【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施例について、自動運転する移動体として車両を用い、その搭乗者が装着するヘッドマウントディスプレイに仮想空間を表示する場合を例にとって説明する。本発明は、自動運転に限らず、他者が運転する車両に搭乗する場合にも同様に適用可能である。
【0027】
A.システム構成:
最初に、本実施例で実現する仮想空間表示について説明する。
図1は、実施例としての仮想空間表示の概要を示す説明図である。
図の中央には、実施例としての仮想空間表示システムが搭載された車両VHを示した。車両VHは、コンピュータを搭載しており、カメラなどのセンサによって周囲の状況を検知しながら、自律的に自動運転することができる機能を有している。車両VHの搭乗者DVは、ヘッドマウントディスプレイを装着しており、そのヘッドマウントディスプレイには、図の下側に示されている仮想空間VWが表示されている。
図の上側には、車両VHが走行している現実空間RWの様子を示した。現実空間RWにおいては、図示するように建物が存在しており、車両VHは道路上を矢印Aのように走行しようとしているものとする。車両VHの前方からは、対向車Cが接近している。また、車両VHが左折する先には、人が自転車Pに乗って移動している。車両VHは、こうした周囲の状況を認識しながら走行しているから、自転車Pに衝突しないよう、矢印Aの先端付近のB点で一旦停止し、自転車Pが通り過ぎた後、再び走行を開始することになる。
仮想空間VWには、搭乗者DVがゲームをするための画面が表示されている。この例では、仮想空間VWの表示は、ゲームの画面でありながら、現実空間RWを反映した表示となっている。搭乗者DVは、この仮想空間VWを、移動しながらゲームを行うのである。画面は、搭乗者DVの意思に関わらずカメラ視点の移動によって自動的に変化していく。図示した場面では、矢印AVのように左の通路に移動しようとしている。ゲーム画面の中央前方からはキャラクターCVがまっすぐ向かってくる様子が表示されている。これは、現実空間RWにおける対向車Cを置換したオブジェクトである。また、左側には、岩PVが転がっていく様子が表示されている。これは現実空間RWにおける自転車Pを置換したオブジェクトである。このように本実施例では、現実空間RWにおいて、車両VHが移動するパスに影響を与える対象物、即ち重要対象物については、オブジェクトに置換した上で、仮想空間VWにも表示させるのである。
こうすることによって、搭乗者DVの目の前には、転がっていく岩PVが表示されているから、自動運転する車両VHが点Bで一旦停止するのに合わせ、仮想空間VWにおいて点BVで移動が停止しても、違和感を覚えることなく、ゲームを続行することができる。また、搭乗者DVに、ゲーム画面において点BVで移動が停止するのと適合した車両VHの動きを体感させることができるため、ゲームのリアリティを向上させることも可能となる。
【0028】
図2は、仮想空間表示システムの構成を示す説明図である。本実施例では、仮想空間表示システムは、車両100に搭載されCPU、RAM、ROMを備えるコンピュータによって構成される制御装置に、図示する各機能ブロックおよびデータベースを実現するコンピュータプログラムをインストールすることによって構成されている。各機能ブロックおよびデータベースは、ハードウェア的に構成することも可能である。また、本実施例では、スタンドアロンで稼働するシステムとして例示するが、車両100と複数のサーバ等をネットワークで接続し、図示する各機能ブロックやデータベースの一部をネットワーク経由で提供するシステムとして構成してもよい。また、図示する各機能ブロックおよびデータベースには、車両100の自動運転を実現するための機能も含まれている。
【0029】
以下、各機能ブロックおよびデータベースについて説明する。
3次元地図データベース113は、車両100の自動運転に利用される高精度の3次元地図である。3次元地図データベース113は、道路の形状だけでなく、その周囲に存在する建物、道路標識、信号機、ガードレールなど種々の地物の位置および形状を3次元モデルとして格納している。3次元地図データベース113には、道路上の中央線、停止線、横断歩道などの種々の白線等を格納してもよい。
置換データベース114は、現実空間に存在する対象物に関連づけて仮想空間に表示されるオブジェクトを格納するデータベースである。対象物には、建物のように固定された対象物だけでなく、歩行者や対向車両のように移動する対象物も含まれる。置換データベース114の内容については、後で具体的に示す。
【0030】
主制御部110は、全体の機能を統合制御する機能を果たす。本実施例では、車両100の自動運転を実現する機能、および搭乗者に対して仮想空間を表示する機能が主制御部110の制御下で実現される主要な機能となる。
車両100には、その周囲に存在する種々の対象物を検出するためのセンサ101が搭載されており、周辺状況検出部111は、センサ101の検出結果を利用して車両100の周囲の状況を検出する。センサとしては、レーザ、赤外線、レーダを利用した対象物の検出センサや、静止画像または動画像を撮影する種々のカメラなどを単一または組み合わせて用いることができる。周辺状況検出部111は、センサ101の検出結果だけでなく、3次元地図データベース113を併用してもよい。センサ101による検出結果を3次元地図データベース113に格納された3次元モデルと照合することにより、より精度良く対象物の種別や大きさなどを特定することが可能となる。
位置・姿勢検出部112は、車両100の位置および姿勢を検出する。位置は、緯度経度および高度などの座標で表される。姿勢は車両100の進行方向を方角、方位角などで表すことができる。必要に応じて車両100の姿勢としてピッチ角を検出してもよい。これらの検出は、車両100に例えば、GPS、地磁気センサなどを搭載することにより行うことができる。位置・姿勢検出部112は、GPS等の出力を、3次元地図データベース113と照合することにより、より高精度で位置および姿勢を検出可能としてもよい。さらに、位置・姿勢検出部112は、周辺状況検出部111も併用してもよい。車両100の周辺に存在する種々の対象物を特定し、これらを3次元地図データベース113と照合することにより、さらに高精度で位置および姿勢を検出可能となる。
【0031】
ルート設定部115は、自動運転において搭乗者によって指定された出発地から目的地までの移動経路(本明細書では、この移動経路を「ルート」と称する)を設定する。ルートの設定は、種々の方法を採りうるが、例えば、道路をノードおよびリンクで表した道路ネットワークデータベースを用意し、これに基づく経路探索によって決定する方法をとることができる。また別の方法として、搭乗者自身が走行するルートを手動または音声で指定するようにしてもよい。
自動運転制御部116は、ルート設定部115で指定されたルートを走行するように、車両100の動力、操舵および制動を制御し、自動運転を実現する。車両100は、走行中には、周辺状況検出部111や位置・姿勢検出部112の検出結果に応じて、周辺の対象物を回避しながら走行する。このように予め指定されたルートとは別に、時々刻々の状況に応じて車両が走行する軌跡を本明細書ではパスと称する。上述の通り、パスは、予め指定されたルートだけでなく、車両100の周囲における対象物の存否や対象物の動きなどによって影響を受けることになる。また車両100の移動速度も、対象物の存否等によって影響を受けることになる。本明細書では、パスや移動速度に影響を与える対象物を重要対象物と称し、それ以外の対象物を一般対象物と称するものとする。重要対象物としては、例えば、車両100の前方にある信号機や歩行者、
図1に示した自転車Pが相当する。また、一般対象物としては、車両100の側方にある建物などが相当する。移動する対象物であっても、
図1の対向車Cのように遠方に位置し、車両100のパスおよび移動速度に影響を与えない対象物は、一般対象物に属する。
【0032】
コマンド判定部119は、搭乗者の動作等に基づいて、搭乗者が車両100に対して指示したコマンドを判定する。コマンドは、例えば、搭乗者が保持するコントローラ132に対する操作によって入力可能としてもよいし、搭乗者の頭や腕などの動きを動作検出部131によって検出し、これらの動きによって入力可能としてもよい。
仮想空間表示部118は、搭乗者が装着するヘッドマウントディスプレイ130に対して、仮想空間画像を表示する。表示媒体は、ヘッドマウントディスプレイ130に代えて、搭乗者の前方や側方に配置した大型ディスプレイ等を利用してもよい。仮想空間を表示する際、仮想空間表示部118は、車両100の周囲に検出された重要対象物については、置換データベース114を参照し、所定のオブジェクトに変換した上で仮想空間に表示する。重要対象物がパスや移動速度に与える影響に応じて、その形状、大きさなどを変化させてもよい。一般対象物については、仮想空間画像の表示内容に応じた処理を行う。例えば、重要対象物と同様、置換データベース114を参照してオブジェクトに置換してもよいし、一般対象物は無視して表示しないものとしてもよい。また、仮想空間画像は、一般対象物の存否に関係なく生成するようにしてもよい。
【0033】
本実施例では、仮想空間画像の表示モードを複数用意した。モード処理部117は、各表示モードにおける表示内容を決定する。
ゲーム処理部117aは、表示モードの一つとしてゲームを選択したときに、ゲームの進行やそれに応じたゲーム画面などを決定する。ゲーム画面の背景画像を生成し、仮想空間表示部118に表示を指示してもよい。
読書処理部117bは、表示モードの一つとして読書を選択したときに、仮想空間に表示すべき書籍の内容や、搭乗者の操作に応じてページめくり、拡大などの表示制御を行う。本実施例では、搭乗者は読書中も車両100の移動を体感しているため、読書モードの仮想空間表示では、書籍画像の背景などで車両100の移動に適合した画像を表示する。読書処理部117bは、こうした背景画像の生成を行うようにしてもよい。
会議処理部117cは、表示モードの一つとして会議を選択したときに、仮想空間に、テレビ会議の画像の表示を行う。搭乗者の操作に応じて会議画像の視線変更や拡大、会議資料の表示などを可能としてもよい。本実施例では、搭乗者は会議中も車両100の移動を体感しているため、会議モードの仮想空間表示では、会議画像の背景などで車両100の移動に適合した画像を表示する。会議処理部117cは、こうした背景画像の生成を行うようにしてもよい。
【0034】
B.置換データベース:
次に、置換データベース114の内容について説明する。
図3〜5は、それぞれ置換データベース114の例を示す説明図である。これらに図示する通り、置換データベース114は、現実空間における対象物(左欄)と、仮想空間に表示されるオブジェクト(右欄)とを対応づけて格納している。ここに示したのは一例に過ぎず、対応関係は任意に設定可能である。また、対象物とオブジェクトは、1対1の対応関係である必要はなく、1対多、多対1など種々の対応関係が可能である。
図3に示す通り、信号機には、門のオブジェクトを対応づけた。信号機の横の( )内には、車両のパスまたは移動速度に与える影響を示した。信号機は、停止(赤)と進行(青)という移動速度に対する影響を交互に与えることになる。オブジェクトでもこれに対応した表現を実現するため、停止(赤)に対しては閉じた門、進行(青)に対しては開いた門を対応づけている。閉じた門/開いた門の変化は、例えば、閉じた門を表示してから一定時間経過した時点、または車両が移動を開始した時点で変化させるものとしている。信号の色の変化は定期的であるから、時間の経過によってオブジェクトを変化させるようにすることで、信号の色を検知するまでなく、比較的容易に現実空間の状態をオブジェクトに反映させることが可能となる。また、車両が移動を開始した時点で門を開くようにしておけば、オブジェクトを変化させるまでの経過時間と信号の変化の周期にずれが生じた場合でも、仮想空間において閉じた門に突っ込むような事態を回避することができる。
別の例として
図3の下段に示す通り、踏切に対しては滝のオブジェクトを対応させた。踏切も、停止、即ち遮断機が下りた状態と、進行、遮断機があがった状態とが変化する。オブジェクトでは、これに適応させるため、停止に対しては滝の水が全幅で流れ落ちている状態を対応させ、進行に対しては滝の水が中央部分では流れ落ちていない状態を対応させるものとした。両者の変化は、信号機の場合と同様、全幅で流れる状態を表示してから一定時間経過した時点、または車両が移動を開始した時点で変化させるものとしている。
【0035】
図4には変化のない対象物の例を示した。一例として、速度標識に対しては、細街路のオブジェクトを対応づける。速度標識は車両に対して移動速度を減速させる影響を与えるものであり、細街路も搭乗者に対して移動速度を下げようという心理的な影響を与えるものであるため、両者を対応させることにより、現実空間の対象物に適応した仮想空間を表示させることができる。速度標識で指定されている制限速度に応じて、細街路における木の繁り具合や道幅などを変化させてもよい。
工事中のバリケードに対しては、壁のオブジェクトを対応づける。壁は、バリケードが車両のパスに対して与える回避という影響に適合したものとなっている。壁の長さは、バリケードが設けられた範囲に応じて変化させればよい。
駐車車両に対しては、寝ているライオンのオブジェクトを対応づけている。駐車車両は一種の障害物であり、車両のパスに対して回避という影響を与えるが、一方、移動する可能性のある対象物である。かかる対象物に対して、回避すべき対象物であり、かつ移動する可能性がある対象物として、本実施例では、寝ているライオンを対応づけた。この例では、駐車車両が移動を開始した時点で、ライオンを歩かせるようにしてもよい。
【0036】
図5の上段に示す通り、車両の前方を歩く歩行者には、穴のオブジェクトを対応づけた。歩行者も穴も、車両に対して停止または回避という影響を与えるため、適合したものとなっている。穴の位置や大きさを歩行者の位置、移動速度などに応じて変化させてもよい。
中段に示す通り、飛び出しに対しては、転がり落ちてくる丸太のオブジェクトを対応づけた。飛び出しは、車両に対して急停止という影響を与えるため、搭乗者に対して危険を感じさせるオブジェクトを対応づけることによって、両者の影響を適合させることができる。
下段に示す通り、対向車に対しては、転がってくる岩のオブジェクトを対応づけた。対向車も岩も、車両のパスに対して回避という影響を与えるため、適合したものとなっている。対向車の大きさや移動速度に応じて、岩のサイズや移動速度などを変化させてもよい。
以上で例示したように現実空間とオブジェクトを対応づけておくことにより、現実空間において車両の移動速度やパスが受ける影響に応じた仮想空間を表示することが可能となる。また、重要対象物を置換データベースによって所定のオブジェクトに置換することにより、搭乗者は、例えば、仮想空間表示に表示された穴を見て、現実空間には歩行者がいるというように、仮想空間表示を見ながら現実空間を認識することが可能となる。
【0037】
C.制御処理:
以下、本実施例において車両を自動運転するとともに仮想空間を表示するための処理について説明する。以下の処理は、ハードウェア的には、車両に搭載された制御装置が実行する処理であり、
図2に示した各機能ブロックおよびデータベースによって実現される処理である。
【0038】
C1.自動運転処理:
図6は、自動運転処理のフローチャートである。制御装置は、まず自動運転ルートを設定する(ステップS10)。ルートは、搭乗者によって指定された出発地から目的地までの経路探索によって自動的に設定するものとしてもよいし、搭乗者がコントローラの操作や音声によって指示するようにしてもよい。
ルートが設定されると、制御装置は次の手順で車両の自動運転を開始する。制御装置は、車両に搭載されたセンサの検出結果を3次元地図データベースと照合することによって、車両周囲の対象物を認識する(ステップS11)。また、GPS等のセンサによる検出結果と、3次元地図データベースおよび対象物の検出結果とを照合することで、自車位置および姿勢を認識する(ステップS12)。
次に、制御装置は、これらの認識結果に基づいて重要対象物を抽出する(ステップS13)。重要対象物とは、車両の移動速度およびパスに影響を与える対象物である。重要対象物の抽出は、種々の方法で行うことができる。例えば、車両の進行方向の所定の領域内に存在する対象物を全て重要対象物とする簡易な方法、種々の対象物と車両と衝突すると予測される対象物を重要対象物とする方法、速度標識や赤信号など車両の移動速度などを規制する対象物を重要対象物とする方法などを挙げることができる。
制御装置は、こうして抽出された重要対象物に基づいて、車両のパスおよび速度を設定する(ステップS14)。車両が走行すべきルートは既に設定されているため、本実施例では、重要対象物に応じて、ルートを修正等することによってパスを設定するものとした。図中にパスおよび速度の設定方法の概要を例示した。例えば、重要対象物として赤信号が抽出されている場合、車両のパス、速度に対しては「停止」という影響を与えるから、制御装置は、これに応じて車両の停止、即ち「速度=0」に設定する。重要対象物として歩行者、車などの障害物が抽出されている場合には、図示するように、車両が回避または停止することになる。制御装置は、重要対象物と車両との距離や位置などに応じて停止すべきか回避すべきかを判断し、回避すべき場合には、本来のルートから外れた回避パスを決定する。
こうして車両が走行すべきパスおよび速度が決定されると、制御装置は、車両制御、即ち車両の動力装置、制動装置、操舵装置を制御して、設定通りの走行を実現する(ステップS15)。
制御装置は、ステップS11〜S15の処理を目的地に到着するまで(ステップS16)、繰り返し実行する。
【0039】
C2.コマンド判定処理:
図7は、コマンド判定処理のフローチャートである。この処理は、自動運転処理と並行して制御装置が繰り返し実行する処理である。
処理を開始すると、制御措置はコントローラに対する操作および搭乗者の動作を検出する(ステップS30)。何も操作または動作が検出されないときは(ステップS31)、そのままコマンド判定処理を終了する。
【0040】
操作または動作が検出された場合は、その種別に応じた処理を実行する(ステップS31)。種別の判断例を図の右側に示した。
例えば、右側の図の上段に示すように、コントローラの十字キー(図中のハッチング)が操作されたときは、仮想空間に表示されている画面に応じて種別が異なる。経路選択メニュー画面が表示されているときは、種別は「運転制御」と判断される。この場合の操作に応じた指示は、メニューに表示された経路の選択となる。その他の画面が表示されているときは、種別は「表示モード固有」と判断される。この場合の操作に応じた指示は、表示モードに応じて異なる。例えば、図の例では、ゲームモードのときは移動が指示され、読書モードのときはページめくりが指示され、会議モードのときはズームが指示されることになる。
右側の図の2段目に示すように、コントローラのボタン(図中のハッチング)が操作されたときは、種別は「運転制御」と判断され、停止が指示される。このようにコントローラの特定のボタンは、表示モードと無関係に運転制御と判断されるようにしておくことにより、このボタンを緊急停止ボタンとして機能させることが可能となる。
右側の図の3段目に示すように、搭乗者の動作に対しても種別は判断することができる。図の例では、搭乗者が手を交差する動作をしたときは、種別は「運転制御」と判断され、停止が指示される。こうすることで、非常時にはコントローラの操作に依らずに車両を緊急停止することができる。かかる指示を与える動作として、危険を感じたときに搭乗者が無意識にとる可能性が高い動作を選択しておくことにより、自然な動作による指示が可能となり安全性を向上させることが可能となる。図に示した手を交差するという動作も、何らかの対象物に衝突しそうな状況に遭遇したときに、思わず搭乗者がとる動作の一例である。
操作および動作に応じた種別の判断は、図示した対応関係を予めデータベース等で用意しておくことにより容易に行うことが可能となる。
【0041】
操作または動作が「運転制御」と判断される場合(ステップS31)、制御装置は、自動運転処理に対して操作等に応じた指示を出力する(ステップS32)。自動運転処理(
図6)は、この指示を受けて車両を制御することになる。例えば、車両のパス、速度の設定(
図6のステップS14)において、この指示を考慮するようにすればよい。
操作または動作が「表示モード固有」と判断される場合(ステップS31)、制御装置は、表示モードに応じた指示を仮想空間表示処理に対して出力する(ステップS33)。仮想空間表示処理の処理内容は、後述するが、ヘッドマウントディスプレイに表示する仮想空間画像を生成する際に、搭乗者による指示が反映させることになる。
制御装置は、以上のコマンド判定処理を繰り返し実行することにより、搭乗者の意図を、車両の運転または仮想空間の表示に反映させることができる。
【0042】
C3.仮想空間表示処理:
図8は、仮想空間表示処理のフローチャートである。搭乗者が装着したヘッドマウントディスプレイに仮想空間の画像を表示させるための処理である。制御装置は、この処理も、自動運転処理(
図6)、コマンド判定処理(
図7)と並行して繰り返し実行する。
処理を開始すると、制御装置は、表示モードの選択を行う(ステップS50)。例えば、図中に示すように「ゲーム」「読書」「会議」といった表示モードを表すボタンをメニューとして表示し、搭乗者の選択を入力するようにしてもよい。一旦、表示モードが選択された後は、ステップS50をスキップするようにしてもよいし、表示モードの選択メニューを常に画面の端などに表示しておき、任意のタイミングで表示モードを切り替えることができるようにしてもよい。
次に、制御装置は、自車位置、姿勢を読み込む(ステップS51)。これらの情報は、自動運転処理において認識された結果(
図6のステップS12参照)を用いるようにしてもよい。
また、制御装置は、重要対象物置換処理を実行する(ステップS52)。この処理は、車両の周辺に存在する重要対象物を、置換データベースに基づいて、仮想空間に表示するためのオブジェクトに置換する処理である。処理の内容は後で詳述する。
【0043】
以上の処理に続いて、制御装置は、表示モードに応じた仮想空間の表示を実現する(ステップS53)。
表示モードが「ゲーム」の場合は、ゲーム画面を表示する(ステップS54)。図中にゲーム画面の表示例を示した。この画面では、重要対象物の一つである自転車は、転がる岩に置換されて表示されている。また、一般対象物も、置換データベースに基づいてオブジェクトに置換され、ゲームの背景を構成している。従って、ゲーム画面では、仮想空間ながら、自身が移動すべき道が認識できるような画像となっている。
もっとも、ゲーム画面の表示は、かかる方法に限られない。一般対象物については、必ずしも何らかのオブジェクトに置換する必要はない。即ち、ゲーム画面の背景画像は、一般対象物と無関係の画像として生成することができる。ゲームの背景を、水中の画像などとしても構わない。かかる場合でも、重要対象物は、置換データベースに基づいて所定のオブジェクトに置換して表示する。ゲームの背景であれば、重要対象物である自転車を、水中を泳ぐサメなどに置換してもよい。かかる置換は、置換データベースの対応関係をゲームの背景画像に応じて用意しておくことにより、容易に実現可能である。
表示モードが「読書」の場合は、読書画面を表示する(ステップS55)。図中に読書画面の表示例を示した。この画面では、読書する書籍を中央に表示している。仮想空間表示のリアリティを向上させるため、現実の書籍を表した画像とした。搭乗者は、コントローラの操作等によって、書籍のページをめくり、読書を楽しむことができる。また、操作によって読書の一部を拡大表示するなどの機能をもたせてもよい。読書画面では、搭乗者が車両の移動を体感しながら読書しても違和感を覚えないように、書籍の背景に、車両の移動に合わせて流れる風景を表示している。また、書籍の下方には、車両の移動に即したパスを表す矢印を表示している。こうすることにより、搭乗者は読書に意識を払いながらも、自然と目に入る周囲の画像によって、自身の体感に即した車両の移動を認識することができるため、違和感を覚えることなく読書を継続することができる。また、重要対象物は、読書画面表示においても表示される。図の例では、歩行者を表す穴がパスとともに表示されている。こうすることによって、搭乗者は、仮想空間内での理解ではあるが、車両がパスを変化させた理由を理解することができ、違和感を回避することが可能となる。読書画面における背景画像、パス、および重要対象物の表示は、この例に限らず、種々の表示が可能である。
表示モードが「会議」の場合は、会議画面を表示する(ステップS56)。図中に会議画面の表示例を示した。この画面では、テレビ会議の画像を中央に表示している。テレビ会議の画像は、現実空間における他の会議室での様子をカメラで撮影した画像を、ネットワーク経由で取得すればよい。搭乗者は、コントローラの操作等によって、視点を移動させたり、拡大表示、会議資料の表示への切り替えなどの機能をもたせてもよい。会議画面では、会議画像の背景に、車両の移動に合わせて流れる風景を表示している。また、会議画像の下方には、車両の移動に即したパスを表す矢印を表示している。こうすることにより、搭乗者は会議をしながらも、自然と目に入る周囲の画像によって、自身の体感に即した車両の移動を認識することができるため、違和感を覚えない。また、重要対象物は、読書画面と同様、会議画面表示においても表示されている。会議画面における背景画像、パス、および重要対象物の表示は、この例に限らず、種々の表示が可能である。
【0044】
図9は、重要対象物置換処理のフローチャートである。仮想空間表示処理(
図8)のステップS52の処理を示したものである。
制御装置は、自車位置、姿勢、重要対象物、表示モードを読み込む(ステップS70)。そして、置換データベースを参照し、重要対象物を仮想空間に表示するためのオブジェクトに置換する(ステップS71)。重要対象物は、表示モードに応じて異なるオブジェクトに置換するようにしてもよい。
【0045】
制御装置は、こうして置換されたオブジェクトに対して、重要対象物の移動に応じたエフェクトを施す(ステップS72)。図中にエフェクトの例を示した。この例は、現実空間における歩行者を、穴のオブジェクトに置換する例を示している。置換データベースにおいて、歩行者に対応づけて格納されている穴のオブジェクトが、図中のハッチング無しの穴である。かかるオブジェクトを仮想空間に表示すれば、搭乗者は、自車のパスが変化したとしても、穴を回避するための動きであると認識し、その動きに対して違和感を覚えることは少ない。
しかし、穴の位置によっては、図中のパスA、パスBのいずれをとっても不自然とは言えない状態になることがある。かかる状態では、搭乗者が穴を見てパスBのように回避すべきと認識したにも関わらず、車両はパスAのように移動することが生じうるため、搭乗者の認識と車両のパスとが食い違う可能性がある。
これに対し、現実空間において歩行者が矢印のように移動している場合には、ハッチングを付した状態のように穴を拡大して表示するとする。かかる状態の穴を回避するためのパスとしては、パスAと大回りのパスCとが存在するが、自車位置を考えるとパスAの方が自然であることは明らかである。制御装置も、歩行者が矢印のように移動していることを検知しているから、安全な経路として、パスAを選択する。従って、ハッチングを施した表示を行えば、搭乗者の認識と、車両の移動とを適合させることができ、搭乗者が違和感を覚える可能性をさらに抑制できる利点がある。
ステップS72では、上述の通り、現実空間において車両のとるパスに適合するようにオブジェクトにエフェクトを施すのである。エフェクトの例としては、図示したような形状の変化の他、サイズの変化、オブジェクト自体の移動などが挙げられる。具体的には、自動運転処理において設定された車両のパス、速度(
図6のステップS14参照)を取得し、それに適合するようにエフェクトの内容を決定すればよい。また、エフェクトには、このように置換データベースに記憶されているオブジェクトの形状等を変化させる処理の他、置換データベースに複数の態様が格納されている場合に、その中から適切なものを選択する処理も含まれる。例えば、
図3の信号機の例で示したように、信号機の色に応じて、閉じた門、開いた門のいずれかを選択する処理が挙げられる。
【0046】
制御装置は、併せて、以上で設定されたオブジェクトの表示位置を決定する(ステップS73)。表示位置の決定は、例えば、仮想空間における座標で行うことができる。自動運転処理において、重要対象物の現実空間における位置、および自車位置、姿勢は検出されているから(
図6のステップS11、S12参照)、仮想空間座標における重要対象物の位置は特定されている。オブジェクトは、その重心を、重要対象物の位置に一致させるようにして表示させてもよい。また、重要対象物が移動している場合は、その移動に応じて、オブジェクトの重心を重要対象物の現在の位置からずらして表示させてもよい。
【0047】
D.効果および変形例:
以上で説明した実施例の仮想空間表示システムによれば、搭乗者に対して、現実空間の車両の移動に適合した仮想空間、即ち移動体の動きを正当化させる画像を表示することができる。この結果、現実空間において重要対象物を検知して移動体が決定するパスと、仮想空間におけるオブジェクトを見て搭乗者が意識する移動状態とを一致させることができる。この結果、搭乗者は仮想空間を見ながらも、移動体の動きに対して違和感を覚えることを回避できるのである。また、搭乗者は、移動体の動きについて、現実空間では何が起きているのだろう、といった疑問を感じることなく、仮想空間に没入することが可能となる。逆に、現実空間における移動体の動きが、仮想空間における搭乗者の体感と適合することによって、仮想空間のリアリティを向上させる効果もある。こうして、実施例の仮想空間表示システムによれば、仮想空間への没入と、否応なしに体感する現実空間の動きに対する違和感の軽減とを両立させることができる。
【0048】
上記実施例は、自動運転の車両に限らず、他者が運転する車両に搭乗する場合にも同様に適用可能である。かかる場合では、運転者が搭乗していることから、車両の運転を制御する自動運転制御部116(
図2参照)は省略しても差し支えない。
【0049】
E.実施例2:
次に実施例2における仮想空間表示システムについて説明する。実施例1では、人物が移動体に搭乗して移動する例を示したのに対し、実施例2では、人物自身が移動する例を示す。
図10は実施例2としての仮想空間表示の概要を示す説明図である。テーマパークのアトラクションとしての例を示した。この例では、アトラクションのプレーヤーP1は、ヘッドマウンドディスプレイHMDを装着して、仮想空間VW2を視ながら、仮想空間内に現れるモンスターCVを捕まえる遊戯を行うことができる。
システム構成は、実施例1(
図2参照)と同様である。ただし、自動運転に必要な機能ブロック、即ち自動運転制御部116、3次元地図データベース113は省略しても差し支えない。また、アトラクションの内容によってモード処理部117内の読書処理部117b、会議処理部117cなども省略可能である。位置・姿勢検出部112は、プレイヤーP1が装着するヘッドマウントディスプレイHMDにGPSなどを取り付けても良いし、アトラクション内にカメラやセンサを設けてプレイヤーP1の位置を検出するようにしてもよい。
また、周辺状況検出部111は、ヘッドマウントディスプレイHMDに、外部の状況を撮影するカメラを統合してもよいし、アトラクションのように遊戯を行うエリア内の障害物の位置や種類、他のプレイヤーP2の位置などが把握されている場合には、これらの情報を活用するものとしてもよい。
【0050】
実施例2の仮想空間表示システムでは、周辺状況検出部111によって検出された対象物のうち、プレイヤーP1が自身の動きの体感またはその予測に影響を与えるものを選択し、オブジェクトとして仮想空間VW2に表示する。図の例では、プレイヤーP1の前方の床面に設けられた凹凸BPが検出されると、仮想空間VW2にも小さい石の集まりOBJ2を表示させる。こうすることで、プレイヤーP1が、凹凸BP上を歩いたとき、仮想空間VW2では、石の集まりOBJ2上を歩くことになり、プレイヤーP1の現実の体感と仮想空間内で視覚から得られる認識とを一致させることができる。また、他のプレイヤーP2が、プレイヤーP1に向かって近づいているとき、仮想空間VW2には、岩OBJ1が転がってくる様子を表示する。こうすることにより、プレイヤーP1は、このまま進むことは危険であると予測し、岩を避けるために停止することができる。仮想空間VW2の表示に基づいて何が起きるかを予測することにより、現実世界での危険を回避することができるのである。
本発明は、このように、表示装置を装着した人物自身が自らの意思で移動している場合にも適用することが可能であり、実施例1と同様の効果を得ることができる。
実施例2は、歩行する例を示したが、例えば、ヘッドマウントディスプレイHMDを装着した人物が、何らかの移動体を運転する場合に本発明を適用することも可能である。具体的には、倉庫内などの非常に狭く見通しが悪い通路においてカート運転する場合に、運転者が装着したヘッドマウントディスプレイに、通路を真上から見下ろした平面図とそこを移動する自身のカートや他の歩行者、カートなどを表示させてもよい。こうすることで、運転者は平面内を移動させるようにカートの進路を適切に制御しながら運転することができ、また、他の歩行者等の位置も容易に把握できるため、安全に運転することが可能となる。
【0051】
以上の実施例1、実施例2で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、一部を省略したり組み合わせたりすることも可能である。また、上述した実施例も種々の変形例を構成することができる。
例えば、本実施例では、オブジェクトが変化する態様も含めて置換データベースに格納するものとしたが、置換データベースには基本形状のみを格納し、オブジェクトの変化は全てエフェクトで処理するようにしてもよい。
本実施例では、重要対象物のエフェクト(
図9のステップS72)において、自動運転処理で特定されたパス等の情報を用いているが、信号機や踏切のように規則的に変化するオブジェクトについては、自動運転処理からの情報を利用せずにエフェクトを施すようにしてもよい。例えば、重要対象物について、規則的に変化するか否か、車両のパスまたは移動速度に対して与える影響が「停止」「回避(曲がる)」「進む」のいずれであるかなどによって、複数の区分に分類し、自動運転処理からの情報を利用するもの、利用しないものに分けて処理する方法をとることができる。こうすることによって、信号機などのように規則的に変化するオブジェクトの処理を軽い負荷で済ませることができる利点がある。