(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るガソリン内燃機関(以下、単に「エンジン」という)の概略構成を示している。エンジン1には、吸気を各気筒に導く吸気通路2と、各気筒からの排気を排出する排気通路3とが接続されている。また、燃料噴射インジェクタ4、点火プラグ5等を備えている。
【0013】
エンジン1の吸気通路2には、上流側から順に、エアクリーナ6、上流側吸気温度センサ7、エンジン1の出力により駆動され吸気を過給する機械式過給機8、機械式過給機8の上流側と下流側とを連通するバイパス通路9、バイパス通路9を開閉するバイパスバルブ10、スロットルバルブ12、吸気を冷却するインタークーラ13等が配設されている。エンジン1の排気通路3には、上流側から順に、O
2センサ14、三元触媒15等が配設されている。
【0014】
スロットルバルブ12は、いわゆる電子制御スロットルであり、後述するアクセルペダル開度センサ22により検出するアクセルペダル開度に応じて開閉する。
【0015】
機械式過給機8は、エンジン1のクランクシャフトから、クランクシャフトプーリ、補機ベルト30、及び過給機プーリを介して出力が伝達されて駆動する。この動力伝達経路中にクラッチ機構は存在しないので、エンジン1が回転している間は機械式過給機8も回転する。
【0016】
バイパスバルブ10は、機械式過給機8の過給圧をコントロールするバルブであり、例えば、過給圧が所定の上限圧に達した場合や、過給をしない運転状態の場合に開弁する。バイパスバルブ10を開弁すると、バイパス通路9を通り吸気通路2の機械式過給機8の下流側から上流側へ過給された吸気が還流する。したがって、バイパスバルブ10が開弁した後は、過給圧が上昇しない又は低下することとなる。なお、バイパスバルブ10は、サーボモータにより弁体を回転駆動するロータリ式のバルブであり、電源OFFの状態では開弁状態となる。
【0017】
ECM(Engine Control Module)16は、エンジン1の各種制御を実施する。ECM16には、スロットル開度センサ17、外気温センサ18、燃料温度センサ19、クランク角センサ20等からの検出信号が入力される。
【0018】
ECM16は、各種センサからの検出信号等に基づき種々の制御プログラムを実行することで、エンジン1の運転状態に応じて点火プラグ5への放電時期(点火時期)、燃料噴射インジェクタ4の燃料噴射量、燃料噴射時期等を制御したり、スロットルバルブ12、バイパスバルブ10の開度を制御したりする。
【0019】
なお、エンジン1は多気筒内燃機関であり、本実施形態では直列4気筒エンジンとする。また、エンジン1は後述するハイブリッド車両(Hybrid Electric Vehicle)に搭載される。
【0020】
図2は、本実施形態を適用する車両のパワートレインを示す図である。この
図2では、特に、車両の走行源としてエンジン1及び電動機(モータージェネレーター)33を使用するハイブリッド車両を例示する。
【0021】
図2に示されたハイブリッド車両(以下、単に「車両」ともいう)100のパワートレインは、エンジン1と、無段変速機(Continuously Variable Transmission;以下適宜「CVT」と称す)31と、電動機33と、を含む。またコントローラーとして、HCM34と、ECM16と、MC35と、CVTCU36と、を含む。
【0022】
エンジン1には、補機として、機械式過給機8、エアコンコンプレッサ37などが設けられる。機械式過給機8、エアコンコンプレッサ37はそれぞれ回転軸にプーリを備え、各プーリとクランクシャフト1aに設けられたクランクシャフトプーリとには補機ベルト30が掛け回されている。またクランクシャフト1aをクランキングするためのスターター38が設けられる。
【0023】
CVT31は、
図2では、ベルトCVTが例示される。なお本実施形態では、変速機の一例としてベルトCVTが挙げられるが、トロイダルCVTや有段変速機であってもよい。
【0024】
電動機33は、エンジン1及びCVT31の間に配置される。電動機33は、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転をCVT31の入力軸31aへ伝達する軸32に結合される。電動機33は、車両100の運転状態に応じてモーターとして作用するとともにジェネレーター(発電機)としても作用する。
【0025】
HCM(Hybrid Control Module)34は、目標トルク、目標回転数、変速中目標駆動トルクなどを演算し、信号を、ECM16、MC35、CVTCU36に出力する統合コントローラーである。また、HCM34には、ECM16等から受信する各種信号の他、アクセルペダル開度センサ22や車速センサ23の検出信号、イグニッションスイッチ24からの信号、バッテリー電圧21等が読み込まれる。
【0026】
ECM16は、HCMから受信した目標トルク信号に基づいて、目標トルクを実現できるように、エンジン1を制御する。またECMは、エンジン回転推定トルクを演算し、信号をHCMに出力する。
【0027】
MC(Motor Controller)35は、HCM34から受信した目標回転数信号に基づいて、目標回転数を実現できるように、電動機33の回転数をフィードバック制御する。またMC35は、モーター回転推定トルクを演算し、信号をHCM34に出力する。
【0028】
CVTCU(Continuously Variable Transmission Control Unit)36は、HCM34から受信した目標駆動トルク信号に基づいて、目標駆動トルクを実現できるように、変速種類毎の回転制御フラグを設定し、目標駆動トルク相当の油圧を演算し、また変速進行バックアップ信号を設定する。これらに基づいて、CVTCU36は、HCM34から指令された目標トルクを実現できるように、CVT31を制御する。またCVTCU36は、出力軸回転数、プーリ比を演算し、これらの信号や回転数制御許可フラグ信号をHCM34に出力する。
【0029】
エンジン1及び電動機33の間、より詳しくは、クランクシャフト1aと軸32との間には、第1クラッチCL1が介挿される。第1クラッチCL1は、伝達トルク容量を連続的又は段階的に変更可能である。このようなクラッチとしては、たとえば、比例ソレノイドでクラッチ作動油の流量及び油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチがある。伝達トルク容量がゼロになった状態が、第1クラッチCL1が完全に切り離された状態であり、エンジン1及び電動機33の間が完全に切り離された状態である。
【0030】
第1クラッチCL1が完全に切り離されると、エンジン1の出力トルクは駆動輪に伝わらず、電動機33の出力トルクだけが駆動輪に伝わる。この状態で走行するモードが電気走行モード(EVモード)である。一方、第1クラッチCL1が接続されると、エンジン1の出力トルクも、電動機33の出力トルクとともに、駆動輪に伝わる。この状態で走行するモードがハイブリッド走行モード(HEVモード)である。このように第1クラッチCL1の断続によって走行モードが切り替えられる。
【0031】
なお、第1クラッチCL1は、上述した湿式のものに限られるわけではなく、乾式のクラッチを採用してもよい。
【0032】
電動機33及びCVT31の間、より詳しくは、軸32とトランスミッション入力軸31aとの間には、第2クラッチCL2が介挿される。なお第2クラッチCL2とCVT31とをひとつのユニットにしても別々にしてもよい。第2クラッチCL2も第1クラッチCL1と同様に、伝達トルク容量を連続的又は段階的に変更可能である。このようなクラッチとしては、たとえば、比例ソレノイドでクラッチ作動油の流量及び油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチがある。伝達トルク容量がゼロになった状態が、第2クラッチCL2が完全に切り離された状態であり、電動機33及びCVT31の間が完全に切り離された状態である。エンジン1を始動するときには、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を小さくしてスリップ制御する。するとエンジン1を始動するときのショックが駆動輪に伝わりにくくなる。
【0033】
車両100には、電動機33のみによって電気走行するEVモードと、エンジン1及び電動機33によってハイブリッド走行するHEVモードとがある。
【0034】
電動機33のみでは駆動力が不足する場合や、バッテリー充電率SOC(State Of Charge)が低下した場合に、ハイブリッド走行モード(HEVモード)が選択される。ハイブリッド走行モード(HEVモード)では、エンジン1が始動され、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2がともに締結され、CVT31が動力伝達状態にされる。この状態では、エンジン1からの出力回転及び電動機33からの出力回転がトランスミッション入力軸31aに達する。CVT31は、入力軸31aから入力した回転を選択中のシフト段に応じ変速して、トランスミッション出力軸31bから出力する。トランスミッション出力軸31bから出力された回転は、駆動輪に至る。このようにして、車両100は、エンジン1及び電動機33によってハイブリッド走行(HEVモード走行)する。またエンジン1が最適燃費で運転され、余剰なエネルギーが電動機33を作動させて、余剰エネルギーが電力に変換されて蓄電される。このようにすることで、燃費が向上する。
【0035】
電動機33のみで走行可能なときは、エンジン1を停止して電動機33のみで電気走行モード(EVモード)で走行する。電気走行モード(EVモード)では、エンジン1からの動力が不要であるので、エンジン1が運転されない。そして、第1クラッチCL1が解放される。また第2クラッチCL2が締結される。さらにCVT31が動力伝達状態にされる。この状態で電動機33が駆動されると、電動機33からの出力回転のみがトランスミッション入力軸31aに達する。CVT31は、入力軸31aから入力した回転を選択中のシフト段に応じ変速して、トランスミッション出力軸31bから出力する。トランスミッション出力軸31bから出力された回転は、駆動輪に至る。このようにして、車両100は、電動機33のみによって電気走行(EVモード走行)する。車両100は、頻繁にエンジン1を停止することで、燃費を向上させている。
【0036】
なお、HCM34、ECM16、MC35、CVTCU36は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。また、HCM34等を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0037】
上述したHEVモードにおいて、例えば加速時には、バイパスバルブ10を閉じて機械式過給機8による過給を行なう。そして、加速が終了したら、バイパスバルブ10を開弁して過給を終了する。
【0038】
上述したように、エンジン1が回転しているかぎり機械式過給機8も回転するが、バイパスバルブ10が開弁することで過給圧の上昇は抑えられる。しかし、バイパスバルブ10が何らかの原因により開かなくなると(以下、このような状態を閉固着という)、例えばアイドル運転状態のような低回転・低負荷領域でも過給が行われることとなる。
【0039】
そして、発明者らによれば、アイドル運転状態のような低回転・低負荷領域において、機械式過給機8が稼働したままバイパスバルブ10が閉固着すると、吸気通路周辺部品の耐熱環境を悪化させる程度に吸気温度が上昇することが見出された。吸気温度上昇のメカニズムは、次のように考えられる。
【0040】
アイドル運転状態のような低回転・低負荷領域では、スロットルバルブ12の開度は小開度に設定される。この状態でバイパスバルブ10が閉固着すると、エンジン1への吸気流入が制限されているため、機械式過給機8で圧縮されて温度上昇した吸気の一部がバイパスバルブ10と周辺の吸気通路壁との僅かな隙間を通って機械式過給機8より上流側に還流する。還流した高温の吸気が新たに外部から流入した空気(以下、新気ともいう)と合流することで機械式過給機8の入口側吸気温度が上昇すると、出口側吸気温度も上昇することとなる。これを繰り返すことで吸気温度は上昇し続け、やがて吸気通路周辺部品の耐熱環境を悪化させる程度の温度に達する。
【0041】
なお、一般的には機械式過給機8からスロットルバルブ12までの吸気通路2の圧力が設定値以上にならないようにリリーフバルブを設ける。しかし、このリリーフバルブは過給圧の過剰な上昇を抑制するためのものであり、機械式過給機8が通常のような低回転速度で稼働する程度の過給圧では開弁しない。
【0042】
そこで、上述したバイパスバルブ10が閉固着した場合の吸気温度上昇を抑制するため、ECM16は以下に説明する制御を実行する。
【0043】
図3は、バイパスバルブ閉固着時における吸気温度上昇を抑制するためにECM16が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンは、例えば10ミリ秒程度の短い間隔で繰り返し実行される。
【0044】
ステップS10で、ECM16は、バイパスバルブ10の閉固着を検知したか否かを判定し、閉固着している場合はステップS20の処理を実行し、閉固着していない場合はそのまま本ルーチンを終了する。
【0045】
閉固着しているか否かは、次の2つの条件が成立したら閉固着していると判定し、いずれか一方でも成立しなければ閉固着していないと判定する。
【0046】
第1の条件は、別途実行されているバイパスバルブ10を駆動するサーボモータの制御系診断にて異常が検出されたことである。サーボモータの制御系診断は公知のものを適用すればよく、例えば、開度指令値と実開度との乖離等に基づいて診断する。
【0047】
第2の条件は、サーボモータ用のリレーをOFFにすることでバイパスバルブ10への電力供給を停止したときに、実バイパスバルブ開度が変化しないことである。バイパスバルブ10は電源OFFにすると開弁状態になるはずなので、電源をOFFにしても開弁状態にならない場合には閉固着していると考えられる。
【0048】
上記の診断によりバイパスバルブ10の閉固着を検知したら、ECM16はステップS20で閉固着時用のスロットルバルブ開度制御を実行する。閉固着時用のスロットルバルブ開度制御は、所定開度以上の目標スロットルバルブ開度を設定し、この目標スロットルバルブ開度に基づいてスロットルバルブ12を動かすものである。ここでいう所定開度とは、バイパスバルブ10が正常な場合に機関回転速度及び機関負荷といった運転状態に基づいて設定されるスロットルバルブ開度よりも大きな開度である。例えばアクセルペダル開度ゼロでの減速時には、本来であれば目標スロットルバルブ開度としてアイドル回転速度を維持し得る開度が設定されるが、それよりも大きなスロットルバルブ開度を設定する。本実施形態では、アイドル回転速度を1000rpmとし、閉固着時には機関回転速度が1200rpmとなるようなスロットルバルブ開度を目標スロットルバルブ開度として設定する。具体的な目標スロットルバルブ開度の数値は、本実施形態を適用するシステム毎に適合により設定する。
【0049】
上記のようにスロットルバルブ開度を増大させると、スロットルバルブ12を通過して内燃機関1に供給される吸気量が増加し、バイパスバルブ10を介して還流する吸気量が減少する。これにより、機械式過給機8の入口側吸気温度の上昇が抑制され、その結果、機械式過給機8の出口側吸気温度の上昇が抑制される。
【0050】
ステップS30で、ECM16は、後述する閉固着時用の燃料カット制御を実行する。これは、ステップS20の実行による機関回転速度の上昇を抑制するためである。すなわち、スロットルバルブ開度の増大によりエンジン1の吸気量が増加するので、燃料噴射を続けると発生トルクが増大して機関回転速度が上昇し、これに伴い機械式過給機8の回転速度も上昇して過給圧が高まり、還流する吸気量が増加してしまうからである。
【0051】
以上説明したように、バイパスバルブ10が閉固着した場合には、ECM16はスロットルバルブ12の開度を、通常運転時に当該運転条件に基づいて設定する開度よりも大きくし、スロットルバルブ開度の増大に伴う機関回転速度上昇を、燃料カット制御により抑制する。これにより、バイパスバルブ10を介して機械式過給機8の入口側へ還流する吸気量を低減して、機械式過給機8の下流側吸気温度の上昇を抑制でき、結果的に吸気通路周辺部品の耐熱環境の悪化を抑制できる。
【0052】
なお、ステップS10でバイパスバルブ10の閉固着を検出したら、閉固着フラグを立てる。閉固着フラグは、当該トリップが終了したら、つまりイグニッションスイッチがOFFになったらクリアする。
【0053】
また、ステップS20で設定する目標スロットルバルブ開度を、スロットルバルブ12周辺のデポジット堆積量が多いほど大きくなるよう補正してもよい。一般的な電子制御スロットルでは、デポジットの堆積により実質的なスロットル開口面積が減少したら、アイドル回転速度を維持するためにアイドル運転時のスロットルバルブ開度を補正により大きくする。これと同様に、バイパスバルブ閉固着時の目標スロットルバルブ開度もデポジットの堆積量に応じて補正することで、バイパスバルブ閉固着時の吸気温度の上昇を抑制できる。
【0054】
また、ステップS20で設定する目標スロットルバルブ開度を、新気の温度が高いほど、つまり上流側吸気温度センサ7で検出する温度が高いほど大きくなるよう補正してもよい。新気の温度が高いほど、還流した吸気と混合した場合の温度が高くなり、バイパスバルブ閉固着時に吸気温度が上昇しやすくなるが、新気の温度に応じてスロットルバルブ12の開度を補正して大きくすることで、還流量を低減して吸気温度の上昇を抑制できる。なお、上流側吸気温度センサ7は一般的なエンジンにおいても装備されているものなので、上記補正のために新たにセンサを設ける必要はない。
【0055】
次に、閉固着時用の燃料カット制御の詳細について説明する。
【0056】
エンジン1は上述したように直列4気筒エンジンであり、燃料カット制御の形態としては、全気筒への燃料供給を停止する全気筒カットと、2気筒への燃料供給を再開する部分気筒カットと、がある。そして、ECM16は車速が後述する所定車速以上の間は、機関回転速度を目標回転速度に一致させるように、燃料噴射、全気筒カット、及び部分気筒カットを切り換えて実行する。目標回転速度は、燃料噴射を再開すればエンジン1が運転を再開することができ、また、機械式過給機8の出口側吸気温度の上昇を抑制し得る回転速度であり、本実施形態では1200rpmとする。
【0057】
すなわち、バイパスバルブ10の閉固着を検知し、スロットルバルブ12の開度を増大させたら、全気筒カットを実行する。そして機関回転速度が第1閾値(例えば1200rpm)を下回ったら、機関回転速度の低下を抑制するため、部分気筒カットへ切り換える。部分気筒カットへ移行した後も機関回転速度が低下して第2閾値(例えば1000rpm)を下回ったら、全気筒への燃料噴射を再開する。燃料噴射の再開により機関回転速度が第2閾値を超えたら部分気筒カットを実行し、第1閾値を超えたら全気筒カットへ移行する。
【0058】
そして、CVT31がドライブレンジのまま車速が所定車速以下になったら、機関回転速度にかかわらず全気筒カットを実行し、エンジン1を停止させる。所定車速は、例えば、エンジン停止に伴いブレーキブースタ用の負圧がなくなり、パワーステアリングやスタビリティコントロールシステム等が停止しても、支障なく停車できる車速とする。
【0059】
上記のように、所定車速以上では減速中にエンジン1が停止しないように所定回転速度を維持することにより、ブレーキブースタ用の負圧が確保され、また、エンジン停止に伴うパワーステアリングやスタビリティコントロールシステム等の停止を回避できる。これにより、車両100が減速する間、バイパスバルブが正常に作動する状態と同様の操作性を維持することができる。そして、所定車速まで減速したらエンジン1を停止するので、バイパスバルブ10が閉固着していない場合と同様の操作性を維持したまま車両100を停車させることができる。
【0060】
ところで、機械式過給機8がクラッチ機構を有さずにエンジン1から常に動力伝達され、スロットルバルブ12が機械式過給機8及びバイパスバルブ10より下流側に配置される構成では、バイパスバルブ10が閉固着すると、運転者の意図に沿ったトルク制御は困難になる。バイパスバルブ10による過給圧コントロールが不能であり、スロットルバルブ12を閉じれば上述したように吸気温度が上昇してしまうからである。また、バイパスバルブ閉固着時用の燃料カット制御を実行すると、機関回転速度の変動に伴うトルク変動(トルクハンチング)が生じるので、走行は困難になる。
【0061】
したがって、本実施形態では、バイパスバルブ10の閉固着を検知したら速やかに車両100を停車させることとする。すなわち、
図3の制御ルーチンはバイパスバルブ10の閉固着を検知してから車両100が停車するまでの制御である。
【0062】
なお、
図3において、ステップS20とステップS30とを同時に実行するようにしてもよい。また、本実施形態は直列4気筒エンジンなので、部分気筒カットでは2気筒の燃料供給を停止するが、例えばV型6気筒エンジンであれば、部分気筒カットは片バンクの3気筒の燃料供給を停止することになる。
【0063】
次に、上記制御を実行した場合について、タイミングチャートを用いて説明する。
【0064】
図4は、例えば80km/h、2000rpmで、バイパスバルブ10を閉じて過給しながら走行している状態から、アクセルペダル開度をゼロにして減速する際にバイパスバルブ10が閉固着した場合のタイミングチャートである。
【0065】
タイミングT1でアクセルペダル開度が減少し始めると、これに応じてスロットルバルブ12の開度も減少し始め、目標バイパスバルブ開度(図中の一点鎖線)は増大する。しかし、バイパスバルブ10が閉固着しているため、実バイパスバルブ開度(図中の実線)は閉じた状態から変化しない。
【0066】
このため、タイミングT2でバイパスバルブ10を駆動するサーボモータの制御系診断にて異常が検出される。そして、バイパスバルブ10への電力供給を停止しても実バイパスバルブ開度が変化しないことから、タイミングT3でバイパスバルブ10が閉固着していると判定され、スロットルバルブ12が上述した所定開度に制御され、燃料カット制御(全気筒カット)が開始される。
【0067】
その後、車速が上述した所定車速(図中のENG停止車速)以上であるタイミングT3からタイミングT4の間は、上述したバイパスバルブ閉固着時用の燃料カット制御が実行される。すなわち、全気筒カットのまま機関回転速度が第1閾値(例えば1200rpm)まで低下したら部分気筒カットへ移行し、それでも機関回転速度が第2閾値(例えば1000rpm)まで低下したら全気筒への燃料噴射を再開する。そして、機関回転速度が第2閾値まで上昇したら再び部分気筒カットを開始し、そのまま機関回転速度が第1閾値まで上昇したら全気筒カットへ移行する。
【0068】
なお、全気筒カットから部分気筒カットへ移行する際や、燃料噴射を再開する際には、当該タイミングにおけるクランク角度に応じて燃料を噴射してから燃焼開始するまでに遅れが生じ、さらに、エンジン1のクランクシャフト1aの回転には慣性力が作用している。このため、燃料カットする気筒数が変化してから機関回転速度が変化するまでには、クランク角度や慣性力に応じた遅れが生じる。
【0069】
タイミングT4で車速がENG停止車速に達したら、機関回転速度にかかわらず全気筒カットとする。これにより、その後エンジン1が停止する。
【0070】
ところで、スロットルバルブ開度をバイパスバルブ閉固着時用の所定開度に設定し、バイパスバルブ閉固着時用の燃料カット制御を実行すると、上述したようにトルクハンチングの発生等により走行は困難になるので、エンジン再始動を禁止してもよい。しかし、エンジン1が運転していればエアコンを作動させて車室内の温度を制御することができるので、例えば寒冷地で停車した場合に、レッカー車等が到着するまで車室内で待機することができる。そこで、本実施形態では、エンジン1とCVT31との間が動力非伝達状態(パーキングレンジまたはニュートラルレンジ)であれば、エンジン1の再始動及び機関運転の継続を許可するものとする。
【0071】
したがって、タイミングT5でCVT31がニュートラルレンジであることを示すニュートラルスイッチがONになり、タイミングT6でイグニッションスイッチがOFFになった後、タイミングT7でイグニッションスイッチがONになったら、エンジン再始動を許可してスタータスイッチがONになる。
【0072】
エンジン再始動後は、タイミングT8、T9でバイパスバルブ10の閉固着判定が行われるまでは、通常のエンジン始動動作が行われる。
図4ではタイミングT8からT9の間に全気筒カットと燃料噴射との切り替えが繰り返されているが、これはエンジン再始動時の機関回転速度の吹け上がりを抑制するための燃料カット制御であり、本実施形態のバイパスバルブ閉固着時用の燃料カット制御とは異なる。
【0073】
そして、タイミングT9でバイパスバルブ10の閉固着が検知されたら、タイミングT3からタイミングT4の間と同様の制御が実行される。
【0074】
次に、本実施形態の作用効果についてまとめる。
【0075】
(1)ECM16は、エンジン1の出力が常時伝達されて駆動する機械式過給機8と、吸気通路2の機械式過給機8より上流側と下流側を連通するバイパス通路9と、バイパスバルブ10と、吸気通路2のバイパス通路9との合流部よりも下流側に配置されたスロットルバルブ12とを備えるエンジン1の制御装置である。そして、ECM16はバイパスバルブの閉固着を検知したら、スロットルバルブ12の目標開度を所定開度以上の開度に設定し、かつ燃料噴射を制限する燃料カット制御を実行する。
【0076】
スロットルバルブ12の開度を所定開度以上にすることで、機械式過給機8により圧縮され温度上昇した吸気がバイパスバルブ10を介して機械式過給機8の入口側に還流することが抑制される。さらに、燃料カット制御を実行することで、スロットルバルブ開度の増大に伴う機関回転速度の上昇が抑制され、機械式過給機8の回転速度が上昇しないので、機械式過給機の出口側吸気温度の上昇を抑制できる。これにより、バイパスバルブ閉固着にともなう吸気温度の上昇を抑制し、吸気通路周辺部品の耐熱環境の悪化を抑制できる。
【0077】
(2)ECM16は、スロットルバルブ12及びその周辺の吸気通路壁のデポジット堆積量が多いほど、バイパスバルブ閉固着時の目標スロットルバルブ開度としての所定開度が大きくなるよう補正するので、デポジットの堆積状況によらずスロットルの実質開口面積を一定に維持できる。これにより、エンジン回転速度が必要以上に上昇することを防止しつつ、バイパスバルブ閉固着時の吸気温度の上昇を抑制できる。
【0078】
(3)ECM16は、新気の温度が高いほど、バイパスバルブ閉固着時の目標スロットルバルブ開度としての所定開度が大きくなるよう補正する。これにより、新気の温度によらず、エンジン回転速度が必要以上に上昇することを防止しつつ、バイパスバルブ閉固着にともなう吸気温度の上昇を抑制できる。
【0079】
(4)バイパスバルブ閉固着時の燃料カット制御は、バイパスバルブ10の閉固着を検知したら全気筒の燃料噴射を停止(全気筒カット)して機関回転速度を低下させた後、所定の機関回転速度を維持するよう燃料噴射を再開する気筒数を制御するものである。これにより、機関回転速度を所定回転速度付近に維持することでブレーキ負圧の確保や各種電装品等の作動を確保しつつ、バイパスバルブ閉固着にともなう機械式過給機8の下流側吸気温度の上昇を抑制できる。
【0080】
(5)ECM16は、バイパスバルブ10の閉固着を検知した場合、車速が所定車速(ENG停止車速)以下になったら全気筒への燃料供給を停止して機関停止させる。これにより、上述したバイパスバルブ閉固着時のスロットルバルブ開度制御及び燃料カットを実行することでトルクが通常の運転状態に応じたトルクより過剰になっていても、バイパスバルブ10が正常な場合と同様に車両100を停車させることができる。
【0081】
(6)ECM16は、エンジン停止後にエンジン1とCVT31との間が動力非伝達状態であれば、エンジン1の再始動を許可する。これにより、車両100の走行はできないまでも、車室内の温度をコントロールすることができる。
【0082】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。