(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記故障判定手段により前記ウェイストゲートバルブが故障している可能性があると判定された場合に、前記ウェイストゲートバルブを開閉させてクリーニングを実施するクリーニング手段を備え、
前記故障判定手段は、前記クリーニング手段によるクリーニング後においても前記設定手段で設定された前記目標位置と前記検出手段で検出された前記位置との差の絶対値が前記所定値以上の場合に、前記ウェイストゲートバルブが故障していると判定する
ことを特徴とする、請求項2記載のエンジンの制御装置。
前記故障判定手段により前記ウェイストゲートバルブが故障していると判定された場合に、前記故障を報知するとともに前記故障に対応した故障コードを記憶する故障報知手段を備える
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジンの制御装置は、
図1に示す車載ガソリンエンジン10(以下、単にエンジン10と呼ぶ)に適用される。このエンジン10は、排気圧を利用した過給システム及びEGRシステム(排気再循環システム)を備える。
図1では、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダ(気筒)のうちの一つを示す。シリンダ内にはピストンが摺動自在に内装され、ピストンの往復運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフトの回転運動に変換される。
【0019】
各シリンダの頂面には吸気ポート及び排気ポートが設けられ、それぞれのポート開口には吸気弁,排気弁が設けられる。また、吸気ポートと排気ポートとの間には、点火プラグ15がその先端を燃焼室側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ15での点火のタイミング(点火時期)は、後述するエンジン制御装置1で制御される。
【0020】
[1−2.燃料噴射系]
各シリンダへの燃料供給用のインジェクタとして、シリンダ内に直接的に燃料を噴射する筒内噴射弁(直噴インジェクタ)11が設けられる。筒内噴射弁11からの燃料噴射量及びその噴射タイミングは、エンジン制御装置1で制御される。例えば、エンジン制御装置1から筒内噴射弁11に制御パルス信号が伝達され、その制御パルス信号の大きさに対応する期間だけ、筒内噴射弁11の噴射口が開放される。これにより、燃料噴射量は制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)に応じた量となり、噴射開始時刻は制御パルス信号が伝達された時刻に対応したものとなる。
【0021】
筒内噴射弁11は、コモンレール13Aを含む燃料供給路13を介して流量可変型の燃料ポンプ14に接続される。燃料ポンプ14は、エンジン10や電動機などから駆動力の供給を受けて作動し、燃料タンク内の燃料を燃料供給路13に吐出する。これにより、燃料ポンプ14で加圧された燃料が、燃料供給路13からコモンレール13Aに供給され、各々のシリンダーに取り付けられた筒内噴射弁11を通じてシリンダー内へと供給される。燃料ポンプ14から吐出される燃料量及び燃圧は、エンジン制御装置1で制御される。
【0022】
[1−3.吸排気系]
吸気弁の上部は、バルブリフト量,バルブタイミングを変化させるための吸気可変動弁機構28に接続され、排気弁の上部は排気可変動弁機構29に接続される。吸気弁,排気弁の動作は、これらの可変動弁機構28,29を介して、後述するエンジン制御装置1で制御される。それぞれの可変動弁機構28,29には、例えばロッカアームの揺動量と揺動のタイミングとを変更する機構として、可変バルブリフト機構及び可変バルブタイミング機構が内蔵される。
【0023】
可変バルブリフト機構は、吸気弁及び排気弁の各々のバルブリフト量を連続的に変更する機構である。この可変バルブリフト機構は、カムシャフトに固定されたカムからロッカアームやタペットに伝達される揺動の大きさ(バルブリフト量)を変更する機能を持つ。また、可変バルブタイミング機構は、吸気弁及び排気弁の各々の開閉タイミング(バルブタイミング)を変更する機構である。この可変バルブタイミング機構は、ロッカアームに揺動を生じさせるカム又はカムシャフトの回転位相を変更する機能を持つ。
【0024】
エンジン10の吸気系20及び排気系30には、排気圧を利用してシリンダ内に吸気を過給するターボチャージャ(過給機)16が設けられる。ターボチャージャ16は、吸気ポートの上流側に接続された吸気通路21と、排気ポートの下流側に接続された排気通路31との両方に跨って介装される。ターボチャージャ16のタービン(過給用タービン)16Aは、排気通路31内の排気圧で回転し、その回転力を吸気通路21側のコンプレッサ16Bに伝達する。これを受けてコンプレッサ16Bは、吸気通路21内の空気を下流側へと圧縮しながら送給し、各シリンダへの過給を行う。ターボチャージャ16による過給操作は、エンジン制御装置1で制御される。
【0025】
吸気通路21上におけるコンプレッサ16Bよりも下流側にはインタークーラ25が設けられ、圧縮された空気が冷却される。また、コンプレッサ16Bよりも上流側にはエアフィルタ22が設けられ、外部から取り込まれる空気が濾過される。さらに、コンプレッサ16Bの上流側,下流側の吸気通路21を接続するように、吸気バイパス通路23が設けられるとともに、吸気バイパス通路23上にバイパスバルブ24が介装される。吸気バイパス通路23を流れる空気量は、バイパスバルブ24の開度に応じて調節される。バイパスバルブ24は、例えば車両の急減速時に開放方向に制御され、コンプレッサ16Bから送給される過給圧を再び上流側へと逃がすように機能する。なお、バイパスバルブ24の開度はエンジン制御装置1で制御される。
【0026】
吸気系20におけるコンプレッサ16Bよりも下流側と、排気系30におけるタービン16Aよりも上流側との間には、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路34が設けられる。EGR通路34は、シリンダから排出されて間もない排気を再びシリンダの直上流側へと導く通路である。EGR通路34には、還流ガスを冷却するためのEGRクーラ35が介装される。還流ガスを冷却することでシリンダ内での燃焼温度が低下し、窒素酸化物(NOx)の発生率が低下する。また、EGR通路34と吸気系20との合流部には、排気の還流量を調節するためのEGRバルブ36が介装される。EGRバルブ36の弁開度は可変であり、エンジン制御装置1で制御される。
【0027】
インタークーラ25の下流側にはスロットルボディが接続され、さらにその下流側にはインマニ(インテークマニホールド)が接続される。スロットルボディは、前述のEGR通路34と吸気系20との合流部よりも上流側に配置される。スロットルボディの内部には、電子制御式のスロットルバルブ26が設けられる。インマニへと流れる空気量は、スロットルバルブ26の開度(スロットル開度TH)に応じて調節される。スロットル開度THは、エンジン制御装置1によって制御される。
【0028】
インマニには、各シリンダへと流れる空気を一時的に蓄えるためのサージタンク27が設けられる。前述のEGR通路34と吸気系20との合流部は、サージタンク27よりも上流側に位置する。サージタンク27よりも下流側のインマニは、各シリンダの吸気ポートに向かって分岐するように形成され、サージタンク27はその分岐点に位置する。サージタンク27は、各シリンダで発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0029】
排気通路31上におけるタービン16Aよりも下流側には、触媒装置33が介装される。この触媒装置33は、例えば排気中に含まれるPM(Particulate Matter,粒子状物質)や窒素酸化物(NOx),一酸化炭素(CO),炭化水素(HC)等の成分を浄化,分解,除去する機能を持つ。また、タービン16Aよりも上流側には、各シリンダの排気ポートに向かって分岐形成されたエキマニ(エキゾーストマニホールド)が接続される。
【0030】
タービン16Aの上流側,下流側の排気通路31を接続するように排気バイパス通路(迂回路)32が設けられるとともに、排気バイパス通路32上に電子制御式のウェイストゲートバルブ17が介装される。ウェイストゲートバルブ17は、タービン16A側に流入する排気流量を制御して過給圧を変化させる過給圧調節弁である。このウェイストゲートバルブ17には電動アクチュエータ18が併設される。電動アクチュエータ18は、車両に搭載された補機バッテリや駆動バッテリ等の電力を駆動源とし、その動作はエンジン制御装置1で制御される。
【0031】
ウェイストゲートバルブ17は、排気バイパス通路32を開閉する弁体17aと、弁体17aと電動アクチュエータ18とを機械的に連結し、電動アクチュエータ18により往復駆動されるロッド(弁体駆動部材)17bとを有する。弁体17aは、ロッド17bのストローク量(ロッド17bの軸線方向への移動長さ)に応じて開閉動作するように連結されており、弁体17aの位置S(以下、バルブ位置Sという)はエンジン制御装置1で制御される。バルブ位置Sは、ウェイストゲートバルブ17の全閉時の弁体17aの位置Sが基準位置S
BA(すなわち0)とされる。この基準位置S
BAからのロッド17bのストローク量は、ウェイストゲートバルブ17のバルブ開度Dに対応する。つまり、バルブ開度Dは、エンジン制御装置1により電気的に制御される。
【0032】
[1−4.検出系]
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度APS)を検出するアクセルポジションセンサ41が設けられる。アクセル開度APSは、運転者の加速要求や発進意思に対応するパラメータであり、言い換えるとエンジン10の負荷(エンジン10に対する出力要求)に相関するパラメータである。
【0033】
吸気通路21内には、吸気流量Qを検出するエアフローセンサ42が設けられる。吸気流量Qは、エアフィルタ22を通過した空気の流量に対応するパラメータである。また、サージタンク27内には、インマニ圧センサ43及び吸気温センサ44が設けられる。インマニ圧センサ43はサージタンク27内の圧力をインマニ圧として検出し、吸気温センサ44はサージタンク27内の吸気温度を検出する。
【0034】
クランクシャフト近傍には、エンジン回転速度Ne(単位時間あたりの回転数)を検出するエンジン回転速度センサ45が設けられる。また、エンジン10の冷却水循環路上における任意の位置には、エンジン冷却水の温度(水温WT)を検出する冷却水温センサ46が設けられる。さらに、燃料ポンプ14には、筒内噴射弁11から噴射される燃料の圧力(燃圧)を検出する燃圧センサ50が設けられる。
【0035】
電動アクチュエータ18には、バルブ開度Dに対応するロッド17bのストローク量を検出するホールセンサ47が設けられる。ホールセンサ47は、ホール素子を利用した位置検出センサであり、ホールセンサ47によりバルブ位置Sが検出される。また、触媒装置33の内部には、リニア空燃比センサ48及び酸素濃度センサ49が配置される。リニア空燃比センサ48は、触媒装置33に流入する排気の空燃比を検出し、酸素濃度センサ49は触媒装置33から流出する排気の酸素濃度を検出する。各種センサ41〜50で検出された各種情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
また、車両のメータパネルには、ウェイストゲートバルブ17が故障した場合に、ユーザに故障を報知するための警告灯51が設けられている。
【0036】
[1−5.制御系]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1が設けられる。エンジン制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワークの通信ラインに接続される。
【0037】
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダに対して供給される空気量や燃料噴射量,各シリンダの点火時期,過給圧等を制御するものである。エンジン制御装置1の入力ポートには、前述の各種センサ41〜50が接続される。入力情報は、アクセル開度APS,吸気流量Q,インマニ圧,吸気温度,エンジン回転速度Ne,冷却水温WT,バルブ位置S,排気空燃比,酸素濃度,燃圧等である。
【0038】
エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、筒内噴射弁11から噴射される燃料噴射量とその噴射時期,点火プラグ15による点火時期,吸気弁及び排気弁のバルブリフト量及びバルブタイミング,ターボチャージャ16の作動状態,スロットル開度TH,バイパスバルブ24の開度,ウェイストゲートバルブ17のバルブ開度D,警告灯51の点灯等が挙げられる。本実施形態では、ウェイストゲートバルブ17に関する開度制御,学習制御,故障制御及びクリーニング制御と、スロットルバルブ26に関する開度制御(スロットル制御)とについて説明する。
【0039】
[2.制御の概要]
[2−1.ウェイストゲートバルブの開度制御]
開度制御とは、エンジン10の運転状態やエンジン10に要求される出力の大きさに応じて、ウェイストゲートバルブ17のバルブ開度Dを最適なものとする制御である。ウェイストゲートバルブ17の開度制御の精度は過給圧制御の精度を左右する。言い換えると、バルブ開度Dを高精度に制御することができれば、過給圧制御の精度を高めることができる。
【0040】
開度制御では、例えばエンジン回転速度Neやエンジン10に作用する負荷P,空気量,充填効率Ec(目標充填効率,実充填効率など),アクセル開度APS等に基づき、バルブ開度Dの目標値(目標開度)D
TGTが設定される。そして、設定された目標開度D
TGTとなるようにロッド17bが電動アクチュエータ18により制御される。なお、開度制御では、次に説明する学習制御において設定された基準位置S
BA及び基準動作範囲R
BAを用いて目標開度D
TGTが設定されて、バルブ開度Dが制御される。
【0041】
[2−2.学習制御]
学習制御とは、ホールセンサ47を用いて、ウェイストゲートバルブ17の基準位置S
BA及び基準動作範囲R
BAを定める制御である。これら基準位置S
BA及び基準動作範囲R
BAは、ウェイストゲートバルブ17の開度制御時の基準となる値である。学習制御は、エンジン10の始動前に実施され、1ドライブサイクル中に一度だけ行われる。ここではイグニッションキーのオン操作(以下、キーオンという)後のクランキング前に実施される。なお、ここでいうドライブサイクルとは、キーオンから再度のキーオンまでの期間を意味する。つまり、学習制御は、キーオンされてからキーオフされるまでの間に一度だけ実施される。
【0042】
学習制御では、まずウェイストゲートバルブ17が全閉に制御され、その時のバルブ位置Sがホールセンサ47により検出されて、全閉位置S
CLとして記憶される。続いて、ウェイストゲートバルブ17が全開に制御されて、その時のバルブ位置Sがホールセンサ47により検出されて、全開位置S
OPとして記憶され、全閉位置S
CLと全開位置S
OPとから、弁体17aの動作範囲Rが演算される。そして、これらの検出結果及び演算結果から、初期全閉位置IS
CL及び初期動作範囲IRが学習される。すなわち、これら初期全閉位置IS
CL及び初期動作範囲IRは、学習制御により学習された値である。
【0043】
例えば、ホールセンサ47で検出された全閉位置S
CLを、そのまま初期全閉位置IS
CLとして設定(学習)してもよいし、検出された全閉位置S
CLとメモリに記憶されている前回制御時の初期全閉位置IS
CL′とに基づいて、初期全閉位置IS
CLを学習してもよい。ここで学習された初期全閉位置IS
CLはメモリに記憶されるとともに、基準位置S
BAとして設定される。
【0044】
また、例えば演算された動作範囲Rを、そのまま初期動作範囲IRとして設定(学習)してもよいし、演算された動作範囲Rとメモリに記憶されている前回制御時の初期動作範囲IR′とに基づいて、初期動作範囲IRを学習してもよい。ここで学習された初期動作範囲IRはメモリに記憶されるとともに、基準動作範囲R
BAとして設定される。
【0045】
[2−3.故障制御]
故障制御とは、学習制御での結果やホールセンサ47での検出結果を用いて、ウェイストゲートバルブ17が正常に作動するか否かを判定し、正常に作動しない(故障している)場合にはユーザに故障を報知する制御である。故障制御には、エンジン10の始動前に実施される第一故障制御と、エンジン10の始動後に実施される第二故障制御とがある。第一故障制御は、1ドライブサイクル中に一度だけ(例えば、キーオン後のクランキング前に)実施される。一方、第二故障制御は、1ドライブサイクル中に何度も実施され、一度「故障している」と判定された後は、次にキーオンされるまで故障判定は行われない。
【0046】
第一故障制御では、学習制御で学習された初期動作範囲IRが所定範囲R
P未満の場合に、ウェイストゲートバルブ17が故障していると判定される。つまり、エンジン10の始動前に、ウェイストゲートバルブ17が全閉に制御されたのち全開に制御されても、バルブ位置Sの変動が所定範囲R
P内であった場合には、ウェイストゲートバルブ17が正常に作動しないと判定される。
【0047】
なお、初期動作範囲IRの代わりに、基準動作範囲R
BAにより故障判定が実施されてもよいし、ウェイストゲートバルブ17が全閉に制御された時の位置(全閉位置S
CL)と全開に制御された時の位置(全開位置S
OP)とが所定範囲R
P内にある場合に、ウェイストゲートバルブ17が故障していると判定されてもよい。ここで、所定範囲R
Pは、予め設定された一定値であり、例えばウェイストゲートバルブ17が正常であれば動く範囲(移動長さ)程度に設定されている。
【0048】
第二故障制御では、開度制御において設定された目標開度D
TGTに対応するバルブ位置(後述の目標位置S
TGT)と、ホールセンサ47で検出された実際のウェイストゲートバルブ17のバルブ位置(以下、実位置S
Aという)とから、ウェイストゲートバルブ17の故障が判定される。ここでは、まず、目標位置S
TGTと実位置S
Aとの差の絶対値|S
TGT-S
A|と所定値S
Tとが比較され、絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T未満の場合にはウェイストゲートバルブ17は正常であると判定され、絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上の場合にはウェイストゲートバルブ17が故障している可能性があると判定される。
【0049】
ウェイストゲートバルブ17が故障している可能性があると判定された場合は、目標位置S
TGTと実位置S
Aとの関係から故障の種類(開故障か閉故障か)が判定される。例えば、実位置S
Aと基準位置S
BAとの距離が、目標位置S
TGTと基準位置S
BAとの距離よりも長い場合(すなわち、基準位置S
BAと実位置S
Aとの間に目標位置S
TGTが存在する場合)は、ウェイストゲートバルブ17が閉じ側に移動していないことになるため、故障の種類は開故障と判定される。
【0050】
この場合は、後述のクリーニング制御が実施された後、再び同様の判定が行われる。つまり、クリーニング後においても、目標位置S
TGTと実位置S
Aとの差の絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上であり、且つ、実位置S
Aと基準位置S
BAとの長さが目標位置S
TGTと基準位置S
BAとの長さよりも長い場合に、ウェイストゲートバルブ17が開故障していると判定される。これは、開故障の場合は、単なる噛みこみの場合があり得るため、一度クリーニングを実施することで、噛みこみによる目標位置S
TGTと実位置S
Aとのずれを解消し、故障判定精度を高めるためである。
【0051】
一方、実位置S
Aと基準位置S
BAとの長さが、目標位置S
TGTと基準位置S
BAとの長さよりも短い場合(すなわち、基準位置S
BAと目標位置S
TGTとの間に実位置S
Aが存在する場合)は、ウェイストゲートバルブ17が開き側に移動していないことになるため、故障の種類は閉故障と判定される。この場合は、クリーニング制御が実施されることなくウェイストゲートバルブ17が閉故障していると判定される。
【0052】
第一故障制御及び第二故障制御において、ウェイストゲートバルブ17が故障していると判定された場合は、警告灯51の点灯やアラームによりユーザに故障が報知される。また、ウェイストゲートバルブ17の故障に対応した故障コードがエンジン制御装置1に記憶される。これにより、ユーザに対して車両を販売会社や修理工場等へ持ち込むことを促すことができ、修理者に対して故障内容を容易に認識させることが可能である。
【0053】
[2−4.クリーニング制御]
クリーニング制御とは、上述の第二故障制御において、ウェイストゲートバルブ17が故障している可能性があり、故障の種類が開故障であると判定された場合に実施される制御である。クリーニング制御では、ウェイストゲートバルブ17が強制的に開閉されてクリーニングが実施される。ここでいう強制的とは、上述の開度制御とは無関係にウェイストゲートバルブ17を開閉させることを意味する。
【0054】
ウェイストゲートバルブ17には、排気に含まれるカーボンが付着することがあり、付着したカーボンが固着してデポジットとなると、ウェイストゲートバルブ17の動作不良の原因となりうる。特に、筒内噴射弁11により燃料噴射されるエンジン10の場合は、デポジットが発生する可能性が高い。そこで、第二故障制御において開故障している可能性があると判定された場合は、カーボンが付着していたりデポジットが発生している可能性があると判断されて、ウェイストゲートバルブ17がクリーニングされる。
【0055】
具体的には、ウェイストゲートバルブ17が全閉に制御されたのち全開に制御されることが繰り返し実施される。これにより、弁体17aやロッド17bに付着したカーボンが払い落とされて、ウェイストゲートバルブ17からカーボンが除去され、デポジットの発生が防止される。特に、エンジン10の作動中にクリーニングが実施されると、ウェイストゲートバルブ17から除去されたカーボンが排気により吹き飛ばされるため、より効果的にカーボンを除去することができる。
【0056】
[2−5.スロットル制御]
スロットル制御とは、エンジン10の運転状態に基づいてスロットルバルブ26の開度(スロットル開度TH)を最適なものとする制御である。スロットル制御では、例えばエンジン回転速度Neやエンジン負荷P,空気量,充填効率Ec(目標充填効率,実充填効率など),過給圧,アクセル開度APS,冷却水温WT等に基づいてスロットル開度THの目標値(目標スロットル開度)TH
TGTが設定される。そして、設定された目標スロットル開度TH
TGTとなるようにスロットルバルブ26が制御される。
【0057】
なお、スロットル制御では、上述の第一故障制御においてウェイストゲートバルブ17が故障していると判定された場合、及び、第二故障制御においてウェイストゲートバルブ17が閉故障していると判定された場合に、スロットル開度THの上限値TH
MAXが制限される。言い換えると、予め設定されているスロットル開度THの上限値TH
MAXが小さい値に変更される。これにより、設定された目標スロットル開度TH
TGTが変更された上限値TH
MAX′よりも大きい場合は、スロットルバルブ26は変更された上限値TH
MAX′までしか開かれないことになる。これは、ウェイストゲートバルブ17が所定範囲R
P以上動かない場合や閉故障した場合には、スロットル開度THを絞ることで過給圧の過剰な上昇を抑制するためである。
【0058】
[3.制御構成]
図1に示すように、上記の制御を実施するための要素として、エンジン制御装置1には、エンジン負荷算出部2,ウェイストゲート演算部3及びスロットル演算部4が設けられる。また、
図1及び
図2に示すように、ウェイストゲート演算部3には、学習部3a,バルブ開度設定部3b,開度制御部3c,故障判定部3d,故障報知部3e及びクリーニング部3fが設けられ、スロットル演算部4には、スロットル開度設定部4a及びスロットル制御部4bが設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0059】
[3−1.エンジン負荷算出部]
エンジン負荷算出部2は、エンジン10の負荷Pの大きさを算出するものである。ここでいう負荷Pとは、エンジン10に対して抵抗を及ぼす力,仕事率(エンジン出力,馬力),仕事(エネルギ)等を意味する。典型的には、エンジン10に要求されるエンジン出力やこれに相関するパラメータが負荷Pとして取り扱われる。
【0060】
負荷Pは、例えばシリンダに導入された空気量に基づいて算出される。あるいは、吸気流量,排気流量等に基づいて算出される。その他、吸気圧や排気圧,車速V,回転速度Ne,アクセル開度APS,外部負荷装置の作動状態等に基づいて負荷Pを算出してもよい。本実施形態では、吸気流量Qと回転速度Neとに基づいて充填効率Ec又は体積効率Evが算出され、これらの値に基づいて負荷Pの大きさが算出される。ここで算出された負荷Pの値は、ウェイストゲート演算部3及びスロットル演算部4に伝達される。
【0061】
[3−2.ウェイストゲート演算部]
学習部3aは、エンジン10の始動前に上述の学習制御を実施するものである。具体的には、学習部3aは、キーオン後エンジン10が始動する前に、ウェイストゲートバルブ17を全閉にしたのち全開に制御する(全閉状態から全開状態まで一往復させる)。
【0062】
このとき、ホールセンサ47で検出された全閉位置S
CL及び全開位置S
OPを用いて、初期全閉位置IS
CL及び初期動作範囲IRを学習する。そして、これら初期全閉位置IS
CL及び初期動作範囲IRを、基準位置S
BA及び基準動作範囲R
BAとして設定する。ここで設定された基準位置S
BA及び基準動作範囲R
BAは、バルブ開度設定部3bに伝達される。また、初期動作範囲IRは故障判定部3dに伝達される。
【0063】
バルブ開度設定部(設定手段)3b及び開度制御部(制御手段)3cは、上述の開度制御を実施するものである。バルブ開度設定部3bは、エンジン10の運転状態に基づいてウェイストゲートバルブ17の目標開度D
TGTを設定し、目標開度D
TGTに対応するバルブ位置(目標位置S
TGT)を設定するものである。目標開度D
TGTは、例えばエンジン回転速度Neやエンジン負荷P,空気量,充填効率Ec(目標充填効率,実充填効率など),過給圧,アクセル開度APS,冷却水温WT等に基づいて設定される。バルブ開度設定部3bは、設定した目標開度D
TGTとなる目標位置S
TGTを、例えば
図3に示すようなマップを用いて設定する。
図3は、横軸にウェイストゲートバルブ17のバルブ開度D,縦軸にバルブ位置Sをとったマップであり、これにより目標開度D
TGTに対応した目標位置S
TGTが設定される。
【0064】
バルブ開度設定部3bは、予め設定されたマップ(図中の実線)に対して、学習部3aから伝達された基準位置S
BA及び基準動作範囲R
BAを反映させる。具体的には、バルブ開度設定部3bは、伝達された基準位置S
BA(図中白丸)をウェイストゲートバルブ17の全閉時のバルブ位置として設定(更新)し、伝達された基準動作範囲R
BA(図中一点鎖線)をウェイストゲートバルブ17の全閉から全開までの動作範囲として設定(更新)する。つまり、バルブ開度設定部3bは、学習部3aでの学習結果を用いて、目標開度D
TGTに対応する目標位置S
TGTを調整する。バルブ開度設定部3bで設定された目標位置S
TGTは、開度制御部3c及び故障判定部3dに伝達される。
【0065】
開度制御部3cは、バルブ開度設定部3bで設定された目標開度D
TGTに対応する目標位置S
TGTに応じて電動アクチュエータ18の制御信号を出力する。ここでは、実際のバルブ位置Sが目標位置S
TGTとなるように、電動アクチュエータ18へと制御信号が出力される。これにより、バルブ開度Dが目標開度D
TGTに制御される。
【0066】
故障判定部(故障判定手段)3d及び故障報知部(故障報知手段)3eは、上述の故障制御を実施するものである。故障判定部3dは、まず、エンジン10の始動前に第一故障制御を実施する。すなわち、学習部3aから伝達された初期動作範囲IRと所定範囲R
Pとを比較し、初期動作範囲IRが所定範囲R
P未満である場合にウェイストゲートバルブ17が故障していると判定する。
【0067】
また、故障判定部3dは、エンジン10の始動後に第二故障制御を実施する。すなわち、バルブ開度設定部3bで設定された目標位置S
TGTとこの時点でのウェイストゲートバルブ17の実位置S
Aとの差の絶対値|S
TGT-S
A|を演算し、絶対値|S
TGT-S
A|と所定値S
Tとを比較する。故障判定部3dは、絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上の場合は故障している可能性があると判定し、絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T未満の場合は正常であると判定する。
【0068】
故障判定部3dは、故障の可能性ありと判定した場合は、目標位置S
TGTと実位置S
Aとの関係から故障の種類を判定する。ここで、開故障であると判定した場合は、クリーニングを実施するようにクリーニング部3fへ指令を送る。故障判定部3dは、クリーニング後においても絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上の場合に、ウェイストゲートバルブ17が開故障していると判定する。
【0069】
また、故障判定部3dは、絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上の場合であって、故障の種類が閉故障であると判定した場合は、クリーニングを実施することなくウェイストゲートバルブ17が閉故障していると判定する。この場合、故障判定部3dは、スロットル開度THの上限値TH
MAXを制限するようにスロットル開度設定部4aに指令を送る。故障判定部3dでの判定結果は、故障報知部3eに伝達される。
【0070】
故障報知部3eは、故障判定部3dからウェイストゲートバルブ17が故障しているという判定結果が伝達された場合に、警告灯51を点灯させ、ユーザに故障を報知する。さらに、ウェイストゲートバルブ17の故障に対応する故障コードを記憶する。例えば、第一故障制御において故障と判定された場合には、当該故障に対応する故障コードを記憶し、第二故障制御において開故障,閉故障と判定された場合には、これらの故障に対応する故障コードを記憶する。なお、故障報知部3eは、警告灯51の代わりにアラームを鳴らしてユーザに故障を報知してもよいし、警告灯51とアラームとを併用してもよい。
【0071】
クリーニング部(クリーニング手段)3fは、上述のクリーニング制御を実施するものである。すなわち、クリーニング部3fは、故障判定部3dからクリーニングを実施する旨の指令が伝達された場合にウェイストゲートバルブ17を開閉させてクリーニングを実施する。
【0072】
[3−3.スロットル演算部]
スロットル開度設定部(スロットル開度設定手段)4a及びスロットル制御部4bは、上述のスロットル制御を実施するものである。スロットル開度設定部4aは、エンジン10の運転状態に基づいてスロットルバルブ26の目標開度である目標スロットル開度TH
TGTを設定する。目標スロットル開度TH
TGTは、例えばエンジン回転速度Neやエンジン負荷,空気量,充填効率Ec(目標充填効率,実充填効率など),過給圧,アクセル開度APS,冷却水温WT等に基づいて設定される。本実施形態では、エンジン回転速度Neと充填効率Ecとを引数とした三次元マップに基づいて目標スロットル開度TH
TGTが算出される。このマップ上では、エンジン回転速度Neが高いほど、あるいは充填効率Ecが大きいほど、目標スロットル開度TH
TGTが増大するような開度特性が設定される。なお、具体的な開度特性については記載を省略する。
【0073】
なお、スロットル開度設定部4aは、故障判定部3dからスロットル開度THの上限値TH
MAXを制限する旨の指令が伝達された場合に、予め設定されているスロットル開度THの上限値TH
MAXを小さな値に変更する。これにより、スロットル開度設定部4aは、エンジン10の運転状態に基づいて設定しようとする目標スロットル開度TH
TGTが変更された上限値TH
MAX′よりも大きくなる場合は、目標スロットル開度TH
TGTを変更された上限値TH
MAX′に設定する。ここで設定された目標スロットル開度TH
TGTの情報は、スロットル制御部4bに伝達される。
【0074】
スロットル制御部4bは、スロットル開度設定部4aで設定された目標スロットル開度TH
TGTに応じて、スロットルバルブ26の制御信号を出力するものである。ここでは、実際のスロットル開度THが目標スロットル開度TH
TGTとなるように、スロットルバルブ26へと制御信号が出力される。
【0075】
[4.フローチャート]
図4〜
図6は、学習制御,ウェイストゲートバルブ17の開度制御及び故障制御の各手順を説明するためのフローチャートである。これらのフローチャートは、それぞれ、キーオンと共にスタートされ、エンジン制御装置1において予め設定された所定の演算周期で繰り返し実施される。
【0076】
まず、学習部3aにおいて実施される学習制御について説明する。
図4に示すように、ステップW10では、ウェイストゲートバルブ17が全閉にされた時のバルブ位置(全閉位置)S
CLが検出されるとともに、ウェイストゲートバルブ17が全開にされた時のバルブ位置(全開位置)S
OPが検出されて、動作範囲Rが演算される。続くステップW20では、初期全閉位置IS
CL及び初期動作範囲IRが学習される。そして、ステップW30では、初期全閉位置IS
CLが基準位置S
BAに設定されるとともに、初期動作範囲IRが基準動作範囲R
BAに設定される。
【0077】
続くステップW40では、バルブ開度設定部3bに基準位置S
BA及び基準動作範囲R
BAが伝達され、故障判定部3dに初期動作範囲IRが伝達される。そして、このフローを終了する。つまり、このフローチャートは、キーオン直後に(すなわちエンジン10が始動される前に)、一度だけ実施されることになる。
【0078】
次に、バルブ開度設定部3b及び開度制御部3cにおいて実施される開度制御について説明する。
図5に示すように、ステップX10では、各種センサ41〜50で検出された各種情報がエンジン制御装置1に入力される。また、エンジン負荷算出部2においてエンジン10の負荷Pが算出され、負荷Pの情報がバルブ開度設定部3bへ伝達される。ステップX20では、バルブ開度設定部3bにおいてウェイストゲートバルブ17の目標開度D
TGTが設定される。
【0079】
続くステップX30では、バルブ開度Dとバルブ位置Sとの関係が設定されたマップに学習部3aから伝達された基準位置S
BA及び基準動作範囲R
BAが反映される。ステップX40では、設定された目標開度D
TGTに対応する目標位置S
TGTが設定される。そして、ステップX50では、開度制御部3cにおいて、実際のバルブ位置Sが設定された目標位置S
TGTとなるように、電動アクチュエータ18へと制御信号が出力され、このフローをリターンする。
【0080】
次に、故障判定部3d及び故障報知部3eにおいて実施される故障制御について説明する。
図6に示すように、ステップY10では、フラグAがA=0であるか否かが判定される。ここで、フラグAは、エンジン10が始動されたか否かをチェックするための変数であり、A=0はエンジン10の始動前に対応し、A=1はエンジン10の始動後に対応する。フラグAがA=0の場合はステップY20へ進み、A=1の場合はステップY110へ進む。
【0081】
ステップY20では、フラグBがB=0であるか否かが判定される。ここで、フラグBは、第一故障制御に係る判定が実施されたか否かをチェックするための変数であり、B=0は第一故障制御の判定前に対応し、B=1は第一故障制御の判定後に対応する。フラグBがB=0の場合はステップY30へ進み、B=1の場合はステップY80へ進む。
【0082】
ステップY30では、学習部3aから初期動作範囲IRが伝達されたか否か(すなわち、
図5のフローチャートのステップW40が実施されたか否か)が判定される。初期動作範囲IRが伝達されていなければこのフローをリターンし、初期動作範囲IRが伝達されるまでステップY10〜ステップY30の処理が繰り返される。初期動作範囲IRが伝達されると、ステップY40に進み、初期動作範囲IRが所定範囲R
P未満であるか否かが判定される。
【0083】
初期動作範囲IRが所定範囲R
P未満の場合は、ウェイストゲートバルブ17が故障しているものと判断されて、ステップY50に進む。ステップY50では、スロットル開度THの上限値TH
MAXを制限するようにスロットル開度設定部4aへ指令が送られる。続く、ステップY60では、第一故障制御に対応する故障コードが記憶される。なお、フローチャートでは、他の故障コードと区別すべく、「故障コード(初期)」と表現している。そして、ステップY50では警告灯51が点灯されて、ユーザに故障が報知され、このフローを終了する。
【0084】
一方、ステップY40において、初期動作範囲IRが所定範囲R
P以上の場合は、ステップY80へ進み、フラグBがB=1に設定される。ステップY90では、エンジン10が始動されたか否かが判定される。エンジン10が未だ始動されていなければこのフローをリターンする。この場合は、次の演算周期において、ステップY20からステップY80へ進み、ステップY90において同様の判定が実施される。
【0085】
エンジン10が始動されると、ステップY100ではフラグAがA=1に設定される。続くステップY110では、キーオフされたか否かが判定される。キーオン状態が継続中であればステップY120へ進み、キーオフされた場合はステップY260へ進む。ステップY120では、バルブ開度設定部3bにおいて目標位置S
TGTが設定されたか否か(すなわち、
図6のフローチャートのステップX40が実施されたか否か)が判定される。目標位置S
TGTが設定されていなければこのフローをリターンし、目標位置S
TGTが設定されていればステップY130へ進む。
【0086】
目標位置S
TGTが設定されている場合、開度制御部3cによりウェイストゲートバルブ17はバルブ位置Sが目標位置S
TGTとなるように制御される。ステップY130では、ホールセンサ47によりこのときのウェイストゲートバルブ17の実位置S
Aが検出される。そして、ステップY140では、目標位置S
TGTと実位置S
Aとの差の絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上であるか否かが判定される。絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上のときはステップY145へ進み、絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T未満のときはステップY270へ進む。
【0087】
ステップY145では、故障の種類が開故障であるか否かが判定される。この判定では、例えば上述したように、実位置S
Aと基準位置S
BAとの距離が目標位置S
TGTと基準位置S
BAとの距離よりも長いか否かや、基準位置S
BAと実位置S
Aとの間に目標位置S
TGTが存在するか否かが判定される。故障の種類が開故障であると判定されると、ステップY150においてフラグKがK=1であるか否かが判定される。
【0088】
ここで、フラグKは、クリーニングが実施されたか否かをチェックするための変数であり、K=0はクリーニングを実施していない場合に対応し、K=1はクリーニング実施済みに対応する。フラグKがK=0の場合はステップY160へ進み、K=1の場合はステップY180へ進む。ステップY160では、クリーニング部3fへクリーニングを実施する旨の指令が送られ、ステップY170では、フラグKがK=1に設定されて、このフローをリターンする。
【0089】
次の演算周期においても、ステップY120で設定されている目標位置S
TGTと、ステップY130で検出された実位置S
Aとの差の絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上であり、故障の種類が開故障である場合は、再びステップY150の判定に進む。今回はフラグKがK=1に設定されているため、ステップY180へ進み、ウェイストゲートバルブ17が開故障していると判定される。つまり、故障の可能性があり、故障の種類が開故障の場合は、クリーニングを実施してもなお目標位置S
TGTと実位置S
Aとの差の絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上の場合に、正式に故障と判定される。
【0090】
ステップY180では、第二故障制御の開故障に対応する故障コードが記憶される。なお、フローチャートでは、他の故障コードと区別すべく、「故障コード(開)」と表現している。そして、ステップY190では警告灯51が点灯されて、ユーザに故障が報知され、ステップY200ではフラグA,B及びKが全て0にリセットされて、このフローを終了する。
【0091】
一方、クリーニングを実施した結果、次の演算周期において、ステップY120で設定されている目標位置S
TGTと、ステップY130で検出された実位置S
Aとの差の絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T未満となった場合は、ステップY270へ進む。ステップY270では、フラグKがK=0にリセットされ、このフローをリターンする。つまりこの場合は、カーボン等の付着により目標位置S
TGTと実位置S
Aとがずれていたと考えられ、故障とは判定されない。
【0092】
また、ステップY145において、開故障ではない(すなわち閉故障である)と判定された場合は、即座にウェイストゲートバルブ17が閉故障していると判定され、ステップY220に進む。ステップY220では、スロットル開度THの上限値TH
MAXを制限するようにスロットル開度設定部4aへ指令が送られる。続く、ステップY230では、第二故障制御の閉故障に対応する故障コードが記憶される。なお、フローチャートでは、他の故障コードと区別すべく、「故障コード(閉)」と表現している。そして、ステップY240では警告灯51が点灯されて、ユーザに故障が報知され、ステップY200ではフラグA,B及びKが全て0にリセットされて、このフローを終了する。
【0093】
このフローチャートは、一度故障と判定された場合は演算が終了され、次にキーオンされると再び実施される。一方、一度も故障と判定されない場合は、キーオフされるまでの間繰り返し実施され、キーオフされた場合は、ステップY110からステップY260へ進み、フラグA,K及びBが全て0にリセットされて、このフローを終了する。
【0094】
[5.効果]
(1)上記のエンジン制御装置1では、ホールセンサ47により検出された実際のウェイストゲートバルブ17の位置を用いてウェイストゲートバルブ17の故障判定を実施するため、故障判定の精度を高めることができる。さらに、エンジン10の始動前とエンジン10の始動後の二段階で故障判定を実施するため、故障判定精度をより高めることができる。
【0095】
(2)上記のエンジン制御装置1では、エンジン10の始動前に、ウェイストゲートバルブ17の全閉位置S
CLと全開位置S
OPとがホールセンサ47により検出され、弁体17aの動作範囲Rから求められる初期動作範囲IRが所定範囲R
P内であれば、ウェイストゲートバルブ17が故障していると判定される。つまり、ウェイストゲートバルブ17に対する指令値とセンサ値とを比較して故障が判定されるのではなく、検出されたウェイストゲートバルブ17の全閉位置S
CLと全開位置S
OPとから故障が判定される。
【0096】
言い換えると、上記のエンジン制御装置1は、エンジン10の始動前に、指令値どおりにウェイストゲートバルブ17が動くかどうかで故障を判定するのではなく、ウェイストゲートバルブ17が閉じ側,開き側に正しく動作するか否かをセンサ値を用いてチェックし、動作しないのであれば故障と判定する。これにより、ウェイストゲートバルブ17の故障を早期に発見することができる。
【0097】
(3)上記のエンジン制御装置1では、エンジン10の始動後において、バルブ開度設定部3bで設定された目標位置S
TGTとホールセンサ47で検出された実位置S
Aとの差の絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上の場合に、ウェイストゲートバルブ17が故障している可能性があると判定される。つまり、エンジン10の始動した後は、設定された目標位置S
TGTと検出された実位置S
Aとを比較してウェイストゲートバルブ17の故障可能性を判定する。これにより、ウェイストゲートバルブ17の故障判定精度を高めることができる。
【0098】
(4)また、上記のエンジン制御装置1では、ウェイストゲートバルブ17が故障している可能性があると判定された場合にクリーニングが実施される。これにより、ウェイストゲートバルブ17に付着したカーボンが払い落とされ、ウェイストゲートバルブ17からカーボンが除去されるため、デポジットの発生を防止することができる。そして、クリーニング後においても目標位置S
TGTと実位置S
Aとの差の絶対値|S
TGT-S
A|が所定値S
T以上の場合に、ウェイストゲートバルブ17が故障していると判定するため、単なる噛みこみによる目標位置S
TGTと実位置S
Aとのずれを解消することができ、故障判定精度を高めることができる。
なお、エンジン10の作動中にクリーニングが実施されることで、ウェイストゲートバルブ17から除去されたカーボンを排気により吹き飛ばすことができ、より効果的にカーボンを除去することができる。
【0099】
(5)上記のエンジン制御装置1では、ウェイストゲートバルブ17が故障していると判定された場合に、ウェイストゲートバルブ17の故障が報知されるとともに、対応する故障コードが記憶される。これにより、ウェイストゲートバルブ17の故障をユーザに知らせることができる。また、故障コードを記憶しておくことで、修理担当者が故障内容を容易に理解することができる。
【0100】
(6)上記のエンジン制御装置1では、故障判定部3dによりウェイストゲートバルブ17が故障していると判定された場合に、スロットル開度THの上限値TH
MAXが制限される。そのため、ウェイストゲートバルブ17が故障している場合であっても過給圧の過剰な上昇を抑制できる。これにより、ウェイストゲートバルブ17が故障した場合であっても走行することが可能となり、ユーザが車両を販売会社や修理工場等へ持ち込むことができる。
【0101】
[6.その他]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上記実施形態では、第一故障制御において、学習制御で学習された初期動作範囲IRが所定範囲R
P未満の場合に、ウェイストゲートバルブ17の故障を判定しているが、第一故障制御における故障判定は上記のものに限られない。例えば、エンジン10の始動前に、ウェイストゲートバルブ17を全閉にした時のバルブ位置S(全閉位置S
CL)をホールセンサ47で検出し、続いて、ウェイストゲートバルブ17を全開にした時のバルブ位置S(全開位置S
OP)をホールセンサ47で検出する。そして、全閉位置S
CLと全開位置S
OPとが所定範囲R
P以内にある場合に、ウェイストゲートバルブ17が故障していると判定してもよい。この場合、学習部3aを省略することが可能である。
【0102】
また、上述した第二故障制御では、最初に故障の可能性の有無を判定し、次に故障の種類を判定しているが、第二故障制御はこれに限られない。例えば、目標位置S
TGTと実位置S
Aとの差を演算し、開故障判定用の閾値S
FO(以下、開故障閾値S
FOという)と閉故障判定用の閾値S
FC(以下、閉故障閾値S
FCという)とそれぞれ比較して、直接開故障か閉故障かを判定してもよい。この場合の判定手法について
図7及び
図8を用いて説明する。
【0103】
図7は、左端を基準位置S
BA(バルブ位置S=0)として、横軸にバルブ位置S(ストローク量)をとった図であり、弁体17aは基準動作範囲R
BAを移動し得る。一点鎖線は目標位置S
TGTであり、細破線は実位置S
Aである。なお、図中では実位置S
Aに下付添え字1,2を付している。
図7に示すように、実位置S
A1から目標位置S
TGTを引いた値(S
A1-S
TGT)が開故障閾値S
FO以上の場合は、ウェイストゲートバルブ17が開故障している可能性があると判定される。言い換えると、以下の式(1)を満たす場合は、ウェイストゲートバルブ17が開故障している可能性があると判定される。
【0104】
S
A1-S
TGT≧S
FO ・・・(1)
この式(1)を満たすと初めて判定された場合は、後述のクリーニング制御が実施され、ウェイストゲートバルブ17がクリーニングされる。そして、クリーニングされた後、再び上記の式(1)を満たす場合に、ウェイストゲートバルブ17が開故障していると判定される。
【0105】
一方、目標位置S
TGTから実位置S
A2を引いた値(S
TGT-S
A2)が閉故障閾値S
FC以上の場合は、ウェイストゲートバルブ17が閉故障していると判定される。言い換えると、以下の式(2)を満たす場合は、ウェイストゲートバルブ17が閉故障していると判定される。
S
TGT-S
A2≧S
FC ・・・(2)
このようにウェイストゲートバルブ17の故障判定を実施する場合、開故障閾値S
FOと閉故障閾値S
FCとを異なる値に設定することが可能であり、これにより開故障と閉故障とで故障判定精度に差異を設けることが可能となる。
【0106】
この場合の故障制御に係るフローチャートを
図8に示す。このフローチャートは
図6のフローチャートの変形例であり、同一の数字を付したステップ(例えばステップY10とステップZ10)は上述の処理と同様の処理がなされるため、その説明は省略し、
図6のフローチャートと異なる処理のみ説明する。
図8に示すように、ステップZ142では、上記の式(1)を満たすか否かが判定され、この関係を満たす場合は開故障の可能性があるため、ステップZ150以降の処理が実施される。一方、式(1)を満たさない場合は、ステップZ210において上記の式(2)を満たすか否かが判定される。
【0107】
この関係を満たす場合は閉故障していると判定され、ステップZ220以降の処理が実施される。一方、式(2)を満たさない場合は、ステップZ250においてフラグKがK=0に設定され、このフローをリターンする。このように第二故障制御において、開故障,閉故障をそれぞれ判定するような制御構成としてもよい。
なお、第二故障制御において、クリーニング制御を実施することなく、即座に開故障と判定してもよい。この場合、クリーニング部3fを省略することが可能である。反対に、閉故障と判定する前に、クリーニング制御を実施してもよい。
【0108】
また、故障判定部3dは、第一故障制御をエンジン10の始動前に実施すればよく、例えばクランキング中に実施してもよい。また、故障判定部3dは、第二故障制御をエンジン10の始動後に何度も実施するのではなく、所定回数だけ実施するようにし、所定回数実施後は次にキーオンされるまで実施されないようにしてもよい。
【0109】
上記実施形態では、学習部3aにより設定された基準位置S
BAをマップに反映させて、目標開度D
TGTに対応する目標位置S
TGTを設定しているが、学習結果を開度制御に用いる手法はこれに限られない。例えば、予めウェイストゲートバルブ17の全閉位置を初期基準位置として記憶しておき、学習部3aにより設定された基準位置S
BAと初期基準位置とのずれ量を演算する。そして、
図3の実線で示す予め設定されたマップを用いて目標開度D
TGTに対応する目標位置S
TGTを設定し、設定された目標位置S
TGTにずれ量を加減算したものを開度制御部3cに伝達してもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、学習制御において初期全閉位置IS
CLと初期動作範囲IRとを学習しているが、少なくとも初期全閉位置IS
CLの学習を実施すればよい。この初期全閉位置IS
CLを開度制御時の基準とすることで、開度制御を高精度に実施することができ、過給圧制御の精度を高めることができる。
【0111】
また、エンジン10の構成は上記したものに限定されず、排気通路上の過給用タービンを迂回する迂回路に介装された電動のウェイストゲートバルブを備えるエンジンであれば適用可能である。また、ウェイストゲートバルブ17の位置を検出する手段はホールセンサ47に限られず、ウェイストゲートバルブ17の弁体17aの位置やロッド17bのストローク量を検出できるものであればよい。