特許第6232859号(P6232859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232859
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20171113BHJP
   B22F 9/02 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   B22F9/00 B
   B22F9/00 A
   B22F9/02 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-182936(P2013-182936)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-48526(P2015-48526A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 智子
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−336075(JP,A)
【文献】 特開2005−200677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00− 9/30
B01J 19/00
C23C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微小突起が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離の平均が500nm以下であり、微小突起構造体を表面に有する部材を準備する工程と、
保護剤と、水及び有機溶剤より選択される1種以上とを含有する保護剤溶液を準備する工程と、
蒸着法を用いて前記微小突起構造体の表面に金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子を形成し、担持する工程と、
前記金属ナノ粒子が担持した前記微小突起構造体の表面と、前記保護剤溶液とを接触させて、前記金属ナノ粒子を前記保護剤溶液へ移す工程とを有し、
前記蒸着法は、平坦面上に付着する金属原子によって形成される蒸着膜の厚みが40nm以下となるように調整されている、金属ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子が、金、銀、銅、パラジウム、又は白金からなる、請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記微小突起構造体を表面に有する部材を準備する工程が、樹脂組成物又はその硬化物からなる複数の微小突起が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離の平均が500nm以下であり、微小突起構造体を表面に有する部材を準備する工程である、請求項1又は2に記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記蒸着法が、真空蒸着装置の真空容器内が10−5〜10−6Torrの真空状態で、金属の蒸気圧が1〜10−6Torrとなるように金属を加熱蒸発させる蒸着法である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数nm〜数十nm程度の粒径を有する金属粒子(金属ナノ粒子)は、バルクの場合とは異なる種々の物理的、化学的特性を示すことが知られている。例えば、金属ナノ粒子の融点は、バルクの場合と比べて低い。このため金属ナノ粒子は、低い焼結温度を有しながら、高い導電性や安定性を実現できる材料として、導電性インキ、導電性ペーストや充填剤等に用いられている。
【0003】
また、金属ナノ粒子の光学特性を、分子診断や光学デバイスの分野に適用することが試みられている。金属ナノ粒子は、その粒径に応じた光学特性を有することが知られている。例えば銀粒子の場合、その粒径が大きくなるにつれて、そのプラズモン吸収のピークが、長波長側にシフトするとともにブロードとなることが知られている。
【0004】
金属ナノ粒子の製造方法として、溶媒中で金属塩を、還元剤を用いて還元する方法が知られている(特許文献1、2等)。このような手法を用いて金属ナノ粒子を製造する場合、酸化還元反応に対応した設備を要すること、酸化還元反応に時間を要すること、得られた金属ナノ粒子分散液に還元剤が残留すること、金属ナノ粒子の粒子径にばらつきがあること等、様々な課題が存在する。
特許文献3には、酸化還元反応により得られた金コロイドの粒径を、当該金コロイドの溶液の光学特性から推定することにより、当該金コロイドの粒径を調整する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5140035号公報
【特許文献2】特許第4108350号公報
【特許文献3】特開2007−23384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、還元剤を用いない新規な金属ナノ粒子分散液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る金属ナノ粒子分散液の製造方法は、複数の微小突起が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離の平均が500nm以下であり、微小突起構造体を表面に有する部材を準備する工程と、
保護剤と、水及び有機溶剤より選択される1種以上とを含有する保護剤溶液を準備する工程と、
蒸着法を用いて前記微小突起構造体の表面に金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子を形成し、担持する工程と、
前記金属ナノ粒子が担持した前記微小突起構造体の表面と、前記保護剤溶液とを接触させて、前記金属ナノ粒子を前記保護剤溶液へ移す工程とを有し、
前記蒸着法は、平坦面上に付着する金属原子によって形成される蒸着膜の厚みが40nm以下となるように調整されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の金属ナノ粒子分散液の製造方法は、金、銀、銅、パラジウム、又は白金からなる金属ナノ粒子に好適に用いることができる。
【0009】
本発明によれば、還元剤を用いない新規な金属ナノ粒子分散液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係る金属ナノ粒子分散液の製造方法の一例を示す概略工程図である。
図2図2は、ドロネー図の一例を模式図である。
図3図3は、微小突起構造体の一例を示す模式断面図である。
図4図4は、微小突起構造体を形成する微小突起の配列の一例を示す模式平面図である。
図5図5は、微小突起構造体の形成方法の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る金属ナノ粒子分散液の製造方法について詳細に説明する。
なお、本明細書において「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。
また、「フィルム面(板面、シート面)」とは、対象となるフィルム状(板状、シート状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるフィルム状部材(板状部材、シート状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0012】
本発明に係る金属ナノ粒子分散液の製造方法は、複数の微小突起が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離の平均が500nm以下であり、微小突起構造体を表面に有する部材を準備する工程と、
保護剤と、水及び有機溶剤より選択される1種以上とを含有する保護剤溶液を準備する工程と、
蒸着法を用いて前記微小突起構造体の表面に金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子を形成し、担持する工程と、
前記金属ナノ粒子が担持した前記微小突起構造体の表面と、前記保護剤溶液とを接触させて、前記金属ナノ粒子を前記保護剤溶液へ移す工程とを有し、
前記蒸着法は、平坦面上に付着する金属原子によって形成される蒸着膜の厚みが40nm以下となるように調整されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の製造方法について、図を参照して説明する。図1は、本発明に係る金属ナノ粒子分散液の製造方法の一例を示す概略工程図である。図1の例では、図1(A)に示すように、複数の微小突起2が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離dの平均が500nm以下であり、微小突起構造体1を表面に有する部材10を準備する。また、図1(B)に示すように、保護剤と、水及び有機溶剤より選択される1種以上とを含有する保護剤溶液4を準備する。次いで、図1(C)のように、蒸着法を用いて前記微小突起構造体1の表面に金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子3を形成し、当該微小突起構造体1の表面に担持する。次いで、図1(D)に示すように、金属ナノ粒子3が担持した微小突起構造体1の表面と、前記保護剤溶液4とを接触させて金属ナノ粒子3を保護剤溶液4に移す(5)。このようにして図1(E)に示すように金属ナノ粒子分散液20が得られる。
【0014】
本発明者は鋭意検討の結果、前記特定の微小突起構造体の表面に、上記特定の条件に調整された蒸着法を用いて金属原子を付着すると、バルクな蒸着膜ではなく、金属ナノ粒子が形成されるとの知見を得た。前記微小突起構造体表面に金属原子を特定量で蒸着することにより、金属ナノ粒子が形成される作用については未解明ではあるが、上記特定の形状を有する微小突起構造体においては、金属原子が蒸着した際に、単独の粒子として安定に存在し得る環境にあるものと推定される。
更に、上記特定の方法により得られた金属ナノ粒子の粒度分布は、従来公知の酸化還元法等による製造方法により得られた金属ナノ粒子と比較して、粒度分布が小さくなりやすいことが明らかとなった。そのため本発明の製造方法によれば、所望の粒径に調整しやすいというメリットもある。
蒸着法において平坦面上に形成される蒸着膜は、通常、厚みが均一であり、単位面積あたりに付着する金属原子の量は面内でほぼ一定である。同様に微小突起構造体表面においても、単位面積あたりに付着する金属原子の量は面内でほぼ一定であるため、微小突起構造体表面に形成される金属ナノ粒子は粒径が揃いやすく、当該金属ナノ粒子の粒度分布は小さくなりやすいものと推定される。また、本発明の製造方法においては、当該蒸着法の条件として、平坦面上に付着する金属原子によって形成される蒸着膜の厚みが40nm以下となるように予め調整されている。そのため、微小突起構造体表面に形成された金属ナノ粒子同士が凝集しにくい。本発明の製造方法において、金属ナノ粒子の粒径や粒度分布は、微小突起間の平均距離や偏差と、平坦面上に形成される蒸着膜の厚みを40nm以下の範囲で適宜変更することにより適宜調整することができる。
このような微小突起構造体表面に形成された金属ナノ粒子を、水や有機溶剤等に接触させて微小突起構造体から離すと水や有機溶剤に移る。本発明においては、上記特定の保護剤溶液を用いることにより、水乃至有機溶剤中で金属ナノ粒子表面に保護剤が付着することから、凝集することなく分散して、金属ナノ粒子分散液を得ることができる。
このように、本発明の製造方法によれば、還元剤を用いることなく簡便に金属ナノ粒子分散液を得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、所望の粒径に調整された粒度分布が小さい金属ナノ粒子を含む金属ナノ粒子分散液を調製しやすいというメリットがある。
【0015】
<微小突起構造体を表面に有する部材を準備する工程>
本発明の製造方法に用いられる微小突起構造体を表面に有する部材10(以下、単に部材10と称する場合がある)は、複数の微小突起2が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離dの平均が500nm以下である微小突起構造体1を表面に有する。当該微小突起構造体1の表面に、蒸着法によりを用いて金属原子を付着させることにより、金属ナノ粒子を形成することができる。
【0016】
(微小突起構造体を表面に有する部材)
本発明において微小突起構造体を表面に有する部材10は、少なくとも一つの面が上記特定の微小突起構造体を有すればよく、その他の部分は任意の形状とすることができるが、製造が容易な点から、また、金属ナノ粒子を離すのが容易な点から、シート状基材の一面側に樹脂組成物又はその硬化物からなる複数の微小突起が密接して配置されてなる微小突起群を備えた微小突起構造体を有する部材であることが好ましい。
【0017】
微小突起構造体1は、複数の微小突起2が密接して配置されている。微小突起構造体を構成する各微小突起は、基材に植立するように形成され、その形状は、特に限定されないが、中でも、当該微小突起の深さ方向と直交する水平面で切断したと仮定したときの水平断面内における当該微小突起を形成する材料部分の断面積占有率が、当該微小突起の頂部から最深部方向に近づくに従い連続的に漸次増加する構造、すなわち各微小突起が先細りとなる構造を有するものが好ましい。このような微小突起の形状の具体例としては、半円状、半楕円状、三角形状、放物線状、釣鐘状等の垂直断面形状を有するものが挙げられる。複数ある微小突起は、同一の形状を有していても異なる形状を有していてもよい。また、微小突起の頂上は、曲面を有することが好ましい。
【0018】
本発明において、前記微小突起構造体を構成する微小突起は、金属ナノ粒子が形成されるように、隣接する前記微小突起間の距離d(以下、「隣接突起間距離d」と称する。)の平均dAVGが、500nm以下となるよう密接して配置される。この隣接突起間距離dに係る隣接する微小突起は、いわゆる隣り合う微小突起であり、基材側の付け根部分である微小突起の裾の部分が接している突起である。本発明に用いられる微小突起構造体を表面に有する部材は、微小突起が密接して配置されることにより、微小突起間の谷の部位を順次辿るようにして線分を作成すると、平面視において各微小突起を囲む多角形状領域を多数連結してなる網目状の模様が作製されることになる。隣接突起間距離dに係る隣接する微小突起は、この網目状の模様を構成する一部の線分を共有する突起である。
また、前記微小突起の平均隣接突起間距離dAVGは、適宜選択すればよい。中でも、平均隣接突起間距離dAVGが、50〜300nmであることが好ましく、70〜180nmであることが特に好ましい。平均隣接突起間距離dAVGが上記下限値以上であれば、形成された金属ナノ粒子間の距離が確保され、凝集が生じにくい。一方、平均隣接突起間距離dAVGが上記上限値以下であれば、蒸着膜となりにくく、金属ナノ粒子が形成されやすい。
微小突起の高さH(図1中のH)は、適宜設定すればよい。中でも、高さの平均値HAVGが、50〜350nmであることが好ましく、100〜250nmであることがより好ましい。
【0019】
本発明において隣接突起間隔d及び微小突起の高さHは以下の方法により測定される。
(1)先ず、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて突起の面内配列(突起配列の平面視形状)を検出する。
【0020】
(2)続いてこの求められた面内配列から各突起の高さの極大点(以下、単に極大点と称する。)を検出する。なお極大点を求める方法としては、平面視形状と対応する断面形状の拡大写真とを逐次対比して極大点を求める方法、平面視拡大写真の画像処理によって極大点を求める方法等、種々の手法を適用することができる。
【0021】
(3)次に検出した極大点を母点とするドロネー図(Delaunary Diagram)を作成する。図2にドロネー図の一例を示す模式平面図を示す。図2の例に示されるようにドロネー図とは、各極大点21を母点としてボロノイ分割を行った場合に、ボロノイ領域が隣接する母点同士を隣接母点と定義し、各隣接母点同士を線分22で結んで得られる3角形の集合体からなる網状図形である。各3角形は、ドロネー3角形と呼ばれ、各3角形の辺(隣接母点同士を結ぶ線分)は、ドロネー線と呼ばれる。
【0022】
(4)次に、各ドロネー線の線分長の度数分布、すなわち隣接する極大点間の距離(隣接突起間距離)の平面視の拡大写真から、5〜20個程度の互いに隣接する前記微細構造を有しない微小突起を選んで、その隣接突起間距離の値を標本抽出し、この標本抽出して求められる数値範囲から明らかに外れる値(通常、標本抽出して求められる隣接突起間距離平均値に対して、値が1/2以下のデータ)を除外して度数分布を検出する。
【0023】
(5)このようにして求めた隣接突起間距離dの度数分布を正規分布とみなして平均値dAVG及び標準偏差σを求める。本発明においては、隣接突起間距離dの最大値dmaxをdmax=dAVG+2σと定義して算出する。
【0024】
同様の手法を適用して突起の高さを定義する。この場合、上述の(2)により求められる極大点から、特定の基準位置からの各極大点位置の相対的な高さの差を取得してヒストグラム化する。このヒストグラムによる度数分布から突起高さの平均値HAVG、標準偏差σを求める。
本発明の微小突起は、突起の頂部に凹部が存在する微細構造や、頂部が複数の峰に分裂している微細構造を有していてもよい。このような突起の頂部に凹部が存在する微細構造、或いは、頂部が複数の峰に分裂している微細構造を有する微小突起が含まれる場合は、1つの微小突起が頂点を複数有していることにより、1つの突起に対してこれら複数のデータが突起高さHのヒストグラムにおいて混在することになる。そこでこの場合は麓部が同一の微小突起に属するそれぞれ複数の頂点の中から高さの最も高い頂点を、当該微小突起の突起高さとして採用して度数分布を求める。
【0025】
なお、微小突起の高さを測る際の基準位置は、突起付け根位置、すなわち隣接する微小突起の間の谷底(高さの極小点)を高さ0の基準とする。但し、係る谷底の高さ自体が場所によって異なる場合、例えば、各微小突起間の谷底を連ねた包絡面が、微小突起の隣接突起間距離に比べて大きな周期でうねった凹凸形状を有する場合(図3参照)等は、(1)先ず、微小突起構造体30の微小突起表面31とは反対側の面から測った各谷底の高さの平均値を、該平均値が収束するに足る面積の中で算出する。(2)次いで、該平均値の高さを有し、且つ微小突起構造体30の微小突起表面31とは反対側の面と平行な面を基準面として考える。(3)その後、該基準面を改めて高さ0として、該基準面からの各微小突起の高さを算出する。
【0026】
また、微小突起構造体30の良好な平滑性を確保するために、前記周期Dでうねった凹凸面33の高低差(図3中のh)は、10nm以下であることが好ましく、1nm〜5nmの範囲内であることがより好ましい。なお、前記凹凸面33により形成される凹凸面の高低差は、例えば500nm以上離れた微小突起32の谷底部の位置の高低差を測定することにより求めることができる。微小突起32の谷底部の位置は、微小突起構造体30を、厚み方向に切断した垂直断面のTEM写真又はSEM写真を用いて観察することにより求めることができる。
【0027】
前記第一の微小突起構造体中の各微小突起が同一の高さHを有し、当該微小突起が一定周期で規則正しく配置されている場合、隣接突起間距離dの標準偏差σが0となり、微小突起配列の周期pと一致するため、dAVG=pとなる。
一方突起が不規則に配置されている場合には、上述のようにして求めた平均隣接突起間距離が500nm以下であればよい。
金属ナノ粒子の粒度分布を小さくしたい場合は、隣接突起間距離の標準偏差σを小さくすればよく、σ=0であること、即ち、微小突起が一定周期で規則正しく配置されていることが好ましい。
【0028】
微小突起のアスペクト比(平均突起高さHAVG/平均隣接突起間隔dAVG)は、本発明の効果を損なわない範囲で特に限定されないが、0.8〜2.5であることが好ましく、更に、0.8〜2.1であることがより好ましい。
【0029】
また、微小突起構造体の表面を形成する微小突起は、金属ナノ粒子の形成が良好な点から、六方格子状、準六方格子状、四方格子状、又は準四方格子状に周期的に配列されてなることが好ましい。
ここで、六方格子とは、正六角形状の格子のことをいい、準六方格子とは、正六角形状の格子とは異なり、歪んだ正六角形状の格子のことをいう。また、四方格子とは、正四角形状の格子のことをいい、準四方格子とは、正四角形状の格子とは異なり、歪んだ正四角形状の格子のことをいう。
六方格子状に周期的に配列されてなるとは、正六角形状の格子パターンにより周期的に配列されてなることをいい、準六方格子状に周期的に配列されてなるとは、例えば微小突起の配列方向に引き伸ばされ歪んだ六方格子パターンにより周期的に配列されてなるものが挙げられる。なお、微小突起の配列は、直線状のみならず、蛇行していてもよい。図4に示すように、隣接する3列の直線状の配列(T1〜T3)間において、a1〜a7の各点に微小突起34の中心が位置するように微小突起34を配置することにより、微小突起34は、六方格子状または準六方格子状に周期的に配列される。
本発明において、微小突起構造体の表面を形成する微小突起は、金属ナノ粒子の形成が良好な点から、微小突起の充填率が高いことが好ましく、微小突起が密接して配置されていることがより好ましい。中でも、六方最密格子状に微小突起が周期的に配置されていることがより好ましい。
【0030】
第一の微小突起構造体の厚み(図1におけるT)は、適宜調整すればよいが、3μm〜30μmであることが好ましく、5μm〜10μmであることがより好ましい。
【0031】
また、本発明においては、金属ナノ粒子が形成されやすい点から、微小突起構造体表面における純水の静的接触角が、θ/2法で90°〜160°であることが好ましく、100°〜150°であることがより好ましい。
なお、本発明において静的接触角は、測定対象物の表面に1.0μLの純水を滴下し、着滴1秒後に、滴下した液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を算出するθ/2法に従って測定した接触角とする。測定装置としては、例えば、協和界面科学社製 接触角計DM 500を用いることができる。
【0032】
(微小突起構造体を表面に有する部材の製造方法)
微小突起構造体を表面に有する部材の製造方法は、上述の微小突起構造体を形成できる方法であれば特に限定されない。
基材の一方の面に樹脂組成物の硬化物からなる複数の微小突起が密接して配置されてなる微小突起群を備えた微小突起構造体を有する部材の製造方法の具体例としては、まず基材上に微小突起構造体形成用樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、所望の凹凸形状を有する微小突起構造体形成用原版の該凹凸形状を、前記樹脂組成物の塗膜に賦形した後、前記樹脂組成物を硬化させることにより微小突起構造体を形成し、前記微小突起構造体形成用原版を剥離する方法等が挙げられる。
なお、微小突起構造体形成用原版の凹凸形状とは、多数の微小孔が密に形成されたものであり、微小突起構造体が備える微小突起群の形状に対応する形状である。
また、微小突起構造体形成用原版の凹凸形状を樹脂組成物に賦形し、該樹脂組成物を硬化させる方法は、樹脂組成物の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0033】
(1)基材
上記基材は適宜選択すればよく、特に限定されない。前記基材に用いられる材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレンやポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルサルホンやポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の樹脂、ソーダ硝子、カリ硝子、鉛ガラス等の硝子、PLZT等のセラミックス、石英、蛍石等の無機材料、金属、紙、木、及びこれらの複合材料等が挙げられる。
また、前記基材は、ロールの形で供給されるもの、巻き取れるほどには曲がらないが負荷をかけることによって湾曲するもの、完全に曲がらないもののいずれであってもよく、用途に応じて適宜選択することができる。
【0034】
本発明に用いられる基材の構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されてもよい。
また、後述する微小突起構造体が基材とは別の材料からなる微小突起層に形成される場合は、層間の密着性、塗工適性、表面平滑性等の基材表面性能を向上させる点から、基材上に中間層を形成してもよい。
【0035】
(2)樹脂組成物
微小突起構造体形成用の樹脂組成物は、少なくとも樹脂を含み、必要に応じて重合開始剤等その他の成分を含有する。当該樹脂組成物に用いられる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電離放射線硬化性樹脂、アクリレート系、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂、アクリレート系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系等の熱可塑性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂を使用することができる。なお、電離放射線とは、分子を重合させて硬化させ得るエネルギーを有する電磁波または荷電粒子を意味し、例えば、すべての紫外線(UV、UV−B、UV−C)、可視光線、ガンマー線、X線、電子線等が挙げられる。
【0036】
上記樹脂としては、微小突起の成形性及び機械的強度に優れる点から電離放射線硬化性樹脂が好ましい。電離放射線硬化性樹脂とは、分子中にラジカル重合性及び/又はカチオン重合性結合を有する単量体、低重合度の重合体、反応性重合体を適宜混合したものであり、重合開始剤によって硬化されるものである。なお、非反応性重合体を含有してもよい。
【0037】
微小突起構造体形成用の樹脂組成物は、さらに必要に応じて、重合開始剤、離型剤、光増感剤、酸化防止剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、粘度調整剤、密着性向上剤等を含有することもできる。
【0038】
(3)微小突起構造体形成用原版
前記微小突起構造体形成用原版としては、繰り返し使用した際に変形および摩耗するものでなければ、特に限定されるものではなく、金属製であっても良く、樹脂製であっても良いが、通常、耐変形性および耐摩耗性に優れている点から、金属製が好適に用いられる。
前記微小突起構造体形成用原版の凹凸形状を有する面は、特に限定されないが、酸化されやすく、陽極酸化による加工が容易である点から、アルミニウムからなることが好ましい。
前記微小突起構造体形成用原版は、具体的には、例えば、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属製の母材の表面に、直接に又は各種の中間層を介して、スパッタリング等により純度の高いアルミニウム層が設けられ、当該アルミニウム層に凹凸形状を形成したものが挙げられる。前記母材は、前記アルミニウム層を設ける前に、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法によって母材の表面を超鏡面化しても良い。
前記微小突起構造体形成用原版に凹凸形状を形成する方法としては、例えば、陽極酸化法によって前記アルミニウム層の表面に複数の微小孔を形成する陽極酸化工程と、前記アルミニウム層をエッチングすることにより前記微小孔の開口部にテーパー形状を形成する第1エッチング工程と、前記アルミニウム層を前記第1エッチング工程のエッチングレートよりも高いエッチングレートでエッチングすることにより前記微小孔の孔径を拡大する第2エッチング工程とを順次繰り返し実施することによって形成することができる。
微小突起構造体形成用原版に凹凸形状を形成する際には、アルミニウム層の純度(不純物量)や結晶粒径、陽極酸化処理及び/又はエッチング処理の諸条件を適宜調整することによって、所望の形状とすることができる。前記陽極酸化処理において、より具体的には、液温、印加する電圧、陽極酸化に供する時間等の管理により、微小孔をそれぞれ目的とする深さ及び形状に作製することができる。
【0039】
また、前記微小突起構造体形成用原版の形状としては、例えば、平板状、ロール状等が挙げられ、特に限定されるものではないが、生産性向上の観点からは、ロール状が好ましい。本発明においては、前記微小突起構造体形成用原版として、ロール状の金型(以下、「ロール金型」と称する場合がある。)を用いることが好ましい。
前記ロール金型としては、例えば、母材として、円筒形状の金属材料を用い、当該母材の周側面に、直接に又は各種の中間層を介して設けられたアルミニウム層に、上述したように、陽極酸化処理、エッチング処理の繰り返しにより、凹凸形状が作製されたものが挙げられる。
【0040】
図5に、微小突起構造体形成用の樹脂組成物として紫外線硬化性樹脂組成物を用い、微小突起構造体形成用原版としてロール金型を用いて、微小突起構造体を表面に有する部材を製造する方法の一例を示す。この製造方法では、まず、樹脂供給工程において、ダイ41により、帯状フィルム形態の基材45に、微小突起構造体の受容層46を構成する未硬化で液状の紫外線硬化性樹脂組成物を塗布する。尚、紫外線硬化性樹脂組成物の塗布については、ダイ41による場合に限らず、各種の手法を適用することができる。続いて、押圧ローラ43により、賦形用金型であるロール金型42の周側面に基材45を加圧押圧し、これにより基材45に未硬化の受容層46を密着させると共に、ロール金型42の周側面に形成された微小な凹凸形状の凹部に受容層46を構成する紫外線硬化性樹脂組成物を充分に充填する。この状態で、紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂組成物を硬化させ、これにより基材45の微小突起構造体47が形成される。続いて剥離ローラ44を介してロール金型42から、硬化した微小突起構造体47と一体に基材45を剥離する。必要に応じてこの基材45に粘着層等を積層した後、所望の大きさに切断する。これにより、所望の形状の微小突起が形成された微小突起構造体が形成される。
【0041】
なお、微小突起間距離dの標準偏差σや、微小突起高さHの標準偏差σを大きくする場合には、陽極酸化処理において作製される微小突起構造体形成用原版の微小孔の間隔をばらつかせることにより実現することができる。突起の頂部に凹部が存在する微小突起は、その頂部に対応する形状の凹部を備えた微小孔により作成されるものであり、このような微小孔は、極めて近接して作製された微小孔が、エッチング処理により、一体化して形成されると考えられる。
また、微小突起構造体の個々の微小突起について、高さに所定範囲のばらつきがある場合、個々の微小突起の高さのばらつきは、微小突起構造体形成用原版に形成される微小孔の深さのばらつきによるものであり、このような微小孔の深さのばらつきは、陽極酸化処理におけるばらつきに起因するものと言える。これにより相対的に高さの高い頂部微小突起と、相対的に高さの低い複数の周辺微小突起とを混在させるには、陽極酸化処理におけるばらつきを大きくすることにより実現することができる。
【0042】
また上述の実施形態では、ロール金型を使用した賦形処理により、フィルム形状の基材上に微小突起構造体の形成方法を生産する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、基材の形状に応じて、例えば平板、特定の曲面形状による賦形用金型を使用した枚葉の処理により微小突起構造体を作成する場合等、賦形処理に係る工程、金型は、基材の形状に応じて適宜変更することができる。
【0043】
<保護剤溶液を準備する工程>
本工程では、保護剤と、水及び有機溶剤より選択される1種以上の分散媒とを含有する保護剤溶液を準備する。
保護剤は、金属ナノ粒子の凝集を抑制し、分散性を良好にするために用いられるものであり、従来公知のものの中から、分散媒に合わせて適宜選択して用いることができる。保護剤としては、例えば、極性基を有する有機化合物等が挙げられ、当該極性基としては、例えば、カルボキシ基、ホスホ基、ホスフィノ基、スルホ基、スルフィノ基、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基等が挙げられる。
【0044】
保護剤の具体例としては、クエン酸、アジピン酸、カプロン酸、ドデカン酸、ステアリル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸;フェニルホスホン酸、ジエチルホスホン酸、ペンタメチルホスホン酸、ジフェニルホスホン酸;ペンタメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、ジアミルホスフィン酸、ジヘキシルホスフィン酸、ジヘプチルホスフィン、トリフェニルフォスフィン、トリオクチルホスフィン、ジフェニルホスフィノエタン、トリオクチルフォスフィンオキシド;n−テトラデシル硫酸、ドデシル硫酸、デシル硫酸、n−ノニル硫酸、n−オクチル硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸;ドデカンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸;ドデカンジオール、ヘキサデカンジオール;ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、トリメチルベンジルメルカプタン、ブチルベンジルメルカプタン;ブチルアミン、トリオクチルアミン、オクチルアミン、オクタデシルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、ジステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン等が挙げられる。また、メルカプトウンデカン酸、メルカプトヘキサン酸、メルカプトヘキサデカン酸、メルカプトヘキサノール、メルカプトドデカノール、メルカプトヘキサデカノール、L−グルタミン酸、ジフェニルジチオホスフィン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。また、例えば、特許第5177339号公報に記載の炭化水素系アルキン化合物を用いてもよい。保護剤は、これらの例示に限定されるものではない。
【0045】
金属ナノ粒子分散液において、分散媒として用いられる水又は有機溶剤は、金属ナノ粒子分散液中の各成分とは反応せず、これらを溶解もしくは分散可能なものであればよく、特に限定されない。具体的には、水の他、メチルアルコール、エチルアルコール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系;メトキシアルコール、エトキシアルコール、メトキシエトキシエタノール、エトキシエトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルアルコール系;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸3−メトキシブチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系;メトキシエチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、メトキシブチルアセテート、エトキシエチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、メトキシエトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテルアルコールアセテート系;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性アミド系;γ−ブチロラクトンなどのラクトン系;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどの不飽和炭化水素系;n−ヘプタン、n−ヘキサン、n−オクタンなどの飽和炭化水素系などの有機溶剤が挙げられる。
【0046】
その他、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を加えていてもよい。
保護剤溶液中の保護剤の含有割合は、適宜調整すればよい。中でも、保護剤溶液全量100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましい。
【0047】
<金属ナノ粒子を形成する工程>
本工程は、蒸着法を用いて前記微小突起構造体の表面に金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子を形成し、担持する工程である。
本発明においては、蒸着法を用いて前記微小突起構造体の表面に所定量の金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子を形成することができる。
本工程の蒸着法は、従来公知の金属原子を堆積することができる方法の中から適宜選択すればよく、例えば、真空蒸着法、物理蒸着法、化学蒸着法等が挙げられるが、中でも真空蒸着法を用いることが好ましい。
【0048】
前記蒸着法は、平坦面上に付着する金属原子によって形成される蒸着膜の厚みが40nm以下となるように予め設定される。
蒸着法の設定方法としては、例えば、まず、蒸着法に用いられる蒸着装置を任意の条件に予め設定する。微小突起構造体を表面に有する部材の代わりに平坦面を有する部材を用い、製造しようとする金属ナノ粒子と同一の金属を前記蒸着装置を用いて蒸着法により前記平坦面上に付着させて当該金属の蒸着膜を得る。当該蒸着膜の厚みが40nm以下であれば、上記予め設定した条件を本発明の製造方法における蒸着法の装置条件とすることができる。
平坦面上に形成される蒸着膜の厚みを40nm以下の範囲で適宜調整することにより、金属ナノ粒子の粒径を制御することができる。
【0049】
真空蒸着法の場合、通常、真空排気系と、蒸発源と、基板ホルダーを備えた真空蒸着装置が用いられる。
真空排気系は、従来公知の高真空排気系を用いればよい。例えば、荒引きポンプとして油回転ポンプ、ドライポンプ等を用い、必要に応じてルーツポンプ等をブースターポンプとして併用することができる。高真空ポンプとしては、拡散ポンプ、クライオポンプ等を用いることができる。拡散ポンプを用いる場合には、−120〜−150℃程度のコールドトラップを更に備えていてもよい。
蒸発源は、金属を加熱蒸発するための加熱源を有する。加熱源としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱等が挙げられる。
【0050】
例えば、まず、前記微小突起構造体を表面に有する部材を、微小突起構造体表面が蒸発源に対面するように基板ホルダーに設置する。真空蒸着装置の真空容器内を10−5〜10−6Torr程度の真空状態にしたのち、前記蒸発源において金属の蒸気圧が1〜10−6Torr程度となるように加熱して、前記微小突起構造体の表面に金属原子を付着すればよい。
【0051】
本発明において金属原子は、得られる金属ナノ粒子分散液の用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。中でも、金、銀、銅、パラジウム、又は白金であることが、金属の安定性、蒸着のしやすさ等の点から好ましい。
本発明において製造される金属ナノ粒子は、通常、その平均粒径が、形成時に用いられる微小突起構造体の隣接する微小突起間の距離の平均よりも小さいものである。金属ナノ粒子の平均粒径は、微小突起間に安定に存在しやすい点から10〜100nmであることが好ましく10〜50nmであることがより好ましい。
【0052】
上記金属ナノ粒子の平均粒径は、金属ナノ粒子が付着した微小突起構造体表面の電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で求めることができる。具体的には、個々の一次粒子の短軸径と長軸径を計測し、その平均をその粒子の粒径とする。次に100個以上の粒子についてそれぞれ粒子の体積(質量)を、求めた粒径の直方体と近似して求め、体積平均粒径として求めそれを平均粒径とする。なお、電子顕微鏡は透過型(TEM)、走査型(SEM)又は走査透過型(STEM)のいずれを用いても同じ結果を得ることができる。
【0053】
<金属ナノ粒子を保護剤溶液へ移す工程>
前記金属ナノ粒子が担持した前記微小突起構造体の表面と、前記保護剤溶液とを接触させて、前記金属ナノ粒子を前記保護剤溶液へ移す工程である。
微小突起構造体の表面と、保護剤溶液との接触方法は特に限定されず、図1(D)のように、微小突起構造体を表面に有する部材10を保護剤溶液に浸漬する方法の他、当該部材に保護剤溶液を吹き付け、当該溶液を回収する方法などが挙げられる。なお、回収効率を上げるために、当該部材や保護剤溶液に適宜振動等を与えてもよい。
保護剤溶液中に移された金属ナノ粒子表面には保護剤が付着するため、金属ナノ粒子同士の凝集が生じず、良好な金属ナノ粒子分散液を得ることができる。
なお、金属ナノ粒子回収後の部材10は、繰り返し本発明の製造方法に用いることができる。
【0054】
<金属ナノ粒子分散液の用途>
本発明の製造方法により得られる金属ナノ粒子分散液は、所望の粒径を有し、粒度分布の小さい金属ナノ粒子を有することから、従来公知の種々の用途に好適に用いることができる。本発明の金属ナノ粒子分散液は、例えば、導電性材料、金属ナノ粒子特有の色を付与する材料、抗菌性材料、熱線遮蔽性を付与する材料、帯電防止性を付与する材料、蛍光材料、触媒材料、磁性材料、ドラックデリバリーシステムなどの医療用材料等に用いられる。また、本発明の製造方法により得られる金属ナノ粒子分散剤は、焼成による金属膜形成用途に用いてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0056】
(製造例1:微小突起構造体を表面に有する部材の製造)
(1−1)微小突起構造体形成用原版の製造
純度99.50%の圧延されたアルミニウム板を、その表面が、十点平均粗さRz30nm、且つ周期1μmの凹凸形状となるように研磨後、0.02Mシュウ酸水溶液の電解液中で、化成電圧40V、20℃の条件にて120秒間、陽極酸化を実施した。次に、第一エッチング処理として、陽極酸化後の電解液で60秒間エッチング処理を行った。続いて、第二エッチング処理として、1.0Mリン酸水溶液で150秒間孔径処理を行った。さらに、上記処理を繰り返し、これらを合計5回追加実施した。これにより、アルミニウム基板上に微細な凹凸形状が形成された陽極酸化アルミニウム層が形成された。最後に、フッ素系離型剤を塗布し、余分な離型剤を洗浄することで、第一の微小突起構造体形成用原版を得た。なお、アルミニウム層に形成された微細な凹凸形状は、平均隣接微細孔間距離が100nm、平均深さが200nmで、深さ方向に徐々に孔径が小さくなる多数の微細孔が密に形成された形状であった。
【0057】
(1−2)樹脂組成物の調製
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)20質量部、アロニックスM−260(東亜合成社製)70質量部、ヒドロキシエチルアクリレート10質量部、ルシリンTPO 3質量部を、メチルエチルケトン(MEK)及びメチルイソブチルケトン(MIBK)の1:1混合溶媒に溶解させ、樹脂組成物を調製した。
【0058】
(1−3)微小突起構造体を表面に有する部材の製造
上記(1−2)で得られた樹脂組成物を、上記(1−1)で得られた微小突起構造体形成用原版の微細凹凸面が覆われ、硬化後の微細凹凸層の厚さが20μmとなるように塗布、充填し、その上に透明基材として厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)(富士フィルム社製)を斜めから貼り合わせた後、貼り合わせられた貼合体をゴムローラーで10N/cmの加重で圧着した。原版全体に均一な組成物が塗布されたことを確認し、透明基材側から2000mJ/cmのエネルギーで紫外線を照射して微細凹凸層形成用樹脂組成物を硬化させた。その後、原版より剥離し、微小突起構造体を表面に有する部材を得た。
【0059】
(製造例2:保護剤溶液の調製)
水95質量部に対して、5質量部のクエン酸ナトリウムを加え5%のクエン酸ナトリウム水溶液を作製し、これを保護剤溶液とした。
【0060】
(実施例1:金属ナノ粒子分散液の製造)
製造例1で得られた微小突起構造体を表面に有する部材の微小突起構造体表面に、真空蒸着法により銀原子(Ag)を付着させることにより、銀ナノ粒子が形成された。銀ナノ粒子を担持した前記微小突起構造体を表面に有する部材を、製造例2で得られた保護剤溶液50mL中に浸漬させて、微小突起構造体表面から保護剤溶液へ銀ナノ粒子を移し、金属ナノ粒子分散液を得た。
なお、蒸着法は、平坦面上に付着する銀原子によって形成される蒸着膜の厚みが5nmとなるように予め設定した。
【0061】
(実施例2〜3:金属ナノ粒子分散液の製造)
実施例1において、蒸着法の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜3の金属ナノ粒子分散液を得た。
【0062】
(実施例4〜6)
実施例1において、銀原子の代わりに金原子(Au)を用い、蒸着法の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4〜6の金属ナノ粒子分散液を得た。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、表1中の真空蒸着法の条件は、平坦面上に付着する金属原子によって形成される蒸着膜が所定の膜厚となるように予め設定された値である。
【0065】
[粒径、粒度分布評価]
金属ナノ粒子が形成された微小突起構造体表面を走査型電子顕微鏡を用いて観察することにより、金属ナノ粒子の粒径を測定した結果、実施例1〜3では10nm前後の銀ナノ粒子が、実施例4〜6では30nm前後の金ナノ粒子がそれぞれ観察された。
【符号の説明】
【0066】
1 微小突起構造体
2 微小突起
3 金属ナノ粒子
4 保護剤溶液
5 金属ナノ粒子の保護剤への移動
10 微小突起構造体を表面に有する部材
20 金属ナノ粒子分散液
21 微小突起の極大点
22 線分
23 微小突起
30 微小突起構造体
31 微小突起表面
32 微小突起
33 凹凸面
34 微小突起
41 ダイ
42 ロール金型
43 押圧ローラ
44 剥離ローラ
45 基材
46 受容層
47 微小突起構造体
図1
図2
図3
図4
図5