(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記PLL回路から前記量子干渉装置までの間に、前記逓倍器から出力される所定周波数を通過させ、前記所定周波数の1/2の周波数を減衰させるフィルター部が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の原子発振器。
前記フィルター部から前記所定周波数で出力される出力電力は、前記所定周波数の1/2、および前記所定周波数の1.5倍の周波数で出力される出力電力との相対比較で、15dB以上であることを特徴とする請求項2に記載の原子発振器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の原子発振器には、マイクロ波帯を直接発振する電圧制御発振器が用いられており、低消費電力化と製造コストの低減を図るのが困難であるという課題があった。詳しくは、一般的に、発振器は、発振周波数が高周波数になるほど伝送線路などの回路素子での損失が大きくなり、それに伴って共振回路のQファクターが劣化して、出力電力が低下する。出力電力の低下は、発振器の後段に設けられている増幅器で補う必要があり、これにより原子発振器の消費電力が増加する。また、所望の特性を実現するために高精度な製造・組立て実装技術も必要となり、高周波になるほど、電圧制御発振器の調達コストが上昇する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る原子発振器は、
原子共鳴周波数と入力されたマイクロ波との差を周波数誤差信号として出力する量子干渉装置と、
前記原子共鳴周波数に同期した周波数の信号を出力する電圧制御水晶発振器と、発振器、および前記発振器から出力される発振周波数をn逓倍させる逓倍器を有し
、前記電圧制御水晶発振器の出力信号を基準信号として、前記発振器からの出力との位相差が一定になるように、前記発振器にフィードバック制御をかけて発振をさせるPLL回路と、
前記PLL回路から出力されるマイクロ波を増幅させる増幅器と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、原子発振器は、量子干渉装置と、量子干渉装置に入射する所定周波数を生成するPLL回路と、増幅器とを備えている。PLL回路の発振器は、一般的に、発振周波数が高くなるほど、共振回路のQファクターが低下し、出力電力が低下する。出力電力の低下は、発振器の後段に設けられている増幅器で補う必要があり、これにより消費電力が増加する。また、高い周波数を発振させることができる発振器ほど価格が高く、原子発振器の製造コストが上昇する。そこで、本適用例では、PLL回路に、発振器から出力される発振周波数をn逓倍させる逓倍器を備えているため、従来の発振器より、発振周波数が1/nに低い周波数で発振する発振器を使用することができる。したがって、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能な原子発振器を提供することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例に記載の原子発振器は、前記PLL回路から前記量子干渉装置までの間に、前記逓倍器から出力される所定周波数を通過させ、前記所定周波数の1/2の周波数を減衰させるフィルター部が接続されていることが好ましい。
【0011】
本適用例によれば、原子発振器は、PLL回路に発振器から出力される発振周波数をn逓倍させる逓倍器を備えているため、逓倍器から出力される周波数成分は、所定周波数の1/nのm倍(m=1、2、3、・・・)となる。発明者は、所定周波数の1/2の周波数が量子干渉装置に入力されると、原子発振器の周波数安定度が劣化することを実験により見出している。そこで、本実施形態では、さらに、PLL回路から量子干渉装置までの間に、所定周波数を通過させ、所定周波数の1/2の周波数を減衰させるフィルター部が接続されている。これにより、周波数安定度を劣化させることなく、消費電力を減少させ、製造コストを抑制した原子発振器を提供することができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例に記載の原子発振器は、前記フィルター部から前記所定周波数で出力される出力電力は、前記所定周波数の1/2、および前記所定周波数の1.5倍の周波数で出力される出力電力との相対比較で、15dB以上であることが好ましい。
【0013】
本適用例によれば、原子発振器には、フィルター部から、所定周波数で出力される電力と、所定周波数の1/2、および所定周波数の1.5倍の周波数で出力される電力との相対比較で15dB以上となるフィルター部が接続されているため、所望の周波数安定度を有し、消費電力を減少させ、製造コストを抑制した原子発振器を提供することができる。
【0014】
[適用例4]上記適用例に記載の原子発振器は、前記量子干渉装置は、金属原子と、前記金属原子が封入されているガスセルと、前記金属原子に電磁誘起透過現象を発生させる共鳴光対を含む光を照射する光源と、前記金属原子を通過した前記光を検出する光検出部と、を有していることが好ましい。
【0015】
本適用例によれば、原子発振器に備えられている量子干渉装置は、金属原子と、セルと、光源と、光検出部とを有している。PLL回路の発振器は、一般的に、発振周波数が高くなるほど、共振回路のQファクターが低下し、出力電力が低下する。出力電力の低下は、発振器の後段に設けられている増幅器で補う必要があり、これにより消費電力が増加する。また、高い周波数を発振させることができる発振器ほど価格が高く、原子発振器の製造コストが上昇する。そこで、本適用例では、PLL回路に、発振器から出力される発振周波数をn逓倍させる逓倍器を備えているため、従来の発振器より、発振周波数が1/nに低い周波数で発振する発振器を使用することができる。したがって、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能な原子発振器を提供することができる。
【0016】
[適用例5]上記適用例に記載の原子発振器は、前記光源は半導体レーザーであることが好ましい。
【0017】
本適用例によれば、原子発振器は、半導体レーザーの光源を有し、PLL回路に、従来の発振器より、発振周波数が1/nに低い周波数で発振する発振器を用いているため、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能な原子発振器を提供することができる。
【0018】
[適用例6]上記適用例に記載の原子発振器は、前記光源は垂直共振器面発光レーザーであり、前記金属原子はセシウムであることが好ましい。
【0019】
本適用例によれば、原子発振器は、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER)の光源と、セシウムの金属原子とを有し、PLL回路に、従来の発振器より、発振周波数が1/nに低い周波数で発振する発振器を用いているため、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能な原子発振器を提供することができる。
【0020】
[適用例7]本適用例に係る電子機器は、上記適用例のいずれか一例に記載の原子発振器を備えていることを特徴とする。
【0021】
本適用例によれば、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能な原子発振器を備えているので、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能な電子機器を提供することができる。
【0022】
[適用例8]本適用例に係る移動体は、上記適用例のいずれか一例に記載の原子発振器を備えていることを特徴とする。
【0023】
本適用例によれば、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能な原子発振器を備えているので、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能な移動体を提供することができる。
【0024】
[適用例9]本適用例に係るGPS(Global Positioning System)モジュールは、上記適用例のいずれか一例に記載の原子発振器を備えていることを特徴とする。
【0025】
本適用例によれば、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能な原子発振器を備えているので、消費電力を減少させ、製造コストを抑制することが可能なGPSモジュールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせている。
【0028】
<原子発振器>
(実施形態)
まず、原子発振器3の原理について、
図1から
図4を用いて簡単に説明する。
図1は、実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。この原子発振器3は、原子共鳴周波数と入力されたマイクロ波との差を周波数誤差信号として出力する量子干渉装置10と、原子共鳴周波数に同期した周波数の信号を出力する電圧制御水晶発振器(以下、発振器(VCXO)と記す)5と、周波数誤差信号に応じた制御信号を生成し、発振器(VCXO)5を制御する周波数制御器4と、発振器(VCXO)5の出力信号を基準信号として、電圧制御発振器(以下、発振器(VCO)と記す)24からの出力との位相差が一定になるように、ループ内の発振器(VCO)24にフィードバック制御をかけて発振をさせるPLL回路20と、PLL回路20から出力されるマイクロ波をフィルタリングするフィルター部30と、フィルター部30から出力される出力電力を増幅させる増幅器6と、量子干渉装置10に加える直流バイアス電流を設定するバイアス回路8とを備えている。
【0029】
PLL回路20は、発振器(VCXO)5の出力周波数を1/Rに分周する1/R分周器21と、発振器(VCXO)5に同期した周波数を生成する発振器(VCO)24と、発振器(VCO)24から出力される周波数をn逓倍する逓倍器25と、逓倍器25から出力される周波数を1/Mに分周する1/Mプリスケーラー26と、1/Mプリスケーラー26から出力される周波数をK/Lに分周するK/L分周器27と、1/R分周器21の出力とK/L分周器27の出力との位相差を出力する位相比較器22と、位相比較器22の出力に基づいて直流分を取り出すLPF23と、を備えている。
【0030】
図2は、量子干渉装置の構成を示す図である。
図3は、
図2に示す量子干渉装置のガスセル内におけるアルカリ金属のエネルギー状態を説明するための図である。
図4は、
図2に示す原子発振器の光射出部(光源)および光検出部における、光射出部(光源)からの2つの光の周波数差と、光検出部での検出強度との関係を示すグラフである。
【0031】
図2に示すように、量子干渉装置10は、ガスセル11と、光源13を有する光射出部12と、光検出部14とを備えている。
ガスセル11内には、アルカリ金属(金属原子)の一例として、ガス状のセシウムが、封入されている。他のアルカリ金属としては、ルビジウム、ナトリウム等を使用することができる。アルカリ金属は、
図3に示すように、3準位系のエネルギー準位を有しており、エネルギー準位の異なる2つの基底状態(基底状態α,β)と、励起状態との3つの状態をとり得る。ここで、基底状態αは、基底状態βよりも低いエネルギー準位である。なお本実施形態では、光学部品15,16を備えているが、必要により用いればよい。
【0032】
このようなガス状のアルカリ金属に対して周波数の異なる2種の共鳴光1、および共鳴光2を照射すると、共鳴光1の周波数ω1と共鳴光2の周波数ω2との差(ω1−ω2)に応じて、共鳴光1、および共鳴光2のアルカリ金属における光吸収率(光透過率)が変化する。そして、共鳴光1の周波数ω1と、共鳴光2の周波数ω2との差(ω1−ω2)が基底状態αと基底状態βとのエネルギー差に相当する周波数に一致したとき、基底状態α、および基底状態βから励起状態への励起がそれぞれ停止する。このとき、共鳴光1、および共鳴光2は、いずれも、アルカリ金属に吸収されずに透過する。このような現象をCPT(Coherent Population Trapping)現象、または電磁誘起透明化現象(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)と呼ぶ。
【0033】
光源13は、ガスセル11に向けて、前述したような周波数の異なる2種の光(共鳴光1および共鳴光2)を射出する。例えば、光源13のバイアス電流に高周波信号を重畳させ(変調を掛けて)、その周波数を変化することによって共鳴光1の周波数ω1と共鳴光2の周波数ω2とを同時に変化させることができ、共鳴光1の周波数ω1と共鳴光2の周波数ω2との差(ω1−ω2)が基底状態αと基底状態βとのエネルギー差に相当する周波数ω0に一致したとき、光検出部14の検出強度は、
図4に示すように、急峻に上昇する。このような急峻な信号をEIT信号として検出する。このEIT信号は、アルカリ金属の種類によって決まった固有値をもっている。したがって、このようなEIT信号を用いることにより、発振器を構成することができる。
【0034】
以下、量子干渉装置10の各部を順次説明する。
[ガスセル]
ガスセル11内には、アルカリ金属(金属原子)として、ガス状のセシウムが封入されている。ガスセル11は、柱状の貫通孔を有する本体部17と、その貫通孔の両開口を封鎖する1対の窓部18,19とを有する。これにより、前述したようなアルカリ金属が封入される内部空間が形成される。
【0035】
ここで、ガスセル11の各窓部18,19は、前述した光源13からの励起光に対する透過性を有している。そして、一方の窓部18は、ガスセル11内へ入射する励起光が透過するものであり、他方の窓部19は、ガスセル11内から射出した励起光が透過するものである。
【0036】
この窓部18,19を構成する材料としては、前述したような励起光に対する透過性を有していれば、特に限定されないが、例えば、ガラス、水晶等が挙げられる。また、ガスセル11の本体部17を構成する材料は、例えば磁性体のような磁場を乱すものや封入している金属原子と容易に反応してしまうもの以外であれば、特に限定されず、金属材料、樹脂材料等であってもよく、窓部18,19と同様にガラス材料、水晶、シリコン等であってもよい。そして、各窓部18,19は、本体部17に対して気密的に接合されている。これにより、ガスセル11の内部空間を気密空間とすることができる。ガスセル11の本体部17と窓部18,19との接合方法としては、これらの構成材料に応じて決められるものであり、特に限定されないが、例えば、接着剤による接合方法、直接接合法、陽極接合法等を用いることができる。
【0037】
[光射出部]
光射出部12は、ガスセル11中のアルカリ金属原子を励起する励起光を射出する機能を有する。より具体的には、光射出部12は、前述したような周波数の異なる2種の光(共鳴光1および共鳴光2)を射出するものである。共鳴光1の周波数ω1は、ガスセル11中のアルカリ金属を前述した基底状態αから励起状態に励起し得るものである。また、共鳴光2の周波数ω2は、ガスセル11中のアルカリ金属を前述した基底状態βから励起状態に励起し得るものである。
【0038】
この光源13としては、前述したような励起光を射出し得るものであれば、特に限定されないが、本実施形態では、半導体レーザーの一種である垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)が用いられている。
【0039】
[光学部品]
図2に示すように、複数の光学部品15,16は、それぞれ、前述した光射出部12(光源13)とガスセル11との間における励起光LLの光路a上に設けられている。本実施形態では、光源13側からガスセル11側へ、光学部品15、光学部品16がこの順に配置されている。
【0040】
光学部品15は、λ/4波長板である。これにより、光源13からの励起光LLを直線偏光から円偏光(右円偏光または左円偏光)に変換することができる。
【0041】
光学部品16は、減光フィルター(NDフィルター)である。これにより、ガスセル11に入射する励起光LLの強度を調整(減少)させることができる。そのため、光源13の出力が大きい場合でも、ガスセル11に入射する励起光を所望の光量とすることができる。光学部品15を通過した所定方向の偏光を有する励起光LLの強度を光学部品16により調整することができる。
【0042】
なお、光源13とガスセル11との間には、波長板および減光フィルターの他に、レンズ、偏光板等の他の光学部品が配置されていてもよい。また、光源13からの励起光の強度の調整(減少)が不要であれば、光学部品16を省略することができる。
【0043】
[光検出部]
光検出部14は、ガスセル11内を透過した励起光LL(共鳴光1、共鳴光2)の強度を検出する機能を有する。この光検出部14としては、上述したような励起光を検出し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、太陽電池、フォトダイオード等の光検出器(受光素子)を用いることができる。
【0044】
次に、
図1に戻り、PLL回路20に備えられている発振器(VCO)24、および逓倍器25と、フィルター部30とについて説明する。
PLL回路20には、発振器(VCO)24の出力をn逓倍させる逓倍器25が備えられており、発振器(VCO)で発振された発振周波数をn逓倍することで、光源13(
図2参照)としてのVCSELに変調を与える所定周波数が生成される。これにより、発振器(VCO)24には、所定周波数より発振周波数が、1/nに低い周波数で発振する発振器を使用することができる。本実施形態では、金属原子にセシウムを用いており、セシウムの遷移周波数の1/2である4.5963GHz(所定周波数)がPLL回路20で生成される。
【0045】
4.5963GHzを発振可能な発振器は、発振周波数が高いため、伝送線路などの回路素子での損失が大きくなり、それに伴って共振回路のQファクターが劣化して、出力電力が低くなる。出力電力の低下は、発振器の後段に設けられている増幅器6で補う必要があり、これにより消費電力が増加する。また、所望の特性を実現するために高精度な製造・組立て実装技術も必要となり、高周波数になるほど、発振器(VCO)24の調達コストが上昇する。さらに、4.5963GHzを発振可能な発振器(VCO)24は、市場での流通量が少なくコスト増加の一因となっている。そこで、本実施形態では、逓倍器25に、2逓倍(n=2)の逓倍器が用いられているため、発振器(VCO)24には、2.29816GHz(所定周波数の1/2)を発振させる発振器を用いることができる。これにより、増幅器6での消費電力と、発振器(VCO)24の調達コストとを抑制することができる。
【0046】
また、PLL回路20と、増幅器6との間には、逓倍器25から出力される所定周波数(4.5963GHz)を通過させ、所定周波数の1/2の周波数(2.29816GHz)を減衰させるフィルター部30が接続されている。なお、フィルター部30は、増幅器6と逓倍器25との間に接続されているのが望ましいが、量子干渉装置10と逓倍器25との間のいずれかの場所に接続されていてもよい。ただし、量子干渉装置10に備えられている光源13(
図2参照)としてのVICSELに加える直流バイアス電流を設定するバイアス回路8と、量子干渉装置10との間に、フィルター部を接続する場合は、電流通過型のフィルターとする必要がある。
【0047】
図5は、逓倍器25から出力される周波数特性を示す図である。逓倍器25では、発振器(VCO)24での発振周波数2.29816GHzを2逓倍して、セシウムの遷移周波数の1/2である4.5963GHz(所定周波数)が生成される。しかし、逓倍器25からは、4.5963GHz以外に、2.29816GHzのm倍(m=1、2、3、・・・)に相当する周波数成分が出力される。本実施形態に用いた発振器(VCO)24と、逓倍器25によれば、所定周波数の1/2の周波数(2.29816GHz)で出力される出力電力は、所定周波数(4.5963GHz)で出力される出力電力との相対比較で、約−10dBであった。同様に、所定周波数の1.5倍(6.89448GHz:2.29816GHz×3)の周波数で出力される出力電力は、約−15dBであった。
【0048】
図6は、所定周波数、および所定周波数の1/2の周波数で出力される出力電力の差と、周波数安定度との関係を示す表である。発明者は、所定周波数の1/2の周波数が量子干渉装置10に入力されると、原子発振器3の周波数安定度が低下することを実験により見出している。
図6によれば、所定周波数(4.5963GHz)で出力される出力電力が、所定周波数の1/2(2.29816GHz)の周波数で出力される出力電力との相対比較で、15dB以上であれば、所望の周波数安定度が得られることが分かる。さらには、周波数安定度の劣化が認められない20dB以上であることが望ましい。なお、所定周波数(4.5963GHz)と、所定周波数の1.5倍(6.89448GHz)との実験においても、同様な結果が得られた。
図6より、所定周波数の1/2(2.29816GHz)の周波数で出力される電力を、フィルター部30にて、5dB以上減衰させることで、所望の周波数安定度を有した原子発振器が実現できる。
【0049】
図7は、フィルター部(ノッチフィルター)の周波数特性を示す図である。
上述の様に、フィルター部30に求められる性能は、通過させる周波数が、所定周波数(4.5963GHz)で、減衰させる周波数が、所定周波数の1/2(2.29816GHz)と、共に1ポイントであり、減衰量も5dBと比較的低い減衰量である。そこで、本実施形態では、フィルター部30に、インダクターLとキャパシターCの直列共振を利用した最も単純な構成であるノッチフィルター(バンドリジェクションフィルター)を用いている。所定周波数の1/2(2.29816GHz)で共振を生じせるインダクターLとキャパシターCが選択され、伝送線路とグランドとの間に、直列接続されている。インダクターLとキャパシターCとの共振周波数(所定周波数の1/2)において、伝送線路とグランド間とのインピーダンスが低くなるため、
図7に示すように、所定周波数の1/2(2.29816GHz)で、減衰極を有する周波数特性が得られる。なお、本実施形態は一例であり、これに限定するものではない。所定周波数の1/2の周波数を減衰させる方法として、インダクターとキャパシターを用いて構成したハイパスフィルターを構成して接続してもよい。
【0050】
図8は、フィルター部30から出力されるマイクロ波の周波数特性を示す図である。ノッチフィルターを有するフィルター部30を逓倍器25と増幅器6との間に接続することで、
図8に示すように、所定周波数(4.5963GHz)で出力される出力電力を、所定周波数の1/2の周波数(2.29816GHz)で出力される出力電力との相対比較で、15dB以上とすることができる。
【0051】
以上述べたように、本実施形態に係る原子発振器3によれば、以下の効果を得ることができる。
原子発振器3は、PLL回路20に発振器(VCO)24から出力される発振周波数をn逓倍させる逓倍器25を備えている。これにより、増幅器6での消費電力と、発振器(VCO)24の調達コストとを抑制するができるため、消費電力を減少させ、製造コストを抑制した原子発振器3を提供することができる。さらに、量子干渉装置10とPLL回路20との間に、フィルター部30が接続されているため、所定周波数で出力される出力電力を、所定周波数の1/2、および所定周波数の1.5倍の周波数で出力される出力電力との相対比較で、15dB以上とすることができる。これにより、所望の周波数安定度を有した原子発振器3を提供することができる。
【0052】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良などを加えることが可能である。変形例を以下に述べる。
【0053】
(変形例)
図9は、変形例に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
上記実施形態では、
図1のように、フィルター部30に、ノッチフィルターを設けたものとして説明したが、この構成に限定するものではない。本変形例では、フィルター部40に、バンドパスフィルターが設けられている。
以下、変形例に係る原子発振器50について説明する。なお、実施形態と同一の構成部位については、同一の番号を附し、重複する説明は省略する。
【0054】
フィルター部40から所定周波数(4.5963GHz)で出力される出力電力は、所定周波数の1/2(2.29816GHz)、および所定周波数の1.5倍(6.89448GHz)で出力される出力電力との相対値で、20dB以上大きいことが望ましい。この特性を実現するためには、フィルター部40に、所定周波数を通過させ、所定周波数の1/2の周波数で出力される出力電力を10dB以上、所定周波数の1.5倍の周波数で出力される出力電力を5dB以上減衰させるバンドパスフィルターを用いる必要がある。そこで、本変形では、フィルター部40に、複数の共振子を梯子状に接続したラダー型のバンドパスフィルターが用いられている。
【0055】
図10は、フィルター部(バンドパスフィルター)40の周波数特性を示す図である。
フィルター部40は、直列腕共振子S1と並列腕共振子P1,P2を備えたバンドパスフィルターを有している。直列腕共振子S1の共振周波数と、並列腕共振子P1,P2の反共振周波数を所定周波数(4.5963GHz)に略一致させることで、
図10に示すように、所定周波数を通過させ、直列腕共振子S1の反共振周波数と、並列腕共振子P1,P2の共振周波数とに減衰極を有する周波数特性が得られる。直列腕共振子S1、および並列腕共振子P1,P2は、圧電基板と、圧電基板の上に形成されたIDT(Inter Digital transducer)電極とを有する弾性波共振子や、上電極と、下電極と、上電極と下電極とに挟まれた圧電薄膜とを有する圧電薄膜共振子などを使用することができる。さらに、PLL回路20と共に、集積化されていても良い。なお、使用する共振子の数量や接続方法は、一例であり、これに限定されるものではない。また、フィルター部40に、LCフィルター、空洞共振器フィルター、ヘリカルフィルター、誘電体フィルターなどを接続してもよい。
【0056】
図11は、フィルター部40から出力されるマイクロ波の周波数特性を示す図である。バンドパスフィルターを有するフィルター部40を逓倍器25と増幅器6との間に接続することで、
図11に示すように、所定周波数(4.5963GHz)で出力される出力電力を、所定周波数の1/2の周波数(2.29816GHz)、および所定周波数の1.5倍(6.89448GHz)で出力される出力電力との相対比較で、20dB以上とすることができる。
【0057】
以上述べたように、本変形例に係る原子発振器50によれば、以下の効果を得ることができる。
原子発振器50は、PLL回路20に発振器(VCO)24から出力される発振周波数をn逓倍させる逓倍器25を備えている。これにより、増幅器6での消費電力と、発振器(VCO)24の調達コストとを抑制するができるため、消費電力を減少させ、製造コストを抑制した原子発振器50を提供することができる。さらに、量子干渉装置10とPLL回路20との間に、フィルター部40が接続されているため、所定周波数で出力される出力電力を、所定周波数の1/2、および所定周波数の1.5倍の周波数で出力される出力電力との相対比較で、20dB以上とすることができる。これにより、周波数安定度に優れた原子発振器50を提供することができる。
【0058】
<電子機器>
以上説明したような本発明の原子発振器は、各種電子機器に組み込むことができる。このような本発明の原子発振器を備える電子機器は、優れた信頼性を有する。以下、本発明の原子発振器を備える電子機器の一例について説明する。なお、以下の説明では、実施形態の原子発振器3を用いた例で説明する。
【0059】
まず、
図12を用いて、本発明に係る原子発振器を用いたクロック伝送システムについて説明する。
図12は、本発明に係る原子発振器を用いたクロック伝送システムの一例を示す概略構成図である。
【0060】
図12に示すクロック伝送システム500は、時分割多重方式のネットワーク内の各装置のクロックを一致させるものであって、N(Normal)系およびE(Emergency)系の冗長構成を有するシステムである。
【0061】
このクロック伝送システム500は、A局(N系)のCSM(Clock Supply Module(クロック供給装置))501およびSDH(Synchronous Digital Hierarchy)装置502と、B局(E系)のクロック供給装置503およびSDH装置504と、C局のクロック供給装置505およびSDH装置506,507とを備える。クロック供給装置501は、原子発振器3を有し、N系のクロック信号を生成する。このクロック供給装置501内の原子発振器3は、セシウムを用いた原子発振器を含むマスタークロック508,509からのより高精度なクロック信号と同期して、クロック信号を生成する。
【0062】
SDH装置502は、クロック供給装置501からのクロック信号に基づいて、主信号の送受信を行うとともに、N系のクロック信号を主信号に重畳し、下位のクロック供給装置505に伝送する。クロック供給装置503は、原子発振器3を有し、E系のクロック信号を生成する。このクロック供給装置503内の原子発振器3は、セシウムを用いた原子発振器を含むマスタークロック508,509からのより高精度なクロック信号と同期して、クロック信号を生成する。
【0063】
SDH装置504は、クロック供給装置503からのクロック信号に基づいて、主信号の送受信を行うとともに、E系のクロック信号を主信号に重畳し、下位のクロック供給装置505に伝送する。クロック供給装置505は、クロック供給装置501,503からのクロック信号を受信し、その受信したクロック信号に同期して、クロック信号を生成する。
【0064】
ここで、クロック供給装置505は、通常、クロック供給装置501からのN系のクロック信号に同期して、クロック信号を生成する。そして、N系に異常が発生した場合、クロック供給装置505は、クロック供給装置503からのE系のクロック信号に同期して、クロック信号を生成する。このようにN系からE系に切り換えることにより、安定したクロック供給を担保し、クロックパス網の信頼性を高めることができる。SDH装置506は、クロック供給装置505からのクロック信号に基づいて、主信号の送受信を行う。同様に、SDH装置507は、クロック供給装置505からのクロック信号に基づいて、主信号の送受信を行う。これにより、C局の装置をA局またはB局の装置と同期させることができる。
【0065】
<移動体>
また、前述したような本発明に係る原子発振器は、各種移動体に組み込むことができる。このような本発明の原子発振器を備える移動体は、優れた信頼性を有する。なお、以下の説明では、実施形態の原子発振器3を用いた例で説明する。
【0066】
以下、本発明に係る移動体の一例について、
図13を用いて説明する。
図13は、本発明に係る原子発振器を備える移動体(自動車)の構成を示す斜視図である。
【0067】
図13に示す移動体1500は、車体1501と、4つの車輪1502とを有しており、車体1501に設けられた図示しない動力源によって車輪1502を回転させるように構成されている。このような移動体1500には、原子発振器3が内蔵されている。そして、原子発振器3からの発振信号に基づいて、例えば、図示しない制御部が動力源の駆動を制御する。
【0068】
<GPSモジュール>
また、前述したような本発明に係る原子発振器は、GPSモジュールに組み込むことができる。このような本発明の原子発振器を備えるGPSモジュールは、優れた信頼性を有する。なお、以下の説明では、実施形態の原子発振器3を用いた例で説明する。
【0069】
図14を用いて、本発明に係る原子発振器を用いているGPS衛星を利用した測位システムについて説明する。
図14は、GPS衛星を利用した測位システムに本発明に係る原子発振器を用いた場合の概略構成を示す図である。
【0070】
図14に示す測位システム100は、GPS衛星200と、GPS受信装置300と、基地局装置400とで構成されている。GPS衛星200は、測位情報(GPS信号)を送信する。GPS受信装置300は、例えば電子基準点(GPS連続観測局)に設置されたアンテナ301を介してGPS衛星200からの測位情報を高精度に受信する受信装置302と、この受信装置302で受信した測位情報を、アンテナ303を介して送信する送信装置304とを備える。
【0071】
ここで、受信装置302は、その基準周波数発振源として前述した本発明に係る実施形態の原子発振器3と図示しない受信回路とを有するGPSモジュール310を備える電子装置である。このような受信装置302は、優れた信頼性を有する。また、受信装置302で受信された測位情報は、リアルタイムで送信装置304により送信される。基地局装置400は、GPS衛星200からの測位情報を、アンテナ401を介して受信する衛星受信部402と、GPS受信装置300からの測位情報を、アンテナ403を介して受信する基地局受信部404とを備える。なお、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の一例として、GPS衛星システムにて説明したが、GLONASS(Global Navigation Satellite System)やGalileoなど、他の衛星システムにも適用することができる。
【0072】
なお、本発明の原子発振器を組み込む電子機器または移動体は、前述したものに限定されず、例えば、携帯電話機、デジタルスチールカメラ、インクジェット式吐出装置(例えばインクジェットプリンター)、パーソナルコンピューター(モバイル型パーソナルコンピューター、ラップトップ型パーソナルコンピューター)、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシミュレーター等に適用することができる。
【0073】
以上、本発明の原子発振器、電子機器、移動体、およびGPSモジュールについて、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、例えば、前述した実施形態の各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。また、本発明は、前述した各実施形態の任意の構成同士を組み合わせるようにしてもよい。