(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
左,右方向で間隔をもって対面しつつ前,後方向に延びる左側板および右側板と、該左,右の側板の上端側に溶接により接合される上板と、前記左,右の側板の下端側に溶接により接合される下板とにより横断面が四角形の閉断面構造をなす箱型構造体を有し、
前記箱型構造体には、前記左側板、前記右側板、前記上板および前記下板の後端にそれぞれ溶接により接合されるフート側取付部材が設けられており、
前記箱型構造体には、前記左,右の側板の前端がそれぞれ溶接により接合される左,右の接合板を有すると共に、前記上板,前記下板の前端がそれぞれ溶接により接合される上,下の接合板を有するアーム側取付部材が設けられており、
前記下板は、前記アーム側取付部材の下接合板に溶接により接合される第1の前下板と、該第1の前下板の後端に溶接により接合される第2の前下板と、該第2の前下板の後端に溶接により接合される第3の前下板と、該第3の前下板の後端に接合される1枚または複数枚の板材からなる後下板とにより構成してなる建設機械用ブームにおいて、
前記第1の前下板は前記アーム側取付部材の下接合板と等しい板厚を有する板材からなり、
前記第2の前下板と前記第3の前下板とは等しい板厚を有すると共に前記第1の前下板よりも薄い板厚を有する板材からなり、
前記アーム側取付部材の下接合板の後端には裏当て材が設けられており、
前記第3の前下板の前端には裏当て材が設けられており、
前記第1の前下板と前記第2の前下板とを突合せて板厚方向の両側から突合せ溶接された1枚の差厚板が形成されており、
前記差厚板を構成する前記第1の前下板の前端は、前記アーム側取付部材の下接合板と当該下接合板に設けた前記裏当て材とに対し前記箱型構造体の外側から溶接によって接合されており、
前記差厚板を構成する前記第2の前下板の後端は、前記第3の前下板の前端と当該第3の前下板に設けた前記裏当て材とに対し前記箱型構造体の外側から溶接によって接合された構成としたことを特徴とする建設機械用ブーム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、2枚の板材を突合せ溶接する場合には、板厚方向の両側から溶接を施す両面溶接の方が、裏当て材を用いて板厚方向の片側から溶接を施す片面溶接に比較して、溶接部の疲労強度が高くなることが知られている。一方、板厚が異なる2枚の板材を突合せ溶接する場合と、板厚が等しい2枚の板材を突合せ溶接する場合とを比較すると、両面溶接であるか裏当て材を用いた片面溶接であるかに関わらず、板厚が等しい2枚の板材を突合せ溶接する方が、溶接部の疲労強度が高くなることが知られている。
【0007】
従って、溶接部の疲労強度に着目すると、板厚が等しい2枚の板材を両面溶接によって接合した場合が最も疲労強度が高く、板厚が異なる2枚の板材を両面溶接によって接合した場合の疲労強度が次に高く、板厚が等しい2枚の板材を裏当て材を用いた片面溶接によって接合した場合の疲労強度が次に高く、板厚が異なる2枚の板材を裏当て材を用いた片面溶接によって接合した場合の疲労強度が最も低くなる。
【0008】
これに対し、油圧ショベルに用いられるブームのような箱型構造体を製造する場合には、缶組みした箱型構造体を閉塞する蓋が必要であり、この蓋に対応する板材については、裏当て材を用いて箱型構造体の外側から溶接作業(片面溶接)を行うことになる。
【0009】
しかし、蓋に対応する板材の板厚と、この板材が溶接される板材の板厚とが異なる場合には、上述したように、板厚が異なる2枚の板材を裏当て材を用いて片面溶接することになり、溶接部の疲労強度が低下してしまう。この結果、箱型構造体の耐久性が低下してしまうという問題がある。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、箱型構造体の疲労強度を高めることができ、箱型構造体を閉塞する板材を溶接するときの作業性を高めることができる建設機械用ブームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため本発明は、左,右方向で間隔をもって対面しつつ前,後方向に延びる左側板および右側板と、該左,右の側板の上端側に溶接により接合される上板と、前記左,右の側板の下端側に溶接により接合される下板とにより横断面が四角形の閉断面構造をなす箱型構造体を
有し、前記箱型構造体には、前記左側板、前記右側板、前記上板および前記下板の後端にそれぞれ溶接により接合されるフート側取付部材
が設け
られており、前記箱型構造体には、前記左,右の側板の前端がそれぞれ溶接により接合される左,右の接合板を有すると共に、前記上板,前記下板の前端がそれぞれ溶接により接合される上,下の接合板を有するアーム側取付部材
が設け
られており、前記下板は、前記アーム側取付部材の下接合板に溶接により接合される第1の前下板と、該第1の前下板の後端に溶接により接合される第2の前下板と、該第2の前下板の後端に溶接により接合される第3の前下板と、該第3の前下板の後端に接合される1枚または複数枚の板材からなる後下板とにより構成してなる建設機械用ブームに適用される。
【0012】
そして、請求項1の発明の特徴は、前記第1の前下板は前記アーム側取付部材の下接合板と等しい板厚を有する板材からなり、前記第2の前下板と前記第3の前下板とは等しい板厚を有すると共に前記第1の前下板よりも薄い板厚を有する板材からなり、前記アーム側取付部材の下接合板の後端には裏当て材
が設け
られており、前記第3の前下板の前端には裏当て材
が設け
られており、前記第1の前下板と前記第2の前下板とを突合せて板厚方向の両側から突合せ溶接
された1枚の差厚板
が形成
されており、前記差厚板を構成する前記第1の前下板の前端は、前記アーム側取付部材の下接合板と当該下接合板に設けた前記裏当て材とに対し前記箱型構造体の外側から溶接によって接合
されており、前記差厚板を構成する前記第2の前下板の後端は、前記第3の前下板の前端と当該第3の前下板に設けた前記裏当て材とに対し前記箱型構造体の外側から溶接によって接合
された構成としたことにある。
【0013】
請求項2の発明は、前記差厚板を構成する前記第1の前下板の後端と前記第2の前下板の前端との間にはX形開先
が形成
されており、該X形開先に対して板厚方向の両側からグルーブ溶接
が施
された構成としたことにある。
【0014】
請求項3の発明は、前記差厚板を構成する前記第1の前下板の前端と前記アーム側取付部材の下接合板の後端との間にはV形開先
が形成
されており、該V形開先に対して前記箱型構造体の外側からグルーブ溶接
が施
された構成としたことにある。
【0015】
請求項4の発明は、前記差厚板を構成する前記第2の前下板の後端と前記第3の前下板の前端との間にはV形開先
が形成
されており、該V形開先に対して前記箱型構造体の外側からグルーブ溶接
が施
された構成としたことにある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、板厚が異なる第1の前下板と第2の前下板とを、板厚方向の両側から両面溶接することにより、第1,第2の前下板が板厚の全域に亘って溶込んだ疲労強度の高い差厚板を形成することができる。また、差厚板を構成する第1の前下板の板厚は、アーム側取付部材の下接合板と等しい。このため、裏当て材を用いて第1の前下板の前端とアーム側取付部材の下接合板とを外側から突合せ溶接した場合でも、第1の前下板とアーム側取付部材の下接合板との溶接部の疲労強度を高くすることができる。一方、差厚板を構成する第2の前下板の板厚は、第3の前下板と等しい。このため、裏当て材を用いて第2の前下板の後端と第3の前下板の前端とを外側から突合せ溶接した場合でも、第2の前下板と第3の前下板との溶接部の疲労強度を高くすることができる。
【0017】
従って、差厚板を構成する第1の前下板とアーム側取付部材の下接合板とを突合せ溶接し、差厚板を構成する第2の前下板と第3の前下板とを突合せ溶接することにより、箱型構造体全体の疲労強度を高めることができ、ブームの耐久性を高めることができる。
【0018】
しかも、第1の前下板と第2の前下板とは、予め箱型構造体の外側で突合せ溶接されることにより1枚の差厚板として形成されるので、この差厚板を構成する第1の前下板とアーム側取付部材の下接合板とを突合せ溶接する作業と、差厚板を構成する第2の前下板と第3の前下板とを突合せ溶接する作業を、箱型構造体の外側から行うことができる。この結果、箱型構造体を閉塞する第1,第2の前下板を溶接するときの作業性を高めることができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、第1の前下板の後端と第2の前下板の前端との間に形成したX形開先の位置で板厚方向の両側からグルーブ溶接を行うことにより、第1の前下板と第2の前下板とが、板厚の全域に亘って溶け込んだ完全溶接を行うことができる。この結果、第1の前下板と第2の前下板との接合強度を高めることができ、ブーム全体の強度や耐久性を高めることができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、第1の前下板の前端とアーム側取付部材の下接合板の後端との間に形成したV形開先の位置でグルーブ溶接を行うことにより、第1の前下板とアーム側取付部材の下接合板とが、板厚の全域に亘って溶け込んだ完全溶接を行うことができる。この結果、第1の前下板とアーム側取付部材との接合強度を高めることができ、ブーム全体の強度や耐久性を高めることができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、第2の前下板の後端と第3の前下板の前端との間に形成したV形開先の位置でグルーブ溶接を行うことにより、第2の前下板と第3の前下板とが、板厚の全域に亘って溶け込んだ完全溶接を行うことができる。この結果、第2の前下板と第3の前下板との接合強度を高めることができ、ブーム全体の強度や耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態による建設機械用ブームを、油圧ショベルのブームに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0024】
図中、1は建設機械の代表例としての油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、
図1に示すように、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、後述の作業装置8とにより大略構成されている。油圧ショベル1の上部旋回体3は、下部走行体2と共に建設機械の車体を構成するものである。上部旋回体3は、後述の旋回フレーム4、キャブ5、カウンタウエイト6および建屋カバー7等により構成されている。
【0025】
4は上部旋回体3のフレームを構成する旋回フレームを示し、該旋回フレーム4は、その前側に後述の作業装置8が俯仰動可能に取付けられ、後側には後述のカウンタウエイト6が取付けられている。旋回フレーム4の前部左側にはキャブ5が配設され、該キャブ5は、内部に運転室を画成している。キャブ5内には、オペレータが着席する運転席、操作レバー、走行用レバーまたはペダル(いずれも図示せず)等が配設されている。
【0026】
旋回フレーム4の後端側にはカウンタウエイト6が設けられている。カウンタウエイト6は、旋回フレーム4の後端側に着脱可能に搭載され、前側の作業装置8に対して上部旋回体3全体の重量バランスをとるものである。
【0027】
キャブ5とカウンタウエイト6との間には、旋回フレーム4上に立設された建屋カバー7が配置されている。建屋カバー7は、例えば薄い鋼板からなる複数枚の金属パネル等を用いて建屋構造に形成され、内部にエンジン等を収容する機械室(図示せず)を画成するものである。
【0028】
8は上部旋回体3の前部に俯仰動可能に設けられた作業装置を示している。作業装置8は、後述のブーム11と、ブーム11の先端側に俯仰動可能に取付けられたアーム9と、例えば土砂等の掘削作業を行うため該アーム9の先端側に回動可能に設けられた作業具としてのバケット10とにより大略構成されている。作業装置8のブーム11は、ブームシリンダ11Aにより旋回フレーム4に対して上,下に俯仰動され、アーム9は、ブーム11の先端側でアームシリンダ9Aにより上,下に俯仰動される。作業具としてのバケット10は、アーム9の先端側でバケットシリンダ10Aにより上,下に回動されるものである。
【0029】
次に、本実施の形態に用いられるブームについて説明する。
【0030】
11は作業装置8の作業腕を構成するブームを示している。このブーム11は、ブームシリンダ11Aにより旋回フレーム4に対して上,下に俯仰動されるものである。ここで、ブーム11は、弓形状に湾曲しつつ前,後方向(ブーム11の長さ方向)に延びる長尺な箱型構造体12と、箱型構造体12の後端側に設けられた後述のフート側取付部材31と、箱型構造体12の前端側に設けられた後述のアーム側取付部材33とにより構成されている。
【0031】
ここで、ブーム11の主要部を構成する箱型構造体12について説明する。
【0032】
図2ないし
図5に示すように、箱型構造体12は、左,右方向で間隔をもって対面しつつ前,後方向に延びた左側板13,右側板13′と、各側板13,13′の上端側に溶接により接合された上板15と、各側板13,13′の下端側に溶接により接合された下板17とにより、横断面が四角形の閉断面構造をもって形成されている。
【0033】
左側板13,右側板13′、上板15および下板17は、例えば高張力鋼からなる板材を用いて形成され、これにより各板材の板厚を可能な限り薄くできるようにしている。同様に、後述の各仕切板29,30、フート側取付部材31、シリンダ取付ボス部材32、アーム側取付部材33、シリンダブラケット34についても、同様な高張力鋼からなる鋼材を用いて形成されている。
【0034】
次に、箱型構造体12を構成する左側板13と右側板13′について、具体的に説明する。
【0035】
即ち、左側板13は箱型構造体12の左側面を形成し、右側板13′は箱型構造体12の右側面を形成している。なお、左側板13と右側板13′とは互いに同一な形状に形成されるため、左側板13について説明し、右側板13′については、左側板13に対応する符号にダッシュ(′)を付し、その説明は省略する。また、ブーム11の長さ方向である前,後方向の後端側とは、油圧ショベル1の車両後方からみた場合にブーム11の後部側に相当し、前,後方向の前端側とは、油圧ショベル1の車両後方からみた場合にブーム11の前部側(先端側)に相当するものである。
【0036】
図3に示すように、左側板13は、その全長のうち後端側(ブーム11のフート側)に位置する第1側板13Aと、その前側に順次配置され互いに形状が異なる第2側板13B,第3側板13C,第4側板13Dおよび第5側板13Eとからなる合計5枚の板材を接合することにより構成されている。
【0037】
このうち前,後方向の最も後側に位置する第1側板13Aは、高張力鋼からなる平板材をプレス成形することにより、上,下方向の幅寸法が後側から前側に向けて漸次大きくなる四角形状に形成されている。第2側板13Bも、高張力鋼からなる平板材をプレス成形することにより、上,下方向の幅寸法が後側から前側に向けて漸次大きくなる四角形状に形成されている。
【0038】
左側板13のうち前,後方向の最も中央に位置する第3側板13Cは、高張力鋼からなる平板材をプレス成形することにより、平行四辺形状に形成されている。ここで、第3側板13Cの上,下両端側は、それぞれ予め決められた曲率をもって円弧状に形成されている。さらに、第3側板13Cには円形の打抜き穴13C1が形成され、該打抜き穴13C1には、後述するシリンダ取付ボス部材32の左環状鍔部32Bが溶接により接合される。一方、第4側板13Dは、高張力鋼からなる平板材をプレス成形することにより、その上底の方が下底よりも長い台形状に形成されている。
【0039】
左側板13のうち前,後方向の最も前側(前端側)に位置する第5側板13Eは、高張力鋼からなる平板材をプレス成形することにより、上,下方向の幅寸法が後側から前側に向けて漸次小さくなる四角形状に形成されている。第5側板13Eは、第1側板13A〜第5側板13Eの中で前,後方向の長さ寸法が最も大きく、その板厚は最も薄く形成されている。
【0040】
図3に示すように、第1側板13Aの前端は、第2側板13Bの後端に突合せ溶接され、第1側板13Aと第2側板13Bとは溶接線14Aに沿って接合される。第2側板13Bの前端は、第3側板13Cの後端に突合せ溶接され、第2側板13Bと第3側板13Cとは溶接線14Bに沿って接合される。第3側板13Cの前端は、第4側板13Dの後端に突合せ溶接され、第3側板13Cと第4側板13Dとは溶接線14Cに沿って接合される。さらに、第4側板13Dの前端は、第5側板13Eの後端に突合せ溶接され、第4側板13Dと第5側板13Eとは溶接線14Dに沿って接合される。
【0041】
一方、
図4に示すように、右側板13′を構成する第1側板13A′と第2側板13B′とは溶接線14A′に沿って接合され、第2側板13B′と第3側板13C′とは溶接線14B′に沿って接合され、第3側板13C′と第4側板13D′とは溶接線14C′に沿って接合され、第4側板13D′と第5側板13E′とは溶接線14D′に沿って接合される。
【0042】
ここで、左側板13を構成する第1側板13A〜第5側板13Eのうち、その荷重分担が最も大きくなるのは第1側板13Aと第3側板13Cであり、第1側板13Aの板厚t1aと第3側板13Cの板厚t1cとは最も大きく設定されている。このため、第1側板13Aの板厚t1aと、第2側板13Bの板厚t1bと、第3側板13Cの板厚t1cと、第4側板13Dの板厚t1dと、第5側板13Eの板厚t1eとは、下記数1のような関係にある。
【0044】
右側板13′を構成する第1側板13A′〜第5側板13E′の板厚も、左側板13を構成する第1側板13A〜第5側板13Eの板厚と同様な関係を有している。
【0045】
次に、箱型構造体12を構成する上板15について、具体的に説明する。
【0046】
上板15は、左側板13および右側板13′の上端側に隅肉溶接により接合されている。
図3に示すように、上板15は、上板15の全長のうち前,後方向の後側に位置する後上板15Aと、前,後方向の前側に位置する前上板15Bと、後上板15Aと前上板15Bとの間に配置される中間上板15Cとからなる合計3枚の板材により構成されている。中間上板15Cは、後述のシリンダ取付ボス部材32を上方から覆う位置に配置される。
【0047】
後上板15A、前上板15Bおよび中間上板15Cは、それぞれ高張力鋼からなる平板材をプレス成形することにより四角形状に形成され、互いに異なる形状をもって前,後方向に延びている。その長さ寸法は、後上板15Aが最も短く、中間上板15Cが最も長く、前上板15Bは両者の中間の長さに形成されている。
【0048】
上板15は、後述のシリンダブラケット34が中間上板15Cの外側面に接合されるため、中間上板15Cの板厚t2cが最も厚く、前上板15Bの板厚t2bが最も薄く、後上板15Aの板厚t2aが中間の板厚に設定されている。従って、後上板15Aの板厚t2a、前上板15Bの板厚t2bおよび中間上板15Cの板厚t2cは、下記数2のような関係にある。
【0050】
中間上板15Cの後端は、後上板15Aの前端に突合せ溶接され、中間上板15Cと後上板15Aとは溶接線16Aに沿って接合される。前上板15Bの後端は、中間上板15Cの前端に突合せ溶接され、前上板15Bと中間上板15Cとは溶接線16Bに沿って接合される。
【0051】
上板15は、後上板15Aと前上板15Bとの間に中間上板15Cを接合した状態で、板継後のロール加工が施される。これにより、上板15は、
図3に示すように湾曲する。即ち、上板15の後上板15Aと中間上板15Cとは、左,右の側板13,13′の上端側における円弧状の輪郭線に沿った形状に湾曲する。
【0052】
次に、箱型構造体12を構成する下板17について、具体的に説明する。
【0053】
下板17は、左側板13および右側板13′の下端側に溶接により接合された下板を示している。
図3に示すように、下板17は、下板17の前端側に位置する第1の前下板17Aと、該第1の前下板17Aの後側に位置する第2の前下板17Bと、該第2の前下板17Bの後側に位置する第3の前下板17Cと、該第3の前下板17Cの後側に位置する後下板17Dとにより構成されている。さらに、後下板17Dは、第1の後下板17D1と、該第1の後下板17D1の後側に位置する第2の後下板17D2と、該第2の後下板17D2の後側に位置する第3の後下板17D3との3枚の板材により構成されている。即ち、下板17は合計6枚の板材により構成されている。
【0054】
第1の前下板17A,第2の前下板17B,第3の前下板17Cは、それぞれ高張力鋼からなる平板材をプレス成形することにより四角形状に形成され、互いに異なる形状をもって前,後方向に延びている。第1の前下板17Aの長さ寸法は最も短く設定され、第2の前下板17Bの長さ寸法は最も長く設定されている。第3の前下板17Cの長さ寸法は、第1の前下板17Aよりも長く、第2の前下板17Bよりも短く設定されている。
【0055】
図6ないし
図10に示すように、第1の前下板17Aの板厚t3aは最も厚く、後述するアーム側取付部材33を構成する下接合板33Fの板厚t4と等しい厚さに設定されている。一方、第2の前下板17Bの板厚t3bと第3の前下板17Cの板厚t3cとは等しく設定されている。従って、第1の前下板17Aの板厚t3aと、第2の前下板17Bの板厚t3bと、第3の前下板17Cの板厚t3cは、下記数3のような関係にある。
【0057】
ここで、
図5に示すように、第1の前下板17Aの後端17A1と第2の前下板17Bの前端17B1とは、上板15に缶組された左,右の側板13,13′の下端側に接合される前段階で、予め突合せ溶接される。これにより、前側が第1の前下板17Aとなり後側が第2の前下板17Bとなった1枚の差厚板18が形成される。
【0058】
図7に示すように、第1の前下板17Aの後端17A1と第2の前下板17Bの前端17B1との間には、板厚方向の両側から突合せ溶接を行うためのX形開先19が形成されている。従って、このX形開先19の位置で板厚方向の両側からグルーブ溶接(両面溶接)を行うことにより、第1の前下板17Aと第2の前下板17Bとが溶接ビード20によって接合された1枚の差厚板18が形成される。この場合、第1の前下板17Aの後端17A1と第2の前下板17Bの前端17B1とは、X形開先19によって板厚方向の両側からグルーブ溶接が施されることにより、板厚の全域に亘って溶込んだ完全溶接の状態で接合される。
【0059】
一方、後下板17Dを構成する第1の後下板17D1,第2の後下板17D2,第3の後下板17D3は、高張力鋼からなる平板材をプレス成形することにより四角形状に形成され、互いに異なる形状をもって前,後方向に延びている。
【0060】
第1の後下板17D1の長さ寸法は最も長く設定され、第2の後下板17D2の長さ寸法は最も短く設定されている。第3の後下板17D3の長さ寸法は、第1の後下板17D1よりも短く、第2の後下板17D2よりも長く設定されている。一方、第1の後下板17D1の板厚t3dは最も厚く、第2の後下板17D2の板厚t3eと第3の後下板17D3の板厚t3fとは等しく設定されている。従って、第1の後下板17D1の板厚t3dと、第2の後下板17D2の板厚t3eと、第3の後下板17D3の板厚t3fは、下記数4のような関係にある。
【0062】
図3に示すように、第1の後下板17D1には板継前のロール加工が施され、第1の後下板17D1は、左側板13の下端側における円弧状の輪郭線に沿った形状に湾曲する。
図5に示すように、第1の後下板17D1の前端は、第3の前下板17Cの後端に突合せ溶接され、第1の後下板17D1と第3の前下板17Cとは、溶接線21Aに沿って接合される。互いに接合された第1の後下板17D1と第3の前下板17Cとは、上板15に缶組みして溶接された各側板13,13′に対し、長さ方向中間部の下端側を閉塞するように溶接により接合される。
【0063】
第2の後下板17D2は、第1の後下板17D1よりも後側に配置され、各側板13,13′に対し、その下端側を閉塞するように溶接により接合される。このとき、第2の後下板17D2の前端は、第1の後下板17D1の後端に突合せ溶接され、第2の後下板17D2と第1の後下板17D1とは、溶接線21Bに沿って接合される。さらに、第3の後下板17D3は、第2の後下板17D2よりも後側に配置され、各側板13,13′に対し、その下端側を閉塞するように溶接により接合される。このとき、第3の後下板17D3の前端は、第2の後下板17D2の後端に突合せ溶接され、第3の後下板17D3と第2の後下板17D2とは、溶接線21Cに沿って接合される。第3の後下板17D3の後端は、後述するフート側取付部材31のボス部31Aに溶接によって接合される。
【0064】
ここで、
図5に示すように、箱型構造をなすブーム11を形成するときには、上板15に缶組された各側板13,13′の下端側に下板17を接合する前段階で、各側板13,13′と上板15の後端側にフート側取付部材31を接合すると共に、各側板13,13′と上板15の前端側にアーム側取付部材33を接合する。この状態で、アーム側取付部材33の下接合板33Fと第3の前下板17Cとの間には開口部22が形成され、この開口部22を、蓋となる差厚板18によって閉塞するようになっている。即ち、差厚板18を構成する第1の前下板17Aとアーム側取付部材33の下接合板33Fとを接合すると共に、差厚板18を構成する第2の前下板17Bと第3の前下板17Cとを接合することにより、箱型構造体12を構成する各側板13,13′の下端側を完全に閉塞することができる。
【0065】
この場合、
図6および
図9に示すように、後述するアーム側取付部材33の下接合板33Fの後端33F1には、箱型構造体12の内部側に位置して裏当て材23が設けられている。この裏当て材23は、各側板13,13′の間隔と等しい長さ寸法を有し、下接合板33Fの後端33F1に予め溶接によって固着されている。
【0066】
図8に示すように、差厚板18を構成する第1の前下板17Aの前端17A2と、アーム側取付部材33を構成する下接合板33Fの後端33F1との間には、裏当て材23に向けてV字状に傾斜したV形開先24が形成されている。従って、このV形開先24の位置で箱型構造体12の外側からグルーブ溶接(片面溶接)を行うことにより、第1の前下板17Aの前端17A2とアーム側取付部材33の下接合板33Fの後端33F1との間を溶接ビード25によって接合することができる(
図9参照)。
【0067】
一方、
図6および
図11に示すように、第3の前下板17Cの前端17C1には、箱型構造体12の内部側に位置して裏当て材26が設けられている。この裏当て材26は、各側板13,13′の間隔と等しい長さ寸法を有し、第3の前下板17Cの前端17C1に予め溶接によって固着されている。
【0068】
図10に示すように、差厚板18を構成する第2の前下板17Bの後端17B2と、第3の前下板17Cの前端17C1との間には、裏当て材26に向けてV字状に傾斜したV形開先27が形成されている。従って、このV形開先27の位置で箱型構造体12の外側からグルーブ溶接(片面溶接)を行うことにより、第2の前下板17Bの後端17B2と第3の前下板17Cの前端17C1との間を溶接ビード28によって接合することができる(
図11参照)。
【0069】
29は箱型構造体12の内部に設けられた第1の仕切板で、該第1の仕切板29は、各側板13,13′を構成する第2側板13B,13B′と、上板15と、下板17との間に接合されている。第1の仕切板29の上端は、上板15の中間上板15Cに溶接により接合されている。第1の仕切板29の下端は、下板17の第1の後下板17D1に溶接により接合されている。第1の仕切板29の左端は、左側板13の第2側板13Bに溶接により接合され、第1の仕切板29の右端は、右側板13′の第2側板13B′に溶接により接合されている。
【0070】
30は箱型構造体12の内部に設けられた第2の仕切板で、該第2の仕切板30は、各側板13,13′を構成する第4側板13D,13D′と、上板15と、下板17との間に接合されている。第2の仕切板30の上端は、上板15の中間上板15Cに溶接により接合されている。第2の仕切板30の下端は、下板17の第1の後下板17D1に溶接により接合されている。第2の仕切板30の左端は、左側板13の第4側板13Dに溶接により接合され、第2の仕切板30の右端は、右側板13′の第4側板13D′に溶接により接合されている。
【0071】
次に、箱型構造体12に設けられるフート側取付部材、シリンダ取付ボス部材、アーム側取付部材、シリンダブラケットの構成について説明する。
【0072】
31は箱型構造体12の後端側に設けられたフート側取付部材を示している。このフート側取付部材31は、油圧ショベル1の旋回フレーム4に連結ピン(図示せず)を介して回動可能に取付けられるものである。ここで、フート側取付部材31は、左,右方向に延びる円筒状のボス部31Aと、ボス部31Aの左端側に設けられた左接合板31Bと、ボス部31Aの右端側に設けられた右接合板31Cとにより構成されている。フート側取付部材31の左接合板31Bは、左側板13を構成する第1側板13Aの後端に溶接によって接合され、フート側取付部材31の右接合板31Cは、右側板13′を構成する第1側板13A′の後端に溶接によって接合される。一方、フート側取付部材31のボス部31Aには、上板15を構成する後上板15Aの後端と、下板17を構成する第3の後下板17D3の後端が、それぞれ溶接によって接合される。
【0073】
32は箱型構造体12の長さ方向中間部に設けられたシリンダ取付ボス部材である。このシリンダ取付ボス部材32は、
図1に示すブームシリンダ11Aのロッド先端が回動可能にピン結合されるものである。ここで、シリンダ取付ボス部材32は、左,右方向に延びる円筒状のボス部32Aと、ボス部32Aの左端側に設けられた左環状鍔部32Bと、ボス部32Aの右端側に設けられた右環状鍔部32Cとにより構成されている。シリンダ取付ボス部材32の左環状鍔部32Bは、左側板13を構成する第3側板13Cに形成された打抜き穴13C1の周囲に溶接によって接合され、右環状鍔部32Cは、右側板13′を構成する第3側板13C′に形成された打抜き穴13C1′の周囲に溶接によって接合される。
【0074】
33は箱型構造体12の前端に設けられたアーム側取付部材を示している。このアーム側取付部材33は、
図1に示すアーム9の基端側が連結ピン(図示せず)を介して回動可能に取付けられるものである。ここで、アーム側取付部材33は、二又状をなす左,右一対のブラケット部33Aと、該各ブラケット部33A間を一体的に連結する継手部33Bとにより構成されている。また、継手部33Bには、左側板13を構成する第5側板13Eの前端に溶接により接合される左接合板33Cと、右側板13′を構成する第5側板13E′の前端に溶接により接合される右接合板33Dと、上板15を構成する前上板15Bの前端に溶接により接合される上接合板33Eと、下板17を構成する第1の前下板17Aの前端17A2に溶接により接合される下接合板33Fとが設けられている。この場合、
図6および
図8に示すように、下接合板33Fは、第1の前下板17Aの板厚t3aと等しい板厚t4に設定され、下接合板33Fの後端33F1には、裏当て材23が固着されている。
【0075】
34はアームシリンダ9Aが取付けられるシリンダブラケットである。このシリンダブラケット34は、
図1に示すアームシリンダ9Aのボトム側が回動可能にピン結合されるものである。ここで、シリンダブラケット34は、左,右方向で間隔をもって対面する一対の板体からなり、上板15を構成する中間上板15Cの上面側に溶接によって接合されている。
【0076】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、ブーム11の製造工程について、
図3ないし
図14を参照して説明する。
【0077】
左側板13については、第1側板13Aと第2側板13Bとを、溶接線14Aに沿って突合せ溶接し、第2側板13Bと第3側板13Cとを、溶接線14Bに沿って突合せ溶接する。さらに、第3側板13Cと第4側板13Dとを、溶接線14Cに沿って突合せ溶接し、第4側板13Dと第5側板13Eとを、溶接線14Dに沿って突合せ溶接する。これにより、第1側板13A〜第5側板13Eを溶接によって接合してなる左側板13が形成される。
【0078】
これと同様に、右側板13′についても、第1側板13A′と第2側板13B′とを溶接線14A′に沿って溶接し、第2側板13B′と第3側板13C′とを溶接線14B′に沿って溶接し、第3側板13C′と第4側板13D′とを溶接線14C′に沿って溶接し、第4側板13D′と第5側板13E′とを溶接線14D′に沿って突合せ溶接する。これにより、第1側板13A′〜第5側板13E′を溶接によって接合してなる右側板13′が形成される。
【0079】
上板15については、後上板15Aと中間上板15Cとを、溶接線16Aに沿って突合せ溶接し、中間上板15Cと前上板15Bとを、溶接線16Bに沿って突合せ溶接する。後上板15Aと前上板15Bとの間に中間上板15Cを接合してなる上板15が形成された状態で、この上板15にロール加工を施す。これにより、後上板15Aと中間上板15Cとを、各側板13,13′の上端側における円弧状の輪郭線に沿って湾曲させる。
【0080】
下板17については、後下板17Dを構成する第1の後下板17D1にロール加工を施す。これにより、第1の後下板17D1を、各側板13,13′の下端側における円弧状の輪郭線に沿って湾曲させる。
【0081】
次に、各側板13,13′の間に、第1,第2の仕切板29,30、シリンダ取付ボス部材32を配置した状態で、各側板13,13′の上端側に上板15を溶接によって接合する。また、上板15を構成する中間上板15Cの上面側に、シリンダブラケット34を溶接によって接合する。
【0082】
次に、各側板13,13′と上板15の後端側にフート側取付部材31を接合する。即ち、左側板13を構成する第1側板13Aの後端をフート側取付部材31の左接合板31Bに突合せ溶接し、右側板13′を構成する第1側板13A′の後端をフート側取付部材31の右接合板31Cに突合せ溶接する。また、上板15を構成する後上板15Aの後端を、フート側取付部材31のボス部31Aに溶接する。
【0083】
一方、各側板13,13′と上板15の前端側にアーム側取付部材33を接合する。即ち、左側板13を構成する第5側板13Eの前端を、アーム側取付部材33を構成する左接合板33Cに突合せ溶接すると共に、右側板13′を構成する第5側板13E′の前端を、アーム側取付部材33を構成する右接合板33Dに突合せ溶接する。また、上板15を構成する前上板15Bの前端を、アーム側取付部材33を構成する上接合板33Eに突合せ溶接する。
【0084】
このようにして、缶組された各側板13,13′と上板15に対し、第1,第2の仕切板29,30、フート側取付部材31、シリンダ取付ボス部材32、アーム側取付部材33、シリンダブラケット34を組付けた状態で、各側板13,13′の下端側に下板17を接合する。
【0085】
まず、第1の後下板17D1の前端に、第3の前下板17Cの後端を突合せ溶接することにより、第1の後下板17D1と第3の前下板17Cとを溶接線21Aに沿って接合し、これら第1の後下板17D1と第3の前下板17Cとにより、上板15に缶組みされた各側板13,13′の下端側を閉塞する。
【0086】
また、第2の後下板17D2の前端を、第1の後下板17D1の後端に突合せ溶接することにより、第2の後下板17D2と第1の後下板17D1とを溶接線21Bに沿って接合する。さらに、第3の後下板17D3の前端を、第2の後下板17D2の後端に突合せ溶接し、第3の後下板17D3と第2の後下板17D2とを溶接線21Cに沿って接合すると共に、第3の後下板17D3の後端を、フート側取付部材31のボス部31Aに溶接によって接合する。
【0087】
このようにして、
図5に示すように、上板15に缶組みされた各側板13,13′の下端側を、第1の後下板17D1〜第3の後下板17D3からなる後下板17Dと、第3の前下板17Cとによって閉塞する。この状態で、第3の前下板17Cとアーム側取付部材33の下接合板33Fとの間には、開口部22が形成される。この場合、第3の前下板17Cの前端17C1には裏当て材26が予め設けられ、アーム側取付部材33の下接合板33Fの後端33F1には裏当て材23が予め設けられている。
【0088】
次に、
図7に示すように、第1の前下板17Aの後端17A1と第2の前下板17Bの前端17B1とを突合せ溶接し、前側が第1の前下板17Aとなり後側が第2の前下板17Bとなった1枚の差厚板18を形成する。この場合、第1の前下板17Aの後端17A1と第2の前下板17Bの前端17B1との間には、X形開先19が形成されているので、このX形開先19の位置で板厚方向の両側から溶接トーチ35を用いてグルーブ溶接(両面溶接)を行うことにより、大きな強度を有する差厚板18を形成することができる。
【0089】
次に、
図12ないし
図14に示すように、各側板13,13′の下端側に接合された第3の前下板17Cとアーム側取付部材33の下接合板33Fとに対し、差厚板18を溶接によって接合する。まず、差厚板18を構成する第1の前下板17Aの前端17A2を、アーム側取付部材33の下接合板33Fに設けられた裏当て材23に当接させた状態で、第1の前下板17Aの前端17A2と下接合板33Fの後端33F1とに対し、箱型構造体12の外側から突合せ溶接を行う。
【0090】
この場合、
図8に示すように、第1の前下板17Aの板厚t3aは、下接合板33Fの板厚t4と等しく設定され、第1の前下板17Aの前端17A2と下接合板33Fの後端33F1との間には、裏当て材23に向けてV字状に傾斜したV形開先24が形成されている。従って、このV形開先24の位置で箱型構造体12の外側から溶接トーチ35を用いてグルーブ溶接(片面溶接)を行うことにより、第1の前下板17Aの前端17A2とアーム側取付部材33の下接合板33Fの後端33F1との間を溶接ビード25によって強固に接合することができる(
図9参照)。
【0091】
次に、
図14に示すように、差厚板18を構成する第2の前下板17Bの後端17B2を、第3の前下板17Cに設けられた裏当て材26に当接させた状態で、第2の前下板17Bの後端17B2と第3の前下板17Cの前端17C1とに対し、箱型構造体12の外側から突合せ溶接を行う。
【0092】
この場合、
図10に示すように、第2の前下板17Bの板厚t3bと第3の前下板17Cの板厚t3cとは等しく設定され、第2の前下板17Bの後端17B2と第3の前下板17Cの前端17C1との間には、裏当て材26に向けてV字状に傾斜したV形開先27が形成されている。従って、このV形開先27の位置で箱型構造体12の外側から溶接トーチ35を用いてグルーブ溶接(片面溶接)を行うことにより、第2の前下板17Bの後端17B2と第3の前下板17Cの前端17C1との間を溶接ビード28によって強固に接合することができる(
図11参照)。
【0093】
このようにして、各側板13,13′の下端側に接合された第3の前下板17Cとアーム側取付部材33の下接合板33Fとの間の開口部22を、差厚板18によって閉塞することができ、閉断面構造をなす箱型構造体12を有するブーム11を形成することができる。
【0094】
かくして、本実施の形態によれば、アーム側取付部材33の下接合板33Fの板厚t4と等しい板厚t3aを有する第1の前下板17Aと、第3の前下板17Cの板厚t3cと等しい板厚t3bを有する第2の前下板17Bとを、X形開先19の位置で板厚方向の両側から両面溶接することにより、1枚の差厚板18を形成している。このため、例えば裏当て材を用いて片面溶接する場合に比較して、溶接部の疲労強度が高い差厚板18を形成することができる。
【0095】
しかも、差厚板18を構成する第1の前下板17Aの板厚t3aは、アーム側取付部材33の下接合板33Fの板厚t4と等しい。このため、第1の前下板17Aの前端17A2とアーム側取付部材33の下接合板33Fとを、裏当て材23を用いて外側から片面溶接した場合でも、第1の前下板17Aとアーム側取付部材33の下接合板33Fとの溶接部(溶接ビード25)の疲労強度を高くすることができる。一方、差厚板18を構成する第2の前下板17Bの板厚t3bは、第3の前下板17Cの板厚t3cと等しい。このため、第2の前下板17Bの後端17B2と第3の前下板17Cの前端17C1とを、裏当て材26を用いて外側から片面溶接した場合でも、第2の前下板17Bと第3の前下板17Cとの溶接部(溶接ビード28)の疲労強度を高くすることができる。
【0096】
従って、差厚板18を構成する第1の前下板17Aとアーム側取付部材33の下接合板33Fとを突合せ溶接し、差厚板18を構成する第2の前下板17Bと第3の前下板17Cとを突合せ溶接することにより、箱型構造体12全体の疲労強度を高めることができ、ブーム11の耐久性を高めることができる。
【0097】
さらに、本実施の形態では、第1の前下板17Aと下接合板33Fとに対する溶接作業と、第2の前下板17Bと第3の前下板17Cとに対する溶接作業を、箱型構造体12内の狭隘な作業スペース内で無理な作業姿勢で行う必要がなく、箱型構造体12の外側で余裕をもって行うことができる。この結果、溶接品質を高めることができ、第1,第2の前下板17A,17Bによって箱型構造体12を確実に閉塞することにより、ブーム11全体の疲労強度を高めることができる。さらに、第1,第2の前下板17A,17Bを溶接するときの作業性を高めることができる。
【0098】
次に、本実施の形態によるブーム11と、
図15および
図16に示す比較例によるブーム100との比較について説明する。
【0099】
まず、比較例によるブーム100は、本実施の形態によるブーム11とほぼ同様に、左,右の側板101(左側のみ図示)と、上板102と、下板103と、アーム側取付部材104とを有している。
【0100】
ここで、下板103は、前側(アーム側取付部材104側)から順に第1の前下板103A、第2の前下板103B、第3の前下板103Cを有し、第3の前下板103Cは、第1,第2の前下板103A,103Bに先立って側板101の下端側に接合されている。一方、アーム側取付部材104は、ブラケット部104Aと継手部104Bとからなり、継手部104Bは、左,右の接合板104C、上接合板104D、下接合板104Eを有している。第1,第2の前下板103A,103Bの板厚t5aは、第3の前下板103Cの板厚t5bと等しく、アーム側取付部材104の下接合板104Eの板厚t5cよりも薄く設定されている(t5a=t5b<t5c)。
【0101】
この場合、第1の前下板103Aの板厚t5aは、アーム側取付部材104の下接合板104Eの板厚t5cよりも薄いため、第1の前下板103Aとアーム側取付部材104の下接合板104Eとに対し、裏当て材を用いて片面溶接を行った場合には、溶接部の疲労強度が低くなってしまう。このため、比較例においては、第1の前下板103Aとアーム側取付部材104の下接合板104Eとに対し、両面溶接を行うことにより溶接部の疲労強度を高くすることが考えられる。
【0102】
しかし、アーム側取付部材104の下接合板104Eの後端と第1の前下板103Aの前端とを突合せ溶接するときには、
図16に示すように、作業者Wは、左,右の側板101と上板102とによって囲まれた狭隘な空間内で無理な作業姿勢で溶接作業を行うため、溶接部に対する視認性が低下する。この結果、溶接作業の作業性が悪いだけでなく、アーム側取付部材104の下接合板104Eと第1の前下板103Aとの間の溶接部の溶接品質が低下して疲労強度が低くなり、ブーム100の耐久性が低下する虞れがある。
【0103】
これに対し、本実施の形態によるブーム11は、第1の前下板17Aと第2の前下板17bとを板厚方向の両側から両面溶接することにより1枚の差厚板18を形成している。これにより、差厚板18を構成する第1の前下板17Aの板厚t3aとアーム側取付部材33の下接合板33Fの板厚t4とを等しくし、差厚板18を構成する第2の前下板17Bの板厚t3bと第3の前下板17Cの板厚t3cとを等しくすることができる。従って、第1の前下板17Aの前端17A2とアーム側取付部材33の下接合板33Fとを、箱型構造体12の外側から、裏当て材23を用いた片面溶接によって強固に接合することができる。また、第2の前下板17Bの後端17B2と第3の前下板17Cの前端17C1とを、箱型構造体12の外側から、裏当て材26を用いた片面溶接によって強固に接合することができる。この結果、箱型構造体12全体の疲労強度を高めることができ、ブーム11の耐久性を高めることができる。
【0104】
しかも、差厚板18を構成する第1の前下板17Aとアーム側取付部材33の下接合板33Fとを突合せ溶接する作業と、差厚板18を構成する第2の前下板17Bと第3の前下板17Cとを突合せ溶接する作業を、箱型構造体12の外側から行うことができるので、第1,第2の前下板17A,17Bを溶接するときの作業性を高めることができる。
【0105】
なお、上述した実施の形態では、第1の前下板17A〜第3の前下板17Cと共に下板17を構成する後下板17Dを、第1の後下板17D1,第2の後下板17D2,第3の後下板17D3の3枚の板材を用いて形成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば1〜2枚の板材、あるいは4枚以上の板材を用いて後下板を形成してもよい。
【0106】
また、上述した実施の形態では、左側板13を第1側板13A〜第5側板13Eの5枚の板材を用いて形成し、右側板13′を第1側板13A′〜第5側板13E′の5枚の板材を用いて形成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば1〜4枚の板材、あるいは6枚以上の板材を用いて左,右の側板を形成してもよい。
【0107】
これと同様に、上述した実施の形態では、上板15を、後上板15A,前上板15B,中間上板15Cの3枚の板材を用いて形成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば1枚〜2枚の板材、あるいは4枚以上の板材を用いて上板を形成してもよい。
【0108】
さらに、上述した実施の形態では、建設機械の代表例としてクローラ式の油圧ショベル1に用いられるブーム11を例に挙げて説明している。しかし、本発明はこれに限らず、例えばホイール式の油圧ショベル等の他の建設機械に用いられるブームに広く適用することができる。