(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の圧電アクチュエータにおいて、高い変形効率を実現するために、各圧電層は極力薄いことが望まれる。しかし、圧電層が薄くなると、活性部に作用する電界の強度が高くなることから、活性部において絶縁破壊が生じる虞がある。尚、活性部R1の厚みは活性部R2よりも薄いため、特に、活性部R1における絶縁破壊が問題となる。
【0007】
ここで、単純に駆動電位を下げて、活性部R1,R2に印加される電位差をそれぞれ小さくすることにより、活性部R1,R2に作用する電界強度を低く抑えることは可能ではある。しかし、活性部R1,R2に印加される電界が低くなると、それぞれの活性部における圧電変形が小さくなるため、圧電体全体の変位量も小さくなってしまい、変形効率を向上させるという点では逆効果となる。
【0008】
本発明の目的は、圧電体の変位量を極力低下させることなく、活性部に作用する最大電界強度を小さく抑えることが可能な、圧電アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の圧電アクチュエータは、積層された第1圧電層及び第2圧電層を有する圧電体と、前記第1圧電層の前記第2圧電層とは反対側の面に配置された駆動電極と、前記第1圧電層と前記第2圧電層の間に配置され、且つ、前記圧電体の厚み方向において前記駆動電極と対向する第1定電位電極と、前記第2圧電層の前記第1圧電層とは反対側の面に配置され、且つ、前記圧電体の厚み方向において前記駆動電極と対向する第2定電位電極と、前記駆動電極、前記第1定電位電極、及び、前記第2定電位電極にそれぞれ電位を印加する駆動装置と、を備え、
前記圧電体は、前記第1圧電層の、前記駆動電極と前記第1定電位電極とに挟まれた部分に、前記第1圧電層の厚み方向において分極された第1活性部を有し、前記第1圧電層及び前記第2圧電層の、前記駆動電極と前記第2定電位電極とに挟まれた部分に、前記第1圧電層と前記第2圧電層の厚み方向において分極された第2活性部を有し、
前記駆動装置は、前記駆動電極の電位を、第1電位とこの第1電位よりも低い第2電位との間で切り換え、前記第1定電位電極の電位を、前記第2電位よりも高く、且つ、前記第1電位よりも低い第3電位に維持し、前記第2定電位電極の電位を、前記第3電位よりも低い第4電位に維持することを特徴とするものである。
【0010】
駆動電極には第1電位と第2電位の2種類の電位が選択的に印加される。また、第1定電位電極の電位は、第1電位と第2電位の間の第3電位に維持される。駆動電極に、低い方の第2電位が印加されたときに、この駆動電極と、常時、第3電位に維持されている第1定電位電極との間には電位差が生じて、これら2種類の電極に挟まれた第1活性部には厚み方向に電界が作用する。ここで、第1定電位電極に印加される第3電位は、第1電位よりも低い電位であるため、第1定電位電極に第1電位が印加される従来の構成と比べて、第1活性部を挟む電極間の電位差が小さくなり、第1活性部に作用する電界の強度が下がる。
【0011】
尚、上記のように、第1活性部に作用する電界が低く抑えられると、その分、第1活性部の圧電変形は当然小さくなる。この点、本発明では、駆動電極に第1電位が印加されたときにも、駆動電極と第1定電位電極との間に電位差が生じ、第1活性部に電界が作用する。但し、このときの電界の方向は、上述の、個別電極に第2電位が印加されたときとは逆方向となる。そのため、第1活性部は先の場合とは逆方向に変形し、これによって、圧電体も逆方向に変位する。
【0012】
このように、本発明を適用することによって、駆動電極に第2電位が印加されたときの圧電体の変位量は、従来構成と比べて小さくなるが、その変位量の低下は、駆動電極に第1電位が印加されたときに圧電体が逆方向に変位することによって補われる。それ故、駆動電極の電位が第1電位と第2電位とで切り換えられる間における、圧電体の総変位量で見れば、駆動対象を駆動するために必要な変位量を得ることができる。つまり、本発明によれば、駆動対象を駆動するのに必要な圧電体の変位量を確保しつつ、第1活性部に作用する最大の電界強度を小さく抑えて第1活性部の絶縁破壊を防止できる。
【0013】
第2の発明の圧電アクチュエータは、前記第1の発明において、前記駆動装置は、前記第2定電位電極に、前記第4電位として、前記第2電位と等しい電位を印加することを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、第2定電位電極に、第2電位と等しい電位が印加されることから、圧電アクチュエータを駆動するために必要な電位の種類を3種類に減らすことができる。そのため、圧電アクチュエータを駆動するために必要な回路の構成が単純になる。
【0015】
第3の発明の圧電アクチュエータは、前記第1の発明において、前記駆動装置は、前記第2定電位電極に、前記第4電位として、前記第2電位よりも高い電位を印加することを特徴とするものである。
【0016】
第1定電位電極と第2定電位電極が対向している場合はもちろんのこと、対向していない場合であっても、第2圧電層には、第1定電位電極から第2定電位電極に向かう電界は多少なりとも作用する。本発明によれば、第2定電位電極に第2電位よりも高い電位が印加されることで、第2圧電層に作用する電界強度を小さくすることができる。また、駆動電極に第1電位が印加されたときの、駆動電極と第2定電位電極との間の電位差が小さくなり、これら2種類の電極に挟まれた第2活性部に作用する電界の強度が小さくなる。従って、第2活性部についても、最大電界強度を下げることができる。
【0017】
第4の発明の液体吐出装置は、液体を吐出するノズル、及び、前記ノズルに連通する圧力室を含む液体流路が形成された流路構造体と、前記流路構造体に設けられた圧電アクチュエータと、を備え、
前記圧電アクチュエータは、前記圧力室を覆うように前記流路構造体に設けられ、且つ、積層された第1圧電層及び第2圧電層を有する圧電体と、前記第1圧電層の前記第2圧電層とは反対側の面の、前記圧電体の厚み方向において前記圧力室と対向する領域に配置された駆動電極と、前記第1圧電層と前記第2圧電層の間に配置され、且つ、前記圧電体の厚み方向において前記駆動電極と対向する第1定電位電極と、前記第2圧電層の前記第1圧電層とは反対側の面に配置され、且つ、前記圧電体の厚み方向において前記駆動電極と対向する第2定電位電極と、前記駆動電極、前記第1定電位電極、及び、前記第2定電位電極にそれぞれ電位を印加する駆動装置と、を備え、
前記圧電体は、前記第1圧電層の、前記駆動電極と前記第1定電位電極とに挟まれた部分に、前記第1圧電層の厚み方向において分極された第1活性部を有し、前記第1圧電層及び前記第2圧電層の、前記駆動電極と前記第2定電位電極とに挟まれた部分に、前記第1圧電層及び前記第2圧電層の厚み方向において分極された第2活性部を有し、
前記駆動装置は、前記駆動電極の電位を、第1電位とこの第1電位よりも低い第2電位との間で切り換え、前記第1定電位電極の電位を、前記第2電位よりも高く、前記第1電位よりも低い第3電位に維持し、前記第2定電位電極の電位を、前記第3電位よりも低い第4電位に維持することを特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、前記第1の発明と同様に、駆動対象を駆動するために必要な圧電体の変位量を確保しつつ、第1活性部に作用する最大の電界強度を小さく抑えることができる。
【0019】
第5の発明の液体吐出装置は、前記第4の発明において、前記圧電体の温度を検出する温度検出部と、前記駆動装置を制御する制御部と、をさらに備え、前記制御部は、前記温度検出部によって検出された温度に応じて、前記駆動装置を制御して、前記第1定電位電極に印加する前記第3電位を変化させることを特徴とするものである。
【0020】
本発明において、温度検出部は、圧電体に接触してその温度を直接的に検出するものには限られず、圧電体から離れて設けられて、圧電体の周囲の環境温度を検出するものも含む。本発明では、第1定電位電極の第3電位は、駆動電極に印加される第1電位と第2電位の間の電位であるため、駆動電極に第1電位が印加された状態と第2電位が印加された状態とで、第1活性部に作用する電界の方向が逆となる。即ち、一方の状態では、第1活性部には分極方向と同じ正方向の電界が作用し、他方の状態では、第1活性部には、その分極方向とは逆方向の電界が作用することになる。
【0021】
ところで、所定の方向に分極されている活性部に、その分極方向とは逆方向に、一定以上の強さの電界が作用すると、厚み方向に分極された状態が崩れる。また、その分極状態が崩れるときの逆方向の電界強度は温度に依存する。具体的には、圧電体の温度が高いと、前記逆方向に作用する電界強度が小さくても分極状態が崩れやすい。そこで、本発明では、温度検出部で検出された温度に応じて、第1定電位電極に印加する第3電位を変化させる。これにより、圧電体の温度が高い場合には、前記逆方向の電界強度を小さく抑えるように第3電位を変更して、第1活性部の反転状態が崩れることを抑制できる。逆に、圧電体の温度が低い場合には、前記逆方向の電界強度が多少大きくても分極が崩れないことから、前記正方向の電界強度を抑えるように第3電位を変更して、第1活性部の絶縁破壊を防止する。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、第1定電位電極に印加される第3電位は、第1電位と第2電位の間の電位であるため、第1定電位電極に第1電位と等しい電位が印加される場合と比べて、第1活性部に作用する電界の最大強度が下がる。また、本発明を適用することによって、駆動電極に第2電位が印加されたときの圧電体の変位量は小さくなるが、その変位量の低下は、駆動電極に第1電位が印加されたときに圧電体が逆方向に変位することによって補われる。従って、本発明によれば、駆動対象を駆動するために必要な圧電体の変位量を確保しつつ、第1活性部に作用する最大の電界強度を小さく抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態のインクジェットプリンタの概略平面図である。まず、
図1を参照してインクジェットプリンタ1の概略構成について説明する。尚、以下では、
図1の紙面手前側を上方、紙面向こう側を下方と定義して、適宜、「上」「下」の方向語を使用して説明する。
【0025】
(プリンタの概略構成)
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、プラテン2と、キャリッジ3と、インクジェットヘッド4と、搬送機構5と、制御装置6等を備えている。
【0026】
プラテン2の上面には、被記録媒体である記録用紙100が載置される。キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10,11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。キャリッジ3には無端ベルト14が連結され、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が駆動されることで、キャリッジ3は走査方向に移動する。
【0027】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3に取り付けられており、キャリッジ3とともに走査方向に移動する。インクジェットヘッド4は、プリンタ1に装着された4色(例えば、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)のインクカートリッジ17と、図示しないチューブによって接続されている。また、インクジェットヘッド4の下面(
図1の紙面向こう側の面)には、複数のノズル25が形成されている。そして、このインクジェットヘッド4は、インクカートリッジ17から供給された4色のインクを、複数のノズル25からプラテン2に載置された記録用紙100に対して吐出する。
【0028】
搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18,19を有する。搬送機構5は、2つの搬送ローラ18,19によって、プラテン2に載置された記録用紙100を搬送方向に搬送する。
【0029】
制御装置6は、後で説明する
図7に示されるように、CPU(Central Processing Unit)70、ROM(Read Only Memory)71、RAM(Random Access Memory)72、及び、各種制御回路を含むASIC(Application Specific Integrated Circuit)73等を備える(後述の
図7参照)。また、制御装置6は、図示しないPC等の外部装置とデータ通信可能に接続されている。
【0030】
制御装置6は、ROM71に格納されたプログラムに従い、CPU70及びASIC73により、記録用紙100への印刷処理を実行する。即ち、制御装置6は、PC等の外部装置から入力された印刷指令に基づいて、インクジェットヘッド4やキャリッジ駆動モータ15等を制御して、記録用紙100に画像等を印刷させる。具体的には、キャリッジ3とともにインクジェットヘッド4を走査方向に移動させながらインクを吐出させるインク吐出動作と、搬送ローラ18,19によって記録用紙100を搬送方向に所定量搬送する搬送動作とを、交互に行わせる。尚、上の説明では、制御装置6が、CPU70及びASIC73によって各種の処理を行う例を挙げたが、本発明はこれに限るものではなく、制御装置6はいかなるハードウェア構成で実現してもよい。例えば、CPUやASICなどの2つ以上のICに処理を分担させて実現してもよい。また、1つのICチップのみで、上述のプログラムに基づくインクジェットプリンタ1の動作を制御するようにしてもよい。
【0031】
(インクジェットヘッドの詳細構成)
次に、インクジェットヘッド4について説明する。
図2は、インクジェットヘッドの平面図である。
図3は、
図2の一部拡大図である。
図4は、
図3のIV-IV線断面図、
図5は、
図3のV-V線断面図である。尚、
図2、
図4では、圧電アクチュエータ21のアクチュエータ部60に接続されるCOF63を二点鎖線で概略的に示している。また、
図5では、
図4においては示されている、圧力室26よりも下側の流路構造の図示が省略されている。
図2〜
図5に示すように、インクジェットヘッド4は、流路ユニット20と圧電アクチュエータ21を備えている。
【0032】
(流路ユニットの構成)
図4に示すように、流路ユニット20は、それぞれ流路形成孔が形成された7枚のプレート31〜37が互いに積層されることによって形成されている。これら7枚のプレート31〜37が積層されたときにそれぞれの流路形成孔が連通することによって、流路ユニット20には、以下に述べるようなインク流路が形成されている。
【0033】
図2に示すように、流路ユニット20の上面には、4つのインクカートリッジ17(
図1参照)と接続される4つのインク供給孔23が形成されている。流路ユニット20の内部には、4つのインク供給孔23にそれぞれ接続された4本のマニホールド24が形成されている。4本のマニホールド24には、4つのインク供給孔23を介して、4つのインクカートリッジ17の4色のインクがそれぞれ供給される。また、4本のマニホールド24は、それぞれ搬送方向に延在している。
【0034】
また、流路ユニット20は、最下層のプレート37に形成された複数のノズル25と、最上層のプレート31に形成された複数の圧力室26を有する。
図2に示すように、流路ユニット20の下面(
図3の紙面向こう側の面)において、複数のノズル25は搬送方向に沿って配列され、4本のマニホールド24にそれぞれ対応した4列のノズル列を構成している。各圧力室26は、走査方向に長い、略矩形の平面形状を有する孔である。
【0035】
複数の圧力室26は、流路ユニット20の上面に沿って平面的に配置されている。流路ユニット20の上面に接合される圧電アクチュエータ21の圧電体40によって、複数の圧力室26は上方から覆われている。また、複数の圧力室26は、4本のマニホールド24、及び、4列のノズル列に対応して、4列に配列されている。各圧力室26は、対応するマニホールド24と絞り流路27を介して連通している。一方で、各圧力室26は、対応するノズル25と連通流路28を介して連通している。以上より、
図4に示すように、流路ユニット20には、マニホールド24から分岐して、絞り流路27、圧力室26、及び、連通流路28を経てノズル25に至る、個別インク流路が複数形成されている。
【0036】
(圧電アクチュエータの構成)
圧電アクチュエータ21は、アクチュエータ部60と、このアクチュエータ部60を駆動する駆動部61とを有する。アクチュエータ部60は、流路ユニット20の上面に、複数の圧力室26を覆うように接合されている。
図2〜
図5に示すように、アクチュエータ部60は、3枚の圧電層41〜43からなる圧電体40と、複数の個別電極44、第1共通電極45、及び、第2共通電極46とを備えている。
図6は、圧電体の3枚の圧電層のそれぞれについての上面図であり、(a)は最上層の圧電層、(b)は中間層の圧電層、(c)は最下層の圧電層をそれぞれ示す。尚、
図6(a)〜(c)には、ノズル25及び圧力室26と、個別電極44、第1共通電極45、及び、第2共通電極46との位置関係がわかりやすくなるように、複数のノズル25と複数の圧力室26がそれぞれ破線で示されている。
【0037】
圧電体40を構成する3枚の圧電層41〜43は、それぞれ、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなる。圧電層41〜43は、互いに積層された状態で、複数の圧力室26を覆うように流路ユニット20の上面に平面的に配置されている。
【0038】
図3〜
図6に示すように、複数の個別電極44は、最上層の圧電層41の上面に配置されている。第1共通電極45は、最上層の圧電層41と中間層の圧電層42との間に配置されている。第2共通電極46は、中間層の圧電層42と最下層の圧電層43との間に配置されている。
【0039】
図2、
図3に示すように、各個別電極44は、圧電層41の上面の、圧電体40の厚み方向において圧力室26のほぼ全域と対向する領域に配置されている。
図2、
図6(a)に示すように、複数の個別電極44は、複数の圧力室26に対応して搬送方向に沿って配列され、4列の個別電極列を構成している。各個別電極44からは個別端子49が引き出され、さらに、この個別端子49の端部には、金などの導電性材料からなるバンプ57が設けられている。
図4に示すように、このバンプ57には、配線部材であるCOF63が押し付けられて接合される。これにより、個別端子49は、バンプ57を介して、COF63に形成された配線と電気的に接続される。
【0040】
図4、
図5、
図6(b)に示すように、第1共通電極45は、複数の圧力室26にそれぞれ対応した複数の第1定電位電極部45aと、複数の第1定電位電極部45aを互いに導通させる第1接続部45bを有する。各第1定電位電極部45aは矩形の平面形状を有し、対応する圧力室26の搬送方向における中央部と、圧電体40の厚み方向において対向している。複数の第1定電位電極部45aも、複数の個別電極44と同様に、複数の圧力室26に対応して4列に配列されている。
【0041】
図4、
図5、
図6(c)に示すように、第2共通電極46は、複数の圧力室26にそれぞれ対応した複数の第2定電位電極部46aと、複数の第2定電位電極部46aを互いに導通させる第2接続部46bを有する。各第2定電位電極部46aはU字形の平面形状を有し、圧力室26の搬送方向における両端部と、圧電体40の厚み方向において対向している。複数の第2定電位電極部46aも、複数の個別電極44と同様に、複数の圧力室26に対応して4列に配列されている。
【0042】
図5に示すように、圧力室26のほぼ全域を覆う個別電極44は、搬送方向における中央部において、第1定電位電極部45aと対向している。即ち、個別電極44と第1定電位電極部45aとが圧電体40の厚み方向において重なっている。そして、最上層の圧電層41の、圧力室26の中央部と対向する部分が、個別電極44と第1定電位電極部45aに挟まれている。以下、圧電層41の、個別電極44と第1定電位電極部45aに挟まれた上記部分を第1活性部51と呼ぶ。
図5に白抜き矢印a1で示すように、第1活性部51は、厚み方向において上向き、即ち、第1定電位電極部45aから個別電極44に向かう方向に分極されている。
【0043】
また、個別電極44は、搬送方向における両端部において、第2定電位電極部46aと対向している。即ち、個別電極44と第2定電位電極部46aとが圧電体40の厚み方向において重なっている。そして、上側2枚の圧電層41,42の、圧力室26の搬送方向両端部と対向する部分が、個別電極44と第2定電位電極部46aに挟まれている。以下、圧電層41,42の、個別電極44と第2定電位電極部46aに挟まれた上記部分を第2活性部52と呼ぶ。
図5に白抜き矢印a2で示すように、第2活性部52は、厚み方向において下向き、即ち、個別電極44から第2定電位電極部46aに向かう方向に分極されている。尚、
図6(c)に示されるように、第2定電位電極部46aは、その中央部が切り欠かれた形状であり、圧力室26の中央部と重なる第1定電位電極部45aとは、圧電体40の厚み方向において重なっていない。
【0044】
図2、
図6(a)に示すように、最上層の圧電層41の上面には、第1共通電極45用の第1接続端子47と、第2共通電極46用の第2接続端子48が設けられている。第1接続端子47は、圧電層41に形成された複数のスルーホール50を介して第1共通電極45の第1接続部45bと導通している。第2接続端子48は、圧電層41に形成された複数のスルーホール53、及び、圧電層42に形成された複数のスルーホール54を介して、第2共通電極46の第2接続部46bと導通している。
【0045】
図2、
図6(a)に示すように、最上層の圧電層41の上面に配置された、複数の個別端子49、第1接続端子47、及び、第2接続端子48には、COF63との接続のためのバンプ57,58,59がそれぞれ設けられている。
【0046】
次に、アクチュエータ部60の3種類の電極44,45,46にそれぞれ電位を印加する、駆動部61について説明する。
図7は、制御装置、電源装置、及び、インクジェットヘッドの圧電アクチュエータの電気的な構成を概略的に示す図である。駆動部61は、ヘッド基板62、及び、ドライバIC64等を有する。尚、図示は省略するが、駆動部61のヘッド基板62は、電源装置55及び制御装置6と、フレキシブルフラットケーブル(FFC)等の配線部材によって接続されている。
【0047】
また、駆動部61は、FFC等の配線部材に形成された、電源装置55のVDD端子に接続された電源線66aと、電源装置55のGND端子に接続されたグランド線66bとを有する。電源線66aには、常時、電源電位(一般には電源電圧ともいう)が印加されている。また、グランド線66bは、グランド電位(0V)に維持されている。さらに、駆動部61のヘッド基板62は、制御装置6と、FFC等の配線部材に形成された複数の信号配線66cによって接続されている。制御装置6のASIC73は、図示しないPC等の外部装置から入力された印刷データに基づき、ドライバIC64を制御するための制御信号を生成する。このASIC73で生成された制御信号は、複数の信号配線66cを介してヘッド基板62に送られる。
【0048】
ヘッド基板62は、ドライバIC64が実装されたCOF63によってアクチュエータ部60と接続されている。
図2、
図4に示すように、COF63は、アクチュエータ部60の圧電体40を上方から覆うように配置される。COF63の裏面には複数の端子(図示省略)が設けられている。これらCOF63の複数の端子は、圧電体40の上面に形成された、複数の個別電極44の個別端子49、第1共通電極45と導通する第1接続端子47、及び、第2共通電極46と導通する第2接続端子48と、バンプ57,58,59を介してそれぞれ電気的に接続される。
【0049】
ドライバIC64は、制御装置6からヘッド基板62を経て送信されてきた制御信号に基づき、個別電極44に印加する電位を、前記電源電位に等しい第1電位V1と、グランド電位に等しい第2電位V2との間で切り換える。
図8は、圧電アクチュエータの2つの活性部及び駆動部の等価回路図である。尚、強誘電体である圧電材料で形成された、アクチュエータ部60の第1活性部51と第2活性部52は、活性部51,52を挟む電極間に電位差が生じたときには電荷を蓄え、電位差が解消したときに蓄えた電荷を放出する。つまり、第1活性部51と第2活性部52は、それぞれ、ある静電容量を有するコンデンサC1,C2とみなすことができる。また、ドライバIC64は、トランジスタで構成された一種のスイッチング回路である。制御装置6から送信された制御信号に基づいて、
図8に示される2つのスイッチSW1,SW2のON/OFFを切り換えることにより、
図8におけるA点の電位、即ち、個別電極44の電位を、第1電位V1と第2電位V2との間で切り換える。
【0050】
図7に示すように、ヘッド基板62には、電位生成回路65が組み込まれている。電位生成回路65は、第2電位V2よりも高く、且つ、第1電位V1よりも低い、中間の第3電位V3を生成する。電位生成回路65の回路構成は特に限定されるものではないが、
図8にその一例を示す。
図8の電位生成回路65は、電源線66aとグランド線66bとの間を繋ぐ配線68と、この配線67に設けられた2つの抵抗R1,R2を有する。電源線66aの第1電位V1とグランド線66bの第2電位V2との間の電位差が、2つの抵抗R1,R2により分圧され、両者の中間の第3電位V3が生成される。
【0051】
図8のB点には、電位生成回路65の出力が接続される。即ち、個別電極44との間で第1活性部51を挟む、第1定電位電極部45aに印加される第3電位V3(B点電位)は、常時、電位生成回路65で生成された、第1電位V1と第2電位V2の間の電位に維持される。また、
図8のC点には、グランド線66bが接続される。つまり、個別電極44との間で第2活性部52を挟む、第2定電位電極部46aに印加される第4電位V4(C点電位)は、常時、第2電位V2に等しい電位に維持される。
【0052】
以上説明した駆動部61による、3種類の電極44,45a,46aへの電位印加についてまとめると次のようになる。個別電極44の電位は、電源電位である第1電位V1とグランド電位である第2電位V2との間で切り換えられる。第1定電位電極部45aは、第1電位V1と第2電位V2の間の第3電位V3に維持される。また、第2定電位電極部46aの電位は、第2電位V2と等しい第4電位V4に維持される。尚、後でも述べるが、第3電位V3は、第2電位V2よりも、第1電位V1に近い値とする。上記電位の具体例を挙げると、例えば、V1=28V、V2(=V4)=0V、V3=23Vである。
【0053】
(圧電アクチュエータの動作)
次に、駆動部61のドライバIC64によって個別電極44の電位が切り換えられたときの、圧電アクチュエータ21のアクチュエータ部60の動作について説明する。
図9は、アクチュエータ部の動作説明図である。尚、
図9において、太線の縦向き矢印b1,b2は、活性部51,52にそれぞれ作用する電界の方向を示し、塗りつぶした横向き矢印c1,c2は、活性部51,52のそれぞれにおける面方向における変形方向(伸長又は収縮)を示す。
【0054】
(a)第2電位印加時
図9(a)は、個別電極44に第2電位V2が印加された状態を示す。このとき、個別電極44と第1定電位電極部45aとの間に電位差が生じて、矢印b1で示すように、第1活性部51に、第1定電位電極部45aから個別電極44に向かう、上向きの電界が作用する。また、矢印a1で示すように、第1活性部51の分極方向も上向きである。従って、第1活性部51に作用する電界の方向が、分極方向と同じとなることから、矢印c1で示すように、第1活性部51は面方向に収縮する。圧力室26の中央部と対向する第1活性部51が面方向に収縮することで、圧電体40は圧力室26側(下側)に凸となるように撓み、その中央部が下方向に変位する。尚、第2定電位電極部46aには、第2電位V2と同じ電位が印加されているため、個別電極44と第2定電位電極部46aの間には電位差が生じない。従って、第2活性部52には電界が作用せず、この第2活性部52には変形が生じない。
【0055】
ここで、第1定電位電極部45aに印加される第3電位V3は、第1電位V1と第2電位V2の間の電位である。そのため、第1定電位電極部45aに第1電位V1が印加される場合と比べると、個別電極44と第1定電位電極部45aの間の電位差が小さくなり、第1活性部51に作用する電界の強度が下がる。例えば、V1=28V、V2=0V、V3=23Vであれば、個別電極44と第1定電位電極部45aの間の電位差が、V1−V2(=28V)→V3−V2(=23V)に下がる。これにより、第1活性部51に作用する電界の強度を下げることができるため、第1活性部51における絶縁破壊を防止できる。尚、上記のように、第1活性部51に作用する電界が小さくなると、その分、第1活性部51の圧電変形(収縮量)は当然小さくなり、圧電体40の、圧力室26の中央部と対向する部分の下向きの変位量も小さくなる。しかし、後で説明するように、本実施形態の圧電アクチュエータ21では、この圧電体40の変位量の減少分が、後述する個別電極44への第1電位V1印加時に補われる構成となっている。
【0056】
(b)第1電位印加時
図9(b)は、個別電極44に第1電位V1が印加された状態を示す。この場合においても、個別電極44と第1定電位電極部45aとの間に電位差が生じる。但し、この場合は、個別電極44の電位が第1定電位電極45aの電位よりも高くなる。従って、矢印b1で示すように、第1活性部51には、
図9(a)とは逆に、個別電極44から第1定電位電極部45aに向かう、下向きの電界が作用する。この電界は、矢印a1で示される、第1活性部51の分極方向とは逆向きである。従って、矢印c1で示すように、第1活性部51は面方向に伸長する。
【0057】
また、個別電極44に第1電位V1が印加されたときには、個別電極44と第2定電位電極部46aとの間にも電位差が生じ、第2活性部52には、矢印b2で示すように、個別電極44から第2定電位電極部46aに向かう下向きの電界が作用する。また、矢印a2で示すように、第2活性部52の分極方向も下向きである。従って、第2活性部52に作用する電界の向きが分極方向と同じとなり、第2活性部52は面方向に収縮する。
【0058】
このように、個別電極44の電位が第2電位V2から第1電位V1に切り換えられて、第1活性部51が、
図9(a)の面方向に収縮している状態から
図9(b)のように面方向に伸長する一方で、第2活性部52は逆に面方向に収縮する。これにより、圧電体40は、圧力室26とは逆側(上側)に凸となるように撓み、その中央部が上方向に変位する。
【0059】
また、第1活性部51が伸長するときに、同時に、第2活性部52が収縮することで、圧電体40の、1つの圧力室26を覆う部分全体で、面方向の収縮量の変化が小さく抑えられる。これにより、ある圧力室26における圧電体40の変形が、隣接する別の圧力室26に伝わる現象、いわゆるクロストークが抑制される。
【0060】
このように、個別電極44に第1電位V1が印加されたときには、先の第2電位V2の印加時とは逆方向に圧電体40が変形する。第1定電位電極部45aに、第1電位V1よりも低い第3電位V3が印加されることによって、
図9(a)の個別電極44に第2電位V2が印加されたときの圧電体40の総変位量が低下するが、その変位量の低下は、
図9(b)の個別電極44に第1電位が印加された場合に圧電体40が逆方向に変位することによって補われる。それ故、個別電極44の電位が第1電位V1と第2電位V2との間で切り換えられたときの圧電体40の総変位量で見れば、インクを吐出するために必要な変位量を得ることができる。従って、インクを吐出するために必要な圧電体40の変位量を確保しつつ、第1活性部51に作用する最大の電界強度を小さく抑えることができる。
【0061】
但し、第1活性部51に、その分極方向とは逆方向に強い電界が作用すると、その分極状態が崩れてしまう。そのため、第1活性部51に、分極方向と逆方向に、その分極状態を崩してしまうほど大きな電界が作用しないように、個別電極44に印加される第1電位V1と、第1定電位電極部45aに印加される第3電位V3の電位差が一定以下であることが必要となる。そこで、本実施形態では、第3電位V3は、第2電位V2よりも、第1電位V1に近い電位となっている。例えば、V1=28V、V2=0V、V3=23Vであれば、第1電位V1と第3電位V3との電位差は、5Vとなる。
【0062】
尚、第2定電位電極部46aには、第2電位V2に等しい電位が印加されることから、個別電極44に第1電位が印加されたときに、これら2つの電極44,46a間には、比較的大きな電位差(V1−V2)が生じる。しかし、第2活性部52は第1活性部51と比べて厚いことから、第1活性部51と同じ電位差が生じたとしても、作用する電界の強度は第1活性部51と比べて低くなる。従って、第2活性部52については、第1活性部51よりも電位差が多少大きくても、絶縁破壊等の問題は生じない。
【0063】
また、本実施形態では、第1定電位電極部45aと第2定電位電極部46aとが対向しておらず、厚み方向において重なっていない。しかしながら、このような構成であっても、
図5に示すように、圧電層42には、第1定電位電極部45aから第2定電位電極部46aに向けて、圧電体40の厚み方向に対して外側に傾斜した方向に、強い電界が常に作用する部分42aが存在する。この部分42aは、本来、第2活性部52として機能するべき部分であるが、上記の電界が常に作用しているために、個別電極44の電位が切り換えられてもほとんど伸縮しない。また、第1定電位電極部45aと第2定電位電極部46aの間の電位差が大きいほど、強い電界が面方向に広がり、第2活性部52として機能しなくなる上記部分42aが大きくなる。従って、第1定電位電極部45aに印加される電位を低くすることは、第2活性部52の機能低下を抑えるという点においても有効である。
【0064】
以上のように、個別電極44の電位が第1電位V1と第2電位V2との間で切り換えられると、圧力室26と対向する領域において圧電体40が上下に変位するため圧力室26の容積が変化する。この容積変化によって、圧力室26内のインクに圧力(吐出エネルギー)が付与され、圧力室26に連通するノズル25からインクが吐出される。
【0065】
以上説明した実施形態において、インクジェットヘッド4が本発明の「液体吐出装置」に相当する。流路ユニット20が本発明の「流路構造体」に相当する。最上層の圧電層41が本発明の「第1圧電層」に相当する。中間層の圧電層42が本発明の「第2圧電層」に相当する。個別電極44が本発明の「駆動電極」に相当する。第1定電位電極部45aが本発明の「第1定電位電極」に相当する。第2定電位電極部46aが本発明の「第2定電位電極」に相当する。駆動部61が本発明の「駆動装置」に相当する。制御装置6が本発明の「制御部」に相当する。
【0066】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0067】
1]前記実施形態では、第2定電位電極部46aには、第4電位V4として、個別電極44に印加される第2電位V2と等しい電位が印加されていたが(
図9参照)、第2電位V2とは異なる電位が印加されてもよい。
図10において、第1定電位電極部45aの電位が第3電位V3に維持される点は、前記実施形態と同じであるが、第2定電位電極部46aの第4電位V4は、個別電極44に印加される第2電位V2よりも高い。即ち、4種類の電位の高低関係は、V1>V3>V4>V2となっている。尚、
図11に示すように、第2電位V2と異なる第4電位V4は、第3電位V3と同様にして、駆動部61の電位生成回路65にて、第1電位V1と第2電位V2との間の電位差を、3つの抵抗R1,R2,R3で分圧することにより容易に生成することができる。
【0068】
図10(a)に示すように、個別電極44に第2電位V2が印加されたときには、第1活性部51が面方向に収縮する一方で、第2活性部52には、分極方向とは逆方向の電界が作用し、第2活性部52は面方向に伸長する。この第2活性部52の伸長は、第1活性部51の収縮によって圧電体40が下に凸となるように変形する際に、その変形を促進する働きをする。尚、第2活性部52に作用する逆方向の電界によって、第2活性部52の分極状態が崩れることを避けるため、個別電極44と第2定電位電極部46aとの間の電位差(V4−V2)は一定以下に小さくすることが好ましい。具体的には、第4電位V4は、第1電位V1よりも第2電位V2に近い電位とする。例えば、V1=28V、V2=0V、V3=23V、V4=5Vとし、V4−V2=5Vとする。
【0069】
図10(b)に示すように、個別電極44に第1電位V1が印加されたときには、第2活性部52には、分極方向とは同じ方向(正方向)の電界が作用し、第2活性部52は面方向に収縮する。ここで、第2定電位電極部46aの第4電位V4は、第2電位V2よりも高い電位であるため、第2定電位電極部46aに第2電位V2に等しい電位が印加される場合と比べて、個別電極44と第2定電位電極部46aの間の電位差が小さくなり、第2活性部52に作用する電界の強度も小さくなる。
【0070】
前記実施形態の
図9の圧電アクチュエータと、上記変更形態の
図10の圧電アクチュエータとを比較する。
図9の構成では、第2定電位電極部46aに、第2電位V2に等しい電位が印加されることから、3種類の電極44,45a,46aに印加する電位の種類を3種類にすることができる。従って、駆動部61の、圧電アクチュエータを駆動するために必要な回路の構成が単純になる。これに対し、
図10の構成では、電位の種類が1種類増えるものの、第2定電位電極部46aに第2電位V2よりも高い第4電位V4が印加されることで、圧電層42に作用する、第1定電位電極部45aから第2定電位電極部46aに向かう電界の強度を小さくすることができる。さらに、第1活性部51だけでなく、第2活性部52についても最大電界強度を下げることができる、という点でも有利である。
【0071】
2]駆動部61の構成は、前記実施形態のものには限定されない。例えば、
図12に示すように、電位生成回路65において、抵抗の代わりに、ツェナーダイオードDを用いて、第3電位V3を生成してもよい。あるいは、
図13に示すように、第1電位V1が印加された電源線66aと、圧電アクチュエータ21の第1定電位電極部45aとの間に、第1電位V1から第3電位V3に落とすための抵抗Raが設けられてもよい。
【0072】
また、電源装置55から供給される2種類の電位(第1電位V1と第2電位V2)を分圧して、第3電位V3や第4電位V4を生成する構成にも限られない。即ち、電源装置55で生成された第3電位V3(第4電位V4)が、FFC67及びCOF63を介して、第1定電位電極部45a(第2定電位電極部46a)に対して、独立して供給されてもよい。
【0073】
3]第1電位V1〜第4電位V4の具体的な値については、先に例示した以外にも、第1電位V1>第3電位V3>第2電位V2の関係が成立する範囲内で、適宜変更可能である。
【0074】
例えば、先の例では、全ての電位がプラスの電位であったが、一部の電位(例えば、第2電位V2)をマイナスの電位としてもよい。但し、このようなマイナスの電位は、前記実施形態のように、電源電位とグランド電位との間を分圧して簡単に生成することはできず、駆動部61等の構成がやや複雑になる。
【0075】
また、第2定電位電極部46aに印加される第4電位V4を、第2電位V2よりも低い電位にしてもよい。但し、第2電位V2がグランド電位(0V)である場合は、第4電位V4はマイナスの電位となる。その場合、上に述べたのと同様、第4電位V4を供給するための構成が複雑となる。また、第4電位V4を第2電位V2よりも低くすると、第3電位V3が印加される第1定電位電極部45aと、第4電位V4が印加される第2定電位電極部46aとの間の電位差が大きくなり、圧電層42に作用する電界の強度が大きくなってしまう、という点でも不利である。
【0076】
4]前記実施形態では、第2定電位電極部46aがU字形にパターニングされており、第1定電位電極部45aと第2定電位電極部46aとが重ならない構成となっていた(
図4〜
図6参照)。これに対して、
図14に示すように、例えば、第2定電位電極部46aが、圧力室26の全域と対向するように形成されて、第1定電位電極部45aとも重なる構成であってもよい。
【0077】
尚、この場合、圧電層42の、第1定電位電極部45aと第2定電位電極部46aとに挟まれる部分42bには、第3電位V3と第4電位V4の電位差による電界が常時作用する。この部分42bに作用する電界の強度をできるだけ小さく抑えるためには、
図10のように、第3電位V3を第1電位V1よりも低い電位とし、且つ、第4電位V4を第2電位V2よりも高い電位にするなどして、電位差V4−V3を小さくすることが好ましい。
【0078】
5]先にも述べたように、第1活性部51に、その分極方向とは逆方向に、一定以上の強さの電界が作用すると、第1活性部51の分極状態が崩れる。ここで、分極状態が崩れるときの前記逆方向の電界強度は温度に依存する。具体的には、圧電体40の温度が高いと、逆方向の電界強度が小さくても分極状態が崩れやすくなる。そこで、圧電体40の温度に応じて、第1定電位電極部45aに印加する第3電位V3を変化させてもよい。
【0079】
図15に示すように、制御装置6には、インクジェットヘッド4の周囲温度(環境温度)を検出する温度センサ75からの信号が入力される。この温度センサ75を用いて圧電体40のおおよその温度を検出(推定)する。尚、圧電体40そのものに温度センサ75が設けられて、圧電体40の温度を直接検出してもよい。
【0080】
上で説明したのと同じく、駆動部61の電位生成回路65は、第1電位V1と第2電位V2の電位差を分圧して、第3電位V3を生成するための2つの抵抗R1,R2を有する。但し、一方の抵抗R1は可変抵抗である。制御装置6は、温度センサ75の検出信号に応じて、電位生成回路65に対して、可変抵抗R1の抵抗値を制御する信号を出力し、その抵抗値を変更する。具体的には、温度センサ75で検出された温度が高いほど、可変抵抗R1の抵抗値を小さくし、第3電位V3を第1電位V1に近づける。
【0081】
これにより、圧電体40の温度が高い場合には、第3電位V3を第1電位V1に近づけ、分極方向と逆方向の電界強度を小さく抑えることで、第1活性部51の反転状態が崩れることを抑制できる。逆に、圧電体40の温度が低い場合には、逆方向の電界強度が多少大きくても分極が崩れない。そこで、第3電位V3の第1電位V1に対する電位差を大きくし、これによって分極方向と同じ正方向における、最大電界強度を抑えて、第1活性部51の絶縁破壊をより確実に防止する。
【0082】
また、上と同様に、圧電体40の温度に応じて、第2定電位電極部46aに印加される第4電位を変化させてもよい。
【0083】
以上、説明した前記実施形態及びその変更形態は、本発明を、記録用紙にインクを吐出して画像等を印刷するインクジェットヘッドに適用したものであるが、画像等の印刷以外の様々な用途で使用される液体吐出装置においても本発明は適用されうる。例えば、基板に導電性の液体を噴射して、基板表面に導電パターンを形成する液体吐出装置にも、本発明を適用することは可能である。さらに、本発明の圧電アクチュエータは、液体吐出の用途に使用されるものに限られるわけではなく、それ以外の用途で用いられる圧電アクチュエータに対しても、本発明を適用しうる。
【0084】
次に、出願当初の特許請求の範囲に記載の請求項1〜5に係る発明以外の開示発明について説明する。
【0085】
液体を吐出するノズル、及び、前記ノズルに連通する圧力室を含む液体流路が形成された流路構造体と、前記流路構造体に設けられた圧電アクチュエータと、を備え、
前記圧電アクチュエータは、前記圧力室を覆うように前記流路構造体に設けられた圧電層と、前記圧電層の一方の面の、前記圧電層の厚み方向において前記圧力室と対向する領域に配置された駆動電極と、前記圧電層の他方の面の、前記圧電層の厚み方向において前記駆動電極と対向する定電位電極と、前記駆動電極、及び、前記定電位電極にそれぞれ電位を印加する駆動装置と、を備え、
前記圧電体は、前記圧電層の、前記駆動電極と前記定電位電極とに挟まれた部分に、前記圧電層の厚み方向において分極された活性部を有し、
前記駆動装置は、前記駆動電極の電位を、第1電位とこの第1電位よりも低い第2電位との間で切り換え、前記定電位電極の電位を、前記第2電位よりも高く、前記第1電位よりも低い第3電位に維持し、
さらに、前記圧電体の温度を検出する温度検出部と、前記駆動装置を制御する制御部と、をさらに備え、前記制御部は、前記温度検出部によって検出された温度に応じて、前記駆動装置を制御して、前記第1定電位電極に印加する前記第3電位を変化させることを特徴とする液体吐出装置の発明である。
【0086】
上記開示発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項5に対応するものであるが、上記開示発明の技術的範囲は、請求項4の構成を前提としないものを包含する。例えば、圧電アクチュエータの構成として、2種類の定電位電極を前提とせず、駆動電極と1つの定電位電極のみを有する構成も上記開示発明に含まれる。
【0087】
以下、上記開示発明についての実施形態の変形例について説明する。
図16に示すように、圧電アクチュエータ21A(アクチュエータ部60A)は、積層された2つの圧電層41A,42Aからなる圧電体40Aと、圧電層41Aの上面に形成された個別電極44Aと、2つの圧電層41,42の間に形成された共通電極45Aとを有する。圧電層41Aの、個別電極44Aと共通電極45Aとに挟まれた部分は下向きに分極された、活性部51Aである。尚、個別電極44Aが、上記開示発明における駆動電極に相当し、共通電極45Aが、上記開示発明における定電位電極に相当する。
【0088】
図17に、活性部51A及び駆動部61Aの等価回路図を示す。活性部51Aは、コンデンサCと等価である。ドライバIC64Aは、個別電極44Aの電位(D点電位)を、第1電位V1と第2電位V2との間で切り換える。電位生成回路65Aは、2つの抵抗R1,R2によって、第1電位V1と第2電位V2の電位差を分圧し、第1電位V1よりも低く、且つ、第2電位V2よりも高い、第3電位V3を生成する。共通電極45Aの電位(E点電位)は第3電位V3に維持される。さらに、電位生成回路65Aの一方の抵抗R2は可変抵抗である。制御装置6Aは、温度センサ75Aの検出結果に応じて、電位生成回路65Aに可変抵抗R2を制御する信号を出力し、可変抵抗R2の抵抗値を変化させる。