【文献】
Key Engineering Materials,2008年,361-363(Pt. 2, Bioceramics),pp.861-864,Abstract,Fig.3,5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含有する歯科用硬化性組成物であって、
フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計100重量部に対して、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)を70〜99重量部含み、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計を1〜30重量部含み、ポリアルケン酸(C)を10〜40重量部含み、酒石酸(D)を0.3〜10重量部含み、水(E)を10〜90重量部含み、かつ塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)と酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の総和のCa/P比が1.10〜1.95であることを特徴とする歯科用硬化性組成物。
少なくともフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を含む粉材(X)と、少なくともポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材(Y)とを混合する歯科用硬化性組成物の製造方法であって、
粉材(X)と液材(Y)の重量比(X/Y)が1.0〜5.0であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の歯科用硬化性組成物の製造方法。
フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径が0.3〜35μmであり、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径が3〜35μmであり、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径が0.3〜10μmである請求項4記載の歯科用硬化性組成物の製造方法。
少なくともフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を含む粉材(X)と、少なくともポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材(Y)とからなる歯科用硬化性組成物キットであって、
粉材(X)と液材(Y)を重量比(X/Y)が1.0〜5.0の範囲で混合して請求項1〜3のいずれか記載の歯科用硬化性組成物にして使用することを特徴とする歯科用硬化性組成物キット。
フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径が0.3〜35μmであり、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径が3〜35μmであり、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径が0.3〜10μmである請求項6記載の歯科用硬化性組成物キット。
【背景技術】
【0002】
グラスアイオノマーセメントはポリカルボン酸等の酸を主成分としたポリマー酸と、グラスアイオノマーセメント用ガラス粉末とを水の存在下で反応させ硬化させることで使用される。グラスアイオノマーセメントは生体に対する親和性が良好であること、エナメル質や象牙質等の歯質に対して優れた接着力を有していること、更にはガラス粉末中に含まれているフッ素による歯質再石灰化作用や抗齲蝕作用を有すること等の特性を有しているため、歯科分野では齲蝕窩洞の充填、クラウン・インレー・ブリッジや矯正用バンドの合着、窩洞の裏層、根管充填用シーラー、支台築造や予防填塞等に広く使用されている材料である。
【0003】
しかし、レジンを主な成分とするレジン系セメント等と比較して、グラスアイオノマーセメントは圧縮強さ等の機械的強度が低く、応力が加えられた場合にセメント硬化体内部の微少な空洞・欠陥や硬化体表面の傷等からの亀裂により容易に破壊されてしまう欠点がある。これは、Si−O又はAl−Oという強固な結合によって構成され均質な三次元的網目構造を持つガラス部分と比較してポリカルボン酸と水とガラス粉末表面部とが反応して構成されたマトリクッス部分が脆いため、硬化体の一部分に発生した微細な亀裂に応力が集中すると亀裂は強度の高いガラス部分を回避して強度の低いマトリックス部分に急速に拡大し硬化体が破壊されてしまうためと考えられる。その結果、グラスアイオノマーセメントは歯科においては2級窩洞や4級窩洞のような比較的大きな負荷がかかる窩洞の充填に適用することが出来ず、レジン系のセメントと比較して機械的強度の点において不充分であるとされていた。
【0004】
また、80歳になっても20本以上自分の歯を保とうとする、いわゆる8020運動(口腔衛生の向上、歯質の保存(MI:Minimal Intervention))に伴い、う蝕に罹患した部位を極力削らず、残存したう蝕罹患部位を材料によってもとに戻す再石灰化治療が近年脚光を浴びている。再石灰化の有効成分として知られるフッ素イオンを徐放し歯質の切削量を低減できる可能性がある修復材料としてもまたグラスアイオノマーセメントは広く認知されている。しかしながら、エナメル質や象牙質の歯質の主要構成成分であるハイドロキシアパタイトは、カルシウムやリンから成る化合物であり、う蝕罹患部位の効率的な再石灰化は、歯質へのフッ素イオンのみの供給では十分に促進されない。
【0005】
特許文献1には、従来のグラスアイオノマーセメントの特徴である生体親和性、又は歯質接着性をそのまま活かし、加えて機械的強度を向上させることを可能とするアパタイトを含有させたグラスアイオノマーセメント粉末が記載されている。これによれば、従来の歯科用グラスアイオノマーセメント用ガラス粉末を用いた場合と比較して機械的強度、特に3点曲げ強さ及び引張強さが向上し、従来の歯科においては不充分であるとされていた大きな負荷がかかる窩洞の充填等にもグラスアイオノマーセメントを適用することが出来るようになるとされている。しかしながら、グラスアイオノマーセメントの機械的強度を向上させることができる一方、リン酸カルシウムの中でも最も安定とされるハイドロキシアパタイトを加えるのみでは、歯質主要構成成分であるカルシウムやリンを脱灰した歯質に十分に供給することはできず、効率的な再石灰化を促すことはできない問題があった。
【0006】
非特許文献1には、アマルガム、コンポジットレジン、及びフッ素徐放性を有するグラスアイオノマーセメントをカリエス状組織の残存する象牙質窩洞に充填し、12週間経過後に各試料の再石灰化度をマイクロラジオグラフィーにて評価した結果、アマルガムおよびコンポジットレジン充填窩洞に近接するカリエス状組織の脱灰は更に進んだ一方、グラスアイオノマー充填窩洞に近接するカリエス状組織に、再石灰化が認められたことが記載されている。このことから、グラスアイオノマーセメントは、歯質の保存(MI:Minimal Intervention)を実現するために有効な材料とされている。しかしながら、上述の通り、フッ素徐放性を有するのみのグラスアイオノマーセメントについては、効率的な再石灰化を実現できないことに加え、低い機械的強度に関する問題は依然残されたままである。
【0007】
上記先行文献に記載されているように、これまで従来の技術では、グラスアイオノマーセメントが持つ低い機械的強度、及び十分でない再石灰化能を解決することはできないという欠点を有しており、これらの問題点の改善が望まれていた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の歯科用硬化性組成物は、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含有する歯科用硬化性組成物であって、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計100重量部に対して、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)を70〜99重量部含み、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計を1〜30重量部含み、ポリアルケン酸(C)を10〜40重量部含み、酒石酸(D)を0.3〜10重量部含み、水(E)を10〜90重量部含み、かつ塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)と酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の総和のCa/P比が1.10〜1.95であることを特徴とする。本発明の歯科用硬化性組成物により、機械的強度、特に経時的な圧縮強さの向上、並びに歯質の再石灰化の促進が可能となる。その作用機序は必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムが推定される。
【0017】
すなわち、酸塩基反応(グラスアイオノマー反応)を介して硬化するグラスアイオノマーセメントの出発原料であるフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、ポリアルケン酸(C)及び水(E)に対して、水の存在下で混練すると水和反応によって熱力学的に安定なハイドロキシアパタイトを生成して硬化するリン酸カルシウムセメントの出発原料である塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を一定量加えることが上記効果をもたらすと推定される。これら(B1)と(B2)の2種類のリン酸カルシウム粒子と水とによる水和硬化反応が、陰イオン(カルボキシル基、−COO
−)をもつポリアルケン酸がフルオロアルミノシリケートガラスから解離した陽イオン(アルミニウムイオンなど)を介して網目構造を形成し硬化するグラスアイオノマー反応よりも遅いこと、またリン酸カルシウム粒子と水とによる水和反応においてカルシウムイオン、あるいはリン酸イオンが放出されることの2点に本発明の構成を採用する意義がある。すなわち、グラスアイオノマー反応に続けて起こると推測されるリン酸カルシウム粒子と水とによる水和反応によって経時的に圧縮強さが向上し、更には本来グラスアイオノマーセメントが有するフッ素徐放性に加え、歯質の主要構成元素であるカルシウムやリンのイオンの放出を付与できることから、効果的な歯質の再石灰化が可能となる。
【0018】
本発明の歯科用硬化性組成物において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計100重量部に対して、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)を70〜99重量部含有することが必要である。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の含有量が70重量部未満の場合、グラスアイオノマー反応によって形成される3次元網目構造を十分に形成することができないため、十分な機械的強度が得られないおそれがあり、80重量部以上であることが好ましく、90重量部以上であることがより好ましい。一方、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の含有量が99重量部を超える場合、リン酸カルシウム粒子に起因する水和反応が阻害されること、及びカルシウムイオン及びリン酸イオンの十分な放出も得られないおそれがあることから、経時的な圧縮強さの向上、及び歯質の再石灰化能を十分に発現できないおそれがあり、98重量部以下であることが好ましく、97重量部以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明で用いられるフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径は、0.3〜35μmであることが好ましい。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径が0.3μm未満である場合、平均粒径が小さすぎて製造が困難であり、更には、液材との混合により得られるペーストの粘度が高くなり過ぎるおそれがある。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径は、0.5μm以上であることがより好ましく、特に、1μm以上であることが好ましい。一方、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径が35μmを越える場合、液材との混合により得られるペーストが十分な粘性を示さないなどペースト性状が好ましくないおそれがある。また、ペースト練和時のざらつき感が大きくなり操作性が損なわれるおそれがあり、更には、口腔内に適用した場合、患者に舌触りが悪いとの印象を与えるおそれがある。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径は、30μm以下であることがより好ましく、特に10μm以下であることが好ましい。ここで、本発明に使用するフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用い測定し、算出したものである。
【0020】
本発明で用いられるフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の製造方法は特に限定されない。市販されているフルオロアルミノシリケートガラス粉末をそのまま用いても良いし、市販品を更に粉砕しても良い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、従来から歯科用グラスアイオノマーセメントの粉末成分として使用されている公知のフルオロアルミノシリケートガラス粒子を用いても良い。例えば、硅石、アルミナ、水酸化アルミニウム、硅酸アルミニウム、ムライト、硅酸カルシウム、硅酸ストロンチウム、硅酸ナトリウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、フッ化ストロンチウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、リン酸ナトリウムなどから選択したガラス原料を秤量し1000℃以上の高温で溶融し冷却後、粉砕して細粉を作製することができる。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、冷却後、得られたガラス体(フリット)をボールミル等の粉砕手段で粉状化するとともに必要に応じて篩がけ等の分級処理を行うことによって、所望する平均粒径及び粒度分布のガラス粉末を得ることができる。また、フルオロアルミノシリケートガラス原料粉体をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることによりフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナやジルコニアが採用される。
【0021】
本発明の歯科用硬化性組成物において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計100重量部に対して、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計を1〜30重量部含有することが必要である。塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計が1重量部未満の場合、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)及び水による水和反応が起こらず、経時的な圧縮強さの向上が見込めないおそれがあり、また、十分な再石灰化を発現させるためのカルシウムイオンやリン酸イオンの放出量が十分でないおそれがある。塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計の含有量は、2重量部以上であることが好ましく、特に3重量部以上であることが好ましい。一方、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計が30重量部を超える場合、ポリアルケン酸(C)と塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)との反応が、ポリアルケン酸(C)とフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)との反応よりも早いため、適度な操作性を確保することができないおそれがある。また、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)に由来するグラスアイオノマー反応によって形成される3次元網目構造の形成を阻害するため、十分な機械的強度が得られないおそれがある。塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計の含有量は、20重量部以下であることが好ましく、特に10重量部以下であることが更に好ましい。
【0022】
本発明で用いられる塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)としては特に限定されず、リン酸四カルシウム[Ca
4(PO
4)
2O]粒子及びリン酸八カルシウム5水和物[Ca
8H
2(PO
4)
6・5H
2O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、特に再石灰化能の観点からリン酸四カルシウム[Ca
4(PO
4)
2O]粒子がより好適に使用される。
【0023】
本発明で用いられる塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径は、3〜35μmであることが好ましい。平均粒径が3μm未満の場合、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の溶解が過度になることにより水溶液中のpHが高くなりヒドロキシアパタイトの析出が円滑でなくなることで、再石灰化効果が得られないおそれがある。塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径は、5μm以上がより好ましく、特に15μm以上が好ましい。一方、平均粒径が35μmを超える場合、液材との混合により得られるペーストが十分な粘性を示さないなどのペースト性状が好ましくないおそれがある。また、水(E)に溶解しにくくなり、カルシウムイオンとリン酸イオンの供給バランスが崩れ、再石灰化効果が低下するおそれがある。更に、ペースト練和時のざらつき感が大きくなり操作性が損なわれるおそれがある。塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径は、30μm以下であることがより好ましく、特に25μm以下であることが好ましい。ここで、本発明で使用する塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径は、上記フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径と同様にして算出される。
【0024】
本発明で使用される塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の製造方法は特に限定されない。市販されている塩基性リン酸カルシウム粒子をそのまま用いてもよいし、適宜粉砕して粒径を整えて使用してもよい。粉砕方法としては、後に説明する酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の粉砕方法と同様の方法を採用できる。
【0025】
本発明で用いられる酸性リン酸カルシウム粒子(B2)としては特に限定されないが、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO
4]粒子、リン酸三カルシウム[Ca
3(PO
4)
2]粒子、無水リン酸二水素カルシウム[Ca(H
2PO
4)
2]粒子、非晶性リン酸カルシウム[Ca
3(PO
4)
2・xH
2O]粒子、酸性ピロリン酸カルシウム[CaH
2P
2O
7]粒子、リン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO
4・2H
2O]粒子、及びリン酸二水素カルシウム1水和物[Ca(H
2PO
4)
2・H
2O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO
4]粒子、リン酸三カルシウム[Ca
3(PO
4)
2]粒子、無水リン酸二水素カルシウム[Ca(H
2PO
4)
2]粒子、及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO
4・2H
2O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種がより好適に使用され、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO
4]粒子及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO
4・2H
2O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種が更に好適に使用され、特に再石灰化能の観点から無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO
4]粒子が好適に使用される。
【0026】
本発明で用いられる酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径は、0.3〜10μmであることが好ましい。平均粒径が0.3μm未満の場合、液材への溶解が過多となるためカルシウムイオンとリン酸イオンの供給バランスが崩れるだけでなく、液材との混合により得られるペーストの粘度が高くなり過ぎるおそれがあり、0.4μm以上がより好ましく、特に0.5μm以上が好ましい。一方、平均粒径が10μmを超える場合、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)が水(E)へ溶解しにくくなるおそれがある。その結果、カルシウムイオンとリン酸イオンの供給バランスが崩れ、再石灰化効果が低下するおそれがある。酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径は、5μm以下がより好ましく、特に3μm以下が好ましい。酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径は、上記フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径と同様にして算出される。
【0027】
このような平均粒径を有する酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよいが、市販品を更に粉砕することが好ましい場合が多い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、酸性リン酸カルシウム原料粉体をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることにより酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナやジルコニアが採用される。
【0028】
ここで、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径に比べて塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径を大きくすることによって、両者の溶解度のバランスが適切となり、組成物内のpHを中性付近に維持することが可能となる。その結果、ヒドロキシアパタイトの析出が円滑となり、再石灰化効果を向上させることができる。具体的には塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径を酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径の2倍以上とすることがより好ましく、4倍以上とすることが更に好ましく、7倍以上とすることが特に好ましい。一方、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径を酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径の35倍以下とすることがより好ましく、30倍以下とすることが更に好ましく、25倍以下とすることが特に好ましい。塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)と酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の配合割合は特に限定されないが、ハイドロキシアパタイト析出による再石灰化促進の観点から塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)と酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の総和のCa/P比が1.10〜1.95となるような配合割合で使用されることが好ましく、1.30〜1.80であることが更に好ましく、特に1.50〜1.70であることが好ましい。このことにより、再石灰化効果の高い本発明の歯科用硬化性組成物を得ることができる。また、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)と酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の配合割合(B1/B2)は、モル比で40/60〜60/40であることが好ましい。
【0029】
本発明の歯科用硬化性組成物において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計100重量部に対して、ポリアルケン酸(C)を10〜40重量部含有することが必要である。ポリアルケン酸(C)の含有量が10重量部未満の場合、グラスアイオノマー反応によって形成される3次元網目構造を十分に形成することができないため、十分な機械的強度が得られないおそれがあり、13重量部以上であることが更に好ましく、特に18重量部以上であることが好ましい。一方、ポリアルケン酸(C)の含有量が40重量部を超える場合、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)とグラスアイオノマー反応し3次元網目構造を形成する必要量を上回り、結果として硬化に寄与しない余剰なポリアルケン酸(C)が硬化不良を招くおそれがある。また、練和時の粘度が高過ぎて練和が難しくなるおそれがある。ポリアルケン酸(C)の配合量は、30重量部以下であることが更に好ましく、特に27重量部以下であることが好ましい。
【0030】
本発明に用いられるポリアルケン酸(C)としては特に限定されず、不飽和モノカルボン酸又は不飽和ジカルボン酸の重合体であって、アクリル酸、メタクリル酸、2−クロロアクリル酸、2−シアノアクリル酸、アコニチン酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸等の単独重合体、又はこれらの不飽和カルボン酸の2種以上の共重合体、及びこれらの不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。歯質接着強さ及び機械的強度向上の観点から、アクリル酸及びマレイン酸の共重合体及びアクリル酸及びイタコン酸の共重合体からなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましく、特にアクリル酸及びイタコン酸の共重合体であることが好ましい。更に、重合可能なエチレン性不飽和二重結合を含まない重量平均分子量5,000〜50,000の重合体であるものが好ましく、重量平均分子量が5,000未満の場合は硬化体の強度が低くなり易く、また歯質への接着力も低下するおそれがあり、10,000以上であることが更に好ましく、特に35,000であることが好ましい。また、重量平均分子量が50,000を超える場合には、練和時の粘度が高過ぎて練和が難しくなるおそれがあり、45,000以下であることが更に好ましく、特に40,000以下であることが好ましい。
【0031】
本発明で用いられるポリアルケン酸(C)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよい。特に、粉材に加える場合については市販品を更に粉砕することが好ましい場合が多い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミル、スプレードライヤーなどの粉砕装置を使用することができる。また、ポリアルケン酸粉体をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることによりポリアルケン酸(C)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、スプレードライヤーを用いることが好ましい。
【0032】
更に本発明で用いられるポリアルケン酸(C)は、粉体のまま加えて配合してもよいし、液材に加えて配合してもよく、いずれの場合であっても硬化性組成物を形成することができる。本発明では、ポリアルケン酸(C)を、粉材及び液材の両方に加えた方が、液材を適度な粘度に保ちつつ、歯質接着性や機械的強度を確保するための十分量を配合することが可能となるため好ましい。
【0033】
本発明の歯科用硬化性組成物において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計100重量部に対して、酒石酸(D)を0.3〜10重量部含有することが必要である。本発明では、上記粉末材料と酸成分との硬化反応を調整する(遅延させる)ことを目的として所定量の酒石酸を添加することができる。この目的に好ましい酒石酸としては、D−酒石酸、L−酒石酸及びDL−酒石酸が挙げられるが、得られる硬化物の強度、審美性向上などの点からL−酒石酸が特に好ましい。酒石酸(D)の含有量が0.3重量部未満の場合、粉材及び液材を練和し、患者に適応するまでの十分な操作時間が確保できないおそれがあり、1重量部以上であることが更に好ましく、特に2重量部以上であることが好ましい。一方、酒石酸(D)の含有量が10重量部を超える場合、硬化時間が遅延され、臨床上適切な時間で硬化しないおそれがあり、7重量部以下であることが更に好ましく、特に5重量部以下であることが好ましい。なお、かかる酒石酸(D)は粉体のまま加えて配合してもよいし、液材として加えて配合してもよく、更にはフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)に対して表面処理を行うことで配合することも可能である。
【0034】
本発明で用いられる酒石酸(D)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよい。特に、粉材に加える場合については市販品を更に粉砕することが好ましい場合が多い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミル、スプレードライヤーなどの粉砕装置を使用することができる。また、酒石酸粉体をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることにより酒石酸(D)を得ることもできる。
【0035】
本発明に用いられる水(E)は、本発明の歯科用硬化性組成物を得るための液材において必要不可欠な成分である。すなわち、液材と、粉材の主成分であるフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)とを混合して硬化させる反応は、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)とポリアルケン酸(C)との中和反応が水の存在下で進行するからである。また、歯科用グラスアイオノマーセメントは、水の存在下で歯の表面と接着する性質を持ち、本発明に係る歯科用グラスアイオノマーセメント液中に水が存在していることが必要である。
【0036】
本発明の歯科用硬化性組成物において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の合計100重量部に対して、水(E)を10〜90重量部含有することが必要である。水(E)の含有量が10重量部未満の場合、グラスアイオノマー反応によって形成される3次元網目構造を十分に形成することができないため、十分な機械的強度が得られないおそれがあり、また塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)との十分な水和反応を起こすことができないおそれがあり、13重量部以上であることが更に好ましく、特に15重量部以上であることが好ましい。一方、水(E)の含有量が90重量部を超える場合、粉液練和後のペースト中のフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の含有量が低下し、硬化物を得ることができないおそれがある。また硬化物を形成した場合でも硬化物自体の強度が低下するおそれもある。水(E)の含有量は、40重量部以下であることが更に好ましく、特に30重量部以下であることが好ましい。
【0037】
本発明の歯科用硬化性組成物は、必要に応じてX線造影剤を含んでも良い。これは粉液練和後の組成物ペーストの充填操作のモニタリングや充填後の変化を追跡することができるからである。X線造影剤としては、例えば、硫酸バリウム、次炭酸ビスマス、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、フッ化イッテルビウム、ヨードホルム、バリウムアパタイト、チタン酸バリウム、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等から選択される1つ又は2つ以上が挙げられる。X線造影剤は、粉材に配合したり、液材に配合したり、又は混練中の組成物ペーストに配合することができる。
【0038】
本発明の歯科用硬化性組成物は、更に粉材の流動性改質や硬化物の機械的強度の向上が期待できるフィラーを配合してもよい。フィラーは、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。フィラーとしては、カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al
2O
3、B
2O
3、TiO
2、ZrO
2、BaO、La
2O
3、SrO、ZnO、CaO、P
2O
5、Li
2O、Na
2Oなどを含有するセラミックス及びガラス類が例示される。ガラス類としては、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。結晶石英、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、水酸化アルミニウムも好適に用いられる。
【0039】
本発明の歯科用硬化性組成物に所定の色調を付与し、その審美性を改善する目的で顔料を配合してもよい。配合する顔料には、合成の有機色素又は天然の有機色素からなる有機顔料(着色顔料)と、合成の鉱物又は天然の鉱物から得られる無機顔料とがある。硫化水素による変色は、無機顔料を配合した場合に顕著に認められ、有機顔料を配合した場合には殆ど認められない。したがって、顔料としては、口腔内における変色の原因と考えられる硫化水素の作用を受けにくい有機顔料が好ましい。
【0040】
有機顔料としては、ニューコクシン、キノリンエローWS(以上、紅不二化学工業株式会社製、商品名)、PV Fast Red BNP、Graphtol Yellow 3GP(以上、クラリアントジャパン株式会社製、商品名)、ファストグリーンFCF(関東化学株式会社製、商品名)、青色404号(大東化成工業株式会社製、商品名)、Yellow 8GNP、Yellow 3GNP、Yellow GRP、Yellow 3RLP、Red 2020、Red 2030、Red BRN、Red BRNP、Red BN(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)等が例示される。
【0041】
変色を招かない程度の量であれば、歯質独特の深みのある色調を歯牙の修復部位に付与するために、有機顔料とともに無機顔料を配合してもよい。無機顔料としては、例えば弁柄、亜鉛華、二酸化チタン、炭素、群青(ウルトラマリン)等の無毒のものが好ましく、黒変化を防止するために、もともと黒色の無機顔料(酸化鉄など)を用いてもよい。好ましい無機顔料としては、KN−320、100ED、YELLOW−48(以上、戸田工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0042】
本発明の歯科用硬化性組成物を製造する方法は特に限定されない。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とを混合することによって歯科用硬化性組成物を得ることができる。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)及びポリアルケン酸(C)を含む粉材と、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とを混合することによっても歯科用硬化性組成物を得ることができる。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)及びポリアルケン酸(C)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とを混合することによっても歯科用硬化性組成物を得ることができる。また、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)、ポリアルケン酸(C)及び酒石酸(D)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)及び水(E)を含む液材とを混合することによっても歯科用硬化性組成物を得ることができる。中でも、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)及びポリアルケン酸(C)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とを混合する歯科用硬化性組成物の製造方法、又は、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とを混合する歯科用硬化性組成物の製造方法が好適に採用され、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)及びポリアルケン酸(C)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とを混合する歯科用硬化性組成物の製造方法がより好適に採用される。
【0043】
ここで、本発明の歯科用硬化性組成物の製造方法において、粉材(X)と液材(Y)の重量比(X/Y)が1.0〜5.0であることが好ましく、このことにより、グラスアイオノマーセメントとして十分な粉液練和性及び機械的強度などの性能を発現させることができる。粉材(X)と液材(Y)の重量比(X/Y)は、1.5〜4.5であることがより好ましく、1.8〜3.8であることが更に好ましい。
【0044】
したがって、少なくともフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を含む粉材(X)と、少なくともポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材(Y)とを混合する歯科用硬化性組成物の製造方法であって、粉材(X)と液材(Y)の重量比(X/Y)が1.0〜5.0である歯科用硬化性組成物の製造方法が本発明の好適な実施態様である。
【0045】
ここで、水(E)の存在下では、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)とポリアルケン酸(C)とが反応して硬化し、また塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)と酸性リン酸カルシウム粒子(B2)との水和反応によってヒドロキシアパタイトが生成されるため、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を予め混合して歯科用硬化性組成物として保存しておくことができない。かかる観点から、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とからなる歯科用硬化性組成物キットであることが本発明の実施態様の一つである。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)及びポリアルケン酸(C)を含む粉材と、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とからなる歯科用硬化性組成物キットであることが本発明の実施態様の一つである。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)及びポリアルケン酸(C)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とからなる歯科用硬化性組成物キットであることが本発明の実施態様の一つである。また、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)、ポリアルケン酸(C)及び酒石酸(D)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)及び水(E)を含む液材とからなる歯科用硬化性組成物キットであることが本発明の実施態様の一つである。中でも、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)及びポリアルケン酸(C)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とからなる歯科用硬化性組成物キット、又は、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とからなる歯科用硬化性組成物キットが好適に採用され、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)及びポリアルケン酸(C)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材とからなる歯科用硬化性組成物キットがより好適に採用される。
【0046】
ここで、本発明の歯科用硬化性組成物キットにおいて、粉材(X)と液材(Y)を重量比(X/Y)が1.0〜5.0の範囲で混合して使用することが好ましく、このことにより、グラスアイオノマーセメントとして十分な粉液練和性及び機械的強度などの性能を発現させることができる。粉材(X)と液材(Y)を重量比(X/Y)が1.5〜4.5の範囲で混合して使用することがより好ましく、1.8〜3.8の範囲で混合して使用することが更に好ましい。
【0047】
したがって、少なくともフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)及び酸性リン酸カルシウム粒子(B2)を含む粉材(X)と、少なくともポリアルケン酸(C)、酒石酸(D)及び水(E)を含む液材(Y)とからなる歯科用硬化性組成物キットであって、粉材(X)と液材(Y)を重量比(X/Y)が1.0〜5.0の範囲で混合して使用する歯科用硬化性組成物キットが本発明の好適な実施態様である。また、本発明の歯科用硬化性組成物は、グラスアイオノマーセメントとして好適に用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。本実施例において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)、ポリアルケン酸(C)及び酒石酸(D)の平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD−2100型」)を用いて測定し、測定の結果から算出されるメディアン径を平均粒径とした。
【0049】
[グラスアイオノマーセメント用粉材及び液材の調製]
(1)フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の調製
フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)は、市販のフルオロアルミノシリケートガラス(G018−117、SCHOTT社製、平均粒径40.0μm)を、以下示す方法によって粉砕することで得た。
【0050】
フルオロアルミノシリケートガラス粒子:平均粒径30μmは、市販のフルオロアルミノシリケートガラス(G018−117、SCHOTT社製、平均粒径40.0μm)100g、及び直径が20mmのジルコニアボール200gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「TypeA−3HDポットミル」)中に加え、150rpmの回転速度で5時間粉砕することで得た。
【0051】
フルオロアルミノシリケートガラス粒子:平均粒径4μmは、市販のフルオロアルミノシリケートガラス(G018−117、SCHOTT社製、平均粒径40.0μm)100g、及び直径が20mmのジルコニアボール200gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「TypeA−3HDポットミル」)中に加え、150rpmの回転速度で15時間粉砕することで得た。
【0052】
フルオロアルミノシリケートガラス粒子:平均粒径0.5μmは、市販のフルオロアルミノシリケートガラス(G018−117、SCHOTT社製、平均粒径40.0μm)をナノジェットマイザー(NJ−100型、アイシンナノテクノロジーズ社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0053】
(2)塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)の調製
本実施例で使用する塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)は、以下の通り調製した粗リン酸四カルシウムを粉砕することにより得た。市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(Product No.1430,J.T.Baker Chemical Co.,NJ)及び炭酸カルシウム(Product No.1288,J.T.Baker Chemical Co.,NJ)を等モルとなる様に水中に加え、1時間撹拝した後、ろ過・乾燥することで得られたケーキ状の等モル混合物を電気炉(FUS732PB,アドバンテック東洋(株)製)中で1500℃、24時間加熱し、その後デシケータ中で室温まで冷却することでリン酸四カルシウム塊を調製した。更に、乳鉢中で荒く砕き、その後篩がけを行うことで微粉ならびにリン酸四カルシウム塊を除き、0.5〜3mmの範囲に粒度を整え、粗リン酸四カルシウムを得た。
【0054】
リン酸四カルシウム粒子:平均粒径30μmは、粗リン酸四カルシウム100g、及び直径が20mmのジルコニアボール200gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「TypeA−3HDポットミル」)中に加え、150rpmの回転速度で5時間粉砕することで得た。
【0055】
リン酸四カルシウム粒子:平均粒径19.0μmは、粗リン酸四カルシウム100g、及び直径が20mmのジルコニアボール200gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「TypeA−3HDポットミル」)中に加え、150rpmの回転速度で15時間粉砕することで得た。
【0056】
リン酸四カルシウム粒子:平均粒径5.0μmは、粗リン酸四カルシウムをナノジェットマイザー(NJ−100型、アイシンナノテクノロジーズ社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0057】
(3)酸性リン酸カルシウム粒子(B2)の調製
本実施例で使用する無水リン酸一水素カルシウム粒子(B2)は、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(太平化学産業株式会社製、平均粒径15.0μm)を、以下示す方法によって粉砕することで得た。
【0058】
無水リン酸一水素カルシウム粒子:平均粒径5.0μmは、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(太平化学産業株式会社製、平均粒径15.0μm)50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)を120g、及び直径が10mmのジルコニアボール240gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「Type A−3 HDポットミル」)中に加え120rpmの回転速度で24時間湿式粉砕を行うことで得られたスラリーをロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させ、更に60℃で12時間真空乾燥することで得た。
【0059】
無水リン酸一水素カルシウム粒子:平均粒径1.0μmは、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(太平化学産業株式会社製、平均粒径15.0μm)50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)を120g、及び直径が10mmのジルコニアボール240gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「Type A−3 HDポットミル」)中に加え120rpmの回転速度で24時間湿式粉砕を行なうことで得られたスラリーをロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させ、更に60℃で24時間真空乾燥することで得た。
【0060】
無水リン酸一水素カルシウム粒子:平均粒径0.5μmは、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(太平化学産業株式会社製、平均粒径15.0μm)をナノジェットマイザー(NJ−100型、アイシンナノテクノロジーズ社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0061】
リン酸三カルシウム粒子:平均粒径1μmは、市販のα−リン酸三カルシウム(太平化学産業株式会社製)をそのまま使用した。
【0062】
無水リン酸二水素カルシウム粒子:平均粒径1μmは、市販の無水リン酸二水素カルシウム(太平化学産業株式会社製)をそのまま使用した。
【0063】
(4)ポリアルケン酸(C)の調製
ポリアルケン酸(C)は液材に加える場合には市販のポリアルケン酸(日生化学工業社製)をそのまま使用し、粉材に加える場合には以下示す方法によって粉砕したものを使用した。
【0064】
市販のポリアルケン酸(日生化学工業社製)をナノジェットマイザー(NJ−100型、アイシンナノテクノロジーズ社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。得られたポリアルケン酸粉末の平均粒径は3μmであった。
【0065】
(5)酒石酸(D)の調製
酒石酸(D)は市販のL−酒石酸(磐田化学工業株式会社製)をそのまま使用した。ただし、粉材に加える場合のみ、めのう乳鉢で約1時間粉砕し平均粒径15〜25μmとしたものを使用した。
【0066】
(6)水(E)の調製
水(E)は市販の日本薬局方精製水(高杉製薬株式会社製)をそのまま使用した。
【0067】
(7)粉材の調製
表1〜4に示す組成で秤量したフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B1)、酸性リン酸カルシウム粒子(B2)、及び必要に応じてポリアルケン酸粉末(C)及び酒石酸(D)を高速回転ミル(アズワン株式会社製「SM−1」)中に加え、1000rpmの回転速度で3分間混合することで粉材を得た。
【0068】
(8)液材の調製
表1〜4に示す組成で秤量したポリアルケン酸粉末(C)(日生化学株式会社製)、L−酒石酸(D)(磐田化学工業株式会社製)、及び水(E)を24時間マグネティックスターラーにて攪拌することで、液材を調製した。
【0069】
[圧縮強度試験]
(1)圧縮強度測定用サンプルの調製
表1〜4に示す組成からなる粉材0.5gを精秤し、この上に表1〜4に示す組成からなる液材を表1〜4に示す粉液重量比になるよう加え混練することでペーストを調製した。直径が6mm、深さが3mmの分割可能なステンレス製のモールドを平滑なガラス板上に乗せ、気体を含ませないように注意しながらペーストを充填し、上部より平滑なガラス板で圧縮することで組成物ペーストを成型した(n=9)。その後、37℃、相対湿度100%の環境で1時間インキュベートした後、上記モールドより硬化物を取り出し、同じく37℃の蒸留水150ml中に浸漬し、更に20時間、または30日間保持した。その後、硬化物の圧縮強度(MPa)を、JIST6609−1に記載された方法に準じて、力学的強度測定装置(株式会社島津製作所製「AG−1 100kN」)を使用し、円柱状の硬化物の軸方向に0.75mm/minの速度で荷重をかけて圧縮強度(MPa)を測定した(n=9)。以下、20時間後の圧縮強さを初期圧縮強さと呼ぶことがある。
【0070】
(2)圧縮強さ向上幅の算出方法
圧縮強さの向上幅は下式を用いて算出した。
圧縮強さの向上幅(MPa) = (30日後の圧縮強さ(MPa)) − (20時間後の圧縮強さ(MPa))
【0071】
[操作性]
(1)操作性
表1〜4に示す組成からなる粉材0.1gを精秤し、この上に表1〜4に示す組成からなる液材を表1〜4に示す粉液重量比になるよう加え練和紙(85×115mm)上で30秒間練和することでペーストを調製した。そのペースト性状について、以下の評価基準に従い操作性を評価した。
【0072】
(2)操作性の評価基準
A:粉材と液材の練和開始直後のなじみが良く、歯科用練和棒による20秒間の練和によりペーストを得ることができる。得られたペーストの伸びは良く、ザラツキもない。
B:粉材と液材の練和開始直後のなじみが少し悪いが、歯科用練和棒による20秒間の練和によりペーストを得ることはできる。ペーストの伸びは良いが若干の練和中にザラツキを感じる場合がある。
C:粉材と液材の練和開始直後のなじみが悪く、ペーストを得るのに歯科用練和棒での練和を30秒間要する。ペーストの伸びは良いが若干の練和中にザラツキを感じる場合がある。
D:粉材と液材の練和開始直後のなじみが悪く、ペーストを得るのに歯科用練和棒での練和を30秒間以上要する、または練和することができない。練和できた場合、ペーストの伸びも悪く2分以内に練和紙上で硬化し操作時間を確保できない。また、練和中にザラツキを感じる場合がある。
なお、A〜Cが実使用レベルである。
【0073】
[再石灰化用牛歯の調製]
健全牛歯切歯の頬側中央を#80、#1000研磨紙を用いて回転研磨機により研磨し、象牙質を露出させた。この牛歯研磨面を更にラッピングフィルム(#1200、#3000、#8000、住友スリーエム社製)を用いて研磨し、平滑とした。この象牙質部分に歯に対して縦軸方向及び横軸方向に各7mm試験部分の窓を残し(以下、「象牙質窓」と称する)、周りをマニキュアでマスキングし、1時間風乾した。この牛歯を、酢酸(和光純薬工業株式会社製)を蒸留水で希釈した50mMの脱灰液150mlに1週間浸漬させ脱灰を行った後、30分以上水洗することで再石灰化試験に用いる牛歯を調製した。
【0074】
[擬似唾液の調製]
塩化ナトリウム(8.77g、150mmol)、リン酸二水素カリウム(122mg、0.9mmol)、塩化カルシウム(166mg、1.5mmol)、Hepes(4.77g、20mmol)をそれぞれ秤量皿に量り取り、約800mlの蒸留水を入れた2000mlビーカーに撹拌下に順次加えた。溶質が完全に溶解したことを確認した後、この溶液の酸性度をpHメータ(F55、堀場製作所)で測定しながら、10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH7.0とした。次にこの溶液を1000mlメスフラスコに加えてメスアップし、擬似唾液1000mlを得た。
【0075】
[再石灰化試験]
上記で調製した再石灰化用牛歯を蒸留水に浸漬し、30分間静置した後、象牙質窓の半分に対して粉材及び液材を練和紙上において表1〜4に示す所定の粉液比で30秒間混和し得られたペーストを約0.1g塗布し、37℃、100%RH条件下で60分間インキュベートし硬化させた。その後、硬化物が再石灰化試験用牛歯に付着した状態を保ちつつ、擬似唾液中37℃で2週間保存した。また、擬似唾液は毎日交換した(n=5)。
【0076】
[再石灰化能評価]
(1)エポキシ樹脂の調製
エポキシ樹脂の調製はLuft法に準じて行い、エポキシ樹脂、硬化剤を均一に混合した後、加速剤を添加する方法を用いた。100mlディスポカップに、ルベアック812(エポキシ樹脂、ナカライテスク株式会社製)41ml、ルベアックMNA(硬化剤、ナカライテスク株式会社製)31ml、ルベアックDDSA(硬化剤、ナカライテスク株式会社製)10mlをそれぞれディスポシリンジを用いて量り取りディスポカップに加え、10分間撹拝した。これにディスポシリンジで量り取ったルベアックDMP−30(加速剤、ナカライテスク株式会社製)1.2mlを撹拝しながら徐々に滴下し、添加後更に10分間撹拝することで調製した。
【0077】
(2)硬度測定用サンプルの作製
擬似唾液から石灰化牛歯を取り出し、水洗した後、バイアル中の70%エタノール水溶液中に浸漬した。浸漬後、直ちにバイアルをデシケータ内に移し、10分間減圧条件下に置いた。この後、バイアルをデシケータから取り出し、低速撹拌機(TR−118、AS−ONE社製)に取り付け、約4rpmの回転速度で1時間撹拝した。同様の操作を、80%エタノール水溶液、90%エタノール水溶液、99%エタノール水溶液、100%エタノール(2回)を用いて行い、2回目の100%エタノールにはそのまま1晩浸漬した。翌日、プロピレンオキサイドとエタノールの1:1混合溶媒、プロピレンオキサイド100%(2回)についても順次同様の作業を行い、2回目のプロピレンオキサイドにそのまま1晩浸漬した。更に、エポキシ樹脂:プロピレンオキサイド=1:1混合溶液、エポキシ樹脂:プロピレンオキサイド=4:1混合溶液、エポキシ樹脂100%(2回)についても同様の作業を行った。これらについては浸漬時間を2時間とした。最後にエポキシ樹脂を入れたポリ容器に牛歯サンプルを入れ、45℃にて1日間、60℃にて2日間硬化反応を行った。硬化終了後、ポリエチレン製容器とともに精密低速切断機(BUEHLER、ISOMETl000)により脱灰面に対して垂直方向に切断し、試験部分の断面を含む厚さ約1mmの切片を得た。この切片をラッピングフィルム(#1200、#3000、#8000、住友スリーエム社製)を用いて研磨し、硬度測定用サンプルとした(n=5)。
【0078】
(3)硬度測定
ナノインデンター(ENT−1100a、株式会社エリオニクス社製)を用いて、脱灰部及び再石灰化部の断面について2mNの荷重で測定した。なお、測定は表層から深さ方向に40μm間隔で10点行う操作を、脱灰部及び再石灰化部のそれぞれについて3列について行い、各深さにおける硬さの平均を算出した。更にコントロールとして、脱灰していない深さ600μmの健全象牙質についても3点硬さを測定し、平均値を算出した。再石灰化能は硬度回復率として、以下に示す算式により数値化した。
硬度回復率(%)=[(再石灰化部の深さ360μmにおける硬さの平均値)−(脱灰部の深さ360μmにおける硬さの平均値)]/(健全象牙質の硬さの平均値)×100
【0079】
実施例1〜42
上記示す手順により表1〜4に示す組成で歯科用硬化性組成物を調製し、操作性、圧縮強さ及び再石灰化能を評価した。得られた評価結果を表1〜4にまとめて示す。
【0080】
比較例1〜10
上記示す手順により表4に示す組成で組成物を調製し、操作性、圧縮強さ及び再石灰化能を評価した。得られた評価結果を表4にまとめて示す。なお、比較例10に用いたハイドロキシアパタイト粒子は、市販のハイドロキシアパタイト(HAP−100、太平化学産業株式会社製)をそのまま用いた。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】