(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下地基板と、当該下地基板の表面に沿った一方向に伸長し互いに並行する複数のバンクとを有するバンク付基板を準備し、前記複数のバンクのうち隣り合うバンク同士の間の各溝領域にインクを塗布し、塗布されたインク層を乾燥させることによって、色の異なる隣り合う複数のサブピクセルからなる画素が複数配置された有機発光デバイスの機能層を形成する形成方法であって、
前記バンク付基板において、それぞれ色の異なるサブピクセルが形成される隣り合う複数の溝領域からなる溝領域群が複数群存在し、
各溝領域群において、一部の溝領域は、残りの溝領域と比べて、単位面積当たりのインク塗布量が少なく設定され、
前記複数の溝領域の各々にインクを塗布する前又は後に、
前記一部の溝領域に前記インクが溶解する溶剤を塗布すると共に、
前記残りの溝領域に対しては、前記インクが溶解する溶剤を塗布しないか、前記一部の溝領域に対する単位面積当たりの塗布量より少ない単位面積当たりの塗布量で前記溶剤を塗布し、
前記インク及び前記溶剤の塗布によって前記複数の溝領域の各々に形成されたインク層を乾燥させることによって前記機能層を形成する、
機能層の形成方法。
前記複数の溝領域群の中で、前記下地基板の中央部に位置する溝領域群における前記溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均よりも、前記下地基板の周辺部に位置する溝領域群における前記溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均が大きく設定されている、
請求項1〜3のいずれかに記載の機能層の形成方法。
下地基板と当該下地基板の表面に沿った一方向に伸長し互いに並行する複数のバンクとを有し、前記複数のバンクのうち隣り合うバンク同士の間には各溝領域が存在し、且つ、それぞれ色の異なるサブピクセルが形成される隣り合う複数の溝領域からなる溝領域群が複数群存在するバンク付基板を備えた有機発光デバイスを製造する装置であって、
インクで構成される第1液滴を吐出する第1インクジェットヘッドと、
前記インクが溶解する溶剤で構成される第2液滴を吐出する第2インクジェットヘッドと、
各溝領域群における一部の溝領域に対して、残りの溝領域と比べて、単位面積当たりのインク塗布量が少なくなるよう、前記第1インクジェットヘッドに前記第1液滴を吐出させるとともに、前記一部の溝領域に対して、前記第2インクジェットヘッドに前記第2液滴を吐出させ、前記残りの溝領域に対して、前記第2インクジェットヘッドに前記第2液滴を吐出させないか、前記一部の溝領域に対する単位面積当たりの塗布量より少ない単位面積当たりの塗布量で前記第2インクジェットヘッドに前記第2液滴を吐出させる制御部と、
を備える有機発光デバイスの製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[発明に到る経緯]
本発明者は、下地基板の表面に沿った複数のバンクによって区画された複数の各溝領域にサブピクセルが形成された有機発光デバイスの製造について検討した。この検討の結果、本発明者は、当該有機発光デバイスの製造の際に、各溝領域にインクの塗布を行うことによって機能層を形成するときに、溝領域ごとにインクの塗布量が異なっていると、各溝領域に形成される機能層の膜厚分布に偏りが生じることを見出した。
【0020】
その原因としては、溝領域間でインク塗布量が異なると、乾燥の過程において、溝領域ごとに溶剤の蒸発速度が異なることが考えられる。蒸発速度が互いに異なる溝領域に挟まれた溝領域のインク層においては、コーヒーステイン現象として知られているように、蒸発速度の小さい溝領域の方にインクの流れが生じると考えられる。
【0021】
そして、このインクの流れに伴ってインク層内で機能性材料が移動することによって、乾燥後の機能層の形状に偏りが生じると考えられる。
【0022】
このような知見に基づき、それぞれ色の異なるサブピクセルが形成される隣り合う複数の溝領域からなる溝領域群において、できるだけ溝領域間におけるインク層の乾燥が均一的になされるようにすることによって、各溝領域に形成される機能層の膜厚の偏りをなくす方法を検討した。
【0023】
ここで複数の溝領域の単位面積当たりに塗布するインクの量を同等に設定することができれば、インク層の乾燥を均一的にすることができる。しかしながら、複数の溝領域に対して共通のインクを塗布し、且つ、溝領域ごとに別個の膜厚に設定する場合には、塗布するインク量も個別に設定する必要があり、同等のインク塗布量にすることはできない。
【0024】
そこで、複数の溝領域に対して塗布するインク量が異なる場合でも、インク層からの蒸発速度をできるだけ均一化できる方法を検討し、本発明に至った。
【0025】
[発明の態様]
本発明の一態様に係る有機発光デバイスの機能層を形成する方法は、下地基板と、当該下地基板の表面に沿った一方向に伸長し互いに並行する複数のバンクとを有するバンク付基板を準備し、複数のバンク同士の間の各溝領域にインクを塗布し、塗布されたインク層を乾燥させることによって、色の異なる隣り合う複数のサブピクセルからなる画素が複数配置された有機発光デバイスの機能層を形成する形成方法であって、バンク付基板において、それぞれ色の異なるサブピクセルが形成される隣り合う複数の溝領域からなる溝領域群が複数群存在し、各溝領域群において、一部の溝領域は、残りの溝領域と比べて、単位面積当たりのインク塗布量が少なく設定され、複数の溝領域の各々にインクを塗布する前又は後に、一部の溝領域にインクが溶解する溶剤を塗布すると共に、残りの溝領域に対しては、インクが溶解する溶剤を塗布しないか、一部の溝領域に対する単位面積当たりの塗布量より少ない単位面積当たりの塗布量で溶剤を塗布し、インク及び溶剤の塗布によって複数の溝領域に形成されたインク層を乾燥させることによって機能層を形成することとした。
【0026】
この機能層の形成方法によれば、各溝領域群を構成する複数の溝領域の中で、一部の溝領域は残りの溝領域に対して単位面積当たりのインク塗布量が少なく設定されている。そして、単位面積当たりのインク塗布量が少ない一部の溝領域に対する単位面積当たりの溶剤塗布量は、残りの溝領域に対する単位面積当たりの溶剤塗布量よりもが多く設定されているので、一部の溝領域と残りの溝領域との間で、インクと溶剤とを合わせた単位面積当たりの塗布量が均一化される。
【0027】
従って、一部の溝領域と残りの溝領域とで単位面積当たりのインク塗布量が異なっているにもかかわらず、各溝領域群を構成する複数の溝領域に塗布されたインク及び溶剤からなるインク層の塗布量を均一化し、溝領域単位面積あたりのインク層の表面積を均一化できる。従って、乾燥の途中で、これらの溝領域の上方に形成される溶剤蒸気圧の分布にむらが生じるのが抑えられる。また、各溝領域群を構成する複数の溝領域に形成されるインク層が乾燥するのに要する時間も均一化される。
【0028】
よって、各溝領域内に形成される機能層の膜厚分布の偏りを抑えることができる。
【0029】
上記態様の機能層の形成方法において、以下のようにしてもよい。
【0030】
複数の溝領域の各々に塗布される溶剤の塗布量は、溝領域の単位面積あたりに形成されるインク層の表面積が同等となるように設定する。
【0031】
下地基板上における複数の溝領域群のうち隣り合う溝領域群同士の間に、バスバーが配置された間隙が存在している場合、溶剤を塗布するときに、バスバーが配置された間隙にも溶剤を塗布することが、各溝領域内に形成される機能層の膜厚分布を均一的にする上で好ましい。
【0032】
複数の溝領域群の中で、下地基板の中央部に位置する溝領域群における溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均よりも、下地基板の周辺部に位置する溝領域群における溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均を大きく設定してもよい。
【0033】
下地基板の中央部の溝領域群と比べて周辺部の溝領域群では、溶剤の蒸発速度が大きくなりやすいが、このように周辺部に位置する溝領域群における溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均を、中央部に位置する溝領域群における溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均よりも大きく設定することによって、中央部と周辺部との間でインク層の乾燥が完了するまでの時間を合わせることができる。このような設定を加えることも、各溝領域内に形成される機能層の膜厚分布を均一内に形成される機能層の膜厚分布を均一化するのに寄与する。
【0034】
複数の溝領域の各々に対してインクを塗布する前に溶剤の塗布を行うことが好ましい。
【0035】
各溝領域に対して、先にインクを塗布すると、溶剤が塗布される前にインクの乾燥が進んで溶剤と良好に混合されない可能性もあるが、インクよりも溶剤を先に塗布すれば、そのようなことがなく、溝領域においてインクと溶剤とが良好に混合される。
【0036】
溝領域に塗付する溶剤には、インクに含まれる溶剤と共通の成分が含まれることが、インクと溶剤の相互の溶解を良好にする上で、また、溝領域間でインク層からの蒸発速度を均一化する上で好ましい。
【0037】
本発明の一態に係る有機発光デバイスの製造方法は、下地基板上に機能層を形成することによって有機発光デバイスを製造する方法であって、機能層を形成する際に、上記形態の機能層の形成方法を用いる。
【0038】
本発明の一態に係る有機発光デバイスの製造装置は、下地基板と当該下地基板の表面に沿った一方向に伸長し互いに並行する複数のバンクとを有し、前記複数のバンクのうち隣り合うバンク同士の間には各溝領域が存在し、且つ、それぞれ色の異なるサブピクセルが形成される隣り合う複数の溝領域からなる溝領域群が複数群存在するバンク付基板を備えた有機発光デバイスを製造する装置であって、インクで構成される第1液滴を吐出する第1インクジェットヘッドと、前記インクが溶解する溶剤で構成される第2液滴を吐出する第2インクジェットヘッドと、各溝領域群における一部の溝領域に対して、残りの溝領域と比べて、単位面積当たりのインク塗布量が少なくなるよう、前記第1インクジェットヘッドに前記第1液滴を吐出させるとともに、前記一部の溝領域に対して、前記第2インクジェットヘッドに前記第2液滴を吐出させ、前記残りの溝領域に対して、前記第2インクジェットヘッドに前記第2液滴を吐出させないか、前記一部の溝領域に対する単位面積当たりの塗布量より少ない単位面積当たりの塗布量で前記第2インクジェットヘッドに前記第2液滴を吐出させる制御部と、を備える。
【0039】
[実施の形態1]
以下、実施の形態に係る有機EL装置の構成及び製法について説明する。
【0040】
1.装置の概略構成
図1および
図2を参照しながら、有機EL表示装置1の概略構成を説明する。
【0041】
図1に示すように、有機EL表示装置1は表示パネル10と、これに接続された駆動制御回路部2とを備えている。表示パネル10は、有機発光デバイスの一種であって、有機材料の電界発光現象を利用した有機ELパネルである。有機EL表示装置1における駆動制御回路部2は、4つの駆動回路21〜24と1つの制御回路25とから構成されている。
【0042】
図2は、表示パネル10の平面図である。表示パネル10においては、複数の発光素子11R,11G,11BがX方向およびY方向に二次元配置されている。この表示パネル10では、発光素子11Rは赤色光(R)を出射し、発光素子11Gは緑色光(G)を出射し、発光素子11Bは青色光(B)を出射する。
【0043】
そして、各発光素子11R,11G,11Bは、赤色サブピクセル、緑色サブピクセル、青色サブピクセルに相当し、X方向に隣接する3つの発光素子11R,11G,11Bで1つの画素が構成されている。すなわち、各画素は、X方向に隣り合う赤色サブピクセル、緑色サブピクセル、青色サブピクセルからなる。各サブピクセルのY方向長さは例えば300μmである。
【0044】
2.表示パネル10の構成
表示パネル10において、Y方向に延伸する複数のバンク112によって区画された溝領域125R,125G,125Bが形成されている。溝領域125R,125G,125Bは、赤色用、緑色用、青色用の溝領域であって、対応する発光色の発光素子11R,11G,11BがY方向に列設されている。
【0045】
複数のバンク112は、
図5に示すように下地基板110の上に形成されている。
【0046】
図2に戻って、各画素を形成する色の異なる赤色サブピクセル、緑色サブピクセル、青色サブピクセルが形成される隣り合う3本の溝領域125R,125G,125Bによって1つの溝領域群12が構成されている。
【0047】
そして、表示パネル10全体においては、複数の溝領域群12がX方向に並んで形成されている。
【0048】
図3は、
図2のA−A断面を示す模式断面図である。
【0049】
表示パネル10は、基板100上にTFT層101が形成されてなるTFT基板をベースとしている。TFT層101は、詳細な図示は省略しているが、ゲート、ソース、ドレインの3電極と、半導体層、パッシベーション膜などで構成されている。
【0050】
TFT基板の上に層間絶縁層102が積層されて下地基板110が形成されている。層間絶縁層102の上面が略平坦に形成され、その上に発光素子11R〜11Bが形成されている。
【0051】
各発光素子11R〜11Bは、基本構成は同じであって、層間絶縁層102の上に順に積層形成された画素電極103、ホール注入層104、ホール輸送層116、発光層117、電子輸送層118、及びカソード119によって構成されている。
【0052】
バンク112は、層間絶縁層102の上において、ホール注入層104のX方向両縁を覆うように形成されている。
【0053】
そして、ホール輸送層116、発光層117、電子輸送層118は、バンク112同士の間に積層形成されている。
【0054】
なお、これらホール輸送層116、発光層117、電子輸送層118は、Y方向に連続して形成されている。
【0055】
ここで、各発光素子11では、共振器構造を形成するように、ホール輸送層116の光学膜厚が設定されている。そのため、赤色発光素子11R、緑色発光素子11G、青色発光素子11Bでは、各発光色の波長に合わせて、ホール輸送層116の膜厚が異なっている。具体的には、赤色用のホール輸送層116R、緑色用のホール輸送層116G、青色用のホール輸送層116Bの順で、ホール輸送層116の膜厚が小さくなっている。
【0056】
そして、電子輸送層118の上及びバンク112の側面及び頂面の上を全体的に覆うように、カソード119および封止層120が順に形成されている。
【0057】
封止層120は、発光層117などの有機層が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を持つ。
【0058】
封止層120の上には、樹脂層121を介して、ブラックマトリクス層122及びカラーフィルタ層123を有する基板124が貼り合せられている。
【0059】
以上の構成を有する表示パネル10は、トップエミッション型であってZ方向に光を出射する。
【0060】
画素電極103は、層間絶縁層102上において、各発光素子11R,11G,11Bごとに独立して設けられた電極であって、層間絶縁層102に設けられたコンタクトホール(不図示)を介して、TFT層101の上部電極(ソースまたはドレインに接続された電極)に接続されている。
【0061】
3.表示パネル10の各部構成材料
基板100:
基板100は、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、硫化モリブデン、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鉄、ニッケル、金、銀などの金属基板、ガリウム砒素基などの半導体基板、プラスチック基板等を用い形成されている。
【0062】
プラスチック基板としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれの樹脂を用いてもよい。
【0063】
例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルベンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオ共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、変形ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン、あるいは、これらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられる。また、これらのうち1種、または2種以上を積層した積層体を用いることもできる。
【0064】
層間絶縁層102:
表示パネル10の製造工程において、エッチング処理、ベーク処理等が施されることがあるので、層間絶縁層102は、それらの処理に対して耐久性を有する材料で形成することが望ましい。層間絶縁層102は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、アクリル系樹脂などの有機化合物で形成される。
【0065】
画素電極103:
表示パネル10はトップエミッション型なので、画素電極103の表面は高い反射性を有することが好ましい。画素電極103は、例えば、銀(Ag)またはアルミニウム(Al)を含む金属材料で構成される。
【0066】
画素電極103は、金属材料からなる単層構造だけではなく、金属層と透明導電層との積層体とすることもできる。透明導電層の材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)が挙げられる。
【0067】
ホール注入層104:
ホール注入層104は、例えば、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)などの酸化物、あるいは、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料からなる。
【0068】
バンク112:
バンク112は、感光性の有機材料で形成する。有機材料の具体例として、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂などが挙げられる。
【0069】
ホール輸送層116や発光層117等をウェット法で形成するインクに対する撥液性を有することが好ましいので、フッ素系の樹脂を用いることが好ましい。
【0070】
バンク112の構造は、一層構造だけでなく、二層以上の多層構造を採用することもでき、多層構造の場合には、層毎に上記材料を組み合わせて用いることができる。
【0071】
ホール輸送層116:
ホール輸送層116は、例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体などの高分子化合物を用いて形成することができる。
【0072】
発光層117:
発光層117の材料としては、パラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフルオレン、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質等が挙げられる。
【0073】
電子輸送層118:
電子輸送層118は、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などで形成される。
【0074】
カソード119:
表示パネル10はトップエミッション型なので、カソード119は光透過性の材料で形成する。具体的な材料は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)若しくは酸化インジウム亜鉛(IZO)などである。
【0075】
封止層120:
封止層120は、光透過性の材料で形成される。
【0076】
封止層120の材料は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などである。また、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの材料を用い形成された層の上に、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂材料からなる封止樹脂層を設けてもよい。
【0077】
樹脂層121:
樹脂層121は、透明樹脂材料、例えば、エポキシ系樹脂材料から形成される。ただし、これ以外にもシリコーン系樹脂などを用いることもできる。
【0078】
ブラックマトリクス層122:
ブラックマトリクス層122は、光吸収性および遮光性に優れる黒色顔料を含む紫外線硬化樹脂材料で形成されている。紫外線硬化樹脂としては、アクリル系の紫外線硬化樹脂材料が挙げられる。
【0079】
カラーフィルタ層123:
カラーフィルタ層123は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各色の波長域の可視光を選択的に透過する材料、例えば公知のアクリル樹脂をベースにした材料で形成される。
【0080】
基板124:
基板124は、上記基板100と同様に、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、硫化モリブデン、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鉄、ニッケル、金、銀などの金属基板、ガリウム砒素基などの半導体基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0081】
4.表示パネル10の製造方法
表示パネル10の製造方法について、
図4の工程図に基づいて説明する。
【0082】
表示パネル10の製造においては、先ず、TFT基板を準備する(ステップS1)。このTFT基板は、基板100の上面にTFT層101を形成したものであり、公知の技術で作製される。
【0083】
次に、TFT基板上に有機材料を塗布して層間絶縁層102を形成する(ステップS2)。
【0084】
このように作製した下地基板110の層間絶縁層102上に、画素電極103およびホール注入層104を順に積層形成する(ステップS3、S4)。画素電極103の形成は、例えば、スパッタリング法若しくは真空蒸着法を用いて金属膜を形成した後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法でパターニングすることによってなされる。
【0085】
ホール注入層104の形成は、例えば、スパッタリング法を用いて酸化金属(例えば、酸化タングステン)からなる膜を形成した後、フォトグラフィ法およびエッチング法を用いてパターニングすることでなされる。
【0086】
次に、バンク112を形成することによってバンク付基板150を作製する(ステップS5)。
【0087】
このバンク112は、バンク材料(ネガ型感光性樹脂組成物)を基板上に一様に塗布する。塗布したバンク材料層上に、バンク112のパターンに合わせた開口を有するフォトマスクを重ねて、フォトマスクの上から露光する。その後余分なバンク材料をアルカリ現像液で洗い出すことによって、バンク材料をパターニングして、バンク112を形成する。
【0088】
図5に示すように、バンク付基板150の上面側に、Y方向に伸長する複数のバンク112によって区画された溝領域125R,125G,125Bが形成されている。
【0089】
バンク112の高さ(層間絶縁層102上複数のバンク112は、
図5に示すように下地基板110の上に形成されている。面からの高さ)は例えば1μm、幅は30μmである。なお、上述のように、複数のバンク112は、下地基板110の上に形成されている。ここでいうバンク112の高さは、下地基板110の上面からバンク112の上面までの高さをいう。
【0090】
図4に戻って、複数のバンク112で区画された各溝領域125に、ホール輸送層116を形成する(ステップS6)。ホール輸送層116の形成については、後で詳しく説明するが、ウェット法を用い、ホール輸送層116の構成用材料を含むインクを隣り合うバンク112間の溝領域に塗布した後、乾燥することによってなされる。
【0091】
同様に、複数のバンク112で区画された溝領域125に、発光層117を積層形成する(ステップS7)。発光層117の形成についても、各構成材料を含むインクを塗布した後、乾燥することでなされる。
【0092】
次に、発光層117及びバンク112の頂面を覆うように、電子輸送層118、カソード119および封止層120を順に積層し形成する(ステップS8,S9,S10)。電子輸送層118,カソード119および封止層120は、例えば、スパッタリング法を用いて形成することができる。
【0093】
その後、基板124にカラーフィルタ層123およびブラックマトリクス層122が形成されたカラーフィルタ基板を貼り合わせることによって、表示パネル10が完成する(ステップS11)。
【0094】
5.ホール輸送層116の形成工程
図6(a)〜(e)は、溝領域125R,125G,125Bにホール輸送層を形成する工程を示す断面模式図である。
【0095】
図6(b)に示すように、バンク付基板150における各溝領域125R,125G,125Bに対して、ホール輸送層形成用のインクを塗布するが、インクを塗布する工程に先立って、
図6(a)に示すように溝領域125G,125Bに溶剤を塗布する工程を設けている。
【0096】
図5には、塗布装置のノズルヘッド221、222を示している。ノズルヘッド221は溶剤塗付用、ノズルヘッド222はインク塗布用であって、各ノズルヘッド221、222の下面側には、複数のノズル(不図示)がY方向に列設されている。
【0097】
このようなノズルヘッド221、222をバンク付基板150の上を走査させながら、溶剤あるいはインクを吐出することによって、各溝領域125R,125G,125Bに溶剤あるいはインクを塗布することができる。
【0098】
図6(b)のインク塗布時に塗布するインクは、ホール輸送層116の材料を所定の溶剤に溶解した溶液である。
【0099】
インクの溶剤としては、例えば、シクロヘキシルベンゼン(CHB)の他に、ジエチルベンゼン、デカハイドロナフタレン、メチルベンゾエート、アセトフェノン、フェニルベンゼン、ベンジルアルコール、テトラハイドロナフタレン、イソフォロン、n−ドデカン、ジシクロヘキシル、p−キシレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
【0100】
これら溶剤は、単独で用いてもよいし、複数の溶剤を混合したもの、あるいは低沸点溶剤と混合して用いてもよい。
【0101】
ただし、上記のように、赤色用のホール輸送層116R、緑色用のホール輸送層116G、青色用のホール輸送層116Bの設定膜厚はこの順で小さくなるので、各溝領域125R,125G,125Bに対して塗布するホール輸送層用のインクの単位面積当たりの塗布量も、この順で小さくなるように設定されることになる(すなわち溝領域125R,125G,125Bにおける単位面積当たりの設定塗布量をIa,Ib,Icとすると、Ia>Ib>Icの関係がある。)。
【0102】
ここで、
図3に示すように、各バンク112は断面形状が台形状であって、溝領域125R,125G,125Bの幅は、底面の幅よりも開口幅が大きい。従って、溝領域125R,125G,125Bの面積も底面積よりも開口面積が大きいが、上記の「単位面積」は、開口部の単位面積(すなわち
図2に矢印で示す溝領域125R,125G,125Bの開口幅に、溝領域のY方向長さを掛けた開口部の面積における単位面積)を指すこととする。
【0103】
図6(a)の溶剤塗布時に、各溝領域に塗布する溶剤の量は、溝領域125R,125G,125Bの順で大きくなるように設定する(すなわち溝領域125R,125G,125Bの開口面積における単位面積あたりの溶剤塗布量をSa,Sb,Scとすると、Sa<Sb<Scの関係がある)。
【0104】
さらに、溶剤塗布量Sa,Sb,Scの値は、各溝領域125R,125G,125Bの単位面積あたりのインク塗布量と溶剤塗布量の和が同程度(すなわちIa+Sa≒Ib+Sb≒Ic+Sc)となるように設定することが好ましい。
【0105】
図6(a),(b)に示すように、インク塗布量が最も多い溝領域125Rには溶剤を塗布しなくてもよい(すなわちSa=0に設定してもよい)。
【0106】
このようにして、各溝領域125R,125G,125Bに塗布された溶剤及びインクは、溝領域内で混ざり合って、
図6(c)に示すようにインク層116aが形成される。
【0107】
溶剤を塗布する工程において用いる溶剤の組成は、インクに含まれる溶剤と同じ溶剤成分を含むことが、インクと溶剤の相互の溶解を良好にする上で好ましく、また、溝領域間でインク層116aからの蒸発速度を均一化する上で好ましい。
【0108】
このようにインク層116aを形成したバンク付基板150を乾燥する。このインク層116aの乾燥は、減圧乾燥で行うことが、低温で迅速に乾燥できる点で好ましい。
【0109】
乾燥に伴って、
図6(d)に示すように各インク層116aの体積は減少し、
図6(e)に示すように、乾燥後には
図6(e)に示すように、溝領域125R,125G,125Bにホール輸送層116R,116G,116Bが形成される。
【0110】
塗布した直後のインク層116aの高さは例えば数十μm程度であるが、乾燥後のホール輸送層116の膜厚は、数十nm(例えば20nm)である。
【0111】
(ホール輸送層116の形成工程による効果)
上記ホール輸送層116の形成工程によれば、各溝領域群12を構成する3つの溝領域125R,125G,125Bにおいて、単位面積あたりのインク塗布量が多い溝領域125Rは、残りの溝領域125G、125Bと比べて単位面積あたりの溶剤塗布量が小さく設定されている。
【0112】
また、単位面積あたりのインク塗布量が多い溝領域125R、125Gは、他の溝領域125Bと比べて、単位面積あたりの溶剤塗布量が小さく設定されているということもいえる。
【0113】
その結果、各溝領域125R,125G,125Bに、溶剤及びインクが塗布された時点において、
図6(c)に示すように、溝領域125R,125G,125Bにおいて形成されるインク層116aは単位面積あたりのインク量のばらつきが少なくなる。
【0114】
それによって、以下に説明するように、各溝領域125R,125G,125Bに形成されるホール輸送層116R,116G,116Bの膜厚分布が溝領域内で偏るのを抑えることができる。
【0115】
図7は、比較例に係るホール輸送層116の製法を示す図である。
【0116】
この比較例は、各溝領域125R,125G,125Bに溶剤の塗布を行なわない点が上記の実施の形態1に係るホール輸送層116を形成方法と異なっている。
【0117】
この場合、溝領域125R,125G,125Bに塗布される単位面積あたりの塗布量Ia,Ib,Icがそのまま、形成されるインク層116aにおける単位面積あたりの塗布量となる。従って、
図7(a)に示すように、溝領域125R,125G,125Bに形成されるインク層116aの単位面積あたりの塗布量Ia,Ib,Icは、Ia>Ib>Icの関係となり、溝領域単位面積あたりのインク層116aの表面積も、この順に小さくなる。
【0118】
このようにインクを塗布したバンク付基板150を乾燥すると、溝領域単位面積あたりのインク層116aの表面積が大きいほど溝領域単位面積あたりの蒸発量が大きくなるので、
図7(a)に矢印で示すように、溝領域125R,125G,125Bの順で溝領域単位面積あたりの蒸発量が小さくなる。それに伴って、基板上に形成される溶剤蒸気圧も溝領域125R,125G,125Bの順で小さくなる。
【0119】
従って、各溝領域125R,125G,125Bのインク層116aにおいては、溶剤蒸気圧の小さい溝領域の方の蒸発速度が大きくなるので、白抜き矢印で示すように、溶剤蒸気圧の小さい溝領域の方にインクの流れが生じる。そして、このインクの流れに伴ってインク層内で機能性材料が移動するので、ホール輸送層116R、116G,116Bに、膜厚の偏りが形成される原因となる。
【0120】
ここで、単位面積あたりのインク層116aの体積、表面積、蒸発速度の関係についてさらに考察する。
【0121】
図8は、バンク112間の溝領域に形成されたインク層116aの断面を模式的に示す図である。
【0122】
図中dは溝領域の開口幅、Θはインク層116aの表面がバンク112と接する箇所において水平面に対してなす角度を示している。インク層116aの表面が断面円弧状であると見なし、インク層116aのY方向長さをLとすると、インク層116aの表面積は(LdΘ/sinΘ)で表される。また、インク層116aが形成されている溝領域の面積はdLで表される。これより、溝領域単位面積当たりのインク層116aの表面積は(Θ/sinΘ)で表される。また、インク層116aの体積は、図中斜線でハッチングした断面扇形領域の体積とほぼ等しいので、(Ld
2Θ/4sin
2Θ)となる。この場合、溝領域単位面積あたりのインク層116aの表面積Sと、溝領域単位面積あたりの体積Vとには、比率S/V=4sinΘ/dの関係がある。
【0123】
さらに、溝領域の開口幅dが一定であれば、溝領域のインク層116aの体積が大きくなると、インク層116aの表面がバンク112と接する箇所において水平面に対してなす角度Θは大きくなり、インク層116aの表面積も大きくなる。そのため、溝領域の開口幅dが一定の場合、インク層116aの表面積を大きくするためには、インク層116aの体積を大きくすればよい。
【0124】
また、溝領域単位面積あたりのインク層116aの表面積と、溝領域単位面積あたりの蒸発量と、その上方での蒸気密度は、ほぼ比例すると考えられる。そのため、溝領域の蒸発速度を均一化するためには、溝領域単位面積あたりのインク層116aの体積を大きくすることで、溝領域単位面積あたりのインク層116aの表面積を均一化すればよい。
【0125】
さらに、比較例の場合、以下に説明するように、溝領域125R,125G,125B間のインク層116aで乾燥が終了するタイミングが異なることによってもインク層116の膜厚偏りが生じる。
【0126】
図7(b)に示すように、溝領域125Bのインク層116aが乾燥してホール輸送層116Bが形成されると、溝領域125R,125Gからは溶剤が蒸発し、溝領域125Bからは溶剤が蒸発しないので、バンク付基板150上方の溶剤蒸気圧の分布は、溝領域125Bの上で低い蒸気圧となる。それによって、溝領域125Bに近い箇所では、溝領域125R上のインク層116a及び溝領域125G上のインク層116aから溶剤が蒸発する速度が大きくなる(
図7(b)の矢印参照)。そして、各インク層116aにおいては、
図7(b)に白抜矢印で示すように、インクの流れが生じる。
【0127】
さらに乾燥が進むと、
図7(c)に示すように、溝領域125Gのインク層116aが乾燥してホール輸送層116Gが形成される。すると、溝領域125Rからは溶剤が蒸発し、溝領域125G,125Bからは溶剤が蒸発しないので、バンク付基板150上方の溶剤蒸気圧の分布は、溝領域125G,125Bの上で低い蒸気圧となる。溝領域125B及び溝領域125Gに近い箇所では、溝領域125R上のインク層116aから溶剤が蒸発する速度が大きくなる(
図7(c)の矢印参照)。そして、各インク層116aにおいては、
図7(c)に白抜矢印で示すように、インクの流れが生じる。
【0128】
最後に
図7(d)に示すように、溝領域125Rのインク層116aが乾燥してホール輸送層116Rが形成される。
【0129】
このように比較例に係るホール輸送層116の製法では、乾燥の途中で、基板上に溶剤蒸気圧の分布が生じてインク層116aにインクの流れが生じ、それによって、各溝領域125に形成されるホール輸送層116の膜厚分布は例えば
図7(d)に示すように偏ったものとなる。
【0130】
各発光素子11内でホール輸送層116の膜厚分布に偏りが生じると、共振器構造において発光色の波長に膜厚が合わない場所が生じる。また、各発光素子11内でホール輸送層116の膜厚分布に偏りが生じると、膜厚の小さい箇所で電流密度が大きくなり、発光素子11が早く劣化する原因となる。
【0131】
これに対して、上記実施形態のホール輸送層116の形成方法によれば、溶剤を塗布する工程を備えることによって、溝領域125R,125G,125Bにおいて形成されるインク層116aは、
図6(c)に示すように単位面積あたりのインク量は均一的なものとなり、溝領域単位面積あたりのインク層の表面積も均一的となる。
【0132】
従って、乾燥時において、いずれの溝領域125R,125G,125Bの上でも蒸気圧が同等となり、乾燥が終了する時期も近くなる。よって、各溝領域125に形成されるホール輸送層116の膜厚分布に偏りが生じない。
【0133】
すなわち、各溝領域125内でホール輸送層116の膜厚を均一的に形成できるので、各発光素子11内の全体で発光色の波長に合った共振器構造を形成することができる。
【0134】
また、発光素子11において機能層(ホール輸送層116)の膜厚が均一化されることによって、電流密度も均一化されるので、発光素子の寿命が長くなる効果も得られる。
【0135】
特に、本実施形態のように、3つの溝領域125R,125G,125Bのホール輸送層116の設定膜厚が異なり、且つホール輸送層116を共通のインクを用いて形成する場合は、3つの溝領域125R,125G,125Bに対するインク塗布量は異ならざるを得ないが、上記のように溶剤を塗布することによって、発光素子11内でのホール輸送層116の膜厚分布を均一的にできる点で利用価値が高い。
【0136】
(ホール輸送層116の形成工程のバリエーション)
上記ホール輸送層116の形成工程の説明では、まずノズルヘッド221を走査しながら各溝領域125R,125G,125Bに溶剤を塗付した後、ノズルヘッド222を走査しながら各溝領域125R,125G,125Bにインクを塗付したが、ノズルヘッド221及びノズルヘッド222を走査しながら、一回の走査で、各溝領域125R,125G,125Bに溶剤の塗布とインク塗布とを行うこともできる。この場合も同様に、各溝領域125R,125G,125B内でホール輸送層116の膜厚の偏りをなくす効果が得られる。
【0137】
また上記の説明では、各溝領域125R,125G,125Bにインクを塗布する前に溶剤を塗布したが、順序を入れ替えて、各溝領域125R,125G,125Bにインクを塗布した後に溶剤を塗布してもよい。この場合も同様に、各溝領域125R,125G,125B内でホール輸送層116の膜厚の偏りをなくす効果が得られる。
【0138】
ただし、各溝領域125R,125G,125Bに対して、先にインクを塗布すると、溶剤が塗布される前にインクが乾燥する可能性もあるが、インクよりも溶剤を先に塗布すれば、そのようなことがなく、各溝領域に塗布されたインクと溶剤とが良好に混合される。
【0139】
(発光層117の形成工程)
バンク付基板150におけるホール輸送層116が形成された各溝領域125R,125G,125Bに対して、発光層形成用のインクを塗布し乾燥することによって発光層117を形成する。
【0140】
発光層形成用のインクは、発光層117の材料を溶剤に溶解した溶液である。
【0141】
このインクの塗布も、バンク付基板150の表面に沿ってノズルヘッドを走査しながら、各溝領域125R,125G、125Bに対してノズルヘッドから発光層用のインクを吐出することによって行う。ただし、溝領域125Rには赤色発光層用のインク、溝領域125Gには緑色発光層用のインク、溝領域125Bには青色発光層用のインクを塗布する。
【0142】
そして、各溝領域125R,125G,125Bに形成されたインク層を乾燥することによって対応する発光色の発光層117が形成される。
【0143】
なお、この発光層117を形成する工程においても、溝領域125R,125G,125Bの単位面積あたりに塗布するインク量が互いに異なる場合には、上記ホール輸送層116の形成工程と同様に、インクを塗布する前又は後に溶剤を塗布して、溝領域125R,125G,125Bの間で単位面積当たりのインクと溶剤の合計塗布量を均一化することにより、溝領域単位面積当たりのインク層の表面積を均一化し、各溝領域125R,125G,125B内で発光層117の膜厚分布を均一化する効果が得られる。
【0144】
[実施の形態2]
図9,
図10は、実施の形態2に係る表示パネル20の構成を示す図である。
【0145】
この表示パネル20は、基本的な構成は上記実施の形態1に係る表示パネル10と同様であるが、基板110上において、隣り合う溝領域群12同士の間にバスバー領域126が確保されていて、Y方向に伸長するバスバー105が配設されている点が異なっている。
【0146】
バスバー105は、層間絶縁層102の上面に画素電極103と同じ材料で同層に形成されている。このバスバー105の上面側は、ホール注入層104を介してカソード119とY方向に連続して接触して電気接続されている。
【0147】
このようにカソード119は、バスバー105とY方向に沿って電気接続されているので、Y方向の電気抵抗が低減される。
【0148】
表示パネル20を製造する方法は、上記実施の形態1の表示パネル10を製造する方法と同様であるが、画素電極103を形成する工程において、バスバー105も同時に形成する。
【0149】
図11(a)〜(e)は、溝領域125R,125G,125Bにホール輸送層を形成する工程を示す断面模式図である。
【0150】
本実施形態でも、ホール輸送層116を形成する工程において、実施の形態1で説明したように、各溝領域125R,125G,125Bに対して塗布するホール輸送層用のインクの単位面積当たりの塗布量も、この順で小さくなるように設定され、インク塗布に先立って、溝領域125G,125Bに対して、溶剤だけが塗布される。そして、
図11(a),(b)に示すように、各溝領域125R,125G,125Bに対する溶剤の単位面積当たりの塗布量が、この順で大きくなるように設定される点についても、実施の形態1と同様である。
【0151】
さらに本実施形態においては、隣り合う溝領域群12同士の間にバスバー領域126を有しているので、溝領域125G,125Bに対して溶剤を塗布するときに、
図11(a),(b)に示すようにバスバー領域126にも溶剤を塗布する。
【0152】
ここで、バスバー領域126に対する溶剤塗布量は、バスバー領域単位面積当たりの溶剤層の表面積が、溝領域単位面積当たりのインク層116aの表面積と等しくなるよう、塗布される溶剤層の表面がバンク112と接触する箇所で水平面となす角度と、インク層116aの表面がバンク112と接触する箇所で水平面となす角度(
図8の角度Θ)とが同等となるように設定することが好ましい。
【0153】
このようにして本実施の形態では、
図11(b),(c)に示すように、溝領域125R,125G,125Bにインク層116aが形成され、バスバー領域126には溶剤層が形成されるので、以下の効果を奏する。
【0154】
バスバー領域126に溶剤が存在しない状態で溝領域125R,125G,125Bのインク層116aを乾燥した場合、バンク付基板150上方の溶剤蒸気圧はバスバー領域126の上で低くなるので、コーヒーステイン効果により、バスバー領域126に近い箇所では、溝領域125G上のインク層116a及び溝領域125R上のインク層116aから溶剤が蒸発する速度が大きくなり、インクの流れが生じ、形成されるホール輸送層116の膜厚分布が不均一になる。
【0155】
これに対して本実施の形態では、バスバー領域126に溶剤が存在する状態で、溝領域125R,125G,125Bのインク層116aが乾燥されるので、バンク付基板150上方の溶剤蒸気圧の分布が均一的な状態でインク層116aの乾燥がなされる。
【0156】
従って、インク層116aの乾燥時において、場所ごとの溶剤蒸発速度のばらつきが抑えられ、インクの流れが生じにくくなるので、各溝領域125に形成されるホール輸送層116の膜厚分布が均一的になる。
【0157】
[実施の形態3]
図12(a),(b)は、実施の形態3に係る表示パネル30の平面図である。
【0158】
これらの表示パネル30においては、発光素子11R,11Gと比べて、発光素子11Bの幅が広く設定されている。すなわち、赤色の溝領域125R,緑色の溝領域125Gと比べて、青色の溝領域125Bの開口幅が広く設定されている。一般的に青色発光素子は、赤色発光素子や緑色発光素子と比べて駆動時に劣化がしやすいが、このように青色発光素子11Bの幅を広くすることによって、発光量を確保しながら、電流密度を小さくできるので劣化速度を抑えることができる。表示パネル30では、各溝領域125R,125G,125Bに対して塗布するホール輸送層用のインクの単位面積当たりの塗布量が、この順で小さくなるように設定されている。また、インク塗布に先立って、溝領域125R,125G,125Bに対して、溶剤だけを塗布する(ただし、溝領域125Rには溶剤は塗布しなくてもよい)。なお、各溝領域125R,125G,125Bに対する溶剤の単位面積当たりの塗布量は、この順で大きくなるように設定する。
【0159】
このように各溝領域125R,125G,125Bに対する溶剤の単位面積当たりの塗布量を設定することによって、溝領域125R,125G,125B間における溝領域単位面積あたりのインク層116aの体積及び表面積を均一化することができる。また、それによって、各溝領域125R,125G,125Bのインク層116aを乾燥する時に、基板110上における溶剤蒸気圧の分布を均一化し、各溝領域内でインクの流れが生じにくくなるので、各溝領域125R,125G,125Bに形成されるホール輸送層116の膜厚分布が均一的になる。
【0160】
また、溝領域125R,125G,125Bに形成されるインク層116aにおいて、溝領域単位面積あたりの表面積が同等になるように、各溝領域125R,125G,125Bに塗布する溶剤量を設定することが好ましい。
【0161】
なお、本実施形態においては、溝領域の開口幅に違いがあり、具体的には、上述したように、溝領域125R,125Gの開口幅よりも溝領域125Bの開口幅の方が広い。そして、実施の形態1において
図8を用いて導いた「比率S/V=4sinΘ/d」の関係に基づくと、溝領域125R,125G,125Bにおいて、溝領域単位面積あたりのインク層116aの体積が一定である場合、溝領域125R,125Gよりも溝領域125Bの方が、溝領域単位面積あたりのインク層116aの体積と溝領域単位面積あたりのインク層116aの表面積との比率S/Vが小さくなる。従って、溝領域125R,125G,125B間において溝領域単位面積あたりの表面積Sを同等とするには、溝領域125R,125Gよりも溝領域125Bの方が、溝領域単位面積あたりのインク層116aの体積Vが大きくなるように、溶剤塗布量を設定すればよい。
【0162】
また、
図12(b)に示す表示パネル30は、ピクセルバンクを有する例である。
【0163】
すなわち、Y方向に伸長する複数のバンク112と、X方向に伸長する複数のバンク113とが交差してピクセルバンクが形成されている。そしてバンク112及びバンク113で囲まれた領域が溝領域125R,125G,125Bとなり、発光素子11R,11G,11Bが形成されている。
【0164】
このように溝領域125R,125G,125Bの幅が一律でない表示パネル30を製造する際にも、ホール輸送層116を形成する工程において、上記実施の形態1で説明した方法を用いることによって、同様の効果を奏する。また、
図12(b)に示す表示パネル30を作成する場合のように、ピクセルバンクによって区画された溝領域に機能層を形成する場合も同様に実施し、同様の効果を得ることができる。
【0165】
[変形例など]
(1)上記実施の形態では、1つの溝領域群12が3つの溝領域125R,125G、125Bで構成され、単位面積当たりのインク塗布量が3つの溝領域125R,125G、125Bで相互に異なっていて、且つ単位面積当たりの溶剤塗布量も相互に異なっている例を示したが、3つの溝領域125R,125G、125Bの中の2つはインク塗布量が同じで1つだけインク塗布量が異なっている場合でも、同様に実施できる。
【0166】
また、単位面積当たりのインク塗布量が3つの溝領域125R,125G、125Bで相互に異なっている場合で、3つの溝領域125R,125G,125Bの中の2つは溶剤塗布量が同じで1つだけ溶剤塗布量が異なっている場合もあり得る。その場合、3つの溝領域125R,125G、125Bにおいて、溝領域単位面積当たりのインク層の表面積が同等にはならなくても、ある程度均一化する効果は得られるので、各溝領域125R,125G,125Bに形成されるホール輸送層116の膜厚の偏りをなくす効果は得られる。
【0167】
(2)上記実施の形態では、1画素が3つの発光素子11R,11G,11Bで構成され、1つの溝領域群12が3つの溝領域125R,125G、125Bで構成されていたが、1つの溝領域群が2つの溝領域で構成されている場合でも、同様に実施可能であり、同様に各溝領域に形成されるホール輸送層の膜厚分布が均一的になる。
【0168】
(3)また、1画素が4つ以上の発光素子11R,11G,11Bで構成され、1つの溝領域群12が4以上の溝領域で構成されている場合でも、同様に実施可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0169】
(4)上記実施の形態では、表示パネルのホール輸送層116及び発光層117をウェット方式形成する場合について説明したが、ホール輸送層、発光層以外の機能層をウェット方式で形成する場合、例えば、ホール注入層、電子輸送層、電子注入層をウェット方式で形成する場合にも、同様に実施することができ、同様の効果を得ることができる。
【0170】
また、有機EL表示パネルに限らず、例えば、有機EL照明における機能層を形成する場合にも適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【0171】
(5)下地基板の上に存在する複数の溝領域群12の中で、下地基板の中央部に位置する溝領域群12における溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均よりも、周辺部に位置する溝領域群における溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均を大きく設定してもよい。
【0172】
下地基板の中央部の溝領域群12と比べて周辺部の溝領域群12では、溶剤の蒸発速度が大きくなりやすいが、上記のように周辺部に位置する溝領域群12における溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均を、中央部に位置する溝領域群における溶剤の単位面積当たりの塗布量の平均よりも大きく設定することによって、中央部と周辺部との間でインク層の乾燥が完了するまでの時間を合わせることができる。このような設定を加えることも、各溝領域125R,125G,125B内に形成される機能層116R,116G,116Bの膜厚分布を均一化するのに寄与する。
【0173】
(6)上記実施の形態では、トップエミッション型の表示パネルの機能層を形成する場合を例にとって説明したが、ボトムエミッション型の表示パネルの機能層を形成するのに適用することもでき、同様の効果を得ることができる。