【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、この点について鋭意研究し、酸化マグネシウムのうち、特に、粒径の極めて小さい微粒子の所謂ナノ酸化マグネシウムに着目し、このナノ酸化マグネシウムの添加が、極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記の目的を達成するため本発明の金属焼結体の製造方法は、粉末状の金属材料とバインダとを混合して混合物を得る混合工程と、混合工程で得られた混合物を金属射出成形機において所要の形状の成形体に成形する射出成形工程と、射出成形工程で得られた成形体の脱脂処理を行う脱脂工程と、脱脂工程によって脱脂処理された成形体を焼結して金属焼結体を得る焼結工程とを備えた金属焼結体の製造方法において、
上記混合工程において、金属材料及びバインダに、平均粒径φwが、φw=10nm〜300nm、最大粒径φmが、φm≦350nmの酸化マグネシウム粉末を、0.1〜10重量%混合する構成としている。
好ましくは、φw=25nm〜250nm、φm≦300nm、より好ましくは、φw=40nm〜210nm、φm≦260nmである。
酸化マグネシウム(MgO)は、融点2800℃、沸点3600℃、密度3.65g/cm
3 であり、白色または灰色で水に難溶の固体である。また、酸化マグネシウムは、耐熱性,耐食性に優れ、絶縁性が高く、熱伝導性も高い。
より詳しくは、本発明においては、上記金属材料は、ステンレス鋼(SUS)からなり、上記混合工程において、用いる金属材料の粉末は、平均粒径φxが、φx=2μm〜60μm、最大粒径φyが、φy≦120μmのものを用いた。
そして、上記混合工程において、金属材料及びバインダに、平均粒径φwが、φw=200nm、最大粒径φmが、φm≦250nm
、純度が99.98質量%以上であり、一次粒子が単結晶である、酸化マグネシウム粉末を、0.1〜10重量%混合する構成としている。
【0006】
また、金属材料は、70〜98重量%、バインダは、1〜25重量%の範囲に設定される。
本発明に用いるバインダとしては、例えば、アタクチック、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、酸化ワックス、エステルワックス、ステアリン酸、鉱油、天然ワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ジエチルフタレート、ジブチルフタレートエチレン、ジオクチルフタート、脂肪酸エステル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリアセタール(POM)、アクリル系樹脂、ナフタリンまたはこれらの共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
本発明においては、必要に応じ、バインダとして、パラフィンワックスを1〜12重量%、ポリアセタールを1〜12重量%混合する構成としている。
【0007】
これにより、混合工程で、金属材料及びバインダに、酸化マグネシウムの微粒子(ナノ粒子)を混合し、射出成形工程,脱脂工程を経て、焼結工程で成形体を焼結すると、一般に、金属粉末の平均粒径は、1μm〜100μmの範囲にあり、これに比較すると、酸化マグネシウムの粒径は極めて小さく、そのため、焼結の際、金属材料粒子と酸化マグネシウム粒子が共存した状態から温度が上がって行くにしたがい、この昇温過程で有機材料は分解揮発するので、酸化マグネシウムが金属材料粒子間に、その隙間を埋めるように介在していき、そのため、組織が緻密化した金属の固有体サーメットとなる。これにより、金属焼結体の硬度が増して高剛性化し、耐摩耗性が向上させられ、寸法安定性が向上させられる等、確実に品質を向上させることができるようになる。また、酸化マグネシウムは、耐熱性,耐食性に優れ、絶縁性が高く、熱伝導性も高いことから、この点でも、金属焼結体の品質を向上させることができる。
【0008】
そして、必要に応じ、上記混合工程を、非酸素雰囲気中において行う構成としている。この非酸素雰囲気は、例えば、真空状態をはじめ、窒素ガス、アルゴン,ヘリウム等の不活性ガス、アンモニアガスの少なくともいずれか一種から選択される。
これにより、酸化マグネシウムは微粒子(ナノ粒子)なので酸素の悪影響を受け易いが、非酸素雰囲気において酸化マグネシウムの混合を行うので、酸素の悪影響を抑止することができ、焼結時に金属材料粉末間に確実に介在させて、一体化させることができるようになる。
【0009】
また、必要に応じ、上記混合工程において、混合温度Tkを、Tk=120℃〜200℃にした構成としている。これにより、バインダが溶解し金属粉末と均一に混練されることになる。
【0010】
更に、必要に応じ、上記射出成形工程において、成形金型温度Tjを、Tj=30℃〜125℃にした構成としている。これにより、混合物であるペレット状に固化した金属粉末、バインダが軟化し、射出成形が可能になる。
【0011】
更にまた、必要に応じ、上記脱脂工程において、最高脱脂温度Tdを、Td=300℃〜800℃にした構成としている。これにより、真空条件下において段階を踏まえて昇温することにより、バインダが溶解、気化し脱脂される。
【0012】
また、必要に応じ、上記焼結工程において、
ステンレス鋼(SUS)の融点温度をTm(1350℃〜1550℃)としたときに、焼結温度Ts
(℃)を、Ts=(0.80〜0.99)Tmにした構成としている。これにより、脱脂された金属粉体が確実に焼結される。
【0013】
そして、必要に応じ、上記金属材料は、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金の少なくともいずれか一種から選ばれる構成としている。金属材料の種類は問わないが、精密部品に使われるこの種の金属に特に有効になる。
【0014】
この場合、必要に応じ、上記金属材料は、鉄系金属である構成としている。鉄系金属は、純鉄、普通鋼、特殊鋼等が挙げられる。普通鋼としては、JIS表示で示すと、例えば、SS、SC、SPC、SPCC等が挙げられる。特殊鋼としては、JIS表示で示すと、例えば、SUS、SMn、SCr、SCM、SNCM、SWRH、SUH、SK、SKH、SKS、SKD、SKC、SUP、SWRS、SUJ等が挙げられる。鉄系金属は機械的強度などに優れる汎用性のある材料であることから、鉄系金属を用いて実用的な接合界面強度を有する金属焼結体が得られることの意義は大きい。
【0015】
上述したように、本発明においては、上記金属材料は、ステンレス鋼(SUS)からなり、上記混合工程において、用いる金属材料の粉末は、平均粒径φxが、φx=2μm〜60μm、最大粒径φyが、φy≦120μmである構成としている。
【0016】
そしてまた、上記の目的を達成するため本発明の金属焼結体は、上記の製造方法によって製造される金属焼結体にある。この金属焼結体は、上記の通り、組織が緻密化し、金属焼結体の硬度が増して高剛性化し、耐摩耗性が向上させられ、寸法安定性が向上させられる等、確実に品質を向上させることができるようになる。