特許第6232852号(P6232852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特許6232852-モータ制御装置およびターボ分子ポンプ 図000008
  • 特許6232852-モータ制御装置およびターボ分子ポンプ 図000009
  • 特許6232852-モータ制御装置およびターボ分子ポンプ 図000010
  • 特許6232852-モータ制御装置およびターボ分子ポンプ 図000011
  • 特許6232852-モータ制御装置およびターボ分子ポンプ 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232852
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】モータ制御装置およびターボ分子ポンプ
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20171113BHJP
   H02P 6/18 20160101ALI20171113BHJP
   H02P 6/28 20160101ALI20171113BHJP
   F04D 19/04 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H02P27/06
   H02P6/18
   H02P6/28
   F04D19/04 H
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-179613(P2013-179613)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-50804(P2015-50804A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(72)【発明者】
【氏名】森山 伸彦
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−187407(JP,A)
【文献】 特開平10−174488(JP,A)
【文献】 特開2010−269070(JP,A)
【文献】 特開2013−108454(JP,A)
【文献】 特開2009−296788(JP,A)
【文献】 特開平11−150982(JP,A)
【文献】 特開平08−256496(JP,A)
【文献】 米国特許第06900613(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
F04D 19/04
H02P 6/18
H02P 6/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ回転角検出器を使用せずに、モータに固有のモータ定数、モータのコイルに流れる電流およびコイルに印加される電圧に基づいて、前記モータの回転角を繰り返し推定演算する回転角推定部と、
前記回転角推定部で繰り返し推定演算される前記回転角の信号波形であって、前記モータ定数の不安定性に起因して時間変化が一定ではない信号波形をパルス化し、前記パルス化した信号波形の周期を算出し、前記周期に基づいて前記モータの実回転速度を演算する速度演算部と、
少なくとも、前記実回転速度と目標回転速度との偏差、および前記回転角に基づいて、前記モータを駆動制御する駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
前記駆動信号に基づいてスイッチングされて前記モータへ駆動電力を供給するスイッチング回路とを有するモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記回転角推定部における前記回転角の推定演算は、前記モータに固有のモータ定数である抵抗r、d軸インダクタンスLd、およびq軸インダクタンスLqと、モータのコイルに流れる電流に基づいて算出されるd軸電流Idおよびq軸電流Iqと、モータのコイルに印加される電圧に基づいて算出されるd軸電圧Vdおよびq軸電圧Vq、ならびにモータの実回転速度ωから、
として、回転角θを推定演算するモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記モータの目標回転速度を設定する設定部と、
前記設定部で設定された目標回転速度と前記速度演算部で演算された実回転速度との偏差に基づいてd軸電圧とq軸電圧を演算するd軸/q軸電圧演算部と、
前記d軸電圧とq軸電圧を三相のa軸電圧とb軸電圧とc軸電圧に変換する二相三相変換部とをさらに備え、
前記駆動信号生成部は、二相三相変換部で得られたa軸電圧とb軸電圧とc軸電圧とに基づいて前記駆動信号を生成して前記スイッチング回路に送出し、
前記回転角推定部は、前記駆動信号により駆動される前記モータのモータ電流から算出されるd軸電流およびq軸電流と、前記モータのモータ電圧から算出されるd軸電圧およびq軸電圧と、前記実回転速度とに基づいて前記モータの回転角を繰り返し推定演算するモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
演算された前記実回転速度の高周波成分を除去するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された実回転速度と目標回転速度との差分を算出する差分器とをさらに有するモータ制御装置。
【請求項5】
シャフトとロータ翼が形成されたロータとを有するロータ組立体と、
前記ロータ翼と所定の間隔をあけて配設されたステータ翼と、
前記ロータ組立体を回転させるためのモータと、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のモータ制御装置とを備えるターボ分子ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサレスで駆動制御されるモータの制御装置およびそのモータ制御装置を用いたターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータを回転させるには、ロータの回転角(磁極位置)を精度よく検出または推定する必要がある。従来から、ホール素子などの回転角検出素子を用い回転角を検出してモータ駆動する方法と、回転角検出素子を用いずにいわゆるセンサレスで回転角を推定してモータ駆動する方法が知られている。高速、高機能のマイコンや高速演算処理装置(DSP)等の演算素子が低コストで入手できる近年では、センサレスでモータ駆動する方法が一般的となりつつある。
【0003】
センサレスでモータを駆動する方法では、コイル抵抗やコイルインダクタンスなどの定数と、コイルに印加される電圧やコイルを流れる電流などに基づいて回転角が推定され、さらに、この回転角から回転速度が算出される。しかし、実際は、コイル抵抗やコイルインダクタンスの値は安定しておらず、これらの値は厳密には定数ではない。よって、定数として設定された値と実際の値に誤差が生じた場合、特に低速回転領域において回転角や回転速度が精度よく推定できないという問題が生じる。
【0004】
特許文献1では、センサレス制御で起こりうる演算の複雑さを解消する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−97263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、低速回転領域においても精度よくモータ回転角を推定演算してモータを制御する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の第1の態様によるモータ制御装置は、モータ回転角検出器を使用せずに、DCブラシレスモータ(以下、モータ)に固有のモータ定数、モータのコイルに流れる電流およびコイルに印加される電圧に基づいて前記モータの回転角を繰り返し推定演算する回転角推定部と、回転角推定部で繰り返し推定演算される回転角の信号波形であって、前記モータ定数の不安定性に起因して時間変化が一定ではない信号波形をパルス化し、前記パルス化した信号波形の周期を算出し、周期に基づいてモータの実回転速度を演算する速度演算部と、少なくとも、実回転速度と目標回転速度との偏差、および回転角に基づいて、モータを駆動制御する駆動信号を生成する駆動信号生成部と、駆動信号に基づいてスイッチングされてモータへ駆動電力を供給するスイッチング回路とを有する。
(2)本発明の第2の態様によるモータ制御装置は、第1の態様によるモータ制御装置において、上記回転角推定部は、モータに固有のモータ定数である抵抗r、d軸インダクタンスLd、およびq軸インダクタンスLqと、モータのコイルに流れる電流に基づいて算出されるd軸電流Idおよびq軸電流Iqと、モータのコイルに印加される電圧に基づいて算出されるd軸電圧Vdおよびq軸電圧Vq、ならびにモータの実回転速度ωから、
として、回転角θを推定演算する。
(3)本発明の第3の態様によるモータ制御装置は、さらに、第の態様のモータ制御装置において、モータの目標回転速度を設定する設定部と、設定部で設定された目標回転速度と速度演算部で演算された実回転速度との偏差に基づいてd軸電圧とq軸電圧を演算するd軸/q軸電圧演算部と、d軸電圧とq軸電圧を三相のa軸電圧とb軸電圧とc軸電圧に変換する二相三相変換部とをさらに備えることが好ましい。このモータ制御装置では、駆動信号生成部は、二相三相変換部で得られたa軸電圧とb軸電圧とc軸電圧とに基づいて駆動信号を生成してスイッチング回路に送出し、回転角推定部は、駆動信号により駆動されるモータのモータ電流から算出されるd軸電流およびq軸電流と、モータのモータ電圧から算出されるd軸電圧およびq軸電圧と、実回転速度とに基づいてモータの回転角を繰り返し推定演算する。
(4)本発明の第4の態様によるモータ制御装置は、第1の態様ないしは第3の態様におけるモータ制御装置は、さらに、演算された実回転速度の高周波成分を除去するローパスフィルタと、ローパスフィルタで高周波成分が除去された実回転速度と目標回転速度との差分を算出する差分器とをさらに有することが好ましい。
(5)本発明の第5の態様は、第1の態様ないしは第4の態様のいずれかのモータ制御装置をターボ分子ポンプに適用したものであり、この第5の態様のターボ分子ポンプは、シャフトとロータ翼が形成されたロータとを有するロータ組立体と、ロータ翼と所定の間隔をあけて配設されたステータ翼と、ロータ組立体を回転させるためのモータと、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のモータ制御装置とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、単純な制御システムで低速回転領域においても安定した回転速度を算出でき、精度の高いモータ駆動制御をすることができる。また、センサレス方式のターボ分子ポンプの低速時の精度と応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のターボ分子ポンプ100の断面図。
図2】本発明のモータ制御装置200におけるシステム構成図。
図3】本発明の回転速度ωの算出方法を示す図。
図4】従来法で算出された高速回転領域における回転速度ωを示す図。
図5】従来法で算出された低速回転領域における回転速度ωを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、ターボ分子ポンプ100の概略構成を示す断面図である。ターボ分子ポンプ100のケーシング52内にはロータ組立体10(ロータアッシー10)が回転自在に設けられている。ターボ分子ポンプ100は磁気軸受式のポンプであり、ロータ組立体10は、上部ラジアル電磁石62、下部ラジアル電磁石64、スラスト電磁石66によって非接触支持される。
【0011】
ロータ組立体10は、ロータ12と、シャフト14とを備える。ロータ12には、複数段のロータ翼20と円筒部18とが設けられている。複数段のロータ翼20の間には、軸方向に対して複数段のステータ翼44が設けられ、円筒部18の外周側にはネジステータ48が設けられている。各ステータ翼44は、スペーサ50を介してベース54上に配設されている。ケーシング52をベース54に固定すると、積層されたスペーサ50がベース54とケーシング52との間に挟持され、各ステータ翼44が位置決めされる。
【0012】
ターボ分子ポンプ100には、モータ制御装置200が接続されている。また、モータ制御装置200は、ターボ分子ポンプ100と一体型とされてもよい。モータ制御装置200は、ロータ組立体10を回転させる直流モータ40(DCブラシレスモータ40、以下単に、モータ40という)を制御するためのものである。
【0013】
ベース54には排気口56が設けられ、この排気口56にバックポンプが接続される。ロータ組立体10が上部ラジアル電磁石62、下部ラジアル電磁石64、スラスト電磁石66によって磁気浮上されつつモータ40により高速回転されることにより、吸気口30側の気体分子は排気口56側へと排気される。
【0014】
図2は、本発明のモータ制御装置200を中心としたシステム構成図である。モータ制御装置200は、目標速度設定部201と、Vd/Vq演算部202と、第1パラメータ変換部203と、第2パラメータ変換部204と、モータ駆動信号生成部205と、スイッチング回路211と、回転角推定部206と、パルス変換部207と、速度算出部208と、ローパスフィルタ209と、比較素子(差分器)210とを備えている。本発明の一実施形態によるモータ制御装置200は、パルス変換部207および速度算出部208を備えるのが主たる特徴である。以下、図2および図3を参照して、回転角推定部206、パルス変換部207、および、速度算出部208を説明する。
【0015】
なお、図2において、スイッチング回路211は、IGBTなどで構成され、モータ駆動信号生成部205で生成されたモータ駆動信号で駆動され、直流電圧を交流電圧に変換してモータを駆動する。符号212は、モータのコイルに流れる電流を検出する電流検出部である。一般的にはモータ駆動回路に設けたシャント抵抗によって電流を検出するが、本発明ではその手段は問わない。符号213は、電流検出部212で検出された電流に基づいてd軸電流Idとq軸電流Iqを演算する電流演算部である。符号214は、モータのコイルにかかる電圧を検出する電圧検出部である。一般的にはモータ駆動回路に設けた分圧抵抗によって電圧を検出するが、本発明ではその手段は問わない。符号215は、電圧検出部214で検出された電圧に基づいてd軸電圧Vd’とq軸電圧Vq’を演算する電圧演算部である。
【0016】
目標速度設定部201は、目標回転速度を設定する。比較素子210は、後述するローパスフィルタ209から出力された実回転速度ω’(以下、回転速度ω’とも呼ぶ)と目標回転速度を比較する。Vd/Vq演算部202は、上述の比較結果に応じてd軸電圧Vdとq軸電圧/Vqを演算する。実回転速度ω’が目標回転速度よりも大きければd軸電圧Vdとq軸電圧Vqを小さくし、実回転速度ω’が目標回転速度よりも小さければd軸電圧Vdとq軸電圧Vqを大きくする。実回転速度ω’が目標回転速度と等しければ、現在のd軸電圧Vdとq軸電圧Vqを維持する。すなわち、Vd/Vq演算部202は、dq軸座標系による電圧である電圧Vd、電圧Vqを出力する。
【0017】
第1パラメータ変換部203は、後述する回転角θを用いて、Vd/Vq演算部202で出力された回転直交座標系(dq座標系)の電圧である電圧Vd、Vqを、二軸固定座標系(αβ軸座標系)の電圧である電圧Vα、Vβに変換する。さらに、第2パラメータ変換部204は、電圧Vα、Vβを、三相固定座標系(abc軸座標系)の電圧である電圧Va、Vb、Vcに変換する。第1パラメータ変換部203と第2パラメータ変換部204は二相三相変換部を構成する。モータ駆動信号生成部205は、abc軸座標系の電圧である電圧Va、Vb,Vcに基づいて、3相の上下アーム(不図示)をオンオフさせるモータ駆動信号を生成する。モータ駆動信号はスイッチング回路211に入力されモータ40が駆動される。
【0018】
回転角推定部206は、後述の式(3)を用いて、モータ40の回転角θ(ロータ組立体10の回転角θ)を繰り返し演算して推定する。なお、ここでの回転角θは、電気角で表した時の角度とする(以下、同様)。式(3)を導くために、モータ40の電圧方程式である式(1)、(2)を以下に示す。
【数1】
【数2】
ここで、r、Ld、Lq、kEはモータ40に固有のモータ定数であり、予めモータ40を測定することで得られる。これらのパラメータは運転状態によらず固定値とするのが一般的である。Vd、Vqには、電圧演算部215で演算されたd軸電圧Vd’とq軸電圧Vq’がそれぞれ入力される。Id、Iqには電流演算部213で演算されたd軸電流Idとq軸電流Iqがそれぞれ入力される。また、ωは、モータ40の回転速度であるが、このωには、後述するローパスフィルタ209から出力された回転速度ω’が入力される。
【0019】
式(1)、式(2)から回転角θについて解くと、以下の式(3)となる。
【数3】
この式(3)に、上述のパラメータである、r、Ld、Lq、kE、Vd’、Vq’、Id、Iq、ω’をそれぞれ入力して、回転角θが得られる。
【0020】
図3(a)、(b)は、式(3)をグラフ化したものである。具体的には、図3(a)は、回転角推定部206が推定した高速回転領域におけるモータ40の回転角θの時間依存性(信号波形)を示す図である。図3(b)は、回転角推定部206が推定した低速回転領域におけるモータ40の回転角θの時間依存性(信号波形)を示す図である。上述したが、回転角θは、電気角で表されたものである。ここで、高速回転領域とは、例えばモータの回転速度で70Hz以上を指す領域であり、低速回転領域とは、例えばモータの回転速度で70Hz未満を指す領域である。なお、この2つの領域の境界は、モータの特性によって異なるので上述の周波数はあくまでも例示である。
【0021】
上述のように、式(1)〜(3)において、r、Ld、Lqは運転状態によらず固定値とするのが一般的である。しかし、実際は、抵抗rやインダクタンスLd、Lqは、値が安定しておらず、厳密には定数ではない。高速回転領域においては、上述の定数の不安定性の影響を受けにくく、図3(a)に示されるように、式(3)によって演算された回転角θの時間変化は一定である。一方、低速回転領域においては、上述の定数の不安定性の影響を受けやすく、図3(b)に示されるように、式(3)によって演算された回転角θの時間変化は一定でない。
なお、回転角θに基づいて従来法で算出される回転速度ωに関する問題については後述する。
【0022】
パルス変換部207は、回転角推定部206から出力されたモータ40の回転角θの信号波形をパルス化する。具体的には、図3(a)、(b)に示された回転角θの信号波形をパルス化し、図3(c)に示されたパルス波形Pに変換する。パルス化の方法としては、図3(a)、(b)における回転角θのゼロクロス点を基準としており、回転角θが−πから0までの範囲では−1とし、回転角θが0からπまでの範囲では+1としている。ここでは、二値として−1および+1を用いたが、その他の二値であってもよい。
このように変換された図3(c)に示すパルス波形Pは、周期Tを有している。この周期Tは、パルス変換前の信号波形である図3(a)、(b)に示された回転角θの信号波形の周期でもある。しかし、パルス化することで信号波形のエッジを捉えやすくなり、その結果、周期Tが求めやすくなる。なお、周期Tは、電気角で表された場合の周期である。
【0023】
速度算出部208は、パルス変換部207が出力したパルス信号波形Pの周期Tをもとに、図3(d)に示された回転速度ωを求める。回転速度ωは、周期Tの逆数にすることで求められる。後述する従来法と異なり、本発明では回転速度ωが安定している。
なお、パルス変換部207と速度算出部208は速度演算部を構成する。
【0024】
ローパスフィルタ209は、速度算出部208が出力した回転速度ωの高周波ノイズを除去し、回転速度ω’を出力する。後述するように、従来法での回転速度ωは時間変動が生じるため、適切なローパスフィルタを設定するのが難しいが、本発明では回転速度ωが安定しているため、適切なローパスフィルタを容易に設定できる。
【0025】
以上の実施形態では、回転角θの信号波形はゼロクロス点を基準にパルス化されているが、ゼロクロス点以外の点を基準にとってパルス化してもよい。
【0026】
また、以上に示したモータ駆動装置200では、パルス変換した後に回転速度ωを求めているが、上述のように回転角θでも周期Tは求められるので、必ずしもパルス変換する必要はない。例えば、図3(a)、(b)のπから−πに切り替わる時刻を起点として周期Tを求めて回転速度ωを求めることも可能である。
【0027】
ここで、従来法による回転速度ωの求め方について述べる。従来のモータ制御装置では、パルス変換部207を省略し、回転角推定部206で得られたモータ40の回転角θを以下の式(4)に入力し、回転角θを時間微分(厳密には、時間差分)して、回転速度ωを算出している。
【数4】
【0028】
図4は、高速回転領域における従来法で算出された回転速度の時間依存性(信号波形)を示す図である。高速回転領域において回転角推定部206が出力する回転角θの信号波形は図3(a)に示す波形となる。回転角θに対して式(4)に示す時間微分を行うことで図4に示すような波形が得られる。高速回転領域における回転角θは時間変化が一定であるため、時間微分されることで得られる回転速度ωは、一定の値となる。
【0029】
図5は、低速回転領域における従来法で算出された回転速度の時間依存性(信号波形)を示す図である。低速回転領域において回転角推定部206が出力する回転角θの信号波形は図3(b)に示す波形となる。回転角θに対して式(4)に示す時間微分を行うことで図5に示すような波形が得られる。低速回転領域における回転角θは時間変化が一定でないため、時間微分されることで得られる回転速度ωは、図5に示すように一定の値とならず時間変動する。回転速度ωが時間変動することによって、適切なローパスフィルタ209の設定が困難となり、その結果、モータ40の制御が困難となる問題があった。
【0030】
しかし、本発明では、回転速度ωの時間変動は見られないため、適切なローパスフィルタ209を選定し精度よく回転速度ω’を出力することができ、それに基づいて精度良いモータ駆動を行うことができる。
【0031】
以上説明した実施形態のモータ制御装置200によれば、以下のような作用効果を奏する。
(1)モータ制御装置200は、モータ回転角検出器を使用せずに、DCブラシレスモータ(以下、モータ)の電流、電圧に基づいてモータの回転角θを繰り返し推定演算する回転角推定部206と、回転角推定部206で繰り返し推定演算される回転角θの信号波形の周期を算出し、周期に基づいてモータ40の実回転速度ωを演算する速度演算部(207、208)と、少なくとも、実回転速度ωと目標回転速度との偏差、および回転角θに基づいて、モータ40を駆動制御する駆動信号を生成する駆動信号生成部205と、駆動信号に基づいてスイッチングされてモータ40へ駆動電力を供給するスイッチング回路211とを備えている。
したがって、繰り返して推定演算される回転角θの周期Tから回転速度ωを算出したことによって、従来の方法より低回転数で起こりやすい回転速度ωの時間変動が低減されるため、精度の高い回転速度が得られ、精度の高いモータ駆動制御を低速回転領域においてもすることができる。
【0032】
(2)モータ制御装置200は、速度演算部として、回転角推定部206より得られた回転角θの信号を二値化する2値化部、すなわちパルス変換部207と、二値化部207で得られた二値化信号に基づいて周期Tを算出する速度算出部208とを備えている。これによって、回転角θがパルス化されることでエッジが検出されやすくなり、より精度の高い回転速度が得られ、より精度の高いモータ駆動制御をすることができる。
【0033】
(3)モータ制御装置200は、モータ40の目標回転速度を設定する設定部201と、設定部201で設定された目標回転速度と速度演算部207,208で演算された実回転速度ωとの偏差に基づいてd軸電圧Vdとq軸電圧Vqを演算するd軸/q軸電圧演算部202と、d軸電圧Vdとq軸電圧Vqを三相のa軸電圧Vaとb軸電圧Vbとc軸電圧Vcに変換する二相三相変換部203,204とをさらに備え、駆動信号生成部205は、二相三相変換部203,204で得られたa軸電圧Vaとb軸電圧Vbとc軸電圧Vcとに基づいて駆動信号を生成してスイッチング回路211に送出する。そして、回転角推定部206は、駆動信号により駆動されるモータ40のモータ電流から算出されるd軸電流Idおよびq軸電流Iqと、モータ40のモータ電圧から算出されるd軸電圧Vd’ およびq軸電圧Vq’と、実回転速度ωとに基づいてモータの回転角θを繰り返し推定演算する。
したがって、実施形態のモータ制御装置によれば、精度の高いモータ駆動制御を低速回転領域においても行うことができる。
【0034】
(4)モータ制御装置200は、演算された実回転速度ωの高周波成分を除去するローパスフィルタをさらに備え、差分器210は、ローパスフィルタで209で高周波成分が除去された実回転速度ω‘と目標回転速度との差分を算出する。
したがって、回転速度ωの時間変動が低減されたことから適切なローパスフィルタ209が選定されやすくなるため、速度フィードバック制御の応答性を良くすることができる。
【0035】
(5)モータ制御装置200はターボ分子ポンプに使用される。ターボ分子ポンプは、シャフト14とロータ翼が形成されたロータ12とを有するロータ組立体10と、ロータ翼と所定の間隔をあけて配設されたステータ翼44と、ロータ組立体10を回転させるためのモータ40と、モータ40のコイルに流れる電流を検出する電流検出部212と、モータ40のコイルに印加される電圧を検出する電圧検出器214と、上述のモータ制御装置200と、モータ制御装置200から出力される駆動信号でモータを駆動するスイッチング回路211とを備える。
したがって、実施形態のようなモータ制御装置200を搭載したターボ分子ポンプは、精度よくモータ40が駆動制御されるため、安定した排気を行うことができる。
【0036】
以上の説明はあくまで一例であり、発明は、上記の実施形態に何ら限定されるものではない。したがって、本発明のモータ制御装置は、ターボ分子ポンプ以外の種々の産業用モータに適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10:ロータ組立体、
12:ロータ、
14:シャフト、
20:ロータ翼、
44:ステータ翼
40:モータ、
100:ターボ分子ポンプ、
200:モータ制御装置、
201:目標速度設定部
202:Vd/Vq演算部
203:第1パラメータ変換部
204:第2パラメータ変換部
205:モータ駆動信号生成部
206:回転角推定部、
207:パルス変換部、
208:速度算出部、
209:ローパスフィルタ、
211:スイッチング回路、
212:電流検出部、
213:電流演算部、
214:電圧検出部、
215:電圧演算部
図1
図2
図3
図4
図5