(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0034】
1.本実施形態の手法
まず本実施形態の手法について説明する。近年、社会的な健康志向の高まりにより、健康維持増進のためのサービス等が広く提供されるようになってきた。例えば、肥満に関してメタボリックシンドロームという用語が広く知られたことで、体重や腹囲の値を定期的に測定するユーザーは多い。しかし、測定値だけを取得したとしても、医療の専門家でないユーザーにとっては、当該測定値の変動等を生活習慣等へ適切に反映させることは困難である。理想的には、医師等の専門家によるアドバイスを受けるとよいが、多くの被験者を担当することになる専門家の負担や、コスト等の問題を考慮すれば、アドバイス情報の生成をある程度自動化するシステムに対する要求は大きい。
【0035】
また、体重等の変動には運動や食事等、種々の要因が考えられる。よって、ユーザーの運動状態や食事の状況を取得することは、適切なアドバイス情報を生成する上で重要なことである。運動状態等については、ユーザーにセンサーを装着させることで、当該センサーからのセンサー情報に基づく分析が可能になる。例えば、加速度センサー等により歩数計(広義には活動量計)を実現すれば、歩数等の情報からユーザーの運動量を推定することが可能である。
【0036】
これらを考慮した従来手法として、特許文献1にエネルギー増減量に基づくアドバイス生成手法が開示されている。特許文献1では、運動等による消費エネルギー量と、食事等による摂取エネルギー量を何らかの手法により取得し、その両方を用いてエネルギー増減量を求める。そして、エネルギー増減量と体重変動とを関係づける計算ロジックに基づいて、アドバイス情報を生成する。
【0037】
特許文献1でのアドバイス情報とは例えば、「エネルギー増減量を1日xkcal減にすると、yヶ月後に体重がzkgになるでしょう」といったものである。上記アドバイスを受けたユーザーが、当該エネルギー量の減少を運動により実現しようとした場合、運動負荷をどの程度にしたらよいかを知ることは容易でない。
【0038】
具体的には、xkcalのエネルギー消費が、どのような負荷の運動をどの程度の時間行うことで実現されるかが不明であるため、何らかの情報を参照する必要がある。また、同程度のエネルギー消費は、高負荷の運動であれば短時間で実現されるし、低負荷の運動であれば高負荷の運動に比べて長時間継続する必要があるところ、特許文献1の手法ではエネルギー増減量しかアドバイスしない。つまり、運動負荷をどの程度にするかはユーザーの判断に委ねられるため、過度に負荷の高い運動を行ってしまうことでケガや体調不良を引き起こす可能性がある。また、運動の負荷によって脂肪燃焼の効率が異なることが知られているところ、脂肪燃焼にとって非効率的な負荷の運動を行ってしまう可能性があり、その場合ユーザーの努力に対して十分な健康維持増進効果が得られない。さらには、高負荷の運動を行うものとしてしまったユーザーや、運動をしているつもりなのに効率的に体重が減少しないユーザー等は、サービス利用に対するモチベーションが低下する可能性が高い。結果として継続的なサービス利用が行われず、健康維持増進というサービスの目的を達成することが困難となる。
【0039】
そこで本出願人は、ゾーン滞在時間(広義には滞在時間情報)に基づいてアドバイス情報を生成する手法を提案する。ここでゾーン滞在時間はユーザーの脈波情報から求められるものである。例えば、脈波情報として脈拍数を取得する場合には、当該脈拍数の所与の数値範囲を脂肪燃焼ゾーンとし、ユーザーの脈拍数が当該脂肪燃焼ゾーン内にある時間をゾーン滞在時間とすればよい。脈拍数の値はユーザーの運動状態と相関があり、一般的に運動負荷が高いほど脈拍数は高くなる。つまりアドバイス情報としてゾーン滞在時間の目安値を提示することを考えれば、脂肪燃焼ゾーンを越える脈拍数となるような高負荷の運動が行われることを抑止できる。また、脂肪燃焼ゾーンとして、その名称の通り脂肪燃焼にとって効率的な数値範囲を設定しておけば、所定のゾーン滞在時間を実現することは、脂肪燃焼を効率的に実行できる運動を所定時間実行することに対応するため、上記課題に対応可能となる。
【0040】
また、脂肪燃焼ゾーンの数値範囲とともに現在の脈拍数を表示する、或いは現在の脈拍数が脂肪燃焼ゾーンの下限を下回るか、ゾーン内か、ゾーンの上限を上回るかの情報をアイコン等で表示する、といった手法を用いれば、ユーザーは当該表示を見て運動の負荷を容易に調整可能である。具体的には、脈拍数がゾーンに対して低ければ走るペースを上げる等の対応を行って運動負荷を上げればよいし、脈拍数がゾーンに対して高ければ運動負荷を下げればよい。つまり脂肪燃焼ゾーン及びゾーン滞在時間という考えを用いることで、何kcalの運動をしてください、といった指示を行う場合に比べて、ユーザーによる調整が容易である。
【0041】
以下、滞在時間情報に基づくアドバイス情報を生成する情報処理システム等のシステム構成例を説明した後、滞在時間情報がアドバイス情報の生成において適切な指標値であることを図を用いて説明し、且つ滞在時間情報と体重変動の関係式を定める。その上で、当該関係式を用いた具体的なアドバイス情報生成処理について説明する。
【0042】
2.システム構成例
図1に本実施形態の手法におけるデータフローの一例を示す。
図1における被験者は健康維持増進を目的としたアドバイスを受けるユーザーを表し、メンターは当該被験者の相談役となり被験者に対して適切なアドバイスを与える役割を担う。本実施形態の手法は、情報処理システムにより生成されたアドバイス情報を被験者が直接参照する形態とすることを妨げないが、
図1の例ではアドバイス情報はまずメンターに対して出力され、当該アドバイス情報を基礎としてメンターが各被験者に対してアドバイスを行う形態を想定したものである。
【0043】
図1に示したように、プラットフォーム10は、運用管理サービス11と、脈拍機器接続インターフェース12と、プラットフォーム本体13と、共通データベース14と、アドバイスエンジン15と、予測エンジン16とを含む。例えばプラットフォーム10の全体が本実施形態の情報処理システムに対応することになる。
【0044】
運用管理サービス11は、プラットフォーム10と被験者或いはメンターとのインターフェースとなるものであり、被験者からの脈波情報や、食事に関する情報、身体情報、目標情報等を受け付ける。また、メンターからは特定の被験者のデータや具体的なアドバイス情報の要求を受け付け、当該要求に対して情報を返答する。
【0045】
脈拍機器接続インターフェース12は、被験者により装着される脈拍機器(狭義には脈拍計)を接続するインターフェースである。脈波情報は脈拍機器接続インターフェース12に接続された脈拍機器から取得してもよい。ただし、プラットフォーム10がサーバーシステムとして実現される場合のように、機器を直接接続しない形態も十分考えられる。また、脈拍機器接続インターフェース12と運用管理サービス11を一体として構成するものとしてもよいし、脈拍機器接続インターフェース12はユーザー(被験者やメンター)側に設けられてもよい。
【0046】
プラットフォーム本体13は、プラットフォーム10の他の各部と接続され、情報の取得や出力、情報管理、或いは所与の処理を要求し、当該要求に対する返答の取得等を行う。
【0047】
共通データベース14は、
図1に示したように、ユーザーの性別、年齢、身長等の個別情報や、脈波情報、身体情報、目標情報を含めた種々の情報を記憶する。
【0048】
アドバイスエンジン15は、特定ユーザーに対するアドバイスを要求された場合に、アドバイス情報を生成する。なお、アドバイスエンジンにおける処理では、現時点で得られている情報をそのまま用いるだけでなく、当該情報から推定される未来の予測情報も用いられる。予測エンジン16は、現時点での情報を取得し、予測情報を返答として返す処理を行う。或いは、
図1に示したように予測情報に基づくアドバイス情報については、予測エンジン16において作成するものとしてもよい。その場合、アドバイスエンジン15は、予測情報を用いないアドバイス情報、すなわち実測値等に基づくアドバイス情報を生成し、予測情報を用いたアドバイス情報については予測エンジン16から取得することになる。
【0049】
図1の例では、まず被験者は運用管理サービス11をインターフェースとして、定期的に脈波情報等の情報をプラットフォーム10に対して送信する。そして被験者XXXを担当するメンターが当該被験者XXXに対してアドバイスを与える必要が生じた場合に、メンターは運用管理サービス11をインターフェースとして、XXXに対するアドバイスをプラットフォーム10に対して要求する。
【0050】
プラットフォーム本体13は、メンターからの要求を受け付け、アドバイスエンジン15に対してXXXに対するアドバイス情報を要求する。アドバイスエンジン15は、XXXに対するアドバイス情報を生成するために、共通データベース14からXXXに関するデータを取得する。それとともに、予測エンジン16に対して、取得したXXXのデータを送信する。予測エンジン16は、XXXのデータに基づいて予測処理を行い、その結果である予測情報をアドバイスエンジン15に対して返す。予測処理の詳細は後述するが、例えば下式(5)を用いた処理等である。
【0051】
アドバイスエンジン15は、XXXのデータと、予測エンジン16により返された予測情報とに基づいてアドバイス情報を生成し、生成されたアドバイス情報がプラットフォーム本体13及び運用管理サービス11を介してメンターに送信される。
【0052】
メンターはアドバイス要求の返答として返されたアドバイス情報に基づいて、被験者に対してアドバイスを行う。なお、アドバイス情報をどのように実際のアドバイスに用いるかはメンターの裁量によるが、本実施形態ではゾーン滞在時間を用いた適切なアドバイス情報の生成を行うため、メンターによる修正作業等は大きくないことが期待される。よって、メンターのアドバイスに要する労力を削減したり、メンターの習熟度に応じたメンター間でのアドバイスのブレ等を抑制することが可能である。
【0053】
次に、
図2を用いて情報処理システムの構成例を説明する。
図2に示したように、情報処理システム100は、情報取得部110と、処理部120と、出力処理部130を含む。ただし、情報処理システムは
図2の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。また、種々の変形実施が可能な点は、
図3等においても同様である。
【0054】
情報取得部110は、種々の情報の取得処理を行う。ここで種々の情報とは、脈拍数の値が脂肪燃焼ゾーン内の値となる時間を表す滞在時間情報や、ユーザーの体重或いは体脂肪量等に関する身体情報、ユーザーの減量に関する目標情報等である。なお、
図3や
図4を用いて後述するように、本実施形態の情報処理システムは種々の形態により実現可能である。よって情報の取得処理の具体的な内容も実施形態により異なってもよい。情報取得部110での取得処理は、例えば
図3に示すようにネットワーク等を介した受信処理であってもよいし、
図4の操作部353として示すように、インターフェースを介した情報入力の受け付け処理であってもよい。
【0055】
処理部120は、情報取得部110が取得した情報と、関係式に基づいて、アドバイス情報を生成する。ここでの関係式とは、ゾーン滞在時間と体重変動(或いは体脂肪量の変動)を対応づける式であり、詳細については後述する。また、アドバイス情報の具体例についても詳細は後述する。
【0056】
出力処理部130は、処理部120で生成されたアドバイス情報の出力処理を行う。情報取得部110の取得処理と同様に、出力処理部130での出力処理についても種々の形態により実現可能である。例えば、
図3に示すようにネットワーク等を介した送信処理であってもよいし、
図4の表示制御部370として示すように、表示部380における表示制御を行う処理であってもよい。
【0057】
次に
図3及び
図4を用いて、情報処理システムの具体的な実現例について説明する。なお、情報処理システムの実現例は
図3や
図4に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【0058】
図3は情報処理システム100がサーバーシステム400として実現される例である。
図3の例では被験者は脈拍計200を装着するとともに、スマートフォン300を携帯する。脈拍計200に含まれる脈波センサー210は、脈波情報をスマートフォン300の受信部310に対して送信する。また、スマートフォン300の操作部330は、被験者による身体情報や目標情報の入力を受け付ける。そして、スマートフォン300の送信部320は、脈波情報、身体情報、目標情報等をサーバーシステム400に対して送信する。
【0059】
サーバーシステム400の受信部410は、送信された脈波情報等を受信する。そして、処理部420は、受信部410が受信した情報に対して処理を行ってアドバイス情報を生成する。生成したアドバイス情報は、サーバーシステム400の送信部430からスマートフォン300に対して送信され、スマートフォン300の表示部340に表示される。
【0060】
つまり
図3の例では、受信部410が情報取得部110に対応し、処理部420が処理部120に対応し、送信部430が出力処理部130に対応することになる。なお、
図3においてスマートフォン300が被験者により携帯されるものとすると、アドバイス情報はメンターを介さずに被験者に提供されることになるため、その点で
図1の実施例とは異なるものとなる。
【0061】
また、
図4は情報処理システム100がスマートフォン300として実現される例である。
図4の例では被験者は脈拍計200を装着するとともに、スマートフォン300を携帯する。脈拍計200に含まれる脈波センサー210は、脈波情報をスマートフォン300の情報取得部350に含まれる受信部351に対して送信する。また、スマートフォン300の情報取得部350に含まれる操作部353は、被験者による身体情報や目標情報の入力を受け付ける。
【0062】
処理部360は、情報取得部350が取得した情報に対して処理を行ってアドバイス情報を生成する。表示制御部370はアドバイス情報の表示制御を行い、表示部380は表示制御部370の制御に従ってアドバイス情報を表示する。
【0063】
つまり
図4の例では、受信部351及び操作部353を含む情報取得部350が
図2の情報取得部110に対応し、処理部360が処理部120に対応し、表示制御部370が出力処理部130に対応することになる。
【0064】
なお、以上の説明では脈拍計200からの出力は脈波情報であるものとしていた。この場合、当該脈波情報に基づいて滞在時間情報を求める処理は、スマートフォン300やサーバーシステム400のうち情報取得部110に対応するブロックで行うこと等が考えられる。しかし本実施形態ではこのような構成に限定されず、脈拍計200において滞在時間情報の演算処理を行ってもよい。その場合、脈拍計200のファームウェア等において、脈波センサー210からの脈波情報に基づいて滞在時間情報を求め、求めた滞在時間情報をスマートフォン300等に出力することになる。
【0065】
3.ゾーン滞在時間と体重変動の関係式
上述したように本実施形態では脈拍数等の値が脂肪燃焼ゾーンにある時間であるゾーン滞在時間に基づいてアドバイス情報を作成する。具体的には、体重変動或いは体脂肪量変動と、ゾーン滞在時間とを関連づける関係式を求め、当該関係式を用いてアドバイス情報を作成する。以下、
図5等を用いて関係式を導出するとともに、当該関係式に妥当性があることを説明する。
【0066】
図5はゾーン滞在時間の累計値と、脂肪燃焼量の累計値の関係を示した図である。具体的には、横軸にゾーン滞在時間の累計値をとり、縦軸に脂肪燃焼量の累計値をとって、ユーザーデータから得られた実測値をプロットした図である。
【0067】
図5から明らかなように、ゾーン滞在時間の累計値と脂肪燃焼量の累計値とは高い相関を示すことがわかる。
図5に示したようにプロットされた点は回帰直線の周辺に分布しており、また求められる相関係数も1に近い値となっている。
【0068】
つまり、実測値を用いた
図5の分析から、ゾーン滞在時間と脂肪燃焼量には高い相関があることがわかる。また、
図5ではユーザーの年齢、性別、体重等による補正処理は行っていないため、それらの要因によりばらつきが生じているが、そのようなばらつき要因を含めても十分相関は高い。結果として例えば「脈拍数が脂肪燃焼ゾーン内の値となるようにx時間運動すれば、最大ykgの体脂肪を減少させることができる」という予測を行うことができ、この際には年齢、性別、体重等を考慮する必要はない。一例としては、
図5に矢印で示したように脈拍数がゾーン内となる運動を500時間(=30000分)行えば、最大24kgの体脂肪を減少させることができる、という予測を種々の年齢、性別、体重であるユーザーに対して行うことができる。
【0069】
ただし、
図5の縦軸の値については消費カロリーが全て脂肪燃焼に用いられるという仮定、脂肪の燃焼量と実際の体脂肪の減少量が等しいという仮定に基づいている。しかし実際には、全消費カロリーのうち脂肪燃焼に用いられるエネルギーは一部であることが知られているし、食事等による摂取カロリーを考慮すれば脂肪燃焼量=体脂肪の減少量とならない場合も大いに考えられる。つまり上記予測を正確に表記すれば、脈拍数が脂肪燃焼ゾーン内の値となるようにx時間運動すれば、「理想的には」最大ykgの体脂肪を減少させることができる、となる。
【0070】
本実施形態では、アドバイス情報とは具体的には減量に関する情報であるため、理想的な脂肪燃焼量ではなく、現実に沿った体重或いは体脂肪量の減少量に基づく必要がある。つまり、ゾーン滞在時間と体重或いは体脂肪量の減少量との関係を導きたいところ、
図5に示した分析だけではまだ不十分である。
【0071】
次に
図6に単位時間当たりのゾーン滞在時間の割合(以下、ゾーン滞在割合とも表記)と、単位時間当たりの脂肪燃焼量の関係を示す。横軸は、例えば1時間の間でのゾーン滞在時間の長さをパーセント表示したものである。さらに具体的には、1時間の間で常に(60分)脈拍数が脂肪燃焼ゾーン内の値となれば100%となり、30分間脂肪燃焼ゾーン内であって残り30分が脂肪燃焼ゾーン外であれば50%となるような値である。
【0072】
このように横軸をとると、脈拍計の装着状況や、運動に対する取り組み状況に応じてグラフ中での分布位置が異なるものとなる。例えば、横軸の値が100%に近いユーザーとは、運動を行う状況、つまり脈拍数が平常値よりも高くなって脂肪燃焼ゾーン内の値となる状況のときだけ脈拍数を装着し、且つ精力的に運動に取り組むユーザーである。一方、横軸の値が0%に近いユーザーとは、運動時以外においても脈拍計を装着するユーザーであったり、運動状態のみで脈拍計を装着するが、精力的に運動に取り組まない等、運動負荷が十分でないユーザーである。つまり、横軸の値を見ることで、ユーザー毎の脈拍計の装着状況や運動状況等を知ることができる。
【0073】
つまり
図6を用いた分析により、
図5のようにゾーン滞在時間の累計値だけでなく、ゾーン滞在割合についても、脂肪燃焼量と高い相関があることがわかる。言い換えれば、各ユーザーの脈拍計の装着状況や運動状況によらず、ゾーン滞在割合を指標値として用いることが可能であることがわかる。また、ゾーン滞在割合を指標値とすることで、上述したように各ユーザーの脈拍計の装着状況や運動状況を推定することができるため、当該状況に対応したアドバイス情報を生成することも可能である。
【0074】
ただし、
図6についても縦軸は脂肪燃焼量であるため、
図5と同様に実際の体脂肪減少量との関係をさらに検討しなくては、ゾーン滞在割合に基づいて体脂肪の減少量を決定することができる、と結論づけることはできない。
【0075】
次に
図7にゾーン滞在割合と単位時間当たりの脂肪燃焼量の関係、及びゾーン滞在割合と単位時間当たりの体脂肪の減少量の関係を示す。ゾーン滞在割合と単位時間当たりの脂肪燃焼量については
図6に示したものと同様であり、高い相関を持つことがわかる。
【0076】
ゾーン滞在割合と単位時間当たりの体脂肪の減少量については、摂取カロリーが考慮されていないことから非常にばらつきが大きく、相関係数についても小さい値となる。しかしながら、統計的に求められる危険率は0.3%であり、弱いとはいえゾーン滞在割合と体脂肪の減少量との相関を棄却できるものではない。つまり、ゾーン滞在割合と単位時間当たりの体脂肪の減少量との関係だけを考慮しても、その間には棄却できないだけの相関があるという分析結果が得られる。
【0077】
また、ゾーン滞在割合と単位時間当たりの脂肪燃焼量の分布から求められる回帰線(A1)と、ゾーン滞在割合と単位時間当たりの体脂肪の減少量の分布から求められる回帰線(A2)との両方を用いた分析も可能である。上述したように、ゾーン滞在割合と脂肪燃焼量には高い相関があることから、回帰線A1についての信頼性は高い。また、回帰線A2を実測値から求めると、その傾きがA1の傾きの約1/2となることがわかった。ここで、一般的に消費カロリーの1/2程度が脂肪燃焼に用いられるという理論が広く知られている。
図7で縦軸の1つとしている脂肪燃焼量は、上述したように消費カロリーを全て脂肪燃焼に用いたと仮定した場合の値であるから、脂肪燃焼に用いられる消費カロリーが全カロリーの1/2程度とすれば、実際に燃焼する脂肪、すなわち体脂肪の減少量は
図6の脂肪燃焼量の1/2となるはずである。つまり、A1が理想的な脂肪燃焼量(全消費カロリーに対応)の回帰線である点、理論的には体脂肪の減少量はA1の1/2となることが知られている点、実測の体脂肪の減少量から求められた回帰線A2の傾きがA1の傾きの1/2になった点、を考慮すれば、A2は体脂肪の減少量を表す関係式として理論に合致したものであるという結論を導くことができる。
【0078】
つまり、
図7を用いた分析により、回帰線A2は、ゾーン滞在割合と体脂肪の減少量の関係を表すものとして適切であるという結果を得ることができる。なお、
図5と
図6の両方で高い相関が得られていることを考慮すれば、ゾーン滞在時間と体脂肪の減少量について回帰線を求めれば、当該回帰線はゾーン滞在時間と体脂肪の減少量の関係を決定する適切な関係式であるいうことが可能である。
【0079】
以上のことにより、体脂肪の減少量(広義には変動量)をWとし、ゾーン滞在時間をT_zoneとし、回帰線により決定される係数(例えば傾きにより決定される値)をKfatとすれば、その間の関係は下式(1)により決定される。
【0080】
T_zone×Kfat=W ・・・・・(1)
次に、体脂肪の減少量と体重の減少量の関係を
図8に示す。具体的には、
図8の横軸が体脂肪の減少量、縦軸が体重の減少量であり、ユーザーから取得された実測値をプロットしたものである。ここで、
図8に示した回帰線の傾きはほぼ1となった。つまり、
図8を用いた分析により、体脂肪の減少量と体重の減少量は同視してもよいという結論が得られる。
【0081】
体重の値については、広く用いられている体重計により測定可能であり、且つ誤差がさほど大きくないことが知られているのに対して、体脂肪については体脂肪計としての機能を有する体重計等を用いなくてはそもそも測定ができないし、体脂肪量(或いは体脂肪率)を測定可能であっても体重の測定値に比べて誤差が大きい。つまり、ユーザーの体脂肪に関する情報は、未入力であったり不正確な入力である可能性も高い。つまり、
図5〜
図7や上式(1)では体脂肪に限定して説明を行っていたが、
図8による分析結果も考慮すれば、体脂肪を体重に置き換えて考えてもよい。具体的には、上式(1)においてWを体重の変動量として取り扱って予測処理を行うことが可能である。
【0082】
4.関係式を用いた処理の具体例
次に、上式(1)として示した関係式を実際に用いてアドバイス情報を生成する手法について説明する。具体的には、アドバイス期間開始時の処理と、アドバイス期間中の所与のタイミングであるアドバイスタイミングでの処理について説明する。
【0083】
ここでのアドバイス期間とは、ユーザー(被験者)が本実施形態の情報処理システムを用いたサービスの提供を受ける期間に対応する。例えば、アドバイス期間の始点はサービスに申し込んだタイミングであってもよいし、実際に脈波情報等の送信を開始したタイミングであってもよい。また、アドバイス期間の終点は、サービス申込時にサービス利用期間を設定する場合には、アドバイス期間の始点から当該利用期間だけ経過したタイミングであってもよい。また、アドバイス期間の終点は、ユーザーからの申請等に応じて適宜変更されてもよい。
【0084】
また、アドバイス期間の始点をサービスの利用開始から決定するのではなく、データの分析開始時点から決定してもよい。例えば、あるユーザーが6ヶ月の期間でサービス利用を申し込んだが、最初の3ヶ月は事情により運動を行う時間をとれなかったとする。その場合、残りの3ヶ月で十分な運動を行ったとしても、前半3ヶ月のデータが要因となって、全体としては運動が不足しているとの判定が行われかねない。その場合、サービス利用開始から3ヶ月経過時点をアドバイス期間の始点として再設定することで対応してもよい。
【0085】
ただし、同様のケースにおいて、アドバイス期間を再設定するのではなく、あくまでアドバイス期間はサービス利用開始時にスタートしており、当該アドバイス期間の中に2つのデータ集計期間(0ヶ月〜3ヶ月と、3ヶ月〜6ヶ月)があると考えてもよい。つまり、本実施形態のアドバイス期間とは、サービス利用開始に基づいて設定される場合と、データ集計期間に基づいて設定される場合の両方を含む概念である。なお、以下の説明においては、サービス利用開始に基づくアドバイス期間を例にとって説明を行うものとする。
【0086】
4.1 アドバイス期間開始時の処理(目標設定処理)
まずアドバイス期間開始時に行われる目標設定処理について説明する。具体的には、被験者或いはメンターから身体情報と目標情報の入力を受け付け、当該目標情報を実現するために必要とされる滞在時間情報を求める処理である。なお、滞在時間情報はゾーン滞在時間の累計値であってもよいし、ゾーン滞在割合であってもよいが、ここでは1日当たりのゾーン滞在時間であるものとして説明する。また、体重と体脂肪のいずれを用いてもよいことは上述したが、以下の説明では体重を例にとる。
【0087】
身体情報としては、ユーザーの現在の体重W
ini(体重の現在値)を取得し、目標情報としては、ユーザーの目標とする体重W
target(体重の目標値)と、当該体重を実現するための期間である目標期間T
target(日)を取得する。
【0088】
この場合、T_zoneを1日当たりのゾーン滞在時間とすれば、上式(1)は下式(2)のように変形することができ、結果としてT_zoneは下式(3)で求められる。なお、下式(2)、(3)では体重の減少量を正の値としているため、右辺は体重の現在値から目標値を引くものとしている。
【0089】
T_zone×T
target×Kfat=W
ini−W
target ・・・・・(2)
T_zone=(W
ini−W
target)/(T
target×Kfat) ・・・・・(3)
ここで、上式(3)の右辺のうち、W
ini,W
target,T
targetについては情報取得部110で取得されており、Kfatについては上述したように
図7等の統計から求められている。つまり、取得した情報を上式(3)に当てはめることで、目標期間で目標体重を実現するために要求される1日当たりのゾーン滞在時間をT_zoneとして求めることができる。
【0090】
アドバイス期間開始時のアドバイス情報としては、
図9(A)に示した表示画面例のように「1日当たりのゾーン滞在時間をT_zoneとすることで、T
target後に体重をW
targetとすることができます」といった情報を提示すればよい。
【0091】
なお、T_zoneを求めた上で、求められたT_zoneの値が不合理である場合には、目標情報の再設定を被験者等に指示してもよい。例えば、1日当たりのゾーン滞在時間であるT_zoneが24時間を超える値となる場合には、そのような運動はどうやっても不可能である。また、数値的には不可能ではないとしても、1日のゾーン滞在時間が5時間程度になってしまうと、それだけの時間を運動に費やせるユーザーは多くなく、現実的であるとは言えない。これは、目標とする体重が現在の体重とかけ離れている、或いは目標期間が短い、或いはその両方が要因となる。つまり、短期間で急激な体重変動を目標としてしまったために、現実的には困難な運動量をアドバイスしてしまうことになる。
【0092】
よって本実施形態では、求められたT_zoneを判定して、合理的な値でない場合には目標情報の変更を指示し、修正後の目標情報で再度T_zoneを計算するという一連の処理を、T_zoneが合理的な値となるまで繰り返してもよい。このようにすることで、T_zoneを実現可能な値とすることができるため、当該アドバイスに従った運動も可能となる。なお、T_zoneが合理的であるか否かの判定は、例えば所与の閾値との比較処理で行えばよく、当該閾値以下の場合を合理的であるとする。ただし、ユーザーの職業や生活習慣等で合理的な運動時間は異なるため、上記閾値はユーザー毎に設定するものとしてもよい。
【0093】
4.2 アドバイスタイミングでの処理
次にアドバイスタイミングでの処理について説明する。具体的には摂取カロリーに関するアドバイス、運動量に関するアドバイス、上述した目標設定処理を再度行う例、及び変形例について説明する。なお、アドバイスタイミングとは、アドバイス情報の要求が行われるタイミングであり、1ヶ月毎といったようにあらかじめ設定されるものでもよいし、被験者やメンターが必要に応じてアドバイス要求処理を行う場合には当該要求タイミングであってもよい。
【0094】
4.2.1 摂取カロリーに関するアドバイス情報の作成処理
ユーザーからはアドバイス期間の開始時点からアドバイスタイミングまでのゾーン滞在時間に関する情報が適宜入力されている。例えば、ゾーン滞在時間を1日当たりで処理するのであれば、1日目のゾーン滞在時間がT_zone1、2日目のゾーン滞在時間がT_zone2といったような情報が入力される。ただし、入力は脈波情報(脈拍数)のデータそのままであり、情報取得部110において脂肪燃焼ゾーンとの比較を行ってゾーン滞在時間を求める処理が行われてもよい。
【0095】
この場合、データ集計期間(狭義にはアドバイス期間の開始からアドバイスタイミングまでの期間)におけるゾーン滞在時間の累計値をΣT_zoneとすれば、上式(1)は下式(4)のように変形することができ、結果としてW
targetは下式(5)で求められる。なお、下式(4)、(5)でも体重の減少量を正の値としている点は、上式(2)、(3)と同様である。
【0096】
ΣT_zone×Kfat=W
ini−W
target ・・・・・(4)
W
target=W
ini−ΣT_zone×Kfat ・・・・・(5)
ここでのW
targetとは、実測されたゾーン滞在時間から考えれば、アドバイスタイミングでのユーザーの体重はこの値となっていることが期待される、という体重の推定値である。
【0097】
アドバイスタイミングでは、上式(5)で求める体重の推定値とは別に、日々ユーザーから入力される体重の実測値も身体情報として取得している。体重の実測値は
図10のB1に示したように日によってばらつきが大きいものであるため、回帰線B2を求め、当該回帰線を体重減少の実測値を表す情報として用いる。
【0098】
このとき、上式(5)で求められた推定値と、
図10のように回帰線から求められた実測値とは理想的には一致するはずである。これが一致しなかった場合には、そこには何らかの要因があると考えられるため、検討を行う。
【0099】
ここで
図11に1日の平均摂取カロリーと、体脂肪減少の実測値と推定値の差分との関係を示す。横軸が平均摂取カロリーであり、縦軸が体脂肪減少の実測値と推定値の差分値である。上述してきたように、縦軸は体重減少の実測値と推定値の差分値と同視することが可能である。
【0100】
図11に示したように、値のばらつきは大きいものの、平均摂取カロリーが大きいほど縦軸の値は小さい値(負の値)となり、平均摂取カロリーが小さいほど縦軸の値は大きい値(極小さい負の値から正の値)となる傾向が見られる。縦軸が負であるとは、体脂肪減少の実測値が予測値よりも小さい、すなわち予測ほどの体脂肪減少が見られなかった場合に対応する。つまり、
図11を用いた分析により、体重減少の実測値が予測値よりも小さいということは、摂取カロリーが多いことに対応し、体重減少の実測値が予測値よりも大きいということは、摂取カロリーが少ないことに対応するとの結論を導くことができる。
【0101】
つまり、上式(5)から求められる推定値により決定される体重変動を表す予測線と、体重の実測値のプロットから決定される体重減少の回帰線とを比較し、どちらが上かに応じて摂取カロリーの量を推定することが可能である。具体的には、
図12のC1に示したように予測線より回帰線が下であれば摂取カロリーが少ないと判定し、
図12のC2に示したように予測線より回帰線が上であれば摂取カロリーが多いと判定する。また、
図10の例であれば、上式(5)から決定される体重減少の予測線B3より、回帰線B2が上の状態であるため、対象ユーザーの摂取カロリー量が多いと判定できる。
【0102】
アドバイスタイミングにおけるアドバイス情報の一例を
図9(B)、
図9(C)に示す。
図9(B)のゾーン滞在割合74%、ゾーン滞在時間26分/日、集計期間3ヶ月というのは、アドバイスタイミングまでの期間における実測値を示したものである。そして、0.7kgとは、26分/日というゾーン滞在時間を3ヶ月継続した場合に期待される体重減少を上式(5)から求めた推定値である。また、1.3kgとはユーザーから入力された体重の実測値の回帰線を用いて求められた値である。
図9(B)の例は、予測線より回帰線が下である場合に対応し、摂取カロリーを抑えられている点を「大変優秀」とするとともに、過度な食事制限を抑制する表現をアドバイス情報に含めている。
【0103】
また、
図9(C)の例でも数値については同様であるが、体重減少の予測値(1.3kg)に対して、回帰線から求められた実測値(0.9kg)が小さい。これは摂取カロリーが多すぎた場合に対応するため、摂取カロリーの抑制を促す表現をアドバイス情報に含めている。なお、
図9(B)はアドバイス期間の開始から3ヶ月後の例、
図9(C)は6ヶ月後の例を想定しているため、
図9(C)に示したアドバイス情報では、
図9(B)のアドバイスタイミングでの結果を踏まえた表現(「前半は大変優秀でしたが」)を含むものとしている。
【0104】
4.2.2 運動量に関するアドバイス情報の作成処理
また、アドバイスタイミングにおいては運動量に関するアドバイス情報を作成してもよい。ゾーン滞在時間の実測値から上式(5)を用いて推定値を求める点は同様である。摂取カロリーに関するアドバイス情報との違いは、予測線との比較対象が回帰線ではなく、上述の目標設定処理により設定された目標線となることである。目標設定処理では、目標期間経過時の目標体重を求めているため、当該値と現在値とを用いることで、
図10のB3に示したように目標線を設定することができる。
【0105】
ここでのアドバイス情報生成処理は具体的には、
図13のD1に示したように予測線より目標線が下であれば、目標設定ほどの体重減少が期待できる運動量ではなく、運動量が不足していると判定する。一方、
図13のD2に示したように予測線より目標線が上であれば、目標設定以上の体重減少が期待できる運動量であり、運動量が多いと判定する。
【0106】
ただし目標とする運動量は目標設定で求められたゾーン滞在時間に対応し、実際の運動量はゾーン滞在時間の実測値に対応することから、予測線と目標線をそれぞれ求めるのではなく、ゾーン滞在時間の目標値と実測値の比較処理から運動量の判定を行ってもよい。アドバイスタイミングまでのデータ集計期間と、目標期間とが一致しない場合も考えられるため、ゾーン滞在時間の累計値を比較することは適切ではないが、単位時間当たりのゾーン滞在時間の比較処理であれば問題はない。
【0107】
4.2.3 目標の再設定処理
上述したように、摂取カロリー及び運動量の少なくとも一方の要因により、アドバイス期間開始時に設定した体重変動の目標値と、アドバイスタイミングでの体重変動の実測値とが異なる値となることが考えられる。その場合、アドバイス期間開始時に設定したゾーン滞在時間等の値が、目標期間において体重の目標値を実現するに当たって適切なものではなくなっている可能性がある。
【0108】
例えば、目標期間を6ヶ月とし、3ヶ月経過したタイミングをアドバイスタイミングとして上記処理が行われたとする。ここで6ヶ月後の目標をそのまま用いるとすれば、前半3ヶ月で摂取カロリーを控えた、或いは運動量を多くした等の要因により目標よりも速いペースで体重減少が進んでいる場合、後半3ヶ月は摂取カロリーを相対的に増やしたり運動量を減らすことで減量ペースを落としたとしても目標達成は可能である。逆に前半で減量ペースが遅ければ、当初設定したゾーン滞在時間を守ったとしても、6ヶ月経過時には目標体重を実現することはできない。
【0109】
つまり、アドバイス期間開始時に行った目標設定処理は、当該タイミングで行うものには限定されず、アドバイスタイミングにおいて行われてもよい。具体的な処理内容については上述したものと同様であるため詳細な説明は省略する。ただし、上式(1)において、W
iniはアドバイス期間開始時の値ではなく、
図14に示したようにアドバイスタイミングでの実測値を用いることになり、目標期間Tについてもアドバイスタイミングを始点とした期間に変更する必要がある。
【0110】
以上の処理を図示したものが
図15である。
図15は途中まで減量ペースが遅かったため、アドバイスタイミング以降では当初のゾーン滞在時間よりも大きい値を設定し、より厳しい目標に変更している例に対応する。
【0111】
また、
図16に示したようにアドバイス期間の終了時において上式(5)等を用いたアドバイス情報の生成処理や、目標の再設定処理を行ってもよい。
図16の例では、アドバイス期間である6ヶ月の経過時においても、当初の目標は達成できなかった。アドバイス期間の延長申し込み等がない限り、本実施形態に係るサービス提供は終了することが想定されるが、未達成の目標をその後に達成するための指針を与えるという意味でも、アドバイス期間終了時にアドバイス情報を生成することは有用である。
【0112】
例えば
図16の例では、アドバイス期間内での体重減少の実測値から求めた回帰線をE1に示したように延長することで、同等の運動等を継続した場合に、本来の目標体重W
targetを実現するために要する期間等をアドバイス情報として生成する。或いは、適当な目標タイミングT’を設定し、当該T’までに本来の目標体重W
targetを実現する新たな目標線E2を設定してもよい。上式(3)等を用いて説明したように、目標線を設定すれば、当該目標線の実現のために要求されるゾーン滞在時間T_zoneを求めることができ、求めたT_zoneをアドバイス情報として提示することが可能である。
【0113】
4.2.4 変形例
次にアドバイス情報生成処理の変形例について説明する。上述してきた処理は、1ヶ月に1回といったように、所定のアドバイスタイミングにおいて行われることを想定している。このアドバイスタイミングは、被験者やメンターにより設定されるものである。
【0114】
しかし、アドバイスタイミングの間隔はある程度大きいことが想定される。これは頻繁にアドバイス情報を生成したとしても、状況の変化に乏しくアドバイス情報が有用なものとならないと考えられるためである。そのため、アドバイスタイミングとアドバイスタイミングの間で、摂取カロリーの状況や運動状況等の変動が起こっていたとしても、当該変動は次のアドバイスタイミングまでアドバイス情報として被験者等に提示されることがない。
【0115】
例えば、被験者が摂取カロリー量や運動量を意図的に変更したとしても、それが有効であるのか否かは次のアドバイスタイミングにおいて提示されるため、アドバイスタイミングの設定次第では提示までに時間を要する可能性もある。或いは、ユーザーが意図せずに運動状況等が変化するということは好ましくないため、状況変化は迅速にユーザーに提示すべきところ、同様に提示までに時間を要する場合があり得る。例えば、ユーザー自身は同程度の運動を継続しているつもりであるのに、運動量が十分な状況から過小である状況へ変化したという判定がされた場合、健康維持のために好ましくない状況への変動をユーザーが自覚するまでに時間を要する可能性がある。また、運動量が過小な状況から十分な状況への変動についても、当該変動自体は体重減少に関して好ましいものであるが、当該変動をユーザーが自覚していないということは、無自覚で過剰な運動を行う危険性を示唆するものであり看過できない。
【0116】
よって変形例として、情報処理システムはバックグラウンドで上記の予測線と回帰線、或いは予測線と目標線の比較処理を実行しておき、摂取カロリー等の状況に変化が生じた場合には、当該変化のタイミングがアドバイスタイミングでなかったとしても、アドバイス情報を能動的に被験者やメンターに対して配信する処理を行ってもよい。
【0117】
具体的には、上記アドバイスタイミングとは異なる所与の処理タイミングにおいて、上述した摂取カロリーに関する処理、及び運動量に関する処理を行う。この処理タイミングは、例えば上記アドバイスタイミングの間隔よりも短い所与の間隔で設定されるものであってもよい。なお、この処理タイミングは、当該タイミングで必ずアドバイス情報が出力されるものではないが、出力の可能性を有するという意味で、広い意味ではアドバイスタイミングという概念に含まれる。つまり、本実施形態のアドバイスタイミングとは、アドバイス情報の出力が確定している狭義のアドバイスタイミング(上述してきたアドバイスタイミング)と、状況の変化があったと判定された場合にのみアドバイス情報を出力する広義のアドバイスタイミング(処理タイミング)とを含むものである。以下、処理タイミングでの処理内容について説明する。
【0118】
例えば、情報処理システム100は最新の処理タイミングでの予測線と回帰線の位置関係が、直前の処理タイミングでの位置関係と異なっていた場合に情報を提示するものとしてもよい。具体的には、第1の処理タイミングにおいては、予測線より回帰線が上であり、摂取カロリーが多いと判定され、その次の第2のアドバイスタイミングでは予測線より回帰線が下であり、摂取カロリーが少ないと判定された場合を考える。この場合、第1の処理タイミングから第2の処理タイミングまでの期間で、過剰摂取状態だったカロリーを、過小摂取状態まで変化させていることになる。この変化に関する情報は被験者やメンターにとっては有用な情報であるため、第2の処理タイミングにおける処理に基づいて、被験者等に対して摂取カロリーが変化した旨のアドバイス情報を出力する。一例としては、「脂肪燃焼以上に体重が減っています。食事制限がきつい可能性があります」というアドバイス情報を生成することが考えられる。
【0119】
一方、回帰線より予測線が下の状態から上の状態へ変化した場合には、摂取カロリーが多い方向へ転じたことがわかる。よって例えば、「脂肪燃焼ほど体重が減っていません。摂取カロリーを控えてみましょう」といったアドバイス情報を生成すればよい。このようにすれば、食べ過ぎや食事制限のしすぎといった情報を被験者やメンターに対してタイムリーに提示することが可能になる。
【0120】
なお、微少な差は誤差範囲と考えることができるため、直線の関係が逆転した場合に必ずアドバイス情報を提示するものとしなくてもよい。例えば、関係が逆転し、且つ変化量が閾値を上回った場合に上記アドバイス情報を提示するものとしてもよい。
【0121】
また、運動量に関するアドバイス情報についても摂取カロリーと同様に考えることができる。例えば、第1の処理タイミングにおいては、目標線より予測線が上であり、運動量が足りないと判定され、その次の第2のアドバイスタイミングでは目標線より予測線が下であり、運動量が十分と判定された場合を考える。この場合、第1の処理タイミングから第2の処理タイミングまでの期間で、少なかった運動量を、多い状態まで変化させていることになる。よって、「運動がきつい可能性があります。無理をしないように継続しましょう」というアドバイス情報を生成することが考えられる。
【0122】
一方、目標線より予測線が下の状態から上の状態へ変化した場合には、運動量が少ない方向へ転じたことがわかる。よって例えば、「目標を達成するために、もう少し運動時間を長くしましょう」といったアドバイス情報を生成すればよい。このようにすれば、運動不足、運動のしすぎといった情報を被験者やメンターに対してタイムリーに提示することが可能になる。
【0123】
5.本実施形態の具体例
以上の本実施形態では、情報処理システム100は
図2に示したように、情報の取得処理を行う情報取得部110と、情報取得部110により取得された情報に基づいて処理を行う処理部120と、処理部120で作成された情報の出力処理を行う出力処理部130とを含む。そして、情報取得部110は、ユーザーの脈波情報により表される値が所与の脂肪燃焼ゾーン内の値となる時間を表す滞在時間情報と、ユーザーの身体情報と、ユーザーの減量に関する目標情報のうちの少なくとも2つの情報の取得処理を行い、処理部120は、ユーザーの体重又は体脂肪量の変動と滞在時間情報との関係を表す関係式と、情報取得部110が取得した少なくとも2つの情報に基づいて、減量に関するアドバイス情報を作成する処理を行い、出力処理部130は、処理部120で作成されたアドバイス情報の出力処理を行う。
【0124】
ここで、脈波情報により表される値とは、狭義には脈拍数であってもよいがそれに限定されない。例えば脈派信号のAC成分の周波数等の情報であってもよい。また脂肪燃焼ゾーンとは、標準的な脈派信号により表される値に基づいて決定される範囲であり、且つ脂肪燃焼に適した範囲を表すものである。例えば、脈派信号により表される値が脈拍数であれば、脂肪燃焼に適した脈拍数の数値範囲である。なお、脂肪燃焼に適した脈拍数(心拍数)を求める手法はカルボーネン法(Karvonen Formula)等、種々の手法が知られているため詳細な説明は省略する。また、本実施形態での脂肪燃焼ゾーンの決定手法は、種々の手法を任意に適用可能であり、特定の手法に限定されるものではない。また、滞在時間情報とは、脈派信号により表される値が脂肪燃焼ゾーン内の値となる時間を表す情報であればよく、上述したゾーン滞在時間の累計値でもよいし、単位期間(例えば1日)におけるゾーン滞在時間であってもよい。また、単位時間(例えば1時間)におけるゾーン滞在時間の割合であるゾーン滞在割合であってもよい。また、身体情報とはユーザーの体重、体脂肪量等の情報であり、広義には性別、身長、年齢等の情報を含んでもよい。また、目標情報とは減量の目標となる情報であり、体重の目標値、体重減少の目標値、体重減少を実現するまでの目標期間等である。
【0125】
これにより、滞在時間情報、身体情報、目標情報のうちの少なくとも2つを取得した上で、当該滞在時間情報と体重変動(或いは体脂肪の変動)との関係式を用いた処理により、アドバイス情報を生成することが可能になる。よって、生成される情報は滞在時間情報という観点から生成され、例えば、目標期間内に目標体重を実現する際に要求されるゾーン滞在時間等が示される。そのため、減量を運動により実現しようとした場合に、脈拍数が脂肪燃焼ゾーンの上限を超えるような過度な運動を行うこと、及び過度な運動によりケガが発生すること等を抑止することができる。また、脂肪燃焼ゾーンを適切に設定することで、効率的に脂肪燃焼を行える負荷での運動を実行できる。さらに、過度な運動目標等を設定することによるモチベーション低下を抑止できるため、継続的なサービス利用を行うことが可能になる。
【0126】
また、所与の期間での滞在時間情報の積算値に対応する値をT_zoneとし、所与の期間でのユーザーの体重又は体脂肪量の変動量をWとし、脂肪燃焼係数をKfatとした場合に、関係式は上式(1)に示したように、T_zone×Kfat=Wであってもよい。
【0127】
ここで、滞在時間情報の積算値に対応する値とは、上式(2)であれば1日当たりのゾーン滞在時間(上式(2)におけるT_zone)と、期間Tとの積である。また、上式(4)であれば、実測された単位期間でのゾーン滞在時間(上式(4)におけるT_zone)を期間内で累計した値である。ただし、滞在時間情報の積算値は他の手法により求められてもよい。また、脂肪燃焼係数とは、T_zoneとWを関係づける係数であり、例えば
図7のA2や、A2に類する直線の傾き等から決定されることが考えられる。
【0128】
これにより、上式(1)を用いたアドバイス情報の生成処理を行うことができ、滞在時間情報を適切に体重等の変動量に対応づけることが可能になる。
【0129】
また、情報取得部110は、滞在時間情報と、身体情報の取得処理を行い、処理部120は、滞在時間情報と、身体情報と、関係式とに基づいて、ユーザーの摂取カロリーに関するアドバイス情報を作成する処理を行ってもよい。
【0130】
具体的には、情報取得部110は、アドバイス期間内の所与のアドバイスタイミングまでの滞在時間情報の取得処理を行うとともに、アドバイスタイミングまでのユーザーの体重又は体脂肪量の実測値を身体情報として取得する取得処理を行い、処理部120は、滞在時間情報と関係式に基づいて、滞在時間情報に対応するアドバイスタイミングでの体重又は体脂肪量の推定値を求め、求めた推定値と実測値との比較処理に基づいて、摂取カロリーに関するアドバイス情報を作成する処理を行ってもよい。
【0131】
ここで、体重又は体脂肪量の推定値は、体重等の絶対値に対応する値であってもよいし、所与の基準値(例えばアドバイス期間開始時の値)に対する変動値であってもよい。また、実測値についても絶対値と変動値のいずれを用いてもよく、推定値と実測値との間の対応関係がとれていればよい。
【0132】
これにより、滞在時間情報と身体情報と関係式とから、上述した減量に関するアドバイス情報として、摂取カロリーに関するアドバイス情報を生成することが可能になる。仮に食事に関する情報が入力されていなかったとしても、上記情報から食事量の多い少ないを推定できる。また、ユーザーにより入力された食事情報と、本実施形態の手法により判定された摂取カロリーとを比較することで、入力の正確性等についてのアドバイス情報を生成することも可能である。ここでの推定値とは上述した予測線に相当し、実測値とは上述した回帰線に相当し、比較処理とは
図12を用いて上述した処理に相当する。
【0133】
また、情報取得部110は、滞在時間情報と、目標情報の取得処理を行い、処理部120は、滞在時間情報と、目標情報と、関係式とに基づいて、ユーザーの運動量に関するアドバイス情報を作成する処理を行ってもよい。
【0134】
具体的には、情報取得部110は、アドバイス期間内の所与のアドバイスタイミングまでの滞在時間情報の取得処理を行うとともに、アドバイスタイミングより前に設定された、アドバイスタイミングでのユーザーの体重又は体脂肪量の目標値を目標情報として取得する取得処理を行い、処理部120は、滞在時間情報と関係式に基づいて、滞在時間情報に対応する体重又は体脂肪量の推定値を求め、求めた推定値と目標値との比較処理に基づいて、運動量に関するアドバイス情報を作成する処理を行ってもよい。
【0135】
これにより、滞在時間情報と目標情報と関係式とから、上述した減量に関するアドバイス情報として、運動量に関するアドバイス情報を生成することが可能になる。運動量は多ければ体重減少につながるため、基本的には多い場合に高評価とするが、過剰な運動はケガの要因にもなるため適度に押さえることを促すアドバイス情報を生成すればよい。ここでの推定値とは上述した予測線に相当し、目標値とは上述した目標線に相当し、比較処理とは
図13を用いて上述した処理に相当する。
【0136】
また、情報取得部110は、アドバイスタイミングにおけるユーザーの体重又は体脂肪量の現在値を身体情報として取得する取得処理を行うとともに、ユーザーの体重又は体脂肪量の目標値、及び目標値を達成するまでの期間を表す目標期間を目標情報として取得する取得処理を行い、処理部120は、現在値と、目標値と、目標期間と、関係式とに基づいて、目標期間内での目標値の達成に必要な滞在時間情報を求める処理を行ってもよい。
【0137】
これにより、
図14〜
図16を用いて上述したように、アドバイス期間の途中或いは終了時のタイミングにおいても、目標の再設定処理を行うことが可能になる。よって、より途中経過を反映したアドバイス情報を生成することができる。
【0138】
また、情報取得部110は、身体情報と、目標情報の取得処理を行い、処理部120は、身体情報と、目標情報と、関係式とに基づいて、目標情報により表される目標の達成に必要な滞在時間情報を求める処理を行ってもよい。
【0139】
具体的には、情報取得部110は、ユーザーの体重又は体脂肪量の現在値を身体情報として取得する取得処理を行うとともに、ユーザーの体重又は体脂肪量の目標値、及び目標値を達成するまでの期間を表す目標期間を目標情報として取得する取得処理を行い、処理部120は、現在値と、目標値と、目標期間と、関係式とに基づいて、目標期間内での目標値の達成に必要な滞在時間情報を求める処理を行ってもよい。
【0140】
これにより、目標設定処理を行うことが可能になる。具体的には、
図9(A)に示したように、目標達成のために要求される滞在時間情報をユーザーに提示することができる。具体的には、上式(3)を用いて求めたT_zoneの値等を提示すればよい。滞在時間情報を用いたアドバイス情報を提示することで、上述したように過剰な負荷の運動を抑止したり、運動による脂肪燃焼を効率的に行うことが可能になる。
【0141】
また、処理部120は、求められた滞在時間情報により表される滞在時間が所与の閾値よりも大きい場合、目標値及び目標期間の少なくとも一方の修正を指示する修正指示情報を生成する処理を行ってもよい。そして、情報取得部110が、修正指示情報に基づいて修正が行われた目標値及び目標期間の少なくとも一方の取得処理を行った場合に、処理部120は、修正後の目標値及び目標期間の少なくとも一方に基づいて、目標期間内での目標値の達成に必要な滞在時間情報を再度求める処理を行ってもよい。
【0142】
これにより、合理的な目標設定を行うことが可能になる。過剰に厳しい目標設定を行った場合、求められるゾーン滞在時間が長くなり、それを満たす長時間の運動が現実的に困難となる場合がある。従来手法のように運動負荷が高くてもよいのであれば、運動時間を短くすることも可能であるが、本実施形態ではケガ予防等の観点から過剰な負荷での運動を抑止している。そのため、厳しい目標設定に対しては長時間の運動を求める結果となってしまい実現が困難である。そこで不合理な運動時間を指示しないように、目標を緩く修正する指示を行うとよい。なお、修正指示情報は例えば目標情報の入力画面を再度表示する表示制御情報である。
【0143】
また、アドバイス期間の開始タイミングにおいて、情報取得部110は、身体情報と、目標情報の取得処理を行い、処理部120は、身体情報と、目標情報と、関係式とに基づいて、目標情報により表される目標の達成に必要な滞在時間情報を求める処理を行ってもよい。
【0144】
これにより、アドバイス期間の開始時に目標設定処理を行うことが可能になる。なお、上述したように目標設定処理はアドバイス期間中の他のタイミングにおいて再度行われることを妨げない。
【0145】
なお、本実施形態の情報処理システム100等は、その処理の一部または大部分をプログラムにより実現してもよい。この場合には、CPU等のプロセッサーがプログラムを実行することで、本実施形態の情報処理システム100等が実現される。具体的には、非一時的な情報記憶媒体に記憶されたプログラムが読み出され、読み出されたプログラムをCPU等のプロセッサーが実行する。ここで、情報記憶媒体(コンピューターにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(DVD、CD等)、HDD(ハードディスクドライブ)、或いはメモリー(カード型メモリー、ROM等)などにより実現できる。そして、CPU等のプロセッサーは、情報記憶媒体に格納されるプログラム(データ)に基づいて本実施形態の種々の処理を行う。即ち、情報記憶媒体には、本実施形態の各部としてコンピューター(操作部、処理部、記憶部、出力部を備える装置)を機能させるためのプログラム(各部の処理をコンピューターに実行させるためのプログラム)が記憶される。
【0146】
なお、以上のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また情報処理システム等の構成、動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。