特許第6232638号(P6232638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232638
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】肝前駆細胞増殖用培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20171113BHJP
【FI】
   C12N5/077
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-132152(P2013-132152)
(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公開番号】特開2015-6137(P2015-6137A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2016年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】古江 美保
(72)【発明者】
【氏名】水口 裕之
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−510434(JP,A)
【文献】 特開2012−175962(JP,A)
【文献】 特表2012−529901(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/018851(WO,A1)
【文献】 特表2013−511969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.03mM〜1mMのカルシウムイオンと、500mg/L〜4500mg/Lのグルコースと、0.1mM〜2.0mMのピルビン酸イオンとを含む基礎培地に、1〜20μg/mLのインスリン、0.1〜50μg/mLのトランスフェリン、0.01〜15μMの2−メルカプトエタノール、1〜30μMの2−エタノールアミン、1〜40μMのセレン酸、0.01〜50mg/mLの脂肪酸不含アルブミン、1〜500ng/mLのヘパリン、0.1〜50ng/mLのFGF−2、0.1〜50ng/mLのFGF−4、及び0.1〜50ng/mLのHGFからなるサプリメントを添加することにより作製されることを特徴とするヒト肝前駆細胞を増殖するための培地。
【請求項2】
ヒト肝前駆細胞の増殖が、分化能を保持した状態での増殖であることを特徴とする請求項1記載の培地。
【請求項3】
ヒト肝前駆細胞の増殖が、ヒト肝前駆細胞の増殖、凍結保存、解凍、増殖の各工程を有することを特徴とする請求項1又は2記載の培地。
【請求項4】
ヒト肝前駆細胞が、ヒトiPS細胞又はヒトES細胞をウイルスベクターを用いてヒトヘパトブラスト様細胞に分化させた細胞であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の培地。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の培地を用いることを特徴とするヒト肝前駆細胞の培養方法。
【請求項6】
水に添加して調製した場合に、0.03mM〜1mMのカルシウムイオンと、500mg/L〜4500mg/Lのグルコースと、0.1mM〜2.0mMのピルビン酸イオンとを含む基礎培地に、1〜20μg/mLのインスリン、0.1〜50μg/mLのトランスフェリン、0.01〜15μMの2−メルカプトエタノール、1〜30μMの2−エタノールアミン、1〜40μMのセレン酸、0.01〜50mg/mLの脂肪酸不含アルブミン、1〜500ng/mLのヘパリン、0.1〜50ng/mLのFGF−2、0.1〜50ng/mLのFGF−4、及び0.1〜50ng/mLのHGFからなるサプリメントを含む、ヒト肝前駆細胞増殖用培地を作製するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎培地とサプリメントからなるヒト肝前駆細胞を増殖するための培地に関し、より詳しくは、分化能を保持した状態のヒト肝前駆細胞の増殖用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトES細胞やヒトiPS細胞等のヒト多能性幹細胞は、薬剤の代謝・毒性評価のインビトロモデル系として、様々な臨床応用におけるソースとして期待されている。なかでも、薬剤毒性スクリーニングにおける体内の主要な解毒器官である肝蔵に関する検討は非常に限定されたものとなっていたので、ヒト多能性幹細胞由来の肝細胞様細胞(hepatocyte-like cells)の作製方法の開発は画期的なものであった。ヒト多能性幹細胞由来の肝細胞様細胞を医薬研究に使用するにあたっては、次の3つの条件が必要とされている。一つ目は、ヒト多能性幹細胞由来の肝(実質)細胞様細胞の作製について、効率的で再生可能な方法を開発が必要である。二つ目は、培地中の細胞は、適切な機能特性を示す必要がある。三つ目は、毒性予測アッセイは、多種多様な薬剤をテストするためには大量の細胞が必要とされ、そのため、機能的な肝細胞の増殖と維持のための有効な方法を開発する必要がある。
【0003】
一方、肝がん、劇症肝炎、肝硬変等の重度の肝臓疾患を完治させるための方法として、肝臓の臓器そのものの一部をドナーからレシピエントへ移植することが行われているが、移植ドナーの不足や、移植後においても免疫抑制療法が生涯必要になる場合がある等レシピエント側の負担の問題などがあり、肝臓臓器移植に代わる新しい治療法の開発が模索されており、中でも、細胞移植療法が注目されている。しかし、肝臓の一部を切除した又は障害を受けた後などの肝再生時には、インビボにおいては、幹細胞ではなく、成熟した肝蔵機能細胞である肝実質細胞や、各種の肝非実質細胞が一時的に増殖能を獲得して増殖することにより本来の大きさと機能とを回復することが知られている。しかし、移植細胞としてヒトの肝細胞そのものの利用を試みる場合、臓器から酵素的に分離することにより採取された細胞は、インビトロにおいて通常増殖能をほとんど有さず、また、培養や凍結保存することにより、肝細胞としての機能が通常急速に失われることが知られており、実用化は困難となっている。
【0004】
したがって、肝細胞を産業利用するためには、増殖能を有し、かつ肝実質細胞への分化能を有する肝前駆細胞の状態で、維持や増殖を行うことができ、さらには維持・増殖後に凍結保存した後に解凍した場合であっても、増殖・分化できる細胞を培養する技術を開発することが望まれている。
【0005】
最近、マウス胎仔又は成体マウスの皮膚細胞に、Hnf4αとFoxa(Foxa1,Foxa2,Foxa3のいずれかひとつ)という肝細胞の分化に関連した2つの転写因子を導入することで、肝細胞と非常に類似した細胞(iHep細胞;induced hepatocyte-like cell)へと直接に分化させることにより、iPS細胞を経由することなく、線維芽細胞から肝細胞を直接作製することに成功した旨の報告がされている(例えば、非特許文献1参照)
【0006】
しかしながら、異種間移植は当然として、動物実験における検討においても「種差の壁」の限界があり、ヒトにおける毒性についての予測性は十分とはいえない。利便性・汎用性の観点から、また実験動物使用制限の観点からも、ヒト培養細胞を用いた、よりよい安全性予測系・有効性評価系の開発や移植用細胞の開発が期待されている。
【0007】
他方、成人肝由来細胞として、肝細胞マーカーであるアルブミン(ALB)とともに、少なくとも1種の間葉系マーカー、つまりマーカーCD90、CD73、CD44、ビメンチン、およびα−平滑筋アクチン(ASMA)の好ましくは1つ、1つ以上、または全てを同時発現することを特徴とする、成人肝に由来する単離した前駆細胞もしくは幹細胞(例えば、特許文献1参照)等が知られており、肝前駆細胞を培養する方法としては、(a)肝幹細胞、肝芽細胞等の細胞を提供する工程と、(b)無血清培地中、並びに他の細胞外マトリックス成分を含む又は含まないヒアルロナンの複合体上であって、及び細胞集団を維持する、増殖させる及び/又は分化させるためのホルモン又は増殖因子を含む又は含まないヒアルロナンの複合体上で前記肝から得られる細胞を培養する工程とを含む、三次元(3−D)であり、長期的な維持、増殖及び/又は分化を許容する条件下で、細胞をエクスビボで維持する方法(例えば、特許文献2参照)や、肝前駆細胞をインビトロで増殖させる方法であって、(a)前記肝前駆細胞を分離すること、及び(b)前記分離肝前駆細胞を、肝臓の幹細胞コンパートメントに見られる細胞外マトリックス成分の1種以上で培養することを含んで構成される方法(例えば、特許文献3参照)や、ヒト肝前駆細胞の濃縮集団を含む混合物である、ヒト肝組織に由来する細胞の混合物を含む組成物を提供する方法であって、(a)未熟細胞および成熟細胞を含む種々のサイズの細胞の混合物を含むヒト肝組織の実質的に単一の細胞懸濁液を提供する段階;ならびに (b)ヒト肝前駆細胞それ自体、その子孫細胞、またはそのより成熟した型がα−フェトプロテイン、アルブミン、またはその両方の発現を示す1つまたは複数のマーカーを呈する、ヒト肝前駆細胞の濃縮集団を含む細胞の混合物が提供されるように、成熟細胞および比較的大きなサイズの細胞の除去を許容し、同時に未熟細胞および比較的小さなサイズの細胞が保持される条件下で懸濁液のデバルキング(debulking)を行う段階を含む方法やヒト肝臓からの前駆細胞の単離、凍結保存および使用の方法(例えば、特許文献4参照)が提案されているが、これら従前の細胞や培養方法等は、実用的なものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−520474号公報
【特許文献2】特表2010−519934号公報
【特許文献3】特表2009−515558号公報
【特許文献4】特表2002−534974号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nature、475, 390−393(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、増殖能や肝実質細胞への分化能を保持したまま培養でき、また、長期保存することができ、さらには、培養後に長期保存した後に分化誘導することにより、肝実質細胞として機能することができる、肝前駆細胞を増殖するための培地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、化学合成培地である基礎培地の適切な組成と、サプリメント成分の様々な組合せについて検討を続けてきたが、0.03mM〜1mMのカルシウムイオンと、500mg/L〜4500mg/Lのグルコースと、0.1mM〜2.0mMのピルビン酸イオンとを含む基礎培地に、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2‐エタノールアミン、セレン酸、アルブミン脂肪酸不含、ヘパリン、FGF−2、FGF−4、及びHGFからなるサプリメントを添加した培地が、増殖能や分化能を保持したままの肝前駆細胞の培養のために最適であることを確認し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、(1)0.03mM〜1mMのカルシウムイオンと、500mg/L〜4500mg/Lのグルコースと、0.1mM〜2.0mMのピルビン酸イオンとを含む基礎培地に、1〜20μg/mLのインスリン、0.1〜50μg/mLのトランスフェリン、0.01〜15μMの2−メルカプトエタノール、1〜30μMの2−エタノールアミン、1〜40μMのセレン酸、0.01〜50mg/mLの脂肪酸不含アルブミン、1〜500ng/mLのヘパリン、0.1〜50ng/mLのFGF−2、0.1〜50ng/mLのFGF−4、及び0.1〜50ng/mLのHGFからなるサプリメントを添加することにより作製されることを特徴とするヒト肝前駆細胞を増殖するための培地や、(2)ヒト肝前駆細胞の増殖が、分化能を保持した状態での増殖であることを特徴とする上記(1)記載の培地や、(3)ヒト肝前駆細胞の増殖が、ヒト肝前駆細胞の増殖、凍結保存、解凍、増殖の各工程を有することを特徴とする上記(1)又は(2)記載の培地や、(4)ヒト肝前駆細胞が、ヒトiPS細胞又はヒトES細胞をウイルスベクターを用いてヒトヘパトブラスト様細胞に分化させた細胞であることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれか記載の培地に関する。
【0013】
また、本発明は、(5)上記(1)〜(4)いずれか記載の培地を用いることを特徴とするヒト肝前駆細胞の培養方法や、(6)水に添加して調製した場合に、0.03mM〜1mMのカルシウムイオンと、500mg/L〜4500mg/Lのグルコースと、0.1mM〜2.0mMのピルビン酸イオンとを含む基礎培地に、1〜20μg/mLのインスリン、0.1〜50μg/mLのトランスフェリン、0.01〜15μMの2−メルカプトエタノール、1〜30μMの2−エタノールアミン、1〜40μMのセレン酸、0.01〜50mg/mLの脂肪酸不含アルブミン、1〜500ng/mLのヘパリン、0.1〜50ng/mLのFGF−2、0.1〜50ng/mLのFGF−4、及び0.1〜50ng/mLのHGFからなるサプリメントを含む、ヒト肝前駆細胞増殖用培地を作製するためのキットに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の培地によると、肝前駆細胞は、増殖能や肝実質細胞又はそれと同等な細胞への分化能を保持することができるので、本培地による培養後に適切な分化誘導により肝実質細胞として機能することができる細胞に分化させることができる。さらに、本発明の培地において培養した後に凍結保存し、解凍した肝前駆細胞も増殖能を有し、肝実質細胞への分化能を保持することができるので、本発明の培地を用いて培養した肝前駆細胞は、長期保存をすることができ、解凍処理後に適切に分化誘導処理を行った場合には、分化誘導された肝実質細胞や肝実質細胞様細胞は、安全性予測系・有効性評価の検討において、インビトロにおいて薬剤や化合物の毒性や代謝を評価するための有力なツールとなり、また、細胞移植療法における有力なツールとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の培地により培養後冷凍し、解凍した細胞を再び培養されたヘパトブラスト様細胞の18回継代後における肝細胞分化マーカーの発現を示す図である。(a)AFP、(b)EpCAM、(c)NCAM、(d)N−カドヘリン(N−cad)、(e)CD13、(f)CK19、(g)E−カドヘリン(E−cad)、(h)ICAM、(i)ALBの各マーカーを用いて細胞を蛍光免疫染色した場合の顕微鏡写真である。
図2】HepSC−F培地で培養するヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞(2)の第1継代細胞(P=1)、第三継代細胞(P=3)、第四継代細胞(P=4)について細胞の位相差像に基づき細胞の占める面積を測定したグラフである。
図3】HepSC−F培地で培養するヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞におけるマーカー発現の陽性率を解析したグラフである。
図4】ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞を肝実質細胞への分化誘導中の培養上清中のアルブミン量を測定した結果をグラフに示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のヒト肝前駆細胞を増殖するための培地としては、0.03mM〜1mMのカルシウムイオンと、500mg/L〜4500mg/Lのグルコースと、0.1mM〜2.0mMのピルビン酸イオンとを含む基礎培地に、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン酸、脂肪酸不含血清由来アルブミン、ヘパリン、FGF−2、FGF−4、及びHGFを含むサプリメントを構成する培地成分を基礎培地に添加することにより作製される培地であれば制限されず、上記基礎培地は、調製が容易であり、ロットごとのばらつきを防ぐ点から化学合成培地が好ましい。ここで「培地」とは、「培地成分」に水を添加した状態のものをいう。
【0017】
上記基礎培地には、さらに1又は2種類、好ましくは3種類以上の無機塩(類)や、1又は2種類以上、好ましくは5種類以上、より好ましくは10種類以上、さらに好ましくは15種類以上のアミノ酸(類)や、1又は2種類以上、好ましくは3種類以上、より好ましくは6種類以上、さらに好ましくは9種類以上のビタミン(類)や、1又は2種類以上、好ましくは3種類以上の微量成分(類)などを含むことが好ましく、ペニシリンやストレプトマイシン等の抗生物質を適宜含むこともできる。
【0018】
上記無機塩類としては、具体的には、硫酸銅五水和物、硝酸鉄(III)九水和物、硫酸鉄(II)七水和物、塩化マグネシウム六水和物、硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウム(無水物)、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸水素二ナトリウム(無水物)、リン酸水素二ナトリウム二水和物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物、硫酸亜鉛七水和物、硫酸マンガン、硝酸カルシウム、硝酸カルシウム四水和物、硝酸鉄、硝酸鉄(III)九水和物、炭酸水素ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム四水和物、塩化ニッケル(II)六水和物、ケイ酸ナトリウム、塩化スズ(II)二水和物、メタバナジウム酸アンモニウム、硫酸亜鉛七水和物、硫酸銅(II)五水和物等を挙げることができる。
【0019】
上記アミノ酸類としては、具体的には、グリシン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、シスチン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アラニン等を挙げることができ、上記各アミノ酸にはそれぞれ、L−体のアミノ酸とそれらの誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物などの派生物が含まれる。例えば、上記アルギニンの派生物としては、L−塩酸アルギニン、L−アルギニン一塩酸塩等を挙げることができ、上記アスパラギン酸の派生物としては、L−アスパラギン酸ナトリウム塩一水和物、L−アスパラギン酸一水和物、L−アスパラギン酸カリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム等を挙げることができ、上記システインの派生物としては、L−システイン二塩酸塩、L−システイン塩酸塩一水和物等を挙げることができ、上記L−リジンの派生物としては、L−リジン塩酸塩等を挙げることができ、上記グルタミン酸の派生物としては、L−グルタミン酸一ナトリウム塩等を挙げることができ、上記アスパラギンの派生物としては、L−アスパラギン一水和物等を挙げることができ、上記チロシンの派生物としては、L−チロシン二ナトリウム二水和物等を挙げることができ、上記ヒスチジンの派生物としては、ヒスチジン塩酸塩、ヒスチジン塩酸塩一水和物等を挙げることができる。
【0020】
上記ビタミン類としては、ビタミン様物質を含み、具体的には、ビオチン、コリン、パントテン酸、葉酸、ナイアシン、パラアミノ安息香酸(PABA)、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、ビタミンB12、イノシトール等を挙げることができ、上記各ビタミンにはそれぞれ、これらの誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物などの派生物が含まれる。例えば、上記コリンの派生物としては、塩化コリン等を挙げることができ、上記ナイアシンの派生物としては、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ニコチニックアルコール等を挙げることができ、上記パントテン酸の派生物としては、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、パンテノール等を挙げることができ、上記ピリドキシンの派生物としては、ピリドキシン塩酸塩、ピリドキサール塩酸塩、リン酸ピリドキサール、ピリドキサミン等を挙げることができ、上記チアミンの派生物としては、塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、チアミンジセチル硫酸エステル塩、塩酸フルスルチアミン、オクトチアミン、ベンフォチアミン等を挙げることができる。
【0021】
上記微量成分としては、増殖能を維持したままヒト肝前駆細胞を培養するにあたり、有利に作用する成分であることが好ましく、リポ酸、プトレシン、チミジン、アデニン、グルタチオン、ピルビン酸、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、フェノールレッド等、通常培地成分として用いられている成分及びこれらの誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物などの派生物を挙げることができ、かかる派生物としては、グルタチオン還元型やグルタチオン酸化型、プトレシン二塩酸塩、アデニン硫酸塩、ピルビン酸カリウムやピルビン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0022】
前記500mg/L〜4500mg/Lのグルコースとしては、800mg/L〜2000mg/Lのグルコースが好ましく、1100mg/L〜1500mLのグルコースがより好ましい。また、糖(類)として、ラクトース、マンノース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類や、スクロース、マルトース、ラクトース等の二糖類から選ばれる1又は2以上の糖類をさらに添加することもできる。
【0023】
前記0.03mM〜1mMのカルシウムイオンは、上記糖(類)、無機塩(類)、アミノ酸(類)、ビタミン(類)、微量成分(類)等の構成成分を含む基礎培地の成分に水を添加することにより培地中に生じるカルシウムイオンの合計の濃度であり、0.05〜0.8mMのカルシウムイオンが好ましく、0.1〜0.6mMのカルシウムイオンがより好ましく、0.2〜0.5mMのカルシウムイオンがより好ましく、カルシウムイオンを生じさせる基礎培地の構成成分としては、上記パントテン酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウムを例示することができるが、これらに限定されない。
【0024】
前記0.1mM〜2.0mMのピルビン酸イオンは、上記糖(類)、無機塩(類)、アミノ酸(類)、ビタミン(類)、微量成分(類)等の構成成分を含む基礎培地の成分に水を添加することにより培地中に生じるビルビン酸イオンの合計の濃度であり、0.5mM〜1.5mMのピルビン酸イオンが好ましく、0.8〜1.2mMのピルビン酸イオンが好ましく、ピルビン酸イオンを生じさせる基礎培地の構成成分としては、上記ピルビン酸ナトリウムやピルビン酸カリウムを例示することができるが、これらに限定されない。
【0025】
上記基礎培地の具体例としては、以下の表1に示される組成の基礎培地を好適に例示することができるが、市販のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、IMDM培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium:イスコフ改変ダルベッコ培地)、F12NUT−MIX培地、RPMI1640培地等の化学合成培地の組成を改変し、及び/又は、これらの培地のいずれか2以上を適当な割合で混合し、500mg/L〜4500mg/Lのグルコース、及び、0.03mM〜1mMのカルシウムイオンと、0.1mM〜2.0mMのピルビン酸イオンとを含む培地とすることもできる。
【0026】
【表1】
【0027】
本発明に用いられるサプリメントとしては、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン酸、ヘパリン硫酸、ウシ脂肪酸不含ウシアルブミン(Bovine serum albumin-Fatty acid free:BSA-FAF)、線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2:fibroblast growth factor-2)、線維芽細胞増殖因子−4(FGF−4:fibroblast growth factor-4)、肝細胞増殖因子(HGF:hepatocyte growth factor)を含むサプリメントであって、上記基礎培地に添加することにより、肝前駆細胞を増殖することができるサプリメントであれば特に制限されず、サプリメントの使用形態としては、1又は2以上の上記成分からなるサプリメントを複数個に分別しておいてもよいし、多数の上記成分を含む一つのサプリメントとしてまとめておくこともできる。
【0028】
上記インスリンとしては、ブタ由来インスリン、ウシ由来インスリン、ヒト由来インスリン等の天然由来のインスリンや、アニマルプロダクトフリーグレードのインスリンとしてウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のインスリンを挙げることができ、特にヒト型の遺伝子組換え体インスリン(リコンビナントヒトインスリン)を好適に例示することができ、1〜20μg/mL、好ましくは5〜15μg/mL、より好ましくは7.5〜12.5μg/mL、さらに好ましくは9〜11μg/mLの終濃度になるように、上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0029】
上記トランスフェリンとしては、ブタ由来トランスフェリン、ウシ由来トランスフェリン、ヒト由来トランスフェリン等の天然由来のトランスフェリンや、アニマルプロダクトフリーグレードのインスリンとしてウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のトランスフェリンを挙げることができ、さらに鉄低含有のapo型のトランスフェリンが、鉄と結合しているholo型のトランスフェリンよりも好ましく、特にヒト型の遺伝子組換え体アポトランスフェリン(リコンビナントヒトapoトランスフェリン)を好適に例示することができ、0.1〜50μg/mL、好ましくは1〜20μg/mL、より好ましくは2〜8μg/mL、さらに好ましくは3〜7μg/mLの終濃度になるように、上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0030】
上記2−メルカプトエタノールとしては、常法により合成された化学合成品を例示することができ、0.01〜15μM、好ましくは5〜13μM、より好ましくは7.5〜12.5μM、さらに好ましくは9〜11μMの終濃度になるように、上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0031】
上記エタノールアミンとしては、2−アミノエタノール、又はモノエタノールアミンとも呼ばれる、常法により合成された化学合成品をアニマルプロダクトフリーグレードとして好適に例示することができ、1〜30μM、好ましくは5〜20μM、より好ましくは7.5〜12.5μM、さらに好ましくは9〜11μMの終濃度になるように、上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0032】
上記セレン酸としては、セレン酸とその誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物を含むことができ、常法により化学合成されたセレン酸、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、亜セレン酸水素ナトリウム等を例示することができ、セレン酸ナトリウム換算で1〜40μM、好ましくは5〜30μM、より好ましくは15〜25μM、さらに好ましくは18〜22μMの終濃度になるように、上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0033】
上記脂肪酸不含アルブミンとしては、卵白アルブミン、ブタ由来アルブミン、ウシ由来アルブミン、ヒト由来アルブミン等の天然由来のアルブミンや、アニマルプロダクトフリーグレードのアルブミンとしてウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のアルブミンであって、脂肪酸を含有していないアルブミンを挙げることができ、特にウシ血清由来アルブミンであって脂肪酸を含んでいないウシ血清由来の脂肪酸不含アルブミンを好適に例示することができ、0.01〜50mg/mL、好ましくは0.2〜20mg/mL、より好ましくは0.25〜1mg/mL、さらに好ましくは0.3〜0.7mg/mLの終濃度になるように上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0034】
塩基性の繊維芽細胞成長因子(bFGF)としても知られる上記FGF-2(Fibroblast Growth Factor-2)としては、ブタ由来FGF-2、ウシ由来FGF-2、ヒト由来FGF-2等の天然由来のFGF-2や、ウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のリコンビナントヒトFGF-2を挙げることができ、特にヒト型の遺伝子組換え体FGF-2(リコンビナントヒトFGF-2(rhFGF−2))を好適に例示することができ、また、本発明の効果を奏する限りにおいて、そのアミノ酸配列の一部が欠失又は他のアミノ酸により置換されていたり、他のアミノ酸配列が一部挿入されていたり、N末端及び/又はC末端に1又は2以上のアミノ酸が結合していたり、あるいは糖鎖が欠失又は置換されている誘導体を含めることができる。かかるFGF-2は、0.1〜50ng/mL、好ましくは1〜20ng/mL、より好ましくは5〜15ng/mL、さらに好ましくは7〜12ng/mLの終濃度になるように、上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0035】
ヘパリン結合成長因子として知られる繊維芽細胞成長因子である上記FGF-4(Fibroblast Growth Factor-4)としては、ブタ由来FGF-4、ウシ由来FGF-4、ヒト由来FGF-4等の天然由来のFGF-4や、ウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のリコンビナントヒトFGF-4を挙げることができ、特にヒト型の遺伝子組換え体FGF-4(リコンビナントヒトFGF-4(rhFGF−4))を好適に例示することができ、また、本発明の効果を奏する限りにおいて、そのアミノ酸配列の一部が欠失又は他のアミノ酸により置換されていたり、他のアミノ酸配列が一部挿入されていたり、N末端及び/又はC末端に1又は2以上のアミノ酸が結合していたり、あるいは糖鎖が欠失又は置換されている誘導体を含めることができる。かかるFGF-4は、0.1〜50ng/mL、好ましくは1〜20ng/mL、より好ましくは5〜15ng/mL、さらに好ましくは7〜12ng/mLの終濃度になるように、上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0036】
肝臓の再生を促す物質として知られる肝細胞増殖因子である上記HGF(Hepatocyte Growth Factor)としては、ラット、ウシ、ウマ、ヒツジなどの哺乳動物の肝臓、脾臓、肺臓、骨髄、脳、腎臓、胎盤等の臓器、血小板、白血球等の血液細胞や血漿、血清などから抽出、精製して得ることができるHGFや、HGFを産生する初代培養細胞や株化細胞を培養し、培養物(培養上清、培養細胞等)から分離精製したHGFを挙げることができ、また、本発明の効果を奏する限りにおいて、そのアミノ酸配列の一部が欠失又は他のアミノ酸により置換されていたり、他のアミノ酸配列が一部挿入されていたり、N末端及び/又はC末端に1又は2以上のアミノ酸が結合していたり、あるいは糖鎖が欠失又は置換されている誘導体を含めることができる。かかるHGFは、0.1〜50ng/mL、好ましくは1〜20ng/mL、より好ましくは5〜15ng/mL、さらに好ましくは7〜12ng/mLの終濃度になるように、上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0037】
上記ヘパリンとしては、ウロン酸とアミノグリコシドからなるグリコサミノグリカンの構造を有する、抗血液凝固作用を有する因子を挙げることができ、天然物、合成品にかかわらず、本発明の効果を奏する限りにおいて、ヘパリンとその誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物を含むことができ、常法により化学合成されたヘパリンナトリウム塩やヘパリンカルシウム塩を好適に例示することができ、1〜500ng/mL、好ましくは10〜200ng/mL、より好ましくは50〜150ng/mL、さらに好ましくは80〜120ng/mLの終濃度になるように、上記サプリメントの一構成成分として、上記基礎培地に添加することで、本発明の培地を調製することができる。
【0038】
上記サプリメントの具体例としては、以下の表2に示される組成を例示することができる。
【0039】
【表2】
【0040】
本発明の培養方法において用いられる培養容器としては、本発明に用いられる肝幹細胞や肝前駆細胞を維持培養できる容器であれば特に制限されず、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バックを例示することができる。
【0041】
本発明におけるヒト肝前駆細胞としては、ヒト生体内の又はヒト生体から採取したヒト肝芽細胞や、かかるヒト肝芽細胞から調製された細胞であって肝実質細胞への分化能を有する細胞や、ヒトiPS細胞やヒトES細胞から分化誘導したヒト肝ヘパトブラスト様細胞を例示することができる。
【0042】
上記ヒト肝芽細胞としては、増殖能と肝実質細胞・胆管上皮細胞への二方向の分化能を有する細胞を挙げることができ、例えば、胎生期のヒト肝幹細胞・肝前駆細胞(肝芽細胞(ヘパトブラスト))や、正確なメカニズムについてはいまだ不明であるが、心臓中胚葉からの誘導を受け前腸内胚葉より生じるとされる肝芽細胞や、肝臓内に存在するとされる肝幹細胞や肝芽細胞からなる肝前駆細胞亜集団も、ヒト肝前駆細胞に便宜上含めることができる。
【0043】
上記ヒト肝ヘパトブラスト様細胞としては、ヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)やヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)から、分化誘導を行うことにより調製された、上記ヒト肝芽細胞と同等・類似の特性を有する細胞を挙げることができ、上記分化誘導を行う方法としては、上記ヒトiPS細胞やヒトES細胞に遺伝子導入する方法や、上記ヒトiPS細胞やヒトES細胞を肝実質様細胞への分化を誘導する成分を添加した培地において培養する方法を挙げることができる。上記ヒトiPS細胞やヒトES細胞より誘導され、上記ヒトヘパトブラスト様細胞に至るまでには十分分化誘導されておらず、ヒト肝実質細胞に同等・類似の細胞(肝実質細胞様細胞)への分化能を有する肝幹細胞様細胞も、ヒト肝前駆細胞に便宜上含めることができる。
【0044】
上記ヒトiPS細胞やヒトES細胞に遺伝子導入する方法としては、以下の1)及び2)の方法及びこれらの方法に改良を加えた方法を例示することができる。
1)HEX遺伝子、HNF4α遺伝子、HNF6遺伝子及びSOX17遺伝子から選択されるいずれか1又は複数の遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込むことにより、ヒト胚性幹細胞やヒト人工多能性肝細胞に導入することを特徴とする、幹細胞から肝細胞への分化誘導方法(国際公開WO2011/052504号パンフレット参照):
2)FOXA2遺伝子をアデノウイルスベクターを用いてヒト胚性幹細胞やヒト人工多能性肝細胞に導入し、次いで、FOXA2遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターとHNF1α遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターとを、ヒト胚性幹細胞やヒト人工多能性肝細胞に導入することにより、ヒトiPS細胞由来肝前駆細胞を調製する方法:
【0045】
ヒトiPS細胞やヒトES細胞を肝実質様細胞への分化を誘導する成分を添加した培地において培養する方法としては、以下の3)〜5)の方法及びこれらの方法に改良を加えた方法を例示することができる。
【0046】
3)肝幹細胞や肝前駆細胞の調製方法としては、マトリゲル上のRPMI1640/B27(インスリン−)培地に100ng/mLのアクチビンA、20ng/mLのFGF2、及び10ng/mLのBMP4を添加した培地にヒトES細胞やヒトiPS細胞を播種し、培地交換を毎日行い培養を2日間行った後、3日目に、培地を、RPMI1640/B27(インスリン−)培地に100ng/mLのアクチビンAを添加した培地へ交換し、更に2〜5日間培養し、決定内胚葉になったと判断された細胞について、培地を、RPMI1640/B27(インスリン+)培地に10ng/mLのFGF2、及び20ng/mLのBMP4を添加した培地に変更、毎日培地を交換してさらに3〜8日間培養し、肝細胞へ分化する肝幹細胞様の形態になった細胞について、RPMI1640/B27(インスリン+)培地に20ng/mLのHGFを添加したものに変更し、さらに数日培養をすることにより、ヒトES細胞由来又はヒトiPS細胞由来肝前駆細胞を調製する方法(NIHセンター法):
なお、上記RPMI1640/B27(インスリン−)培地は、RPMI(Roswell Park Memorial Institute medium)1640培地に、2%のインスリン不含B−27サプリメントを添加した培地を例示することができる。RPMI1640/B27(インスリン+)培地は、上記RPMI1640/B27(インスリン−)培地において、インスリン不含B−27サプリメントの代わりに、2%のB−27サプリメント(50X)を添加した培地を例示することができる。
【0047】
4)BDマトリゲル上のRPMI1640培地に100ng/mLのアクチビンA及び1mMのNaBを添加した培地にヒトES細胞やヒトiPS細胞を播種し、培地交換を毎日行い培養を1〜3日間行った後、培地を、RPMI1640培地に100ng/mLのアクチビンA及び0.5mMのNaBを添加した培地へ交換し、更に2〜5日間培養し、決定内胚葉になったと判断された細胞について、20% KSR(Knockout Serum Replacement)を添加したノックアウト−DMEM培地(Knockout-Dulbecco’s modified Eagle’s medium)に1%のDMSOを添加した培地に変更し、5〜10日さらに培養をすることにより、ヒトES細胞由来又はヒトiPS細胞由来肝前駆細胞を調製する方法(WeiCui法):
【0048】
5)フィブロネクチンでコートした10ng/mLのアクチビンAと12ng/mLのFGF2を添加したCDM(化学合成培地)に、ヒトES細胞やヒトiPS細胞を播種し、1〜3日培養し、培地を、PVAを添加したCDM培地に、1×10−6MのLy294002(2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one)、10ng/mLのアクチビンA、及び12ng/mLのFGF2を添加した培地に変更して、さらに1〜5日培養し、内胚葉分化を誘導し、内胚葉細胞の特徴が現われた細胞について、培地を、PVAを添加したCDM培地に50ng/mLのFGF10を添加した培地に変更してさらに1〜4日培養し、さらに培地をPVAを添加したCDM培地に50ng/mLのFGF10と、1×10−7Mのレチノイン酸と、1×10−6MのSB431542を添加した培地に変更してさらに1〜3日培養し、ヒトES細胞由来肝前駆細胞やヒトES細胞由来肝前駆細胞を調製する方法(Vallier法):
【0049】
本発明における増殖としては、本発明の培地において培養する上記肝前駆細胞が、DNA合成及び細胞分裂を伴って細胞数が増加する自己複製能を有することを挙げることができ、上記増殖の有無の判断については、例えば、細胞の位相差像を取得して細胞の占める面積を測定することにより、細胞の占める面積が増加している場合は、細胞数が増加していると判断することができるが、具体的には、生細胞タイムラプスイメージング装置(Biostation IM−Q、ニコン社製)を用いた場合に、150時間で1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.6倍以上、さらに好ましくは1.7倍以上、細胞の占める面積が増加する場合に、細胞が増殖していると判断することができ、かかる増殖は、分化能を保持した状態での増殖であることが好ましく、増殖、凍結保存、解凍、増殖の各工程を有する増殖であることがより好ましく、分化能を保持した状態で、増殖、凍結保存、解凍、(再)増殖の各工程を有する増殖であることがさらに好ましい。
【0050】
上記分化能を保持した状態としては、言い換えれば、肝実質細胞や肝実質細胞様細胞へ分化する能力を有した状態であり、本発明の培地で培養された細胞が、肝前駆細胞としての特性を有していること、及び/又は、適切な処理により肝実質細胞や肝実質細胞様細胞へ分化できること、肝実質細胞として機能していないことを確認できた場合に分化能を保持した状態を挙げることができる。
【0051】
上記肝実質細胞や肝実質細胞様細胞へ分化誘導する方法としては、以下の(a)〜(c)を例示することができる。
(a)肝前駆細胞を、市販の肝細胞専用培地に、肝細胞培養用添加因子セットからhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたものを添加し、20ng/mLオンコスタチンMを添加した培地に、解凍した肝前駆細胞を播種し、2〜8日間、好ましくは4〜7日間培養することにより、ヒトES細胞由来肝前駆細胞やヒトiPS細胞由来肝前駆細胞を、肝細胞へ分化する方法(NIHセンター肝細胞分化方法):
(b)肝前駆細胞を、8.3%のウシ胎児血清(FBS)を添加したL15培地に、10ng/mLのHGF、及び20ng/mLのオンコスタチンMを添加した培地を用い、解凍した肝前駆細胞を播種し、3〜10日間、好ましくは5〜9日間培養することにより、ヒトES細胞由来肝前駆細胞やヒトiPS細胞由来肝前駆細胞を、肝細胞へ分化する方法(WeiCui肝細胞分化方法):
(c)肝前駆細胞を、ポリビニルアルコール(PVA)を添加したCDM培地に、30ng/mLのFGF4、50ng/mLのHGF、50ng/mLのEGFを添加した培地を用い、解凍した肝前駆細胞を播種し、5〜15日間、好ましくは8〜12日間培養することにより、ヒトES細胞由来肝前駆細胞やヒトiPS細胞由来肝前駆細胞を、肝細胞へ分化する方法(Vallier肝細胞分化方法):
【0052】
前記凍結保存の工程としては、例えば、本発明の培地において増殖している肝前駆細胞を、剥離溶液を用いて細胞剥離し、次いで、本発明の培地にDMSO溶液を添加した凍結保存液に上記剥離細胞を浮遊させ、適切な容器に封入した後マイナス75℃〜100℃に凍結させた後、液体窒素中で保存する工程を挙げることができる。かかる凍結保存の期間としては、一般的に、液体窒素による処理を行えば、半永久的に保存できるとされており、特に限定されない。
【0053】
前記解凍の工程としては、例えば、上記凍結保存を行った凍結肝前駆細胞が封入された容器を30〜40℃に設定しているウォーターバスに浸して急速解凍を行い、遠心後、上清を取り除き、再び培地に浮遊させることで、次の再増殖の工程へ移行することができる。
【0054】
上記再増殖の工程としては、上記凍結保存・解凍前後における、分化能を保持した状態で増殖する工程を挙げることができる。
【0055】
上記肝前駆細胞としての特性を有しているか否か、又は、肝実質細胞や肝実質細胞様細胞へ分化しているか否かは、肝幹細胞や肝芽細胞や肝実質細胞の分化誘導マーカーを用いて適宜行うことができ、かかる分化誘導マーカーとしては、例えば、AFP(α−フェトプロテイン)、Ep−CAM(Epithelial cell adhesion molecule:上皮細胞接着分子)、N−cad(N−cadherin:N−カドヘリン)、CK19(サイトケラチン19)、E−cad(E−cadherin):E−カドヘリン)、NCAM(Neural Cell Adhesion Molecule:神経細胞接着分子)、ALB(albumin:アルブミン)、HNF4α(肝細胞核因子)を挙げることができる。
【0056】
上記マーカーの発現を確認する方法としては、上記各マーカーの発現を、遺伝子レベルで確認する方法や、タンパク質レベルで確認する方法などを挙げることができる。上記各マーカーの発現を遺伝子レベルで確認する場合には、各マーカー遺伝子の、特異的プライマー対を用いたRT−PCR、特異的プローブを用いたノーザンブロッティング等によって確認することができる。これらの方法に用いられるプローブやプライマーは、各遺伝子の配列情報に基づいて適宜設計し、適当なオリゴヌクレオチド合成装置を用いて適宜作製することができる。上記各マーカーの発現をタンパク質レベルで確認する方法としては、各マーカーの特異抗体を用いて、免疫染色法、ELISA法等を挙げることができる。
【0057】
上記免疫染色法としては、本発明の方法で培養した細胞を、PBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定後、ウシ血清でブロッキングを行った後、各対象マーカータンパク質の抗体と標識抗体とを用いて免疫染色し、蛍光顕微鏡観察により判定する方法を例示することができる。
【0058】
上記ELISA法としては、例えば、アルブミンマーカーの発現の程度を判断する場合には、対象細胞の培養上清中のアアルブミンを測定する方法として、例えば、サンドウィッチELISA法を行うキットを用いて、カプチャー抗体をプレートに添加し、次いで、回収した培養上清と反応させ、次いでディテクション(detection)抗体を添加して発色基質を加えて反応させ、吸光度を測定する方法を例示することができ、アルブミンの生成量が増加している場合にアルブミンマーカーが発現していると判断することができ、かかる場合には肝実質細胞や肝実質細胞様細胞への分化が順調に進んでいると判断することができる。
【0059】
本発明は、ヒト肝前駆細胞を増殖するための培地を作製するためのキットを提供する。本発明のキットは、水に添加して調製した場合に、0.03mM〜1mMのカルシウムイオンと、500mg/L〜4500mg/Lのグルコースと、0.1mM〜2.0mMのピルビン酸イオンとを含む基礎培地を構成する成分群とインスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン酸、脂肪酸不含アルブミン、ヘパリン、FGF−2、FGF−4、及びHGFからなるサプリメントを構成する成分群を備え、上記基礎培地又はサプリメントを構成する成分は、一部の又は全部の成分を個別に包装され、2以上の組成物を混合して包装される。上記キットは、さらに培養細胞について、肝前駆細胞の特性の有無を判定するための、分化マーカータンパク質に対する抗体や、分化マーカー遺伝子を検出するためのプライマー、プローブや、添付文書等を含むこともできる。
【0060】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例において用いられる多能性幹細胞であるES細胞株やiPS細胞株については、政府指針に従い分与を受け実験に供した。他の細胞株についても(独)医薬基盤研究所に保管されており、一定条件下で分譲可能である。
【実施例】
【0061】
[参考例1]
[ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞(1)の作製]
アデノウイルス(Ad)ベクターを用いてヒトiPS細胞に遺伝子導入を行い、ヒトiPS細胞からヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞を作製した。
ヒトiPS細胞として、DotcomクローンJCRB1327株(JCRB細胞バンクより入手)を使用した。中内胚葉(mesoendoderm)分化を促進するために、上記ヒトiPS細胞を、細胞分離試薬アキュターゼ(ミリポア社製)を用いて単細胞に分離し、かかる分離単細胞は、BDマドリゲル(登録商標)上にて、ヒトES細胞分化誘導用基礎培地hESF−DIF(細胞科学研究所製)に、10μg/mLのヒトリコンビナントインスリン(シグマ社製)、5μg/mLのヒトアポトランスフェリン(シグマ社製)、10μMの2−メルカプトエタノール(シグマ社製)、10μMのエタノールアミン(シグマ社製)、10μMのセレン酸ナトリウム(シグマ社製)、0.5mg/mLのウシ血清アルブミン(シグマ社製)(PBS(phosphate-buffered saline)にて調整)、及び100ng/mLのアクチビンA(R&Dシステムズ社製)をサプリメントとして添加した培地に播種した。この日を分化0日目とする。2日間培養し、ヒトiPS細胞由来中内胚葉様細胞(mesoendoderm cells)を得た。
【0062】
決定内胚葉細胞(DE)を作製するため、分化2日目に、上記ヒトiPS細胞由来中内胚葉様細胞を、HOXA2遺伝子を挿入したAdベクター(Ad‐FOXA2)に、1,500VP(vector particle)/細胞にて1.5時間感染させた。Ad-FOXA2感染細胞を、BDマトリゲル上にて、100ng/mLのアクチビンAを添加したhESF−DIF培地において、分化6日目まで培養を続けることにより、DE細胞を得た。
【0063】
さらに、肝実質細胞様細胞に向けて分化を進めるため、分化6日目に、上記DE細胞に、上記Ad-FOXA2と、HNFα遺伝子を挿入したAdベクター(Ad‐HNFα)とを、1,500VP(vector particle)/細胞にて1.5時間感染させた。Ad‐FOXA2・Ad‐HNFα感染細胞を、BDマトリゲル上にて、骨形成タンパク質4(bone morphogenetic protein 4:(BMP4)、R&Dシステムズ社製)及び20ng/mLのFGF−4(R&Dシステムズ社製)を添加した肝細胞培養培地(hepatocyte culture medium:HCM)(Lonza社製)において、3日間培養を続けることにより、ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞(1)を得た。
【0064】
[実施例1]
[ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞(1)の維持培養]
以下の表3に記載されている基礎培地を構成する成分(群)と、表4に記載されているサプリメントを構成する成分(群)からなるHepSC−F培地を調製した。タイプIブタコラーゲン(新田ゼラチン社製)でコートしたHepSC−F培地で、上記ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞を培養し、培地交換は2日毎に行った。培養された上記ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞は0.01%トリプシンと0.01%EDTA4Na(Ethylenediaminetetraacetic acid‐4Na)とをPBSに溶解した剥離溶液を用いて剥離することにより、7日毎に4〜6倍に希釈して継代された。トリプシンはその後、0.1%ダイズトリプシンインヒビター(シグマ社製)により失活処理された。かかる剥離溶液による処理は、これ以降の本実施例・参考例を通して必要に応じて用いられた。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
6回継代された上記ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞は、前記剥離溶液を用いて細胞剥離後、細胞を10%DMSO溶液(シグマ社製)となるように上記培地に添加した凍結保存液に浮遊させクライオジェニックバイアルに入れ、凍結処理容器・バイセル(日本フリーザー社製)に入れてマイナス80℃まで凍結させた後、液体窒素中で保存した。凍結開始日から3ヶ月後に解凍を開始した。細胞が封入されたバイアルをウォーターバス(37℃)に浸して急速解凍し、上記培地に溶解し、1200rpmにて3分遠心後、上清を取り除き、再び上記培地に浮遊させ、培養を開始し、18回継代を行った。
【0068】
18回継代したヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞を、蛍光免疫染色を行い、肝幹細胞、肝前駆細胞、肝実質細胞のいずれか1つ又は2つ以上の発現マーカーと知られているマーカーについて、細胞の陽性率を解析した。使用したマーカーは、CK19、EpCAM、NCAM(CD56)、E−カドヘリン、CD13、ALB、ICAM(CD54)、AFP、N−カドヘリンである。細胞をPBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)で室温にて15分固定し、ウシ血清でブロッキングを行った後、抗EpCAM抗体(abcam社製)とA647標識抗マウスIgG(インビトロジェン社製)、抗NCAM(Dako社製)とA647標識抗マウスIgG(インビトロジェン社製)、抗E−カドヘリン(Cell Signaling社製)とA555標識抗ラビットIgG(インビトロジェン社製)、抗アルブミン(ALB)(ベチル社製)とA647標識抗ヤギIgG(インビトロジェン社製)、抗AFP(Dako社製)とA555標識抗ラビットIgG(インビトロジェン社製)、抗CK19(abcam社製)とA647標識抗マウスIgG(インビトロジェン社製)、抗CD13(abcam社製)とA647標識抗マウスIgG(インビトロジェン社製)、抗ICAM(R&D社製)とA647標識抗マウスIgG(インビトロジェン社製)、抗N−カドヘリン(BD社製)とA647標識抗マウスIgG(インビトロジェン社製)の各マーカーで免疫染色処理をし、蛍光顕微鏡下に観察を行った。結果を図1(a)〜(i)を示す。核を染色するためヘキスト33342にて染色を行い(“Hoechst”)、“Merge”は、各抗体による染色とヘキスト33342による核染色による画像をオーバーレイしたものである。また、イメージングサイトメーター(IN Cell Analyzer 2000、GEヘルスケア社製)を用い、各マーカーについて、「陽性細胞数/全細胞数=陽性率」を求めた。結果を、以下の表5に示した。
【0069】
【表5】
【0070】
(結果)
図1から明らかなとおり、AFP、EpCAM、N−カドヘリン、CK19、E−カドヘリンにおいて強い陽性を示した。
【0071】
より詳細には、上記表5の数値より以下のとおり判断した。
i)肝前駆細胞マーカーとして知られ、肝幹細胞や肝実質細胞では発現しないと報告されているAFPの陽性率は、約69.9%であった。
ii)肝幹細胞のマーカーとして知られ、肝前駆細胞や肝実質細胞では発現しないとされているNCAMの陽性率は、約9.1%であった。
iii)肝幹細胞で発現することが報告されているN−カドヘリンの陽性率は、約56.1%であった。
iv)肝前駆細胞と肝実質細胞において発現するとの報告があるICAMの陽性率は、約30.4%であった。
v)肝前駆細胞において発現するとの報告があるEpCAMの陽性率は、約76.9%であった。
vi)肝前駆細胞において発現するとの報告があるCK19の陽性率は、約48.6%であり、比較的高い陽性率であった。
vii)肝前駆細胞においても発現することがある旨報告されているが、肝実質細胞の強力なマーカーとして知られるALBの陽性率は、約0.5%であった。
viii)肝幹細胞と肝前駆細胞のマーカーとして知られているE−カドヘリンの陽性率は、約35.67%であった。
ix)肝幹細胞と肝前駆細胞の比較的弱いマーカーとして知られているCD13の陽性率は、約10.2%であった。
【0072】
各細胞における発現マーカーの陽性率は、分化の程度、細胞ごとの性格により相違が大きくなるものであり、一つのマーカーの陽性・陰性において各細胞の特徴を決定できるものではないが、以上の結果を総合して考えた場合、ここで得られた細胞(群)は、3月凍結保存した後、再びHepSC−F培地において培養、増殖させた場合においても、肝実質細胞様細胞への分化はそれほど進んでおらず、肝前駆細胞と類似の特徴を強く有していると考えられる。
【0073】
[参考例2]
[ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞(2)の作製]
Touboul, T. et. al., Hepatology. 2010 May;51(5):1754-65記載の方法を改良した方法に依拠してヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞を作製した。ヒトiPS細胞として、DotcomクローンH9−201B7株を使用した。分化0日目に、10ng/mLのリコンビナントヒトアクチビンA、及び12ng/mLのFGF2を添加したCDM培地に播種し、2日目まで培養した。本実施例において、CDM培地としては、IMDM培地(シグマ社製)とF12NUT−MIX培地(Gibco BRL社製)とを、50:50の割合で混合した培地を使用した。
【0074】
分化2日目の細胞について、培地を、1×10−6MのLy294002、10ng/mLのリコンビナントヒトアクチビンA、及び12ng/mLのFGF2を添加したBSA−FAF含有CDM培地に変更し、3日間培養した。分化5日目の細胞について、培地を、50ng/mLのFGF10を添加したBSA−FAF含有CDM培地に変更し、3日間培養した。分化8日目の細胞について、培地を、50ng/mLのFGF10、1×10−7Mのレチノイン酸、及び1×10−6MのSB431542を添加したBSA−FAF含有CDM培地に変更し、2日間培養した。分化11日目の細胞について、培地を、30ng/mLのFGF4、50ng/mLのHGF、及び50ng/mLのEGFを添加したBSA−FAF含有CDM培地に変更し、以後継続培養し、ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞(2)を作製した。
【0075】
[実施例2]
[ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞(2)の増幅能の検討]
上記ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞(2)を分化17日目に細胞を回収し、単細胞分離処理をせず塊のまま、第一継代細胞(P=1)として、HepSC−F培地に播種した。培地は2日毎に交換した。第一継代細胞の培養7日目に継代し、第二継代細胞(P=2)とした。第二継代細胞の培養9日目に継代し、第三継代細胞(P=3)とした。第三継代細胞の培養11日目に継代し、第四継代細胞(P=4)とした。P=1、P=3、P=4の各継代細胞について、生細胞タイムラプスイメージング装置(BioStation IM-Q、ニコン社製)を用いて、細胞の位相差像を取得し、細胞の占める面積を測定した。結果を図2(a)〜(c)に示す。
【0076】
(結果)
図2より明らかなとおり、P=1において、約125時間で130万ピクセルから250万ピクセルへと約2倍弱細胞面積が増加し(図2(a)参照)、P=3において、約200時間で290万ピクセルから、760万ピクセルへ約2.5倍強細胞面積が増加し(図2(b)参照)、P=4において、約150時間で600万ピクセルから1200万ピクセルへと約2倍細胞面積が増加した(図2(c)参照)ことが確認された。したがって、HepSC−F培地で培養した場合、継代数にかかわらず、上記ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞は、順調に増幅をおこなうことができることが確認された。
【0077】
[実施例3]
上記ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞(2)をP=1について、各マーカーに対する抗体を用いて免疫抗体染色を行った。用いたマーカーは、EpCAM、ALB、AFP、ICAM、CK19、HNF−4α、N−CAMである。各々のマーカーの陽性率を表したグラフを図3に示す。
【0078】
(結果)
図3より以下の事項が確認された。
i)肝前駆細胞マーカーとして知られ、肝幹細胞や肝実質細胞では発現しないと報告されているAFPの陽性率は、約49%であった。
ii)肝前駆細胞において発現するとの報告があるCK19の陽性率は、約38%であった。
iii)肝前駆細胞と肝実質細胞において発現するとの報告があるICAMの陽性率は、約14%であった。
iv)肝実質細胞においては発現しないとの報告があるEpCAMマーカーの陽性率は約12%であった。
v)肝実質細胞の強力なマーカーであるALBマーカーの陽性率は、約5%であった。
vi)肝細胞核因子マーカーであるHNF4αの陽性率は、約15%であった。
vii)肝幹細胞のマーカーとして知られ、肝前駆細胞や肝実質細胞では発現しないとされているNCAMの陽性率は、約4%であった。
なお、縦軸は陽性率を表す。以上の結果より、HepSC−F培地で培養・継代されたiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞は、肝前駆細胞としての性格を維持しながら増殖していることが確認された。
【0079】
[実施例4]
[ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞から肝実質細胞様細胞への分化能の検討]
参考例1により調製した上記ヒトiPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞について、培地を、50ng/mLのFGF10を添加したBSA−FAF含有CDM培地に変更し、3日間培養した。培地を、PVAを添加したCDM培地に50ng/mLのFGF10と、1×10−7Mのレチノイン酸と、1×10−6MのSB431542を添加した培地に変更してさらに2日間培養後、さらに、PVAを添加したCDM培地に30ng/mLのFGF、50ng/mLのHGF、50ng/mLのEGFを添加した培地に変更し、毎日培地交換を行い分化させた。分化0日目(D0)から分化42日目(D42)までの細胞について、培地の培養上清を回収し、ELISA法を用いて培養上清中のアルブミン量を測定した。
【0080】
ELISA法は、ELISAスターターアクセサリーキット(ベチル社製)のプレートを用い、マウスアルブミンELISA定量用(quantitation)キット(ベチル社製)を使用し、サンドウィッチELISA法にて測定を行った。具体的な手順は以下のとおりである。
【0081】
細胞は、培地1mLで培養し、2日ごとに全量の培地を交換して、培養上清として回収した。回収した培養上清は、ELISA法に供するまで、短期間であれば4℃にて維持して使用し、長期間保存する場合はマイナス20℃にて保管後に使用した。ELISA用プレートに、キャプチャー(caprute)抗体として、マウス抗アルブミン抗体を添加し1時間反応後、洗浄し、次いでブロッキング液を1時間反応させた後、培養上清100uLを入れて、キャプチャー抗体としてのマウス抗アルブミン抗体を室温にて反応させた。洗浄後、ディテクション(detection)抗体(として、マウス抗アルブミン抗体−HRP)を1時間反応後、洗浄し、発色基質TMBを加え、15分間反応させた。反応後、反応停止液(stop solution)を添加してて、反応を停止し、マルチプレートリーダーにて450nmにおける吸光度を測定した。コントロールとしては、ヒト血清アルブミンを用いて検量線を作成し(0, 0.39, 0.78, 1.56, 3.12, 6.25, 12.5, 25ng/mLのアルブミン量)、培養上清中のアルブミン含有量を算出した。結果を図4に示す。
【0082】
(結果)
図4より明らかなとおり、参考例1において作製されたヘパトブラスト様細胞について、肝実質細胞様細胞への分化誘導を進めたところ、培養開始後15日目(D15)ごろから細胞上清中のアルブミン量が徐々に増加し。D42には、40〜50マイクログラム/mLに達したことが確認された。このことより、上記iPS細胞由来ヘパトブラスト様細胞は、アルブミンが強く発現する肝実質細胞様細胞に分化することができる分化能を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の培地は、当該培地を用いて培養された肝前駆細胞が、薬剤毒性スクリーニングや肝がん、肝硬変、肝炎ウイルス等の病態、感染・増殖の試験管内におけるモデル実験系となりうる点で、また、細胞移植療法や、人工肝臓の開発等の臨床応用に極めて有用である点で、非常に有用である。
図1
図2
図3
図4