特許第6232601号(P6232601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6232601嫌気的消化プロセスに使用するためのポリ乳酸系樹脂及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232601
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】嫌気的消化プロセスに使用するためのポリ乳酸系樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20171113BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20171113BHJP
   B29B 17/00 20060101ALI20171113BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20171113BHJP
   C10L 3/06 20060101ALI20171113BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20171113BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20171113BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20171113BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20171113BHJP
   C12R 1/00 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
   B09B3/00 C
   B09B3/00 D
   B29B17/00
   C02F11/04 Z
   C10L3/06
   C08G63/08ZBP
   C08J11/12ZAB
   C08L101/16
   C08G63/91
   C12R1:00
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-172723(P2013-172723)
(22)【出願日】2013年8月22日
(65)【公開番号】特開2015-40265(P2015-40265A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年8月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】平石 明
(72)【発明者】
【氏名】辻 秀人
【審査官】 大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−131528(JP,A)
【文献】 特開2011−104551(JP,A)
【文献】 特開2013−158697(JP,A)
【文献】 特開2005−095729(JP,A)
【文献】 特開2006−224062(JP,A)
【文献】 特開平05−178977(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0095545(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/16
C08k 3/00 − 13/08
C08G 63/00 − 64/42
B09B 1/00 − 5/00
C02F 3/28 − 3/34
C02F 11/00 − 11/20
B29B 17/00 − 17/04
C08J 11/00 − 11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
37℃±5℃の嫌気的雰囲気下でバイオガスを発生させる嫌気的消化プロセスにおいて使用される微生物が消費する基質であって、
重量平均分子量6800〜16000の範囲内であるポリ乳酸系樹脂を含むことを特徴とする基質。
【請求項2】
55℃±5℃の嫌気的雰囲気下でバイオガスを発生させる嫌気的消化プロセスにおいて使用される微生物が消費する基質であって、
重量平均分子量16000〜113000の範囲内であるポリ乳酸系樹脂を含むことを特徴とする基質。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の基質であって、
前記ポリ乳酸系樹脂に、有機物を含む厨芥物、農業廃棄物、畜産廃棄物及び下水汚泥から選択された1又は複数を混合してなることを特徴とする基質
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂及びその製造方法に関し、特に、嫌気的消化法によりバイオガスを発生させる有機物の処理工程(いわゆる嫌気的消化プロセス)に使用するためのポリ乳酸系樹脂と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生分解性プラスチックは、主に、微生物や動植物が生産する高分子物質を材料として化学合成され、微生物による分解性を高めたプラスチックである。そのため、CO削減の観点から、石油系プラスチックの代替品として、その商業的・工業的普及が嘱望されている。
【0003】
生分解性プラスチックの原料としては、微生物産生系原料 (ポリヒドロキシブチレートなど)、化学合成系原料(ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリビニルアルコール、ポリカプロラクトンなど)及び天然物利用系原料(セルロース、澱粉、キトサンなど)に大別される。
【0004】
特に、乳酸を原料としたポリ乳酸系樹脂は光合成によるCO固定産物を原料 (キャッサバやトウモロコシなど)として生産され、物理化学的強度に優れるなど他の原料に比べ多くの利点を持つことから、その汎用的利用について、国内外で最も有望視されている。
【0005】
事実、ポリ乳酸系樹脂は、工業ベースでの生産が開始され、医療、住宅、車など様々な分野へと用途展開されている。また、今後も需要の拡大が見込まれる生分解性プラスチックである。
【0006】
このような背景に基づき、将来的に、生産過程で排出される余剰ポリ乳酸系樹脂や使用済みポリ乳酸系樹脂の大量排出が予想されることから、それらの処理・再利用が大きな課題となっている。このことから、ポリ乳酸系樹脂の再利用として、ポリ乳酸系樹脂を原料とした嫌気的消化プロセスが考えられている。ポリ乳酸系樹脂の嫌気的消化プロセスは、廃棄物の減量及びバイオガスの回収という観点から期待されている。なお、ここでいうバイオガスの主成分はメタンガスである。
【0007】
しかしながら、ポリ乳酸系樹脂は、生分解し難いすなわち難分解性であり、微生物が増殖する際の基質にはなり難いという問題点がある。特に嫌気環境下におけるポリ乳酸系樹脂の生物的分解効率は極めて低く、一般的に嫌気性微生物による分解には適していない。
【0008】
更にポリ乳酸系樹脂は、包装資材や農業資材等として使われ、排出される際に厨芥物、農業廃棄物、畜産廃棄物及び下水汚泥等を含む可能性がある。これら廃棄物の減量化さらには、バイオガスの回収という観点から、ポリ乳酸系樹脂を原料とした効率的な嫌気的消化プロセス技術が望まれている。
【0009】
本願発明の発明者らは、ポリ乳酸系樹脂を加工処理することにより電子供与体として、ポリ乳酸系樹脂の微生物分解を促し、環境浄化を達成し得ることを発明した(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1の発明は、嫌気的消化プロセスに優れたポリ乳酸系樹脂の開発に至るものではなかった。
【0010】
また、ポリ乳酸の可溶化の方法としては、嫌気的消化プロセスの前段に約75〜85℃に加温した可溶化槽を設置して、24〜48時間程度、ポリ乳酸系樹脂を可溶化させた後、55℃の嫌気的消化プロセスに投入する方法がある(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2には、嫌気的消化プロセスに優れたポリ乳酸系樹脂の特性については何ら開示されていない。
【0011】
上記のほかにも、嫌気的消化プロセスの前段に50〜60℃に加温した可溶化槽を設置して、10日程度のポリ乳酸系樹脂を可溶化させた後、50〜60℃の嫌気的消化プロセスに投入する方法がある(特許文献3参照)。しかしながら、この技術は、50〜60℃の温度を10日程度維持するため、エネルギーロス、処理時間を要する等の問題点がある。更に、特許文献3には、嫌気的消化プロセスに優れたポリ乳酸系樹脂の特性については何ら開示されていないものであった。
【0012】
また、ポリ乳酸系樹脂からエネルギーを回収する方法について、有機性廃棄物とポリ乳酸系樹脂の混合割合を重量比50〜150倍程度に調整し、かつポリ乳酸が発泡体の場合は、ポリ乳酸系樹脂の割合が有機性廃棄物に対して容積比80%以下となるように調整して、50〜60℃の嫌気性プロセスに投入する方法があった(特許文献4参照)。しかしながら、上記の重量比及び容積比で投入するためには、それに応じたポリ乳酸系樹脂しかプロセスに導入することができず、ポリ乳酸が大量に含まれる有機性廃棄物及びポリ乳酸のみの廃材からの嫌気的消化プロセスはほとんど期待できないという問題点がある。更に、特許文献4には、50〜60℃の嫌気的消化プロセスに優れたポリ乳酸系樹脂の特性について開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2011−104551号公報
【特許文献2】特開2009−154125号公報
【特許文献3】特開2005−232336号号公報
【特許文献4】特開2005−206735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これまで、嫌気的消化プロセスにポリ乳酸系樹脂をそのまま供しても、乳酸への加水分解効率が低いため、嫌気的消化プロセスに要する時間が長く、ポリ乳酸系樹脂を用いた嫌気的消化プロセスは実用化に至っていない。また、前掲の特許文献に開示される技術は、ポリ乳酸系樹脂を可溶化させて、嫌気的消化プロセスに投入するものであったが、これらポリ乳酸系樹脂が嫌気的消化プロセスに適する状態となっていたものではなく、嫌気的消化プロセスの実用化のためには、更なる改良が必要であった。
【0015】
本発明は、この問題点を解決するためになされたものであり、嫌気的消化プロセスに適するポリ乳酸系樹脂を提供することにより、これまで達成できなかった嫌気的消化プロセスの実用化を図るものである。更に当該ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量のほかに結晶化度を制御することにより、生成バイオガス量を制御することをも目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂は、嫌気的雰囲気下でバイオガスを発生させる嫌気的消化プロセスに使用するためのポリ乳酸系樹脂であって、重量平均分子量を5400乃至232000の範囲内としたことを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項2に記載のポリ乳酸系樹脂は、略37℃の嫌気的雰囲気下でバイオガスを発生させる嫌気的消化プロセスに使用するためのポリ乳酸系樹脂であって、重量平均分子量を5400乃至略36000の範囲内としたことを特徴とするものである。なお、略37℃とは、37℃±5℃であることを意味するものである。
【0018】
また、請求項3に記載のポリ乳酸系樹脂は、略55℃の嫌気的雰囲気下でバイオガスを発生させる嫌気的消化プロセスに使用するためのポリ乳酸系樹脂であって、重量平均分子量を10800乃至232000の範囲内としたことを特徴とするものである。なお、略55℃とは、55℃±5℃であることを意味するものである。
【0019】
さらに、請求項4に記載のポリ乳酸系樹脂は、請求項1から3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂であって、全部または一部が結晶化されていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項5に記載の有機性廃棄物は、請求項1から4のいずれかに記載されたポリ乳酸系樹脂を含む有機性廃棄物であって、前記ポリ乳酸系樹脂に、有機物を含む厨芥物、農業廃棄物、畜産廃棄物及び下水汚泥から選択された1又は複数を混合してなることを特徴とするものである。
【0021】
請求項6に記載の嫌気的消化プロセスに使用するためのポリ乳酸系樹脂の製造方法は、原料のポリ乳酸系樹脂の分子量を低下させる低分子量化工程と、その低分子量化工程にて低分子量化されたポリ乳酸系樹脂を、その融点以上の温度で融解する融解工程と、その融解工程により融解されたポリ乳酸系樹脂を、融点未満の温度でアニールするアニール工程とを有し、前記アニール工程により所望の結晶化度に調整してなることを特徴とするものである。
【0022】
また、請求項7に記載の嫌気的消化プロセスに使用するためのポリ乳酸系樹脂の製造方法は、前記低分子量化工程が、重量平均分子量が5400乃至232000となるように、原料のポリ乳酸系樹脂を低分子量化するものである。
【0023】
また、請求項8に記載の嫌気的消化プロセスに使用するためのポリ乳酸系樹脂の製造方法は、前記低分子量化工程が、重量平均分子量が5400乃至略36000となるように、原料のポリ乳酸系樹脂を低分子量化するものである。
【0024】
また、請求項9に記載の嫌気的消化プロセスに使用するためのポリ乳酸系樹脂の製造方法は、前記低分子量化工程が、重量平均分子量が10800乃至232000となるように、原料のポリ乳酸系樹脂を低分子量化するものである。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂によれば、重量平均分子量が5400乃至232000の範囲内であることから、嫌気的雰囲気下においても生分解性を有することとなり、当該ポリ乳酸系樹脂に嫌気的消化プロセス内汚泥を接触させることにより、効率的にバイオガスで生成させることができる。すなわち、重量平均分子量を232000以下とすることにより、物理化学的な加水分解が促進され、重量平均分子量を5400以上とすることにより、過剰な加水分解を制限することができる。従って、上記ポリ乳酸系樹脂から乳酸が放出され、乳酸酸化細菌およびメタン生成アーキアによるバイオガス生成に適した状態となり、生成されるバイオガスを利用した効率的なエネルギー回収を実現することができるという効果を有する。
【0026】
請求項2に記載のポリ乳酸系樹脂によれば、重量平均分子量が5400乃至36000の範囲内であることから、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂が奏する効果に加えて、略37℃の嫌気的環境下における嫌気的消化プロセスに好適に使用することができるという効果を有する。
【0027】
請求項3に記載のポリ乳酸系樹脂によれば、重量平均分子量が10800乃至232000の範囲内であることから、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂が奏する効果に加えて、略55℃の嫌気的環境下における嫌気的消化プロセスに好適に使用することができるという効果を有する。
【0028】
請求項4に記載のポリ乳酸系樹脂によれば、全部又は一部を結晶化していることから、請求項1から3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂が奏する効果に加えて、加水分解の速度を制御することができるという効果を有する。すなわち、効率よくバイオガスを生成させるためには、加水分解の速度を好適に維持することが必要となる。そこで、重量平均分子量を調整することに加え、結晶化度をも調整することにより、嫌気的消化プロセスにおける加水分解速度を制御することが可能となるのである。
【0029】
請求項5に記載の有機性廃棄物によれば、請求項1から4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂に、有機物を含む厨芥物、農業廃棄物、畜産廃棄物及び下水汚泥から選択された1又は複数が混合されたものであるから、ポリ乳酸系樹脂とともに厨芥物等の廃棄物も嫌気的に消化されることとなり、有機性廃棄物全体の嫌気的消化によるバイオガスの生成を可能にする効果を有する。
【0030】
請求項6に記載のポリ乳酸系樹脂の製造方法によれば、低分子量化工程により原料のポリ乳酸系樹脂を低分子量化するとともに、アニール工程によるアニールによって所望の結晶化度とすることができることから、加水分解速度が制御されたポリ乳酸系樹脂を製造することができるという効果を有する。従って、バイオガスの生成量についても制御することが可能となるものである。
【0031】
請求項7に記載のポリ乳酸系樹脂の製造方法によれば、低分子量化工程による原料のポリ乳酸系樹脂の低分子量化は、5400乃至232000としていることから、請求項6に記載の製造方法が奏する効果に加えて、嫌気的消化プロセスにおける加水分解速度を制御することができるという効果を有する。さらに、上記範囲内の低分子量に調整されたポリ乳酸系樹脂の結晶化度をも調整すれば、加水分解速度をさらに制御することが可能となる。
【0032】
請求項8に記載のポリ乳酸系樹脂の製造方法によれば、低分子量化工程による原料のポリ乳酸系樹脂の低分子量化は、5400乃至36000としていることから、請求項6又は7に記載の製造方法が奏する効果に加えて、略37℃の嫌気的環境下における嫌気的消化プロセスに好適に使用できるポリ乳酸系樹脂を製造することができるという効果を有する。
【0033】
請求項9に記載のポリ乳酸系樹脂の製造方法によれば、低分子量化工程による原料のポリ乳酸系樹脂の低分子量化は、10800乃至232000としていることから、請求項6又は7に記載の製造方法が奏する効果に加えて、略55℃の嫌気的環境下における嫌気的消化プロセスに好適に使用できるポリ乳酸系樹脂を製造することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量とメタン生成速度との関係を示す図である。Aは略37℃でのメタン生成活性試験の結果を示し、Bは略55℃でのメタン生成活性試験の結果を示す。
図2】低分子量化したポリ乳酸系樹脂(重量平均分子量:15800)の結晶化度と乳酸放出速度との関係を示す図である。Aは略37℃での試験の結果を示し、Bは略55℃での試験の結果を示す。
図3】低分子量化したポリ乳酸系樹脂(重量平均分子量:15800)の結晶化度とメタン生成速度との関係を示す図である。
図4】ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量と乳酸放出速度との関係を示す図である。Aは略37℃での試験の結果を示し、Bは略55℃での試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の詳細を説明する。本発明のポリ乳酸系樹脂は、嫌気的消化プロセスに使用するためのものであって、当該嫌気的消化プロセスに適するように低分子量化されたものである。ポリ乳酸系樹脂を低分子量化することにより、嫌気的雰囲気下における嫌気性細菌による分解(消費)が促進され、バイオガスの生成の効率化を実現させるものである。一般的に、嫌気的消化プロセスは、嫌気性細菌(酸生成細菌)によって有機物が加水分解され、その後、嫌気性細菌(偏性嫌気性細菌など)によって有機酸や有機物が分解(消費)され、メタン生成アーキアによって酢酸および水素からメタンおよび二酸化炭素が生成されるものである。
【0036】
本発明では、ポリ乳酸系樹脂及びポリ乳酸系樹脂を含む有機性廃棄物が対象となる。ここで、本発明に原料として用いられるポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸のホモポリマー(例えば、ポリ(L−乳酸))や、ポリ乳酸誘導体である。ポリ乳酸系樹脂は、乳酸を重合して得られるポリエステル樹脂であれば特に限定されず、ポリ乳酸のホモポリマー、共重合体、ポリマーブレンドなどであってもよい。なお、ポリ乳酸を用いる際の重合に用いられる乳酸は、L体又はD体のいずれかであってもよく、L体とD体の混合物であってもよい。
【0037】
ポリ乳酸誘導体としては、ポリ乳酸と同程度の結晶性と生分解性(加水分解性)とを備えるものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸骨格(−OCHCHCO−)のα炭素に結合される原子または原子団が、メチル基と水素との組み合わせ以外で、アルキル基、アリール基、アリル基、ビニル基、ベンジル基、ホルミル基等の炭化水素基、アルコキシ基及びその誘導体とされたものが挙げられる。その他、かかる原子団として、アミノ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基等を挙げることもできる。更には、上記のうち、炭素数1〜3の炭化水素基若しくはアルコキシ基又は水素原子としたものが好ましい。更に好ましくは、炭化水素基及びアルコキシ基は直鎖状のものとする。より具体的には、当該原子団として、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシル基等が挙げられる。更には、これらの誘導体を用いることもできる。誘導体としてこれら炭化水素基及びアルコキシ基の水素原子を置換しうる原子及び原子団には、塩素等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、カルバモイル基、ホルミル基、アルコキシカルボニル基等が挙げられる。また、α炭素に結合される原子としては、水素、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子が挙げられる。
【0038】
本発明のポリ乳酸系樹脂(以下、原料のポリ乳酸系樹脂(PLA)と区別する意味において、「本発明PLA」と表記する場合がある)は単独でもよく、ポリ乳酸系樹脂以外の添加剤を含んで構成されてもよい。添加剤としては、例えば、pH調整剤が挙げられ、かかるpH調整剤としては、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム等が例示される。なお、かかるpH調整剤は、1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
更に他の原料の生分解性高分子を含んでいてもよい。他の生分解性高分子原料は、特に限定されるものではない。具体的には、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリヒドロキシバリレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルカーボネート、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン及びポリ(2−オキセタノン)、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、及び天然ゴム、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及びポリリンゴ酸などが挙げられる。ポリ乳酸系樹脂以外のこれらの高分子は、単独で使用されても複数で使用されてもよい。
【0040】
更にはポリ乳酸系樹脂以外のものとして、有機性廃棄物が含まれていてもよい。有機性廃棄物としては、厨芥物、農業廃棄物、畜産廃棄物及び下水汚泥等が考えられる。
【0041】
略37℃嫌気的消化プロセスで利用できる本発明PLAの重量平均分子量は、5400以上、38000以下の範囲にあるものとされる。好ましくは、重量平均分子量、5800以上、36000以下の範囲にあるものとされる。更に好ましくは、重量平均分子量、6800以上、16000以下の範囲にあるものとされる。
【0042】
略55℃嫌気的消化プロセスで利用できる本発明PLAの重量平均分子量は、10300以上、232000以下の範囲にあるものとされる。好ましくは、重量平均分子量、10800以上、219000以下の範囲にあるものとされる。更に好ましくは、重量平均分子量、15800以上、113000以下の範囲にあるものとされる。
【0043】
本発明PLAは、モノマーから合成してもよいし、高分子量のポリ乳酸系樹脂を改質して製造してもよい。高分子量のポリ乳酸系樹脂を改質して製造する場合は、本発明PLAは、低分子量化工程を経てもよい。低分子量化工程は、原料の高分子量のポリ乳酸系樹脂の分子量を低下させる工程であり、低分子量化工程で用いられる方法には制限されない。また、低分子量化工程の前に、ポリ乳酸系樹脂の洗浄、乾燥などの前処理工程を設けてもよい。
【0044】
一般にポリ乳酸系樹脂は、重量平均分子量で、15万から30万といわれているが、低分子量化工程では、加熱、加圧、粉砕等によって、ポリ乳酸系樹脂の分子量を低下させてもよい。好適には、加水分解処理が用いられる。例えば、加水分解処理では、ポリ乳酸系樹脂の分子量や特性と所望の目標分子量とに応じ、その処理条件が、例えば120℃、1.05atmに設定し、任意時間処理を行ってもよい。この低分子量化工程において、より高温で、より高圧で、より長時間の処理であれば、本発明の低分子量化されたポリ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0045】
この低分子量化工程では、ポリ乳酸系樹脂を目標分子量まで一度の処理によって低分子量化を行っても良く、複数回に分けて低分子量化を行ってもよい。また、処理した樹脂を、分子量分画して分子量分布の分散度を調整する操作を行ってもよい。
【0046】
本発明PLAは非晶性でもよいが、結晶化度を制御してもよい。本発明PLAの結晶化度を制御する方法に制限はないが、例えばポリ乳酸系樹脂の融解工程及びアニール工程を用いる方法を用いてもよい。
【0047】
融解工程は、低分子量化工程にて低分子量化されたポリ乳酸系樹脂を融解する工程である。この融解工程では、ポリ乳酸系樹脂が融点以上の温度で加熱されて融解される。なお、加熱温度は、ポリ乳酸系樹脂の融点に依存するが、この融点は、示差走査熱量計による測定によって決定される。該融解工程が、請求項に記載の融解工程に該当する。
【0048】
アニール工程は、ポリ乳酸系樹脂を結晶化させるための工程であり、融解されたポリ乳酸系樹脂を、融点よりも20℃〜30℃低温側の温度で、任意時間保持して熱処理し、その後室温まで急冷する工程である。
【0049】
本発明でのアニール工程は、融点未満の任意温度で結晶化のために一定時間保持することを意味している。本アニール工程において、保持時間を変更することにより、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度を調整することができる。本アニール工程が請求項に記載のアニール工程に該当する。
【0050】
このような工程により、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度をコントロールし、嫌気的消化プロセスにおけるバイオガス生成量を制御することが可能となる。そのバイオガス生成速度は、結晶化度に比例して直線的に増加し、線形制御が可能である。このことから、結晶化度0%から100%の範囲で、バイオガス生成量の制御が可能である。
【0051】
また、本発明PLAの剤形は、特に限定されるものではなく、粉末状、粒状、塊状、成形体、フィルム、シート状等にすることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を詳述する。本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。なお、実施例中に示す測定値は次に示すような条件で測定し、算出した。
【0053】
(重量平均分子量の測定)
ゲル浸透クロマトグラフィを用いて、以下に示す条件下で測定し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
機種:商品名HLC8020GPC(東ソー(株)製)
溶媒:クロロホルム
サンプル溶解条件:60℃、2時間
温度:40℃
測定濃度:50mg/50mL
注入量:100μL
カラム:商品名TSKgelGMHHR−H(東ソー(株)製)2本
なお、標準ポリスチレン(東ソー(株)製)を用いてユニバーサルキャリブレーション法によりカラム溶出体積を校正した。
【0054】
(結晶化度の測定)
示差走査型熱量計(島津製作所社製、商品名DSC50)を用いて、融解エンタルピーと結晶化エンタルピーとを測定した。
機種:示差走査型熱量計(島津製作所社製、商品名DSC50)、熱分析ワークステーション(島津製作所社製、商品名TA−60WS)
移動相:窒素
流速:50mL/min
温度:0−200℃
試料3mgをアルミニウム製のパンに装填し、昇温速度10℃/分で測定を行なった。算出した融解エンタルピーと結晶化エンタルピーとを用い、下記(1)式に基づいて結晶化度を算出した。
なお、結晶化度は、ΔHccを結晶化エンタルピー、ΔHmを融解エンタルピー、ΔHm0を標準試料の結晶化度100%(結晶厚が無限大の結晶)のエンタルピーとして、下記の(1)式にて規定される。
結晶化度(%)=[(ΔHm+ΔHcc)/ΔHm0)]×100・・・(1)
ポリ乳酸の場合には、ΔHm0として135(J・g−1)が用いられる。本発明では、ポリ乳酸誘導体のΔHm0についても、ポリ乳酸と同じ135(J・g−1)を用いて、その結晶化度としている。
結晶化エンタルピーと融解エンタルピーとは、測定対象のポリ乳酸系樹脂のDSC分析によって求められる。
【0055】
(乳酸放出量の測定)
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて、以下に示す条件下で測定し、遊離乳酸濃度を測定した。
機種:電気伝導度検出器 (島津製作所社製、商品名CDD−10A VP)、ポンプ(島津製作所社製、商品名LC−20AD)、オーブン(島津製作所社製、商品名CTO−10A VP)、ディガッサー(島津製作所社製、商品名DGU−12A)、オートサンプラー(島津製作所社製、商品名SIL−10A VP)、システムコントローラー(島津製作所社製、商品名SCL−10A VP)
移動相:5mM p-トルエンスルホン酸水溶液
反応液:5mM p-トルエンスルホン酸、100μM EDTA(2Na)、20mM Bis−Tris溶液
流速:0.8mL/min(移動相・反応液ともに)
温度:40℃
注入量:50μL
カラム:商品名SCR−102H(島津製作所社製)
【0056】
(バイオガス生成量の測定)
ガスクロマトグラフを用いて、以下に示す条件下で測定し、バイオガス生成量を測定した。
機種:TCD検出器を搭載したガスクロマトグラフ(島津製作所社製、商品名GC−8APT)
移動相:ヘリウム
流速:30mL/min
カラム温度:200℃
インジェクション温度:40℃
ディテクター温度:200℃
注入量:0.5mL
カラム:6m×3mmφステンレスカラム
充填剤:SHINCARBON ST(信和化工株式会社製)
【0057】
(実施例1)
実施例1は、改質した低分子化ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量の変化が乳酸放出速度に及ぼす影響を試験したものである。
原料ポリ乳酸系樹脂は、重量平均分子量219000を有し、それをオートクレーブにて表1に示す条件で改質処理し、低分子量化を行った。
【0058】
【表1】
【0059】
低分子量化されたポリ乳酸(低分子量化ポリ乳酸)は、ゲル浸透クロマトグラフィを用いて上記条件で重量平均分子量を測定した。表1には、加熱条件、加熱時間に対応つけてその右側欄に、得られた各低分子量化ポリ乳酸の重量平均分子量を示す。また、各低分子量化ポリ乳酸の結晶化度は、43%であった。
【0060】
(実施例2)
次に、各低分子量化されたポリ乳酸を唯一の基質として、略37℃若しくは略55℃嫌気性消化プロセスより採取した嫌気消化汚泥を用いて、嫌気条件下でバイオガス生成活性試験を行った。
【0061】
バイオガス生成活性試験では、125ml容バイアル瓶に100ml基礎培地(0.125%NHCl、0.17%KHPO、0.218%KHPO、0.1%MgCl・6HO、0.0375%CaCl・2HO、0.025%Trace element溶液)と各重量平均分子量に調整したPLA1gを添加して行った。このとき、Trace element溶液とは、0.05%EDTA・2Na、0.02%FeCl・4HO、0.0006%HBO、0.017%CoCl・6HO、0.0007%ZnCl、0.005%MnCl・4HO、0.00025%NaMoO・2HO、0.0004%NiSO・6HO及び0.00027%CuCl・2HOを含む溶液である。この基礎培地に対して、0.1%レサズリンを加えた溶液20ml、各低分子ポリ乳酸1g、0.218%KHPOと0.17%KHPOのリン酸溶液9.5ml、20mlの嫌気性消化汚泥(活性汚泥有機性浮遊物質Mixed liquor volatile suspended solid(VSS))を最終濃度5000mg/lとなるように添加した。更に、窒素ガスでバイアル内をパージした後、アルミシールでバイアル瓶をシールして2.5%NaS・9HOを0.5ml添加した。バイアル試験は、撹拌速度120rpm/分、略37℃若しくは略55℃の温度条件下それぞれ行った。
【0062】
経時的に生成されるバイオガス(メタン)量をガスクロマトグラフによって評価した。その結果を図1に示す。図1は、各重量平均分子量に低分子量化されたポリ乳酸を基質としたときの、略37℃若しくは略55℃の温度条件下におけるバイオガス生成速度を示した図であり、横軸に重量平均分子量、縦軸にバイオガス生成速度が示されている。バイオガス生成活性試験は、低分子化ポリ乳酸毎に3回行い、バイオガス生成速度の平均値と標準偏差を算出した。図1に示されるように、略37℃の試験では、重量平均分子量6800〜16000の間でバイオガス生成が確認され、重量平均分子量10800で極大値となった。一方、略55℃の試験では、重量平均分子量16000〜113000の間でバイオガス生成が確認され、重量平均分子量16000で極大値となった。
【0063】
(実施例3)
実施例3は、改質した低分子化ポリ乳酸系樹脂の結晶化度の変化が加水分解速度とバイオガス生成速度とに及ぼす影響を試験したものである。
【0064】
図1で示したように略55℃におけるバイオガス生成速度が重量平均分子量16000で極大であったことから、その重量平均分子量に近い15800の本発明PLAを融解した後、加熱温度80℃で加熱時間を変えることにより結晶化度を約10%、20%、30%となるように変化させた。結晶化度約40%の本発明PLAは、重量平均分子量が15800に低分子量化したものをそのまま使用した。その後、125ml容バイアル瓶に実施例2と同様の基礎培地100ml及び結晶化度を調整した本発明PLA1gを添加し、水中における加水分解速度を遊離乳酸量のHPLC測定によって乳酸放出速度(mg・(g−本発明PLA)−1・h−1)として評価した。
【0065】
略37℃における本発明PLA(重量平均分子量=15800)の結晶化度と乳酸放出速度のデータを表3に示した。乳酸放出試験は、3回行った。
【0066】
【表2】
【0067】
略55℃における本発明PLA(重量平均分子量=15800)の結晶化度と乳酸放出速度のデータを表3に示した。乳酸放出試験は、3回行った。
【0068】
【表3】
【0069】
略37℃及び略55℃の乳酸放出試験をそれぞれ3回行ったときの平均値と標準偏差を算出した結果を図2に示す。横軸に結晶化度、縦軸に乳酸放出速度が示されている。図2に示したように、結晶化度が上がるに連れて直線的に乳酸放出量(速度)は上昇した。
【0070】
その傾きを表3、表4から求めると、略37℃の場合は0.0058〜0.0062(mg・(g−本発明PLA)−1・h−1−1)、略55℃の場合は0.0106〜0.0214(mg・(g−本発明PLA)−1・h−1−1)であった。なおそれぞれの傾きの範囲は、汎用の表計算ソフトを用いて求めた。
【0071】
また、これらの結晶化度の異なる本発明PLAを基質として、実施例2と同様の略37℃及び略55℃嫌気性消化汚泥によるバイオガス(メタン)生成活性試験を行った。バイオガス生成活性は実施例2と同様に経時的なバイオガス生成量をガスクロマトグラフで追跡して評価した。バイオガス生成活性試験は、結晶化度毎に3回行った。
略55℃嫌気性消化汚泥によるバイオガス生成活性試験のデータを表4に示す。
【0072】
【表4】
表4中のNDは検出できなかったことを表す。
【0073】
略55℃嫌気性消化汚泥によるバイオガス生成活性試験を3回行ったときのバイオガス生成速度の平均値と標準偏差を算出した結果を図3に示す。図3は、結晶化度の異なる本発明PLA(重量平均分子量=15800)を基質としたときのバイオガス生成活性を示した図であり、横軸に結晶化度、縦軸にバイオガス生成速度が示されている。図3に示すように、結晶化度の高い本発明PLAを基質として用いた場合ほど、バイオガス生成速度は高かった。また、バイオガス生成速度は、結晶化度に比例して直線的に増加する相関関係が認められた。その結果、結晶化度60、80、100%では、0.13、0.15、0.17(g−COD)・(g−VSS)−1−1であることが示された。同様に略37℃における本発明PLAにおいてもバイオガス生成量は、結晶化度に比例して増加したことから、バイオガス生成速度は結晶化度0〜100%で制御可能なことが明らかにされた。
【0074】
なお図3における直線の傾きの範囲は、表4から求められ、0.0009〜0.0014(g−COD)・(g−VSS)−1−1−1である。
なおそれぞれの傾きの範囲は、汎用の表計算ソフトを用いて求めた。
【0075】
このように、本発明に係るポリ乳酸の重量平均分子量と結晶化度との両パラメータを制御することにより、嫌気性消化プロセスにおける乳酸放出速度及びバイオガス生成速度を制御できることが示された。
【0076】
次に、37℃若しくは55℃条件下における各低分子量化ポリ乳酸から放出される乳酸放出試験を行った。具体的には、乳酸放出試験として、125ml容バイアル瓶に実施例2と同様の基礎培地100mlと各重量平均分子量に調整したPLA1gを添加して行った。乳酸放出試験は、低分子化ポリ乳酸毎に3回行い、乳酸放出速度の平均値と標準偏差を算出した。これらのバイアル試験は、撹拌速度120rpm/分、37℃もしくは55℃の温度条件下それぞれ行った。
【0077】
水中における乳酸放出量をHPLC測定によって評価した。その結果を図4に示す。図4は、ポリ乳酸の重量平均分子量と乳酸放出速度との関係を示した図であり、横軸に重量平均分子量、縦軸に乳酸放出速度が示されている。図4に示すように、略37℃では、重量平均分子量15800以下で加水分解が進行し、略55℃の場合は、重量平均分子量38000以下で乳酸放出が確認できた。また、実施例2の結果を参照することにより、加水分解が過剰な場合はバイオガス(メタンガス)の生成量が低下することから、重量平均分子量は、5400以上であることが好ましく、比較的分子量が大きい場合は結晶化度を調整することにより加水分解の状態を制御すればよいことも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
ポリ乳酸系樹脂は、包装資材や農業資材として排出され、それらは、厨芥物、農業廃棄物、畜産廃棄物及び下水汚泥とともに大量に排出される可能性がある。本発明は、ポリ乳酸系樹脂の再利用技術の一つとして、本発明PLAを嫌気的消化プロセスの原料として用いることにより、ポリ乳酸系樹脂の減量化を図るとともにバイオガスを回収する。その結果、今後大量に排出されるポリ乳酸系樹脂を有効に活用できる。
【0079】
更に本発明PLAの重量平均分子量と結晶化度をコントロールすることにより、嫌気的消化プロセスで生成されるバイオガス量の制御が可能となる。

図1
図2
図3
図4