【課題を解決するための手段】
【0012】
以下では、理解を容易にするために、各半導体層や半導体領域が機能的にどの層に相当するかを括弧内に付記して説明する。
上記した課題を解決し本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、
第1導電型の第1半導体層(ドリフト層)と、
前記半導体層(ドリフト層)の裏面に設けられた第2導電型の第1半導体層(コレクタ層)と、前記第2導電型の第1半導体層(コレクタ層)を貫通する複数の第1導電型の第1半導体領域(短絡部)とを備え、
前記第1導電型の第1半導体層(ドリフト層)のおもて面には、選択的に設けられた複数の第2導電型の第1半導体領域(pボディ層)と、
前記第2導電型の第1半導体領域(pボディ層)の各々のおもて面に選択的に設けられた第1導電型の第2半導体領域(エミッタ層)と、
前記各々の第2導電型の第1半導体領域(pボディ層)と前記第1導電型の第2半導体領域(エミッタ層)とに接する第1の主電極(エミッタ電極)と、
前記各々の第2導電型の第1半導体領域(pボディ層)の、前記各々の第1導電型の第2半導体領域(エミッタ層)と前記第1導電型の第1半導体層(ドリフト層)とに挟まれた部分の表面に、絶縁膜を介して設けられた制御電極と、
前記第2導電型の第1半導体層(コレクタ層)と前記複数の第1導電型の第1半導体領域(短絡部)との裏面に接する第2の主電極(コレクタ電極)とを備えた半導体装置において、
各半導体層と各半導体領域がワイドギャップ半導体から構成されており
前記複数の第1導電型の第1半導体領域(短絡部)間の距離Wp(WB)を、
Si半導体で構成した同耐圧で同一構成の前記半導体装置の前記距離Wp(Si)を上限とし、
前記ワイドギャップ半導体のpn接合のビルトイン電圧Vbi(WB)とワイドギャップ半導体装置の特性オン抵抗RonS(WB)との積を、前記Si半導体装置のpn接合のビルトイン電圧Vbi(Si)とSi半導体装置の特性オン抵抗RonS(Si)との積で割算した値に前記短絡部間距離Wp(Si)を乗じた値を下限とする範囲より選択したことを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、
前記第1導電型の第1半導体層(ドリフト層)と、前記第2導電型の第1半導体層(コレクタ層)および前記複数の第1導電型の第1半導体領域(短絡部)との間に第1導電型の第2半導体層(バッファー層)を設けたことを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる半導体装置は、
第1導電型の第1半導体層(ドリフト層)と、
前記第1導電型の第1半導体層(ドリフト層)の裏面に設けられた第1導電型の第2半導体層(バッファー層)と、前記第1導電型の第2半導体層(バッファー層)の裏面に設けられた第2導電型の第1半導体層(コレクタ層)を備え、更に前記第2導電型の第1半導体層(コレクタ層)を貫通する複数の第1導電型の第1半導体領域(短絡部)とを備え、
前記第1導電型の第1半導体層(ドリフト層)のおもて面には、選択的に設けられた複数の第2導電型の第1半導体領域(ボディ領域)と、
前記第2導電型の第1半導体領域(ボディ領域)の各々のおもて面に選択的に設けられた第1導電型の第2半導体領域(エミッタ領域)と、
前記各々の第2導電型の第1半導体領域(ボディ領域)と前記第1導電型の第2半導体領域(エミッタ領域)とに接する第1の主電極(エミッタ電極)と、
前記各々の第2導電型の第1半導体領域(ボディ領域)の、前記各々の第1導電型の第2半導体領域(エミッタ領域)と前記第1導電型の第1半導体層(ドリフト層)とに挟まれた部分の表面に、絶縁膜を介して設けられた制御電極と、
前記第2導電型の第1半導体層(コレクタ層)と前記複数の第1導電型の第1半導体領域(短絡部)との裏面に接する第2の主電極(コレクタ電極)とを備えた構成を有する活性領域を含む逆導通IGBT半導体装置において、
各半導体層と各半導体領域がワイドギャップ半導体から形成されており
前記ワイドギャップ半導体逆導通IGBT半導体装置の前記複数の第1導電型の第1半導体領域間の距離をWp(WB)、pn接合のビルトイン電圧をVbi(WB)、特性オン抵抗をRonS(WB)、前記第1導電型の第2半導体層の抵抗率をρb(WB)とし、
前記ワイドギャップ半導体逆導通IGBT半導体装置と、同耐圧で且つ断面形状は同じであり更に前記第1導電型の第1半導体領域の不純物濃度と幅も同じであるが同耐圧を実現するためにSi材料特有の物性を考慮して必要な各半導体層や各半導体領域の不純物濃度や厚さおよび幅を採用しているSi逆導通IGBT構造の半導体装置において、前記複数の第1導電型の第1半導体領域間の距離をWp(Si)、pn接合のビルトイン電圧をVbi(Si)、特性オン抵抗をRonS(Si)、第1導電型の第2半導体層の抵抗率をρb(Si)とし、
前記第1導電型の第1半導体領域間の距離Wp(WB)に対応する距離Wp(Si)を、前記Vbi(Si)の4倍の値をスナップバック電流密度Jsb(Si)と前記抵抗率ρb(Si)の積で割算した値とし、
前記Wp(WB)を、前記Wp(Si)を上限とし、
前記Vbi(WB)と前記RonS(WB)との積を、前記Vbi(Si)と前記RonS(Si)との積で割算した値に前記Wp(Si)を乗じた値を下限とする範囲より選択したことを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、
前記複数の第1導電型の第1半導体領域(短絡部)間の距離Wp(WB)のうち、少なくとも一つの距離Wp(WB) を前記範囲の上限以下で下限よりも十分大きな値とし、それ以外のWp(WB)を前記範囲の下限に近い値としたことを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、
セル内に1個以上の前記第1導電型の第1半導体領域(短絡部)を有し、その幅Wn(WB)と前記第1導電型の第1半導体領域(短絡部)間の距離Wp(WB)との比率Wn(WB)/Wp(WB)を0.3〜5.0にしたことを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる半導体装置の動作方法は、
ワイドギャップ半導体で形成された逆導通IGBT半導体装置であり、ドリフト層とバッファー層を有する逆導通IGBT半導体装置、もしくはドリフト層をより厚くしバッファー層は設けていない逆導通IGBT半導体装置において、
コレクタ電極とエミッタ電極間に順方向電圧を印加し且つゲート電極とエミッタ電極間にも低いゲート電圧を印加して順方向バイアス状態にして、エミッタ領域とコレクタ短絡部を介して多数キャリアのみによる順方向電流を流し、この電流による自己発熱により前記逆導通IGBT半導体装置を積層欠陥の少数キャリアトラップ現象を抑制できる所定の温度に昇温させた後に、コレクタ領域からドリフト層に少数キャリアが注入されるように、前記ゲート電圧をより高い電圧に制御して逆導通IGBT半導体装置をバイポーラ動作させることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体装置の動作方法は、
第1導電型の第1半導体層と、
前記第1導電型の第1半導体層の裏面に設けられた第1導電型の第2半導体層と、前記第1導電型の第2半導体層の裏面に設けられた第2導電型の第1半導体層を備え、更に前記第2導電型の第1半導体層を貫通する複数の第1導電型の第1半導体領域とを備え、
前記第1導電型の第1半導体層のおもて面には、選択的に設けられた複数の第2導電型の第1半導体領域と、
前記第2導電型の第1半導体領域の各々のおもて面に選択的に設けられた第1導電型の第2半導体領域と、
前記各々の第2導電型の第1半導体領域と前記第1導電型の第2半導体領域とに接する第1の主電極と、
前記各々の第2導電型の第1半導体領域の、前記各々の第1導電型の第2半導体領域と前記第1導電型の第1半導体層とに挟まれた部分の表面に、絶縁膜を介して設けられた制御電極と、
前記第2導電型の第1半導体層と前記複数の第1導電型の第1半導体領域との裏面に接する第2の主電極とを備えた活性領域を含む半導体装置であり、各半導体層と各半導体領域がワイドギャップ半導体から構成されている逆導通IGBT半導体装置において、
前記第1の主電極と前記第2の主電極間に順方向電圧を印加し且つ前記制御電極と前記第1の主電極間にも低い電圧を印加して順方向バイアス状態にし、前記第1導電型の第2半導体領域と前記第1導電型の第1半導体領域を介して多数キャリアのみによる順方向電流を流し、この電流による自己発熱により前記逆導通IGBT半導体装置を積層欠陥の少数キャリアトラップ現象を抑制できる40℃以上の温度に昇温させた後に、前記第2導電型の第1半導体層から前記第1導電型の第1半導体層に少数キャリアが注入されるように前記制御電極と前記第1の主電極間の電圧をより高い電圧に制御して逆導通IGBT半導体装置をバイポーラ動作させることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、各半導体層と各半導体領域をワイドギャップ半導体で構成し、前記短絡部間の距離Wp(WB)を(1)式に示すように、その上限をSi半導体で構成した同耐圧で同一構成の半導体装置の短絡部間距離Wp(Si)とし、その下限を新しく発見した下限、すなわちAxWp(Si)とするようにし、これらの上限と下限の間の値になるように設定する。
Wp(Si) > Wp(WB) ≧ A Wp(Si) (1)
.
【0018】
ここで新しく発見した係数Aは(2)式に示すが、前記ワイドギャップ半導体のpn接合のビルトイン電圧Vbi(WB)とワイドギャップ半導体装置の特性オン抵抗RonS(WB)との積を、前記Si半導体装置のpn接合のビルトイン電圧とSi半導体装置の特性オン抵抗との積で割算したものである。
(2)
.
この係数Aは1よりも大幅に小さい値である。
【0019】
なお、ここで「Si半導体で構成した同耐圧で同一構成の半導体装置」とは、「ワイドギャップ半導体逆導通IGBTと断面形状は同じであり且つn
+短絡部の不純物濃度と幅も同じであるが、同耐圧を実現するためにSi材料特有の物性を考慮して、必要な各半導体層や各半導体領域の不純物濃度や厚さおよび幅を採用しているSi逆導通IGBT構造の半導体装置」を意味する。
【0020】
このように逆導通ワイドギャップ半導体IGBTの短絡部間の距離Wp(WB)を設定することにより、引例と同耐圧で同一構成のSi逆導通IGBTに比べてWpを小さくしているにもかかわらずスナップバック現象を抑制でき、且つ高速化とスイッチング損失の大幅低減による高性能化も達成でき、第1の課題を解決できるものである。
【0021】
以下に、その理由を新しく発見した係数Aの導出とあわせて、
図1を参照しながら説明する。
図1はn型Si逆導通IGBTの断面図の一部を示す。以下のように構成されている。
逆導通IGBTのコレクタ電極1に接する裏面には、pコレクタ領域2とn+短絡部3とが交互に設けられ、これらの領域2と3のおもて面には、n(第2導電型)バッファー層4が設けられている。nバッファー層4の表面には、n
−ドリフト層(第1半導体層)5が、またその表面には、n型半導体層(電流密度増大層:CEL、第2半導体層)6を設けている。nCEL6の表面層には、pボディ領域(第1半導体領域)7が選択的に複数設けられ、その表面層には、n
+エミッタ領域(第2半導体領域)8およびp
−低濃度チャネル領域9やp+コンタク領域10が選択的に設けられている。p
−低濃度チャネル領域9の表面には、ゲート絶縁膜11を介してゲート電極(制御電極)12が設けられている。エミッタ電極(入力電極)13は、n
+エミッタ領域8に接するとともにp
+コンタクト層10を介してpボディ領域7にも接する。また、エミッタ電極13はゲート電極12から絶縁されている。
【0022】
まず、この逆導通IGBTを用いてスナップバック現象の発生メカニズムを説明する。
逆導通Si−IGBTのMOSゲート電極12にしきい値以上のゲート電圧を印加しコレクタ電極1とエミッタ電極13の間の順方向電圧Vceを印加し上昇してゆくと、まずMOSFET部が動作し、エミッタ電極13からn
+エミッタ領域8、p
−低濃度チャネル領域9、nCEL層6、n
−ドリフト層5、nバッファー層4、n
+短絡部3を順次介してコレクタ電極に電子電流が流れる。図中にはこの電子電流の流路を図式的にa、b、cの点線で示してある。この電流の一部cはコレクタ接合上のバッファー層4を横方向に流れn
+短絡部3を介してコレクタ電極1に流れるが、この横方向の電子電流によりpコレクタ接合中央部14とコレクタ電極1の間に電位差を生じ、この電位差がコレクタ接合のビルトイン電圧Vbi(Siの場合は約0.7V)を超えるとpコレクタ2からnバッファー層4ついでnドリフト層5に正孔の注入が生じ実線の矢印で示した正孔電流dが流れ、IGBT部がオンする。この際、pコレクタ層2の幅が小さい場合は横方向抵抗が小さいので、横方向電流による電位差をビルトイン電圧Vbi以上にするためには大きな電流が必要となり、この結果n
−ドリフト層での電圧降下とMOSFET部での電圧降下が大きくなりVsbが大きくなってしまう。しかし、一旦IGBT部がオンするとpコレクタ2から注入された正孔によりn
−ドリフト層5に伝導度変調が生じn
−ドリフト層の内部抵抗が激減するので、オン後のVceは大幅に低くなる。このためスナップバック現象が生じてしまうのである。
【0023】
次に新しく発見した係数Aをどのようにして導き出したのか説明する。
まず、上記のスナップバック現象の発生のメカニズムの考察から、Si逆導通IGBTのコレクタから正孔の注入が生じる時のVbi(Si)は下式2項目のように表せ、3項目のように変換できる。
.
ここで、Rb(Si)とρb(Si)は各々Si逆導通IGBTのバッファー層の抵抗と抵抗率を、Jsb(Si)はスナップバック電流密度を示す。
これよりWp(Si)は近似的に(3)式で示すことができる。
∴
(3)
.
同様に、同じ構成のワイドギャップ半導体逆導通IGBTにおいてコレクタからの正孔の注入が生じる条件は
(4)
.
ここで、ρb(WB)はワイドギャップ半導体逆導通IGBTのバッファー層の抵抗率を、Jsb(WB)はスナップバック電流密度を示す。
【0024】
ところで、高耐圧IGBTで定状オン損失とターンオフ損失をバランスよく低減し適正化するには、コレクタからの正孔の適正な注入を行う必要がある。この適正な正孔注入を行うためのnバッファー層4のρbは半導体材料にあまり依存しないでほぼ一義的に定めることができるので、ほぼ ρb(Si)=ρb(WB) となる。従って、(3)と(4)式から(5)式を導くことができる。
(5)
.
【0025】
ところで、高耐圧IGBTの場合はオンする前はドレイン層が伝導度変調されていないので、MOSFET部のチャネル抵抗での電圧ドロップVchやコレクタのビイルトイン電圧Vbiに比べてドレイン層の電圧ドロップVdriftがはるかに大きい。従って、
.
逆導通IGBTのオン直前のVceがVsbであり、IceがIsbであるので、
(6)
.
(5)式に(6)式より求めたJsbを代入すると、
.
従って、同耐圧のワイドギャップ半導体逆導通IGBTとSi逆導通IGBTとでVsbを同じにするための短絡部間距離Wp(WB)とWp(Si)との間の関係は、Vsb(WB)=Vsb(Si)とすることにより(7)式となる。
(7)
.
このようにして、(2)式の係数Aを導くことができる。
【0026】
次にWp(WB)を(1)式に示すように設定することにより第1の課題を解決できる理由を説明する。
(7)式より、Si逆導通IGBTに比べてワイドギャップ半導体逆導通IGBTは短絡部間距離Wp(WB)を大幅に低減できることが判る。例えば、ワイドギャップ半導体の一種である炭化ケイ素(以下、SiCと記す)半導体で構成したSiC逆導通IGBTの場合は、RonS(SiC)がRonS(Si)の約1/1000、Vbi(SiC)がVbi(Si)の約4倍なので、(7)式よりWp(SiC)がWp(Si)の約1/250となる。従って、Wp(SiC)をWp(Si)の約1/250まで大幅に低減しても、ほぼ同じVsbにできる。典型的な高耐圧Si逆導通IGBTのケースについて試算してみると、Wp(Si)は(3)式から175μmと算出でき、従ってSiC逆導通IGBTのVsbを同耐圧のSi逆導通IGBTよりも抑制できる範囲は(1)式から、次のようになる。
175μm>Wp(SiC)>0.7μm
この結果、同耐圧で同じチップサイズの場合、SiC逆導通IGBTのVsbをSi逆導通IGBTのVsbと同じにする時、Wp(SiC)を175μmまで大幅に増大できる余地が生じることになる。従って、Wp(SiC)をWp(Si)以上にならない範囲で大幅に増大してIsbを小さくすることによりVsbを大幅に小さくできる。これはスナップバック現象を大幅に抑制できることを意味するものである。
【0027】
また、同耐圧で同じチップサイズの場合、Wp(WB)を上記の範囲内でWp(Si)よりも小さく設定することにより上記のようにスナップバック現象を抑制する一方、その小さくした分の一部で短絡領域のみの面積を増やしたり、セル数を増やしたりすることができ、いづれの場合もn
+短絡部のトータル面積を大幅に増加できる。この結果、逆導通IGBTのターンオフ時の残存キャリアの排除機能を大幅に増大できるので、ターンオフ時間を低減させ逆導通IGBTを高速化することができるとともにスイッチング損失も低減でき、ワイドギャップ半導体逆導通IGBTをより高性能化できる。
【0028】
このように、スナップバック現象を大幅に抑制でき且つ逆導通IGBTをより高性能化できるので、第1の課題を解決できる。
なお当然ながら、ワイドギャップ半導体で構成していることに起因して同耐圧のままで損失を低減できるという公知の効果も享受できるものである。
【0029】
またこの発明によれば、上記構成により、前記複数の第1導電型の第1半導体領域(短絡部)間の距離Wpのうち、少なくとも一つの距離Wpを上限に近い値、すなわち前記範囲の上限以下で下限の数倍以上のかなり大きな値とし、それ以外のWpを前記範囲の下限に近い値としている。この短絡部間距離が上限に近い部分はパイロットIGBT部として十分機能させることができる。従って、Si逆導通IGBTに比べてワイドギャップ半導体逆導通IGBTはパイロットIGBT部の専有面積をはるかに小さく抑えることできる。このため、同耐圧で同じチップサイズの場合、パイロットIGBT部以外の逆導通IGBT領域の面積を増やすことができ、その結果パイロットIGBT部を導入してスナップバック現象を抑制したにもかかわらず、ターンオフ時に残存するキャリアを排除するという逆導通IGBT本来の機能の低下を防止でき、逆に増大も可能であり第2の課題を解決できる。これは歩留まりなどの経済性の点からワイドギャップ半導体素子のチップサイズが10mmx10mm以下、一般的には5mmx5mm程度以下に制約されている現状では、逆導通IGBTの本来の機能を発揮させる上で極めて効果が大きいものである。
【0030】
当然ながら、同構造のSi逆導通IGBTのパイロットIGBT部のWpを超えない範囲内で、本発明になる逆導通IGBTのパイロットIGBT部のWpを大きくした場合は更にスナップバック現象を抑制できる。
【0031】
また、この発明によれば、第1導電型の第1半導体領域(短絡部)の幅Wnと前記第1導電型の第1半導体領域(短絡部)間の距離Wpの比率を特定の範囲に限定にしており、これによりスナップバック現象が直接的な原因となって生じる半導体本体の劣化を抑制し、高性能逆導通IGBTの高い信頼性を実現でき、第3の課題を達成できる。
【0032】
一般に、ワイドギャップ半導体材料にはSiよりも各種の欠陥が多量に発生する。それらの欠陥のうちの積層欠陥は、注入された少数キャリアが結晶の格子点に衝突すると衝突エネルギーで格子点の原子が動かされるので積層欠陥が拡大してしまうというワイドギャップ半導体特有の性質がある。この積層欠陥は少数キャリアをトラップして再結合させ通電にあまり寄与することなく消滅させてしまうので、積層欠陥の拡大はIGBT半導体装置の内部抵抗の増大を招く。従って、IGBTのようなバイポーラタイプのワイドギャップ半導体装置の場合は、装置を稼働し通電している間に注入される少数キャリアにより積層欠陥が拡大し内部抵抗が増大してゆくので、オン電圧増大すなわちオン電圧劣化をもたらし信頼性が大きく損ねられてしまう。しかし、このワイドギャップ半導体の積層欠陥が少数キャリアをトラップして再結合させ消滅させてしまうという現象は、温度を約40℃以上に上げると徐々に抑制され、200℃以上ではほぼ完全に消失することが発明者らにより見出されており、Silicon Carbide and Related Materials 2007の論文集(K.Nakayama他7名、Behavior of Stacking Faults in TEDREC Phenomena for4.5kV SiCGT、Silicon Carbide and Related Materials 2007、2007年10月、p.1175−1178)に開示されている。
以下では、この種のオン電圧増大を、オン電流増大に伴うオン電圧の増大と区別するためにオン電圧劣化と記述する。
【0033】
ワイドギャップ半導体逆導通IGBTにスナップバック現象が存在すると、オンする直前のVsbではコレクタから少数キャリアの注入を生じるのに必要な電圧降下すなわちVbiを実現するために比較的大きなIsbを流す必要がある。オンする直前のVsbまではもっぱら多数キャリアによるIsbが流れており積層欠陥を拡大しないが、一旦オンするとこのIsbに対応する多量の少数キャリア電流がコレクタから一挙にバッファー層やドリフト層に流れ込む。これによりワイドギャップ半導体逆導通IGBTに存在する積層欠陥が一挙に拡大してしまい、オン電圧劣化の急速な進展を招き、半導体本体が劣化し、ついには損傷や破壊に至ってしまう。このスナップバック現象が存在するワイドギャップ半導体逆導通IGBTがオンする際のオン電圧の急速な劣化を、以後急速オン電圧劣化と記載する。
【0034】
しかし、この発明によれば、n
+短絡部の幅Wnを増大しn
+短絡部のトータル面積を増大することにより、上記のスナップバック現象が直接的な原因となって生じる半導体本体が劣化するという急速オン電圧劣化を抑制でき高い信頼性を実現できる。
すなわち、スナップバック現象が存在する逆導通IGBTがオンする前にn
+短絡部を介してIsbが流れるが、この電流は多数キャり電流であり積層欠陥の拡大を招かない。そこで、n
+短絡部の幅Wnを増大しn
+短絡部の面積を増大することにより積極的に多数キャりアで構成されるIsbの増大を図り、これにより逆導通IGBTの素子温度を、積層欠陥が少数キャリアをトラップして再結合させ消滅させてしまう現象が抑制される温度まで、逆導通IGBTがオンする前に上昇させ、オン時点での急速オン電圧劣化を抑制することができる。
【0035】
同耐圧で同じチップサイズの場合、セルの第1導電型の第1半導体領域(n
+短絡部)の幅Wnの増大によるn
+短絡部のトータル面積を増大は、セルの前記第1導電型の第1半導体領域(n
+短絡部)間の距離Wpの減小ひいてはコレクタ面積の減少を招く。これは前者の場合はスナップバック現象の増大を招き後者の場合はオン後のオン電圧の増大即ち電力損失の増大を招く。すなわち、セルの幅を一定にした場合、Wn/Wpの比率が小さいとオン電圧劣化を抑制できるレベルまでの温度上昇が容易でなく、大きすぎるとスナップバック現象の増大やオン電圧の増大による電力損失の増大を招く。従って、Wn/Wpの比率を適正な範囲に設定する必要がある。一方、高耐圧素子ほどドリフト領域の不純物濃度は低く且つその厚さは厚く設定されるので、ドリフト領域の内部抵抗が大きく素子温度をより少ないIsbで上昇できる。従って、Wn/Wpの適正範囲は耐圧によっても異なる。発明者は種々の検討の結果、3kV以上の高耐圧逆導通IGBTにおいては、Wn/Wpの適正範囲はSiC半導体の場合、0.2〜5.0の範囲にするのが良く、より好ましくは0.3〜3.0の範囲にするのが良いことを見出した。
これにより第3の課題を解決し、高性能逆導通IGBTの高い信頼性を実現できる。
【0036】
また、この発明の動作方法によれば、ワイドギャップ半導体逆導通IGBTの急速オン電圧劣化に加えて初動時のオン電圧劣化も抑制でき高い信頼性を実現できる。
【0037】
ワイドギャップ半導体逆導通IGBTには上記のように積層欠陥に起因し通常のオン電圧劣化が発生するとともに、スナップバック現象に起因し急速オン電圧劣化が発生する。
従って、この発明の動作方法により、少なくともワイドギャップ半導体逆導通IGBTがオンする前に所定の低いゲート電圧でMOSFET部をオンさせて前記短絡部を介して多数キャリアによる順方向電流を流し、この積層欠陥の増大を招かない多数キャリア電流により半導体装置を所定温度まで昇温させ、その後にゲート電圧を高くしてコレクタ層から少数キャリアを注入させ、逆導通IGBTをオンさせる。
これにより、すでに存在する積層欠陥の拡大のみならず、スナップバック現象によりコレクタ層からバッファー層やドリフト層に大量の少数キャリアが短時間に急激に注入されることによる積層欠陥の急速拡大も、温度上昇により積層欠陥の少数キャリアトラップ現象を抑制できるので通常のオン電圧劣化のみならず急速オン電圧劣化も抑制できる。
ワイドギャップ半導体逆導通IGBTは一旦オンすると自己発熱で温度が上昇してゆくので、通常のオン電圧劣化や急速オン電圧劣化の影響は抑制される。しかし、初動時にはワイドギャップ半導体逆導通IGBTの温度は周囲温度と同程度に低くなっている。この状態でオンさせると既に存在する積層欠陥が更に拡大しオン電圧劣化を促進し信頼性が損なわれる。
従って、少なくともワイドギャップ半導体逆導通IGBTの初動時には、この発明の動作方法により、逆導通IGBTをオンさせる前に積層欠陥の少数キャリアトラップ現象を抑制できる所定温度まで昇温させものである。これにより、初動時にもオン電圧の劣化の影響を大幅に抑制でき信頼性を向上できる。
【0038】
逆導通IGBTの積層欠陥の量や大きさに依存して適切な昇温温度が異なるが、少なくとも初動時には40℃以上に昇温するのが好ましく、より好ましくは50℃以上である。
また、動作開始後に40℃以上を維持できない場合でも、動作開始後の各オン時に本発明の動作方法を適用すると初動時と同様に甚大なオン電圧劣化の悪影響を抑制できる。
このように、この動作方法により第3の課題をより効果的に解決し、高性能逆導通IGBTの高い信頼性を実現できる。