(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0010】
(実施例1)
まず、実施例1のハイブリッド車両の制御装置の構成を、「ハイブリッド車両の全体システム構成」、「車両制御システムの構成」、「車両制御処理の構成」に分けて説明する。
【0011】
[ハイブリッド車両の全体システム構成]
図1は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたハイブリッド車両を示す全体システム図である。以下、
図1に基づき、実施例1のハイブリッド車両の全体システム構成を説明する。
【0012】
実施例1におけるハイブリッド車両Sは、後輪駆動によるFRハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)である。このFRハイブリッド車両Sの駆動系は、
図1に示すように、エンジンEngと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、変速機入力軸INと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0013】
前記エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、車両制御部1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御やフューエルカット制御等が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWを介して第1クラッチCL1が接続されている。
【0014】
前記第1クラッチCL1は、前記エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの間に介装されたクラッチであり、車両制御部1からの制御指令に基づいて図示しない油圧ユニットにより作り出された第1クラッチ制御油圧により、締結・スリップ締結・開放が制御される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて完全締結を保ち、ピストンを有する油圧アクチュエータを用いたストローク制御により、完全締結〜スリップ締結〜完全開放までが制御されるノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。なお、この第1クラッチCL1は、モータ/ジェネレータMGのみを走行駆動源とする電気自動車モードと、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの双方を走行駆動源とするハイブリッド車モードと、を切り替えるモード切り替え手段となっている。
【0015】
前記モータ/ジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータ/ジェネレータであり、車両制御部1からの制御指令に基づいて、インバータ2により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータ/ジェネレータMGは、バッテリ3からの電力の供給を受けて回転駆動し、エンジンEngの始動や左右後輪RL,RRの駆動を行う電動機として動作することもできる(以下、この動作状態を「力行」という)し、ロータがエンジンEngや左右後輪RL,RRから回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ3を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」という)。なお、このモータ/ジェネレータMGのロータは、自動変速機ATの変速機入力軸INに連結されている。
【0016】
前記第2クラッチCL2は、前記モータ/ジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、車両制御部1からの制御指令に基づいて図示しない油圧ユニットにより作り出された第2クラッチ制御油圧により、締結・スリップ締結・開放が制御される。この第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。
【0017】
前記自動変速機ATは、モータ/ジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装され、例えば、前進7速/後退1速等の有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り替える有段変速機である。この自動変速機ATの変速機出力軸には、プロペラシャフトPSが連結されている。そして、このプロペラシャフトPSは、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
なお、実施例1では、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、トルク伝達経路に配置されると共に所定の条件に適合する最適な摩擦係合要素(クラッチやブレーキ)を選択し、第2クラッチCL2としている。すなわち、前記第2クラッチCL2は、自動変速機ATとは独立の専用クラッチとして新たに追加したものではない。
【0018】
そして、このFRハイブリッド車両Sは、駆動形態の違い、つまり走行駆動源の違いによる走行モードとして、電気自動車モード(以下、「EVモード」という)と、ハイブリッド車モード(以下、「HEVモード」という)と、を有する。
【0019】
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、エンジンEngを停止してモータ/ジェネレータMGの駆動力のみで走行するモードである。この「EVモード」は、モータ走行モード・回生走行モードを有する。この「EVモード」は、要求駆動トルクが低く、バッテリ3の充電残量(以下、「バッテリSOC(State Of Chargeの略)」という)が確保されているときに選択される。
【0020】
前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの双方の駆動力で走行するモードである。この「HEVモード」は、モータアシスト走行モード・発電走行モード・エンジン走行モード・を有する。この「HEVモード」は、要求駆動トルクが高いとき、あるいは、バッテリSOCが不足するようなときに選択される。
【0021】
[車両制御システムの構成]
実施例1におけるFRハイブリッド車両(自車両)Sの車両制御システムは、
図1に示すように、車両制御部1と、インバータ2と、バッテリ3と、ナビゲーションシステム4と、通信ユニット5と、を有して構成されている。
【0022】
前記車両制御部1は、マイクロコンピュータとその周辺部品や各種アクチュエータなどを備え、エンジンEngの回転速度や出力トルク、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の締結・スリップ締結・開放、モータ/ジェネレータMGの回転速度や出力トルク、自動変速機ATの変速段などを制御する。また、この車両制御部1は、記憶部11と、確率分布演算部12と、予測部13と、制御部14と、を有している。
【0023】
前記記憶部11は、複数の走行区間に区分された所定の走行経路を走行したときの各走行区間における自車両の車速データ(走行データ)を保存するデータ保存手段に相当する。
すなわち、この記憶部11には、自車両が過去に走行した走行区間における車速を、各走行区間と関連付けて記憶する。
【0024】
前記確率分布演算部12は、記憶部11に保存された走行データから、所定経路における複数の走行区間のうちの第1の走行区間での第1車速データに対する、この複数の走行区間のうちの第2の走行区間での第2車速データの関連を確率分布で求める確率分布演算手段に相当する。
ここで、「第1の走行区間」とは、複数の走行区間のうちの任意の区間であり、ここでは全区間を対象とする。また、「第2の走行区間」とは、第1の走行区間よりも先にある走行区間であり、ここでは第1の走行区間に設定した区間の次の区間とする。
【0025】
さらに、この確率分布演算部12によって第1車速データに対する第2車速データの関係を確率分布で求める際、第1車速データには、複数の車速域が設定されている。具体的には、ゼロkm/h〜40km/h未満の車速域と、40km/h〜60km/h未満の車速域と、60km/h〜80km/h未満の車速域と、80km/h以上の車速域である。
また、前記第2車速データには、第1車速データと同一の複数の車速域が設定されている。具体的には、ゼロkm/h〜40km/h未満の車速域と、40km/h〜60km/h未満の車速域と、60km/h〜80km/h未満の車速域と、80km/h以上の車速域である。
そして、この確率分布演算部12では、「第1の走行区間」における各車速域のそれぞれから、次区間である「第2の走行区間」における各車速域に対する確率分布を演算する。なお、「第1の走行区間」は全区間を対象としているので、各区間、各車速域において次区間の車速域への確率分布が演算される。演算された確率分布は、
図2に示す確率分布マップで示される。
【0026】
前記予測部13は、所定の走行経路を走行する際、確率分布演算部12により求めた確率分布を用いて、予定走行区間での予測車速データ(予測走行データ)を演算するデータ予測手段に相当する。
すなわち、この予測部13では、
図2に示す確率分布マップを用いて、将来走行する予定の走行区間における車速データを求める。このとき、まず、
図3に示すように、現在FRハイブリッド車両Sが走行中の走行区間(以下、「現走行区間n」という)では、車速センサ6からの車速情報に基づいて、現走行区間nでの走行車速域(ここでは、ゼロkm/h〜40km/h未満の車速域Pn)を設定する。
そして、現走行区間nの次の区間(以下、「次区間n+1」という)では、現走行区間nにおいて設定した走行車速域Pnから、次区間n+1の各車速域への確率分布のうち、最も高確率となる車速域(ここでは、60km/h〜80km/h未満の車速域Pn+1)を、次区間n+1での予測車速域とする。
次に、この次区間n+1の次の区間(以下、「次次区間n+2」という)では、次区間n+1において設定した予測車速域Pn+1から、次次区間n+2の各車速域への確率分布のうち、最も高確率となる車速域(ここでは、60km/h〜80km/h未満の車速域Pn+2)を、次次区間n+2での予測車速域とする。
さらに、この次次区間n+2の次の区間(以下、「第3区間n+3」という)では、次次区間n+2において設定した予測車速域Pn+2から、第3区間n+3の各車速域への確率分布のうち、最も高確率となる車速域(ここでは、40km/h〜60km/h未満の車速域Pn+3)を、第3区間n+3での予測車速域とする。
以下、これを繰り返し、予定走行区間n+αでの予測車速データ(ここでは、予測車速域)を求める。
【0027】
また、この予測部13では、FRハイブリッド車両Sの現在の車速データが、当該走行区間での確率分布のうち最も高確率になる走行データと異なるときには、このFRハイブリッド車両Sの現在の車速データを用いて、予定走行区間での予測車速域を演算する。
つまり、予定走行区間n+αでの予測車速域を確率分布マップのみから求める場合では、上述のように、次次区間n+2において、予測車速域を60km/h〜80km/h未満の車速域Pn+2に設定している。しかしながら、FRハイブリッド車両Sが次次区間n+2を実際に走行したとき、100km/hで走行したとする。そのため、予定走行区間n+αでの予測車速域(予測車速データ)を求める際に、
図4に示すように、次次区間n+2での走行車速域を80km/h以上の車速域Pn+2´に変更する。なお、この実車速は、車速センサ6によって検出する。
そして、この次次区間n+2の次の区間(以下、「第3区間n+3」という)では、次次区間n+2において設定した車速域Pn+2´から、第3区間n+3の各車速域への確率分布のうち、最も高確率となる車速域(ここでは、80km/h未満の車速域Pn+3´)を、第3区間n+3での予測車速域とする。
以下、上述の通り確率分布を用いて、予定走行区間n+αでの予測車速データ(予測車速域)を求める。
【0028】
前記制御部14は、後述する車両制御処理を実行し、予測部13により予測された予定走行区間n+αでの予測車速データ(予測車速域)に基づき、FRハイブリッド車両Sのパワートレイン制御(ここでは走行モードのスケジューリング)を行うパワートレイン制御手段に相当する。
【0029】
さらに、この車両制御部1には、車速センサ6からの車速情報や、バッテリSOCを常時監視するSOC監視部7からのバッテリSOC情報が入力される
【0030】
前記ナビゲーションシステム4は、記憶部4aと、演算部4bと、ディスプレイ(不図示)と、を有している。
前記記憶部4aは、道路曲率半径、勾配、交差点、信号、踏み切り、横断歩道、制限速度、料金所等の道路環境情報を含む地図情報を記憶している。
前記演算部4bは、衛星からの信号を受信し、このFRハイブリッド車両Sの地球上の絶対位置を検出する。そして、記憶部4aに記憶されている地図を参照し、現在FRハイブリッド車両Sが存在している位置(現在地)を特定すると共に、この現在地から目的地までの予定走行経路と、その予定走行経路における走行区間を設定する。この予定走行経路及びその経路上の走行区間は、車両制御部1に入力される。また、不図示のディスプレイは、車室内に設けられ、ドライバーから目視可能となっている。
【0031】
前記通信ユニット5は、車両制御部1に接続されると共に、図示しない無線基地局及びインターネット等の通信ネットワークを介して、交通情報や統計交通データを有するデータセンタ8との無線通信(テレマティクス通信)を行う。この「通信」は双方向であり、通信ユニット5を介して、車両制御部1の制御部14からデータセンタ8へと情報を送信することや、通信ユニット5を介して、データセンタ8から情報を受信して車両制御部1の確率分布演算部12へ入力することが可能である。
なお、前記通信ユニット5としては、携帯電話機、DSRC、無線LANなど様々なものを採用することができる。
【0032】
[車両制御処理の構成]
図5は、実施例1の車両制御部にて実行される車両制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、車両制御処理内容を示す
図5のフローチャートの各ステップについて説明する。
【0033】
ステップS1では、ナビゲーションシステム4により現在地から目的地までの予定走行経路を設定し、ステップS2へ移行する。
ここで、この予定走行経路の設定は、まず、ドライバーが手動操作によってナビゲーションシステム4に目的地を入力する。そして、ナビゲーションシステム4では、入力された目的地情報と、衛星からの信号に基づいて検出した現在地情報と、記憶部4aに記憶された地図情報に基づいて複数の走行経路を検索し、車室内に設けられたディスプレイに表示する。そして、ドライバーは検索された走行経路から予定走行経路を選択して設定する。なお、設定された予定走行経路は、車両制御部1及び通信ユニット5を介してデータセンタ8へと送信される。
【0034】
ステップS2では、ステップS1での予定走行経路の設定に続き、通信ユニット5を介して、データセンタ8から予定走行経路上の統計交通データを取得し、ステップS3へ移行する。
ここで、「統計交通データ」とは、データセンタ8において設定されたノードと呼ばれる道路上の基準位置間隔ごとに決められた車速データである。また、取得する統計交通データは、予め設定した自車両と同一又は類似の車種のデータに限定される。
【0035】
ステップS3では、ステップS2での統計交通データの取得に続き、設定された予定走行経路を複数の区間に区分する。さらに、区分した各区間、複数の車速域のそれぞれにおいて次区間の車速域への確率分布を、取得した統計交通データと記憶部11に記憶した各区間の車速データをもとに演算し、ステップS4へ移行する。
つまり、このステップS3では、予定走行経路を複数の走行区間に区分すると共に、
図2に示すような確率分布マップを求める。
なお、この走行区間の区分は、FRハイブリッド車両Sが取得可能な経路区分に必要な様々なLINK情報に基づいて設定される区分基準位置によって走行経路を分けることで行う。
【0036】
ステップS4では、ステップS3での予定走行経路の区分及び確率分布の演算に続き、この確率分布を用いて予定走行区間n+αでの予測車速域(予測車速データ)を推定し、ステップS5へ移行する。
ここで、予測車速域の推定とは、予測部13によって実行される。このとき、ステップS3にて求めた確率分布のうち、最も高確率になる車速域が当該走行区間での予測車速域とすることを用いて、予定走行区間n+αでの予測車速域を推定する。しかしながら、当該走行区間を走行したときの実際の車速データが確率分布から求めた予測車速域と異なる場合(後述するステップS7においてNOと判断された場合)には、実際の車速データが該当する車速域を当該走行区間での車速域に修正し、予定走行区間n+αでの予測車速域を演算する。
【0037】
ステップS5では、ステップS4での予測車速域の推定に続き、予定走行区間n+αにおけるパワートレイン制御計画を演算し、ステップS6へ移行する。
なお、「パワートレイン制御計画」とは、ここでは、FRハイブリッド車両Sの走行モードのスケジューリングであり、予定走行区間n+αにおける走行モードを設定する。
【0038】
ステップS6では、ステップS5でのパワートレイン制御計画の演算に続き、FRハイブリッド車両Sが所定の走行区間を実際に走行した際の区間情報(車速情報やSOC情報等)に基づいて、現在走行している走行区間におけるパワートレイン制御を変更し、ステップS7へ移行する。このパワートレイン制御の変更は、まず、計画において走行モードを「EVモード」に設定した場合に、そのときのモータ出力最大値「EVモード」が実現できるように設定する。そして、実際に走行した時点でのバッテリSOCと、設定したモータ出力最大値を比較し、実際の走行モードを設定(計画に対して変更或いは継続)する。
【0039】
ステップS7では、ステップS6でのパワートレイン制御の変更に続き、このパワートレイン制御を変更した走行区間(現在走行している区間)における実際の車速が該当する車速域が、確率分布を用いて設定した予測車速域と異なるか否かを判断する。YES(予測値=実値)の場合は、予定走行区間n+αでの予測車速域に変更はないとしてステップS8へ進む。NO(予測値≠実値)の場合は、予定走行区間n+αでの予測車速域に変更ありとして、ステップS4へ戻る。
【0040】
ステップS8では、ステップS7での当該走行区間での予定値と実値に差がないとの判断に続き、FRハイブリッド車両Sが目的地に到達したか否かを判断する。YES(目的に到着)の場合には、エンドへ移行し、この車両制御処理を終了する。NO(目的地に未到着)の場合には、ステップS4へ戻る。
ここで、目的地に到着したか否かの判断は、ナビゲーションシステム4によって、衛星からの信号に基づいて検出した現在地情報から判断する。
【0041】
次に、作用を説明する。
まず、比較例のハイブリッド車両の制御装置の車速推定構成とその課題を説明し、続いて、実施例1のハイブリッド車両の制御装置における車両制御作用を説明する。
【0042】
[比較例のハイブリッド車両の制御装置の車速推定構成とその課題]
図6は、比較例の制御装置での各走行区間での予測車速域を示す予測車速マップである。以下、
図6に基づき、比較例のハイブリッド車両の制御装置における車速推定構成とその課題について説明する。
【0043】
比較例の制御装置では、予定走行区間n+αでの予測車速域を推定する際、まず、予定走行経路を設定すると共に、設定した予定走行経路を複数の走行区間に区分する。そして、区分した各走行区間における統計交通データ(車速データ)を、データセンタ8から取得する。また、区分した各走行区間における自車両に記憶しておいた車速データを読み出す。そして、各走行区間ごとに車速データの平均値を求め、当該走行区間における予測車速域とする。
【0044】
すなわち、比較例の制御装置では、各走行区間ごとに推定される予測車速域は固定値であり、各走行区間ごとに個別に演算され、隣接する走行区間における車速データの影響は受けない。
【0045】
そのため、実際に所定の走行区間を走行した際に、統計交通データ等から演算した予測車速域に対して、実際の車速が異なった値になったとしても、この予測車速域と実値とのずれを、将来走行する予定走行区間の車速域の推定に反映することはできない。
つまり、ある走行区間での走行データと、それよりも先にある他の走行区間での走行データとの関係は考慮されず、予定走行区間の走行データの予測精度が低くなってしまうという問題が生じていた。
【0046】
[車両制御作用]
実施例1のFRハイブリッド車両Sでは、自車両がすでに走行した経路(走行済み経路)における車速データ(走行データ)は、車両制御部1の記憶部11に記憶される。また、他車両がすでに走行した経路(走行済み経路)における車速データは、データセンタ8に記憶される。
そして、ある経路(予定走行経路)を走行することが設定されると、
図5に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進み、予定走行経路を区分して設定された複数の走行区間のそれぞれにおける車速データの関係を確率分布で求める(
図2に示す確率分布マップを設定する)。
【0047】
ここで、複数の走行区間のそれぞれにおける車速データの関係を確率分布で求める際に、自車両であるFRハイブリッド車両Sが有する記憶部11に記憶した自車両の車速データだけでなく、通信ユニット5を介して取得するデータセンタ8に記憶された他車両の車速データをも用いている。
そのため、サンプル数の増加に伴って、確率分布の精度を向上することができる。
【0048】
そして、ステップS4へと進み、各走行区間、各車速域に対する次区間の確率分布(
図2に示す確率分布マップ)を用いて、予定走行区間n+αでの予測車速域を求める。つまり、
図3に示すように、ある走行区間(たとえば次区間n+1)における所定の車速域(Pn+1)を基準にして、当該走行区間の次の走行区間(次次区間n+2)における複数の車速域のうち、最も発生確率が高い車速域(Pn+2)を次の走行区間(次次区間n+2)での予測車速域とする。これを繰り返し、予定走行区間n+αにおける予測車速域を求める。
【0049】
これにより、当該区間での車速域と次の走行区間での車速域との関係(当該区間での車速域に対する次区間での所定車速域の起こりやすさ)を考慮して、予定走行区間n+αにおける予測車速域を推定することができる。そのため、予定走行区間n+αでの予測車速域の予測精度を、所定地点での単なる統計データに基づいて予定車速域を求める比較例の制御装置における予測精度と比べて向上することができる。
【0050】
そして、ステップS5へと進み、確率分布を用いて求めた予定走行区間n+αにおける予測車速域に基づいて、この予定走行区間n+αにおけるパワートレイン制御計画を演算する。
このとき、予定走行区間n+αにおける予測車速域の予測精度が高いので、パワートレイン制御計画も自車両に適したものとすることができ、燃料消費量の低減、電気消費量の低減、運転性の改善、排気量の低減等を図ることができる。
【0051】
しかも、実施例1では、ステップS6へと進んで、実際に走行している走行区間では当該走行区間での区間情報をもとにパワートレイン制御を変更する。そして、ステップS7へと進んで、実際の車速と当該走行区間における予測車速域との差があれば、ステップS4に戻って、この実際の車速が該当する車速域を当該走行区間における車速域に設定し、この新たに設定された車速域に基づいて予定走行区間n+αでの予測車速域を再度演算する。
つまり、
図4に示すように、所定の走行区間(ここでは、次次区間n+2)における予測車速域が、確率分布から求めたときにはPn+2であったが、実際に当該走行区間(次次区間n+2)を走行した際の車速に基づいて、当該走行区間(次次区間n+2)での車速域をPn+2´に変更する。そして、この変更した車速域Pn+2´を基準にして、さらに次の区間(第3区間n+3)における予測車速域を求め、最終的に予定走行区間n+αでの予測車速域を求める。
【0052】
これにより、実際に走行している走行区間において、確率分布で求めた予測車速域と実際の車速データとがずれた場合であっても、その時点の車速データに応じて将来の予測車速域を修正することができる。このため、予定走行区間n+αでの予測車速域の予測精度をさらに向上することができる。
【0053】
さらに、実施例1では、上述の通り、確率分布を求める際に自車両の車速データだけでなく、他車両の車速データも用いている。このため、車速データ数が増加し、確率分布の精度を向上することができる。そして、この高精度の確率分布を用いることで、予定走行区間n+αの予測車速域の予測精度をさらに向上することができる。
【0054】
なお、実施例1では、FRハイブリッド車両Sの車速データに基づいて、このFRハイブリッド車両Sのパワートレイン制御を行っている。つまり、パワートレイン制御に利用する走行データを、車速データとしている。そのため、データの取得や予測を精度よく容易に行うことができ、パワートレイン制御を自車両にさらに適したものとすることができる。
【0055】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0056】
(1) 走行駆動源としてエンジンEng及びモータ/ジェネレータ(モータ)MGを備えたFRハイブリッド車両Sに搭載され、
複数の走行区間(n〜n+α)に区分された所定の走行経路を走行したときの各走行区間における自車両の走行データ(車速データ)を保存するデータ保存手段(記憶部)11と、
前記データ保存手段(記憶部)11に保存された走行データ(車速データ)から、前記複数の走行区間(n〜n+α)のうちの第1の走行区間(現走行区間n)での第1走行データに対する、前記複数の走行区間(n〜n+α)のうちの前記第1の走行区間(現走行区間n)より先にある第2の走行区間(次区間n+1)での第2走行データの関連を確率分布(確率分布マップ
図2)で求める確率分布演算手段(確率分布演算部)12と、
前記所定の走行経路を走行する際、前記確率分布演算手段(確率分布演算部)12により求めた前記確率分布(確率分布マップ
図2)を用いて、前記自車両(FRハイブリッド車両)Sが将来走行する予定走行区間n+αでの予測走行データを演算するデータ予測手段(予測部)13と、
前記データ予測手段(予測部)13により予測された予測走行データに基づき、前記自車両(FRハイブリッド車)Sのパワートレイン制御を行うパワートレイン制御手段(制御部)14と、
を備える構成とした。
これにより、予定走行区間における自車両の走行状態を精度良く予測し、適切なパワートレイン制御を行うことができる。
【0057】
(2) 前記確率分布演算手段(確率分布演算部)12は、前記複数の走行区間(n〜n+α)の各区間に設定された複数の走行データ(車速域)のそれぞれにおいて、次の区間に設定された複数の走行データ(車速域)に対する確率分布を求め、
前記データ予測手段(予測部)13は、前記確率分布のうち、最も高確率になる走行データを用いて、前記予測走行データを演算する構成とした。
これにより、(1)の効果に加え、予定走行区間における自車両の走行状態を容易に予測することができる。
【0058】
(3) 前記データ予測手段(予測部)13は、前記自車両(FRハイブリッド車)Sの現在の走行データ(車速データ)が前記確率分布のうち最も高確率になる走行データと異なるときには、前記自車両(FRハイブリッド車)Sの現在の走行データ(車速データ)を用いて、前記予測走行データを演算する構成とした。
これにより、(2)の効果に加え、実際の走行データに応じて、予定走行区間における自車両の走行状態の予測結果を修正することができる。
【0059】
(4) 前記複数の走行区間(n〜n+α)に区分された所定の走行経路を走行したときの各走行区間における自車両(FRハイブリッド車)S以外の車両の走行データを保存するデータセンタ8から、前記走行データ(車速データ)を取得する通信手段(通信ユニット)5を備え、
前記データ予測手段(予測部)13は、前記データ保存手段(記憶部)11に保存された走行データ(車速データ)に加え、前記通信手段(通信ユニット)5を介して取得した前記自車両(FRハイブリッド車両)S以外の他の車両の走行データ(車速データ)から、前記第1走行データに対する、前記第2走行データの関連を確率分布(確率分布マップ
図2)で求める構成とした。
これにより、(1)から(3)のいずれかの効果に加え、確率分布を求める際に用いる走行データ数が増加し、確率分布の精度を向上することができる。
【0060】
(5) 前記走行データを、車速データとする構成とした。
これにより、(1)から(4)のいずれかの効果に加え、データの取得や予測を精度よく容易に行うことができ、パワートレイン制御を自車両にさらに適したものとすることができる。
【0061】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0062】
実施例1では、通信ユニット5を介してデータセンタ8から他車両の車速データを取得する例を示したが、これに限らない。
図7に示すように、通信ユニットを有さず、記憶部11に記憶した自車両の車速データによって確率分布を演算する構成であってもよい。
この場合では、外部からの通信情報で統計交通データを取得する必要がなくなるため、通信ユニット5が不要となり、安価な構成とすることができる。
【0063】
また、実施例1では、走行データとして「車速データ」とする例を示したが、例えば、加速度、エネルギー消費量、燃料消費量、アクセル操作、ブレーキ操作等のドライバ操作量等、走行に応じて変化する車両の状態を示すデータであればよい。
【0064】
そして、確率分布を演算する際に設定する第1の走行区間と第2の走行区間は、実施例1では隣接する区間同士としたが、これに限らない。例えば、第1の走行区間として所定の区間nを設定し、第2の走行区間としてこの所定区間nよりも数区間先の走行区間n+2を設定してもよい。
さらに、区間nに対して区間n+1と区間n+3の走行データの関係を求めるようにしてもよい。
【0065】
そして、確率分布の演算精度は、データ数が増加するほど精度が高くなる特性を有している。そのため、例えば通勤路等毎日同じ道を走行する場合等では、予測走行データの予測精度を向上する効果が大きくなる。
また、走行データだけでなく、確率分布の結果も他車両と共有することで、従来の統計データのみを利用して予定走行経路での予測走行データを演算する場合よりも、予測走行データの予測精度をさらに向上することができる。
【0066】
また、実施例1では、パワートレイン制御として、FRハイブリッド車両Sの走行モードのスケジューリングとする例を示した。しかしながら、このパワートレイン制御は、FRハイブリッド車両Sの駆動源から駆動輪までの間のパワートレインを制御するものであればよいので、例えば、FRハイブリッド車両Sにおける減速回生量の予測に基づくモータ/ジェネレータMGの出力制御や、車両における各種部品の熱的な保護のためのエンジンEng及びモータ/ジェネレータMGの出力制御(動力配分制御)であってもよい。
【0067】
そして、実施例1では、ナビゲーションシステム4において予定走行経路を設定する際に、ドライバーが最終的に予定走行経路を選択して設定する例を示したが、これに限らない。例えば、ドライバーが予定走行経路を選択設定しなくても、走行を始めた際の走行履歴情報を参照して、予定走行経路を設定してもよい。また、その場合では、車室内に設けられたディスプレイに複数の走行経路を表示しなくてもよい。
【0068】
また、実施例1では、目的地に到着したと判断したら車両制御処理を終了する例を示したが、ドライバーの手動操作によって車両制御処理を終了してもよいし、目的地を設定していなくても登録済みの自宅に到着したら車両制御処理を終了してもよい。