特許第6232869号(P6232869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 沖電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6232869-光導波路素子 図000002
  • 特許6232869-光導波路素子 図000003
  • 特許6232869-光導波路素子 図000004
  • 特許6232869-光導波路素子 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232869
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/126 20060101AFI20171113BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   G02B6/126
   G02B6/122 311
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-188344(P2013-188344)
(22)【出願日】2013年9月11日
(65)【公開番号】特開2015-55725(P2015-55725A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】岡山 秀彰
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/084584(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/088610(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0026880(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導波路コア、第2導波路コア、第3導波路コアを備え、
前記第3導波路コアの幅及び厚みは光ファイバからの出力光を入力するに十分であり、前記第1導波路コアと前記第2導波路コアの幅及び厚みは、シリコン光導波路素子の光導波路に入力させる入力光のスポットサイズとするに十分であり、
前記第1導波路コアと前記第2導波路コアは、近接させて並置され、
前記第1導波路コアの幅は、第2導波路コアの幅よりも狭く、
前記第1導波路コアと前記第2導波路コアの中心間距離は、入力側から出力側に向けて連続的に広がっており、
前記第2導波路コアの幅は、入力側から出力側に向けて連続的に広がっており、
前記第3導波路コアを基本伝搬モードで伝搬するTMモード(Transverse Magnetic mode)成分と、前記第1導波路コアと前記第2導波路コアで形成される複合導波路を反対称伝搬モードで伝搬するTMモード成分との位相整合条件が満足するように、前記複合導波路を反対称伝搬モードで伝搬するTMモード成分の等価屈折率が設定されており、
前記第3導波路コアへの入力光のTMモード成分は、前記第1導波路コアと前記第2導波路コアで形成される前記複合導波路の反対称伝搬モードと位相整合して、前記第1導波路コアへ移行し、
前記第3導波路コアへの入力光のTEモード(Transverse Electric mode)成分は、前記第1導波路コアと前記第2導波路コアで形成される前記複合導波路の対称伝搬モードと位相整合して、前記第2導波路コアへ移行する
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
下部クラッド層、上部クラッド層、第1導波路コア、第2導波路コア、第3導波路コアを備え、
前記第1導波路コア及び前記第2導波路コアは、前記下部クラッド層上に並列して配置され、前記下部クラッド層と前記上部クラッド層とで囲まれて形成されており、
前記第3導波路コアは、記第1導波路コア及び前記第2導波路コアの上に、前記上部クラッド層を挟んで形成されており、
前記第3導波路コアの幅及び厚みは光ファイバからの出力光を入力するに十分であり、前記第1導波路コアと前記第2導波路コアの幅及び厚みは、シリコン光導波路素子の光導波路に入力させる入力光のスポットサイズとするに十分であり、
前記第1導波路コアと前記第2導波路コアは、近接させて並置され、
前記第1導波路コアの幅は、第2導波路コアの幅よりも狭く、
前記第1導波路コアと前記第2導波路コアの中心間距離は、入力側から出力側に向けて連続的に広がっており、
前記第2導波路コアの幅は、入力側から出力側に向けて連続的に広がっており、
前記第3導波路コアを基本伝搬モードで伝搬するTMモード(Transverse Magnetic mode)成分と、前記第1導波路コアと前記第2導波路コアで形成される複合導波路を反対称伝搬モードで伝搬するTMモード成分との位相整合条件が満足するように、前記複合導波路を反対称伝搬モードで伝搬するTMモード成分の等価屈折率が設定されており、
前記第3導波路コアへの入力光のTMモード成分は、前記第1導波路コアと前記第2導波路コアで形成される前記複合導波路の反対称伝搬モードと位相整合して、前記第1導波路コアへ移行し、
前記第3導波路コアへの入力光のTEモード(Transverse Electric mode)成分は、前記第1導波路コアと前記第2導波路コアで形成される複合導波路の対称伝搬モードと位相整合して、前記第2導波路コアへ移行する
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
前記第1導波路コア及び前記第2導波路コアの厚みは、前記入力光が基本伝搬モードで伝搬する条件を満たす厚みに形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力光のスポットサイズ変換を行うとともに、直交する偏波成分を分離してそれぞれ別の出力ポートから出力する光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化と量産性の観点から、光導波路のコアの素材にシリコンを利用した光導波路素子が注目されている。シリコンを光導波路のコア素材とすると、小型の光導波路素子を形成しやすく、しかもその製造に当たってはCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)の製造プロセスを流用できるため、生産コストを低く抑えることが可能であるからである。
【0003】
シリコン光導波路素子は、その用途の多くが光ファイバと接続されて利用される。しかしながら、光ファイバのコアの寸法は、シリコン光導波路素子のコアの寸法より大きいので、光ファイバとシリコン光導波路素子との接続を行うに当たっては、ビームのスポットサイズ変換器を利用するか、あるいはグレーティングカプラを利用する必要がある。
【0004】
また、一般に、光ファイバを伝搬した光はその偏光状態が確定していない。一方、シリコン光導波路素子を伝搬する光は、多くの場合、偏光状態がTMモード(Transverse Magnetic mode)あるいはTEモード(Transverse Electric mode)に確定した状態である。従って、光ファイバとシリコン光導波路素子との接続を行うに当たっては、光の偏光状態についても考慮する必要がある。すなわち、シリコン光導波路素子を偏波無依存化するか、あるいは偏光状態ごとに個別に対応するシリコン光導波路素子を用意して、偏波分離を行う必要がある。
【0005】
直交するグレーティングによって偏光分離する形態のカプラ(非特許文献1参照)が開示されているがスポットサイズ変換も行えるカプラは知られていない。一方、スポットサイズ変換器は幾つか開示されている(例えば、特許文献1〜7参照)が、偏光分離も行えるスポットサイズ変換器は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Frederik Van Laere, et al., “Focusing polarization diversity gratings for Silicon-on-Insulator integrated circuits” Technical Digest of Group IV Photonics 2008, paper ThB3, 2008年9月.
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−164376号公報
【特許文献2】特開2011−123094号公報
【特許文献3】特開2011−22345号公報
【特許文献4】特開2010−117396号公報
【特許文献5】特開2007−93743号公報
【特許文献6】特開2006−323210号公報
【特許文献7】特開2006−309197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、入力光のスポットサイズ変換を行うとともに、直交する偏波成分を分離してそれぞれ別の出力ポートから出力する光導波路素子が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の発明者は、光ファイバからの出力光を入力する十分な大きさの導波路コアから入力させ、この導波路コアを伝搬する間に、シリコン光導波路素子への入力に好適なスポットサイズの出力光を出力する2本の導波路コアに、互いに直交する偏波に偏光分離されて移動させる光導波路素子を検討した。
【0010】
その結果、2本の導波路コアを近接配置させると、反対称伝搬モードに対する等価屈折率(Effective guide index)が低下する現象を利用することに思い至った。この現象を利用して光ファイバからの出力光を入力する十分な大きさの導波路コアから、2本の導波路コアへ、直交する偏波モードを分離させて伝搬光のエネルギーが移行することが可能である光導波路素子を見出した。
【0011】
すなわち、この発明は、スポットサイズ変換を行うとともに、直交する偏波成分を分離してそれぞれ別の出力ポートから出力する光導波路素子を提供することを目的とする。
【0012】
この発明の要旨によれば、上述の目的を達成するため、光導波路素子は、以下の特徴を具えている。
【0013】
この発明の光導波路素子は、第1導波路コア、第2導波路コア、第3導波路コアを備えている。第3導波路コアの幅及び厚みは、光ファイバからの出力光を入力するに十分であり、第1導波路コアと第2導波路コアの幅及び厚みは、シリコン光導波路素子の光導波路に入力させる入力光のスポットサイズとするに十分である。
【0014】
第1導波路コアと第2導波路コアは近接させて並置され、第1導波路コアの幅は、第2導波路コアの幅よりも狭い。また、第1導波路コアと第2導波路コアの中心間距離は、入力側から出力側に向けて連続的に広がるように構成されており、第2導波路コアの幅を、入力側から出力側に向けて連続的に広がるように構成されている。
【0015】
そして、第3導波路コアへの入力光のTMモード成分は、第1導波路コアと第2導波路コアで形成される複合導波路の反対称伝搬モードと位相整合して、第1導波路コアへ移行し、第3導波路コアへの入力光のTEモード成分は、第1導波路コアと第2導波路コアで形成される複合導波路の対称伝搬モードと位相整合して、第2導波路コアへ移行する。
【発明の効果】
【0016】
この発明の要旨の光導波路素子は、第1導波路コアと第2導波路コアは近接させて並置されているので、第1導波路コア及び第2導波路コアから形成される複合導波路を反対称伝搬モードで伝搬するTMモード成分の等価屈折率を効果的に低下させることができる。このことによって、第3導波路コアを基本伝搬モードで伝搬するTMモード成分と、複合導波路を反対称伝搬モードで伝搬するTMモード成分との位相整合条件を満足させることが可能となる。その上、第1導波路コアの幅が、第2導波路コアの幅よりも狭いので、反対称伝搬モードは、第1導波路コアに集中するように複合導波路を伝搬する。従って、反対称伝搬モードのTM成分は、第1導波路コアに移行される。
【0017】
一方、第3導波路コアを基本伝搬モードで伝搬するTEモード成分と、複合導波路を対称伝搬モードで伝搬するTEモード成分とが位相整合する。また、第2導波路コアの幅が第1導波路コアの幅より広いので、対称伝搬モードで伝搬するTEモード成分が第2導波路コアに集中する。そのため、TEモード成分は第2導波路コアに移行される。
【0018】
第1導波路コアと第2導波路コアが接近している場所では広がっている場所に比べて、反対称伝搬モードのTMモード成分に対する等価屈折率が低く、TMモード成分に対する位相整合が成立しやすい。第1導波路コアと第2導波路コアの中心間距離は、入力側から出力側に向けて連続的に広がるように構成されているので、入力光のTMモード成分は入力端近傍で第1導波路コアに移行される。また、対称伝搬モードは、より幅の広い導波路に集中する。第2導波路コアの幅は、入力側から出力側に向けて連続的に広がるように構成されているので、対称伝搬モードのTEモード成分は、複合導波路を伝搬する後半(出力側)に進むにつれて、第2導波路コアに集中していき、第2導波路コアに移行されて出力される。
【0019】
以上説明したように、この発明の要旨の光導波路素子によれば、第3導波路コアの幅及び厚みが光ファイバからの出力光を入力するに十分であるので、光ファイバからの出力光をこの光導波路素子に低損失で入力させることができる。また、第1導波路コアと第2導波路コアの幅及び厚みが、シリコン光導波路素子の光導波路に入力させる入力光のスポットサイズとするに十分であるので、第1導波路コア及び第2導波路コアから出力される直交偏波成分は、シリコン導波路素子へ低損失で入力させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の実施形態の光導波路素子の構成を示す概略的斜視図である。
図2】この発明の実施形態の光導波路素子の第1〜第3導波路コアを上面から見た概略的平面図である。
図3】この発明の実施形態の光導波路素子の第1及び第2導波路コアを伝搬する光電場の強度分布を示す図であり、(A)はTEモード、(B)はTMモードに対するシミュレーション結果を示す図である。
図4】第1及び第2導波路コアがそれぞれ単独で存在した場合の伝搬光の電場強度分布を示す図であり、(A)は第2導波路コアが単独で存在した場合、(B)は第1導波路コアが単独で存在した場合のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照して、この発明の実施形態につき説明する。なお、図1及び図2は、この発明の実施形態に係る一構成例を示すものであり、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の構成素材及び設計条件等を用いることがあるが、これら構成素材及び設計条件等は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。また、図1及び図2において同様の構成要素については、同一の符号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。
【0022】
<光導波路素子の構成>
図1を参照して、この発明の実施形態の光導波路素子の構成について説明する。図1は、光導波路素子の構成を示す概略的斜視図である。図1に示すように、この発明の実施形態の光導波路素子は、次のように構成されている。
【0023】
この発明の実施形態の光導波路素子は、シリコン基板10、下部クラッド層12、上部クラッド層14、第1導波路コア16、第2導波路コア18、第3導波路コア20を備えている。第1導波路コア16及び第2導波路コア18は、下部クラッド層12上に並列して配置され、下部クラッド層12と上部クラッド層14とで囲まれて形成されている。第3導波路コア20は、第1導波路コア16及び第2導波路コア18の上に、上部クラッド層14を挟んで形成されている。
【0024】
第3導波路コア20の寸法(幅20r、厚み20s)は、光ファイバからの出力光を入力するに十分であり、第1導波路コア16と第2導波路コア18の寸法(幅及び厚み)は、シリコン光導波路素子の光導波路に入力させる入力光のスポットサイズとするに十分である。
【0025】
第1導波路コア16と第2導波路コア18は、近接させて並置されており、第1導波路コア16の幅W1は、第2導波路コア18の幅W2よりも狭く、第1導波路コア16と第2導波路コア18の中心間距離は、入力側から出力側に向けて連続的に広がっている。すなわち、第1導波路コア16と第2導波路コア18は、全体としては略平行に並置されており、両コアの中心間距離が最大に離れている位置でも、両コアを伝搬する光のエバネッセント波同士がわずかでも重なる程度に近接している。更に、第2導波路コア18の幅W2は、入力側から出力側に向けて連続的に広がっている。
【0026】
また、第1導波路コア16と第2導波路コア18は、伝搬光が基本伝搬モードで伝搬されるようにその厚みHを200〜500nmとするのが好ましい。これは、厚み方向の境界条件で確定する伝搬モードが基本伝搬モード以外でも可能である状態にしておくと、この厚み方向の境界条件で確定する伝搬モードによって、動作の安定性が損なわれる可能性があるからである。
【0027】
図2に示すように、第3導波路コア20の入力端への入力光PのTMモード成分は、第1導波路コア16と第2導波路コア18で形成される複合導波路の反対称伝搬モードと位相整合し、第1導波路コア16へ移行する。一方、第3導波路コア20の入力端への入力光PのTEモード成分は、第1導波路コア16と第2導波路コア18で形成される複合導波路の対称伝搬モードと位相整合し、第2導波路コア18へ移行する。
【0028】
第1導波路コア16と第2導波路コア18を伝搬する導波光がシリコン基板10へ漏れ出ることを防ぐために、シリコン基板10の上面から第1導波路コア16及び第2導波路コア18の底面までの距離を1μm以上にすることが望ましい。
【0029】
第3導波路コア20は、その幅20r及びその厚み20sを2〜8μmとするのが好ましく、また、上部クラッド層14上に第3導波路コア20を包み込むように、SiO2クラッド層を形成しても良い。
【0030】
入力端における第1導波路コア16の幅W1及び第2導波路コア18の幅W2は等しくともよく、80nm程度に設定するのが好適である。また、入力端においても幅W1を幅W2より狭く設定してもよい。
【0031】
<光導波路素子の動作>
図2を参照して、この発明の実施形態の光導波路素子の動作を説明する。図2は、第1〜第3導波路コアを上面から見た概略平面図である。図2では、第3導波路コア20の下に第1導波路コア16と第2導波路コア18が配置されているが、第1導波路コア16と第2導波路コア18を見せやすくするため破線ではなく実線で示してある。
【0032】
第3導波路コア20の入力端に入力される入力光Pは、第3導波路コア20に基本伝搬モード21を励起する。第1導波路コア16と第2導波路コア18が近接している入力端近傍では、入力端近傍から離れた場所と比較して、第1導波路コア16と第2導波路コア18で構成される複合導波路のTMモードの反対称伝搬モードに対する等価屈折率が低い。そして、第3導波路コア20は、第1導波路コア16及び第2導波路コア18の上に、上部クラッド層14を挟んで形成されている。そのため、第3導波路コア20の基本伝搬モード21と複合導波路のTMモードの反対称伝搬モード22との位相整合が実現し、基本伝搬モード21が反対称伝搬モード22にその光エネルギーが移行する。
【0033】
第1導波路コア16の幅が第2導波路コア18の幅より狭いと、反対称伝搬モード22の光エネルギーは第1導波路コア16に集まっていくことが知られている。第1導波路コア16の幅W1は、第2導波路コア18の幅(入力端でW2)よりも狭くなっており、しかも第2導波路コア18の幅は入力端から出力端に向けて徐々に広くなっている。そのため、反対称伝搬モード22の光エネルギーは、複合導波路を伝搬中に徐々に第1導波路コア16へ移行され出力端Q-1から出力される。
【0034】
一方、TEモード成分に対しては、第3導波路コア20の基本伝搬モード21と複合導波路の対称伝搬モード23との位相整合が実現する。そのため、基本伝搬モード21が対称伝搬モード23にその光エネルギーが移行する。対称伝搬モード23の光エネルギーは幅の広いコアに集まっていくことが知られているので、TEモード成分の光エネルギーは、第1導波路コア16よりその幅が広く、しかもその幅が入力端から出力端に向けて徐々に広くなっている第2導波路コア18へ移行され、出力端Q-2から出力される。
【0035】
効率よく入力光のTEモード成分を第2導波路コア18に移行させ、TMモード成分を第1導波路コア16に移行させるには、入力端近傍でTEモード成分の反対称伝搬モードがカットオフされることが重要である。このため、入力端近傍では、第1導波路コア16の幅W1と第2導波路コア18の幅W2が、厚みHよりも狭くなっており、TEモードに対する等価屈折率がTMモードに対する等価屈折率より低く設定するのが好適である。入力端近傍を離れるにしたがって、第2導波路コア18の幅が広くなっているので、入力端近傍を離れるとTEモード成分の反対称伝搬モードのカットオフ条件が解除される。そのため、入力端近傍を少し離れた位置で、TMモード成分が第1導波路コア16に移行し始める。
【0036】
例えば、第1導波路コア16の幅W1及び第2導波路コア18の幅W2が80nmで、厚みHが200nm以上である場合には、第3導波路コア20を伝搬する伝搬モードと、第1導波路コア16及び第2導波路コア18からなる複合導波路の伝搬モードとの位相整合が実現されない。第3導波路コア20の屈折率が1.6以上であれば、位相整合が実現できるが、この条件では一般に第3導波路コア20の伝搬モードが多モードとなり、実用に供せない。
【0037】
また、第1導波路コア16及び第2導波路コア18の厚みHが200nm以下である場合は、光の閉じ込めが弱く実用に供せない。従って、第1導波路コア16と第3導波路コア20を備え、第1導波路コア16の幅を、導波の方向に沿って徐々に変化させてスポットサイズ変換器を実現しようとしても、第3導波路コア20を伝搬するTM成分を第1導波路コア16に移行させることは困難であった。
【0038】
この発明では、新たに第2導波路コア18を備え、第1導波路コア16と第2導波路コア18を近接させて並置する構成とすることによって、複合導波路のTMモードの反対称伝搬モードに対する等価屈折率が低くなるという特徴を活かして、第3導波路コア20を伝搬する伝搬モードと、複合導波路の伝搬モードとの位相整合を実現している。
【0039】
<光導波路素子の動作の検証>
シミュレーションによって光導波路素子の動作を検証したので、以下のその結果について説明する。シミュレーションは、ビーム伝搬法(BPM: Beam Propagation Method)によって行った。
【0040】
入力光の波長を1550nmとし、第1導波路コア16と第2導波路コア18の厚みHを300nmとした。上部クラッド層14はSiO2で形成されたものとし、第3導波路コア20の屈折率を1.51とした。また、第3導波路コア20の断面形状は、一辺が3μmの正方形(20r=20s=3μm)とした。第1導波路コア16の幅W1を80nmとし、第2導波路コア18の幅を、入力端で100nm(=W2)、出力端で180nmとなるように伝搬方向に沿って徐々に広くなるテーパー型導波路コアとした。また、第1導波路コア16と第2導波路コア18の間隔は、入力端で500nm、出力端で800nmとなるように徐々に広げてあるものとした。そして、光導波路素子の全長を200μmとした。シミュレーションは、入力光を第3導波路コア20の入力端Pに入力した後の、第1導波路コア16と第2導波路コア18における光電場強度を求めた。
【0041】
図3に、第1導波路コア16と第2導波路コア18からなる複合導波路を伝搬する光電場強度分布を示す。光電場強度の強弱を色の濃淡に反映させている。図3で横軸(x軸)を光の伝搬方向に直交する方向にとってあり、光の伝搬方向を縦軸(z軸)にとってある。すなわち、x軸は図2の横方向に、z軸は図2の縦方向に対応する。図3(A)はTEモード、図3(B)はTMモードに対するシミュレーション結果を示す図である。
【0042】
入力光は図3の下方から入力され、z軸方向に伝搬する。図3(A)に示すように、TEモード成分はそのほとんどが入力端近傍で既に第2導波路コア18に移行していることが分かる。一方TMモード成分は図3(B)に示すように、入力端から少し進んだ位置からそのほとんどが第1導波路コア16に移行していることが分かる。これは、入力端近傍では、第1導波路コア16と第2導波路コア18の幅が、厚みHよりも狭くなっており、TEモードに対する等価屈折率がTMモードに対する等価屈折率より低く、TEモード成分の反対称伝搬モードがカットオフされているためである。
【0043】
いずれにしても、入力光は、TEモード成分はそのほとんどが入力端近傍で既に第2導波路コア18に移行し、TMモード成分も、そのほとんどが第1導波路コア16に移行する。このことから、第3導波路コア20に入力された入力光は、TEモード成分とTMモード成分に分離されて、TMモード成分は、第1出力端Q-1から出力され、TEモード成分は第2出力端Q-2から出力されることが分かる。
【0044】
図4を参照して、第1及び第2導波路コアがそれぞれ単独で存在した場合の伝搬光の電場強度分布についてシミュレーションした結果を説明する。図4では、TEモード成分とTMモード成分とを分離せずに示している。図4(A)は第2導波路コアが単独で存在した場合を示している。第2導波路コア18の部分の光電場強度が強くなっている。すなわち、第3導波路コア20に入力された入力光のTEモード成分は、第2導波路コア18に移行しているが、TMモード成分の位相整合が実現されないので、ほとんど第1導波路コア16に移行しないことが読み取れる。
【0045】
TEモード成分は、図4(A)に示すように、第1導波路コア16と第2導波路コア18がともに存在する場合の図3(A)に示す光電場強度分布と比較すると、入力端から離れた位置から移行が始まっている。これは以下の理由による、第2導波路コア18が単独で存在する場合に比べて、図3(A)では、第1導波路コア16と第2導波路コア18が両方存在して、しかも入力端近傍ではその間隔が狭いので対称伝搬モードに対する等価屈折率が高くなっている。そのため、第2導波路コア18が単独で存在する場合には、第1導波路コア16と第2導波路コア18がともに存在する場合と比べて、TEモード成分に対する位相整合が入力端から離れた位置で実現することがわかる。従って、第2導波路コア18が単独で存在する場合には、第1導波路コア16と第2導波路コア18がともに存在する場合と比べて、第2導波路コア18へ移行するTEモード成分が少なくなる。
【0046】
図4(B)では、光電場強度が第1光導波路コア16の部分で周期的に変化している。このことから、TMモード成分は、第1導波路コア16に移行するが、移行するエネルギー量が伝搬方向に沿って周期的に変化していることが読み取れる。このため、TMモード成分を出力端Q-1から効率よく出力させることは難しい。
【0047】
図3図4とを比較して明らかなように、入力光のTEモード成分が第2導波路コア18に移行し、TMモード成分が第1導波路コア16に移行するには、入力端近傍でTEモード成分の反対称伝搬モードがカットオフされることが重要であることも分かる。このカットオフ条件が満たされないと、TEモード成分とTMモード成分とが、入力端で第1導波路コア16及び第2導波路コア18で共存しその効果的分離が実現されない。
【0048】
<光導波路素子の製造方法>
光導波路素子を構成する光導波路パターン構造体は、例えば、SOI(Silicon on Insulator)基板を入手して、以下の工程によって形成できる。SOI基板は、広く市販品として入手可能であり、シリコン基板に酸化シリコン層、及びこの酸化シリコン層上に光導波路の厚みに等しい厚みHのシリコン層が形成されている。まず、このSOI基板を用意するステップを実行する。
【0049】
SOI基板の酸化シリコン層上に形成されているシリコン層に対して、上述の第1導波路コア16及び第2導波路コア18を構成する光導波路パターンを残してドライエッチング等を行い、他の部分のシリコン層を取り除く(ドライエッチングステップ)。それに続き、エッチング処理で残された光導波路パターンを導波構造のコアとして取り囲む酸化シリコン層を化学気相成長(CVD: Chemical Vapor Deposition)法等によって形成する(CVDステップ)。そして、酸化シリコン層の上面が平坦になるように研磨し、この酸化シリコン層を上部クラッド層14として形成する(上部クラッド層形成ステップ)。
【0050】
研磨を終えた上部クラッド層14の上面に、上部クラッド層14より屈折率が高くしかも第1導波路コア16及び第2導波路コア18を構成するシリコンよりも屈折率が低い材料、例えばSiOx(0<x<2)あるいはSiN膜をCVD法等によって成膜する。酸素の組成比xが大きくなるに従って屈折率は低くなる。従って、第3導波路コア20の屈折率を上部クラッド層14の屈折率より高くするために、SiOxのxの値を、第3導波路コア20では上部クラッド層14より小さく設定する。
【0051】
その後、第3導波路コア20の部分を残してエッチング処理して第3導波路コア20を形成する(第3導波路コア形成ステップ)。第3導波路コア20を形成した後、上部クラッド層14上に第3導波路コア20を包み込むように、CVD法等によってSiO2クラッド層を形成しても良い。
【0052】
このように、この発明の光導波路素子を構成する光導波路パターン構造体は、SOI基板を用いて周知のエッチング処理、CVD法等によって形成することが可能であるので、量産性に優れ低コストで簡便に形成することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
10:シリコン基板
12:下部クラッド層
14:上部クラッド層
16:第1導波路コア
18:第2導波路コア
20:第3導波路コア
図1
図2
図3
図4