(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均粒径が0.8〜5μmである導電性金属粉、樹脂バインダー、溶剤、及び添加剤を含有する導電性ペーストにおいて、該添加剤がヒドロキシカルボン酸であり、該導電性ペーストで印刷又は塗布後に過熱水蒸気処理で導電性を発現することを特徴とする導電性ペースト。
【背景技術】
【0002】
印刷による導電層や導電パターンの形成は、導電粒子を用いた導電性ペーストをスクリーン印刷や凸版印刷に適用することでなされている。スクリーン印刷では、使用する導電粒子としては粒径が数μm以上のフレーク状金属粒子等が用いられ、回路の厚みを10μm以上にして導電性を確保している。導電回路は近年、急速に高密度化が進んでいる。より高密度な回路の形成を可能にするため、より微細な金属微粒子の開発がなされている。
【0003】
導電粒子としての金属は、銀、銅、ニッケルが一般的に用いられる。銀は高価であるだけでなく、耐マイグレーション性が悪く、回路に対して微細化の要求が大きくなることに対して、用途により重大な欠陥になりうる。ニッケルは導電性が劣る。銅は酸化されやすく、できた酸化物は導電性が悪い。銅ペースト製造時や保存時あるいは銅ペーストから銅薄膜形成時の加熱処理や、銅薄膜保存時に銅表面に形成される酸化層により、導電性が悪くなる。さらに銅の酸化による弊害は銅ペースト回路に酸化防止や絶縁のためにカバーフィルムを張り合わせた場合にも起こる。銅表面の酸化層の形成と進行はカバーフィルム接着剤と銅薄層間に、歪を発生し接着力の低下が起こる場合がある。歪の発生は銅ペースト層と基材との間でも発生する。この接着力の低下は150℃以上の温度で長期間保存すると 起こることが多い。
【0004】
銅粒子の酸化による弊害を防止するため、銅ペーストでは種々の検討がなされている。特許文献1では特定の配合比率の金属銅粉、レゾール型フェノール樹脂、アミノ化合物、アミノ基含有カップリング剤および1,2−N−アシル−N−メチレンエチレンジアミン化合物を含有する導電性塗料が開示されており、アミノ化合物が導電性向上剤として働くと共に還元剤としても働き、金属銅粉の酸化を防止して、導電性の維持に寄与するとされている。また特許文献1においては金属銅粉の粒径が1μm未満のものは酸化されやすく、得られる塗膜の導電性が低下するので好ましくないとされている。一方、銅粉の表面を銀で被覆しこれを導電性ペースト用の導電性フィラーとして用いることが試みられており、例えば特許文献2ではキレート化剤溶液に銅粉を分散し、銀イオン溶液、還元剤を順次添加して、銅粉表面に銀被膜を析出させることおよびこれを導電性フィラーとする導電性ペーストが開示されている。
【0005】
金属粒子の粒径を小さくすることによって、金属粒子間の焼成温度を金属バルクの融点に比べて大幅に下げることができることが知られている。例えば、特許文献3には、粒径1000Å以下の銅微粒子を特定成分が含有する有機溶媒中に分散した金属ペーストを調製し、金属ペースト塗膜を500℃で焼成して金属薄膜を形成する方法が開示されており、この方法により電気配線を形成できるとされている。しかしながら特許文献3に開示されている金属ペーストは銅粉を除き揮発性成分のみで形成されており、焼成後の基材との密着は弱いものである。また焼成温度が高いので、基材の選択肢が大幅に限定される。特許文献4には、超音波を利用して水酸化銅と還元剤から粒径0.1μm以下の銅超微粉末を作る方法が開示されているが、特許文献4実施例においては電子顕微鏡によって銅超微粉末の平均粒径と形状を確認したにとどまり、実際に導電性ペースト用の導電性フィラーとして有用であったか否かについては開示されていない。銅超微粉末の酸化被膜形成を抑制することについてなんら記載されていないことから、銅超微粉末表面に酸化銅の被膜が形成され、導電性フィラーとしては有用でなかったものと推定される。
【0006】
ナノ粒子に代表される微粒子は、表面積が非常に大きいため、極めて凝集し易く分散困難である。金属微粒子の分散性は、バインダー樹脂や分散剤を金属微粒子に吸着させることによって改善することができ、微粒子の凝集を防止して保存安定性を高め、分散体の流動性を確保するとの効果が期待できる。しかしながら、金属微粒子が微細化するほど、多量のバインダー樹脂や分散剤が必要になり、バインダー樹脂や分散剤が金属微粒子相互の接触を妨げ、導電性の向上を阻害する傾向となる。このような場合、バインダー樹脂や分散剤を昇華あるいは分解蒸発等により除く操作が必要になることがある。また、焼成によりフィルムやガラス等の基材との接着性が悪化することが起こりやすい。銅粒子ではこれらの金属粒子に特有な問題のうえに、酸化に起因する問題が加わる。銅粒子の酸化による導電性の悪化は粒子径が小さくなるほど顕著になる。
【0007】
特許文献5には銅粒子分散体を含有する塗膜に過熱水蒸気による加熱処理を施す工程と、防錆処理を施す工程、の少なくとも2つの工程を含む、銅薄膜の製造方法が開示されている。特許文献5の実施例において過熱水蒸気処理温度は300℃でなされており、実際には耐熱性を有する基材に限定されてしまう問題点があった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の導電性ペーストは導電性金属粉、溶剤、樹脂バインダー、添加剤を必須成分として含有する。各成分の割合は導電性金属粉100質量部に対し、溶剤の上限は好ましくは400質量部であり、より好ましくは350質量部であり、さらに好ましくは300質量部である。溶剤の下限は好ましくは20質量部であり、より好ましくは30質量部であり、さらに好ましくは50質量部である。樹脂バインダーの上限は導電性金属粉100質量部に対し、15質量部であり、より好ましくは12質量部であり、さらに好ましくは10質量部である。樹脂バインダーの下限は好ましくは1質量部であり、より好ましくは2質量部であり、さらに好ましくは3質量部である。溶剤、又は樹脂バイダーの含有量がこの範囲より少ないとうまく分散できない、焼成後の基材との密着性が悪くなる、などの不具合がある場合がある。溶剤、又は樹脂バイダーの含有量がこの範囲より多いと樹脂バインダーが熱分解されにくくなり、導電性が発現しない、または電気抵抗が大きくなる、などの不具合がある場合がある。
【0013】
導電性金属粉としては加熱処理によって微粒子間が融着するものでも、融着しないものでも使用可能である。金属の種類としては、銅、ニッケル、コバルト、銀、白金、金、モリブデン、チタン等が挙げられ、特に銀、銅が好ましい。これらの金属微粒子は、市販品を用いてもよいし、公知の方法を用いて調製することも可能である。また、異種の金属を積層した構造のもの、有機物あるいは無機物に金属めっきを施したものでもかまわない。
【0014】
本発明に用いられる導電性金属粉の平均粒径は0.1〜5μmであることが好ましい。0.1μm未満であるとペーストの作製・保管時に酸化されやすい、またはうまく分散できずに経時変化で沈殿などが生じるなどの問題がある。
ここで、平均粒径は空気透過法によるフィッシャー・サブ・シーブ・サイザー(F.S.S.S)を用いて測定した。
【0015】
導電性金属粉の形状は球状、フレーク状、凝集体、樹枝状、針状や不規則形状などがある。本発明で用いる導電性金属粉の形状は特に限定されず、また異なる形状の金属粉を混合して使用してもかまわない。
【0016】
導電性金属粉の平均粒径が5μmより大きいと、分散体での金属粒子の沈降を生じたり、微細回路の印刷適性が劣ったりする。平均粒径の下限は特に限定されないが、10nm以上であることが好ましい。10nm未満では導電性金属粉の経済性の制限や、安定な分散物を得るためには多量の分散媒を必要とするため、高導電性の金属薄膜を得ることが困難になる場合がある。本発明で用いる導電性金属粉は、異なる粒径の物を混合して使用してもかまわない。
【0017】
本発明の導電性ペーストに使用される樹脂バインダーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドあるいはアクリル等が挙げられる。樹脂中にエステル結合、ウレタン結合、アミド結合、エーテル結合、イミド結合等を有するものが、銅微粒子分散体の安定性から好ましい。ポリエステル、またはポリエステルポリウレタンがさらに好ましい。
【0018】
ポリエステル、またはポリエステルポリウレタンを重合する際のモノマーの種類としては酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のごとき芳香族ジカルボン酸又はそのエステル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA) 、cis−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物(HHPA)、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸等が挙げられる。
【0019】
共重合可能なグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールのごときグリコール、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジメタノール等が挙げられる。
【0020】
ポリエステルポリウレタンの重合に使用出来るジイソシアネート成分としてはイソシアネート基を分子中に2個含有する公知の脂肪族、脂環族または芳香族の有機ポリイソシアネートが包含される。具体的には例えば4,4′−ジフエニルメタンジイソシアネート、p−フエニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。とりわけ、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジフエニルメタンジイソシアネートもしくは2,4−トリレンジイソシアネートまたはそれらを主成分とする混合物が好ましい。
【0021】
化1で示されるヒドロキシカルボン酸としては酒石酸、グリセリン酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、ヒドロキシクエン酸、キナ酸等が挙げられる。これらヒドロキシカルボン酸を添加して分散することにより、銅粉極表面に存在する酸化銅を溶解させる効果や酸化銅をヒドロキシカルボン酸が持つ還元力で酸化銅を還元する効果がある。ヒドロキシカルボン酸の添加量の下限は導電性金属粉添加量に対して、0.2重量%以上が好ましく、より好ましくは0.5重量%以上、特に好ましくは1.0重量%以上である。添加するヒドロキシカルボン酸重量の上限は5.0重量%で、これ以上添加すると、うまく分散できない場合がある。ヒドロキシカルボン酸はほぼ同量の水で予め溶解させてから混合・分散するとよい。
【0022】
【化1】
化1中で、R1は-Hまたは-COOHを、R2は-Hまたは-CH2COOH、R3は-Hまたは-OHを表す。
【0023】
本発明の導電性ペーストに使用される溶媒は、分散安定化の働きをするバインダー樹脂を用いる場合には、その樹脂を溶解するものから選ばれ、有機化合物であっても水であってもよい。分散媒は、分散体中で銅微粒子を分散させる役割に加えて、分散体の粘度を調整する役割がある。溶媒として好適に用いられる有機溶媒の例として、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、アミド等が挙げられる。
【0024】
本発明の導電性ペーストには、必要に応じ、硬化剤を配合しても良い。本発明に使用できる硬化剤としてはフェノール樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。硬化剤の使用量はバインダー樹脂の1〜100重量%の範囲が好ましい。
【0025】
本発明の導電性ペーストで導電性金属粉に銅粉を使用する場合、銅粉表面は空気中で酸化されやすいので、還元剤を含有させてもかまわない。還元剤は金属の酸化物、水酸化物、または塩等の金属化合物から金属に還元する能力を有するものを言う。還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、ヒドラジン類、ホルマリンやアセトアルデヒド等のアルデヒド類、亜硫酸塩類、蟻酸、蓚酸、コハク酸、アスコルビン酸等のカルボン酸類あるいはラクトン類、エタノール、ブタノール、オクタノール等の脂肪族モノアルコール類、ターピネオール等の脂環族モノアルコール類、等のモノアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の脂肪族ジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル類、ジエタノールアミンやモノエタノールアミン等のアルカノールアミン類、ハイドロキノン、レゾルシノール、アミノフェノール、ブドウ糖、あるいはクエン酸ナトリウム等が挙げられる。還元剤あるいは還元剤分解物の銅薄膜への残留は、得られた銅薄膜の特性の悪化を生じさせることがある。そのため、還元剤は過熱水蒸気処理により蒸発揮散するものが望ましい。還元剤としては、アルコール類や多価アルコール類が特に望ましい。還元剤の具体的な好ましい例としては、ターピネオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、アスコルビン酸、レゾルシノールを挙げることができる。
【0026】
導電性金属粉をペースト中に分散させる方法としては、粉体を液体に分散させる一般的な方法を用いることができる。例えば、導電性金属粉とバインダー樹脂溶液、必要により追加の溶媒からなる混合物を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、ボールミル法等で分散を施せばよい。これらの分散手段のうち、複数を組み合わせて分散を行うことも可能である。これらの分散処理は室温で行ってもよく、分散体の粘度を下げるために、加熱して行ってもよい。必要により使用する還元剤は導電性金属粉の分散前、分散中、分散後の任意の段階で添加しても良い。
【0027】
導電性ペーストから塗膜を形成するには、分散体を絶縁性基材に塗布あるいは印刷する場合に用いられる一般的な方法を用いることができる。例えばスクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、ロールコート法、ダイコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法等の方法によって導電性ペーストを塗布または印刷し、次いで風乾、加熱あるいは減圧等により分散媒の少なくとも一部を蒸発させることにより、塗膜を形成することができる。塗膜は絶縁性基材上に全面に設けられたものでも部分的に設けられたものでもよく、また導電回路等のパターン形成物でもかまわない。
【0028】
本発明の導電性薄膜の厚みは、電気抵抗や接着性等の必要特性にあわせて適宜設定することができ、特に限定されない。分散体組成や塗布または印刷の方法により、形成可能な導電性薄膜の厚みの範囲は異なるが、0.05〜40μmが好ましく、より好ましくは0.1〜20μm、さらに好ましくは0.2〜10μmである。厚い金属薄膜を得るためには塗膜を厚くする必要があり、溶剤の残留による弊害や塗膜形成速度を低速化する必要が生じる等の経済性の悪化が起こりやすい。一方、塗膜が薄すぎると、ピンホールの発生が顕著になる傾向がある。
【0029】
本発明の導電性薄膜の形成に際し、重ね刷りや多層印刷を行なうことが可能である。ここで、重ね刷りとは、同じパターンを多数回重ねて印刷することを指し、これにより導電性薄膜の厚さを増すことができ、あるいはアスペクト比(膜厚と線幅の比)の高い導電性薄膜を得ることができる。また、多層印刷とは、異なるパターンを重ねて印刷することを指し、これにより層ごとに異なる機能を発揮させることができる。部分的に重ね刷りおよび/または多層印刷を行なうこと、また重ね刷りと多層印刷を複合的に行うことも差し支えない。また、本発明の導電性薄膜とは異なる薄膜、例えば絶縁層との多層印刷を行うことも可能である。
【0030】
絶縁性基材がポリイミド系樹脂からなるものである場合には、ポリイミド前駆体溶液の一次乾燥品やポリイミド溶液やポリアミドイミド溶液の一次乾燥品に導電性ペーストの塗膜を形成し、次いで過熱水蒸気による加熱処理を行う方法をとることが好ましい。ポリイミド系前駆体溶液やポリイミド系溶液の一次乾燥品に10〜30重量%の溶剤を残留させた状態のままで、引き続いてその上に、導電性ペーストを塗布・乾燥して塗膜を形成し、引き続いて過熱水蒸気による加熱処理を行うことにより、ポリイミド系樹脂層と塗膜との接着が強固になる傾向にある。
【0031】
導電性ペーストの塗膜を形成した後、塗膜が破壊しない範囲で加圧処理(カレンダー処理)をすることもできる。カレンダー処理により導電性が向上する傾向がある。カレンダー処理は一般的には金属ロールと弾性ロールの間で材料に応じた線圧、たとえば1〜250kg/cm、より好ましくは50〜200kg/cmの加圧処理を行うことである。カレンダー処理は、導電性ペーストのバインダー樹脂のガラス転移温度以上の温度に加熱して行うことが特に好ましい。カレンダー処理は導電性ペーストの塗膜に他の層を積層した状態で行っても良い。
【0032】
過熱水蒸気とは100℃の飽和水蒸気の気体に二次的なエネルギーを加えることによって、沸点を超えて例えば数百℃のエネルギーを得た高温蒸気のことである。過熱水蒸気は高温空気と比べて約4倍の熱容量を持っていることから短時間で乾燥、焼結ができる。無酸素状態で酸化されることなく乾燥、焼成ができることから食品加熱、焙煎、殺菌などの食品・医薬用途によく使用されている。
【0033】
導電性ペーストの塗膜を乾燥処理、次いで必要によりカレンダー処理を施した後、過熱水蒸気による加熱処理を行うことができる。乾燥処理と過熱水蒸気処理は連続して行っても、他の工程を介して行ってもよい。塗布後、乾燥工程無しで、過熱水蒸気処理を行うと突沸が起こりやすく好ましくない。
【0034】
過熱水蒸気にメタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールを含有させると、導電性の向上が見られる場合がある。アルコール化合物を含有する過熱水蒸気を作る方法は、水にアルコール化合物を溶解させた溶液の飽和蒸気を加熱する方法、アルコール化合物と水、夫々の飽和蒸気を混合加熱する方法が挙げられる。過熱水蒸気中のアルコール化合物の含有率は化合物の種類により最適範囲は異なるが、0.01〜20重量%の範囲で用いる。アルコール化合物の含有率が0.01重量%未満では導電性改善効果が見られず、20重量%を超えるとバインダー樹脂の溶解や分解が顕著に起こることがある。好ましい範囲は0.1〜5重量%である。
【0035】
過熱水蒸気処理は導電性ペーストの塗膜の焼成処理として施されることが好ましい。過熱水蒸気処理による焼成処理は金属微粒子の平均粒径が0.1μm〜5μmの範囲にある場合に特に高い効果を発揮する傾向にある。導電性金属粉の結晶化度や酸化度等の表面状態により異なるが、いわゆるナノ粒子では表面活性が大きく、一般に知られているバルクの融点よりもはるかに低い温度で融着を始める。なお、本発明において焼成処理とは、金属微粒子の少なくとも一部に融着を生じる加熱処理を指し、バインダー樹脂および分散剤の分解や飛散は必ずしも要しないものとする。
【0036】
本発明で用いる過熱水蒸気の温度は150℃以上、特に200℃以上が好ましく、さらに300℃以上が好ましい。温度の上限は用いる絶縁性基材やバインダー樹脂の耐熱特性等から決まるが、400℃以下が好ましい。加熱時間も被処理物の量や特性から選ばれるが、10秒〜30分間が好ましい。過熱水蒸気の温度が低すぎると、低体積抵抗率の導電層を得ることができない。過熱水蒸気の温度が高すぎると、バインダー樹脂の大半または全てが除去され、導電性薄膜と絶縁性基材の密着性が損なわれることがあり、また、絶縁性基材の劣化が生じる場合があり、特に有機材料からなる絶縁性基材を用いる場合には注意が必要である。
【0037】
本発明の導電性ペーストで導電性金属粉に銅粉を使用する場合、銅粉表面は空気中で酸化されやすいので、薄膜層には、防錆処理が施すことができる。好ましい防錆処理方法としては、導電性薄膜層の表面に銅に対して吸着能力のある有機化合物あるいは無機化合物の吸着層を設ける方法を挙げることができる。ここで、導電性薄膜層に含まれる導電性金属粉が相互に融着していない導電性金属粉を含有する場合には、前記吸着層は個々の導電性金属粉の表面に形成されることが好ましい。また別の好ましい防錆処理方法としては、防水性のある絶縁樹脂層を導電性薄膜層上に設ける方法を挙げることができる。導電性薄膜層の表面に有機化合物あるいは無機化合物の吸着層を設け、さらに絶縁樹脂層で被覆する方法は、本発明の好ましい実施態様の一例である。
【0038】
本発明における導電性薄膜層の表面に吸着層を形成できる有機化合物あるいは無機化合物(以下、表面処理剤と称する場合がある)としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、テトラゾール等の含窒素複素環化合物、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、チオフェノール、トリアジンジチオール等の含硫黄化合物、オクチルアミン、イソブチルアミン等のアミノ化合物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロメート処理剤等が挙げられる。表面処理剤を溶解した処理剤に導電性薄膜を浸漬する、あるいは処理剤を導電性薄膜に塗布することで、吸着層の形成がなされる。表面処理剤層の厚みが増すと導電性の低下や接着加工性の悪化を起こす場合があるので、表面処理層の厚みは0.05μm以下の薄層とすることが望ましい。表面処理剤層を薄層にする方法としては、処理液の濃度を下げる、表面処理剤を溶解する溶剤で余分の表面処理剤を除去する等が挙げられる。
【0039】
本発明における導電性薄膜層上に設ける防水性のある絶縁樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ブチラール樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の一種以上で銅薄膜層を被覆することにより防錆効果が発揮できる。防水性のある絶縁樹脂で導電性薄膜層を被覆する方法は特に限定されないが、樹脂溶液を銅薄膜層に塗布または印刷し次いで溶媒を揮散させる方法、樹脂フィルムに接着剤を塗布して導電性薄膜層に貼り合わせる方法を、好ましい方法として例示することができる。接着剤付きのポリイミドフィルムあるいはポリエステルフィルムを貼り合わせることは、特に好ましい実施態様の例である。絶縁樹脂層の厚みは1〜30μmが望ましい。
【実施例】
【0040】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
【0041】
1.分子量
GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)によりポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
【0042】
2 . ガラス転移点温度(Tg)
示差走査熱量計(DSC)を用いて、20℃/分の昇温速度で測定した。サンプルは試料5mgをアルミニウム押え蓋型容器に入れ、クリンプした。
【0043】
(1) 電気抵抗の測定方法
電気抵抗率は、抵抗率計(商品名:ロレスタ−GP MCP−T610型、三菱化学製)および四探針プローブ(ASPプローブ)を用いた四端子法で測定した。
【0044】
(2) 接着力の評価方法
ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)「CT405AP−15」の1cm幅のものを使用し、金属薄膜面にその接着テープを5cm長貼り付け、剥がした際に金属薄膜面が損傷を受けているかどうか、目視観察により判断した。金属薄膜に剥がれ、浮き、亀裂等の何らかの損傷が認められた場合には×、損傷が認められなかった場合には○と判定した。
【0045】
実施例1
下記の配合割合の組成物を、撹拌機を付けた4つ口フラスコに入れて撹拌・加熱を行い、常法に従い、共重合ポリエステル1を得た。
テレフタル酸ジメチル 50部
イソフタル酸ジメチル 20部
セバシン酸ジメチル 30部
ネオペンチルグリコール 45部
エチレングリコール 55部
得られた共重合ポリエステルの組成は、テレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=50/50//55/45(モル比)で、数平均分子量15000、ガラス転移温度は65℃であった。
【0046】
続いて、下記割合の組成物を3本ロールミルで分散し、分散ペースト1を得た。さらに、スクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体1Aを得た。
バインダー樹脂の溶液 1.8部
(共重合ポリエステル1をn-ブチルカルビトールアセテートに溶解させた35質量%溶液)
銅微粒子 20部
(RCA−16[球状銅粉、平均粒径0.8μm、DOWAエレクトロニクス株式会社製)
ヒドロキシカルボン酸(クエン酸) 1部
水 1部
エチルカルビトールアセテート 3部
【0047】
基材への接着性を付与するために、ポリアミドイミド樹脂を含有するコート液を作製した。下記配合割合の組成物を、撹拌機を付けた4つ口フラスコに入れて撹拌・加熱を行い、常法に従い、ポリアミドイミド樹脂1を得た。
バイロン220[東洋紡株式会社製] 100部
ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物([BTDA]、株式会社ダイセル製) 20部
MDI[イソシアネート、日本ポリウレタン株式会社製] 5部
【0048】
コート組成液は下記(1)〜(6)を混合・撹拌して使用した。
(1)ポリアミドイミド樹脂1 1.0部
(2)エポキシ604 (エポキシ樹脂、三菱化学製) 0.2部
(3)トリフェニルホスフィン 0.05部
(4)ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA) 0.05部
(5)トルエン 1.0部
(6)メチルエチルケトン 1.0部
【0049】
得られたコート液組成液を使って、ポリイミドフィルム(商品名アピカルNPI、株式会社カネカ製、厚み25μm)に、ワイヤーバー(#4)でコートし、80℃5分乾燥後、220℃90秒熱風乾燥機で熱処理して、接着層付きポリイミドフィルム1を作製した。
【0050】
実施例2
実施例1記載のヒドロキシカルボン酸をリンゴ酸にして分散ペーストを作製し、分散ペースト2を得た。さらにスクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体2Aを得た。
【0051】
実施例3
実施例1記載のヒドロキシカルボン酸をグリセリン酸にして分散ペーストを作製し、分散ペースト3を得た。さらにスクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体3Aを得た。
【0052】
実施例4
実施例1記載のヒドロキシカルボン酸をヒドロキシクエン酸にして分散ペーストを作製し、分散ペースト4を得た。さらにスクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体4Aを得た。
【0053】
実施例5
実施例1記載のヒドロキシカルボン酸を酒石酸にして分散ペーストを作製し、分散ペースト5を得た。さらにスクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体5Aを得た。
【0054】
比較例1
実施例1記載のヒドロキシカルボン酸を添加せず、分散ペーストを作製し、分散ペースト6を得た。さらにスクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体6Aを得た。
【0055】
比較例2
実施例1記載のヒドロキシカルボン酸をギ酸にして分散ペーストを作製し、分散ペースト7を得た。さらにスクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体7Aを得た。
【0056】
続いて、金属薄膜積層体1A〜7Aを150、180、200、230、250℃で10分間の過熱水蒸気による焼成処理を行い、金属薄膜積層体1B〜7Bを得た。過熱水蒸気の発生装置として蒸気過熱装置(第一高周波工業株式会社製「DHF Super−Hi 10」)を用い、10kg/時間の過熱水蒸気を供給する熱処理炉で行った。金属薄膜積層体1B〜7Bについて、各処理温度での比抵抗をプロットし、比抵抗50μ(Ω×cm)を発現する温度(導電性発現温度)および接着力を評価した。評価結果を表1に示した。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例6
実施例1記載のヒドロキシカルボン酸(クエン酸)添加量を0.8部にした分散ペーストを作製し、分散ペースト8を得た。さらにスクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体8Aを得た。
【0059】
実施例7
実施例1記載のヒドロキシカルボン酸(クエン酸)添加量を0.5部にした分散ペーストを作製し、分散ペースト9を得た。さらにスクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体9Aを得た。
【0060】
実施例8
実施例1記載のヒドロキシカルボン酸(クエン酸)添加量を0.2部にした分散ペーストを作製し、分散ペースト10を得た。さらにスクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体10Aを得た。
【0061】
続いて、金属薄膜積層体8A〜10Aを150、180、200、230、250℃で10分間の過熱水蒸気による焼成処理を行い、金属薄膜積層体8B〜10Bを得た。過熱水蒸気の発生装置として蒸気過熱装置(第一高周波工業株式会社製「DHF Super−Hi 10」)を用い、10kg/時間の過熱水蒸気を供給する熱処理炉で行った。金属薄膜積層体8B〜10Bについて、各処理温度での比抵抗をプロットし、比抵抗50μ(Ω×cm)を発現する温度(導電性発現温度)および接着力を評価した。評価結果を表2に示した
【0062】
【表2】
【0063】
実施例9
下記の配合割合の組成物を、撹拌機を付けた4つ口フラスコに入れて撹拌・加熱を行い、常法に従い、共重合ポリエステルポリウレタン1を得た。
cis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物(HHPA) 40部
1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA) 60部
ネオペンチルグリコール 40部
エチレングリコール 50部
3−メチルプロパンジオール 10部
イソホロンジイソシアネート 100部
得られた共重合ポリエステルポリウレタンの数平均分子量は31555、ガラス転移温度は13℃であった。
【0064】
続いて、下記割合の組成物を3本ロールミルで分散し、分散ペースト2を得た。さらに、スクリーン印刷法で接着層付きポリイミドフィルム1上に乾燥後の厚みが10μmになるように印刷して、80℃で5分熱風乾燥し、金属薄膜積層体11Aを得た。
バインダー樹脂の溶液 1.8部
(共重合ポリエステルポリウレタン1をn-ブチルカルビトールアセテートに溶解させた35質量%溶液)
銅微粒子 20部
(RCA−16[球状銅粉、平均粒径0.8μm、DOWAエレクトロニクス株式会社製)
ヒドロキシカルボン酸(クエン酸) 1部
水 1部
エチルカルビトールアセテート 3部
【0065】
続いて、金属薄膜積層体11Aを150、180、200、230、250℃で10分間の過熱水蒸気による焼成処理を行い、金属薄膜積層体11Bを得た。過熱水蒸気の発生装置として蒸気過熱装置(第一高周波工業株式会社製「DHF Super−Hi 10」)を用い、10kg/時間の過熱水蒸気を供給する熱処理炉で行った。金属薄膜積層体11Bについて、各処理温度での比抵抗をプロットし、比抵抗50μ(Ω×cm)を発現する温度(導電性発現温度)および接着力を評価した。評価結果を表3に示した。
【0066】
【表3】