(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ローパスフィルタで高周波ノイズ除去を行うと、通過した基本波成分(正弦波成分)に信号遅延が発生する。そのため、実際の磁極位置と推定した磁極位置との間に無視できない誤差が生じ、回転駆動→電圧電流検知→磁極位置推定演算と一巡して繰り返される制御系において、安定性の低下をきたし、回転周波数の整数倍の高調波が多くなる。その高調波が回転周波数の基本波に重畳されることによって正弦波から歪んだ波形となり、その結果、運転負荷が大きい場合に、モータ電流の脈動や、モータの脱調が発生することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい実施の形態によるモータ駆動装置は、複数のスイッチング素子を有してモータを駆動するインバータと、モータ相電圧に関する情報とモータ相電流に関する情報とに基づいて、モータロータの回転速度および磁極電気角を算出する演算部と、演算部で算出された磁極電気角の位相遅延を補正して補正後磁極電気角を生成する遅延補正部と、回転速度と目標回転速度との差分および補正後磁極電気角に基づいて、正弦波駆動指令を生成する駆動指令生成部と、正弦波駆動指令に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号を生成するPWM信号生成部と、を備え
、前記モータ相電圧に関する情報は、前記モータの3相のコイルの各端子電圧が電圧検知部で検出され第1ローパスフィルタを介して入力されるモータ相電圧検知信号で、前記モータ相電流に関する情報は第2ローパスフィルタを介して入力されるモータ相電流検知信号であって、前記遅延補正部は、前記第1ローパスフィルタのフィルタ特性に起因する位相遅延を補正する進み位相を算出し、該進み位相を磁極電気角に加算して前記補正後磁極電気角を生成し、前記第2ローパスフィルタのフィルタ特性
を、前記モータ相電圧検知信号に適した前記第1ローパスフィルタのフィルタ特性
に合わせるように設定する。
本発明の好ましい実施の形態によるモータ駆動装置は、複数のスイッチング素子を有してモータを駆動するインバータと、モータ相電圧に関する情報とモータ相電流に関する情報とに基づいて、モータロータの回転速度および磁極電気角を算出する演算部と、前記演算部で算出された磁極電気角の位相遅延を補正して補正後磁極電気角を生成する遅延補正部と、前記回転速度と目標回転速度との差分および前記補正後磁極電気角に基づいて、正弦波駆動指令を生成する駆動指令生成部と、前記正弦波駆動指令に基づいて、前記複数のスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号を生成するPWM信号生成部と、を備え、前記モータ相電流に関する情報は、ローパスフィルタを介して
前記演算部に入力されるモータ相電流検出信号であって、
前記遅延補正部は、
前記ローパスフィルタのフィルタ特性に起因する位相遅延を補正する進み位相を算出し、該進み位相を磁極電気角に加算して
前記補正後磁極電気角を生成し、
前記駆動指令生成部は、
前記差分に基づいて2相回転座標系における2相電圧指令Vd,Vqを生成し、該2相電圧指令Vd,Vqを
前記補正後磁極
電気角に基づいて2相固定座標系における2相電圧指令Vα,Vβに変換し、該2相電圧指令Vα,Vβを2相−3相変換して3相電圧指令Vu,Vv,Vwを生成し、該3相電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいて前記PWM制御信号を生成し、
前記演算部は、
前記2相固定座標系における2相電圧指令Vα,Vβの位相を
前記進み位相と同一位相量だけ遅延させて得られる推定モータ電圧と、
前記モータ
相電流検出信号とに基づいて、
前記回転速度および前記磁極電気角を算出する。
さらに好ましい実施形態では、
前記遅延補正部は、前記演算部で算出された回転速度に応じて進み位相を算出する。
本発明の好ましい実施の形態によるモータ駆動装置は、複数のスイッチング素子を有してモータを駆動するインバータと、モータ相電圧に関する情報とモータ相電流に関する情報とに基づいて、モータロータの回転速度および磁極電気角を算出する演算部と、前記演算部で算出された磁極電気角の位相遅延を補正して補正後磁極電気角を生成する遅延補正部と、前記回転速度と目標回転速度との差分および前記補正後磁極電気角に基づいて、正弦波駆動指令を生成する駆動指令生成部と、前記正弦波駆動指令に基づいて、前記複数のスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号を生成するPWM信号生成部と、モータ相電圧を検知するモータ相電圧検知部と、
前記モータ相電圧検知部から出力されるモータ相電圧検知信号をローパスフィルタ処理するローパスフィルタと、
前記インバータのスイッチング素子のグランド側に設けられたシャント抵抗によりモータ相電流を検知する、スリーシャント方式の電流検知部
と、
前記電流検知部から出力されアナログデジタル変換されたモータ相電流検知信号を、
前記ローパスフィルタによる
前記モータ相電圧検知信号の位相遅延と等価な位相だけ、デジタル処理にて遅延させる信号遅延処理部と、を備え、
前記モータ相電圧に関する情報は、
前記ローパスフィルタでフィルタ処理された後にアナログデジタル変換されたモータ相電圧検知信号であり、
前記モータ相電流に関する情報は、
前記信号遅延処理部から出力される位相補正後電流検知信号であり、
前記遅延補正部は、
前記ローパスフィルタのフィルタ特性に起因する
前記位相遅延を補正する進み位相を算出し、該進み位相を磁極電気角に加算して前記補正後磁極電気角を生成する。
なお、
前記デジタル処理を、デジタルローパスフィルタによるローパスフィルタ処理としても良い。
本発明の好ましい実施の形態による真空ポンプは、排気機能部が形成されたポンプロータと、ポンプロータを回転駆動するモータと、モータを駆動する上記実施形態によるモータ駆動装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モータ電流の脈動やモータ脱調を防止し、モータ駆動安定性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、本実施の形態の真空ポンプにおけるポンプユニット1の構成を示す図である。真空ポンプは、
図1に示すポンプユニット1と、ポンプユニット1を駆動するコントロールユニット(不図示)とを備えている。なお、
図1に示す真空ポンプは、磁気浮上式ターボ分子ポンプである。
【0010】
ポンプユニット1は、回転翼4aと固定翼62とで構成されるターボポンプ段と、円筒部4bとネジステータ64とで構成されるドラッグポンプ段(ネジ溝ポンプ)とを有している。ここではネジステータ64側にネジ溝が形成されているが、円筒部4b側にネジ溝を形成しても構わない。回転側排気機能部である回転翼4aおよび円筒部4bはポンプロータ4に形成されている。ポンプロータ4はシャフト5に締結されている。ポンプロータ4とシャフト5とによって回転体ユニットRが構成される。
【0011】
複数段の固定翼62は、軸方向に対して回転翼4aと交互に配置されている。各固定翼62は、スペーサリング63を介してベース60上に載置される。ポンプケーシング61の固定フランジ61cをボルトによりベース60に固定すると、積層されたスペーサリング63がベース60とポンプケーシング61の係止部61bとの間に挟持され、固定翼62が位置決めされる。
【0012】
シャフト5は、ベース60に設けられた磁気軸受67,68,69によって非接触支持される。各磁気軸受67,68,69は電磁石と変位センサとを備えている。変位センサによりシャフト5の浮上位置が検出される。なお、軸方向の磁気軸受69を構成する電磁石は、シャフト5の下端に設けられたロータディスク55を軸方向に挟むように配置されている。シャフト5はモータMにより回転駆動される。
【0013】
モータMは同期モータであり、本実施の形態では、DCブラシレスモータが用いられている。モータMは、ベース60に配置されるモータステータ10と、シャフト5に設けられるモータロータ11とを有している。モータロータ11には、永久磁石が設けられている。磁気軸受が作動していない時には、シャフト5は非常用のメカニカルベアリング66a,66bによって支持される。
【0014】
ベース60の排気口60aには排気ポート65が設けられ、この排気ポート65にバックポンプが接続される。回転体ユニットRを磁気浮上させつつモータMにより高速回転駆動することにより、吸気口61a側の気体分子は排気ポート65側へと排気される。
【0015】
図2は、コントロールユニットの概略構成を示すブロック図である。外部からのAC入力は、コントロールユニットに設けられたAC/DCコンバータ40によってDC出力(DC電圧)に変換される。AC/DCコンバータ40から出力されたDC電圧はDC/DCコンバータ41に入力され、DC/DCコンバータ41によって、モータM用のDC電圧と磁気軸受用のDC電圧とが生成される。
【0016】
モータM用のDC電圧はインバータ43に入力される。磁気軸受用のDC電圧は磁気軸受用のDC電源42に入力される。磁気軸受67,68,69は5軸磁気軸受を構成しており、磁気軸受67,68は各々2対の電磁石46を有し、磁気軸受69は1対の電磁石46を有している。5対の電磁石46、すなわち10個の電磁石46には、それぞれに対して設けられた10個の励磁アンプ45から個別に電流が供給される。
【0017】
制御部44はモータおよび磁気軸受の制御を行うデジタル演算器であり、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)等が用いられる。制御部44は、インバータ43に対しては、インバータ43に含まれる複数のスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号441を出力し、各励磁アンプ45に対しては、各励磁アンプ45に含まれるスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号442をそれぞれ出力する。また、制御部44は、後述するようにモータMに関する相電圧および相電流に関する信号443や、磁気軸受に関する励磁電流信号および変位信号444が入力される。
【0018】
図3は、モータMに関するモータ駆動制御系を示す図である。モータ駆動制御系は、正弦波駆動制御部400およびインバータ43を有する。インバータ43は、複数のスイッチング素子SW1〜SW6と、スイッチング素子SW1〜SW6をオンオフ駆動するためのゲートドライブ回路430とを備えている。スイッチング素子SW1〜SW6には、MOSFETやIGBTなどのパワー半導体素子が用いられる。なお、スイッチング素子SW1〜SW6の各々には、環流ダイオードD1〜D6が並列接続されている。
【0019】
モータステータ10のU,V,W相コイルに流れる電流は電流検知部50によってそれぞれ検出され、検出結果としての電流検知信号はローパスフィルタ409を介して制御部44の正弦波駆動制御部400に入力される。また、U,V,W相コイルの各端子電圧は電圧検知部51によって検出され、検出結果としての電圧検知信号はローパスフィルタ410を介して正弦波駆動制御部400に入力される。
【0020】
正弦波駆動制御部400は、ローパスフィルタ409、410でノイズ除去された電流検知信号および電圧検知信号に基づいて、スイッチング素子SW1〜SW6をオンオフ制御するためのPWM制御信号を生成する。ゲートドライブ回路430は、PWM制御信号に基づいてゲート駆動信号を生成し、スイッチング素子SW1〜SW6をオンオフする。これにより、正弦波に変調されPWM化された電圧が、U,V,W相コイルにそれぞれ印加される。
【0021】
本実施の形態では、モータ電流検知信号およびモータ電圧検知信号に基づいて回転速度、磁極位置を推定している。なお、本実施の形態のように、モータロータ11の回転位置を検出する回転センサを有しないセンサレスのモータの場合には、モータ電流検知信号およびモータ電圧検知信号に基づいて回転速度、磁極位置を推定するのが一般的である。
【0022】
図4は、正弦波駆動制御部400を説明するブロック図である。モータMに流れる3相電流は電流検知部50により検出され、検出された電流検知信号はローパスフィルタ409に入力される。一方、モータMの端子電圧は電圧検知部51により検出され、検出された電圧検知信号はローパスフィルタ410に入力される。
【0023】
図6は、PWM正弦波駆動されているモータMに印加されるGND基準のU相電圧、およびモータMに流れるU相電流の一例を示す図である。ラインL3はU相電流を示しており、ラインL3の上側に示したラインL4は、U相コイルに印加されるGND基準の電圧を示している。相電圧L4はPWM変調された矩形波状波形を有しており、矩形波の幅(オンデューティ)は正弦波的に変化している。その結果、U相コイルに流れるU相電流も正弦波的な変化を示している。
【0024】
モータに印加される電圧は、スイッチング素子のオンオフに伴って0Vと電源電圧Vdcとの間で急峻に変化する矩形波状波形を有している。上述したように、PWM変調により電圧L4の矩形波のオンデューティは正弦波的に変化しており、このような電圧が印加されると、モータにはラインL3で示すような正弦波状の電流(振幅A)が流れる。ただし、相電流L3には、矩形波の立ち上がりおよび立ち下がりに対応して、リップル振幅Bが発生している。
【0025】
このように、相電流L3は、PWMキャリア周波数のリップル成分(高周波)が重畳された波形となる。そのため、電流検知信号および電圧検知信号の各入力ラインには、高周波ノイズを除去するためのローパスフィルタ409、410が設けられている。特に、電圧検知信号の場合には、基本波成分に比べてその他の高周波成分が多いので、電流検知信号の場合に比べてより厳しいフィルタリングが必要となる。
図13は、ローパスフィルタ410でフィルタリングした後の電圧波形(GND基準のU相電圧)を示す図である。
図6に示した矩形波状の電圧波形から高周波成分が除去されて、正弦波状の波形に近づいていることが分かる。
【0026】
ローパスフィルタ409を通過した電流検知信号およびローパスフィルタ410を通過した電圧検知信号は、それぞれ回転速度・磁極位置推定部407に入力される。回転速度・磁極位置推定部407は、電流検知信号および電圧検知信号に基づいて、モータMの回転速度ωおよび磁極位置(電気角θ)を推定する。なお、磁極位置は電気角θで表されるので、以下では、磁極位置のことを磁極電気角θと呼ぶことにする。
【0027】
図5は、回転速度・磁極位置推定部407の詳細を示す図である。電圧検知部51から出力された相電圧検知信号vv,vu,vwは、ローパスフィルタ410を介して3相-2相変換部4072に入力される。3相-2相変換部4072は3相の電圧信号を2相の電圧信号vα’,vβ’に変換する。変換後の電圧信号vα’,vβ’は逆起電圧演算部4074に入力される。
【0028】
一方、電流検知部50から出力された相電流検知信号iv,iu,iwは、ローパスフィルタ409を介して3相-2相変換部4071に入力される。3相-2相変換部4071は、3相の電流検知信号iv,iu,iwを2相の電流信号iα,iβに変換する。変換後の電流信号iα,iβは等価回路電圧変換部4073に入力される。
【0029】
等価回路電圧変換部4073は、モータMの電気等価回路定数に基づく次式(1)を用いて、電流信号iα,iβを電圧信号vα,vβに変換する。変換後の電圧信号vα,vβは逆起電圧演算部4074に入力される。なお、等価回路は抵抗成分rおよびインダクタンス成分Lに分けられる。r、Lの値はモータ仕様等から得られ、予め記憶部に記憶されている。
【数1】
【0030】
逆起電圧演算部4074は、モータ3相電圧に基づく電圧信号vα’,vβ’とモータ3相電流に基づく電圧信号vα,vβとに基づいて、次式(2)を用いて逆起電圧Eα,Eβを算出する。
【数2】
【0031】
電気角演算部4075は、モータロータ11の磁極位置を電気角で表した磁極電気角θを、逆起電圧Eα,Eβに基づいて次式(3)により算出する。磁極電気角θは、磁極Nとモーターステータ10のU相コイル位置が一致するタイミングがθ=0に設定される。算出された磁極電気角θは、回転速度演算部4076および
図4に示した遅延補正部408にそれぞれ入力される。
【数3】
【0032】
回転速度演算部4076は、入力された磁極電気角θに基づいて、次式(4)により回転速度ωを算出する。算出された回転速度ωは、等価回路電圧変換部4073、
図4に示す速度制御部401,等価回路電圧変換部403および遅延補正部408に入力される。
【数4】
【0033】
図4に戻って、速度制御部401は、入力された目標回転速度ωiと推定された現在の回転速度ωとの差分に基づいて、PI制御(比例制御および積分制御)あるいはP制御(比例制御)を行い、電流指令Iを出力する。Id・Iq設定部402は、電流指令Iに基づき、d-q軸回転座標系における電流指令Id,Iqを設定する。
図7に示すように、d-q軸回転座標のd軸は、回転しているモータロータ11のN極を正方向とする座標軸である。q軸はd軸に対して90度進みの直角方向の座標軸で、その向きは逆起電圧方向となる。
【0034】
等価回路電圧変換部403は、算出された回転速度ωおよびモータMの電気等価回路定数に基づく次式(5)を用いて、電流指令Id,Iqをd-q軸回転座標系における電圧指令Vd,Vqに変換する。
【数5】
【0035】
dq-2相電圧変換部404では、変換後の電圧指令Vd,Vqと遅延補正部408から入力された補正後磁極電気角θ’とに基づいて、d-q軸回転座標系における電圧指令Vd,Vqを2軸固定座標系(α-β座標系)の電圧指令Vα,Vβに変換する。ところで、電圧信号および電流信号をローパスフィルタ409,410でフィルタ処理すると、基本波成分(正弦波成分)に信号遅延が発生する。そのため、実際の磁極電気角と推定した磁極電気角との間に無視できない誤差を生じる。
【0036】
図8,9は、ローパスフィルタのフィルタ特性の一例を示す図である。
図8はゲインを示す図であり、
図9は位相を示す図である。
図8,9において、角速度0〜ω0がポンプの運転区間である。
図9において、矢印Dで示すマイナスの位相が位相遅れを示している。運転区間においては、回転速度ωが大きくなるほど位相遅れも大きくなる。そのため、位相遅れが生じている磁極電気角θを用いてdq-2相電圧変換部404における変換を行うと、モータステータ側の回転磁界の位相とモータロータ10の位相とのズレが大きくなって、脱調等が発生するおそれがある。
【0037】
本実施の形態では、位相遅延によるこのような問題を防止するために、位相遅延を補正するための遅延補正部408を備えている。遅延補正部408は、回転速度・磁極位置推定部407から入力された磁極電気角θおよび回転速度ωに基づいて、次式(6)により補正後磁極電気角θ’を算出する。
【数6】
【0038】
式(6)において、進み位相φ(ω)は、磁極角速度θに対して位相をどれだけ進めるかを表している。進み位相φ(ω)は、
図9に示すフィルタ特性から決定される。例えば、曲線部分を一定傾きの直線で近似しても良いし、運転区間を複数の区間に分けて、区間毎に値を設定するようにしても良い。また、最高回転速度(定格回転時の回転速度)ω0における位相遅れをφ0(>0)とし、簡易的にφ(ω)=φ0×(ω/ω0)としても良い。
図10は、U相電流iu、補正前の磁極電気角θ、補正後磁極電気角θ’を示す図である。補正後磁極電気角がθ’=0となるタイミングとU相電流がiu=0となるタイミングとは、ほぼ一致している。
【0039】
なお、高速回転中のモータロータ11の回転速度は、ロータ回転慣性があるので回転1周期内で急激に変化することはなく、少なくとも数周期を要してゆっくりとしか変化できない。そのため、ここでは定常応答とみなすことができる。これにより、電気角θに遅延補正量φ(ω)を加算する比較的シンプルな手段にて効果を発揮することができる。
【0040】
dq-2相電圧変換部404は、この補正後磁極電気角θ’と変換後の電圧指令Vd,Vqとに基づいて、d-q軸回転座標系における電圧指令Vd,Vqを2軸固定座標系(α-β座標系)の電圧指令Vα,Vβに変換する。2相-3相電圧変換部405は、2相の電圧指令Vα,Vβを3相電圧指令Vu,Vv,Vwに変換する。PWM信号生成部406は、3相電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいて、インバータ43に設けられた6つのスイッチング素子SW1〜SW6をオンオフ(導通または遮断)するためのPWM制御信号を生成する。インバータ43は、PWM信号生成部406から入力されたPWM制御信号に基づいてスイッチング素子SW1〜SW6をオンオフし、モータMに駆動電圧を印加する。
【0041】
以上のように、第1の実施の形態では、ローパスフィルタ410を介して入力されるモータ相電圧検知信号と、ローパスフィルタ409を介して入力されるモータ相電流検知信号とに基づいて、回転速度ωおよび磁極電気角θを算出する場合に、ローパスフィルタ410のフィルタ特性に起因する位相遅延を補正する進み位相φを算出する。そして、磁極電気角θに進み位相φを加算した補正後磁極電気角θ’に基づいて、PWM制御信号を生成するようにしたので、位相遅延が低減される。その結果、モータ電流の脈動やモータ脱調等の不具合の発生が防止され、モータ駆動安定性の向上を図ることができる。
【0042】
なお、
図6に示すように電流と電圧とは波形が異なるので、ローパスフィルタ409、410として最適なフィルタ特性は異なっている。しかしながら、回転速度・磁極位置推定部407に入力される電流検知信号および電圧検知信号においては、位相遅延の差が小さいほうが好ましい。そのため、ローパスフィルタ409、410には、同一特性を有するローパスフィルタが用いられる。その場合、ローパスフィルタ409のフィルタ特性を、電圧検知信号のノイズ除去に適したローパスフィルタ410に合わせるようにする。
【0043】
−第2の実施の形態−
図11,12は、本発明の第2の実施の形態を説明する図である。
図11、12は、それぞれ第1の実施の形態における
図4、5に対応する図である。以下では、第1の実施の形態と異なる部分を中心に説明する。
【0044】
上述した第1の実施の形態では、
図5に示したように、逆起電圧演算部4074は、電流検知部50で検出された電流検知信号に基づく電圧信号vα,vβと、電圧検知部51で検出された電圧検知信号に基づく電圧信号vα’,vβ’とに基づいて、逆起電圧Eα,Eβを算出した。
【0045】
一方、第2の実施の形態では、モータ電圧検知信号に基づく電圧信号vα’,vβ’の代わりに、dq-2相電圧変換部404から出力された電圧指令Vα,Vβの位相を位相戻し補正部411で補正し、その補正結果である電圧信号Vα’,Vβ’を、回転速度・磁極位置推定部407に入力するようにした。回転速度・磁極位置推定部407では、位相戻し補正部411から入力された電圧信号Vα’,Vβ’とモータ電流検知信号に基づく電圧信号vα,vβとに基づいて、逆起電圧Eα,Eβを算出するようにした。
【0046】
位相戻し補正部411では、dq-2相電圧変換部404から出力された電圧指令Vα,Vβを、遅延補正部408で算出された進み位相φ(ω)と同一位相量だけ遅らせる。すなわち、電圧指令Vα,Vβの位相(補正後磁極電気角)θ’を「θ’−φ(ω)」で置き換え、置き換えたものを電圧信号Vα’,Vβ’とする。このように算出された電圧信号Vα’,Vβ’は、電圧検知信号に基づく電圧信号vα’,vβ’とほぼ一致するので、第1の実施の形態とほぼ同一の磁極電気角θおよび回転速度ωが回転速度・磁極位置推定部407から出力される。
【0047】
正弦波駆動制御部400では、ローパスフィルタ409から出力された信号をサンプリング周波数fsでサンプリングしてデジタル処理を行っている。位相戻し補正部411では、dq-2相電圧変換部404からデータを取り込む際に、例えば、次式(7)で与えられるサンプリング数Nだけ、すなわち、進み位相φ(ω)とほぼ同一位相だけ遅延したタイミングで保持したデータを適用する。
N=φ(ω)×(fs/ω) ・・・(7)
但し、式7の右辺が整数でない場合は、最も近い整数をNとする。また、単位は、ω[rad/s],fs[Hz],φ[rad]である。
【0048】
なお、進み位相φ(ω)の設定方法は、ローパスフィルタ409のフィルタ特性に基づいて、第1の実施の形態と同様に行う。第1の実施の形態では、電流検知信号に対するローパスフィルタ409のフィルタ特性をローパスフィルタ410に合わせたが、本実施の形態では、電流検知信号に適したフィルタ特性に設定される。そのため、回転速度・磁極位置推定部407で算出される磁極電気角θの位相遅延を、第1の実施の形態に比べて小さく抑えることができる。
【0049】
第2の実施の形態のように、算出された電圧指令Vα,Vβを用いて回転速度ωおよび磁極電気角θを推定する構成においては、電圧指令Vα,Vβの位相を進み位相φ(ω)と同一位相だけ遅延させることで、電流検知信号の信号遅延と電圧信号Vα’,Vβ’の信号遅延とを揃えるようにするのが好ましい。第2の実施の形態においても、信号遅延が補正された補正後磁極電気角θ’に基づいてPWM制御信号を生成しているので、第1の実施の形態の場合と同様に、モータ電流の脈動やモータ脱調等の不具合の発生が防止され、モータ駆動安定性の向上を図ることができる。
【0050】
−第3の実施の形態−
上述した第1及び第2の実施の形態では、モータステータ10のU,V,W相コイルに流れる電流(モータ相電流)を検知する電流センサ(検知部50)として、例えば、ホール効果を利用したカレントトランス(CT)方式などの電流センサを想定している。本実施の形態では、より安価な電流センサを用いることで、より低コストなモータ駆動装置を提供するようにした。なお、モータ相電圧の検出に関しては、上述した第1の実施の形態と同様である。
【0051】
図14は、第3の実施の形態におけるモータ駆動制御系を示すブロック図である。また、
図15は、正弦波制御部400を示す図であり、第1の実施の形態の
図4に対応する図である。本実施の形態では、電流検知部50は周知のスリーシャント方式(例えば、特開昭63−80774号公報)により3相電流を検知する構成となっている。インバータ43のスイッチング素子SW4,SW5,SW6のグランド側には、電流検知用のシャント抵抗431u、431v、431wが直列に接続されている。
【0052】
スイッチング素子SW4がオン(導通状態)のタイミングにおいてはシャント抵抗431uに電流が流れ、そのときのシャント抵抗431uの電圧値を検出することで、電流検知部50はU相電流を検出することができる。同様に、スイッチング素子431vのオンタイミングにおいてシャント抵抗431vの電圧値を検出することでV相電流が検出され、スイッチング素子431wのオンタイミングにおいてシャント抵抗431wの電圧値を検出することでW相電流が検出される。
【0053】
図16は、スイッチング素子SW1〜SW6をPWM正弦波駆動したときの、U相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧VwおよびU相電流iu、V相電流ivおよびW相電流iwの一例を示す図である。U相電圧VuおよびU相電流iuは
図6に示したもの(L3,L4)と同じものである。なお、
図16では、U相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwのラインが分かりやすいように、それぞれを図示上下方向にずらして(オフセットして)図示している。
【0054】
電流検知部50で検出された各相電流iu,iv,iwはADコンバータ413により制御部44に取り込まれる。スリーシャント方式では、U相電流iu、V相電流ivおよびW相電流iwが同一タイミングで取得できるように、PWM周期の周期毎に1回のタイミングでADコンバータ413から取り込まれる。
【0055】
図16に示すように、インバータ43から出力されるU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwはスイッチング素子のオンオフに伴って0Vと電源電圧Vdcとの間で急峻に変化する矩形波状波形を有している。ローサイドのスイッチング素子が導通状態となると、各相の電圧は0V(GND基準で)となる。すなわち、3相共通して0Vとなるタイミングが、電流検出タイミングである。
【0056】
PWM変調により、各相の電圧Vu,Vv,Vwの矩形波のオンデューティは正弦波的に変化するので、相電流検出タイミングである3相共通して導通状態となる時間幅は各タイミングにおいて異なっており、非常に短くなる場合がある。そのため、本実施の形態では、フィルタ処理による信号遅延の影響を考慮し、ローパスフィルタを介さずにADコンバータ413から取り込む構成としている。例えば、各相の電圧が共に立ち下がったタイミングでADコンバータ413に取り込むようにしている。各相電流ラインに附された丸印STが、取り込みタイミングを示しており、そのときの電流値がADコンバータ413から取り込まれる。
【0057】
一方、電圧検知部51から出力されたモータ相電圧検知信号は、ローパスフィルタ410を介して取り込まれる。そのため、第1の実施の形態で説明したように、取り込まれたモータ相電圧検知信号には、ローパスフィルタ410のフィルタ特性に依存した位相遅延が発生する。そこで、本実施の形態では、ADコンバータ413から出力されたモータ相電圧検知信号と相電流検知信号の位相を揃える目的で、
図15に示すように、相電流検知信号を遅延させる信号遅延処理部414を備えている。すなわち、ADコンバータ413によりAD変換されたデジタル信号である相電流検知信号を、信号遅延処理部414におけるデジタル演算処理より、ローパスフィルタ410の遅延位相と等価な(ほぼ同一)位相だけ遅延させる。
【0058】
例えば、定格回転数ω0においては、
図9に示す上記遅延位相Dに相当する遅延時間(D/ω0)だけ、ADコンバータ413から取り込んだ各相電流検知信号データを遅延させる。具体的なデジタル処理としては、第二の実施形態で説明した式(7)で与えられるサンプリング数Nだけ、データを遅延させる処理となる。この場合、信号遅延処理部414は、ADコンバータ413からデータを取り込む際に、式(7)で与えられるサンプリング数Nだけ遅延したタイミングで取り込まれたデータを回転速度・磁極位置推定部407に入力する。
【0059】
または、信号遅延処理部414としてデジタルフィルタを設け、モータ相電圧検知信号へ適用するローパスフィルタ410の特性(例えば、
図8,
図9の特性)とほぼ同一特性を有するデジタルフィルタ処理で実現するようにしても良い。この場合、種々の回転速度において遅延補正を連続的に行うことができる。
【0060】
以上説明したように、上述した第1〜3の実施の形態では、モータ相電圧に関する情報(モータ電圧検知信号または電圧指令)とモータ相電流に関する情報(モータ電流検知信号や相電流検知信号)とに基づいて、モータロータ11の回転速度ωおよび磁極電気角θを算出し、算出された磁極電気角θの位相遅延を補正して補正後磁極電気角θ’を生成するようにした。そして、PWM信号生成部406は、電流指令Iと補正後磁極電気角θ’とによって生成された3相電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいて、インバータ43のスイッチング素子SW1〜SW6をオンオフ制御するためのPWM制御信号を生成する。その結果、ローパスフィルタに起因する信号遅延による影響を低減することができ、モータ電流の脈動やモータ脱調等が防止され、モータ駆動安定性の向上を図ることができる。
【0061】
第1の実施の形態のように、ローパスフィルタ410を介して入力されるモータ相電圧検知信号と、ローパスフィルタ409を介して入力されるモータ相電流検出信号とに基づいて、回転速度ωおよび磁極電気角θを算出する場合には、ローパスフィルタ410のフィルタ特性に起因する位相遅延を補正する進み位相φを算出し、その進み位相φを磁極電気角θに加算して補正後磁極電気角θ’を生成する。通常、矩形波状信号である電圧検知信号に用いられるローパスフィルタ410の方が、ノイズ低減効果が高く、位相遅延量も大きい。そのため、位相遅延量のより大きいローパスフィルタ410のフィルタ特性に基づいて進み位相φを設定することで、位相遅延補正効果を得ることができる。
【0062】
さらに、位相遅延は回転速度ωに応じて変化するので、その回転速度ωに応じて進み位相φを算出することで、種々の回転速度において位相遅延補正を効果的に行うことができる。
【0063】
また、ローパスフィルタ409のフィルタ特性をローパスフィルタ410のフィルタ特性と同一に設定することで、回転速度・磁極位置推定部407に入力される電流検知信号の位相遅延と電圧検知信号の位相遅延とを揃えることができる。その結果、磁極電気角θの推定精度の向上を図ることができる。
【0064】
また、第2の実施の形態のように、2相電圧指令Vα,Vβとローパスフィルタ409を介して入力される電流検知信号とに基づいて回転速度ωおよび磁極電気角θを算出する構成の場合には、2相電圧指令Vα,Vβの位相を、進み位相φと同一位相量だけ遅延させるようにするのが好ましい。この進み位相φは、ローパスフィルタ409のフィルタ特性に起因する位相遅延を補正するための電気角であり、ローパスフィルタ409のフィルタ特性に基づいて設定される。この場合も、回転速度ωに応じて進み位相φを算出することで、種々の回転速度において位相遅延補正を効果的に行うことができる。
【0065】
また、第3の実施の形態のように、モータ相電圧検知信号がローパスフィルタ410を介して入力され、スリーシャント方式で検知された相電流検知信号がフィルタ処理されずに入力される構成の場合には、ADコンバータ413により取り込まれた相電流検知信号を、信号遅延処理部414により、ローパスフィルタ410とほぼ同一位相だけ遅延させるデジタル処理を施す。そして、そのデジタル処理が施された相電流検知信号とADコンバータ413から取り込んだモータ相電圧検知信号とに基づいて回転速度ωおよび磁極電気角θを算出する。さらに、ローパスフィルタ410のフィルタ特性に起因する位相遅延を補正する進み位相φを算出し、その進み位相φを磁極電気角θに加算して補正後磁極電気角θ’を生成する。この場合も第1の実施の形態と同様の位相遅延補正効果が得られる。
【0066】
上述のようなモータ駆動装置を、ポンプロータを高速回転させるターボ分子ポンプ等の真空ポンプに適用することで、駆動安定性の高い真空ポンプとすることができる。
【0067】
なお、上述した実施の形態では、2相固定座標を適用して磁極位置θおよび回転速度ωの推定演算を行っているが、本発明は2相固定座標に限定されるものではない。例えば、2相固定座標を回転座標系に変換した後に推定演算する場合にも適用することができる。また、実施形態では、回転速度ωを磁極位置θから演算しているが、これに限定されるものでない。例えば、3相(あるいは2相)の電圧、電流値から演算する場合にも適用できる。
【0068】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。例えば、上述した実施の形態では、磁気軸受式のターボ分子ポンプを例に説明したが、これに限らず、ボールベアリング式のターボ分子ポンプや、高速回転を必要とする真空ポンプにも本発明を適用することができる。また、モータ相電流、相電圧検知をどちらも3相入力で図示しているが、公知の通り、2相のみ入力して、残りの1相は他2相より計算しても良い。U相、V相のみ電流、電圧ともに検出の場合は、残りW相については、各々、iw=-iu-iv、vw=-vu-vvにて算出できる。ここでは、2極モータ(
図7)についてのみ記述したが、本発明は、2極モータに限定されるものでなく、4極モータなど多極モータにも電気角などを多極対応に置き換えることで適用可能である。