(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記側鎖を有する水添スチレン系熱可塑性エラストマーが、側鎖を有するポリオレフィン系重合体ブロックとスチレン重合体ブロックとを含むブロック共重合体である請求項8記載の燃料電池セパレータ。
炭素材料、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー、および溶媒を混合してスラリーを調製し、得られたスラリーを塗布した後、溶媒を除去してシート状のセパレータ前駆体とし、このセパレータ前駆体を成形することを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セパレータは、各単位セルに導電性を持たせる役割、並びに単位セルに供給される燃料および空気(酸素)の通路を確保するとともに、それらの分離境界壁としての役割を果たすものである。
このため、セパレータには、高電気導電性、ガスバリア性、化学的安定性、耐熱性および耐熱水性などの諸特性が要求される。
【0003】
従来、燃料電池セパレータの材料としては、グラッシーカーボンや熱硬化性樹脂に黒鉛を配合したものや、金属などが用いられている。これらの材料は柔軟性が低く、わずかな厚みムラや寸法変化でも十分なシール性が得られないため、高い寸法精度が求められるだけでなく、スタック積層時のセパレータ同士の接触面の密着性が悪く、接触抵抗を悪化させる場合がある。
また、カーボンセパレータでは、燃料電池を組み立てる際のボルトとナットによる締め付けで割れが発生しやすく、この割れからガス漏れが生じてしまうという問題もある。特に、自動車用途ではセパレータの薄肉化が求められており、薄肉成型時にハンドリング性が悪く割れが発生しやすくなるという問題がある。
【0004】
このような問題点から、セパレータに柔軟性を付与するために導電材と熱可塑性エラストマーを用いたセパレータが提案されているが(特許文献1〜3参照)、熱可塑性エラストマーは本来の性質として密度が小さいため、これをバインダーとして作製されたセパレータにおいて、燃料ガスのバリア性が不十分になるという問題や、熱可塑性樹脂であるために一定の圧力下で作動する燃料電池では圧縮クリープ特性に劣るという問題があるのみならず、その耐久性にも問題がある。
また、熱可塑性エラストマーの使用により低下した物性を改善するため、導電性フィラーを複合または変性させたものもあるが、ガスバリア性に関する直接的な解決手段は見いだせていない。
このように、柔軟性、ガスバリア性、耐久性、導電性等を満足する燃料電池用セパレータは存在しないのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、柔軟性(割れにくい性質)を有するとともに、ガスバリア性および耐久性にも優れる燃料電池セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、炭素材料のバインダー樹脂として熱硬化性樹脂と熱可塑性エラストマーを併用することで、柔軟性およびガスバリア性の両者を兼ね備えるとともに、耐久性にも優れ、効率的に生産可能な燃料電池セパレータが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 炭素材料と樹脂バインダーとを含む組成物を成形してなり、
前記樹脂バインダーが、熱硬化性樹脂および熱可塑性エラストマーを含み、
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、シリコーン樹脂およびベンゾオキサジン樹脂から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする燃料電池セパレータ、
2. さらに、前記樹脂バインダーが相溶化剤を含む1の燃料電池セパレータ、
3. 前記相溶化剤が、熱可塑性エラストマーである2の燃料電池セパレータ、
4. 前記相溶化剤が、酸変性熱可塑性エラストマーである2または3の燃料電池セパレータ、
5. 前記酸変性熱可塑性エラストマーが、無水マレイン酸変性水添スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体である4の燃料電池セパレータ、
6. 前記熱可塑性エラストマーが、スチレン系熱可塑性エラストマーを含む1〜5のいずれかの燃料電池セパレータ、
7. 前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、水添スチレン系熱可塑性エラストマーである6の燃料電池セパレータ、
8. 前記水添スチレン系熱可塑性エラストマーが、側鎖を有する水添スチレン系熱可塑性エラストマーである7の燃料電池セパレータ、
9. 前記側鎖を有する水添スチレン系熱可塑性エラストマーが、側鎖を有するポリオレフィン系重合体ブロックとスチレン重合体ブロックとを含むブロック共重合体である8の燃料電池セパレータ、
10. 前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含む1〜9のいずれかの燃料電池セパレータ、
11. 炭素材料、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー、および溶媒を混合してスラリーを調製し、得られたスラリーを塗布した後、溶媒を除去してシート状のセパレータ前駆体とし、このセパレータ前駆体を成形することを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料電池セパレータは、適度な柔軟性を有していることから、割れにくいだけでなく、接触抵抗の低下など、その他の性能も良好であるとともに、ガスバリア性および耐久性にも優れている。
このように本発明の燃料電池セパレータは、エラストマーの柔軟性を維持したまま熱硬化性樹脂主体の現行品と同等のガスバリア性、耐熱性、電気特性を有する優れたものである。
さらに、本発明では、炭素材料、熱硬化性樹脂および熱可塑性エラストマーを含む組成物を、一旦シート状の前駆体とした後、これをさらに圧縮成型等によりセパレータとすることができるため、シート供給によるセパレータの生産性の向上も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る燃料電池セパレータ(以下、単にセパレータという場合もある)は、炭素材料と樹脂バインダーとを含む組成物を成形してなり、樹脂バインダーが、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマーおよび必要に応じて相溶化剤を含むことを特徴とする。
熱硬化性樹脂としては、従来、カーボンセパレータの樹脂バインダーとして汎用されているものから適宜選択することができる。
その具体例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、シリコーン樹脂、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性および機械的強度に優れていることから、エポキシ樹脂が好適に用いられる。
【0012】
エポキシ樹脂としては、エポキシ基を有するものであれば特に制限されず、その具体例としては、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。中でも、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂を使用する場合の硬化剤としては、フェノール樹脂やアミン化合物、酸無水物、ポリアミノアミド化合物、ジシアンアミド、イミダゾール化合物、ポリメルカプタン化合物、イソシアネート化合物等が挙げられ、これらの中でも、ガラス転移点を上げて耐熱性を向上させ、かつ、熱間での機械的強度特性を向上させるという観点から、フェノール樹脂を用いることが好ましい。
フェノール樹脂の具体例としては、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アラルキル変性フェノール樹脂等が挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明においては、上記熱硬化性樹脂の硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン(TPP)、テトラフェニルホスフィン等のホスフィン系化合物、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジメチルベンジルアミン(BDMA)等のアミン系化合物、2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−イミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−(2−クロロフェニル)イミダゾール、1−(3−クロロフェニル)イミダゾール、1−(4−クロロフェニル)イミダゾール、1−(3−フルオロフェニル)イミダゾール、1−(4−フルオロフェニル)イミダゾール、1−(4−メトキシフェニル)イミダゾール、1−o−トリルイミダゾール、1−m−トリルイミダゾール、1−(3,5−ジメチルフェニル)イミダゾール、2−(4−クロロフェニル)イミダゾール、2−(4−フルオロフェニル)イミダゾール、5−フェニルイミダゾール、5−(2−クロロフェニル)イミダゾール、5−(3−クロロフェニル)イミダゾール、5−(4−クロロフェニル)イミダゾール、5−(2−フルオロフェニル)イミダゾール、5−(3−フルオロフェニル)イミダゾール、5−(4−フルオロフェニル)イミダゾール、5−(2−メトキシフェニル)イミダゾール、5−(3−メトキシフェニル)イミダゾール、5−(4−メトキシフェニル)イミダゾール、5−o−トリルイミダゾール、5−m−トリルイミダゾール、5−p−トリルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物などが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0014】
これらの中でも、樹脂バインダーの熱安定性を高め、セパレータ成形時に金型内で急激に硬化反応が進行して溶融粘度および成形圧力が上昇することを防止すること、および硬化促進剤としての活性を適度とすることを考慮すると、イミダゾール化合物が好ましい。
硬化促進剤の配合量は、効率的、かつ、穏やかに硬化反応を進行させることを考慮すると、樹脂バインダー100質量部に対し、0.65〜2.0質量部が好ましい。
【0015】
一方、熱可塑性エラストマーとしても特に限定されるものではなく、その具体例としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性や良好な柔軟性が得られることから、本発明で用いる熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーを含むことが好ましく、より耐熱特性を高めるという点から、水添スチレン系熱可塑性エラストマーを含むことがより好ましい。
【0016】
また、得られるセパレータのガスバリア性を保持するという観点から、本発明で用いる熱可塑性エラストマー成分は、側鎖を有する水添スチレン系熱可塑性エラストマーを含むことがより好ましく、側鎖を有するポリオレフィン系重合体ブロックとスチレン重合体ブロックとを含むブロック共重合体を含むことがより一層好ましい。
【0017】
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水添スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレンイソブチレンスチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレンエチレンブチレンオレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)等が挙げられるが、上述した得られるセパレータの各特性を考慮すると、これらの中でもスチレンイソブチレンスチレンブロック共重合体(SIBS)が最適である。
【0018】
本発明で用いる組成物では、熱硬化性樹脂と熱可塑性エラストマーという異種の材料が用いられている。これらの異種材料は、その親和性や熱特性において本来は相容れないものであるが、より良好な性能を有するセパレータを得るためには、両成分が組成物中で相溶していることが望まれる。
このような観点から、本発明で用いる組成物には、混合および成形に際してこれら異種材料を相溶させる相溶化剤を樹脂バインダーの一成分として配合することが好ましい。
相溶化剤の特性としては、性質の異なるポリマーが相として存在しながら、相溶化剤が界面に存在することで分散ポリマーを安定化させる“相分離系”が好ましい。
この相分離系の相溶化剤を用いることで、組成物中において、分散相の中に多数の島相が分散したような構造が形成され、熱硬化性樹脂と熱可塑性エラストマーの両方の特性をより良好に発現させることができる。
【0019】
相溶化剤としては、分子構造内に反応性基を有しない非反応型相溶化剤と、反応性基を有する反応型相溶化剤に分類され、そのいずれも用いることができる。
非反応型相溶化剤の例としては、異種ポリマーが化学的に結合した構造(ブロック、ランダム、グラフトポリマー)を有するものが挙げられ、その具体例としては、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水添スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)等の熱可塑性エラストマー、ポリプロピレンスチレングラフト共重合体等が挙げられる。
反応型相溶化剤の例としては、上記熱可塑性エラストマーにカルボキシル基、エポキシ基、水酸基等の極性官能基を導入した変性熱可塑性エラストマーが挙げられ、その具体例としては、無水マレイン酸変性水添スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(酸変性SEBS)等の酸変性熱可塑性エラストマー、エポキシ化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(エポキシ化SBS)等のエポキシ変性熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
さらに、反応型相溶化剤の例としては、ホモポリマー(熱可塑性樹脂)に上記極性官能基を導入したものを用いることもでき、その具体例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の無水マレイン酸変性ポリオレフィンなどが挙げられる。
また、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物や無水マレイン酸等の極性官能基含有モノマーとその他の重合性二重結合含有モノマーとの共重合体(熱可塑性樹脂)化合物も、反応型相溶化剤として用いることができ、その具体例としては、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体(EGMA)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)等が挙げられる。
これらの中でも、本発明では、熱硬化性樹脂に対して効果が得られやすいとの理由から反応型相溶化剤を用いることが好ましい。中でも、樹脂バインダーとして熱可塑性エラストマーを用いることから、相溶化剤としても熱可塑性エラストマー系の相溶化剤を用いることがより好ましい。特に、相溶化性能に優れている酸変性熱可塑性エラストマーがより一層好ましく、無水マレイン酸変性水添スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体が最適である。
【0020】
相溶化剤を用いる場合、その使用量としては特に限定されるものではないが、質量比で熱可塑性エラストマー:相溶化剤=1:9〜9:1程度が好ましく、3:7〜9:1程度がより好ましく、4:6〜9:1がより一層好ましい。
【0021】
本発明で用いる熱可塑性エラストマー(相溶化剤としての熱可塑性エラストマーを含む)は市販品を用いることもでき、その具体例としては、スチレンイソブチレンスチレンブロック共重合体であるSIBSTAR(登録商標) 072T,073T,102T,103T(カネカ(株)製)、水添スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体であるタフテック(登録商標) H1041,H1043,H1051,H1052,H1053,H1062,H1221,H1517(旭化成ケミカルズ(株)製)、DYNARON(登録商標) 8600P,8601P,8903P,9901P(JSR(株)製)、無水マレイン酸変性水添スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体であるタフテック(登録商標) M1911,M1913,M1943(旭化成ケミカルズ(株)製)、極性官能基変性エラストマーであるf−DYNARON(登録商標) 4630P,8630P(JSR(株)製)等が挙げられる。
【0022】
樹脂バインダー中における、熱硬化性樹脂と熱可塑性エラストマーおよび必要に応じて用いられる相溶化剤との使用比率は、得られるセパレータの柔軟性やガスバリア性等を考慮して適宜設定されるものであり、一概に規定することは困難であるが、通常、熱可塑性エラストマーおよび必要に応じて用いられる相溶化剤の合計100質量部に対して、熱硬化性樹脂1〜100質量部程度とすることができ、特にガスバリア性を確保しつつ柔軟性を付与するという観点から、熱可塑性エラストマーおよび必要に応じて用いられる相溶化剤の合計100質量部に対して、熱硬化性樹脂30〜100質量部が好ましく、50〜100質量部がより好ましい。
【0023】
本発明で用いられる炭素材料としては、例えば、土状黒鉛,鱗状(塊状)黒鉛,鱗片状黒鉛等の天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、キッシュ黒鉛、非晶質炭素、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いることができるが、本発明においては、少なくとも、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、キッシュ黒鉛などの黒鉛材料を含む炭素材料を用いることが好ましく、得られるセパレータのガスバリア性を高めることを考慮すると、鱗片状黒鉛を含む炭素材料を用いることが好ましい。
さらに、得られるセパレータの導電性を高めることを考慮すると、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性に優れた材料(以下、高導電材)と黒鉛材料とを併用することがより好ましく、鱗片状黒鉛とカーボンブラックとを含む炭素材料が最適である。
この場合、黒鉛材料と高導電材の使用比率としては、特に限定されるものではないが、黒鉛材料100質量部に対し、高導電材1〜50質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましく、8〜15質量部がより一層好ましい。
【0024】
上記黒鉛材料の平均粒径(d=50)は、特に限定されるものではないが、本発明においては、10〜80μmが好ましく、20〜60μmがより好ましく、30〜50μmがより一層好ましい。
なお、平均粒径(d=50)は、粒度分布測定装置(日機装(株)製)による測定値である。
【0025】
本発明において、炭素材料および樹脂バインダーの使用量としては、樹脂バインダー100質量部に対し、炭素材料30〜5000質量部程度とすることができるが、好ましくは、得られるセパレータのガスバリア性、導電性、柔軟性等を総合的に考慮すると、樹脂バインダー100質量部に対し、炭素材料100〜1000質量部が好ましく、200〜700質量部がより好ましく、400〜600質量部がより一層好ましい。
【0026】
なお、本発明で用いる組成物中には、金型離型性を向上させる目的で内部離型剤を配合してもよい。内部離型剤としては、例えば、ステアリン酸系ワックス、アマイド系ワックス、モンタン酸系ワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
また、組成物中における内部離型剤の含有量としては、特に限定されるものではないが、炭素材料100質量部に対して0.1〜1.5質量部、特に0.3〜1.0質量部であることが好ましい。
【0027】
本発明のセパレータは、上記組成物を所望のセパレータの形状に成形してなるものである。組成物の調製方法およびセパレータの成形方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の種々の方法を用いることができる。
組成物の調製は、例えば、樹脂バインダーとして用いる各樹脂と黒鉛粉末を、それぞれ任意の順序で所定割合混合して行えばよい。混合に用いられる混合機としては、例えば、プラネタリミキサ、リボンブレンダ、レディゲミキサ、ヘンシェルミキサ、ロッキングミキサ、ナウターミキサ等が挙げられる。
セパレータの成形方法としても特に限定されるものではなく、射出成形、トランスファ成形、圧縮成形、押出成形等を採用することができる。これらの中でも、精度および機械的強度に優れているセパレータを得るためには、圧縮成形を採用することが好ましい。
圧縮成形の条件は、金型温度が80〜200℃、成形圧力が1.0MPa以上20MPa未満、好ましくは2.0〜10MPa、成形時間20秒〜1時間である。
なお、圧縮成型後、熱硬化を促進させる目的で、さらに150〜200℃で1〜60分程加熱してもよい。
【0028】
また、本発明の組成物が溶媒を含むスラリーの場合、それを離型フィルム上などに塗布した後、溶媒を除去して一旦シート状の前駆体とし、これを圧縮成形等により所望形状のセパレータとすることもできる。この手法は、本発明の組成物から作製した前駆体がロール可能な高い柔軟性を有しているため連続的にシート供給可能であり、セパレータの生産性向上につながる。
【0029】
この場合、溶媒としては、塗工可能なスラリーを調製できる限り特に限定されるものではないが、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、p−キシレン、o−キシレン、m−キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−ブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸イソブチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール等の脂肪族アルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン等の環状ウレア系溶媒、ジメチルスルホキシドなどが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよいが、本発明では、ケトン系溶媒と芳香族炭化水素系溶媒の混合溶媒を用いることが好ましく、特に、メチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒が好適である。なお、ケトン系溶媒と芳香族炭化水素系溶媒の混合比率は任意であり、質量比で1:9〜9:1とすることができるが、好ましくは6:4〜9:1であり、より好ましくは7:3〜8:2である。
上記スラリーの固形分濃度は特に限定されるものではないが、1〜50質量%程度が好ましく、30〜50質量%程度がより好ましい。
【0030】
スラリー調製法は、炭素材料、樹脂バインダーを構成する各樹脂、必要に応じて用いられる硬化促進剤、および溶媒を任意の順序で混合すればよいが、本発明においては、樹脂バインダーを構成する各樹脂、必要に応じて用いられる硬化促進剤および溶媒の混合物中に、炭素材料を添加・混合する方法が好適である。なお、混合は、上述した公知の混合機を用いて行うことができる。
スラリーの塗布法としては、特に限定されるものではなく、スピンコート法、ディップ法、フローコート法、インクジェット法、ジェットディスペンサー法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の公知の方法から適宜選択すればよい。
溶媒除去の温度は、使用溶媒によって変動するため一概には規定できず、また、熱硬化性樹脂の硬化開始温度より低温であることが要求されるが、一般に室温〜150℃程度とすることができ、50〜130℃程度がより好ましい。
なお、溶媒除去の加熱の前に室温〜80℃程度で予備乾燥をしてもよい。
【0031】
上記のようにして得られたセパレータは、その表面に、ブラスト処理、プラズマ処理、コロナ放電、フレーム処理、UV処理等の既存の親水化処理を施してもよい。
さらに、セパレータにレーザ照射して表面処理を行い、セパレータ表層の樹脂成分を除去し、セパレータの表面抵抗を下げることも可能である。
【0032】
以上説明した本発明のセパレータは、通常、曲げ歪0.65〜1.5%、曲げ応力25〜50MPa程度の適度な柔軟性を有するものであるとともに、ガス透過係数9.0×10
-10mol・m/m
2・sec・MPa以下程度のガスバリア性を有するものであり、組成によっては、ガス透過係数3.0×10
-10mol・m/m
2・sec・MPa以下という良好なガスバリア性を有するものとすることもできる。
また、その他のセパレータ特性についても、体積固有抵抗40mΩ・cm以下程度の導電性を有し、ガラス転移温度120℃以上程度の耐熱性および耐熱浸水重量変化2.0質量%以下程度の耐久性をも有しており、組成によっては、体積固有抵抗25mΩ・cm以下の良好な導電性を有し、ガラス転移温度140℃以上、耐熱浸水重量変化1.4質量%以下の良好な耐熱性および耐久性を有するものとすることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例における各物性の評価は、以下に示す試験規格および条件にて行った。
[1]体積固有抵抗
長さ100mm×幅100mm×厚さ0.8mmの試験片を用い、JIS K 7194に準じて測定を行った。
[2]ガラス転位点
長さ20mm×幅10mm×厚さ0.8mmの試験片を用い、動的粘弾性測定装置(DMA、(株)日立ハイテクサイエンス製)にて測定した。
[3]耐熱浸水重量変化
長さ50mm×幅50mm×厚み0.8mmの試験片を、300mlのイオン交換水の入ったステンレス製の耐圧容器に入れ、150℃で75時間試験後の重量変化率を測定した。
[4]ガス透過性試験
厚さ800μm、φ44mmの円形状試験片を用い、JIS K 7126−1(差圧法)に準じてガス圧2kgf/cm
2(196kPa)で25℃における水素透過係数を測定した。
[5]曲げ試験
長さ20mm×幅25mm×厚み0.8mmの試験片を用い、JIS K 7171に準じて試験速度1mm/分、支点間距離16mmで、25℃における曲げ歪と曲げ応力を測定した。
【0034】
実施例および比較例で用いた材料を以下に示す。
[樹脂バインダー:熱可塑性エラストマー]
実施例1〜3
スチレンイソブチレンスチレンブロック共重合体(SIBSTAR103T,カネカ(株)製)
比較例2
水添スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(タフテックH1041,旭化成ケミカルズ(株)製)
[樹脂バインダー:熱硬化性樹脂]
実施例1〜3
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jERYX−8000,三菱化学(株)製)とノボラック型フェノール樹脂(ショウノールBRG−556,昭和電工(株)製)を当量比で組み合わせたもの
比較例1
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポトートYDCN−700−10,新日鉄住金化学(株)製)とフェノールノボラック樹脂(ショウノールBRG−556,昭和電工(株)製)を当量比で組み合わせたもの
[樹脂バインダー:相溶化剤]
無水マレイン酸変性水添スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(タフテックM1913,旭化成ケミカルズ(株)製)
[炭素材料]
信越化成(株)製の天然黒鉛BF−30と三菱化学(株)製の三菱カーボンブラック#3050Bを90:10の質量比で混合したもの
[硬化促進剤]
イミダゾール系硬化促進剤(キュアゾールC11z,四国化成(株)製)
【0035】
[実施例1〜3]
表1に示される各質量比で樹脂バインダーおよび硬化促進剤を混合し、この混合物をトルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒(トルエン:メチルエチルケトン=70:30(質量比))の入ったプラネタリミキサに投入し、これを撹拌して溶解させ、固形分20質量%の樹脂溶液を得た。この樹脂溶液に表1に示される質量比で炭素材料を投入し、さらに撹拌してスラリー溶液を得た。
その後、このスラリー溶液をコンマコーター(登録商標)R−FC((株)ヒラノテクシード製)にて離型フィルム上にシート状に塗布し、65℃で1時間乾燥後、120℃まで1時間で昇温させてシート中の溶媒を除去し、シート状の燃料電池セパレータ前駆体(厚み760〜790μm)を得た。
得られた前駆体を400×160mmの金型に投入し、金型温度100℃、成型圧力285kg/cm
2(2.79MPa)、成形時間30分にて圧縮成形し、175℃で1時間加熱硬化することでガス流路溝を有する板状成形体を得た。
次いで得られた板状成形体の全表面に対し、粒径20μmのアルミナ研創材を0.25MPaでエアブラストにより粗面化処理を施し、燃料電池セパレータを得た。得られた燃料電池セパレータは
図1〜3に示されるように曲げても破断しない柔軟性を有するものであった。
【0036】
[比較例1]熱可塑性エラストマーを含まない組成
表1に示される質量比で熱硬化性樹脂、炭素材料および硬化促進剤を用い、実施例1と同様にして燃料電池セパレータ前駆体および燃料電池セパレータを得た。得られた燃料電池セパレータは
図4に示されるように曲げると破断し、柔軟性を有しないものであった。
【0037】
[比較例2]
表1に示される質量比で熱可塑性エラストマーおよび炭素材料を用い、実施例1と同様にして燃料電池セパレータ前駆体および燃料電池セパレータを得た。
【0038】
上記各実施例および比較例で得られたセパレータについて、各種特性を測定・評価した。結果を表1に併せて示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示されるように、実施例1〜3で得られた燃料電池セパレータは、柔軟性、耐久性およびガスバリア性が良好であるとともに、その他のセパレータ特性も実用に耐えうる十分なものであることがわかる。
一方、比較例1で得られたセパレータは、特性は十分であるものの、剛性が高く(柔軟性に乏しく)薄肉化した際に割れやすい。
比較例2では十分な柔軟性があり薄肉化の際にも割れにくい物性を示すが、セパレータ特性が大きく劣っているのみならず、柔らかすぎてスタック時の圧力により溝形状がつぶれる可能性がある。