
(51)【国際特許分類】
   A47J 37/06 20060101AFI20171113BHJP
   A47J 27/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   A47J37/06 316
   A47J27/00 109P
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-256425(P2015-256425)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-118937(P2017-118937A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2016年12月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397029873
【氏名又は名称】株式会社大木工藝
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100143926
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 公敏
(74)【代理人】
【識別番号】100087664
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149504
【弁理士】
【氏名又は名称】沖本 周子
(72)【発明者】
【氏名】大木 武彦
【審査官】 宮崎 光治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−196056(JP,A)
【文献】 特開平09−142820(JP,A)
【文献】 特開平11−128084(JP,A)
【文献】 特開平11−192168(JP,A)
【文献】 実開平05−070424(JP,U)
【文献】 特開2015−047406(JP,A)
【文献】 特開2001−061649(JP,A)
【文献】 特開平10−248717(JP,A)
【文献】 特開平10−023974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 37/00−37/07
A47J 27/00−29/06
A47J 33/00−36/42
F24C 15/00−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱調理板を有した加熱調理装置において、
餃子を被調理物としており、
前記加熱調理板を上方より塞ぐ、炭素材料を主成分とした、前記加熱調理板とは別体の蓋体を有した構成とされており、
前記加熱調理板は、炭素材料を主成分とし、裏面にセラミック加工がなされ、表面にフッ素加工がなされており、
前記蓋体および前記加熱調理板に用いられる炭素材料は、炭素繊維強化炭素複合材料とされており、
前記加熱調理板の加熱温度を検知する温度検知部と、該温度検知部で検知した温度がフッ素樹脂層の加熱溶け出し温度を超えないように加熱制御する制御部とを備えたことを特徴とする加熱調理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記加熱調理装置の加熱後に、前記温度検知部が計測した温度にもとづいて、前記加熱制御部が加熱制御しながら、水の投入のタイミングと、焼上がりのタイミングを報知する構成にしている、加熱調理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理板を有した加熱調理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、炭素材料を含んだ釜を備えた炊飯器が種々提案されている(たとえば、特許文献1参照)。これらのものは、電磁誘導加熱に対応して、熱伝導性をよくすることを主たる目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−135883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、加熱調理装置として従来には、鉄板をガス等の火力で加熱して肉などを調理する鉄板焼き装置が一般に用いられているが、この鉄板に代えて炭素材料を用いた加熱調理板を有した装置は提案されていない。
【0005】
加熱調理板として従来使用していた鉄(鋳鉄)に代えて炭素材料を使用すれば、その熱伝導性により早く調理温度に達するため、調理時間を短縮できるものと予想される。したがって、たとえば飲食店で、このような炭素材料の加熱調理板を採用すれば、顧客に対してより迅速に料理を提供することができる。
【0006】
しかしながら、飲食店などの業務用の加熱調理板として炭素材料のものを用いれば、加熱速度や焼き具合が変わるため、調理人は炭素材料の加熱調理板での焼き加減を十分に把握して調理しなければならない。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、その目的は、加熱調理に要する時間を短縮できるとともに、調理人の負担を軽減できる加熱調理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の加熱調理装置は、餃子を被調理物としており、加熱調理板を有した加熱調理装置において、加熱調理板を上方より塞ぐ、炭素材料を主成分とした、加熱調理板とは別体の蓋体を有した構成とされており、加熱調理板は、炭素材料を主成分とし、裏面にセラミック加工がなされ、表面にフッ素加工がなされており、蓋体および前記加熱調理板に用いられる炭素材料は炭素繊維強化炭素複合材料とされており、加熱調理板の加熱温度を検知する温度検知部と、温度検知部で検知した温度がフッ素樹脂層の加熱溶け出し温度を超えないように加熱制御する制御部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2では、半自動式の加熱調理装置を提案している。この装置は、加熱調理装置の加熱後に、温度検知部が計測した温度にもとづいて、加熱制御部が加熱制御しながら、水の投入のタイミングと、焼上がりのタイミングを報知する構成となっている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の加熱調理装置によれば、上述の構成となっているため、種々の加熱調理に要する時間を短縮することができるので、加熱の効率がよく、加熱に必要な燃料の消費量を著しく軽減でき、温度調整など調理人の負担を軽減することができる。また、炭素成分が加熱されたときには遠赤外線を多量に出すので、被調理物の中身まで十分に照射して、美味しく仕上げることができる。さらに、フッ素加工がされているため、表面へのこびりつき、焦げつきを防止することができ、温度がフッ素の溶け出し温度を超えないように加熱制御されるため、表面が高温化して表面素材が気化することを防止することができる。また、セラミック加工がなされているため、耐熱性が向上し、耐用期間を長くすることができる。
【0014】
また、蒸し焼き装置などで使用する蓋体も炭素材料を主成分としているため、その蓋体を軽量にでき、調理人の負担を軽減することができる。
【0017】
さらに、餃子を焼き上げる際に、水を投入すべきタイミング、焼き上がりのタイミングが報知されるので、熟練の調理人でなくても、遠赤外線を十分に照射して美味しく焼き上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る加熱調理装置の説明図である。(a)は加熱調理板用の蓋体の斜視図、(b)は加熱調理板の斜視図である。
図2】(a)は加熱調理装置の使用状態を示す縦断面図、(b)加熱調理装置の分離状態を示す縦断面図である。
図3】本実施形態で加熱調理板として用いた炭素および従来用いていた鉄(鋳鉄)の特性比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面にもとづいて説明する。
【0020】
本加熱調理装置10は加熱調理板11を有した装置であり、その加熱調理板11は炭素材料を主成分としている。また、本加熱調理装置10は、加熱調理板11の加熱温度を検知する温度検知部24と、温度検知部24で検知した温度が所定の温度を超えないように加熱制御する制御部25とを備えている(図1および図2参照)。以下、詳細な構成について説明する。
【0021】
本実施形態の加熱調理装置10は、加熱調理板11に加えて、餃子G(図2(b)参照)を蒸し焼きできるように蓋体12を備えている(図1(a)(b)参照)。図2の説明において後述するが、この加熱調理装置10はガスの火力を用いて加熱調理板11を加熱して調理するもので、加熱調理板11はその底面がガスの直火により加熱される。
【0022】
図1(a)に示した加熱調理板11は、形状が浅底の凹部を有した矩形パン状とされ、調理板部11aと、四周の起立縁部11bとを備えている。なお、凹部の深さは餃子Gを並べて焼ける程度のものでよい。また、図1(b)に示した蓋体12は、加熱調理板11の起立縁部11bに載せ置けるほどの寸法を有した板状体とされ、蓋本体12aの上面には取っ手12bが取りつけてある。
【0023】
すくなくとも加熱調理板11の調理板部11aおよび蓋体12の蓋本体12aは、炭素材料を主成分としている。この炭素材料としては、黒鉛を原料とし、それを粉砕し、成型し、焼成して成形されたものである。成形品としては、成型の際に用いるフェノール樹脂などの結合材が残ったものでもよいし、焼成により結合材が消滅したものでもよい。
【0024】
また、炭素材料としては、全方向に熱が伝わる等方性高密度のものでもよいし、一方向に熱が伝わる異方性のものでもよい。また、強度にすぐれた炭素繊維強化炭素複合材料(CCコンポジット)を用いたものとしてもよい。加熱調理板11は下方より加熱され、調理板部11aの上面に置かれた餃子Gを焼くものであるから、熱は下部から上部に向けて伝わればよく、そのため異方性の炭素材料を用いることができる。
【0025】
この加熱調理装置10は、図2(a)(b)に示したように、加熱調理板11を設置できるガス加熱装置20を備えている。このガス加熱装置20は、加熱調理板11を載せ置くことのできる設置部21を有しており、内部の下方には複数本のガスバーナー22が配設されている。それらのガスバーナー22で、設置部21に載せ置いた加熱調理板11の裏面をまんべんなく加熱できるようになっている。なお、以下の種々の試験で用いたガス加熱装置20は、ノズル孔径が1.8mmのガスバーナー22を3本備えている。
【0026】
また、ガス加熱装置20は、載せ置いた加熱調理板11の裏面に接触するように配された温度検知センサー24(温度検知部24)と、温度検知センサーで検知した温度にもとづき火力を制御する温度コントローラ25(制御部25)とを備えている。
【0027】
温度コントローラ25は、ガスバーナー22のガス管(不図示)に取り付けられており、温度検知センサー24で検知した温度を監視して、加熱調理板11の温度があらかじめセットされた温度を超えないように、ガスバーナー22に対するガスの流通量の調節を行う構成となっている。
【0028】
上述したように、本加熱調理装置10の加熱調理板11は炭素材料で形成されているが、その凹部の内面(調理板部11aの上面および起立縁部11bの内面)はフッ素加工がなされ、裏面(火が当たる面)は耐熱対策としてセラミック加工がなされている。
【0029】
図3は、本実施形態で加熱調理板11として用いた炭素(等方性高密度炭素)および従来用いていた鉄(鋳鉄)の特性比較表である。この表からわかるように、炭素は鋳鉄にくらべ、軽量であり(比重が鋳鉄の約1/4)、重量あたりの温度上昇が大きく、熱が伝わりやすく、遠赤外線の放射性能が高く、温度が伝わりやすい。なお、CCコンポジットは比重が鋳鉄の約1/5で、さらに軽量である。
【0030】
具体的な熱の伝わりやすさは、熱伝導率を比較(130/40)して、鋳鉄の2.7倍であることがわかる。さらに、熱量を比較すると、
(1.8/7.28)×(0.7/0.435)=約0.4
と、鋳鉄にくらべ40%の熱量で昇温することがわかる。
【0031】
このような炭素材料による加熱調理板11を用いれば、餃子G(図2(b)参照)の焼き上がりまでの時間を短縮することができる。
【0032】
本発明者の試験によれば、本ガス加熱装置20を用いた場合(ノズル孔径が1.8mmの3本のガスバーナー22を使用)、餃子Gを焼くための適温220℃(水を投入するタイミング)までの到達時間が、鉄板で約10分であるのに対し、炭素材料の加熱調理板11では約4分であった。また、水を投入してから餃子Gを焼き上げるまでの時間は、鉄板で約8.5分であるのに対し、炭素材料の加熱調理板11では約3.5分であった。
【0033】
このように、本加熱調理板11を用いることで、餃子Gの焼き上がりまでの時間を大幅に短くすることができる。これは、熱伝導率の差のみならず、炭素材料の遠赤外線の放射によることも起因している。
【0034】
また、炭素材料の加熱調理板11を用いて、調理速度の向上とガス使用量の削減の両方を考慮して、ガスバーナー22の本数を少なくしてもよいし、ノズル孔径を小さくしてもよい。
【0035】
本発明者の試験によれば、ノズル孔径を1.8mmから1.3mmに変更し、ガスバーナー22の本数を3本から2本にした場合、ガス使用量が52%削減できた。また、ノズル孔径を1.8mmから1.5mmに変更し、ガスバーナー22の本数を3本から2本にした場合、ガス使用量が44%削減できた。
【0036】
なお、ノズル孔径を1.8mmから1.5mmに変更し、ガスバーナー22の本数を3本から2本にした場合では、220℃までの到達時間は約7分、水を投入してから餃子Gを焼き上げるまでの時間は約5.5分であり、上述した、ノズル孔径を1.8mm、ガスバーナー22の本数を3本とした場合の鉄板での各時間よりも短かった。
【0037】
また、温度の伝わりやすさもよいため、内面温度のばらつきが小さく、均一な焼き上がりとなる。よって、寸法の大きい業務用の加熱調理板として好適に使用することができる。炭素材料は熱による変形もほとんどなく、大型の加熱調理板11に適している。
【0038】
このように炭素材料による加熱調理板11を用いれば、餃子Gの焼き上がりまでの時間を大幅に短縮できるが、その短縮時間は、ガス加熱装置20の火力の調整により加減することができ、適切な時間に調整すればよい。
【0039】
また、餃子Gを焼く場合には約220℃で水を投入することが望ましく、さらに220℃を超えて焼くと焦げすぎとなるおそれもあるため、220℃超となるタイミングを計るために、本実施形態のもののように、ガス加熱装置20に温度検知センサー24と、温度コントローラ25とを搭載しておくことが望ましい。なお、加熱調理板11の表面のこびりつき、焦げつき防止のために加工されたフッ素樹脂層が加熱により溶け出さないように、温度検知センサー24と、温度コントローラ25とで加熱制御するようにしてもよい。
【0040】
さらに、炭素材料は鉄にくらべ軽量であるため取り扱いがしやすい。特に、本加熱調理装置10は蒸し焼き装置であり蓋体12を備えており、その蓋体12も炭素材料で形成されているため軽量化でき、非力な女性でも蓋体12の上げ下ろしを楽に行うことができる。
【0041】
また、味覚検査によれば、餃子Gの味については、鉄板のものとほとんど変わらなかった。むしろ、本加熱調理装置で蒸し焼きした場合、鉄板を使用した場合よりも餃子Gの中に肉汁が多く溜まることが確認できた。これは、炭素による遠赤外線の餃子Gの内部への放射効果によるものと想定される。
【0042】
以上の知見にもとづいて、本発明者は被調理物を餃子とした半自動式の加熱調理装置を開発した。
【0043】
この装置の構成は図示しないが、加熱調理装置を加熱した後に、温度検知部が計測した温度にもとづいて、加熱制御部を制御しながら、水の投入のタイミングと、焼上がりのタイミングを報知でき、マイコンと調理プログラムを内蔵しており、電源が投入され、調理プログラムが稼働され、調理装置が加熱されると、温度検知部が水の投入に最適な温度に達したときに、そのタイミングをブザーで報知し、調理中はランプを点灯し、さらに焼き上がり温度に達すると、ランプを点滅し、ブザーを鳴らして報知する構成となっている。
【0044】
この半自動式の加熱調理装置によれば、熟練の調理人でなくても、遠赤外線を十分に照射した、ジューシーで美味しい餃子を、短時間で焼き上げることができるので、業務用の加熱調理装置として採用すれば、燃料費も軽減でき、すこぶる有益である。
【0045】
半自動式の加熱調理装置はさらに、温度検知部と、温度制御部とを用いて、加熱調理板のフッ素樹脂層が加熱により変化する温度に達したときに加熱を強制停止する構成としてもよい。
【0046】
このような半自動加熱調理装置は、餃子用だけではなく、被調理物を替えれば加熱調理板を有した種々の調理装置に適用が可能である。たとえば、加熱調理板をテーブル面に嵌めこんだお好み焼き用の加熱調理装置にも適用できる。飲食店に設置されているお好み焼きテーブルは客が調理することがあるため、温度検知センサー24と、温度コントローラ25とにより加熱温度の上がりすぎを防止することができる。
【0047】
以上の実施形態の加熱調理装置10はガスを燃料としたものであるが、ガス加熱装置20に代えて、他の燃料による加熱装置を用いてもよい。たとえば、電熱器具を用いてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 加熱調理装置
11 加熱調理板
11a 調理板部
11b 起立縁部
12 蓋体
20 ガス加熱装置
21 設置部
22 ガスバーナー
24 温度検知部(温度検知センサー)
25 制御部(温度コントローラ)

図1
図2
図3