特許第6232610号(P6232610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232610
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】金属焼結体の製造方法及び金属焼結体
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/02 20060101AFI20171113BHJP
   C22C 33/02 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
   B22F3/02 N
   B22F3/02 S
   !C22C33/02 D
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-126208(P2013-126208)
(22)【出願日】2013年6月16日
(65)【公開番号】特開2015-1010(P2015-1010A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】513152447
【氏名又は名称】エクトム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】沖崎 金光
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 修三
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−515542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の金属材料とバインダとを混合して混合物を得る混合工程と、
混合工程で得られた混合物を金属射出成形機において所要の形状の成形体に成形する射出成形工程と、
射出成形工程で得られた成形体の脱脂処理を行う脱脂工程と、
脱脂工程によって脱脂処理された成形体を焼結して金属焼結体を得る焼結工程とを備えた金属焼結体の製造方法において、
上記金属材料は、ステンレス鋼(SUS)からなり、上記混合工程において、用いる金属材料の粉末は、平均粒径φxが、φx=2μm〜60μm、最大粒径φyが、φy≦120μmであり、
上記混合工程において、金属材料及びバインダに、平均粒径φwが、φw=200nm、最大粒径φmが、φm≦250nm、純度が99.98質量%以上であり、一次粒子が単結晶である、酸化マグネシウム粉末を、0.1〜10重量%混合することを特徴とする金属焼結体の製造方法。
【請求項2】
上記混合工程を、非酸素雰囲気中において行うことを特徴とする請求項1記載の金属焼結体の製造方法。
【請求項3】
上記混合工程において、混合温度Tkを、Tk=120℃〜200℃にし、
上記射出成形工程において、成形金型温度Tjを、Tj=30℃〜125℃にし、
上記脱脂工程において、最高脱脂温度Tdを、Td=300℃〜800℃にしたことを特徴とする請求項1または2記載の金属焼結体の製造方法。
【請求項4】
バインダとして、パラフィンワックスを1〜12重量%、ポリアセタールを1〜12重量%混合したことを特徴とする請求項3記載の金属焼結体の製造方法。
【請求項5】
上記焼結工程において、ステンレス鋼(SUS)の融点温度をTm(1350℃〜1550℃)としたときに、焼結温度Ts(℃)を、Ts=(0.80〜0.99)Tmにしたことを特徴とする請求項1乃至4何れかに記載の金属焼結体の製造方法。
【請求項6】
上記請求項1乃至5何れかに記載の金属焼結体の製造方法によって製造されることを特徴とする金属焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂「MIM(Metal Injection Molding)」法といわれる金属射出成形法を用いて金属焼結体を製造する金属焼結体の製造方法及び金属焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、所謂MIM法を用いて金属焼結体を製造する方法は、複雑形状の金属部品をプラスチックと同様なプロセスで量産できるため、近年、金属の加工法として注目されている。特に、精密な部品を特殊な材料で量産するのに優れているので、医療機器部品、自動車部品、OA機器部品など多くの部品の加工方法として採用されている。
従来、この種の金属焼結体の製造方法は、粉末状の金属材料に樹脂やワックスなどの流動性を持たせるバインダ(結合材)を添加し、加熱・混練して可塑性を持たせ、プラスチックと同様に射出成形し、その後、バインダを除去(脱脂)し、焼結して所望の金属焼結体を得ている。また、MIM法を用いてセラミックスを製造する方法も知られている。このセラミックスを製造する際には、必要に応じて、ホウ素,ベリリウム,炭素,酸化イットリウム,酸化セリウム,酸化マグネシウム,酸化リチウム等の焼結助剤を添加し、緻密化を図ることも行われている(例えば、特開平4−83752号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−83752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の金属焼結体の製造方法において、得られる金属焼結体の品質向上、例えば、高硬度化,高剛性化,高耐摩耗性,高寸法安定性を図ることの要求がある。このため、金属焼結体においても、セラミックスと同様に、ホウ素,ベリリウム,炭素,酸化イットリウム,酸化セリウム,酸化マグネシウム,酸化リチウム等の焼結助剤を添加することが検討される。しかしながら、単にこれらの焼結助剤を金属材料に適用しても、必ずしも、良好な品質向上を得ることは困難であった。
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、高硬度化,高剛性化,高耐摩耗性,高寸法安定性等の品質向上を確実に達成できるようにした金属焼結体の製造方法及び金属焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、この点について鋭意研究し、酸化マグネシウムのうち、特に、粒径の極めて小さい微粒子の所謂ナノ酸化マグネシウムに着目し、このナノ酸化マグネシウムの添加が、極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記の目的を達成するため本発明の金属焼結体の製造方法は、粉末状の金属材料とバインダとを混合して混合物を得る混合工程と、混合工程で得られた混合物を金属射出成形機において所要の形状の成形体に成形する射出成形工程と、射出成形工程で得られた成形体の脱脂処理を行う脱脂工程と、脱脂工程によって脱脂処理された成形体を焼結して金属焼結体を得る焼結工程とを備えた金属焼結体の製造方法において、
上記混合工程において、金属材料及びバインダに、平均粒径φwが、φw=10nm〜300nm、最大粒径φmが、φm≦350nmの酸化マグネシウム粉末を、0.1〜10重量%混合する構成としている。
好ましくは、φw=25nm〜250nm、φm≦300nm、より好ましくは、φw=40nm〜210nm、φm≦260nmである。
酸化マグネシウム(MgO)は、融点2800℃、沸点3600℃、密度3.65g/cm3 であり、白色または灰色で水に難溶の固体である。また、酸化マグネシウムは、耐熱性,耐食性に優れ、絶縁性が高く、熱伝導性も高い。
より詳しくは、本発明においては、上記金属材料は、ステンレス鋼(SUS)からなり、上記混合工程において、用いる金属材料の粉末は、平均粒径φxが、φx=2μm〜60μm、最大粒径φyが、φy≦120μmのものを用いた。
そして、上記混合工程において、金属材料及びバインダに、平均粒径φwが、φw=200nm、最大粒径φmが、φm≦250nm、純度が99.98質量%以上であり、一次粒子が単結晶である、酸化マグネシウム粉末を、0.1〜10重量%混合する構成としている。
【0006】
また、金属材料は、70〜98重量%、バインダは、1〜25重量%の範囲に設定される。
本発明に用いるバインダとしては、例えば、アタクチック、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、酸化ワックス、エステルワックス、ステアリン酸、鉱油、天然ワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ジエチルフタレート、ジブチルフタレートエチレン、ジオクチルフタート、脂肪酸エステル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリアセタール(POM)、アクリル系樹脂、ナフタリンまたはこれらの共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
本発明においては、必要に応じ、バインダとして、パラフィンワックスを1〜12重量%、ポリアセタールを1〜12重量%混合する構成としている。
【0007】
これにより、混合工程で、金属材料及びバインダに、酸化マグネシウムの微粒子(ナノ粒子)を混合し、射出成形工程,脱脂工程を経て、焼結工程で成形体を焼結すると、一般に、金属粉末の平均粒径は、1μm〜100μmの範囲にあり、これに比較すると、酸化マグネシウムの粒径は極めて小さく、そのため、焼結の際、金属材料粒子と酸化マグネシウム粒子が共存した状態から温度が上がって行くにしたがい、この昇温過程で有機材料は分解揮発するので、酸化マグネシウムが金属材料粒子間に、その隙間を埋めるように介在していき、そのため、組織が緻密化した金属の固有体サーメットとなる。これにより、金属焼結体の硬度が増して高剛性化し、耐摩耗性が向上させられ、寸法安定性が向上させられる等、確実に品質を向上させることができるようになる。また、酸化マグネシウムは、耐熱性,耐食性に優れ、絶縁性が高く、熱伝導性も高いことから、この点でも、金属焼結体の品質を向上させることができる。
【0008】
そして、必要に応じ、上記混合工程を、非酸素雰囲気中において行う構成としている。この非酸素雰囲気は、例えば、真空状態をはじめ、窒素ガス、アルゴン,ヘリウム等の不活性ガス、アンモニアガスの少なくともいずれか一種から選択される。
これにより、酸化マグネシウムは微粒子(ナノ粒子)なので酸素の悪影響を受け易いが、非酸素雰囲気において酸化マグネシウムの混合を行うので、酸素の悪影響を抑止することができ、焼結時に金属材料粉末間に確実に介在させて、一体化させることができるようになる。
【0009】
また、必要に応じ、上記混合工程において、混合温度Tkを、Tk=120℃〜200℃にした構成としている。これにより、バインダが溶解し金属粉末と均一に混練されることになる。
【0010】
更に、必要に応じ、上記射出成形工程において、成形金型温度Tjを、Tj=30℃〜125℃にした構成としている。これにより、混合物であるペレット状に固化した金属粉末、バインダが軟化し、射出成形が可能になる。
【0011】
更にまた、必要に応じ、上記脱脂工程において、最高脱脂温度Tdを、Td=300℃〜800℃にした構成としている。これにより、真空条件下において段階を踏まえて昇温することにより、バインダが溶解、気化し脱脂される。
【0012】
また、必要に応じ、上記焼結工程において、ステンレス鋼(SUS)の融点温度をTm(1350℃〜1550℃)としたときに、焼結温度Ts(℃)を、Ts=(0.80〜0.99)Tmにした構成としている。これにより、脱脂された金属粉体が確実に焼結される。
【0013】
そして、必要に応じ、上記金属材料は、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金の少なくともいずれか一種から選ばれる構成としている。金属材料の種類は問わないが、精密部品に使われるこの種の金属に特に有効になる。
【0014】
この場合、必要に応じ、上記金属材料は、鉄系金属である構成としている。鉄系金属は、純鉄、普通鋼、特殊鋼等が挙げられる。普通鋼としては、JIS表示で示すと、例えば、SS、SC、SPC、SPCC等が挙げられる。特殊鋼としては、JIS表示で示すと、例えば、SUS、SMn、SCr、SCM、SNCM、SWRH、SUH、SK、SKH、SKS、SKD、SKC、SUP、SWRS、SUJ等が挙げられる。鉄系金属は機械的強度などに優れる汎用性のある材料であることから、鉄系金属を用いて実用的な接合界面強度を有する金属焼結体が得られることの意義は大きい。
【0015】
上述したように、本発明においては、上記金属材料は、ステンレス鋼(SUS)からなり、上記混合工程において、用いる金属材料の粉末は、平均粒径φxが、φx=2μm〜60μm、最大粒径φyが、φy≦120μmである構成としている。
【0016】
そしてまた、上記の目的を達成するため本発明の金属焼結体は、上記の製造方法によって製造される金属焼結体にある。この金属焼結体は、上記の通り、組織が緻密化し、金属焼結体の硬度が増して高剛性化し、耐摩耗性が向上させられ、寸法安定性が向上させられる等、確実に品質を向上させることができるようになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属材料及びバインダに酸化マグネシウムの微粒子(ナノ粒子)を混合して焼結すると、金属材料の粒径に比較して酸化マグネシウムの粒径は極めて小さいので、酸化マグネシウムが金属材料粒子間に、その隙間を埋めるように介在していき、そのため、組織が緻密化した金属の固有体サーメットとなる。そのため、金属焼結体の硬度が増して高剛性化し、耐摩耗性が向上させられ、寸法安定性が向上させられる等、確実に品質を向上させることができるようになる。このため、精密部品の製造に寄与できるようになる。
【0018】
また、酸化マグネシウムは、耐熱性,耐食性に優れ、絶縁性が高く、熱伝導性も高いことから、この点でも、金属焼結体の品質を向上させることができる。特に、絶縁性が高いことに起因し、ポーラスな金属焼結体と相まって、金属製の絶縁体を生成することも可能になる。更に、酸化マグネシウムは、従来、機械的強度が弱い欠点もあることから、用途開発が遅れていたが、本発明により、有効利用を図ることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態に係る金属焼結体の製造方法を示す工程図である。
図2】本発明の実施例に係る金属焼結体の製造方法において、混合工程における金属材料、バインダ及び酸化マグネシウム粉末の混合比の範囲を示す表図である。
図3】本発明の実施例1,2及び比較例に係る金属焼結体の形状を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
図4】本発明の実施例1,2及び比較例についての硬度測定及び収縮率測定の結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る金属焼結体の製造方法及び金属焼結体について詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る金属焼結体の製造方法は、(1)混合工程、(2)射出成形工程、(3)脱脂工程、(4)焼結工程からなる金属射出成形法(所謂「MIM」法)により金属焼結体を製造する。以下、各工程について説明する。
【0021】
(1)混合工程
粉末状の金属材料、バインダ及び酸化マグネシウム粉末を混合して混合物を得る。
金属材料は、どのような金属あるいは合金であっても良い。実施の形態では、金属材料は、例えば、鉄系金属であるステンレス鋼(SUS)で構成されている。金属粉末は、例えば、平均粒径φxが、φx=2μm〜60μm、最大粒径φyが、φy≦120μmである。実施の形態では、例えば、平均粒径25μm程度のものを用いた。
バインダとしては、どのようなものを用いても良い。実施の形態では、パラフィンワックスとポリアセタール(POM)との混合物を用いた。
【0022】
酸化マグネシウム(MgO)は、融点2800℃、沸点3600℃、密度3.65g/cm3 であり、白色または灰色で水に難溶の固体である。酸化マグネシウム粉末は、微粒子(ナノ粒子)であり、平均粒径φwが、φw=10nm〜300nm、最大粒径φmが、φm≦350nm、好ましくは、φw=25nm〜250nm、φm≦300nm、より好ましくは、φw=40nm〜210nm、φm≦260nmである。例えば、φw=40nm〜60nm、φm≦80nmのものを選択することができる。具体的には、酸化マグネシウム粉末として、「気相法高純度超微粉マグネシア2000A」(宇部マテリアルズ株式会社製)を用いる。この粉末は、平均粒径φwが、φw=200nm、最大粒径φmが、φm≦250nmである。
【0023】
金属材料、バインダ及び酸化マグネシウム粉末の混合比は、金属材料を70〜98重量%、バインダを1〜25重量%、酸化マグネシウム粉末を、0.1〜10重量%混合する。実施の形態では、図2に示すように、金属材料を80〜95重量%、バインダのパラフィンワックスを1〜12重量%、バインダのポリアセタール(POM)を1〜12重量%、酸化マグネシウム粉末を、0.1〜8重量%混合した。
【0024】
材料混練機(自転公転機能混練機)にこれらの材料を入れて、加熱,混練する。この混合工程において、混合温度Tkを、Tk=120℃〜200℃、例えば、Tk=175℃にした。これにより、バインダが溶解し金属粉末と均一に混練されることになる。その後ペレット化しておく。
【0025】
また、混合工程は、非酸素雰囲気中において行うことができる。この非酸素雰囲気は、例えば、真空状態をはじめ、窒素ガス、アルゴン,ヘリウム等の不活性ガス、アンモニアガスの少なくともいずれか一種から選択される。
これにより、酸化マグネシウムは微粒子(ナノ粒子)なので酸素の悪影響を受け易いが、非酸素雰囲気において酸化マグネシウムの混合を行うので、酸素の悪影響を抑止することができ、後述の焼結時に金属材料粉末間に確実に介在させて、一体化させることができるようになる。
【0026】
(2)射出成形工程
金属射出成形機において、ペレット化した混合物を混練して射出成形し、所要の形状の成形体に成形する。この射出成形工程において、成形金型温度Tjを、Tj=30℃〜125℃にした。実施の形態では、例えば、成形金型温度Tjを、Tj=45℃にした。これにより、混合物であるペレット状に固化した金属粉末、バインダが軟化し、射出成形が可能になる。
【0027】
(3)脱脂工程
脱脂焼結炉に入れ、先ず、真空条件下で脱脂を行う。これにより成形体の結合材の脱脂処理が行われる。この脱脂工程において、最高脱脂温度Tdを、Td=300℃〜800℃にした。これにより、真空条件下において段階を踏まえて昇温することにより、バインダが溶解、気化し脱脂される。
【0028】
(4)焼結工程
次に、脱脂焼結炉において、脱脂処理された成形体を焼結して金属焼結体を得る。この場合、1つの脱脂焼結炉で脱脂工程と連続して行うので、脱脂炉に入れて脱脂し、それから成形品を取り出して、焼結炉に入れて焼結する場合に比較し、作業工数が減り、短時間で焼結が完成するので、製造効率が大幅に向上させられる。
【0029】
この焼結工程において、ステンレス鋼(SUS)の融点温度Tm(例えば、1350℃〜1550℃)においては、焼結温度Ts(℃)を、Ts=(0.80〜0.99)Tmにした。これにより、脱脂された金属粉体が焼結され、密度95%以上の金属製品が出来る事になる。
【0030】
この焼結工程で成形体を焼結すると、ステンレス鋼(SUS)の平均粒径は、2μm〜60μmであり、これに比較すると、酸化マグネシウムの粒径は極めて小さく、そのため、焼結の際、ステンレス鋼(SUS)粒子と酸化マグネシウム粒子が共存した状態から温度が上がって行くにしたがい、この昇温過程で有機材料は分解揮発するので、酸化マグネシウムがステンレス鋼(SUS)粒子間に、その隙間を埋めるように介在していき、そのため、組織が緻密化した金属の固有体サーメットとなる。
【0031】
このようにして製造された金属焼結体によれば、組織が緻密化した金属の固有体サーメットとなるので、硬度が増して高剛性化し、耐摩耗性が向上させられ、寸法安定性が向上させられる等、確実に品質を向上させることができるようになる。このため、精度を向上させることができ、精密部品の製造に寄与できるようになる。
【実施例】
【0032】
次に、実施例1,2及び比較例を示す。実施例1,2及び比較例においては、金属材料として、ステンレス鋼である「SUS316L」(三菱製鋼株式会社製)を用いた。融点温度Tm≒1400℃、平均粒径φxが、φx=25μm、最大粒径φyが、φy≦50μmである。
バインダのパラフィンワックスとして、「SP_0145」(日本精鑞株式会社製)を用いた。バインダのポリアセタール(POM)として、「FA−02」(ポリプラスチック株式会社製)を用いた。
また、実施例1,2において、酸化マグネシウム粉末として、「気相法高純度超微粉マグネシア2000A」(宇部マテリアルズ株式会社製)を用いた。平均粒径φwが、φw=200nm、最大粒径φmが、φm≦250nmである。
【0033】
また、金属材料、バインダ及び酸化マグネシウム粉末の混合比を以下のようにした。
<実施例1>
SUS316L: 92 重量%
パラフィンワックス: 3.85重量%
ポリアセタール(POM): 3.15重量%
酸化マグネシウム粉末:1重量%
【0034】
<実施例2>
SUS316L: 89.76重量%
パラフィンワックス: 3.41重量%
ポリアセタール(POM): 2.93重量%
酸化マグネシウム粉末:3.9重量%
【0035】
<比較例>
SUS316L: 92重量%
パラフィンワックス: 4.4重量%
ポリアセタール(POM): 3.6重量%
酸化マグネシウム粉末:0重量%(無添加)
【0036】
そして、実施の形態と同様の工程に従い、図3に示す金属焼結体(直径D=17mm、厚さt=2mm)を作成した。
各工程の温度条件は、混合工程において、混合温度Tkを、Tk=175℃にした。また、混合工程は大気中で行った。射出成形工程において、成形金型温度Tjを、Tj=45℃にした。脱脂工程において、最高脱脂温度Tdを、Td=700℃にした。700℃までに至る時間を15.5時間にし、700℃で3.5時間保持した。焼結工程において、焼結温度Tsを、Ts=1395℃にした。700℃から1395℃に至る時間を4時間20分にし、1395℃で2時間保持した。
【0037】
実施例1,2及び比較例の各金属焼結体において、硬度と収縮率(金属焼結体の体積に対する成形体の体積比)を測定した。
結果を図4に示す。この結果から、酸化マグネシウムの微細粉末の添加により、硬度が増し、また、製品の収縮率が小さくなって、寸法安定性が増したことが分かる。
【0038】
尚、上記実施の形態において、金属材料やバインダは上述したものに限定されるものではなく、適宜選択してよい。また、酸化マグネシウムの微粉末の他、可塑剤,潤滑剤,助剤等を適宜添加しても良い。更に、製造条件も上述した条件に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
(1)混合工程
(2)射出成形工程
(3)脱脂工程
(4)焼結工程
図1
図2
図3
図4