(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、金属微粒子分散体を含む導電性ペーストを、スクリーン印刷法などの印刷法により所望のパターンを形成し、回路基板における配線等を形成する技術が注目を集めている。
【0003】
金属微粒子としての金属は、銀、銅、ニッケルが一般的に用いられる。銀は高価であるだけでなく、耐マイグレーション性が悪く、回路の微細化要求の増大に対して、用途によっては重大な欠陥となりうる。ニッケルは導電性が劣る。銅は安価で、耐マイグレーション性が良いために、導電性ペースト用の金属微粒子として強く望まれている。しかし銅は酸化されやすく、できた酸化物は導電性が悪い。導電性銅ペースト製造時や保存時あるいは導電性銅ペーストからの銅薄膜形成時の加熱処理や、銅薄膜保存時に銅表面に形成される酸化層により、導電性が悪くなる。さらに銅の酸化による弊害は 銅ペースト回路に酸化防止や絶縁のためにカバーフィルムを張り合わせた場合にも起こる。
【0004】
銅微粒子を含有する導電性銅ペースト塗膜を還元性雰囲気にて処理する方法が開示されている。良く知られている水素ガス3%含有窒素ガス中での加熱処理(非特許文献1)のほかにも、いくつかの方法が開示されている。例えば、マイクロ波表面波プラズマ処理(特許文献1)では、処理できる塗膜の厚みが2mm以下に制限される。また、ギ酸ガス処理(特許文献2)では200℃以下の低温で処理できるが、ギ酸の毒性や厚い塗膜での処理の困難性が懸念される。
【0005】
高エネルギーのパルス光を照射して、基板の温度を上げずに、酸化銅を含有する塗膜のみを加熱して銅被膜を形成するフォトシンタリング法が開示されている。(たとえば、特許文献3)この方法では、室温で短時間に処理できる長所はあるが、照射装置が高価で、しかも基板を損傷しない条件が狭いという問題がある。
【0006】
さらに、加熱時に加圧して焼成する方法が開示されている。例えば、特許文献4や特許文献5には、導電性微粒子の分散体を熱処理した後、加熱しつつ加圧して導電性膜を形成する方法が開示されている。これらの方法は、コスト的に有利であり、銀粒子では焼結が容易であるが、銅粒子の場合には、加熱加圧時に容易に酸化反応が進み、粒子表面の酸化被膜が焼結を阻害してしまうために、高い導電性を有する膜は得られない。
【0007】
特許文献6では、銅粒子を含有する塗膜の直上に遮蔽物を配置して加熱加圧処理をして銅膜を得る方法が開示されている。この方法では、ある程度は外気中の酸素との反応を抑制できるが、限界があり、しかも遮蔽物がリサイクルできなければ、廃棄物の問題が生じる。
【0008】
特許文献7には、導電粉に銅を使用した導電性ペーストを基材に塗布した後に過熱水蒸気処理をすることにより、大気中で焼成処理をするよりも低酸素状態で、また、空気よりも比熱容量が大きい水蒸気を使用することで、安全にかつ、短時間に加熱焼成することができるので、塗布した金属薄膜の比抵抗を下げることができるという技術が開示されている。
【0009】
金属粒子の粒径を低減することによって、金属粒子間の焼成温度を金属バルクの融点に比べて大幅に下げることができることが知られている。金属微粒子の平均粒子径が数nm〜数10nm程度であるとき、バルクの金属よりも融点が著しく降下し、低い温度で粒子同士の融着が起こることを利用し、金属微粒子を低温で焼結させて導電性薄膜を得るものである。
【0010】
銅微粒子を含有する導電性ペーストにおいて、銅微粒子は酸化されやすく、粒径がナノサイズの銅ナノ粒子ではその傾向がさらに顕著となる、との問題に直面する。酸化された銅微粒子では著しく導電性が低下するため、導電性銅ペーストとして用いるためには、分散性を維持しながら酸化を抑制することが大きな課題となっている。
【0011】
導電性樹脂バインダーに適切な樹脂バインダーを配合すると、樹脂バインダーは、金属粒子への親和性を利用して分散工程において導電性金属粉を均一に分散させ、また形成した金属薄膜の導電性を向上させ、かつ金属薄膜と絶縁基材との密着性を向上させるとの効果を発揮する。しかし、樹脂バインダーは絶縁性であり、焼成時の導電性金属同士の融着を阻害して、金属薄膜の導電性の発現を阻害する場合がある。
【0012】
銅微粒子を含む分散体を用いて導電性パターンを形成する際、良好な導電性を確保するためには、銅微粒子に吸着している樹脂バインダーを分解または脱離させ、銅微粒子相互を十分に接触させて融着を促す必要がある。しかしながら、これまで、樹脂バインダーの分解性や脱離性に関してあまり考慮なされておらず、焼成工程でポリマーの分解が十分に進行しない恐れがあり、形成した配線が良好な導電性を確保できない可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の導電性ペーストは導電性金属粉、溶剤、および主鎖が加水分解性である樹脂バインダーを必須成分として含有する。各成分の割合は導電性金属粉100質量部に対し、溶剤の上限は好ましくは400質量部であり、より好ましくは350質量部であり、さらに好ましくは300質量部である。溶剤の下限は好ましくは50質量部であり、より好ましくは30質量部であり、さらに好ましくは20質量部である。主鎖が加水分解性である樹脂バインダーの上限は10質量部であり、より好ましくは12質量部であり、さらに好ましくは15質量部である。主鎖が加水分解性である樹脂バインダーの下限は好ましくは1質量部であり、より好ましくは2質量部であり、さらに好ましくは3質量部である。溶剤、主鎖が加水分解性である樹脂バイダーの割合がこの範囲より少ないとうまく分散できない、焼成後の基材との密着性が悪くなる、などの不具合がある。これを超えると主鎖が加水分解性である樹脂バインダーが熱分解されにくくなり、導電性が発現しない、または電気抵抗が大きくなる、などの不具合がある。
【0019】
本発明で使用する導電性金属粉としては、加熱処理によって微粒子間が融着するものでも、融着しないものでもいずれも使用可能である。本発明で使用する導電性金属粉の金属の種類としては、銅、ニッケル、コバルト、銀、白金、金、モリブデン、チタン等が挙げられ、特に銅が好ましい。また、本発明における金属ナノ粒子は、金属、金属酸化物、金属錯体および金属合金のいずれか一種以上からなる金属粉を含有するものであり、銅粉、銅酸化物粉、銅錯体粉からなる群より選択されてなる少なくとも1種以上を含有する金属粉が特に好ましい。また、表面の一部または全部が金属、金属酸化物、金属錯体または金属合金で被覆された金属粉、異種の金属を積層した構造のもの、有機物あるいは無機物に金属めっきを施したものでもかまわない。これらの金属微粒子は、市販品を用いてもよいし、公知の方法を用いて調製することも可能である。
【0020】
本発明に用いられる導電性金属粉の平均粒径は5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下、特に好ましくは800nm以下である。
【0021】
導電性金属粉の平均粒径が5μmより大きいと、分散体での金属粒子の沈降を生じたり、微細回路の印刷適性が劣ったりする場合がある。平均粒径の下限は特に限定されないが、10nm以上であることが好ましい。10nm未満では導電性金属粉の経済性の制限や、安定な分散物を得るためには多量の分散媒を必要とするため、高導電性の金属薄膜を得ることが困難になる場合がある。本発明で用いる導電性金属粉は、異なる粒径の物を混合して使用してもかまわない。
【0022】
本発明の導電性ペーストに使用される主鎖が加水分解性である樹脂バインダーは、主鎖が加水分解性であるポリマーであれば特に制限されない。樹脂バインダーとして、主鎖が加水分解性である樹脂バインダーを用いることにより、導電性を向上させ、導電性を発現させる焼成温度を低下させる効果がある。好ましいポリマーとして、側鎖に塩基性基および主鎖にエステル結合を含有するポリマーと、側鎖に酸性基および主鎖にアミド結合を含有するポリマーを挙げることができる。
【0023】
本発明の導電性ペーストに使用される主鎖が加水分解性である樹脂バインダーが、塩基性基および主鎖にエステル結合を含有するポリマーである場合において、水の存在下でエステル結合が加水分解され易い。本発明の導電性ペーストの塗膜に過熱水蒸気処理を施せば、塩基性基および主鎖がエステル結合を有するポリマーは、塩基性基の触媒作用により主鎖のエステル結合が加水分解を受け、主鎖が開裂して低分子量化する。その結果、金属微粒子表面を覆っていた樹脂バインダーは表面から離脱し、金属微粒子表面が露出して、お互いに接触して融着し易くなることが期待される。具体的には、3級アミノ基を側鎖に有するポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルエーテル樹脂、ポリエステルアミド樹脂などが挙げられる。
【0024】
3級アミノ基を側鎖に有するポリエステルは、3級アミノ基含有ジオール、3級アミノ基含有カルボン酸、3級アミノ基含有カルボン酸エステルをモノマーとするものが挙げられる。具体的な原料には、N,N‘−ビス(カルボキシメチル)−2,6−ジメチルピペラジン、N−(2−カルボキシエチル)−N’−(カルボキシメチル)ピペラジン、N,N‘−ビス(カルボキシメチル)−メチルアミン、N,N’−ジメチル−N,N‘−ビス(カルボキシメチル)−エチレンジアミンなどのジカルボン酸類あるいたこれらの低級アルキルエステル、酸ハロゲン化物、N,N'-ビス(2−ヒドロキシプロピル)−2,5−ジメチルピペラジン、N,N'-ビス(ヒドロキシエチル)アミン、2−メチル-2-
(N,N‘−ジメチルアミノメチル)1,3−プロパンジオール、2−メチル-2-(N,N‘−ジイソプロピルアミノメチル)1,3−プロパンジオールなどのジオール類を挙げることができる。前記モノマーの他に、通常のポリエステルの重合で用いられている脂肪族および芳香族のジカルボンさん、あるいはその低級エステル、ジオール、オキシ酸などを併用できる。
【0025】
ポリエステルポリウレタンの重合に使用出来るジイソシアネート成分としてはイソシアネート基を分子中に2個含有する公知の脂肪族、脂環族または芳香族の有機ポリイソシアネートが包含される。具体的には例えば4,4′−ジフエニルメタンジイソシアネート、p−フエニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。とりわけ、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジフエニルメタンジイソシアネートもしくは2,4−トリレンジイソシアネートまたはそれらを主成分とする混合物が好ましい。
【0026】
本発明の導電性ペーストに使用される主鎖が加水分解性である樹脂バインダーが、側鎖に酸性基および主鎖にアミド結合を含有するポリマーである場合において、水の存在下でアミド結合が加水分解され易い。本発明の導電性ペーストの塗膜に過熱水蒸気処理を施せば、主鎖のアミド結合は酸性基の触媒作用によりアミド結合が加水分解を受け、主鎖が開裂して低分子量化する。その結果、金属微粒子表面を覆っていた樹脂バインダーは表面から離脱し、金属微粒子表面が露出して、お互いに接触して融着し易くなることが期待される。ポリマーとしてカルボキシル基を側鎖に有するポリアミド樹脂、ポリエステルアミド樹脂、ポリペプチドであるタンパク質(ゼラチンなど)などが挙げられる。具体的な例として、アルコール可溶性ナイロンであるメチロール化ナイロンにアクリル酸をグラフト重合したナイロン(トレジンFS−350E5AS、ナガセケムテックス)やアルカリ処理ゼラチンが挙げられる。アルカリ処理ゼラチンは、ゼラチンの製造工程中に、コラーゲン中の酸アマイドが加水分解され、アンモニアを遊離してカルボキシル基に変化するために、カルボン酸を含有している。
【0027】
樹脂バインダーとして、主鎖が加水分解性のポリマーに加えて、主鎖が加水分解しないか、または加水分解しにくいポリマーを配合することができる。主鎖が加水分解性の全樹脂バインダーに対する割合は、加水分解性の結合ユニットの種類やその含有量、過熱水蒸気による焼成温度や時間などに依存し、特に限定するものではない。しかし、樹脂バインダーが焼成時に大部分が分解した場合には、使用する導電性金属粉の種類によっては焼成後に基材との密着性が良くなかったり、焼成後に得られる導電層に亀裂が入ったりする場合がある。このため、主鎖が加水分解性であるポリマーの全樹脂バインダーに対する割合上限は、97重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは95重量%以下、特に好ましくは90重量%以下である。主鎖が加水分解性であるポリマーの全樹脂バインダーの割合が少なすぎると、焼成時に熱分解・体積収縮が小さくなり、導電性金属粉同士の接触状態が良くないので、導電性が発現しにくくなる。主鎖が加水分解性であるポリマーの好ましい配合割合は5重量%以上であり、さらに好ましくは10重量%以上であり、特に好ましくは20重量%以上である。
【0028】
本発明の導電性ペーストに使用される溶媒は、バインダー樹脂を溶解するものから選ばれ、有機化合物であっても水であってもよい。溶媒は、分散体中で金属微粒子を分散させる役割に加えて、分散体の粘度を調整する役割がある。溶媒として好適に用いられる有機溶媒の例として、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、アミド等が挙げられる。
【0029】
本発明の導電性ペーストには、必要に応じ、硬化剤を配合しても良い。本発明に使用できる硬化剤としてはフェノール樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。硬化剤の使用量はバインダー樹脂の1〜100重量%の範囲が好ましい。
【0030】
本発明の導電性ペーストで導電性金属粉に銅粉等の空気中で酸化されやすい金属粉を使用する場合、還元剤を含有させてもかまわない。本発明において、還元剤とは金属の酸化物、水酸化物、または塩等の金属化合物から金属に還元する能力を有するものを言う。還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、ヒドラジン、ホルマリンやアセトアルデヒド等のアルデヒド、亜硫酸塩、蟻酸、蓚酸、コハク酸、アスコルビン酸等のカルボン酸あるいはラクトン、エタノール、ブタノール、オクタノール等の脂肪族モノアルコール、ターピネオール等の脂環族モノアルコール、等のモノアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の脂肪族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル、ジエタノールアミンやモノエタノールアミン等のアルカノールアミン、ハイドロキノン、レゾルシノール、アミノフェノール、ブドウ糖、あるいはクエン酸ナトリウム等が挙げられる。還元剤あるいは還元剤分解物の金属薄膜への残留は、得られた金属薄膜の特性の悪化を生じさせることがある。そのため、還元剤は過熱水蒸気処理により蒸発揮散するものが望ましい。このため、還元剤を本発明の導電性ペーストに配合する場合には、アルコール類や多価アルコール類を用いることが特に望ましい。還元剤の具体的な好ましい例としては、ターピネオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、アスコルビン酸、レゾルシノールを挙げることができる。
【0031】
導電性金属粉をペースト中に分散させる方法としては、粉体を液体に分散させる一般的な方法を用いることができる。例えば、導電性金属粉とバインダー樹脂溶液、必要により追加の溶媒からなる混合物を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、ボールミル法等で分散を施せばよい。これらの分散手段のうち、複数を組み合わせて分散を行うことも可能である。これらの分散処理は室温で行ってもよく、分散体の粘度を下げるために、加熱して行ってもよい。必要により使用する還元剤は導電性金属粉の分散前、分散中、分散後の任意の段階で添加しても良い。
【0032】
本発明の導電性ペーストから塗膜を形成するには、分散体を絶縁性基材に塗布あるいは印刷する場合に用いられる一般的な方法を用いることができる。例えばスクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、ロールコート法、ダイコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法等の方法によって導電性ペーストを塗布または印刷し、次いで風乾、加熱あるいは減圧等により分散媒の少なくとも一部を蒸発させることにより、塗膜を形成することができる。塗膜は絶縁性基材上に全面に設けられたものでも部分的に設けられたものでもよく、また導電回路等のパターン形成物でもかまわない。
【0033】
本発明の金属薄膜の厚みは、電気抵抗や接着性等の必要特性にあわせて適宜設定することができ、特に限定されない。分散体組成や塗布または印刷の方法により、形成可能な導電性薄膜の厚みの範囲は異なるが、0.05〜40μmが好ましく、より好ましくは0.1〜20μm、さらに好ましくは0.2〜10μmである。厚い金属薄膜を得るためには塗膜を厚くする必要があり、溶剤の残留による弊害や塗膜形成速度を低速化する必要が生じる等の経済性の悪化が起こりやすい。一方、塗膜が薄すぎると、ピンホールの発生が顕著になる傾向がある。
【0034】
本発明の導電性薄膜の形成に際し、重ね刷りや多層印刷を行なうことが可能である。ここで、重ね刷りとは、同じパターンを多数回重ねて印刷することを指し、これにより導電性薄膜の厚さを増すことができ、あるいはアスペクト比(膜厚と線幅の比)の高い導電性薄膜を得ることができる。また、多層印刷とは、異なるパターンを重ねて印刷することを指し、これにより層ごとに異なる機能を発揮させることができる。部分的に重ね刷りおよび/または多層印刷を行なうこと、また重ね刷りと多層印刷を複合的に行うことも差し支えない。また、本発明の導電性薄膜とは異なる薄膜、例えば絶縁層との多層印刷を行うことも可能である。
【0035】
本発明の導電性ペーストを用いて塗膜を形成し、次いで該塗膜により過熱水蒸気による過熱処理を行うことにより、金属薄膜を製造することができる。過熱水蒸気とは100℃の飽和水蒸気の気体に二次的なエネルギーを加えることによって例えば数百℃のエネルギーを得た高温蒸気のことである。過熱水蒸気は高温空気と比べて約4倍の熱容量を持っており、過熱水蒸気を用いて加熱すると短時間で物質を加熱することが知られている。
本発明の導電性ペーストを用いて形成された塗膜は、乾燥処理を施した後、過熱水蒸気による焼成を行うことが好ましい。好ましい乾燥温度は60℃〜120℃で、乾燥時間は3分〜20分である。乾燥処理と過熱水蒸気による焼成は連続して行っても、他の工程を介して行ってもよい。塗布後、乾燥工程無しで、過熱水蒸気による焼成を行うと突沸が起こりやすく好ましくない。乾燥処理と過熱水蒸気処理は連続して行っても、間に他の処理を挟んでもよい。乾燥処理と過熱水蒸気処理の間に挟む処理としては、例えば塗膜に還元剤を付与する処理を挙げることができる。この場合、塗膜には予め還元剤が含有されていてもされていなくてもよく、含有されている場合には同種のもの、異種のものおよび同種のものと異種のものの混合物のいずれとすることも可能である。塗膜に還元剤を付与する処理により、塗膜の体積低効率の低下、過熱処理時間の短縮、といった効果が発揮される場合がある。
【0036】
過熱水蒸気にメタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールを含有させると、導電性の向上が見られる場合がある。アルコール化合物を含有する過熱水蒸気を作る方法は、水にアルコール化合物を溶解させた溶液の飽和蒸気を加熱する方法、アルコール化合物と水、夫々の飽和蒸気を混合加熱する方法が挙げられる。過熱水蒸気中のアルコール化合物の含有率は化合物の種類により最適範囲は異なるが、0.01〜20重量%の範囲で用いる。アルコール化合物の含有率が0.01重量%未満では導電性改善効果が見られず、20重量%を超えるとバインダー樹脂の溶解や分解が顕著に起こることがある。好ましい範囲は0.1〜5重量%である。
【0037】
本発明で用いる過熱水蒸気の温度は150℃以上、特に200℃以上が好ましく、温度の上限は用いる絶縁性基材やバインダー樹脂の耐熱特性等から決まるが、400℃以下が好ましい。加熱時間も被処理物の量や特性から選ばれるが、10秒〜30分間が好ましい。過熱水蒸気の温度が低すぎると、低比抵抗の導電層を得ることができない。過熱水蒸気の温度が高すぎると、バインダー樹脂の大半または全てが除去され、導電性薄膜と絶縁性基材の密着性が損なわれることがあり、また、絶縁性基材の劣化が生じる場合があり、特に有機材料からなる絶縁性基材を用いる場合には注意が必要である。
【0038】
本発明の導電性ペーストで導電性金属粉に銅粉を使用する場合、銅粉表面は空気中で酸化されやすいので、薄膜層には、防錆処理が施すことができる。好ましい防錆処理方法としては、導電性薄膜層の表面に銅に対して吸着能力のある有機化合物あるいは無機化合物の吸着層を設ける方法を挙げることができる。ここで、導電性薄膜層に含まれる導電性金属粉が相互に融着していない導電性金属粉を含有する場合には、前記吸着層は個々の導電性金属粉の表面に形成されることが好ましい。また別の好ましい防錆処理方法としては、防水性のある絶縁樹脂層を導電性薄膜層上に設ける方法を挙げることができる。導電性薄膜層の表面に有機化合物あるいは無機化合物の吸着層を設け、さらに絶縁樹脂層で被覆する方法は、本発明の好ましい実施態様の一例である。
【0039】
本発明における導電性薄膜層の表面に吸着層を形成できる有機化合物あるいは無機化合物(以下、表面処理剤と称する場合がある)としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、テトラゾール等の含窒素複素環化合物、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、チオフェノール、トリアジンジチオール等の含硫黄化合物、オクチルアミン、イソブチルアミン等のアミノ化合物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロメート処理剤等が挙げられる。表面処理剤を溶解した処理剤に導電性薄膜を浸漬する、あるいは処理剤を導電性薄膜に塗布することで、吸着層の形成がなされる。表面処理剤層の厚みが増すと導電性の低下や接着加工性の悪化を起こす場合があるので、表面処理層の厚みは0.05μm以下の薄層とすることが望ましい。表面処理剤層を薄層にする方法としては、処理液の濃度を下げる、表面処理剤を溶解する溶剤で余分の表面処理剤を除去する等が挙げられる。
【0040】
本発明における導電性薄膜層上に設ける防水性のある絶縁樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ブチラール樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の一種以上で銅薄膜層を被覆することにより防錆効果が発揮できる。防水性のある絶縁樹脂で導電性薄膜層を被覆する方法は特に限定されないが、樹脂溶液を銅薄膜層に塗布または印刷し次いで溶媒を揮散させる方法、樹脂フィルムに接着剤を塗布して導電性薄膜層に貼り合わせる方法を、好ましい方法として例示することができる。接着剤付きのポリイミドフィルムあるいはポリエステルフィルムを貼り合わせることは、特に好ましい実施態様の例である。絶縁樹脂層の厚みは1〜30μmが望ましい。
【実施例】
【0041】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
【0042】
1.固有粘度の測定方法
ポリマーの希薄トルエン溶液(濃度範囲1〜10g/L)の還元粘度をウベローデ型粘度計を用いて測定し、濃度ゼロとなるように外挿することにより求めた。
2.分子量の測定方法
GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)によりポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
3.電気抵抗率(比抵抗)の測定方法
電気抵抗率は、低抵抗率計(商品名:ロレスタ−CP、三菱化学製)および四探針プローブ(NSCPプローブ)を用いた四端子法で測定した。
4.密着性の評価方法
ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)「CT405AP−15」の1cm幅のものを使用し、金属薄膜面にその接着テープを5cm長貼り付け、剥がした際に金属薄膜面が損傷を受けているかどうか、目視観察により判断した。金属薄膜に剥がれ、浮き、亀裂等の何らかの損傷が認められた場合には×、損傷が認められなかった場合には○と判定した。
【0043】
実施例1
下記の配合割合の組成物を、撹拌機を付けた4つ口フラスコに入れて撹拌・加熱を行い、常法に従い、ポリエステル1を得た。
テレフタル酸ジメチル 50部
セバシン酸ジメチル 30部
2−メチル-2-(N,N‘−ジメチルアミノメチル)1,3−プロパンジオール 20部
ネオペンチルグリコール 45部
得られたポリエステル1の組成は、テレフタル酸/セバシン酸ジメチル/2−メチル-2-(N,N‘−ジメチルアミノメチル)1,3−プロパンジオール/ネオペンチルグリコール=65/35//25/75(モル比)で、固有粘度は0.7であった。
【0044】
下記の配合割合の組成物を、撹拌機を付けた4つ口フラスコに入れて撹拌・加熱を行い、常法に従い、ポリエステル2を得た。
テレフタル酸ジメチル 50部
2−メチル-2-(N,N‘−ジメチルアミノメチル)1,3−プロパンジオールイソフタル酸ジメチル 38部
得られたポリエステル2の組成は、テレフタル酸/2−メチル-2-(N,N‘−ジメチルアミノメチル)1,3−プロパンジオール=50/50(モル比)で、固有粘度は0.6であった。
【0045】
下記の配合割合の組成物を、撹拌機を付けた4つ口フラスコに入れて撹拌・加熱を行い、常法に従い、ポリエステル3を得た。
テレフタル酸ジメチル 50部
イソフタル酸ジメチル 20部
セバシン酸ジメチル 30部
ネオペンチルグリコール 45部
エチレングリコール 55部
得られたポリエステル3の組成は、テレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=50/20/30//70/30(モル比)で、数平均分子量15000であった。
【0046】
下記割合の組成物を3本ロールミルで分散し、分散ペースト1を得た。さらに、スクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体1Aを得た。
ポリエステル1の35重量%n-ブチルカルビトールアセテート溶液 2.5部
銅微粒子(RCA−16、DOWAエレクトロニクス株式会社製、平均粒径0.8μm) 20部
エチルカルビトールアセテート 4部
【0047】
実施例2
下記割合の組成物を3本ロールミルで分散し、分散ペースト1を得た。さらに、スクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体2Aを得た。
ポリエステル2の35重量%n-ブチルカルビトールアセテート溶液 0.8部
ポリエステル3の35重量%n-ブチルカルビトールアセテート溶液 1.7部
銅微粒子(RCA−16、DOWAエレクトロニクス株式会社製、平均粒径0.8μm) 20部
エチルカルビトールアセテート 4部
【0048】
実施例3
下記割合の組成物を3本ロールミルで分散し、分散ペースト2を得た。さらに、スクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体3Aを得た。
ポリアミド1の水溶液 2.5部
(トレジンFS−350E5AS、メチロール化ナイロンのポリアクリル酸グラフト化物35重量%n-ブチルカルビトールアセテート溶液)
銅微粒子(RCA−16、DOWAエレクトロニクス株式会社製、平均粒径0.8μm) 20部
エチルカルビトールアセテート 4部
【0049】
実施例4
下記割合の組成物を3本ロールミルで分散し、分散ペースト3を得た。さらに、スクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体4Aを得た。
アルカリ処理ゼラチンの35重量%n-ブチルカルビトールアセテート溶液 2.5部
銅微粒子(RCA−16、DOWAエレクトロニクス株式会社製、平均粒径0.8μm) 20部
エチルカルビトールアセテート 4部
【0050】
比較例1
実施例1記載のポリエステル1溶液を、ポリエステル3溶液にして分散し、分散ペースト4を得た。さらにスクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体5Aを得た。
【0051】
比較例2
実施例3記載のポリアミド1をポリアミド2(トレジンF−30K、メチロール化ナイロンの30重量%n-ブチルカルビトールアセテート溶液)にして分散ペーストを作製し、分散ペースト5を得た。さらにスクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体6Aを得た。
【0052】
続いて、金属薄膜積層体1A〜6Aのそれぞれ5枚の試料について150、180、200、230、250℃で10分間の過熱水蒸気による焼成処理を行い、焼成温度の異なる5種の金属薄膜積層体1B〜6Bを得た。過熱水蒸気の発生装置として蒸気過熱装置(第一高周波工業株式会社製「DHF Super-Hi 10」)を用い、10kg/時間の過熱水蒸気を供給する熱処理炉で行った。焼成温度の増加とともに金属薄膜積層体の比抵抗は減少する。金属薄膜積層体1B〜6Bについて、各処理温度での比抵抗をプロットし、比抵抗50μ(Ω×cm)を発現し始める温度(導電性発現焼成温度)および接着力を評価した。評価結果を表1に示した。
【0053】
【表1】