特許第6232815号(P6232815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6232815バードストライクを模擬するための投射体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232815
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】バードストライクを模擬するための投射体
(51)【国際特許分類】
   B64F 5/60 20170101AFI20171113BHJP
   F42B 12/72 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   B64F5/60
   F42B12/72
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-162321(P2013-162321)
(22)【出願日】2013年8月5日
(65)【公開番号】特開2015-30403(P2015-30403A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】福重 進也
(72)【発明者】
【氏名】牛田 博久
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0192314(US,A1)
【文献】 特開2010−090890(JP,A)
【文献】 米国特許第05763819(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0320710(US,A1)
【文献】 HEDAYATI, Reza,A new bird model and the effect of bird geometry in impacts from various orientations,Aerospace Science and Technology,2013年 7月,Volume 28, Issue 1,pages 9 to 20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64F 5/00 − 5/60
F42B 12/00 − 12/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バードストライクを模擬するための投射体であって、
前端および後端を有する円柱形の外輪郭と、前記前端において開口した開口と、前記開口から前記後端に向けて延びる空洞と、を有する中実体を備え、
前記中実体はゲル乃至ゼリー物質よりなる、投射体。
【請求項2】
請求項1の投射体であって、前記空洞は、前記後端に向かって先細となるテーパ形状である、投射体。
【請求項3】
請求項2の投射体であって、前記テーパ形状は、円錐または角錐である、投射体。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項の投射体であって、
前記開口を閉塞する支持体を、さらに備えた投射体。
【請求項5】
請求項4の投射体であって、前記支持体は前記ゲル乃至ゼリー物質よりも低密度の物質よりなる、投射体。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項の投射体であって、前記ゲル乃至ゼリー物質はゼラチンである投射体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバードストライクを模擬するための投射体に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機が離着陸するときに鳥が機体に衝突したり、エンジン内に巻き込まれたりする事象、いわゆるバードストライクは、航空機に深刻な影響を与えかねない。バードストライクに対する安全性を確認するために、安楽死した鳥をガス圧により射出し、機体部品やエンジン部品に衝突させる試験が行われている。このような試験は、最終的な安全証明試験としてはなお重要であるものの、倫理上の問題があり、開発途上の部品に対して頻繁に実施される試験としては採用し難い。
【0003】
代案として、ゲル乃至ゼリー物質よりなる模擬的な投射体を利用する試験が提案されている。投射体の形状としては、射出装置の都合上、例えば円柱ないし円柱に類似した楕円回転体が採用されている。特許文献1は、関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際特許出願公開WO2010/018107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
模擬的な投射体による試験は、航空機において前方に面した部材、例えば翼の前縁やエンジンのファンのごとき、鳥が直接に衝突する部材に対する衝突試験としては有用である。ところが本発明者らによる検討によれば、これらより後方の部材、例えばエンジンのファンの後方に位置する出口案内翼や低圧コンプレッサへの衝突を考えると、衝突直後の荷重プロファイルが実態とかけ離れ、過酷に過ぎる試験になってしまうことが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みて為されたものであって、出口案内翼や低圧コンプレッサのごとき鳥が直接には衝突しない部材に対しても適切なバードストライクの模擬を可能にする投射体を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の一局面によれば、バードストライクを模擬するための投射体は、前端および後端を有する円柱形の外輪郭と、前記前端において開口した開口と、前記開口から前記後端に向けて延びる空洞と、を有する中実体を備え、前記中実体はゲル乃至ゼリー物質よりなる。
【0008】
好ましくは、前記空洞は、前記後端に向かって先細となるテーパ形状である。また好ましくは、前記テーパ形状は、円錐または角錐である。あるいは好ましくは、投射体は、前記開口を閉塞する支持体を、さらに備える。また好ましくは、前記支持体は前記ゲル乃至ゼリー物質よりも低密度の物質よりなる。さらに好ましくは、前記ゲル乃至ゼリー物質はゼラチンである。
【発明の効果】
【0009】
出口案内翼や低圧コンプレッサのごとき鳥が直接には衝突しない部材に対しても適切なバードストライクの模擬を可能にする投射体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、模式的に表した衝突直後の荷重プロファイル曲線である。
図2図2は、比較例による投射体の平面断面図である。
図3図3は、本発明の各実施形態による投射体の平面断面図である。
図4図4は、他の実施形態による投射体の平面断面図である。
図5図5は、投射体を射出する過程を模擬的に表す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の幾つかの実施形態を添付の図面を参照して以下に説明する。図面は必ずしも正確な縮尺により示されておらず、従って相互の寸法関係は図示されたものに限られないことに、特に注意を要する。また投射体が射出される方向は、図2〜5において右方に示されているが、これは発明を限定するものではない。
【0012】
既に述べた通り、エンジンのファンのごとき、航空機において前方に面した部材においてバードストライクが起こるときには、鳥の体の全体がこれに衝突する。ファンは高速で回転しているので、鳥の体は細かな塊に切断され、この細かな塊の一群がファンによる空気流と共にエンジンやバイパスダクトの内部に吸い込まれ、出口案内翼等の部材に二次的な衝突を起こす。
【0013】
上述の全過程を、公知の粒子法により数値的に解析し、出口案内翼に与える荷重プロファイルをグラフ化すると、例えば図1の線sのように模式的に表すことができる。図1において、横軸は衝突からの時間の経過であって、縦軸は荷重である。すなわち、衝突直後からの荷重の増加は比較的に緩やかであり、また荷重のピークは、変動を繰り返しながら比較的に長時間持続する。
【0014】
一方、模擬的な投射体が衝突するときに、衝突対象に印加される荷重は、数式(1)により見積もられる。
【数1】
【0015】
ここで、ρは投射体の密度であり、Aは投射体の進行方向に直交する面における断面積であり、vは速度である。また荷重が印加される時間は、数式(2)により見積もられる。
【数2】
【0016】
ここで、Lは投射体の長さである。
【0017】
投射体が衝突するとき、まずその前端が衝突対象に接してその質量をこれに印加し、次いで前端から順次潰れながら後続する部分がその質量を対象に印加していく。投射体が円柱ないし円柱に類似した形状の場合には、投射体の前端から後端まで断面積Aが一定であり、衝突直後において速度vが大きいので、数式(1)より、衝突直後から大きな荷重が衝突対象に印加されることが判る。すなわち、衝突直後の荷重の増加が、より急峻になることが明らかである。してみると、円柱ないし円柱に近い投射体を利用する従来の試験は、出口案内翼や低圧コンプレッサに対する衝突試験としては、過酷に過ぎる試験であると言える。
【0018】
本発明者らは、ファンの後方に位置する部材への衝突を模擬しうる投射体の形状について、以下のように検討を行った。
【0019】
衝突直後の急峻な荷重の増加を軽減するには、投射体の前端において断面積Aを減じればよいことが、数式(1)より容易に理解される。そこで図2(a)に示す投射体1が衝突する場合を考える。投射体1は、円柱形の本体3と、前端に向かって先細な円錐であるテーパ部5と、よりなる。テーパ部5の頂角は90°であり、その密度ρはゼラチンのものに等しいとする。かかる仮定に基づき上述と同様な数値解析を実施すると、図1の線bのような荷重プロファイルが得られる。円柱の投射体と比べると衝突直後の荷重増加はより緩やかであり、線bは線sに幾分近似するものの、衝突直後の荷重の増加の程度がなお過大であることが判る。
【0020】
次に、断面積Aを減じた部分をより長くするべく、図2(b)に示す投射体1’を考える。投射体1’は、投射体1に比べてより短い本体3’と、より長いテーパ部5’と、よりなり、密度ρは投射体1と同一とする。同様に数値解析を実施すると、図1の線aのような荷重プロファイルが得られる。衝突直後の荷重の増加が過度に緩和され、やはり線sとは近似していない。
【0021】
図2(a)の例と図2(b)の例の中間を模索しても、あるいはその径や全長を諸々に模索しても、線sに近似するものは得られない。
【0022】
その原因を考察するに、次のように推察できる。すなわち、テーパ形状によれば最前端における断面積は小さくできるものの、荷重プロファイルが2次曲線に限定されるため、衝突直後の荷重の増加を著しく減じてしまう。
【0023】
すなわち本発明者らによる検討によれば、投射体の外輪郭をテーパ形状とすることによっては、衝突直後の荷重の増加と、荷重の持続時間とを同時に線sに近似することは困難であることが判った。
【0024】
また投射体の外輪郭が円柱形から乖離することは、後述のごとく、射出の際のサボーによる支持を困難にしてしまう。外輪郭は円柱に近似したもの、あるいは射出の便宜を考慮した他の何れかの形状が好ましい。
【0025】
上述のごとき検討に基づき、本発明の本実施形態による投射体10は、図3(a)に示すごとく、前端および後端を有する円柱形の外輪郭と、前端において開口した開口と、この開口から後端に向けて延びる空洞15と、を有する中実体13である。中実体13は、ゼラチンのごときゲル乃至ゼリー物質よりなる。
【0026】
外輪郭は、例えば円柱にすることができる。既に述べた通り、円柱形は、サボーによって支持されるに有利である。もちろん射出の便宜を考慮した他の何れかの形状、例えば角柱でもよい。中実体13の後端は、軸方向に垂直な面としてもよく、あるいは半球や射出に適したその他の形状であってもよい。
【0027】
空洞15は、例えば、後端に向かって先細となるテーパ形状である。中実体13の断面は、その前端から空洞15の後端に達するまでは、円形の外輪郭付近にのみ中実部が残る円形である。このような形状では、最前端における断面積を小さくしつつ、全体の体積を相当程度に維持することができる。
【0028】
さらに、上述のテーパ形状は、円錐にすることができる。あるいはテーパ形状は角錐でもよい。テーパ形状は、中実体13の全体の形状に応じて決定できる。
【0029】
中実体13の全体は、ゲル乃至ゼリー物質よりなる。かかる物質の例としてはゼラチンが挙げられる。ゼラチンは鳥の筋肉に近似した密度を有し、またその粘弾性も近似しているので、投射体の素材として適している。中実体13の全体が均一な密度であってもよいが、あるいは密度勾配を有していてもよい。
【0030】
開口が開放されたままでは、投射体10が射出される際、あるいは衝突する際に、開口付近が潰れてしまうおそれがある。そこで図3(b)に示すごとく、支持体17によりこれを閉塞してもよい。また図3(c)に示すごとく、支持体17’は空洞15の実質的に全体に亘っていてもよい。支持体17,17’は、開口付近の変形を防止する。好ましくは支持体17,17’には、中実体13の素材よりも低密度であって適度の剛性を有する素材を適用する。そのような素材としては、例えば発泡ウレタンのごとき樹脂を例示することができる。
【0031】
空洞15の形状としては、種々の変形がありうる。例えば図4(a)に示すごとく、空洞15’は中実体13のほぼ全長に亘っていてもよいし、逆に前端近傍の限られた範囲に限定されていてもよい。空洞が長ければ、衝突直後の荷重の増加が緩やかになる。所望の荷重プロファイルに応じて空洞の長さを定めることができる。
【0032】
あるいは図4(b)に示す空洞15sのごとく、その径がその全長に亘り均一ないし均一に近いものであってもよい。空洞の終端には、半球形15bやその他の形状を適用することができる。このような形状では、衝突直後の荷重の増加が一様でなく、多段的な荷重プロファイルを得ることができる。
【0033】
さらにあるいは図4(c)に示す空洞15cのごとく、より複雑な形状を採用することもできる。また密度は均一に限らず、中実体13に密度勾配を与えてもよい。形状と、密度勾配とを組み合わせれば、より多くの荷重プロファイルをデザインすることができる。
【0034】
図3(a)の例に基づき、前述と同様な数値計算を実施して得られた荷重プロファイルは、図1の線cのごとくである。線cにおいて、衝突直後の荷重の増加する部分と、荷重が持続する高原状の部分において、線sに比較的に近似の程度がよい。荷重プロファイル曲線においてこれらの部分は、衝突を模擬することにおいて、その質に最も重要な部分である。これらの部分において近似の程度が高いことから、本実施形態による投射体は、出口案内翼や低圧コンプレッサのごとき鳥が直接には衝突しない部材に対して適切なバードストライクの模擬を可能にするものであると言える。
【0035】
本実施形態による投射体10は、図5に示すごときガス銃100により射出される。
【0036】
ガス銃100は、概ね、前端が開放された円柱である本体102と、その内部に装填されたサボー104と、よりなる。サボー104は、例えば円柱状の凹部を有し、かかる凹部に投射体10が装填される。本体102の内部であってサボー104の後方の空間には、圧縮ガスが充填される。またガス銃100は、サボー104を図5(a)に示す当初位置に一時的に留め置くための係止手段を備え、さらにサボー104が前端から飛び出さないように停止するための停止手段を備える。
【0037】
投射体10が装填されたガス銃100および試験体110の全体は、真空チャンバに導入され、数十Pa程度の真空下に置かれる。あるいはより大気圧に近い状態でもよい。減圧状態の下では、空気抵抗が著しく減ぜられるので、亜音速に近い高速での射出が容易であり、また空気抵抗による投射体の変形が無視できる。
【0038】
かかる状態において、係止手段を解除し、圧縮ガス圧によりサボー104を前方へ加速する。サボー104は停止手段によりガス銃100の前端において停止するので、投射体10のみが射出される。
【0039】
射出された投射体10は、図5(b)に示すごとく試験体110に衝突する。
【0040】
投射体10は、サボー104の凹部に支持されるに適した円柱形の外輪郭を有するので、ガス銃による射出に適している。また投射体10は、内部に空洞15を有することにより、断面プロファイルが調整され、以って出口案内翼や低圧コンプレッサのごとき鳥が直接には衝突しない部材に対して適切なバードストライクの模擬を可能にしている。
【0041】
好適な実施形態により本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記開示内容に基づき、当該技術分野の通常の技術を有する者が、実施形態の修正ないし変形により本発明を実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
出口案内翼や低圧コンプレッサのごとき鳥が直接には衝突しない部材に対しても適切なバードストライクの模擬を可能にする投射体が提供される。
【符号の説明】
【0043】
10 投射体
13 中実体
15 空洞
17 支持体
100 ガス銃
102 本体
104 サボー
110 試験体
図1
図2
図3
図4
図5