特許第6232725号(P6232725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232725
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】パワーモジュール用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/12 20060101AFI20171113BHJP
   H05K 3/26 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H01L23/12 D
   H05K3/26 A
   H05K3/26 E
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-76805(P2013-76805)
(22)【出願日】2013年4月2日
(65)【公開番号】特開2014-203880(P2014-203880A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】北原 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩和
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎介
【審査官】 梅本 章子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−041924(JP,A)
【文献】 特開2011−097049(JP,A)
【文献】 特開2002−194578(JP,A)
【文献】 特開2005−288716(JP,A)
【文献】 特開2003−060129(JP,A)
【文献】 特開平02−236289(JP,A)
【文献】 特開2005−330572(JP,A)
【文献】 特開昭58−197277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12 − 23/15
H05K 3/10 − 3/26
H05K 3/38
C23F 1/00 − 4/04
C23G 1/00 − 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に無酸素銅からなる銅板が接合され、他方の面にアルミニウム板が接合されてなるパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記銅板を前記セラミックス基板に接合した後に、前記アルミニウム板を前記セラミックス板に接合する接合工程と、接合後のパワーモジュール用基板を洗浄する洗浄工程とを有し、前記洗浄工程は、前記パワーモジュール用基板をアルカリ液に浸漬するアルカリ洗浄処理と、該アルカリ洗浄処理の後に、過酸化水素、硫酸及び安定化剤としての添加剤を含む酸液に前記パワーモジュール用基板を浸漬した状態で超音波振動を付与する酸洗浄処理を有することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記酸液は、前記過酸化水素の濃度を10g/l〜30g/l、前記硫酸の濃度を15g/l〜100g/l、前記添加剤の濃度を10g/l〜50g/lとすることを特徴とする請求項1記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記酸液の温度が30℃〜60℃であることを特徴とする請求項1又は2記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワーモジュール用基板として、セラミックス基板の一方の面に回路層となる金属板が積層され、セラミックス基板の他方の面に放熱層となる金属板が積層された構成のものが知られている。そして、この回路層上に半導体素子がはんだ付けされるとともに、放熱層にヒートシンクが接合される。
この種のパワーモジュール用基板において、回路層となる金属板に電気的特性に優れる銅を用い、放熱層となる金属板には、セラミックス基板との間の熱応力を緩和する目的でアルミニウムを用いる場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面に銅板が接合され、他方の面にはアルミニウム板が接合された回路基板が開示されている。この場合、セラミックス基板と銅板とはAg−Cu−Ti系の活性金属を用いたろう材により接合され、セラミックス基板とアルミニウム板とはAl−Si系ろう材により接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−197826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなパワーモジュール用基板において、セラミックス基板に銅板及びアルミニウム板を接合した後に、表面を洗浄することが行われる。この洗浄はエッチング液を用いて行われるが、通常の銅用エッチング液を用いて銅板をエッチングすると、表面にエッチングピットが発生するという問題がある。
アルミニウム板にもエッチングピットは生じるが、極めて微細であるため、実用上の問題はない。これに対して、銅板の場合は、前述したように、アルミニウム板よりも先にセラミックス基板に接合されるため、2回の加熱処理がなされており、この加熱が繰り返される間に結晶粒が成長し、それによりエッチングピットも大きくなるものと想定される。
この大きなエッチングピットが生じていると、その後に接合される半導体素子やボンディングワイヤに対する接合信頼性を損なうおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、銅板のエッチングピットを低減して、接合信頼性の高いパワーモジュール用基板を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に無酸素銅からなる銅板が接合され、他方の面にアルミニウム板が接合されてなるパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記銅板を前記セラミックス基板に接合した後に、前記アルミニウム板を前記セラミックス板に接合する接合工程と、接合後のパワーモジュール用基板を洗浄する洗浄工程とを有し、前記洗浄工程は、前記パワーモジュール用基板をアルカリ液に浸漬するアルカリ洗浄処理と、該アルカリ洗浄処理の後に、過酸化水素、硫酸及び安定化剤としての添加剤を含む酸液に前記パワーモジュール用基板を浸漬した状態で超音波振動を付与する酸洗浄処理を有することを特徴とする。
【0008】
この製造方法においても、銅板を接合した後にアルミニウム板を接合するので、通常の銅用エッチング液を用いた洗浄処理ではエッチングピットが大きくなるが、過酸化水素、硫酸及び安定化剤としての添加剤を含む酸液により超音波振動を付与しながら洗浄することにより、銅板表面へのエッチングピットの発生を低減することができ、凹凸の少ない平滑な表面により、接合信頼性を高めることができる。
また、酸洗浄処理の前に、アルカリ洗浄処理を行うことにより、アルミニウム板についても表面洗浄することができ、その際、アルカリ液であるので銅板の表面を反応させることはないが、銅板の表面を脱脂することができ、その後の酸洗浄処理によって前述したように平滑に表面洗浄される。
【0009】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法において、前記酸液は、前記過酸化水素の濃度を10g/l〜30g/l、前記硫酸の濃度を15g/l〜100g/l、前記添加剤の濃度を10g/l〜50g/l、とするとよい。
【0010】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法において、前記酸液の温度が30℃〜60℃であるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、銅板表面へのエッチングピットの発生を低減することができ、凹凸の少ない平滑な表面により、接合信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のパワーモジュール用基板の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図2】本発明の製造方法により製造されるパワーモジュール用基板の例を示す正面図である。
図3】接合工程において用いられる加圧治具によって積層体を加圧した状態を示す正面図である。
図4】実施例1の表面の顕微鏡写真である。
図5】比較例1の表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11の一方の面に、回路層となる銅板12が厚さ方向に積層され、セラミックス基板11の他方の面に放熱層となるアルミニウム板13が厚さ方向に積層され、これらがろう材によって接合されている。
セラミックス基板11は、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ、窒化珪素(Si)等により、例えば0.25mm〜1.0mmの厚さに形成される。また、銅板12は無酸素銅やタフピッチ銅等の純銅又は銅合金により形成され、アルミニウム板13は純度99.00%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金により形成されている。これら銅板12及びアルミニウム板13の厚さは、例えば0.25mm〜2.5mmとされる。
本実施形態のパワーモジュール用基板10の好ましい組合せ例としては、例えばセラミックス基板11が厚み0.635mmのAlN、銅板12が厚み0.3mmの純銅板、アルミニウム板13が厚み1.6mmの4N−アルミニウム板で構成される。
【0015】
これらセラミックス基板11、銅板12及びアルミニウム板13の接合材としては、セラミックス基板11と銅板12との接合には、Ag−Ti系又はAg−Cu−Ti系の活性金属ろう材、例えばAg−27.4質量%Cu−2.0質量%Tiのろう材が用いられ、セラミックス基板11とアルミニウム板13との接合には、Al−Si系又はAl−Ge系のろう材が用いられる。
【0016】
以下、これらセラミックス基板11、銅板12及びアルミニウム板13を接合してパワーモジュール用基板10を製造する方法について説明する。
<接合工程>
接合は2回に分けて行われ、セラミックス基板11の一方の面に銅板12をまず接合した後、セラミックス基板11の他方の面にアルミニウム板13を接合する。
(1)銅板接合処理
銅板12を、ペースト又は箔からなる活性金属ろう材を介在させてセラミックス基板11の一方の面に積層し、この積層体40をカーボングラファイト等からなる板状のクッションシート50の間に挟んだ状態として、複数組積み重ね、図3に示すような加圧治具110によって積層方向に例えば0.3MPa〜1.0MPaで加圧した状態とする。
【0017】
この加圧治具110は、ベース板111と、ベース板111の上面の四隅に垂直に取り付けられたガイドポスト112と、これらガイドポスト112の上端部に固定された固定板113と、これらベース板111と固定板113との間で上下移動自在にガイドポスト112に支持された押圧板114と、固定板113と押圧板114との間に設けられて押圧板114を下方に付勢するばね等の付勢手段115とを備え、ベース板111と押圧板114との間に前述の積層体40が配設される。
【0018】
そして、この加圧治具110により積層体40を加圧した状態で、加圧治具110ごと加熱炉(図示略)内に設置し、真空雰囲気中で800℃以上930℃以下の温度で1分〜60分加熱することによりセラミックス基板11と銅板12とをろう付けする。
このろう付けは、活性金属ろう材を用いた接合であり、ろう材中の活性金属であるTiがセラミックス基板11に優先的に拡散してTiNを形成し、Ag−Cu合金を介して銅板12とセラミックス基板11とを接合する。
【0019】
(2)アルミニウム板接合処理
セラミックス基板11の銅板12の接合面とは反対面にろう材を介在させた状態でアルミニウム板13を積層し、この積層体を前述したクッションシート50の間に挟んだ状態として複数組積み重ね、前述のものと同様の加圧治具110により積層方向に例えば0.3MPa〜1.0MPaで加圧した状態とする。
そして、この加圧治具110により積層体を加圧した状態で、加圧治具110ごと加熱炉(図示略)内に設置し、真空雰囲気中で630℃以上650℃以下の温度で1分〜60分加熱することによりセラミックス基板11とアルミニウム板13とをろう付けする。
【0020】
<洗浄工程>
接合工程後にパワーモジュール用基板10の表面を洗浄する洗浄工程を行う。この洗浄工程は、アルカリ液を用いたアルカリ洗浄処理と酸液を用いた酸洗浄処理、及びこれらの処理の後に行う水洗処理からなり、アルカリ洗浄の後に酸洗浄する。
(1)アルカリ洗浄処理
アルカリ洗浄処理は、主としてアルミニウム板13のための洗浄である。アルミニウム板13は酸液でも洗浄することができるが、セラミックス基板11のアルミニウム板13とは反対面に銅板12が接合されているので、この銅板12と反応しないようにアルカリ液を使用する。また、アルカリ液の方がアルミニウム板13に対する洗浄効果が高い。
洗浄液としては例えば、濃度30g/l〜250g/lの水酸化ナトリウム水溶液が好適であり、40℃〜60℃の温度で30g/l〜70g/l(より好適には53g/l)の水酸化ナトリウム水溶液にパワーモジュール用基板を1分〜10分浸漬する。
なお、このアルカリ洗浄処理は、アルミニウム板13の表面の洗浄が主目的であるが、銅板12の表面も脱脂されるという効果がある。
(2)水洗処理
アルカリ液内に所定時間浸漬したら、パワーモジュール用基板10を引き上げた後、純水等で水洗して表面のアルカリ液を除去する。
(3)酸洗浄処理
酸洗浄処理は、銅板12のための洗浄である。洗浄液としては、過酸化水素、硫酸及び安定化剤としての添加剤を含有する酸液が使用され、例えば以下の成分の水溶液が好適である。
過酸化水素の濃度:10g/l〜30g/l
硫酸の濃度:15g/l〜100g/l
添加剤:10g/l〜50g/l
添加剤としては、銅のエッチング液として一般に用いられている過酸化水素と硫酸との混合液用の安定化剤であり、例えば上村工業株式会社製「アディティブMGE−9」を好適に用いることができる。
最も好適には、過酸化水素が19.6g/l、硫酸が55g/l、添加剤が30g/lとなるように混合するとよい。
この酸液を25℃〜40℃の温度に保持し、超音波振動を付与しながらパワーモジュール用基板10を0.5分〜5分浸漬する。
超音波振動としては、特に限定されず、市販されている超音波洗浄器等を用いることができる。
(4)水洗処理
酸液にパワーモジュール用基板10を浸漬して引き上げた後、純水等で水洗して表面の酸液を除去する。
【0021】
以上のようにして製造されたパワーモジュール用基板10は、図2の鎖線で示すように、銅板12に半導体素子21がはんだ付けされるとともに、ボンディングワイヤ(図示略)により外部端子等と接続され、アルミニウム板13にはヒートシンク22がろう付け、はんだ付け、ねじ止め等により固定され、パワーモジュールとして供される。
この場合、回路層となる銅板12の表面は、前述した洗浄工程のアルカリ洗浄処理によって脱脂された後に、酸洗浄処理によってエッチングピットの発生が低減された状態で平滑な表面に仕上げられており、半導体素子やボンディングワイヤに対する接合信頼性を向上させることができる。
【実施例】
【0022】
本発明の製造方法に対する効果を確認するために実験を行った。
30mm四方のAlNからなるセラミックス基板の一方の面に無酸素銅からなる銅板をAg−27.4質量%Cu−2.0質量%Tiの活性金属ろう材を用いて860℃で30分加熱して接合した後、セラミックス基板の他方の面に4N−アルミニウム板をAl−Si系ろう材を用いて640℃で30分間加熱して接合した。
そして、このパワーモジュール用基板に洗浄工程を施した。その際、アルカリ液を用いたアルカリ洗浄処理を行い、水洗後に、表1に示す組成の酸液による洗浄処理を超音波振動を付与しながら行った。アルカリ洗浄は、50℃に保持した5質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した。酸液中に加えられる添加剤には上村工業株式会社製「アディティブMGE−9」を用いた。
超音波振動条件としては、BRANSON社製5510J−MT(周波数:4.2kHz、容量:9.5L、出力:180W)を用いた。
比較のため、添加剤を添加しなかったもの、超音波振動を付与しなかったものも試験した。
評価は、得られたパワーモジュール用基板の銅板表面におけるエッチングピットについて観察することにより行った。光学顕微鏡で20倍の倍率で観察したときの、300μm×200μmの領域を10領域観察して、直径2μm以上のエッチングピットが平均10個以上認められたものを×、5個〜9個認められたものを△、4個以下であったものを○とした。
その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
この結果から明らかなように、酸洗浄として過酸化水素、硫酸及び添加剤を含有する酸液を用いることにより、エッチングピットの発生が低減していることが確認された。特に、酸液の温度を40℃とした実施例1においては、エッチングピットを大きく低減していることが確認された。
また、図5及び図6は銅板表面の顕微鏡写真であり、図5は実施例1、図6は比較例1を示す。図6の比較例の銅板は表面に多数のエッチングピットが認められるのに対して、図5の実施例の銅板にはエッチングピットがほとんど認められず、平滑な表面に仕上げられていることがわかる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0026】
10 パワーモジュール用基板
11 セラミックス基板
12 銅板
13 アルミニウム板
21 半導体素子
22 ヒートシンク
40 積層体
50 クッションシート
110 加圧治具
図1
図2
図3
図4
図5