【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例に過ぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0031】
参考例1:タンパク質の高い生産能を有する細胞株(非融合細胞)の解析
抗体を始めとする医薬タンパク質は主に、培養細胞を用いて生産されている。培養細胞によるタンパク質の生産量はコストに与える影響が大きいことから、タンパク質の高い生産能を有する培養細胞(細胞株)の樹立が試みられている。医薬タンパク質の生産では、CHO細胞が培養細胞として汎用されているが、CHO細胞は、タンパク質の高い生産能を有する細胞株の出現頻度が低い、および無血清培地中での接着培養が困難などの問題があった。そこで、タンパク質の高い生産能を有するCHO細胞株の解析を行った。
【0032】
国際公開第2013/42426号公報に開示される方法により作製されたニワトリ(chicken)IgM(以下、必要に応じて「目的タンパク質」と称する)の発現ベクターを、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に導入した。得られたCHO細胞を長期間培養し、培養されたCHO細胞株のなかから、目的タンパク質を大量に生産する能力を有する安定なCHO細胞株を2種(VDSC46M/CHO、およびVDSC1M/CHO)、目的タンパク質を少量生産する能力を有する安定なCHO細胞株を1種(VDSC42M/CHO)単離した。次いで、これらの細胞株を解析、比較した。コントロールとして、通常のCHO細胞を解析、比較した。
【0033】
先ず、Propidium iodide(PI)溶液およびFlow cytometer(FCM)を利用して染色体核酸量を測定した。結果を
図1、2に示す。
図1、2に示される結果は、目的タンパク質を大量に生産する能力を有するCHO細胞株の染色体核酸量が、目的タンパク質を少量生産する能力を有するCHO細胞株および/または元のCHO細胞の染色体核酸量に比し、多いことを示す。また、蛍光強度の値は染色体核酸量と比例し得ることから、目的タンパク質を大量に生産する能力を有するCHO細胞株の染色体核酸量は、目的タンパク質を少量生産する能力を有するCHO細胞株および/または元のCHO細胞の染色体核酸量に比し、約1.5倍以上であると見積られた(
図1、2)。
【0034】
次いで、FCMにより前方散乱光(Forward Scattered Light:FS)を測定した。FSの情報は、細胞サイズ(表面積)の指標として利用することができる。結果を
図3、4に示す。
図3、4に示される結果は、目的タンパク質を大量に生産する能力を有するCHO細胞株の細胞サイズが、目的タンパク質を少量生産する能力を有するCHO細胞株および/または元のCHO細胞の細胞サイズに比し、大きいことを示す。また、FSの値は細胞サイズと比例し得ることから、目的タンパク質を大量に生産する能力を有するCHO細胞株の細胞サイズは、目的タンパク質を少量生産する能力を有するCHO細胞株および/または元のCHO細胞の細胞サイズに比し、約1.5倍以上であると見積られた(
図3、4)。
【0035】
最後に、FCMにより側方散乱光(Side Scattered Light:SS)を測定した。SSの情報は、細胞内構造の複雑さ(オルガネラの発達度合い)の指標として利用することができる。結果を
図5、6に示す。
図5、6に示される結果は、目的タンパク質を大量に生産する能力を有するCHO細胞株の細胞内構造が、目的タンパク質を少量生産する能力を有するCHO細胞株および/または元のCHO細胞の細胞内構造に比し、複雑であることを示す。また、SSの値は細胞内構造の複雑さと比例し得ることから、目的タンパク質を大量に生産する能力を有するCHO細胞株の細胞内構造は、目的タンパク質を少量生産する能力を有するCHO細胞株および/または元のCHO細胞の細胞内構造に比し、約1.5倍以上複雑であると見積られた(
図5、6)。
【0036】
以上より、タンパク質の高い生産能を有する細胞株は、染色体の増幅、大きな細胞サイズ、および複雑な細胞内構造を有していた。したがって、これらの特徴を有する細胞を人工的に樹立することにより、タンパク質の高い生産能を有する細胞株が得られる可能性が示唆された。
【0037】
実施例1:同調化された細胞の融合による融合細胞の調製(1)
CO
2インキュベーター(37℃、5% CO
2)でF12培地(10% FBS添加)にてCHO細胞を培養した。80%コンフルエントに到達後、培地をF12培地(10% FBS、0.1μg/mL ノコダゾール添加)に交換し、さらに36時間培養することによって細胞周期をM期に同調させた。ノコダゾールの使用により、細胞周期を、M期で停止させることができる。同調させた細胞をPBS(−)で洗浄した後、trypsin溶液(0.25% trypsin 1mM EDTA−4Na)を添加し、次いでCO
2インキュベーターで2分間放置した後、CHO細胞を剥離した。剥離したCHO細胞をF12培地(10% FBS添加)10mLに懸濁し、次いで遠心管に移した。遠心分離(1000rpm,5分)後、上清を除去し、次いで血清不含F12培地で2回洗浄した。血清不含F12培地10mLに懸濁したCHO細胞をカウントした。1x10
6の細胞を含むCHO細胞懸濁液を分取し、遠心分離(1000rpm,5分)の後、上清を除去した。
得られた細胞サンプルに、1mLのポリエチレングリコール1500を混ぜながらゆっくりと添加した。次に、血清不含F12培地13mLを細胞懸濁液と混ぜながらゆっくりと添加した。遠心分離(1000rpm,5分)し、上清を除去した後、10mLのF12培地(10% FBS添加)に懸濁し、これを、96ウェルプレートに1ウェル(100μL)に対して0.5個の細胞が含まれるように蒔いた。3日に一回培地を交換しながら融合細胞を増殖させた。増殖した融合細胞を6ウェルプレートに移し、次いで増殖させた。
次いで、得られた融合細胞を、Flow cytometer(FCM)により解析した。先ず、融合細胞の一部を採取し、70%エタノールで24時間固定した。遠心分離(1000rpm,5分)し、上清を除去した後、Propidium iodide(PI)溶液(4mM)を2mL添加し、氷上で2時間染色した。染色した細胞をFlow cytometer(FCM)で解析し、DNAの増幅について検討した。その結果、増幅した染色体を有する融合細胞の存在を確認することができた(
図7)。DNAの増幅が見られるウェル中の細胞を選択した。DNAの増幅が認められたウェル中の細胞を、再度1ウェルに対して0.5個の細胞が含まれるように96ウェルプレートに蒔き、増殖させ、融合細胞を得た。
得られた融合細胞について、FCMによりFSおよびSSを測定した。その結果、融合細胞のサイズの拡大および細胞内構造の複雑さを確認することができた(
図8、9)。以上より、得られた融合細胞は、染色体の増幅、大きな細胞サイズ、および複雑な細胞内構造を有していた。これらの特徴は概して、参考例1で確認された、タンパク質の高い生産能を有する細胞株(非融合細胞)のものと同様であった。具体的には、融合細胞は、融合に用いられた元のCHO細胞に比し、約1.5倍以上の染色体の増幅、約1.5倍以上の大きな細胞サイズ、および約1.5倍以上の複雑な細胞内構造を有していた。
なお、樹立された融合細胞を血清含有培地(10% FBS含有Ham’s F12倍地)中で継代培養したところ、融合細胞は、20回継代した後(26回の細胞分裂回数に相当)であっても、染色体の増幅、大きな細胞サイズ、および複雑な細胞内構造の特徴を保持していた。
【0038】
実施例2:無血清培地中での融合細胞の培養
実施例1で得られた融合細胞を、血清含有培地(10% FBS含有Ham’s F12倍地)、および無血清培地(ASF 培地104N)中で2日間培養した。コントロールとして、細胞融合に用いた通常のCHO細胞を同様に培養した。
その結果、CHO細胞および融合細胞の双方とも、血清含有培地中では、培養ディッシュ上に良好に接着し、伸展して扁平状の形態を呈した(
図10)。一方、無血清培地中では、CHO細胞は、培養ディッシュ上に接触していたものの十分な接着性を示さず、丸い形態を呈した(
図10)。一方、融合細胞は、無血清培地中でも、培養ディッシュ上に良好に接着し、伸展して扁平状の形態を呈した(
図10)。したがって、融合細胞は、血清含有培地および無血清培地の双方において、良好な接着性を有することが示された。
また、接着した融合細胞のサイズは、FCM解析の結果と相関するように、血清含有培地中で接着したCHO細胞のサイズに比し、有意に大きかった(
図10)。接着した融合細胞のサイズは、血清含有培地および無血清培地の双方で、伸展方向(長軸方向)において、多くの細胞が約70μm以上の長さを示したのに対し、血清含有培地中で接着したCHO細胞のサイズは概ね、伸展方向において、約50μm以下の長さであった(
図10)。接着した融合細胞のサイズは、伸展方向と直行する方向(培養ディッシュの平面上における短軸方向)において、多くの細胞が約15μm以上の長さを示したのに対し、血清含有培地中で接着したCHO細胞のサイズは概ね、伸展方向と直行する方向において、約15μm未満の長さであった(
図10)。
なお、樹立された融合細胞を上記無血清培地中で継代培養したところ、融合細胞は、20回継代した後(26回の細胞分裂回数に相当)であっても、染色体の増幅、大きな細胞サイズ、複雑な細胞内構造の特徴および良好な接着性を保持していた。
【0039】
実施例3:タンパク質の生産能の検討
実施例1で得られた融合細胞によるタンパク質の生産能を検討した。タンパク質としては、融合細胞の内因性タンパク質の代わりに、FCMでの解析が容易である外来タンパク質hMGFP(Monster GFP)を指標とした。通常のCHO細胞(コントロール)および実施例1で得られた融合細胞にhMGFP発現ベクター(Promega社phMGFP vector:E6421からhMGFPをPCRで増幅し、Lifetechnologies社のpcDNA3.1(−):V795−20に導入したもの)を導入し、G418(3mg/mL)入り培地で一週間selectionをかけたものをFCMで解析し、hMGFPの発現量のパターンを、CHO細胞と融合細胞との間で比較した。
その結果、CHO細胞は、外来タンパク質の生産能を有する細胞数が少なく、また、陽性細胞の割合も低かった(
図12、13、表1)。一方、融合細胞は、外来タンパク質の高い生産能を有する細胞数が多く、また、陽性細胞の割合も高かった(
図11、13、表2)。
以上より、実施例1で得られた融合細胞は、タンパク質の高い生産能を有すること、および外来タンパク質の発現効率が良いことが示された。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
実施例4:抗体(IgM)の分泌能の検討
実施例1で得られた融合細胞によるニワトリIgMの生産能を検討した。発現ベクターとしては、国際公開第2013/42426号公報に開示される方法により作製されたニワトリIgM軽鎖および重鎖の発現ベクターを利用した。CHO細胞(コントロール)および実施例1で得られた融合細胞に発現ベクターを導入し、G418(500μg/mL)およびハイグロマイシンB(500μg/mL)含有培地で一週間selectionしたものを限界希釈法にてクローニングし、分泌される抗体をELISAにより定量した。
その結果、融合細胞は、CHO細胞に比し、IgMの分泌能に優れる割合が高いことが確認された(
図14)。
【0043】
実施例5:抗体(IgG)の分泌能の検討
実施例1で得られた融合細胞によるマウスIgGの生産能を検討した。発現ベクターとしては、国際公開第2013/42426号公報に開示される方法により作製されたマウスIgG軽鎖および重鎖の発現ベクターを利用した。CHO細胞(コントロール)および実施例1で得られた融合細胞に発現ベクターを導入し、G418(500μg/mL)およびハイグロマイシンB(500μg/mL)含有培地で一週間selectionしたものを限界希釈法にてクローニングし、分泌される抗体をELISAにより定量した。
その結果、融合細胞は、CHO細胞に比し、IgGの分泌能に優れる割合が高いことが確認された(
図15)。
【0044】
比較例1:同調化されていない細胞の融合による融合細胞の調製
非同調化された細胞の融合による融合細胞の調製は、同調化剤(ノコダゾール)処理をしなかった点を除き、実施例1と同様にして行った。その結果、得られた融合細胞は当初、染色体の増幅、大きな細胞サイズ、および複雑な細胞内構造を有していたが、血清含有培地(10% FBS含有Ham’s F12倍地)で継代培養したところ、融合細胞は、3回継代した後(約4回の細胞分裂回数に相当)、染色体の増幅、大きな細胞サイズ、複雑な細胞内構造および良好な接着性の特徴を保持できず、通常のCHO細胞と同様の特徴を示す細胞に復帰した。
【0045】
実施例6:同調化された細胞の融合による融合細胞の調製(2)
CHO細胞以外の細胞を材料として用いて本発明の方法により調製される融合細胞が、上記特徴を有するかどうか、さらに検討した。CHO細胞以外の細胞としては、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、およびベビーハムスター腎臓細胞(BHK)を用いた。融合細胞の調製は、異なる細胞を材料として用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。その結果、本実施例で得られた融合細胞は、実施例1で得られた融合細胞と同様に、染色体の増幅、大きな細胞サイズ、複雑な細胞内構造の特徴、および良好な接着性を有していた。また、融合細胞は、比較例1で行われた継代数を超えた場合であっても、これらの特徴を安定的に保持しており、融合に用いたHUVECおよびBHKと同様の特徴を示す細胞に復帰しなかった。