特許第6232605号(P6232605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6232605被膜形成用組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232605
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】被膜形成用組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 177/00 20060101AFI20171113BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20171113BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20171113BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171113BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20171113BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20171113BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C09D177/00
   C09D183/04
   C09D5/00 D
   C09D7/12
   B32B15/08 N
   C23C26/00 A
   H05K3/38 B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-94536(P2016-94536)
(22)【出願日】2016年5月10日
(65)【公開番号】特開2017-203073(P2017-203073A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2017年7月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】秋山 大作
(72)【発明者】
【氏名】千石 洋一
(72)【発明者】
【氏名】東松 逸朗
(72)【発明者】
【氏名】岡田 万佐夫
(72)【発明者】
【氏名】三谷 良子
(72)【発明者】
【氏名】上甲 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】網谷 康孝
(72)【発明者】
【氏名】里見 徳哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勝
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−056449(JP,A)
【文献】 特開2015−214743(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/186941(WO,A1)
【文献】 特開2010−111748(JP,A)
【文献】 特開2008−013666(JP,A)
【文献】 特開2010−285535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
B32B 15/08
C23C 26/00
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、
香族化合物;2以上のカルボキシ基を有する多塩基酸;およびハロゲン化物イオンを含み、
前記芳香族化合物は、2個以上の窒素原子を含む含窒素芳香環と含窒素芳香環外のアミノ基とを一分子中に有する化合物、2個以上の窒素原子を含む含窒素芳香環とアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基とを一分子中に有する化合物、およびベンゼン環とアミノ基とアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基とを一分子中に有する化合物からなる群から選択される1種以上であり、
前記多塩基酸の含有量が、前記芳香族化合物の含有量の0.05〜10倍であり、
前記ハロゲン化物イオンの濃度が5〜600mMであり、
pHが6〜9の溶液である、被膜形成用組成物。
【請求項2】
前記多塩基酸が二価のカルボン酸である、請求項1に記載の被膜形成用組成物。
【請求項3】
前記芳香族化合物が、芳香環外に、第一級アミノ基または第二級アミノ基を有する、請求項1または2に記載の被膜形成用組成物。
【請求項4】
金属部材の表面に、請求項1〜のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を接触させることにより、金属部材の表面に被膜が形成される、表面処理金属部材の製造方法。
【請求項5】
前記金属部材が銅または銅合金である、請求項に記載の表面処理金属部材の製造方法。
【請求項6】
請求項またはに記載の方法により金属部材の表面に被膜を形成後、前記被膜上に樹脂部材を接合する、金属‐樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材の表面に樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物に関する。さらに、本発明は被膜形成用組成物を用いた表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の製造工程においては、金属層や金属配線の表面に、エッチングレジスト、めっきレジスト、ソルダーレジスト、プリプレグ等の樹脂材料が接合される。プリント配線板の製造工程および製造後の製品においては、金属と樹脂との間に高い接着性が求められる。金属と樹脂との接着性を高めるために、粗化剤(マイクロエッチング剤)により金属の表面に微細な凹凸形状を形成する方法、金属の表面に樹脂との接着性を向上するための被膜(接着層)を形成する方法、粗化表面に接着層を形成する方法等が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、銅イオンを含有する酸性水溶液により銅回路の表面を粗化処理した後、有機酸、ベンゾトリアゾール系防錆剤およびシランカップリング剤を含有する水溶液で処理することにより、銅回路とエポキシ樹脂との接着性を向上できることが開示されている。特許文献2および特許文献3では、特定のシラン化合物を含有する溶液を金属の表面に接触させて被膜を形成することにより、金属と樹脂との接着性を向上できることが開示されている。特許文献4では、トリアゾール系化合物、シランカップリング剤および有機酸からなる防錆剤を銅箔表面に塗布することにより、金属と樹脂との接着性を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−286546号公報
【特許文献2】特開2015−214743号公報
【特許文献3】WO2013/186941号パンフレット
【特許文献4】特開平7−258870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2〜4に記載のようにシランカップリング剤を含む組成物により被膜を形成する方法は、金属の表面を粗面化する必要がなく、接着性向上のために別の金属層(例えば錫めっき層)を設ける必要もないため、金属と樹脂との接合工程を簡素化できるとの利点を有する。しかし、従来の組成物は、金属表面への被膜形成性や膜付着性が低く、金属と樹脂との接着性が十分ではない場合や、塩酸等の酸に対する接着耐久性が十分ではない場合があった。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、金属表面に樹脂との接着性に優れる被膜を形成するための被膜形成用組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討の結果、所定の芳香族化合物を含有する組成物が、金属表面への被膜形成性に優れ、かつ金属樹脂間の接着性を大幅に向上できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明の被膜形成用組成物は、一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物;2以上のカルボキシ基を有する多塩基酸;ならびにハロゲン化物イオンを含む。多塩基酸の含有量は、芳香族化合物の含有量の0.05〜10倍であり、ハロゲン化物イオンの濃度が5〜600mMである。被膜形成用組成物(溶液)のpHは、6〜9である。
【0009】
金属部材の表面に上記被膜形成用組成物を接触させることにより、金属部材の表面に被膜が形成される。被膜が形成された表面処理金属部材は、樹脂との接着性に優れる。金属部材としては、銅または銅合金材料が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被膜形成用組成物を用いて銅や銅合金等の金属部材表面に被膜を形成することにより、金属部材と樹脂との接着性を向上できる。上記被膜を介して金属部材と樹脂とを接合することにより、塩酸等の酸に対する接着耐久性の高い、金属‐樹脂複合体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】表面処理金属部材の一形態を表す模式的断面図である。
図2】金属‐樹脂複合体の一形態を表す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[被膜形成用組成物]
本発明の被膜形成用組成物は、金属表面への被膜形成に用いられる。被膜形成用組成物は、一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物、多塩基酸、およびハロゲン化物イオンを含む、pH6〜9の溶液である。以下、本発明の被膜形成用組成物に含まれる各成分について説明する。
【0013】
<芳香族化合物>
芳香族化合物は、被膜の主成分となる材料であり、一分子中にアミノ基および芳香環を有する。
【0014】
芳香環は、炭素と水素のみから構成されてもよく、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を含む複素芳香環でもよい。芳香環は単環でもよく縮合多環でもよい。芳香族化合物は、含窒素芳香環を含むものが好ましい。含窒素芳香環としては、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ペンタジン、アゼピン、ジアゼピン、トリアゼピン等の単環や、インドール、イソインドール、チエノインドール、インダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ベンゾトリアゾール等の縮合二環;カルバゾール、アクリジン、β‐カルボリン、アクリドン、ペリミジン、フェナジン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フェナントロリン等の縮合三環;キンドリン、キニンドリン等の縮合四環;アクリンドリン等の縮合五環、等が挙げられる。これらの中でも、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ペンタジン等の2個以上の窒素原子を含む含窒素芳香環が好ましく、イミダゾール、テトラゾールおよびトリアジンが特に好ましい。
【0015】
アミノ基は、第一級、第二級および第三級いずれでもよく、複素環式でもよい。アミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、間接的に結合していてもよい。芳香族化合物は、一分子中に2以上のアミノ基を有していてもよい。含窒素芳香環は、複素環式のアミノ基と芳香環の両方に該当する。そのため、上記の芳香環が含窒素芳香環である場合は、芳香環と別にアミノ基を有していなくてもよい。芳香族化合物は、第二級アミノ基および/または第一級アミノ基を有するものが好ましく、第一級アミノ基を有するものが特に好ましい。金属と樹脂との接着性に優れる被膜を形成可能であることから、芳香族化合物は、含窒素芳香環を含み、かつ含窒素芳香環にアルキレン基やアルキレンアミノ基等を介して間接的に結合した第一級アミノ基を有する化合物が好ましい。
【0016】
芳香族化合物は、芳香環とアミノ基とを有していればその構造は特に限定されず、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、アゾ基、ジアゾ基、メルカプト基、エポキシ基、シリル基、シラノール基、アルコキシシリル基等の、アミノ基以外の官能基を有していてもよい。特に、芳香族化合物がアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基を有する場合、芳香族化合物がシランカップリング剤としての作用を有するため、金属と樹脂との接着性が向上する傾向がある。
【0017】
芳香族化合物の分子量が大きいと、水や有機溶媒に対する溶解性が低下したり、金属表面への被膜の密着性が低下する場合がある。そのため、芳香族化合物の分子量は1500以下が好ましく、1200以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。
【0018】
(芳香族化合物の具体例)
芳香族化合物の一例として、下記一般式(I)および(II)で表されるイミダゾールシラン化合物が挙げられる(例えば、特開2015−214743号)。
【0019】
【化1】
【0020】
一般式(I)および(II)におけるR11〜R15は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基、アリル基、ベンジル基もしくはアリール基である。R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基またはメトキシ基を表し、pは0〜16の整数である。R31は、第一級アミノ基(−NH)、または−Si(OR4142(3−k)で表されるアルコキシシリル基もしくはヒドロキシシリル基(kは1〜3の整数、R41およびR42はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基)である。
【0021】
下記一般式(III)で表されるように、含窒素芳香環としてトリアゾール環を有するシラン化合物も、芳香族化合物として好適に使用できる(例えば、特開2016−56449号)。
【0022】
【化2】
【0023】
一般式(III)におけるR21およびR22、R31ならびにpは、上記一般式(I)および(II)と同様である。R16は、水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基、アリル基、ベンジル基もしくはアリール基である。Xは、水素原子、メチル基、−NH、−SHまたは−SCHであり、−NHが特に好ましい。
【0024】
芳香族化合物として、トリアジン環を有する化合物も好適に使用できる。下記一般式(IV)は、トリアジン環およびアミノ基を有する芳香族化合物の一例であり、1,3,5‐トリアジンの2,4,6位に置換基を有し、そのうち少なくとも1つは、末端にアミノ基を有している。
【0025】
【化3】
【0026】
上記一般式(IV)において、R50、R51、R52、R60およびR61は、それぞれ独立に、任意の二価の基であり、例えば炭素数1〜6の分岐を有していてもよい置換または無置換のアルキレン基である。アルキレン基は、末端や炭素‐炭素間に、エーテル、カルボニル、カルボキシ、アミド、イミド、カルバミド、カルバメート等を含んでいてもよい。ZはZと同一の基である。mおよびnは、それぞれ独立に、0〜6の整数である。末端基Aは、水素原子、第一級アミノ基(−NH)、または−Si(OR4142(3−k)で表されるアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基(kは1〜3の整数、R41およびR42はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基)である。
【0027】
一般式(IV)における2つのZが、いずれもm=0であり、末端基Aがアミノ基である化合物は下記式(V)で表される。
【0028】
【化4】
【0029】
上記一般式(V)の化合物は、例えば、ハロゲン化シアヌルと、3モル当量のアルキレンジアミンとを反応させることにより得られる。アルキレンジアミンの一方のアミノ基がハロゲン化シアヌルと反応し、他方のアミノ基が未反応の場合は、上記式(V)のように、末端にアミノ基を有する誘導体が得られる。アルキレンジアミンの両方のアミノ基がハロゲン化シアヌルと反応すると、複数のトリアジン環を有する芳香族化合物(上記のZにおけるmが1以上の化合物)が生成する。
【0030】
上記一般式(IV)で表されるトリアジン誘導体の重合度が高くなると、水や有機溶媒に対する溶解性が低下する場合がある。そのため、末端にアミノ基を有するトリアジン誘導体の合成においては、ハロゲン化シアヌルに対して過剰のアルキレンジアミンを用いることが好ましい。
【0031】
一般式(IV)における2つのZのうち、一方のZがm=0、末端基Aがアミノ基であり、他方のZがm=0、末端基Aがトリアルコキシシリル基である化合物は下記式(VI)で表される。
【0032】
【化5】
【0033】
上記一般式(VI)で表される化合物は、トリアジン環およびアミノ基およびアミノ基を有するシランカップリング剤であり、例えばWO2013/186941号に記載の方法により得られる。
【0034】
トリアジン環を有する芳香族化合物としては、上記以外にも、下記一般式(VII)および(VIII)で表されるように、トリアジン環にアルキレンチオ基が結合した化合物等が挙げられる(例えば、特開2016−37457号)。
【0035】
【化6】
【0036】
上記一般式(VII)および(VIII)において、R21〜R24は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基またはメトキシ基を表す。R31は、第一級アミノ基(−NH)、または−Si(OR4142(3−k)で表されるアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基(kは1〜3の整数、R41およびR42はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基)である。pは0〜16の整数であり、qは1または2である。
【0037】
芳香族化合物の例として、イミダゾール環を有するシラン化合物、トリアゾール環を有するシラン化合物およびトリアジン環を有する化合物を例示したが、前述のように、被膜形成用組成物に用いられる芳香族化合物は、一分子中にアミノ基および芳香環を有していればよく、上記例示の化合物に限定されない。
【0038】
(芳香族化合物の含有量)
被膜形成組成物中の芳香族化合物の含有量は特に限定されないが、金属表面への被膜形成性と溶液の安定性とを両立する観点から、0.1〜10重量%が好ましく、0.2〜5重量%がより好ましく、0.3〜3重量%がさらに好ましい。
【0039】
<多塩基酸>
多塩基酸は、ハロゲン化物イオンと共に被膜形成を促進する作用を有し、金属層と樹脂との接着性向上にも寄与する。本発明の被膜形成用組成物に用いられる多塩基酸は、2以上のカルボキシ基を有する有機酸である。多塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、メチルマロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘキサフルオログルタル酸、マレイン酸、酒石酸、ジグリコール酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ホモフタル酸、リンゴ酸、3,6−ジオキサオクタンジカルボン酸、メルカプトコハク酸、チオジグリコール酸、1,2−フェニレンジオキシジ酢酸、1,2−フェニレンジ酢酸、1,3−フェニレンジ酢酸、1,4−フェニレンジ酢酸、1,4−フェニレンジプロピオン酸、4−カルボキシフェノキシ酢酸等のジカルボン酸;クエン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1−プロペン−1,2,3−トリカルボン酸等のトリカルボン酸;1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等のテトラカルボン酸;1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、メリチン酸等のヘキサカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、マロン酸、マレイン酸等の二価のカルボン酸(ジカルボン酸)が好ましい。
【0040】
被膜形成組成物中の多塩基酸の含有量は、上記の芳香族化合物の含有量に対して、重量比で0.03〜10倍である。芳香族化合物と多塩基酸の含有比をこの範囲とすることにより、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面に形成できる。多塩基酸の含有量は、芳香族化合物の含有量の0.05〜1倍が好ましく、0.08〜0.8倍がより好ましく、0.1〜0.5倍がさらに好ましい。
【0041】
<ハロゲン化物イオン>
ハロゲン化物イオンは、金属表面への被膜形成を促進する成分であり、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンから選択される1種以上が好ましい。中でも、被膜形成性に優れることから、塩化物イオンが好ましい。被膜形成用組成物中には2種以上のハロゲン化物イオンが含まれていてもよい。
【0042】
ハロゲン化物イオン源としては、塩酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化銅、臭化銅、塩化亜鉛、塩化鉄、臭化錫等が挙げられる。ハロゲン化物イオン源は2種以上を併用してもよい。
【0043】
被膜形成組成物中のハロゲン化物イオンの濃度は5〜600mMである。ハロゲン化物イオン濃度がこの範囲であれば、金属表面に安定な被膜が形成される。被膜形成性を高める観点から、被膜形成組成物中のハロゲン化物イオン濃度は、10〜400mMが好ましく、20〜200mMがより好ましい。
【0044】
<溶媒>
上記の各成分を溶媒に溶解することにより、本発明の被膜形成組成物が調製される。溶媒は、上記各成分を溶解可能であれば特に限定されず、水、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素等を用いることができる。水としては、イオン性物質や不純物を除去した水が好ましく、例えばイオン交換水、純水、超純水等が好ましく用いられる。
【0045】
<他の成分>
本発明の被膜形成用組成物には、上記以外の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、界面活性剤、安定化剤、シランカップリング剤、pH調整剤等が挙げられる。例えば、上記の芳香族化合物がアルコキシシリル基を有していない場合(すなわち芳香族化合物がシランカップリング剤ではない場合)、添加剤としてシランカップリング剤を含有することにより、金属表面と樹脂との接着性が向上する傾向がある。また、上記の芳香族化合物がシランカップリング剤である場合も、被膜形成用組成物中に、添加剤として他のシランカップリング剤が含まれていてもよい。
【0046】
本発明の被膜形成組成物は、pHが6〜9の範囲に調整される。被膜形成組成物のpHは6.5〜8がより好ましい。pH調整剤としては、各種の酸およびアルカリを特に制限なく用いることができる。
【0047】
上記の芳香族化合物がアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤である場合、中性のpH領域の被膜形成用組成物中において、シランカップリング剤の一部または全部が縮合していてもよい。ただし、縮合が過度に進行すると、シランカップリング剤が析出して、被膜の形成性が低下する場合がある。そのため、シランカップリング剤が縮合している場合でも、重量平均分子量は、1500以下が好ましく、1200以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましく、重量平均分子量がこの範囲となるように縮合度を抑制することが好ましい。
【0048】
[金属部材表面への被膜の形成]
金属部材の表面に上記の被膜形成組成物を接触させ、必要に応じて溶媒を乾燥除去することにより、図1に示すように、金属部材11の表面に被膜12が形成される。被膜12は、樹脂との接着性向上用被膜であり、金属部材の表面に被膜が設けられることにより、金属部材と樹脂との接着性が向上する。
【0049】
金属部材としては、半導体ウェハー、電子基板およびリードフレーム等の電子部品、装飾品、ならびに建材等に使用される銅箔(電解銅箔、圧延銅箔)の表面や、銅めっき膜(無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜)の表面、あるいは線状、棒状、管状、板状等の種々の用途の銅材が例示できる。特に、本発明の被膜形成用組成物は、銅または銅合金の表面への被膜形成性に優れている。そのため、金属部材としては、銅箔、銅めっき膜、および銅材等が好ましい。
【0050】
金属部材表面への被膜の形成は、例えば以下のような条件で行われる。
まず、酸等により、金属部材の表面を洗浄する。次に、上記の被膜形成用組成物に金属表面を浸漬し、2秒〜5分間程度浸漬処理をする。この際の溶液の温度は、10〜50℃程度が好ましく、より好ましくは15〜35℃程度である。浸漬処理では、必要に応じて搖動を行ってもよい。その後、乾燥により溶媒を除去することにより、金属部材11の表面に被膜12を有する表面処理金属部材10が得られる。
【0051】
上記の被膜形成組成物は、金属表面への被膜形成性に優れるとともに、金属表面への吸着性が高い。そのため、被膜形成後に水洗を行っても、金属表面への被膜形成状態が維持される。また、金属と他の材料との複合部材に対して被膜形成組成物を適用した場合、金属表面に選択的に被膜を形成できる。
【0052】
なお、図1では、板状の金属部材11の片面にのみ被膜12が形成されているが、金属部材の両面に被膜が形成されてもよい。被膜は樹脂との接合面の全体に形成されることが好ましい。金属部材表面への被膜の形成方法は、浸漬法に限定されず、スプレー法やバーコート法等の適宜の塗布方法を選択できる。
【0053】
[金属‐樹脂複合体]
表面処理金属部材10の被膜12形成面上に、樹脂部材20を接合することにより、図2に示す金属‐樹脂複合体50が得られる。なお、図2では、板状の金属部材11の片面にのみ被膜12を介して樹脂部材(樹脂層)20が積層されているが、金属部材の両面に樹脂部材が接合されてもよい。
【0054】
表面処理金属部材10と樹脂部材20との接合方法としては、積層プレス、ラミネート、塗布、射出成形、トランスファーモールド成形等の方法を採用できる。例えば、銅層あるいは銅合金層表面に接着層を介して樹脂層を積層することにより、プリント配線板等に用いられる金属‐樹脂積層体が得られる。
【0055】
上記樹脂部材を構成する樹脂は、特に限定されず、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリプロピレン、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、シアネートエステル等の熱硬化性樹脂、あるいは紫外線硬化性エポキシ樹脂、紫外線硬化性アクリル樹脂等の紫外線硬化性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は官能基によって変性されていてもよく、ガラス繊維、アラミド繊維、その他の繊維等で強化されていてもよい。
【0056】
本発明の被膜形成用組成物を用いて金属表面に形成された被膜は、金属と樹脂との接着性に優れるため、他の層を介することなく、金属部材表面に設けられた被膜12上に直接樹脂部材20を接合できる。すなわち、本発明の被膜形成用組成物を用いることにより、他の処理を行わずとも、金属部材表面に被膜を形成し、その上に直接樹脂部材を接合するのみで、高い接着性を有する金属‐樹脂複合体が得られる。
【0057】
接合する樹脂材料の種類等に応じて、被膜12上に、シランカップリング剤等からなる接着層を形成してもよい。金属表面に形成された被膜12は、樹脂との接着性に優れることに加えて、シランカップリング剤等の接着成分を金属表面に固定するための下地としての作用も有している。本発明の被膜形成組成物を用いて金属表面に形成された被膜上に他の接着層を設けることにより、金属と樹脂との接着性をさらに向上できる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例を比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[試験用銅箔の準備]
電解銅箔(三井金属鉱業社製 3EC-III、厚み35μm)を100mm×100mmに裁断し、常温の6.25重量%硫酸水溶液に20秒間浸漬揺動して除錆処理を行った後、水洗・乾燥したものを試験用銅箔(テストピース)として使用した。
【0060】
[溶液の調製]
表1に示す成分を所定の配合量(濃度)となるようにイオン交換水に溶解した後、表1に示すpHとなるように、1.0N塩酸または1.0N水酸化ナトリウム水溶液を加えて、溶液を調製した。
【0061】
シランカップリング剤Aは、下記式で表されるイミダゾール系のシランカップリング剤であり、市販品(JX金属 IS1000)を用いた。下記式において、R〜Rはそれぞれアルキル基であり、nは1〜3の整数である。
【0062】
【化7】
【0063】
シランカップリング剤Bは、下記式で表されるN,N’ビス(2‐アミノエチル)‐6‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)アミノ‐1,3,5‐トリアジン‐2,4‐ジアミンであり、WO2013/186941号の実施例1に従って合成した。
【0064】
【化8】
【0065】
シランカップリング剤Cは、下記式で表される5‐(3‐トリメトキシシリルプロピルスルファニル)‐4H‐1,2,4‐トリアゾール‐3‐アミンであり、特開2016−56449号の参考例1−2に従って合成した。
【0066】
【化9】
【0067】
シランカップリング剤Dは、下記式で表されるN‐(1H‐イミダゾール‐2‐イルメチル)‐3‐トリヒドロキシシリル‐プロパン‐1‐アミンであり、特開2015−214743の参考例1に従って合成した。
【0068】
【化10】
【0069】
シランカップリング剤Eは、下記式で表されるN‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランであり、市販品(信越シリコーン KBM-573)を用いた。
【0070】
【化11】
【0071】
シランカップリング剤Fは、下記式で表されるN‐(2‐アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランであり、市販品(信越シリコーン KBM-603)を用いた。
【0072】
【化12】
【0073】
「メラミン系化合物」は、下記式で表される化合物であり、以下の合成例により合成した。
【0074】
【化13】
【0075】
<メラミン系化合物の合成例>
50〜55℃に維持した無水エチレンジアミン(1.5モル)のTHF溶液に、塩化シアヌル(0.1モル)のTHF溶液を滴下した。その後、50〜55℃で3時間反応させた後、20℃まで冷却した。反応溶液に水酸化ナトリウム水溶液およびイソプロピルアルコールを加え、溶媒を留去した。その後、脱水エタノールを加え、沈殿した塩化ナトリウムを濾別した。濾液のエタノールおよびエチレンジアミンを留去して、水あめ状の反応生成物を得た。
【0076】
[評価]
<被膜形成性>
表1の溶液(25℃)中に、テストピースを30秒浸漬した後、液切りを行い、室温で3分風乾した。その後、水洗および乾燥を行い、目視での色調変化、および赤外線吸収(反射吸収)スペクトルによる有機成分由来ピークの有無から、被膜形成性を評価した。銅箔表面の色調の変化がみられ、かつ有機成分由来のピークが確認されたものを「良」、色調の変化はみられたが有機成分由来のピークが確認されなかったもの(銅箔の表面が侵食されたのみで、被膜が形成されなかったもの)を「不良」とした。
【0077】
<レジスト接着性>
上記の被膜形成処理を行ったテストピース上に、厚み20μmのドライフィルムレジストを密着させた後、積算光量100mJのUV光を照射してレジストを光硬化させた。硬化後のレジストの表面に1cm間隔で切り込みを入れた後、6N塩酸に10分間浸漬した。水洗および乾燥後に、レジスト表面に粘着テープを貼り合わせ、引き剥しを行い、以下の4段階で、銅とレジスト間の接着性を評価した。
4:レジストが銅と接着した状態を維持しており、レジストがテープ側に移らない
3:切り込み部分に沿ってレジストが銅から剥離し、テープ側に移る
2:切り込み部分およびその周辺部分においてレジストが銅から剥離し、テープ側に移る
1:切り込み部分およびその周辺部以外においてもレジストが銅から剥離し、テープ側に移る
【0078】
実施例および比較例の溶液の組成、および評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、実施例1〜11では、いずれも金属表面に被膜が形成されていたのに対して、芳香環を有していないシランカップリング剤Fを用いた比較例1では、被膜が形成されていなかった。
【0081】
比較例2,3,4では、芳香族化合物として、実施例2,3と同一のメラミン系化合物を用いたが、被膜が形成されていなかった。比較例2ではpHが低く、比較例3ではpHが高いため、被膜形成性が低下したと考えられる。比較例4では、ハロゲン化物イオン濃度が高いことが、被膜形成性低下の原因であると考えられる。
【0082】
実施例4,5と同一の芳香族化合物(シランカップリング剤A)を用いた比較例6、および実施例6〜8と同一の芳香族化合物(シランカップリング剤B)を用いた比較例8,9では、被膜が形成されていなかった。比較例6,8では、ハロゲン化物イオン濃度が小さいことが、被膜形成性低下の原因であると考えられる。比較例9では、多塩基酸の量が少ないことが、被膜形成性低下の原因であると考えられる。
【0083】
銅箔の表面に被膜が形成されていなかった比較例1〜4,6,8,9は、いずれも銅箔とドライフィルムレジストとの接着性が低かった。一方、比較例5,では、被膜が形成されていたにも関わらず、被膜が形成されていない場合と同様に、銅箔とドライフィルムレジストとの接着性が低かった。比較例5では、多塩基酸の量が多いことが接着性低下の原因であると考えられる。比較例7では多塩基酸が用いられずモノカルボン酸である酢酸が用いられたことが接着性低下の原因であると考えられる。
【0084】
実施例1〜11では、いずれも銅とレジスト間の接着性評価の評点が2以上であり、良好な接着性を示した。これらの実施例では、同一の芳香族化合物を用いた場合でも、多塩基酸およびハロゲン化物の配合量を変更することにより、密着性の評点に差異が生じていた。これらの結果から、芳香族化合物と共に用いる多塩基酸およびハロゲン化物イオンの濃度を調整することにより、金属表面への被膜形成性が向上し、金属‐樹脂間の接着性に優れる複合体を形成できることが分かる。
図1
図2