特許第6232827号(P6232827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232827
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】セラミックス複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/22 20060101AFI20171113BHJP
   C30B 11/14 20060101ALI20171113BHJP
   C04B 35/653 20060101ALI20171113BHJP
   H01L 33/60 20100101ALI20171113BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C30B29/22 A
   C30B11/14
   C04B35/653
   H01L33/60
   C09K11/80CPM
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-167706(P2013-167706)
(22)【出願日】2013年8月12日
(65)【公開番号】特開2015-36349(P2015-36349A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正文
(72)【発明者】
【氏名】射場 久善
(72)【発明者】
【氏名】坂田 信一
(72)【発明者】
【氏名】石飛 信一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 典史
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−247706(JP,A)
【文献】 特開2004−238254(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/065324(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/22
C04B 35/653
C09K 11/80
C30B 11/14
H01L 33/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリッジマン法によって、
共晶組成の酸化物融液から、種子結晶を用いて、
LnAl12(LnはY、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの少なくとも一つの元素である。)相からなる第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とが連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体を成長させる方法であって、
前記種子結晶が、前記セラミックス複合体を構成する結晶相のいずれか1つの結晶相と同一の母体を持つ単結晶であることを特徴とするセラミックス複合体の製造方法。
【請求項2】
前記種子結晶が、前記セラミックス複合体を構成する結晶相のうち最も高い融点を持つ結晶相の母体結晶と同一の母体を持つ単結晶であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス複合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1結晶相が、蛍光を発する結晶相であり、
前記セラミックス複合体が、受光した光の一部を受光した光とは異なる波長の光に変換する光変換用セラミックス複合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックス複合体の製造方法。
【請求項4】
前記Lnが、YまたはTbの少なくとも一つの元素であり、
前記第1結晶相が、Ceを付活剤として含有する結晶相であることを特徴とする請求項に記載のセラミックス複合体の製造方法。
【請求項5】
前記Lnが、Yであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のセラミックス複合体の製造方法。
【請求項6】
前記種子結晶が、Alの単結晶であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のセラミックス複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共晶組成の酸化物融液を一方向凝固して製造される2種以上の結晶相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体の製造方法に関する。詳しくは、高温に暴露される熱機関などの構造部材として用いられる前記セラミックス複合体、熱光起電発電技術において用いる選択的な波長で強い放射率を有する選択エミッター部材として用いられる前記セラミックス複合体、または、ディスプレイ、照明、バックライト光源等に利用される白色発光ダイオードなどに光変換用部材として用いられる前記セラミックス複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共晶組成の酸化物融液を一方向凝固して製造される2種以上の結晶相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体が、高温構造部材として、選択エミッター部材として、または光変換用部材として優れた特性を持つことが知られている(特許文献1〜5)。中でも光変換用部材として用いられるセラミックス複合体は、それだけで光変換用部材として使用でき、高い発光強度と耐熱性とを併せ持つ、高出力の発光ダイオードと組み合わせて使用するに好適な、工業的有用性が特に高いセラミックス複合体である。
【0003】
近年、窒化物系化合物半導体を用いた青色発光素子を発光源とする白色発光ダイオードの開発研究が盛んに行われている。白色発光ダイオードは軽量で、水銀のような有害物質を使用せず、長寿命であることから、今後、需要が急速に拡大することが予測されている。
【0004】
青色発光素子の青色光を白色光に変換する方法として最も一般的に行なわれている方法は、例えば特許文献6に記載されているように、青色発光素子の前面に、青色光の一部を吸収して黄色光を発する蛍光体を含有するコーティング層と、光源の青色光とコーティング層からの黄色光を混色するためのモールド層とを設け、補色関係にある青色と黄色を混色することにより擬似的に白色を得るものである。従来、コーティング層としては、セリウムで付活されたイットリウムアルミニウムガーネット(YAG:Ce)粉末とエポキシ樹脂の混合物が採用されている。現在、白色発光ダイオードの用途が拡大することにより、発光強度の高い高輝度白色発光ダイオードが求められ、その開発が進められている。
【0005】
白色発光ダイオードの発光強度の向上には、より高出力の電流印加が必要となる。しかし、高出力の電流印加により、発光源となる青色発光ダイオードに発熱を生じ、蛍光体やコーティング樹脂の劣化が起こり、発光強度が下がることに繋がる。
【0006】
その問題を解決するために、樹脂を使用しない蛍光体の研究開発が行われている。上述の、光変換用部材として使用できる、共晶組成の酸化物融液を一方向凝固して製造される2種以上の結晶相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体(光変換用セラミックス複合体)は、樹脂と比較して非常に耐熱性が高く、発熱による蛍光体の劣化が起こらず、高い蛍光強度を保つことが可能である(特許文献4、5)。
【0007】
上述のセラミックス複合体は、通常、適当な温度勾配を持った炉内でそのセラミックス複合体を構成する成分からなる融液を入れた坩堝を移動して、融液を一方向凝固させるブリッジマン法により製造される。ルツボには、イリジウム(以下Irと記す)、タングステン(以下Wと記す)、モリブデン(以下Moと記す)等の高融点金属からなるルツボを用いることができる。
【0008】
また、ルツボ内の構造を、特許文献7の図3または図4のように、単一化結晶成長室と単一化結晶成長室の上部に位置し、単一化結晶成長室から直胴部へ開口径を拡大していく繋ぎ部とを有し、ルツボ内壁との間に大容積の空間を設けた形状の入れ子を使った構造とし、さらに特許文献7の実施例5に開示されているように、セラミックス複合体そのものを種子結晶として用いることで、クラックのないセラミックス複合体を高い歩留まりで得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3216683号公報
【特許文献2】特許第3412381号公報
【特許文献3】特開2000−272955号公報
【特許文献4】特許第4609319号公報
【特許文献5】特許第5029362号公報
【特許文献6】特開2000−208815号公報
【特許文献7】特開2004−238254号公報
【特許文献8】特開2011−216543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、以上の方法によりクラックのないセラミックス複合体を高い歩留まりで得ることができても、一方向凝固時に、高温下で融液を保持したルツボが損耗して、ルツボから融液にルツボの構成成分が混入することがある。そして、混入したルツボの構成成分は凝固後のセラミックス複合体の、特に種子結晶からセラミックス複合体の下部にかけて汚染物として残留し、その汚染部位においては、セラミックス複合体が、本来の色を呈さないばかりか、セラミックス複合体本来の特性を示さないことがある。また、セラミックス複合体の表面近傍に薄片状等の形態で残留することもある。
【0011】
一方向凝固工程において混入したルツボの構成成分が、以上のように前記セラミックス複合体に残留すると、ルツボの構成成分が混入し汚染された部位はセラミックス複合体本来の特性を発現しないので、除去する必要があり、その場合、製品歩留まりが低下し、またその除去工程が必要にもなり、前記セラミックス複合体の製造コストが増加する。
【0012】
そこで本発明は、ブリッジマン法によって共晶組成の酸化物融液から種子結晶を用いて2種以上の結晶相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体を成長させるセラミックス複合体の製造方法において、クラックがなく、不純物による汚染が少ないセラミックス複合体を、高い歩留まりで製造できることを可能にするセラミックス複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、まず、融液を従来より高い温度に保持した上で、具体的にはセラミックス複合体からなる種子結晶が完全に融解する温度にした上でセラミックス複合体を成長させると、ルツボの構成成分による汚染がセラミックス複合体に残りにくくなることを見出した。しかし、種子結晶が全て融解すると、得られるセラミックス複合体が多結晶化しやすくなるので、クラックがないセラミックス複合体が得られる歩留まりが低下する問題が生じた。
【0014】
そこで、さらに本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、種子結晶にセラミックス複合体を構成する結晶相のいずれか1つの結晶と同じ母体の単結晶を用いることで、種子結晶がセラミックス複合体では全て融解するような温度、つまり種子結晶全ての温度をセラミックス複合体の融点以上の温度に保持した上で融液を一方向凝固しても、種子結晶を完全に融解させることなく、種子結晶からセラミックス複合体を成長させることができることと、それによって、セラミックス複合体の多結晶化に伴うクラックの発生を抑制できることを見出した。
【0015】
以上のように、本発明者らは、種子結晶にセラミックス複合体を構成する結晶相のいずれか1つの結晶と同じ母体の単結晶を用いることで、融液を従来より高い温度に保持した上で一方向凝固を行っても、種子結晶からセラミックス複合体を成長させることができることと、それによって、クラックがなく、不純物による汚染が少ないセラミックス複合体を高い歩留まりで得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち本発明は、ブリッジマン法によって、共晶組成の酸化物融液から、種子結晶を用いて、2種以上の結晶相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体を成長させる方法であって、前記種子結晶が、前記セラミックス複合体を構成する結晶相のいずれか1つの結晶相と同一の母体を持つ単結晶であることを特徴とするセラミックス複合体の製造方法である。
【0017】
また本発明は、前記種子結晶が、前記結晶相のうち最も高い融点を持つ結晶相の母体結晶と同一の母体を持つ単結晶であることを特徴とする前記のセラミックス複合体の製造方法である。
【0018】
また本発明は、前記セラミックス複合体が、LnAl12(LnはY、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの少なくとも一つの元素である。)相からなる第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とから構成されることを特徴とする前記セラミックス複合体の製造方法である。
【0019】
また本発明は、前記第1結晶相が、蛍光を発する結晶相であり、前記セラミックス複合体が、受光した光の一部を受光した光とは異なる波長の光に変換する光変換用セラミックス複合体であることを特徴とする前記セラミックス複合体の製造方法である。
【0020】
また本発明は、前記Lnが、YまたはTbの少なくとも一つの元素であり、前記第1結晶相が、Ceを付活剤として含有する結晶相であることを特徴とする前記のセラミックス複合体の製造方法である。
【0021】
また本発明は、前記Lnが、Yであることを特徴とする前記のセラミックス複合体の製造方法である。
【0022】
また本発明は、前記種子結晶が、Alの単結晶であることを特徴とする前記のセラミックス複合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るセラミックス複合体の製造方法によれば、ブリッジマン法によって、共晶組成の酸化物融液から、種子結晶を用いて、2種以上の結晶相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体を成長させる方法において、種子結晶を完全には融解させずに種子結晶近傍の融液の温度を高くできるので、クラックがなく、ルツボからの不純物による汚染が少ないセラミックス複合体を高い歩留まりで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明で用いるルツボの模式図である。
図2】ルツボ外側の種子結晶直下の温度を測定する熱電対の設置形態を示す図である。
図3】種子結晶が装填され、融解原料が投入された状態のルツボの模式図である。
図4】本発明に係るセラミックス複合体の種子結晶近傍部位(入れ子を含む)の成長方向断面の写真である。
図5】本発明に係るセラミックス複合体において、内部量子効率測定サンプルを採取するための円板状サンプルを採取した位置を示す図である。
図6】円板状サンプルにおいて、内部量子効率測定サンプルを採取した個所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
はじめに、本発明に係るセラミックス複合体について説明する。
【0026】
本発明に係るセラミックス複合体は、例えば特許文献1〜5などに具体的に開示されている、それ自体公知の、2種以上の結晶相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体であり、高温における機械的性質が良好な高温構造材料や機能材料として好適に使用することのできるセラミックス複合体である。
【0027】
本発明に係るセラミックス複合体が、LnAl12(LnはY、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの少なくとも一つの元素である。)相からなる第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とから構成されるセラミックス複合体である場合は、高温における機械的性質が特に良好な高温構造材料や、高温において選択的な波長で高い放射率を有する選択エミッター材料等として好適である。
【0028】
本発明に係るセラミックス複合体が、第1結晶相が蛍光を発する結晶相であり、受光した光の一部を受光した光とは異なる波長の光に変換する光変換用セラミックス複合体である場合は、各種発光装置に光変換用部材として好適に使用されるので、好ましい。
【0029】
さらに、Lnが、YまたはTbの少なくとも一つの元素であり、第1結晶相が、Ceを付活剤として含有する結晶相である光変換用セラミックス複合体である場合は、第1結晶相が受光した青色光を黄色光に変換し、第2結晶相が青色光をそのまま透過させて、黄色光と青色光とが混合された白色光を発光できるので、青色発光ダイオードと組み合わせて使用される白色発光ダイオード用の光変換部材として好適であり、特に好ましい。
【0030】
LnがYである場合、すなわち、本発明に係るセラミックス複合体が、蛍光を発する結晶相である、Ceで付活されたYAl12相からなる第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とが連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有する光変換用セラミックス複合体である場合は、特に内部量子効率が高くなるので、青色発光ダイオードと組み合わせて使用される白色発光ダイオード用の光変換部材として特に好適である。また、Ceで付活されたYAl12相からなる第1結晶相はGdを含有することができる。第1結晶相がGdを含有すると、第1結晶相から発せられる蛍光の波長を長波長化することができる。
【0031】
次に、本発明に係るセラミックス複合体の製造方法について説明する。
【0032】
本発明に係るセラミックス複合体は、ブリッジマン法により、原料酸化物の融液を、種子結晶を用いて一方向凝固させ、結晶成長させることで製造される。
【0033】
そして、本発明のセラミックス複合体の製造方法は、ブリッジマン法による共晶組成の酸化物融液の一方向凝固において、特定の単結晶からなる種子結晶を用いることを特徴とする。すなわち本発明のセラミックス複合体の製造方法は、ブリッジマン法によって、共晶組成の融液から、種子結晶を用いて2種以上の結晶相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体を成長させる方法であって、前記種子結晶が、前記セラミックス複合体を構成する結晶相のいずれか1つの結晶相と同一の母体を持つ単結晶であることを特徴とする。母体とは、蛍光体結晶における母体結晶のことであり、例えば、蛍光体結晶がYAl12:Ceの場合のYAl12結晶のことを言う。
【0034】
本発明に係るセラミックス複合体は、後述の通り、共晶組成の融液を凝固させて得られるので、セラミックス複合体を構成する結晶相のいずれか1つの結晶相と同じ母体を持つ単結晶は、セラミックス複合体より融点が高い。したがって、本発明に係る単結晶を種子結晶に用いれば、セラミックス複合体と同一物を種子結晶に用いる場合よりも、種子結晶近傍の融液をより高い温度で保持できる。セラミックス複合体そのものを種子結晶に用いた場合は、種子結晶全てを融液の融点以上の温度にすると、種子結晶がすべて融解するが、本発明に係る単結晶を種子結晶に用いれば、種子結晶全ての温度を融液の融点以上の温度にしても、本発明に係る単結晶の融点の温度までは種子結晶が完全に融解することがない。したがって、本発明に係る単結晶を種子結晶に用いれば、融液を従来よりも高い温度で溶融させた状態でも、種子結晶からセラミックス複合体を成長させることができる。
【0035】
本発明に用いる種子結晶はセラミックス複合体を構成する結晶相のいずれか1つの結晶相と同じ母体を持つ単結晶であるので、種子結晶の方位によってセラミックス複合体を構成する結晶相の方位を任意の方位に制御することができる。また、セラミックス複合体を構成する結晶相の格子間隔とのミスマッチがないので、セラミックス複合体が多結晶化してクラックが発生することが少なく、精密な方位制御が可能である。
【0036】
本発明に用いる種子結晶は、セラミックス複合体を構成する結晶相のいずれか1つの結晶相と同じ母体を持つ単結晶であれば良い。例えば、セラミックス複合体が、YAl12:Ceからなる第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とが連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有する光変換用セラミックス複合体である場合は、Alの単結晶、YAl12:Ceの単結晶だけでなく、Ceを含有しないYAl12の単結晶等を種子結晶として用いることができる。セラミックス複合体と組成が異なる種子結晶の一部が融解して融液に混入しセラミックス複合体に残存しても、種子結晶は、得られるセラミックス複合体の構成元素の一部から構成されており、また得られるセラミックス複合体に対する種子結晶の割合は通常非常に小さいので、得られるセラミックス複合体の歩留まりや特性に影響を与えることはない。
【0037】
本発明においては、共晶組成の酸化物融液からセラミックス複合体を成長させる。融液の組成が共晶組成であれば、セラミックス複合体の凝固時には共晶を構成する結晶相がほぼ同時に晶出しながら成長するので、共晶を構成する特定の結晶相が粗大化することがなく、均一な組織を有するセラミックス複合体を製造することが可能である。ここで、本発明における共晶組成とは、共晶点のみでなく、共晶を構成する特定の結晶相が粗大化してセラミックス複合体にクラックが生じることがない共晶点近傍の組成、具体的には、共晶点から±7mol%の範囲の組成のことを言う。融液の組成がこの範囲であれば、共晶を構成する特定の結晶相が極端に粗大化することがない。融液の組成は、共晶点から±5mol%の範囲の組成であることがより好ましい。
【0038】
本発明に用いる種子結晶は、セラミックス複合体を構成する結晶相のうち最も高い融点を持つ結晶相の母体結晶と同一の母体を持つ単結晶であることが好ましい。種子結晶の融点が高いほど、融液の温度を高くすることができ、不純物による汚染が少ないセラミックス複合体を得ることができるからである。
【0039】
本発明に係るセラミックス複合体が、LnAl12(LnはY、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの少なくとも一つの元素である。)相からなる第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とが連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体である場合は、種子結晶はAlの単結晶であることが好ましい。LnAl12(LnはY、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの少なくとも一つの元素である。)の単結晶の融点よりも、Alの単結晶の融点が高いからである。
【0040】
本発明に係るセラミックス複合体が、LnAl12(LnはY、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの少なくとも一つの元素である。)相からなる蛍光を発する第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とが連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有するセラミックス複合体であり、前記セラミックス複合体が、受光した光の一部を受光した光とは異なる波長の光に変換する光変換用セラミックス複合体である場合は、さらに、種子結晶がAlの単結晶であることが好ましい。Lnが、YまたはTbの少なくとも一つの元素であり、前記第1結晶相が、Ceを付活剤として含有する結晶相である場合は、特に、種子結晶がAlの単結晶であることが好ましい。
【0041】
種子結晶にAlの単結晶を用いると、得られるセラミックス複合体を構成するAl相の結晶方位を精密に制御することできる。ブリッジマン法で得られる凝固体の形状として一般的な円柱状のセラミックス複合体を製造する場合、セラミックス複合体を構成するAl相の結晶方位を精密に制御できることによって、Al相の結晶方位が目的の方位に調整され、直径が揃ったウェハ状の試料を、セラミックス複合体から容易に歩留まり良く採取できるようになる。例えば、特許文献5に開示されている光変換用セラミックス複合体層と単結晶層とが直接接合された発光ダイオード用基板において、単結晶層をAlの単結晶からなる層、光変換用セラミックス複合体層を本発明に係る光変換用セラミックス複合体からなる層とした場合に、Al相の結晶方位が目的の方位に調整されたウェハ状の光変換用セラミックス複合体を歩留まり良く採取できることは、次に説明する効果をもたらす。
【0042】
単結晶層の面方位と同一の方位のAlの単結晶を種子結晶に用いて、光変換用セラミックス複合体を成長させることで、成長方向と垂直な面のAl相が特許文献8に開示されている発光ダイオード用基板の単結晶層の面方位と同一の方位に配向した光変換用セラミックス複合体を製造することができる。この光変換用セラミックス複合体を成長方向と垂直な向きにスライスすることで、Al相の面方位が単結晶層の面方位と同一のウェハ状の光変換用セラミックス複合体層を用意することができる。光変換用セラミックス複合体層のAl相と、単結晶層のAlの単結晶との接合面の面方位が同一であれば、接合強度が高く一定の品質の発光ダイオード用基板が、高い歩留まりで得られやすいので、本発明において、種子結晶にAlの単結晶を用いると、高品質、一定品質の前記発光ダイオード用基板を高い歩留まりで製造できるようになる。以上の通り、本発明のセラミックス複合体が、受光した光の一部を受光した光とは異なる波長の光に変換する光変換用セラミックス複合体である場合は、特に、種子結晶がAlの単結晶であることが好ましい。
【0043】
本発明の、ブリッジマン法によってセラミックス複合体を成長させる方法について具体的に説明する。
【0044】
本発明に係るセラミックス複合体の成長工程、すなわちブリッジマン法による一方向凝固工程に供される融解原料は、以下の方法によって調製することができる。最初に、原料粉末を、所望する成分比率のセラミックス複合体が生成する割合で混合して、混合粉末を得る。混合方法については特別の制限はなく、乾式混合法及び湿式混合法のいずれも採用することができる。湿式混合法を用いる際の媒体としては、メタノール、エタノールのようなアルコールが一般に使用される。湿式混合法を採用した場合は、用いた媒体をロータリーエバポレータなどにより除去する。ついで、この混合粉末をMo製の坩堝中で融解して、その融解物を所定形状の型に流し込み、冷却後、型から取りだして、一方向凝固工程に供される融解原料を得ることができる。
【0045】
ブリッジマン法によるセラミックス複合体の成長、すなわちブリッジマン法による一方向凝固は、以下の方法により行われる。
【0046】
一方向凝固装置としては、セラミックス複合体の融点以上に加熱でき、雰囲気調節が可能なブリッジマン装置であれば特に制約なく使用することができる。本発明においては、真空チャンバー内にルツボが上下方向に移動可能なように収納されており、真空チャンバー内に加熱用の高周波誘導コイルと、高周波誘導コイルの内側に黒鉛製断熱材と高周波誘導コイルによって加熱可能な黒鉛製サセプターとが取り付けられており、高周波電源と容器内空間を減圧にするための真空ポンプが設置されている、それ自体公知のブリッジマン装置を使用する。
【0047】
ルツボの形状としては、種子結晶を装填でき、種子結晶からの結晶成長が可能なものであれば良く、公知の単結晶成長用の形状のルツボを用いることができる。またルツボの材質としては、セラミックス複合体の融点以上の温度で融解しない耐熱性を持ち、また融液と反応しないものであれば良いが、Moを好適に用いることができる。図1に、本発明に用いられる公知のルツボ1の模式図を示す。ルツボは、特許文献7に記載されている公知のルツボであり、単一化結晶成長室3と、単一化結晶成長室3の上部に位置し、単一化結晶成長室3から直胴部4へ開口径を拡大していく繋ぎ部5とを有し、ルツボ内壁との間に大容積の空間を設けた形状の入れ子2を備えている。以下に、公知のルツボ1を用いた一実施形態に基づいて本発明の実施形態を説明するが、これにより本発明が限定されるわけではない。
【0048】
図2に、ルツボ1が、本発明で使用するブリッジマン装置の真空チャンバー内に設置された状態の一例を示す。ルツボ1は、チルプレート6上に設置したルツボの支持台7の上に設置されている。さらに、ルツボの支持台7に固定したタングステン−レニウム熱電対8によって種子結晶直下の温度が測定できるように、ルツボ1の底の外側にタングステン−レニウム熱電対8が装着されている。
【0049】
図3に、種子結晶9が装填され、融解原料10が投入された状態のルツボ1の模式図を示す。図2に示すように、チルプレート6の上に設置されたルツボの支持台7の上に固定され、タングステン−レニウム熱電対8が装着されたルツボ1に、図3に示すように、種子結晶9を装填し、融解原料10を投入する。その後、ブリッジマン装置の真空チャンバー内を真空ポンプにて減圧し、所定の圧力に達したところで高周波誘導コイルに通電して黒鉛サセプターの加熱を開始する。種子結晶直下のルツボ外側に設置した熱電対により測定される温度(以下、種子結晶直下温度と記す)が、セラミックス複合体を構成する結晶相のいずれか1つの結晶と同じ母体の単結晶からなる種子結晶が完全に融解する温度にならないように確認しながら、高周波電源の出力を調節し、融解原料を融解する。そして、種子結晶直下温度を、種子結晶が完全に融解しない温度に保った状態で一定時間保持する。ここで、融液の融解状態保持時の種子結晶直下温度は、予め、セラミックス複合体の種子結晶近傍の汚染がほぼなくなる温度を確認し、それ以上の温度であり、本発明で用いる種子結晶が完全に融解しない温度に設定する。
【0050】
その後、ルツボを引き下げて、ルツボを下部から、すなわち種子結晶側から冷却して融液の一方向凝固を行い、セラミックス複合体を成長させる。
【0051】
融液の一方向凝固は、ルツボおよびブリッジマン装置の構成部材が酸化消耗しない雰囲気であれば常圧下でも可能であるが、欠陥の少ない材料を得るやすくなるためには、4000Pa以下の圧力下で行うことが好ましく、0.13Pa以下で行うことが特に好ましい。
【0052】
ルツボの引き下げ速度、すなわち、セラミックス複合体の成長速度は、融液組成及び融解条件によって、適宜設定することになるが、通常50mm/時間以下、好ましくは1〜20mm/時間である。
【0053】
本発明の効果は、クラックが発生しないセラミックス複合体が得られる歩留まりと、セラミックス複合体のほぼ全体が本来の色を呈すること(ルツボからの汚染による部分的な着色がないこと)により目視で確認することができる。また、目視による確認に加えて、セラミックス複合体のほぼ全体が本来の特性を示すことによっても確認することもできる。本発明においては、セラミックス複合体が、Ceを付活剤として含有するYAl12相からなる第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とから構成される光変換用セラミックス複合体である場合について、次のように本発明の効果を確認する。
【0054】
Ceを付活剤として含有するYAl12相からなる第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とから構成される光変換用セラミックス複合体の製造実験を20回行い、その場合のクラックがない光変換用セラミックス複合体が得られる歩留まりと、クラックが発生していない光変換用セラミックス複合体の複数個所の内部量子効率測定結果から本発明の効果を確認する。
【0055】
光変換用セラミックス複合体の内部量子効率の測定は、量子効率測定システムQE−1100F(大塚電子株式会社製)を用いて、8mm×8mm、厚み1.5mmに光変換用セラミックス複合体を加工した板状サンプルについて行う。量子効率とは、サンプルが吸収した励起光の光子数(励起光量子数)に対する蛍光して放出した光子数(蛍光光量子数)の割合として定義されており、内部量子効率とは、励起光量子数からサンプルからの反射光による光子数(反射光量子数)を引き算する吸収光量子数に対する蛍光光量子数の割合を表わしたものである。
【0056】
本発明に係る光変換用セラミックス複合体の内部量子効率の測定手順は以下の通りである。まず、前記量子効率測定システム付帯の積分球内にサンプルを設置せずに、使用する励起光の強度を測定し、励起量子数を計算する。次に、前記システム付帯の積分球内に、本発明に係る光変換用セラミックス複合体を加工した前記板状サンプルを、励起光全てがこのサンプルに照射されるように設置し、サンプルに励起光を照射する。励起光を受光したサンプルが発した蛍光の蛍光強度を測定し、その蛍光強度から蛍光光量子数と吸収光量子数を算出し、内部量子効率を計算する。なお、本発明における内部量子効率測定においては、励起光として、一般的な青色LEDが発する光の一種である460nmの波長の光を用いる。
【実施例】
【0057】
本発明に係るセラミックス複合体が、Ceを付活剤として含有するYAl12相からなる第1結晶相と、Alからなる第2結晶相とから構成される光変換用セラミックス複合体である場合について、次のようにして本発明を実施し、その効果を確認した。
【0058】
(光変換用セラミックス複合体の種子結晶が完全に融解する温度の確認)
光変換用セラミックス複合体の多結晶化によるクラック発生率を低くするためには、種子結晶から光変換用セラミックス複合体を成長させる必要がある。したがって、種子結晶が全て融解する温度を把握して、それより低い温度で光変換用セラミックス複合体を製造する必要がある。光変換用セラミックス複合体を種子結晶に用いた場合に種子結晶が完全に融解する温度を以下の方法で測定した。
【0059】
図2に示すようにタングステン−レニウム熱電対を装着した、内径φ54mm、長さ200mm、底の厚み4.0mmのMo製ルツボを用意した。本発明で使用するブリッジマン装置の真空チャンバー内に設置された、図2に示すようにタングステン−レニウム熱電対を装着した、前記ルツボの最下部に、図3の様に、直径4mm、高さ30mmの、円柱状の光変換用セラミックス複合体を種子結晶として装填し、続いて、後述の実施例1にて説明する方法により製造した融解原料をルツボ内に仕込んだ。その後、ブリッジマン装置の真空チャンバー内を減圧し、高周波電源の出力を徐々に大きくしながらルツボおよび融解原料を加熱して、1.33×10-3Paの圧力下で融解原料を融解した。さらに、種子結晶直下温度が1,600℃になるまで昇温し、種子結晶直下温度が1,600℃のまま3時間保持した。
【0060】
次に、高周波電源の出力を一定に保ったまま、同一の雰囲気においてルツボを5mm/時間の速度で引き下げて融液をルツボの下部から一方向凝固させて、Y3Al512:Ce相とAl23相とからなる、直径54mm、直胴部の高さ100mmの光変換用セラミックス複合体を得た。
【0061】
ルツボから取り出した入れ子の中心を切断して種子結晶の高さ方向の断面を観察して、種子結晶が融解せずに残った高さを測定した。種子結晶が融解せずに残った高さは、融解せずに残った種子結晶と、この一方向凝固において種子結晶から成長した光変換用セラミックスとの間の、線状の境界の存在によって目視にて知ることができる。本発明の光変換用セラミックスそのものである種子結晶と、種子結晶から成長した直後の僅かな線状の領域の光変換用セラミックスとでは、組織のサイズが異なっており、それが透明感の違いとして目視にて確認できるものと思われる。そして、種子結晶直下温度が1,600℃の場合の、種子結晶が融解せずに残った高さは、7mmであった。
【0062】
続いて、種子結晶直下温度を1,620℃にしたこと以外は、種子結晶直下温度を1,600℃にした場合と同様にして、光変換用セラミックスを製造した。種子結晶の高さ方向の断面を観察したところ、種子結晶と作製した光変換用セラミックスの境界は確認されなかった。種子結晶直下温度を1,600℃にしても種子結晶は完全に融解しないものの、1,620℃にすると種子結晶が完全に融解することがあることがわかった。
【0063】
(光変換用セラミックス複合体の汚染がなくなる温度の確認)
種子結晶直下温度を種子結晶が完全に融解することが確認された1,620℃より10℃間隔で高くして光変換用セラミックス複合体を製造する実験を、光変換用セラミックス複合体の種子結晶が完全に融解する温度の確認で説明した方法と同様の方法で行った。種子結晶直下温度が低いほど、得られる光変換用セラミックス複合体は、Moルツボの構成成分と思われる汚染物が残留した汚染部位が多く、種子結晶直下温度を高くするにつれて目視で確認される汚染部位が少なくなった。そして、種子結晶直下温度が1,670℃では、得られる光変換用セラミックス複合体には汚染部位が殆ど確認されなかった。
【0064】
(実施例1)
α−Al23粉末(純度99.99%)とY23粉末(純度99.999%)をモル比で82:18となるよう、またCeO2粉末(純度99.99%)を一方向凝固により生成するY3Al512 1モルに対し0.03モルとなるよう秤量した。これらの原料粉末を、エタノールを媒体としてボールミルによって16時間湿式混合した後、エバポレータを用いてエタノールを除去して混合粉末を得た。混合粉末をMoルツボに投入し、真空炉中で1,950℃に加熱して融解させ、その融解物を所定形状の型に流し込み、冷却後、型から取りだして、一方向凝固工程に供される融解原料を作製した。
【0065】
次に、ブリッジマン装置の真空チャンバー内に設置された、内径54mm、長さ200mm、底の厚み4.0mmのMo製ルツボの最下部に、図3の様に、直径4mm、高さ30mmの、(11−20)面が長手方向と垂直な円柱状のAl単結晶を種子結晶として装填し、続いて融解原料をルツボ内に仕込んだ。その後、ブリッジマン装置の真空チャンバー内を減圧し、ルツボおよび融解原料を加熱して、1.33×10-3Paの圧力下で融解原料を融解し、その後、種子結晶直下温度が1,670℃になるまで昇温した。
【0066】
次に、高周波電源の出力を一定に保ったまま、同一の雰囲気においてルツボを5mm/時間の速度で引き下げて融液をルツボの下部から一方向凝固させて、Y3Al512:Ce相とAl23相とからなる、直径54mm、直胴部の高さ100mmの光変換用セラミックス複合体を得た。
【0067】
上述の条件で光変換用セラミックス複合体の製造実験を20回行い、直径54mm、直胴部の高さ100mmの光変換用セラミックス複合体を20個作製した。20回の実験後全ての光変換用セラミックス複合体で種子結晶の一部が融解せずに残っていることが確認され、その未融解の種子結晶の高さは3〜15mmであった。全ての光変換用セラミックス複合体にルツボからの汚染と思われる着色は確認されず、また、クラックの発生は20個中1個であり、クラック発生率は5%であった。図4に、得られた光変換用セラミックス複合体の一つの種子結晶近傍の部位を、入れ子ごと成長方向にその中心で切断した断面の写真を示す。Al単結晶からなる種子結晶の一部8が完全には融解せずに残っていることがわかる。
【0068】
得られた光変換用セラミックス複合体の内部量子効率の測定を次のように行った。光変換用セラミックス複合体の直胴部において、内部量子効率測定サンプルを採取するための厚み1mmの円板状サンプルを図5に示すように、30mm間隔で4枚採取した。その円板状サンプルより、図6に示すように10mm×10mm、厚み0.2mmの内部量子効率測定用サンプルを切り出した。光変換用セラミックス複合体1個あたり合計8個所について、内部量子効率の測定を行った。クラックが発生した光変換用セラミックス複合体を除いた19個の光変換用セラミックス複合体について、上述した内部量子効率測定を行い、各個所の平均値を計算した。その結果を表1に示す。全ての個所で高い内部量子効率が得られており、実施例1の光変換用セラミックス複合体の製造方法では、クラックがなく、光学特性が悪い部位が少ない光変換用セラミックス複合体を高い歩留まりで得ることができていることがわかった。
【0069】
また、光変換用セラミックス複合体の結晶方位を以下の方法で測定した。測定サンプルとして、得られた光変換用セラミックス複合体から採取した、図5に示す光変換用セラミックス複合体の上部の円板状サンプルを用いた。表面構造評価用多機能X線回折装置ATX−G(株式会社リガク製)を用いて、円板状サンプルの中心部のAlの(300)面の完全極点図形測定を行った。その後に、解析ソフト「極点図とステレオ投影図表示プログラム」(株式会社ノエル工学製)を使用して、測定したAlの(300)面の極点図形とシミュレーション図のAlの(300)面とが重なるように、シミュレーション図を回転、傾転することで、光変換用セラミックス複合体の結晶方位のステレオ投影図を作成した。そのステレオ投影図から、Alの(11−20)面が円板状サンプルの主面の方位と一致することが確認された。すなわち、Alの(11−20)面が、光変換用セラミックス複合体の成長方向と垂直であり、光変換用セラミックス複合体のAl相の結晶方位が、種子結晶の結晶方位が反映されたものであることが確認された。クラックが発生しなかった光変換用セラミックス複合体全てについて、光変換用セラミックス複合体のAl相の結晶方位が、種子結晶の結晶方位が反映されたものであることが確認された。
【0070】
(比較例1)
種子結晶に実施例1により得られた光変換用セラミックス複合体を用いたこと以外は実施例1と同じ方法で、光変換用セラミックス複合体を作製した。実施例1と同様に、光変換用セラミックス複合体の製造実験を20回行い、直径54mm、直胴部の高さ100mmの光変換用セラミックス複合体を20個作製した。20回の実験後全ての光変換用セラミックス複合体で種子結晶が全て融解して残っていないことを確認した。全ての光変換用セラミックス複合体にルツボからの汚染と思われる着色は確認されず、また、クラックの発生は20個中4個であり、クラック発生率は20%であった。得られた光変換用セラミックス複合体の内部量子効率の測定を実施例1と同じ方法で行った。その結果を表1に示す。測定結果は実施例1と同程度であるものの、クラック発生による歩留まり低下が確認された。
【0071】
また、クラックが発生しなかった全ての光変換用セラミックス複合体の結晶方位を実施例1と同じ方法で確認したところ、Alの(11−20)面が光変換用セラミックス複合体の成長方向に対して垂直な面から10〜30°傾いた範囲に分布しており、Al相の結晶方位にバラツキがあることが確認された。
【0072】
(比較例2)
種子結晶直下温度を1,600℃にしたこと以外は比較例1と同じ方法で、光変換用セラミックス複合体を作製した。比較例1と同様に、光変換用セラミックス複合体の製造実験を20回行い、直径54mm、直胴部の高さ100mmの光変換用セラミックス複合体を20個作製した。20回の実験後全ての光変換用セラミックス複合体で種子結晶の一部が融解せずに残っていることが確認され、その未融解の種子結晶の高さは5〜15mmであった。全ての光変換用セラミックス複合体にルツボからの汚染と思われる着色が確認され、また、クラックの発生は20個中1個であり、クラック発生率は5%であった。得られた光変換用セラミックス複合体の内部量子効率の測定を実施例1と同じ方法で行った。その結果を表1に示す。光変換用セラミックス複合体の下部においては内部量子効率が低く、クラックのない光変換用セラミックス複合体は高い歩留まりで得られるものの、光学特性が悪い部位が多いことが確認された。
【0073】
また、クラックが発生しなかった全ての光変換用セラミックス複合体の結晶方位を実施例1と同じ方法で確認したところ、Alの(11−20)面が、光変換用セラミックス複合体の成長方向と垂直であり、光変換用セラミックス複合体のAl相の結晶方位が、種子結晶の結晶方位が反映されたものであることが確認された。
【0074】
【表1】
【符号の説明】
【0075】
1 ルツボ
2 入れ子
3 単一化結晶成長室
4 (ルツボの)直胴部
5 繋ぎ部
6 チルプレート
7 ルツボの支持台
8 タングステン−レニウム熱電対
9 種子結晶
10 融解原料
11 光変換用セラミックス複合体の製造後に、融解せずに残ったAl単結晶からなる種子結晶の一部
図1
図2
図3
図4
図5
図6