(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232855
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】ラジカル重合型接着剤組成物、及び電気接続体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 4/00 20060101AFI20171113BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20171113BHJP
C09J 5/06 20060101ALI20171113BHJP
H01L 21/60 20060101ALI20171113BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20171113BHJP
C08F 220/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
C09J4/00
C09J11/06
C09J5/06
H01L21/60 311S
C08F2/50
C08F220/00 510
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-180751(P2013-180751)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-48403(P2015-48403A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 慎一
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐治
【審査官】
吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−235065(JP,A)
【文献】
特開2012−107194(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/017955(WO,A1)
【文献】
特開2012−126879(JP,A)
【文献】
特開2011−116977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 4/00
C08F 2/50
C08F 220/00
C09J 5/06
C09J 11/06
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性化合物と、熱ラジカル重合開始剤と、光酸発生剤とを含有し、該光酸発生剤が発生する酸によりカチオン重合するカチオン重合性化合物を含有しないラジカル重合型接着剤組成物。
【請求項2】
光酸発生剤は、ラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応を促進させる性質を有している請求項1記載のラジカル重合型接着剤組成物。
【請求項3】
熱ラジカル重合開始剤が有機過酸化物であり、光酸発生剤がスルホニウム塩、ヨードニウム塩又は鉄アレーン錯体である請求項1又は2記載のラジカル重合型接着剤組成物。
【請求項4】
熱ラジカル重合開始剤である有機過酸化物が1分間半減期温度80〜170℃且つ分子量180〜1000のパーオキシエステル又はジアシルパーオキサイドであり、光酸発生剤がトリアリールスルホニウム塩である請求項3記載のラジカル重合型接着剤組成物。
【請求項5】
対向配置されるべき二つの電気部品の一方の電気部品の端子上に、接着剤層を配置する工程と、
前記接着剤層に、他方の電気部品の端子を配置する工程と、
対向配置された二つの電気部品の一方を他方に向かって押圧しながら、接着剤層に対し加熱と光照射とを行うことにより接着剤層を硬化させて対向配置された二つの電気部品同士を電気的に接続する工程と
を有する電気接続体の製造方法において、
当該接着剤層が、請求項1〜4のいずれかに記載のラジカル重合型接着剤組成物から形成されたものであって、
接着剤層の硬化の際、光照射により光酸発生剤から酸を発生させ、それによりラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応を促進させて接着剤層の硬化を行う製造方法。
【請求項6】
対向配置されるべき二つの電気部品の一方の電気部品の端子上に、接着剤層を配置する工程と、
前記接着剤層に、他方の電気部品の端子を配置する工程と、
対向配置された二つの電気部品の一方を他方に向かって押圧しながら、接着剤層に対し加熱と光照射とを行うことにより接着剤層を硬化させて対向配置された二つの電気部品同士を電気的に接続する工程と
を有する電気接続体の製造方法において、
当該接着剤層が、請求項1〜4のいずれかに記載のラジカル重合型接着剤組成物から形成されたものであって、
接着剤層に対する加熱を、当該ラジカル重合型接着剤組成物から光酸発生剤が取り除かれているものに相当するラジカル重合型対照組成物の熱ラジカル重合反応温度よりも低い温度で行う製造方法。
【請求項7】
少なくとも一方の電気部品が透明基板の片面に金属端子が形成されたものであり、接着剤層への光照射を、該電気部品の透明基板の他面側から行う請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
接着剤層に対する加熱を行った後に、光照射を行う請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
熱ラジカル重合開始剤が有機過酸化物であり、光酸発生剤がスルホニウム塩、ヨードニウム塩又は鉄アレーン錯体である請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
熱ラジカル重合開始剤である有機過酸化物が1分間半減期温度80〜170℃且つ分子量180〜1000のパーオキシエステル又はジアシルパーオキサイドであり、光酸発生剤がトリアリールスルホニウム塩である請求項9記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合性化合物と熱ラジカル重合開始剤と光酸発生剤とを含有するラジカル重合型接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルや有機ELパネル等の電気部品と、ICチップやフレキシブル基板等の別の電気部品とを、硬化型接着剤組成物から形成された未硬化接着剤層を介して重ね合わせた後、その未硬化接着剤層を硬化させて硬化接着剤層とすることにより電気接続体を製造することが広く行われている。この場合、未硬化接着剤層を硬化させるために過度の加熱を行うと、電気接続体に反りが発生したり、電気部品に損傷が発生する場合がある。このため、硬化型接着剤組成物として、エポキシ化合物等のカチオン重合性化合物に、光カチオン重合開始剤として光酸発生剤を配合した光カチオン重合型接着剤組成物を使用することが行われている。
【0003】
しかしながら、電気部品に金属配線などの遮光部が存在すると、その遮光部により未硬化の接着剤層に光が十分に照射されなくなり、接合部のダイシェア強度の低下が生ずるという問題があった。このため、光カチオン重合型接着剤組成物に、アクリレート系モノマーやオリゴマー等の熱ラジカル重合性化合物と、有機過酸化物等の熱ラジカル重合開始剤とを配合して熱硬化性を付与することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4469089号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示されたような硬化型接着剤組成物を用いて導電接続する際の熱圧着操作時の加熱温度は、当該硬化型接着剤組成物を使用して作成された電気接続体に低い導通抵抗値と良好なダイシェア強度とを実現するために、一般に130〜180℃という温度である。
【0006】
しかしながら、このような温度で熱圧着処理を行うと、実用上無視できない反りが電気接続体に発生してしまうという問題があった。このため、加熱温度を100℃程度に低下させることが考えられるが、熱硬化反応が不十分となるため、結果的に遮光部の硬化が不十分となり、導通抵抗値の上昇、あるいはダイシェア強度の低下を生じさせてしまうことが懸念されている。
【0007】
本発明の目的は、以上の従来の技術の問題点を解決することであり、液晶パネルや有機ELパネル等の電気部品と、ICチップやフレキシブル基板等の別の電気部品とを、硬化型接着剤組成物から形成された未硬化接着剤層を介して重ね合わせた後、その未硬化接着剤層を硬化させて硬化接着剤層とすることにより電気接続体を製造する際に、接合すべき電気部品に金属配線などの遮光部が存在した場合であっても、電気接続体に実用上無視できない反りを発生させず、しかも十分なダイシェア強度と低い導通抵抗値を実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、光カチオン重合開始剤である光酸発生剤がカチオン重合性化合物と常に一体的に使用されているところ、ラジカル重合性化合物と熱ラジカル重合開始剤とカチオン重合性化合物と光酸発生剤とを含有する重合型組成物からカチオン重合性化合物を取り除いたところ、予想外にも、その重合型組成物からカチオン重合性化合物を取り除いた組成物(光酸発生剤は含有している)のラジカル重合反応が、その重合型組成物からカチオン重合性化合物だけでなく光酸発生剤も取り除いた組成物のラジカル重合反応よりも促進していることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、ラジカル重合性化合物と、熱ラジカル重合開始剤と、光酸発生剤とを含有し、該光酸発生剤が発生する酸によりカチオン重合するカチオン重合性化合物を含有しないラジカル重合型接着剤組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、対向配置されるべき二つの電気部品の一方の電気部品の端子上に、接着剤層を配置する工程と、
前記接着剤層に、他方の電気部品の端子を配置する工程と、
対向配置された二つの電気部品の一方を他方に向かって押圧しながら、接着剤層に対し加熱と光照射とを行うことにより接着剤層を硬化させて対向配置された二つの電気部品同士を電気的に接続する工程と
を有する電気接続体の製造方法において、
当該接着剤層が、上述のラジカル重合型接着剤組成物から形成されたものであって、
接着剤層の硬化の際、光照射により光酸発生剤から酸を発生させ、それによりラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応を促進させて接着剤層の硬化を行う製造方法を提供する。
【0011】
更に、本発明は、対向配置されるべき二つの電気部品の一方の電気部品の端子上に、接着剤層を配置する工程と、
前記接着剤層に、他方の電気部品の端子を配置する工程と、
対向配置された二つの電気部品の一方を他方に向かって押圧しながら、接着剤層に対し加熱と光照射とを行うことにより接着剤層を硬化させて対向配置された二つの電気部品同士を電気的に接続する工程と
を有する電気接続体の製造方法において、
当該接着剤層が、上述のラジカル重合型接着剤組成物から形成されたものであって、
接着剤層に対する加熱を、当該ラジカル重合型接着剤組成物から光酸発生剤が取り除かれているものに相当するラジカル重合型対照組成物の熱ラジカル重合反応温度よりも低い温度で行う製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のラジカル重合型接着剤組成物は、ラジカル重合性化合物と、熱ラジカル重合開始剤と、光酸発生剤とを含有し、該光酸発生剤が発生する酸によりカチオン重合するカチオン重合性化合物を含有しない。このため、光照射により光酸発生剤が発生した酸が、カチオン重合性化合物のカチオン重合のために消費されず、結果的に、ラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応を促進させることが可能となる。より具体的には、ラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応を、当該ラジカル重合型接着剤組成物から更に光酸発生剤が取り除かれているものに相当するラジカル重合型対照組成物(後述する比較例2、3の組成物に該当する)の熱ラジカル重合反応よりも促進させることが可能となる。これは、光照射により光酸発生剤が発生した酸が、熱ラジカル重合開始剤の分解を促進するからだと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<ラジカル重合型接着剤組成物>>
本発明のラジカル重合型接着剤組成物は、ラジカル重合性化合物と、熱ラジカル重合開始剤と、光酸発生剤とを含有し、該光酸発生剤が発生する酸によりカチオン重合するカチオン重合性化合物、具体的にはエポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物を含有しないものである。
【0014】
<ラジカル重合性化合物>
本発明のラジカル重合型接着剤組成物を構成するラジカル重合性化合物は、熱ラジカル重合開始剤の熱分解により生ずる活性ラジカルによりラジカル重合反応し得る化合物であり、好ましくは分子内に1個以上の炭素不飽和結合を有するものであり、いわゆる単官能ラジカル重合性化合物、多官能ラジカル重合性化合物を包含する。ラジカル重合性化合物が、多官能ラジカル重合性化合物を含有した場合には、ラジカル重合型接着剤組成物の硬化物のダイシェア強度をより向上させることが可能となる。従って、ラジカル重合性化合物は、多官能ラジカル重合性化合物を好ましくは少なくとも30質量%以上、より好ましくは少なくとも50質量%以上含有する。
【0015】
単官能ラジカル重合性化合物としては、スチレン、メチルスチレン等の単官能ビニル系化合物、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートなどの単官能(メタ)アクリレート系化合物等が挙げられる。ここで、“(メタ)アクリレート”とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する用語である。多官能ラジカル重合性化合物としては、ジビニルベンゼン等の多官能ビニル系化合物、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ビスフェノールA型グリシジルメタクリレート(EA−1020、新中村化学(株))、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート(M−215,東亞合成(株))等の多官能(メタ)アクリレート系化合物を例示することができる。これらはモノマーでもオリゴマーでもよい。中でも、耐熱性の点から多官能(メタ)アクリレート系化合物、特に、ビスフェノールA型グリシジルメタクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレートが好ましい。
【0016】
なお、多官能ラジカル重合性化合物は、多官能ビニル系化合物と多官能(メタ)アクリレート系化合物とから構成されていてもよい。このように併用することにより、熱応答性のコントロールが可能となり、また、反応性官能基の導入も可能となる。
【0017】
<熱ラジカル重合開始剤>
本発明のラジカル重合型接着剤組成物を構成する熱ラジカル重合開始剤は、熱分解により、ラジカル重合性化合物をラジカル重合するための活性ラジカルを発生するものであり、公知の熱ラジカル重合開始剤、例えば、有機過酸化物やアゾ系化合物等を好ましく使用することができる。中でも、優れた保存安定性と低温速硬化性とを実現可能である点から、有機過酸化物を好ましく使用することができる。
【0018】
有機過酸化物としては、熱ラジカル重合開始剤として公知の有機過酸化物、例えば、化学構造的分類の観点からは、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、シリルパーオキサイド等を例示することができる。中でも、加熱分解後に発生する有機酸が少ないという点からの点からパーオキシエステル、ジアシルパーオキサイドを好ましく使用することができる。また、1分間半減期温度の観点からは、反応性の点から80〜170℃のものが好ましく、また、分子量の観点からは、180〜1000のものが好ましい。
【0019】
なお、アゾ系化合物としては、熱ラジカル重合開始剤として公知のアゾ系化合物を使用することができる。
【0020】
ラジカル重合型接着剤組成物における熱ラジカル重合開始剤の配合量は、ラジカル重合型接着剤組成物の硬化を十分なものとし、且つ発泡の原因とならないようにするために、ラジカル重合性化合物100質量部に対し、好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1.0〜20質量部である。
【0021】
<光酸発生剤>
本発明のラジカル重合型接着剤組成物を構成する光酸発生剤は、紫外線などの光の照射を受けると酸を発生し、熱ラジカル重合開始剤の分解を促進するものである。換言すれば、光酸発生剤は、ラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応を促進させる性質を有するものである。より具体的には、ラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応を、当該ラジカル重合型接着剤組成物から更に光酸発生剤が取り除かれているものに相当するラジカル重合型対照組成物の熱ラジカル重合反応よりも促進させることが可能となる。
【0022】
従って、光酸発生剤を含有しないラジカル重合型対照組成物の熱ラジカル重合反応温度T
0よりも、光酸発生剤を含有するラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応温度T
1は、低いものとなる。ここで、熱ラジカル重合反応温度は、重合物に所期の特性を実現するために必要な反応温度であり、重合系の成分の種類やその配合割合、所期の特性等に応じて設定される重合反応温度である。
【0023】
本発明において、光酸発生剤を含有しないラジカル重合型対照組成物の熱ラジカル重合反応温度T
0は好ましくは100〜130℃の範囲である。他方、光酸発生剤を含有するラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応温度T
1は、T
0より好ましくは10℃以上低温である。
【0024】
このような光酸発生剤としては、光カチオン重合開始剤として使用されている光酸発生剤から適宜選択することができ、オニウム塩、例えば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族スルホニウム塩、脂肪族スルホニウム塩等のスルホニウム塩;ピリジニウム塩;セレノニウム塩;芳香族ヨードニウム塩等のヨードニウム塩;鉄アレーン錯体等の金属アレーン錯体をはじめとする錯体化合物;ベンゾイントシレート、o−ニトロベンジルトシレート等のトシレート化合物等を挙げることができる。中でも、カチオン種の発生効率を向上させることのできる点から、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、鉄アレーン錯体を好ましく挙げることができる。特に、光としてLED光源からのI線(365nm)に対し高感度で反応する芳香族スルホニウム塩、具体的にはトリアリールスルホニウム塩を好ましく挙げることができる。
【0025】
なお、光酸発生剤が塩である場合には、反応性を向上させる観点から、塩を構成する対アニオンとして、ヘキサフルオロボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等を好ましく採用することができる。中でも、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレーを好ましく採用することができる。
【0026】
ラジカル重合型接着剤組成物における光酸発生剤の配合量は、熱ラジカル重合開始剤100質量部に対し、好ましくは1.0〜30質量部、より好ましくは2〜20質量部である。この範囲であれば、熱ラジカル重合開始剤の分解を促進させるという効果が得られる。
【0027】
<その他の成分>
本発明のラジカル重合型接着剤組成物は、更に、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂を成膜用樹脂として含有することができる。このような熱可塑性樹脂の配合量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対し、好ましくは10〜70質量部、より好ましくは20〜60質量部である。
【0028】
また、本発明のラジカル重合型接着剤組成物は、公知のシランカップリング剤を含有することができる。シランカップリング剤の配合量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対し、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜10質量部である。この範囲であれば、無機・金属系材料に対する接着性が向上するという効果が得られる。
【0029】
本発明のラジカル重合型接着剤組成物は、必要に応じ、公知の光ラジカル重合開始剤、無機フィラ、有機フィラ、導電フィラ、絶縁フィラ等を含有することができる。
【0030】
<ラジカル重合型接着剤組成物の調製>
本発明のラジカル重合型接着剤組成物は、ラジカル重合性化合物と、熱ラジカル重合開始剤と、光酸発生剤と、必要に応じて配合される熱可塑性樹脂等の他の成分とを、公知の混合手段により均一に混合することにより調製することができる。
【0031】
<<電気接続体の製造方法:その1>>
本発明の電気接続体の製造方法(その1)は、以下の工程(イ)〜(ハ)を有する。以下に工程毎に説明する。
【0032】
<工程(イ)>
対向配置されるべき二つの電気部品の一方の電気部品の端子上に、公知の手法に従って接着剤層を配置する。ここで、対向配置されるべき二つの電気部品の一方としては、リジッド回路基板、フレキシブル配線基板等が挙げられる。それらの端子としては、銅、アルミニウム、銀、金、ITO等の電極材料から形成されたパッド電極、ライン電極、バンプ電極等が挙げられる。また、接着層は、前述した本発明のラジカル重合型接着剤組成物から形成されたものである。かかる接着層の形成は、公知の手法、例えば、各種塗布法や印刷法、更にはフォトリソグラフ技術などを利用して行うことができる。
【0033】
<工程(ロ)>
次に、工程(イ)で形成された接着剤層に、他方の電気部品の端子を公知の手法に従って配置する。他方の電気部品としては、ICチップ、液晶パネル、有機ELパネル、ICモジュール、太陽電池モジュール等が挙げられる。それらの端子としては、銅、アルミニウム、銀、金、ITO等の電極材料から形成されたパッド電極、ライン電極、バンプ電極等が挙げられる。
【0034】
<工程(ハ)>
工程(ロ)において対向配置された二つの電気部品の一方を他方に向かって、公知の加熱加圧ツールを用いて押圧しながら、接着剤層に対し加熱を行う。この加熱と同時に若しくは組成物の軟化若しくは溶融を待って、加熱開始後、加熱を継続しながら好ましくは2、3秒後から接着剤層に対し紫外線等の光、好ましくはLED光源のI線を用いて光照射を行い、接着剤層を硬化させる。ここで、少なくとも一方の電気部品が透明基板の片面に遮光部となり得る金属端子が形成されたものである場合、接着剤層への光照射を、電気部品の透明基板の他面側から行うことが好ましい。このように硬化させることにより電気接続体が得られる。この際、光照射により光酸発生剤から酸を発生させ、それによりラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合を、当該ラジカル重合型接着剤組成物から光酸発生剤を取り除いたものに相当するラジカル重合型対照組成物の熱ラジカル重合よりも促進させて接着剤層の硬化を行う。これにより、遮光部が存在したとしても接着剤層を十分に硬化させることができ、対向配置された二つの電気部品同士を低い導電抵抗値で接続することができる。しかも、良好なダイシェア強度を実現することができ、また、電気接続体に反りが発生することを抑制することができる。
【0035】
<<電気接続体の製造方法:その2>>
本発明の電気接続体の製造方法(その2)は、製造方法(その1)の工程(イ)〜(ハ)と同様の工程を有するが、工程(ハ)において、接着剤層に対する加熱を、当該ラジカル重合型接着剤組成物から更に光酸発生剤が取り除かれているものに相当するラジカル重合型対照組成物の熱ラジカル重合反応温度よりも低い温度で行うという具体的な加熱条件を明示している点で異なる。熱ラジカル重合反応温度T
0よりも低い温度で加熱硬化を行うので、電気接合体の反りの発生を抑制でき、しかも光酸発生剤が発生する酸により、ラジカル重合型接着剤組成物の熱ラジカル重合反応温度T
1がT
0よりも低くなっているので、十分に硬化させることが可能となり、対向配置された二つの電気部品同士を低い導電抵抗値で接続することができる。しかも、良好なダイシェア強度を実現することができ、また、電気接続体に反りが発生することを抑制することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0037】
実施例1〜10、比較例1〜5
表1に示す配合組成の成分を常法にて混合して得た混合物(接着剤組成物)を剥離ポリエステルフィルムに塗布し、70℃で乾燥することにより、20μm厚の接着シートを得た。
【0038】
<導通抵抗測定、ダイシェア強度測定、反り量測定用の電気接続体の作成>
得られた接着シートを、評価基材としてのIC(外寸:1.8mm×20mm、バンプ高さ15μm)と、裏面に200μm巾の500nm厚のアルミニウムライン電極(遮光部)を200μmピッチで設けたベースガラス基板としてのITOコーティングガラス(ガラス厚0.5mm、ITO厚200nm)との間に挟み、表1の加熱温度、80MPaの圧力、5秒間という条件でICを加熱加圧し、加熱開始後2秒後に表1のUV照射条件(UV光源:UV照射器ZUV−C30H(オムロン(株))でUV照射を、ガラス基板の裏面側(アルミニウムライン電極形成面側)から3秒間行うことにより、試験評価用の電気接続体を作成した。
【0039】
<電気接続体の導通抵抗値の測定>
作成した電気接続体に2mAの電流を流した際の当該電気接続体の導通抵抗値を、抵抗測定機(デジタルマルチメータ7555、横河電機社製)を用いて4端子法にて測定した。得られた結果を表1に示す。実用上、1.0Ω以下であることが望まれる。
【0040】
<電気接続体のダイシェア強度の測定>
作成した電気接続体のダイシェア強度を、ダイシェアテスター(万能型ボンドテスターシリーズ4000、デイジ・ジャパン社製)を用いて、ツール速度100μm/秒という条件で測定した。得られた結果を表1に示す。実用上、100kgf以上であることが望まれる。
【0041】
<電気接続体の反り量の測定>
作成した電気接続体のガラス基板のアルミニウムライン電極形成面を、触針式表面粗度計(SE−3H、(株)小坂研究所)のプローブで走査し、反り量(μm)を測定した。得られた結果を表1に示す。実用上、10μm以下であることが望まれる。
【0042】
【表1】
【0043】
<表1の結果の考察>
ラジカル重合性化合物を含有する比較例1のラジカル重合性接着剤組成物は、光酸発生剤を含有するものの、有機過酸化物(熱ラジカル重合開始剤)を含有していない。このため、ラジカル反応(硬化反応)が進行しないために、導通抵抗値も非常に高く、またダイシェア強度も非常に低いものであった。
【0044】
ラジカル重合性化合物を含有する比較例2の接着剤組成物は、有機過酸化物を含有するものの光酸発生剤を含有していない。従って、接着剤組成物の反応開始温度を低下させることができないと考えられる。よって、100℃の加熱条件では十分なラジカル反応(硬化反応)が進行しないため、導通抵抗値も非常に高く、またダイシェア強度も非常に低いものであった。
【0045】
ラジカル重合性化合物を含有する比較例3の接着剤組成物は、有機過酸化物を含有するものの光酸発生剤も含有していない。従って、接着剤組成物の反応開始温度を低下させることができないと考えられる。よって、160℃の加熱条件でやっと相応のラジカル反応(硬化反応)が進行し、導通抵抗値が実用レベルとなったが、ダイシェア強度が不十分であった。更に強度加熱温度が高すぎるために、電気接続体に無視できない反りが発生した。
【0046】
ラジカル重合性化合物を含有する比較例4の接着剤組成物は、光ラジカル重合開始剤を含有するものの光酸発生剤も有機過酸化物も含有していない。従って、光ラジカル重合が進行することになるが、遮光部での光ラジカル重合が進行しないため、導通抵抗値と反り量については実用レベルとなったが、ダイシェア強度が不十分であった。
【0047】
ラジカル重合性化合物を含有する比較例5の接着剤組成物は、有機過酸化物も光酸発生剤も含有しているが、カチオン重合性化合物としてエポキシ樹脂を含有している。このため、光酸発生剤がエポキシ樹脂のカチオン重合に消費されてしまい、有機過酸化物の分解促進に十分に寄与することができず、結果的に接着剤組成物の反応開始温度を低下させることができない。よって、100℃の加熱条件では十分なラジカル反応(硬化反応)が進行しないため、導通抵抗値も非常に高く、またダイシェア強度も非常に低いものであった。
【0048】
それに対し、ラジカル重合性化合物を含有する実施例1〜10の接着剤組成物は、有機過酸化物も光酸発生剤も含有しているが、カチオン重合性化合物としてエポキシ樹脂を含有していない。このため、100℃又は90℃の加熱条件でも十分なラジカル反応(硬化反応)が進行するため、導通抵抗値もダイシェア強度も反り量も実用レベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のラジカル重合型接着剤組成物は、ラジカル重合性化合物と、熱ラジカル重合開始剤と、光酸発生剤とを含有し、該光酸発生剤が発生する酸によりカチオン重合するカチオン重合性化合物を含有しない。このため、その熱ラジカル重合反応温度は、ラジカル重合型接着剤組成物から光酸発生剤を取り除いたものに相当するラジカル重合型対照組成物の熱ラジカル重合反応温度よりも低いものとなる。従って、本発明のラジカル重合型接着剤組成物は、接合部分に遮光部が存在する電気部品同士を接続して電気接続体を製造する際に、低い導電抵抗値と、良好なダイシェア強度と、小さな反り量とを実現するために有用である。