(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232738
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/14 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
B60C5/14 Z
B60C5/14 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-100254(P2013-100254)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2014-218218(P2014-218218A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】岡戸 良平
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 秀樹
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5143945(JP,B2)
【文献】
特開2013−060138(JP,A)
【文献】
特開2013−049424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤにおいて、左右のビードフィラートップ間の領域に位置するインナーライナーが、該領域内のインナーライナーの全表面積の40%未満の表面積の部分で、該領域中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成され、該領域中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されている部分が前記領域内の複数の箇所に配置されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記インナーライナー厚さを薄くして形成されている部分のインナーライナー厚さGfが、前記領域中の他の部分のインナーライナー厚さGsの5〜95%の厚さであることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記インナーライナー厚さを薄くして形成されている部分のインナーライナー厚さGfが、前記領域中の他の部分のインナーライナー厚さGsの20〜75%の厚さであることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記領域中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されている部分が、該インナーライナーの外縁線にかからずに形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記インナーライナーが、少なくともベルト端部とビードフィラートップの間の領域において、前記他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されてなる部分を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ベルト端部とビードフィラートップの間の領域内のインナーライナーの全表面積の30%未満の表面積の部分で、該領域中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されてなることを特徴とする請求項5記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成する加工が、レーザーを用いた加工であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
タイヤの加硫成形後に、前記他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成する加工がなされたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。
更に詳しくは、タイヤが持つバネ定数を小さくすることにより剛性を低くした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤが有するバネ特性は、乗り心地性能や接地長に関係するものでタイヤを開発する上で重要な要素である。
【0003】
しかし、これまでタイヤのバネ定数を自在に変えて製造することは容易ではなかったものであり、特にタイヤの加硫成形後にバネ定数を自在に小さくし、剛性を低くして、乗り心地性能や接地長を調整するというとはなされていなかった。
【0004】
本発明は、詳細は後述するが、空気入りタイヤのインナーライナーに局所的に薄くした部分を形成させることにより、インナーライナーを構成するフィルムの剛性を下げてタイヤが持つバネ定数を小さくするというものである。
【0005】
この本発明の構成に一見似た構造を有する発明として、インナーライナー(空気透過防止層)のひずみが大きくなる特定領域において、インナーライナーに切込みを設けることにより、隣接部材の動きに追随して動くことがないようにしてインナーライナーの耐久性を向上させるという発明が提案されている(特許文献1)。しかし、この特許文献1の提案になる発明の技術思想は、切込みを設けた箇所には別途第二のインナーライナーを配するというものであり(特許文献1の段落0019など)、タイヤのバネ定数を小さくする、剛性を低くするなどの発想は存在しておらず、むしろその部分では剛性が高くなると解されるものである。
【0006】
また、未加硫タイヤのインナーライナーの表面に、隣接部よりも厚く偏肉させた多数の突条または独立突起を形成し、ブラダーとの接触界面に空気が流れ出る隙間を確保して、エア溜まりが生ずることを防止するという提案がある(特許文献2)。しかし、この特許文献2の提案の発明の技術思想は、通常のインナーライナーの表面に突条または突起を設けるというものであり、タイヤのバネ定数、剛性という点では、小さくするというよりも、むしろ逆に大きくするものであり、本発明とは相違するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−12003号公報
【特許文献2】特開2006−35488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、タイヤが持つバネ定数を小さくすることにより剛性を低くした空気入りタイヤを提供すること、特に、タイヤを加硫成形した後においても、そのタイヤの持つバネ定数を小さくして剛性を低く調節して得ることができる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、下記(1)の構成を有する。
(1)熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤにおいて、左右のビードフィラートップ間の領域に位置するインナーライナーが、該領域内のインナーライナーの全表面積の40%未満の表面積の部分で、該領域中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成され
、該領域中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されている部分が前記領域内の複数の箇所に配置されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【0010】
かかる本発明の空気入りタイヤにおいて、以下の(2)〜(8)のいずれかの構成を有することが好ましい。
(2)前記インナーライナー厚さを薄くして形成されている部分のインナーライナー厚さGfが、前記領域中の他の部分のインナーライナー厚さGsの5〜95%の厚さであることを特徴とする上記(1)記載の空気入りタイヤ。
(3)前記インナーライナー厚さを薄くして形成されている部分のインナーライナー厚さGfが、前記領域中の他の部分のインナーライナー厚さGsの20〜75%の厚さであることを特徴とする上記(1)記載の空気入りタイヤ。
(4)前記領域中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されている部分が、該インナーライナーの外縁線にかからずに形成されていることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
(5)前記インナーライナーが、少なくともベルト端部とビードフィラートップの間の領域において、前記他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されてなる部分を有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載空気入りタイヤ。
(6)前記ベルト端部とビードフィラートップの間の領域内のインナーライナーの全表面積の30%未満の表面積の部分で、該領域中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されてなることを特徴とする上記(5)記載の空気入りタイヤ。
(7)前記他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成する加工が、レーザーを用いた加工であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
(8)タイヤの加硫成形後に、前記他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成する加工がなされたものであることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0011】
請求項1にかかる本発明の空気入りタイヤによれば、タイヤが持つバネ定数を小さくすることにより剛性を低くした空気入りタイヤを提供すること、特にタイヤを加硫成形した後においても、そのタイヤの持つバネ定数を小さくして剛性を低く調節して得ることができる空気入りタイヤを提供することができる。
【0012】
請求項2−8のいずれにかかる本発明の空気入りタイヤによれば、上述した請求項1にかかる本発明の空気入りタイヤが有する効果を、より明確かつ確実に有することができる空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明にかかる空気入りタイヤの形態例を説明する一部破砕斜視図である。
【
図2】本発明にかかる空気入りタイヤの形態例を説明するタイヤ子午線方向の断面図である。
【
図3】本発明にかかる空気入りタイヤを説明するものであり、インナーライナーの表面上に設けられるインナーライナー厚さを薄くして形成された部分の形態の各種例をモデル的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、更に詳しく本発明の空気入りタイヤについて説明する。
【0015】
本発明の空気入りタイヤは、
図1および
図2にその形態の例をモデル的に示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムをインナーライナー10に用いた空気入りタイヤTにおいて、左右のビードフィラートップ16a間の領域Zaに位置するインナーライナー10が、該領域内のインナーライナー10の全表面積の40%未満の表面積の部分17で、該領域Za中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されていることを特徴とする。
【0016】
図1、
図2において、タイヤTは、トレッド部11の左右にサイドウォール部12とビード部13を連接するように設けている。そのタイヤ内側には、タイヤの骨格たるカーカス層14が、タイヤ幅方向Eに左右のビード13、13間に跨るように設けられている。ビード13のタイヤ外周側にはビードフィラー16が配され、その最外周のポイント部分がビードフィラートップ16Zaである。
【0017】
この左右のビードフィラートップ16a間に跨る領域がZaであり、この領域Zaにおけるタイヤのバネ定数、剛性が、乗り心地性能やタイヤ接地長などの特性に影響を及ぼす。
【0018】
本発明によれば、部分的にインナーライナー10を薄くすることで該インナーライナー10を構成するフィルムの剛性を低下させ、等方性材料に異方性を持たせることができる。その結果、タイヤ全体としてのバネ定数を変化させることができる。
【0019】
また、左右のビードフィラートップ16a間の領域Zaに位置するインナーライナー10において、該領域Za内の該インナーライナー10の全表面積の40%未満の表面積の部分に限り薄くすることで、過酷な条件においてもエア漏れ防止性能には影響せずに剛性をコントロールすることが可能なものである。該領域Za内のインナーライナー10の全表面積の40%よりも大きい面積でインナーライナーを薄くしている場合には、その厚さの絶対値にもよるが、空気透過防止性能が低くなる場合があり好ましくない。
【0020】
左右のビードフィラートップ間の領域Zaにおいて、その領域Za内にあるインナーライナーの一部分の厚さを他の部分よりも薄くして形成する態様は、さまざまな態様がある。例えば、
図3で、インナーライナー厚さを薄くした部分17で示している如く、(a)に示したような斜め線を交差させた態様、(b)に示したような縦横線のような態様、(c)に示したような直線、曲線、ギザギザ曲線などでタイヤ径方向(ラジアル方向)に延びる線形の態様、(d)に示したような直線、曲線、ギザギザ曲線などでタイヤ周方向に延びる線形の態様、(e)に示したような断続的な直線が並んだ態様、(f)に示したような丸穴が並んだ態様、(g)に示したような三角形が頂点の向きを交互に変えて並んだ態様、(h)に示したような六角形のような多角形が並んだ態様など、いずれであってもよい。
【0021】
インナーライナー厚さを薄くして形成されている部分のインナーライナー厚さGfは、該領域中の他の部分のインナーライナー厚さGsの5〜95%の厚さであることが好ましい。剛性を小さくすることと、空気透過防止性能を維持することの双方をバランス良く実現するためである。5%よりも小さい厚さにしたり、貫通穴としてあけた場合は、空気透過防止性能を維持することが困難であるので好ましくない。また、95%よりも厚い場合には、厚い部分との剛性の差を出しにくく、全体としてタイヤバネ定数を小さくする効果が乏しくなり好ましくない。
【0022】
剛性を小さくすることと、空気透過防止性能を維持することの双方を最もバランス良く得る上で、好ましくは、インナーライナー厚さを薄くして形成されている部分のインナーライナー厚さGfが、該領域中の他の部分のインナーライナー厚さGsの20〜75%の範囲であることが好ましい。厚さの絶対値としては、インナーライナーとしての空気透過防止性能を維持するため、50〜250μmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、60〜200μmの範囲にあることである。
【0023】
また、領域Za中の他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されている部分17は、インナーライナー10の外縁線上にかからずに形成されていることが好ましい。インナーライナー10の外縁線上にかかってインナーライナー厚さに大小変化がある場合には、その周辺箇所がクラックや剥がれの発生の起点となる場合があり好ましくない。
【0024】
また、他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成されてなる部分は、
図2で示しているように、少なくとも左右それぞれのベルト端部15eとビードフィラートップ16aの間の領域Zbにおいて存在していることが本発明の効果を顕著に得る上で好ましい。ベルト下部分は、本来剛性が非常に高く、その部分でインナーライナーを局所的に薄くしたとしてもタイヤの剛性変化が現れにくい点があり、ベルト端部15eとビードフィラートップ16aの間の領域Zbにおいてインナーライナーを局所的に薄くすることが最も効果的だからである。その場合、ベルト端部15eとビードフィラートップ16aの間の領域Zb内のインナーライナーの全表面積を
基準として、その30%未満の表面積の部分で、他の部分よりもインナーライナー厚さを薄くして形成することが好ましい。領域Zbは、上述したようなタイヤの剛性変化が現れやすい箇所であり、その領域部分を基準にすることがより高い効果を得ることに繋がるからである。
【0025】
他の部分よりもインナーライナー厚さを薄く形成する加工は、タイヤの加硫成形後にレーザーを用いて行う加工であることが比較的簡単であるので好ましい。特に、レーザーを用いた加工は、タイヤの加硫成形後に他の部分よりもインナーライナー厚さを薄く形成する加工をするのに好都合であり、同一のタイヤでも個々のタイヤごとにタイヤバネ定数を設定するなどのときに好都合なものである。
【0026】
具体的には、例えば、インナーライナーをなしているフィルムの所定面(タイヤ内腔側の面)に対して、レーザー加工をタイヤ幅方向に行うことなどにより行うことができる。すなわち、薄い部分の形成は、例えば、インナーライナーの表面(フィルムシート面)に対して、その垂直方向からレーザー光を照射しながら該フィルムシート材の面方向に移動させていく加工法などにより行うことができ、このレーザー光を用いた加工は、非接触方式であることから好ましいものである。
【0027】
レーザー光の照射は、移動させながら連続的に行ってもよく、あるいは移動させながら間歇的に行ってもよい。特に、レーザー光照射の移動速度と強さを調整することにより、形成される薄くする部分の深さ(インナーライナーの厚さ)を調整することができるので、レーザー光を照射する加工方法は最も適している。レーザー光は、赤外線レーザー、あるいはCO
2 (炭酸ガス)レーザーを用いることが好ましく、中でもCO
2 (炭酸ガス)レーザーを用いることが加工性の良さ、制御性などの点で好ましい。YAGレーザーはインナーライナーを形成するフィルムシート材の素材にもよると思われるが、加工性、制御性の上で上記のものよりは劣ることが多い。
【0028】
レーザー光を使用して薄い部分の形成加工をする際、被加工領域(薄く加工する領域)の全面積を隙間なく加工することは必ずしも必要ではなく、該被加工領域のほぼ全域に対して「線描」のように、一部の隙間を残しながら全域に加工処理するようにしてもよい。該線描のようにしてレーザー光を使用して、ある程度の面積を持つ領域に薄い部分を形成する場合、レーザー光による加工の被処理幅(線幅)は、0.2〜1mm程度とすることが好ましい。
【0029】
本発明で用いることのできる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物、例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体(ETFE)〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。
【0030】
また、本発明で使用できる熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂とエラストマーは、熱可塑性樹脂については上述のものを使用できる。エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、CI−IIR、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ボリアミド系エラストマー〕等を好ましく使用することができる。
【0031】
また、前記した特定の熱可塑性樹脂と前記した特定のエラストマーとの組合せでブレンドをするに際して、相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。ブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマーとの界面張力が低下し、その結果、分散相を形成しているエラストマーの粒子径が微細になることから両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂及びエラストマーの両方又は片方の構造を有する共重合体、あるいは熱可塑性樹脂又はエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらはブレンドされる熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)およびそのマレイン酸変性物、EPDM、EPM、EPDM/スチレンまたはEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定されないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーとの合計)100重量部に対して、0.5〜10重量部がよい。
【0032】
熱可塑性樹脂とエラストマーがブレンドされた熱可塑性樹脂組成物において、特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとるように適宜決めればよく、好ましい範囲は重量比90/10〜30/70である。
【0033】
本発明において、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物には、インナーライナーとしての必要特性を損なわない範囲で相溶化剤などの他のポリマーを混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性を改良するため、材料の成型加工性をよくするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等があり、これに用いられる材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。
【0034】
また、エラストマーは、熱可塑性樹脂との混合の際に、動的に加硫することもできる。動的に加硫する場合の加硫剤、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)などは添加するエラストマーの組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0035】
また、一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等をインナーライナーとしての必要特性を損なわない限り任意に配合することもできる。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、インナーライナーに十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果に、より十分な剛性を併せ付与することができると共に、エラストマーの多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができるものである。
【0036】
本発明で使用できる熱可塑性樹脂、エラストマーのヤング率は、特に限定されるものではないが、いずれも、好ましくは1〜500MPa、より好ましくは50〜500MPaにするとよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて、本発明の空気入りタイヤの具体的構成、効果について説明する。
【0038】
実施例1〜
5、比較例1
、参考例1
試験タイヤとして、195/65R15を用い、実施例1〜
5、比較例1
、参考例1ごとに各5本を作製し、これを以下の試験法により評価をした。
【0039】
(1)空気漏れ試験法(圧力低下率)
初期圧力200kPa、室温21℃、無負荷条件にて3ヶ月放置する。内圧の測定間隔は4日毎とし、測定圧力P1、初期圧力P0、経過日数tとして次の式に回帰してα値を求める。
(P1/P0)=exp(−αt)
【0040】
得られたαを用い、t=30(日)を代入し、1ヶ月当たりの圧力低下率β(%/月)=(1−exp(−αt))×100を求め、比較例1を100とする指数で表した。この値が大きいほど、空気漏れが少なく優れることを示す。
【0041】
(2)乗り心地試験
空気入りタイヤをリムサイズ15×6JJのリムに装着し、空気圧を230kPaにして国産2リットルクラスの試験車両に取り付け、訓練された5名のテストドライバーがテストコースを周回するときの乗り心地性のフィーリングを評点し、その平均地により評価した。得られた結果を、比較例1を100とする指数で表した。この指数値が大きいほど乗り心地性が優れることを示す。
【0042】
実施例1〜
5、比較例1
、参考例1のいずれも、インナーライナーを構成する熱可塑性樹脂組成物は、表1に示したとおりの組成のものであり、厚さ200μmのフィルムである。
【0043】
実施例1〜
5、比較例1
、参考例1の詳細は表2に記載したとおりであり、評価結果も表2に記載した。
【0044】
本発明にかかる空気入りタイヤは、乗り心地性能に優れ、また耐エア漏れ性能においても優れているものであった。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【符号の説明】
【0047】
10:インナーライナー層
11:トレッド部
12:サイドウォール部
13:ビード
14:カーカス層
15:ベルト層
15e:ベルト端部
16:ビードフィラー
16a:ビードフィラートップ
17:インナーライナー厚さを薄くした部分
T:タイヤ
X:タイヤ周方向
E:タイヤ周方向
Za:左右のビードフィラートップ間の領域
Zb:ベルト端部15eとビードフィラートップ16aの間の領域