特許第6232722号(P6232722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232722
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】ニッケル−カドミウム蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/30 20060101AFI20171113BHJP
   H01M 4/32 20060101ALI20171113BHJP
   H01M 4/24 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H01M10/30 A
   H01M4/32
   H01M4/24 G
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-61274(P2013-61274)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-186880(P2014-186880A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116078
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 浩希
(72)【発明者】
【氏名】小野田 一城
(72)【発明者】
【氏名】原田 諭
(72)【発明者】
【氏名】唐住 浩平
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 千浩
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−243973(JP,A)
【文献】 特開2002−231240(JP,A)
【文献】 特開2004−273283(JP,A)
【文献】 特開2004−281289(JP,A)
【文献】 特開2000−058048(JP,A)
【文献】 特開2001−217000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/30
H01M 4/24−26
H01M 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質として水酸化ニッケルを含む正極と、
カドミウムを含む非焼結式負極と、
電解液と、
を有するニッケル−カドミウム蓄電池において、
前記正極はY元素が添加されており、
前記電解液はW元素及び水酸化ナトリウムに由来するNa元素を含有する、
ことを特徴するニッケル−カドミウム蓄電池。
【請求項2】
前記W元素は、前記正極活物質に対して、0.4質量%以上、2.8質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル−カドミウム蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル−カドミウム蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池(蓄電池)の用途が拡大して、パーソナルコンピュータ、携帯電話、電気自動車、ハイブリッド車、電動自転車、電動工具など広範囲にわたって蓄電池が用いられるようになった。このうち、特に、電気自動車、ハイブリッド車、電動自転車、電動工具などの高出力が求められる機器の電源としては、ニッケル−水素蓄電池やニッケル−カドミウム蓄電池などのアルカリ蓄電池が用いられている。
【0003】
上記アルカリ蓄電池の中でニッケル−カドミウム蓄電池は、充電時における環境が常温である場合、正極の水酸化ニッケルの充電反応時の過電圧は、アルカリ電解液からの酸素発生反応に要する過電圧よりも小さく、電位差は大きい。
【0004】
このため、最初に水酸化ニッケルの充電反応が進み、この充電反応がほぼ終了してから、次にアルカリ電解液からの酸素発生反応に移行する。
したがって、常温環境下においては、正極の充電を確実かつ十分に進行させることが可能となる。
【0005】
しかしながら、高温環境下での充電の場合、アルカリ電解液からの酸素発生反応の過電圧が低下するため、水酸化ニッケルの充電反応時の過電圧との差が縮まる。
そのため、充電の比較的初期の段階から充電反応と酸素発生反応との競争関係が発生し、水酸化ニッケルの充電反応が十分に進行せず、正極の充電が十分にできないという事態が生じる。
【0006】
すなわち、高温環境下においては、充電効率が低下し、それによって電池の放電容量が低下するという問題を生じる。
【0007】
このような問題を解決する手段として、特許文献1では、活物質である水酸化ニッケルの合成時にコバルト成分を共沈させ、正極の平衡電位を低下させる方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2では、カドミウムなどを共沈させた水酸化ニッケルを用いることにより正極の酸素発生反応に要する過電圧を高めるという方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献3では、ニッケル−水素電池において、電解液にW元素を添加することにより高温特性を向上させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭50−132441号公報
【特許文献2】特開昭62−108458号公報
【特許文献3】特開平8−88020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記いずれの方法であっても高温環境下における充電特性は満足すべき
水準にはない。
【0012】
本発明は上記課題を解決し、高温環境下における充電特性を大幅に向上させることができ、かつ電解液の注液性が低下しないニッケル−カドミウム蓄電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のニッケル−カドミウム蓄電池は、正極活物質として水酸化ニッケルを含む正極とカドミウムを含む非焼結式負極と電解液とを有し、前記正極はY元素が添加されており、前記電解液はW元素及びNa元素を含有することを特徴とする。
【0014】
かかる構成において、本発明は、水酸化ニッケルを含む正極にY元素が添加されているため、水酸化ニッケルの結晶の層間にY元素が入り込み、結晶の層間が大きく広がった構造となる。
【0015】
また、電解液にNa元素が含有されていることにより、イオン半径の小さいNaイオンは、正極活物質の二次凝集体の表面の水酸化ニッケル結晶の層間に入り込み易く、Y元素と同時にNa元素が存在することで両者の相乗効果により、電解液に含有されているW元素は、容易に水酸化ニッケル結晶の深部にまで移動することができる。
【0016】
即ち、W元素が、容易に結晶深部にまで浸透できるということは、W元素による効果をより速く、より確実に発揮することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、高温環境下における充電特性を大幅に向上させることができ、かつ電解液の注液性が低下しないニッケル−カドミウム蓄電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のニッケル−カドミウム蓄電池の一実施の形態を以下に詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【実施例】
【0019】
(実験例1)
1.正極の作製
還元性雰囲気中で焼結して得られた多孔度約80%のニッケル焼結基板を、比重1.75の硝酸ニッケル及び硝酸コバルトの混合水溶液(ニッケルとコバルトの原子比は10:1)に浸漬し、次に、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した。
【0020】
このように硝酸ニッケル及び硝酸コバルトとの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液への浸漬を交互に繰り返し、所定の活物質を基板内に充填して、焼結式極板を得た。
【0021】
次に、2Nの硝酸イットリウム水溶液に、硝酸ニッケルを、硝酸塩の重量比が1:1となるように混合して調製した水溶液に、上記焼結式極板を浸漬した後、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、各種水酸化物層を形成させ、水洗後120℃にて30分間乾燥し、Y元素を含むニッケル正極を得た。
【0022】
2.負極の作製
予備充電活物質のカドミウム20質量部と、有機高分子糊剤を1質量部と、ナイロン繊維を1質量部と、水を30質量部と、活物質として酸化カドミウムを80質量部とを、混
練して負極活物質ペーストを作製した。
【0023】
次いで、得られた負極活物質ペーストを導電性基板の両面に塗布した後、乾燥させて活物質層を形成し、所定の寸法に切断して、非焼結式カドミウム負極を作製した。
【0024】
3.セパレータの作製
ナイロン製不織布を所定の寸法になるように切断してセパレータを作製した。
【0025】
4.アルカリ電解液の作製
アルカリ電解液の電解質として比重1.30のNaOHを用い、このアルカリ電解液に対して、W元素の量が正極活物質に対して0.4質量%となるようにNaWOを添加してアルカリ電解液を作製した。
【0026】
5.密閉型ニッケル−カドミウム蓄電池の作製
上述のようにして作製された正極と負極との間にセパレータを介在させて重ね合わせ、渦巻状に巻回して、渦巻電極体を作製した。この渦巻電極体を、鉄にニッケルメッキを施した有底円筒形の金属製外装缶内に挿入した後、負極と金属外装缶底部とを、負極リードで溶接し、電気的に接続した。
【0027】
この後、渦巻電極体の上端部に絶縁リングを挿入し、外装缶上部の外周面に溝入れ加工を施し、環状溝部を形成した。
次に、正極キャップと蓋体からなる封口体を準備し、正極と蓋体底部とを正極リードで溶接し、電気的に接続した。
【0028】
さらに、金属製外装缶内に上記電解液を注液し、封口体を絶縁ガスケットを介して外装缶の環状溝部に載置するとともに、外装缶の開口端部を封口体側にカシメて封口し、ニッケル−カドミウム蓄電池を作製した。このニッケル−カドミウム蓄電池をA1とする。
【0029】
(実験例2)
アルカリ電解液の電解質として比重1.30のNaOHを用い、このアルカリ電解液に対して、W元素の量が正極活物質に対して0.8質量%となるようにNaWOを添加してアルカリ電解液を作製する以外は、実験例1と同様にしてニッケル−カドミウム蓄電池を作製した。このニッケル−カドミウム蓄電池をA2とする。
【0030】
(実験例3)
アルカリ電解液の電解質として比重1.30のNaOHを用い、このアルカリ電解液に対して、W元素の量が正極活物質に対して2.5質量%となるようにNaWOを添加してアルカリ電解液を作製する以外は、実験例1と同様にしてニッケル−カドミウム蓄電池を作製した。このニッケル−カドミウム蓄電池をA3とする。
【0031】
(実験例4)
アルカリ電解液の電解質として比重1.30のNaOHを用い、このアルカリ電解液に対して、W元素の量が正極活物質に対して2.8質量%となるようにNaWOを添加してアルカリ電解液を作製する以外は、実験例1と同様にしてニッケル−カドミウム蓄電池を作製した。このニッケル−カドミウム蓄電池をA4とする。
【0032】
(実験例5)
還元性雰囲気中で焼結して得られた多孔度約80%のニッケル焼結基板を、比重1.75の硝酸ニッケル及び硝酸コバルトの混合水溶液(ニッケルとコバルトの原子比は10:1)に浸漬し、次に、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、このように硝酸ニッケル及び硝
酸コバルトとの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液への浸漬を交互に繰り返し、所定の活物質を基板内に充填して、焼結式極板を得ること、及び、アルカリ電解液の電解質として比重1.30のNaOHを用いる以外は、実験例1と同様にしてニッケル−カドミウム蓄電池を作製した。このニッケル−カドミウム蓄電池をA5とする。なお、電池A5の正極にはY元素は含まれていない。
【0033】
(実験例6)
アルカリ電解液の電解質として比重1.30のNaOHを用いる以外は、実験例1と同様にしてニッケル−カドミウム蓄電池を作製した。このニッケル−カドミウム蓄電池をA6とする。
【0034】
(実験例7)
アルカリ電解液の電解質として比重1.30のNaOHを用い、このアルカリ電解液に対して、W元素の量が正極活物質に対して0.8質量%となるようにNaWOを添加してアルカリ電解液を作製する以外は、実験例5と同様にしてニッケル−カドミウム蓄電池を作製した。このニッケル−カドミウム蓄電池をA7とする。
【0035】
(実験例8)
アルカリ電解液の電解質として比重1.30のKOHを用いる以外は、実験例5と同様にしてニッケル−カドミウム蓄電池を作製した。このニッケル−カドミウム蓄電池をA8とする。
【0036】
(実験例9)
アルカリ電解液の電解質として比重1.30のKOHを用い、このアルカリ電解液に対して、W元素の量が正極活物質に対して0.8質量%となるようにWOを添加してアルカリ電解液を作製する以外は、実験例1と同様にしてニッケル−カドミウム蓄電池を作製した。このニッケル−カドミウム蓄電池をA9とする。
【0037】
6.電池の評価
<高温充電特性の測定>
上記各ニッケル−カドミウム蓄電池A1〜A9をそれぞれ4セル用いて、高温充電特性を測定した。
【0038】
高温充電特性の条件は、まず、各測定電池を70℃の雰囲気下に24時間保持することにより電池内の温度を70℃とした。その後、この電池を70℃の雰囲気下で0.1It(160mA)の充電電流で16時間充電した。
次に、充電状態の電池を25℃の雰囲気下で3時間休止した後、25℃の雰囲気下で1It(1600mA)の放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電させ、放電容量を求めた。
【0039】
なお、各電池の放電容量は、4セルの平均値であり、かつ、電池A5の放電容量を100とした場合の比率で示した。
各電池の高温充電特性の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果から、正極にY元素を含まず、電解液にNa元素を含むがW元素を含まない電池A5の高温充電特性を100とすると、正極にY元素を含み、電解液にNa元素を含むがW元素を含まない電池A6の高温充電特性は110であり、微小な向上である。このことから、電解液にW元素を含まない場合、正極がY元素を含むだけでは、高温充電特性に十分な効果が得られないことが判る。
【0042】
また、正極にY元素を含まず、電解液にNa元素及びW元素を含む(0.8質量%)電池A7の高温充電特性は102である。電池A5と電池A7の結果から、正極にY元素を含まない場合、電解液にW元素を添加しただけでは、高温充電特性に十分な効果が得られないことが判る。
【0043】
さらに、正極にY元素を含まず、電解液にNa元素もW元素も含まない電池A8の高温充電特性は102である。これに対して、正極Y元素を含み、電解液にNa元素を含まず、W元素を含む電池A9の高温充電特性は86と低下している。このことから、電解液にNa元素を含まない場合、正極にY元素を含み、電解液にW元素を含んでも、高温充電特性は低下することが判る。
【0044】
これに対して、正極にY元素を含み、電解液にNa元素及びW元素を含む電池A1〜電池A4の高温充電特性は、117〜125であり、大幅に向上することが判る。
【0045】
この理由は、酸に溶解し得るY元素を、硝酸イットリウムと硝酸ニッケルの混合水溶液として焼結基板の空孔に充填、水和することで、水酸化ニッケルの結晶中に予めY元素を入り込ませ層間を広げた結晶が生成できていることによる。
【0046】
そして、アルカリに溶解し得るW元素をNaOHに溶解する形で正極活物質に接触させることで、正極活物質の二次凝集体の表面と上記理由により広がった結晶の層間内部を、W元素が移動するため、結晶深部まで浸透することができる。
【0047】
この両者の相乗効果により、正極活物質である水酸化ニッケルを高温充電時の充電受け入れ性に対して良好な状態と成し得ることができると、推測される。
【0048】
さらに、ニッケル−カドミウム蓄電池の場合、電解液にNa元素が存在すると、負極活物質はγ型の水酸化カドミウムを形成する。また、電解液にK元素が存在すると、負極活物質はβ型の水酸化カドミウムを形成することが知られている。
そして、γ型の水酸化カドミウムとβ型の水酸化カドミウムの結晶形態は、電解液中のさらなる含有元素との相性により相乗効果の発生が見られることがある。
即ち、電解液にW元素を含有するニッケル−カドミウム蓄電池においては、さらに電解液にNa元素を含有する場合、高温充電特性が顕著に向上することが、電池A2と電池A9の結果からも判る。
【0049】
なお、電解液のW元素の添加量としては、正極活物質に対して、0.4質量%以上2.8質量%以下が好ましい。
【0050】
<電解液の注液性の測定>
実験例4において、アルカリ電解液注液前の組み立て仕掛品を作製した。これを電池A10とする。この状態から、実験例4で使用したアルカリ電解液を注液してから電解液が渦巻電極体内に完全に浸透する(目視)までの時間を測定した。
【0051】
また、負極として一般に用いられる焼結式カドミウム負極を用いる以外は、実験例4と同様にして、アルカリ電解液注液前の組み立て仕掛品を作製した。これを電池A11とする。同様に、この状態から、実験例4で使用したアルカリ電解液を注液してから電解液が渦巻電極体内に完全に浸透する(目視)までの時間を測定した。
以上の結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
電解液へのW元素の添加量を増加させると、電解液の粘度が上昇し、電解液の注液性が低下する。電池A11のように負極に焼結式カドミウム負極を用いた場合、渦巻電極体上部端面に液だまりが生じ、電解液が完全に渦巻電極体内部に浸透するまでに25秒もの時間を要した。
【0054】
一方、非焼結指揮カドミウム負極を用いた電池A10は、0.5秒で電解液は完全に渦巻電極体内に浸透した。
【0055】
以上の結果から、一般に電池組立を自動ラインで生産する場合、1〜2秒以下での電解液浸透性が必要であることから、焼結式カドミウム負極を用いた場合、自動による生産には不適であり、非焼結式カドミウム負極を用いた電池のほうが適切であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明ニッケル−カドミウム蓄電池は、高温環境下における充電特性が良好で、かつ電
解液の注液性が低下しないため自動ラインによる量産性に適しており、産業上の利用可能性は大きい。