【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を詳述する。本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。なお、実施例中に示す測定値は次に示すような条件で測定し、算出した。
【0053】
(重量平均分子量の測定)
ゲル浸透クロマトグラフィを用いて、以下に示す条件下で測定し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
機種:商品名HLC8020GPC(東ソー(株)製)
溶媒:クロロホルム
サンプル溶解条件:60℃、2時間
温度:40℃
測定濃度:50mg/50mL
注入量:100μL
カラム:商品名TSKgelGMHHR−H(東ソー(株)製)2本
なお、標準ポリスチレン(東ソー(株)製)を用いてユニバーサルキャリブレーション法によりカラム溶出体積を校正した。
【0054】
(結晶化度の測定)
示差走査型熱量計(島津製作所社製、商品名DSC50)を用いて、融解エンタルピーと結晶化エンタルピーとを測定した。
機種:示差走査型熱量計(島津製作所社製、商品名DSC50)、熱分析ワークステーション(島津製作所社製、商品名TA−60WS)
移動相:窒素
流速:50mL/min
温度:0−200℃
試料3mgをアルミニウム製のパンに装填し、昇温速度10℃/分で測定を行なった。算出した融解エンタルピーと結晶化エンタルピーとを用い、下記(1)式に基づいて結晶化度を算出した。
なお、結晶化度は、ΔHccを結晶化エンタルピー、ΔHmを融解エンタルピー、ΔHm0を標準試料の結晶化度100%(結晶厚が無限大の結晶)のエンタルピーとして、下記の(1)式にて規定される。
結晶化度(%)=[(ΔHm+ΔHcc)/ΔHm0)]×100・・・(1)
ポリ乳酸の場合には、ΔHm0として135(J・g
−1)が用いられる。本発明では、ポリ乳酸誘導体のΔHm0についても、ポリ乳酸と同じ135(J・g
−1)を用いて、その結晶化度としている。
結晶化エンタルピーと融解エンタルピーとは、測定対象のポリ乳酸系樹脂のDSC分析によって求められる。
【0055】
(乳酸放出量の測定)
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて、以下に示す条件下で測定し、遊離乳酸濃度を測定した。
機種:電気伝導度検出器 (島津製作所社製、商品名CDD−10A VP)、ポンプ(島津製作所社製、商品名LC−20AD)、オーブン(島津製作所社製、商品名CTO−10A VP)、ディガッサー(島津製作所社製、商品名DGU−12A)、オートサンプラー(島津製作所社製、商品名SIL−10A VP)、システムコントローラー(島津製作所社製、商品名SCL−10A VP)
移動相:5mM p-トルエンスルホン酸水溶液
反応液:5mM p-トルエンスルホン酸、100μM EDTA(2Na)、20mM Bis−Tris溶液
流速:0.8mL/min(移動相・反応液ともに)
温度:40℃
注入量:50μL
カラム:商品名SCR−102H(島津製作所社製)
【0056】
(バイオガス生成量の測定)
ガスクロマトグラフを用いて、以下に示す条件下で測定し、バイオガス生成量を測定した。
機種:TCD検出器を搭載したガスクロマトグラフ(島津製作所社製、商品名GC−8APT)
移動相:ヘリウム
流速:30mL/min
カラム温度:200℃
インジェクション温度:40℃
ディテクター温度:200℃
注入量:0.5mL
カラム:6m×3mmφステンレスカラム
充填剤:SHINCARBON ST(信和化工株式会社製)
【0057】
(実施例1)
実施例1は、改質した低分子化ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量の変化が乳酸放出速度に及ぼす影響を試験したものである。
原料ポリ乳酸系樹脂は、重量平均分子量219000を有し、それをオートクレーブにて表1に示す条件で改質処理し、低分子量化を行った。
【0058】
【表1】
【0059】
低分子量化されたポリ乳酸(低分子量化ポリ乳酸)は、ゲル浸透クロマトグラフィを用いて上記条件で重量平均分子量を測定した。表1には、加熱条件、加熱時間に対応つけてその右側欄に、得られた各低分子量化ポリ乳酸の重量平均分子量を示す。また、各低分子量化ポリ乳酸の結晶化度は、43%であった。
【0060】
(実施例2)
次に、各低分子量化されたポリ乳酸を唯一の基質として、略37℃若しくは略55℃嫌気性消化プロセスより採取した嫌気消化汚泥を用いて、嫌気条件下でバイオガス生成活性試験を行った。
【0061】
バイオガス生成活性試験では、125ml容バイアル瓶に100ml基礎培地(0.125%NH
4Cl、0.17%KH
2PO
4、0.218%K
2HPO
4、0.1%MgCl
2・6H
2O、0.0375%CaCl
2・2H
2O、0.025%Trace element溶液)と各重量平均分子量に調整したPLA1gを添加して行った。このとき、Trace element溶液とは、0.05%EDTA・2Na、0.02%FeCl
2・4H
2O、0.0006%HBO
3、0.017%CoCl
2・6H
2O、0.0007%ZnCl
2、0.005%MnCl
2・4H
2O、0.00025%NaMoO
4・2H
2O、0.0004%NiSO
4・6H
2O及び0.00027%CuCl
2・2H
2Oを含む溶液である。この基礎培地に対して、0.1%レサズリンを加えた溶液20ml、各低分子ポリ乳酸1g、0.218%KH
2PO
4と0.17%K
2HPO
4のリン酸溶液9.5ml、20mlの嫌気性消化汚泥(活性汚泥有機性浮遊物質Mixed liquor volatile suspended solid(VSS))を最終濃度5000mg/lとなるように添加した。更に、窒素ガスでバイアル内をパージした後、アルミシールでバイアル瓶をシールして2.5%Na
2S・9H
2Oを0.5ml添加した。バイアル試験は、撹拌速度120rpm/分、略37℃若しくは略55℃の温度条件下それぞれ行った。
【0062】
経時的に生成されるバイオガス(メタン)量をガスクロマトグラフによって評価した。その結果を
図1に示す。
図1は、各重量平均分子量に低分子量化されたポリ乳酸を基質としたときの、略37℃若しくは略55℃の温度条件下におけるバイオガス生成速度を示した図であり、横軸に重量平均分子量、縦軸にバイオガス生成速度が示されている。バイオガス生成活性試験は、低分子化ポリ乳酸毎に3回行い、バイオガス生成速度の平均値と標準偏差を算出した。
図1に示されるように、略37℃の試験では、重量平均分子量6800〜16000の間でバイオガス生成が確認され、重量平均分子量10800で極大値となった。一方、略55℃の試験では、重量平均分子量16000〜113000の間でバイオガス生成が確認され、重量平均分子量16000で極大値となった。
【0063】
(実施例3)
実施例3は、改質した低分子化ポリ乳酸系樹脂の結晶化度の変化が加水分解速度とバイオガス生成速度とに及ぼす影響を試験したものである。
【0064】
図1で示したように略55℃におけるバイオガス生成速度が重量平均分子量16000で極大であったことから、その重量平均分子量に近い15800の本発明PLAを融解した後、加熱温度80℃で加熱時間を変えることにより結晶化度を約10%、20%、30%となるように変化させた。結晶化度約40%の本発明PLAは、重量平均分子量が15800に低分子量化したものをそのまま使用した。その後、125ml容バイアル瓶に実施例2と同様の基礎培地100ml及び結晶化度を調整した本発明PLA1gを添加し、水中における加水分解速度を遊離乳酸量のHPLC測定によって乳酸放出速度(mg・(g−本発明PLA)
−1・h
−1)として評価した。
【0065】
略37℃における本発明PLA(重量平均分子量=15800)の結晶化度と乳酸放出速度のデータを表3に示した。乳酸放出試験は、3回行った。
【0066】
【表2】
【0067】
略55℃における本発明PLA(重量平均分子量=15800)の結晶化度と乳酸放出速度のデータを表3に示した。乳酸放出試験は、3回行った。
【0068】
【表3】
【0069】
略37℃及び略55℃の乳酸放出試験をそれぞれ3回行ったときの平均値と標準偏差を算出した結果を
図2に示す。横軸に結晶化度、縦軸に乳酸放出速度が示されている。
図2に示したように、結晶化度が上がるに連れて直線的に乳酸放出量(速度)は上昇した。
【0070】
その傾きを表3、表4から求めると、略37℃の場合は0.0058〜0.0062(mg・(g−本発明PLA)
−1・h
−1%
−1)、略55℃の場合は0.0106〜0.0214(mg・(g−本発明PLA)
−1・h
−1%
−1)であった。なおそれぞれの傾きの範囲は、汎用の表計算ソフトを用いて求めた。
【0071】
また、これらの結晶化度の異なる本発明PLAを基質として、実施例2と同様の略37℃及び略55℃嫌気性消化汚泥によるバイオガス(メタン)生成活性試験を行った。バイオガス生成活性は実施例2と同様に経時的なバイオガス生成量をガスクロマトグラフで追跡して評価した。バイオガス生成活性試験は、結晶化度毎に3回行った。
略55℃嫌気性消化汚泥によるバイオガス生成活性試験のデータを表4に示す。
【0072】
【表4】
表4中のNDは検出できなかったことを表す。
【0073】
略55℃嫌気性消化汚泥によるバイオガス生成活性試験を3回行ったときのバイオガス生成速度の平均値と標準偏差を算出した結果を
図3に示す。
図3は、結晶化度の異なる本発明PLA(重量平均分子量=15800)を基質としたときのバイオガス生成活性を示した図であり、横軸に結晶化度、縦軸にバイオガス生成速度が示されている。
図3に示すように、結晶化度の高い本発明PLAを基質として用いた場合ほど、バイオガス生成速度は高かった。また、バイオガス生成速度は、結晶化度に比例して直線的に増加する相関関係が認められた。その結果、結晶化度60、80、100%では、0.13、0.15、0.17(g−COD)・(g−VSS)
−1d
−1であることが示された。同様に略37℃における本発明PLAにおいてもバイオガス生成量は、結晶化度に比例して増加したことから、バイオガス生成速度は結晶化度0〜100%で制御可能なことが明らかにされた。
【0074】
なお
図3における直線の傾きの範囲は、表4から求められ、0.0009〜0.0014(g−COD)・(g−VSS)
−1d
−1%
−1である。
なおそれぞれの傾きの範囲は、汎用の表計算ソフトを用いて求めた。
【0075】
このように、本発明に係るポリ乳酸の重量平均分子量と結晶化度との両パラメータを制御することにより、嫌気性消化プロセスにおける乳酸放出速度及びバイオガス生成速度を制御できることが示された。
【0076】
次に、37℃若しくは55℃条件下における各低分子量化ポリ乳酸から放出される乳酸放出試験を行った。具体的には、乳酸放出試験として、125ml容バイアル瓶に実施例2と同様の基礎培地100mlと各重量平均分子量に調整したPLA1gを添加して行った。乳酸放出試験は、低分子化ポリ乳酸毎に3回行い、乳酸放出速度の平均値と標準偏差を算出した。これらのバイアル試験は、撹拌速度120rpm/分、37℃もしくは55℃の温度条件下それぞれ行った。
【0077】
水中における乳酸放出量をHPLC測定によって評価した。その結果を
図4に示す。
図4は、ポリ乳酸の重量平均分子量と乳酸放出速度との関係を示した図であり、横軸に重量平均分子量、縦軸に乳酸放出速度が示されている。
図4に示すように、略37℃では、重量平均分子量15800以下で加水分解が進行し、略55℃の場合は、重量平均分子量38000以下で乳酸放出が確認できた。また、実施例2の結果を参照することにより、加水分解が過剰な場合はバイオガス(メタンガス)の生成量が低下することから、重量平均分子量は、5400以上であることが好ましく、比較的分子量が大きい場合は結晶化度を調整することにより加水分解の状態を制御すればよいことも確認できた。