(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
直流電圧が印加される第1および第2のキャパシタの直列体により構成され、該直列体の共通接続点を中性点端子とし、正極側を正極端子とし、負極側を負極端子とした直流電圧源と、
第1のスイッチング素子、第1のフライングキャパシタ、第2のスイッチング素子、第3のスイッチング素子、第2のフライングキャパシタおよび第4のスイッチング素子を順次直列接続した回路であって、第1のスイッチング素子の非接続側端が前記正極端子に接続され、第4のスイッチング素子の非接続側端が前記負極端子に接続され、第2および第3のスイッチング素子の共通接続点が前記中性点端子に接続された共通回路と、
前記第1のフライングキャパシタの両端間に第5および第6のスイッチング素子を直列に接続し、前記第2のフライングキャパシタの両端間に第7および第8のスイッチング素子を直列に接続し、前記第5および第6のスイッチング素子の共通接続点と前記第7および第8のスイッチング素子の共通接続点との間に第9および第10のスイッチング素子を直列に接続して構成された第1の電圧選択回路と、
前記第1のフライングキャパシタの両端間に第11および第12のスイッチング素子を直列に接続し、前記第2のフライングキャパシタの両端間に第13および第14のスイッチング素子を直列に接続し、前記第11および第12のスイッチング素子の共通接続点と前記第13および第14のスイッチング素子の共通接続点との間に第15および第16のスイッチング素子を直列に接続して構成された第2の電圧選択回路と、を備え、
前記共通回路、第1の電圧選択回路および第2の電圧選択回路によって構成した交直変換回路を単相分又は3相以上の多相分設け、
前記各交直変換回路の第1の電圧選択回路の第9および第10のスイッチング素子の共通接続点を第1の交流出力端子とし、前記各交直変換回路の第2の電圧選択回路の第15および第16のスイッチング素子の共通接続点を第2の交流出力端子とし、
前記各第1の交流出力端子を第1の交流電源にリアクトルを介して接続又は負荷に接続し、前記各第2の交流出力端子を、前記第1の交流出力端子が第1の交流電源に接続されている場合は負荷に接続又は第2の交流電源にリアクトルを介して接続し、前記第1の交流出力端子が負荷に接続されている場合は第1の交流電源にリアクトルを介して接続したことを特徴とするマルチレベル電力変換装置。
前記第1〜第16のスイッチング素子のうちいずれかのスイッチング素子は、複数個直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のマルチレベル電力変換装置。
前記第1〜第16のスイッチング素子のうちいずれかのスイッチング素子は、複数個並列に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチレベル電力変換装置。
【背景技術】
【0002】
従来のマルチレベル電力変換装置として、例えば特許文献1および非特許文献1に記載の5レベルインバータが知られている。
図16は、非特許文献1に記載の5レベルインバータにおける主回路1相分の構成を示す回路図である。
【0003】
図16において、C1,C2は直流キャパシタ、C3はフライングキャパシタ、S21〜S28はスイッチング素子(IGBT等の半導体スイッチ素子と逆並列にダイオードを接続したモジュール:以下同様)を示している。
【0004】
直流キャパシタC1,C2の直列体にはスイッチング素子S21〜S24の直列回路が並列に接続されている。スイッチング素子S21,S22の共通接続点とS23,S24の共通接続点の間には、スイッチング素子S25〜S28が直列に接続され、スイッチング素子S25,S26の共通接続点とS27,S28の共通接続点の間にはフライングキャパシタC3が接続されている。
【0005】
前記直流キャパシタC1およびスイッチング素子21の共通接続点を直流電源の正極端子Pとし、直流キャパシタC2およびスイッチング素子S24の共通接続点を直流電源の負極端子Nとし、直流キャパシタC1,C2の共通接続点とスイッチング素子S22,S23の共通接続点を共通に接続して中性点端子NPとし、スイッチング素子S26,S27の共通接続点を交流端子Rとしている。
【0006】
図16に示す5レベルインバータは、各スイッチング素子S21〜S28をON,OFF動作、および、各直流キャパシタC1,C2、フライングキャパシタC3の電圧VC1,VC2,VC3をVC1=VC2=1/2E、VC3=1/4Eとなるように制御することによって、端子NP−R間に
図17に示すような、5レベルの相電圧を出力することができる。
【0007】
なお、直流キャパシタの電圧制御についての技術は特許文献2、フライングキャパシタの電圧制御についての技術は特許文献3に記載されている。
【0008】
交流電圧源または交流負荷から、別の交流電圧源または交流負荷に対して電力変換を行う場合、
図18のように、交流−直流変換回路を2つ(41、42)用意し、それぞれの直流電源を共通の直流電源(直流キャパシタ31)となるように背中合わせに接続(バックトウバック構成)することで、交流−交流電力変換回路を実現する方法がある。
【0009】
図18において、直流キャパシタ31は
図16の直流キャパシタC1,C2の直列体で構成されている。交流−直流変換回路41は、
図16のスイッチング素子S21〜S28およびフライングキャパシタC3と同一に構成した交直変換部を3相分(41.1、41.2、41.3)直流キャパシタ31に対して並列に接続し、各中性点端子NPどうしを共通に接続し、各交流端子Rを三相電圧源Vsの各相に各々リアクトルLを介して接続して構成されている。
【0010】
交流−直流変換回路42は、
図16のスイッチング素子S21〜S28およびフライングキャパシタC3と同一に構成した交直変換部を3相分(42.1、42.2、42.3)直流キャパシタ31に対して並列に接続し、各中性点端子NPどうしを共通に接続し、各交流端子Rを三相負荷Mの各相に各々接続して構成されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
図1〜
図4は本発明のマルチレベル電力変換装置の一実施形態例を示している。
【0024】
本実施形態例は、直流キャパシタ1(共通の直流電圧源)に対して三相分の交直変換回路4−1,4−2,4−3を並列に接続した例を示しているが、これに限らず、単相の構成(1つの直流キャパシタ1と2つの交直変換回路(4)による構成)であっても、4相以上の構成であってもよい。
【0025】
図1において、直流キャパシタ1は第1および第2のキャパシタCDC1,CDC2の直列体により構成され、該直列体の共通接続点を中性点端子NPとし、正極側を正極端子Pとし、負極側を負極端子Nとしている。
【0026】
交直変換回路4は、
図4に示すように共通回路2、電圧選択回路3.1(第1の電圧選択回路)および電圧選択回路3.2(第2の電圧選択回路)を備え、この交直変換回路4が
図1に示すように三相分(4−1,4−2,4−3)直流キャパシタ1に並列に接続されている。
【0027】
図2、
図4において、共通回路2は、第1のスイッチング素子S1、第1のフライングキャパシタCFC1、第2のスイッチング素子S2、第3のスイッチング素子S3、第2のフライングキャパシタCFC2および第4のスイッチング素子S4を順次直列接続した回路であって、スイッチング素子S1の非接続側端は端子15を介して前記直流キャパシタ1の正極端子Pに接続され、スイッチング素子S4の非接続側端は端子11を介して前記負極端子Nに接続され、スイッチング素子S2,S3の共通接続点は端子13を介して前記中性点端子NPに接続されている。
【0028】
また、スイッチング素子S1およびフライングキャパシタCFC1の共通接続点を端子14’とし、フライングキャパシタCFC1およびスイッチング素子S2の共通接続点を端子14とし、スイッチング素子S3およびフライングキャパシタCFC2の共通接続点を端子12’とし、フライングキャパシタCFC2およびスイッチング素子S4の共通接続点を端子12としている。
【0029】
図2の共通回路2は、
図1において三相分が共通回路2−1,2−2,2−3として設けられ、スイッチング素子S1〜S4、フライングキャパシタCFC1,CFC2および端子11〜15、12’、14’には、末尾に_1、_2、_3を各々付している。
【0030】
電圧選択回路3は、
図4のように1つの共通回路2に対して、同様に構成された2つの電圧選択回路3.1(第1の電圧選択回路)および電圧選択回路3.2(第2の電圧選択回路)が並列に接続されるものであり、
図3は1つの電圧選択回路を示している。
【0031】
図4において、電圧選択回路3.1は、前記第1のフライングキャパシタCFC1の両端間(端子14’、14間)に第5および第6のスイッチング素子S5.1,S6.1を直列に接続し、前記フライングキャパシタCFC2の両端間(端子12’、12間)に第7および第8のスイッチング素子S7.1,S8.1を直列に接続し、前記第5および第6のスイッチング素子S5.1,S6.1の共通接続点(16.1)と前記第7および第8のスイッチング素子S7.1,S8.1の共通接続点(17.1)との間に第9および第10のスイッチング素子S9.1,S10.1を直列に接続して構成されている。
【0032】
前記スイッチング素子S9.1,S10.1の共通接続点を第1の交流出力端子18.1としている。
【0033】
また電圧選択回路3.2は、前記第1のフライングキャパシタCFC1の両端間(端子14’、14間)に第11および第12のスイッチング素子S5.2,S6.2を直列に接続し、前記フライングキャパシタCFC2の両端間(端子12’、12間)に第13および第14のスイッチング素子S7.2,S8.2を直列に接続し、前記第11および第12のスイッチング素子S5.2,S6.2の共通接続点(16.2)と前記第13および第14のスイッチング素子S7.2,S8.2の共通接続点(17.2)との間に第15および第16のスイッチング素子S9.2,S10.2を直列に接続して構成されている。
【0034】
前記スイッチング素子S9.2,S10.2の共通接続点を第2の交流出力端子18.2としている。
【0035】
図4の第1の電圧選択回路3.1は
図1において三相分が電圧選択回路3.1−1、3.1−2、3.1−3として設けられ、スイッチング素子S5.1〜S10.1および端子16.1、17.1、18.1には各々末尾に_1、_2、_3を各々付している。
【0036】
図4の第2の電圧選択回路3.2は
図1において三相分が電圧選択回路3.2−1、3.2−2、3.2−3として設けられ、スイッチング素子S5.2〜S10.2および端子16.2、17.2、18.2には各々末尾に_1、_2、_3を各々付している。
【0037】
前記第1の交流出力端子18.1_1、18.1_2、18.1_3は、後述する
図7のように、例えば三相電圧源VsのR,S,T相に各々リアクトルLを介して接続され、第2の交流出力端子18.2_1、18.2_2、18.2_3は、例えば三相負荷MのU,V,W相に各々接続されている。
【0038】
また、第1の交流出力端子(18.1_1、18.1_2、18.1_3)に三相負荷Mを、第2の交流出力端子(18.2_1、18.2_2、18.2_3)に三相電圧源Vsを接続してもよく、また三相負荷Mの代わりに第2の三相電圧源を接続してもよい。
【0039】
図1のように構成された回路は、2つの異なる三相交流電源もしくは負荷と、ひとつの直流電圧源の間で、交流−直流電力変換を行う機能を有する交流−直流電力変換器である。またそれは同時に、二つの交流電源もしくは負荷間において、交流−交流電力変換を行う機能を有する交流−交流電力変換器である。
【0040】
まず、それぞれの回路要素について、その動作と作用を説明する。
図2に示す共通回路2は、端子15、端子13、端子11間に接続される直流電圧源(直流キャパシタ1)と、フライングキャパシタCFC1,CFC2による直流電圧源、およびスイッチング素子S1〜S4によって、端子14’、端子14、端子12’、端子12に異なる電圧を出力する機能を有する。共通回路2と直流電圧源(直流キャパシタ1)の組合せ部分を表した
図5を用いてその機能を説明する。
【0041】
共通回路2の端子15と端子13の間にキャパシタCDC1を、端子13と端子11の間にキャパシタCDC2を各々接続した場合を考える。CDC1の両端電圧をVDC1、CDC2の両端電圧をVDC2、CFC1の両端電圧をVFC1、CFC2の両端電圧をVFC2とし、電圧の極性は図示方向とする。また端子13=端子NPを基準電位(零電位)とする。スイッチング素子S1,S2,S3,S4の状態による端子14’、端子14、端子12’、端子12に発生するNPに対する電位は次の表1でしめされる(なお、スイッチング素子などによる電圧降下は無視する)。
【0043】
スイッチング素子S1とS2、およびS3とS4は、キャパシタCDC1,2とフライングキャパシタCFC1,2の短絡を防ぐため、相補動作を行う。したがって、そのスイッチングパターンは4つとなる。
【0044】
パターン1では、スイッチング素子S1とS3が導通する(S2とS4は遮断する)。端子14’には端子15(端子P)の電位VDC1が発生する。端子14にはVDC1からフライングキャパシタCFC1の電位を減算したVDC1−VFC1の電位が発生する。端子12’には端子13(端子NP)の電位0が発生する。端子12には、0からフライングキャパシタCFC2の電位を減算した−VFC2の電位が発生する。
【0045】
パターン2では、スイッチング素子S1とS4が導通する(S2とS3は遮断する)。端子14’には端子15(端子P)の電位VDC1が発生する。端子14にはVDC1からフライングキャパシタCFC1の電位を減算したVDC1−VFC1の電位が発生する。端子12’には端子11(端子N)の電位−VDC2からCFC2の電位を加算した電位−VDC2+VFC2が発生する。端子12には、端子11(端子N)の電位−VDC2の電位が発生する。
【0046】
パターン3では、スイッチング素子S2とS3が導通する(S1とS4は遮断する)。端子14’には端子13(端子NP)の電位0にフライングキャパシタCFC1の電位を加算したVFC1が発生する。端子14には端子13(端子NP)の電位0が発生する。端子12’には端子13(端子NP)の電位0が発生する。端子12には、0からフライングキャパシタCFC2の電位を減算した−VFC2の電位が発生する。
【0047】
パターン4では、スイッチング素子S2とS4が導通する(S1とS3は遮断する)。端子14’には端子13(端子NP)の電位0にフライングキャパシタCFC1の電位を加算したVFC1が発生する。端子14には端子13(端子NP)の電位0が発生する。端子12’には端子11(端子N)の電位−VDC2からCFC2の電位を加算した電位−VDC2+VFC2が発生する。端子12には、端子11(端子N)の電位−VDC2の電位が発生する。
【0048】
キャパシタCDC1,CDC2の電位VDC1,VDC2が2E、フライングキャパシタCFC1,CFC2の電位VFC1、VFC2がEの場合、各スイッチングパターンの時の各端子の電位は表2のようになる。
【0050】
表2のパターン1から4を選択することで、各端子に2E,E,0,−E,−2Eの5種類の電位のうち、3または4種類の電位を発生させることができる。例えばパターン1では2E,E,0,−Eの電位を4つの端子にそれぞれ出力できる。ただし、この4つのパターンにおいて2Eと0、−2Eの電位が同時に出力されるパターン存在しない、
次に、
図3の電圧選択回路3について説明する。この回路は、共通回路2の端子14’、端子14、端子12’、端子12に接続され、これら4つの端子に発生した電位のうち、どれかひとつを選択して端子18に出力させる機能を有する。スイッチング素子S5とS6、S7とS8、S9とS10はそれぞれ相補動作を行う。各スイッチング素子と端子18に出力される電圧のパターンを表3に示す。
【0052】
表3のパターン1〜4によって、端子18に、端子14’、端子14、端子12’、端子12が接続される。パターン1および2においては、スイッチング素子S7,S8のスイッチの状態は不問である。またパターン3、4においては、スイッチング素子S5,S6のスイッチング素子の状態は不問であるが、表3のように選択することで、オフになっているスイッチング素子に過大な電圧がかかることを抑制できる。
【0053】
次に、
図2と
図3を組み合わせて構成された交直変換回路4の動作について
図6を用いて説明する。
図6は交直変換回路4と直流キャパシタ1の部分を表しており、
図4、
図5と同一部分は同一符号をもって示している。
【0054】
共通回路2の端子15、端子13、端子11には、キャパシタCDC1,CDC2からなる直流電圧源(直流キャパシタ1)の端子P,端子NP,端子Nがそれぞれ接続されている。キャパシタCDC1,CDC2の電圧をVDC1,VDC2とし、共通回路2のフライングキャパシタCFC1,CFC2の電圧をVFC1,VFC2とする。
【0055】
以下の説明は、VDC1,VDC2を+2E、VFC1,VFC2を+Eとした時について行う。中性点端子NPの電位を基準電位とし、交流出力端子18.1および18.2の出力電圧をそれぞれV1,V2、出力電流をI1,I2とする。電流I1,I2の方向は、
図6の図示方向を正とする。
【0056】
各スイッチング素子のスイッチングパターンと、交流出力端子18.1および18.2の出力電圧の関係を、表4に示す。
【0058】
表4において、選択可能なスイッチングパターンは48パターンとなる。共通回路2および電圧選択回路3のスイッチングパターンの数字は、表2、表3におけるスイッチングパターンの番号と、スイッチ状態の関係を適用している。
【0059】
フライングキャパシタCFC1およびCFC2の充放電の列は、各スイッチングパターンを選択した際に、フライングキャパシタが充電されるか放電されるか、および充放電にどの出力電流が関与するかを示している。この充放電の極性は、交流出力電流I1,I2が、正(
図6の図示矢印方向)である場合を示しており、負である場合は充放電の極性も反転する。
【0060】
充放電列の読み方を例としてふたつ提示する。パターン10のとき、“CFC1充放電”の列は充電I1、“CFC2充放電”の列は充電I2とあるが、これはI1の電流によってCFC1が充電され、I2の電流によってCFC2が充電されることを意味する。I1の極性が負の場合は、I1の電流によってCFC1が放電されることになる。またパターン13では、“CFC1充放電”の列は放電I1+I2、“CFC2充放電”の列は“−”(ハイフン)とあるが、これはI1+I2の電流によってCFC1が放電され、CFC2には充放電が発生しないことを意味している。I2の極性が負の場合は、I1−I2の電流によってCFC1は充電されることになり、もし|I1|<|I2|ならば、CFC1は放電されることになる。
【0061】
本来、出力端子18.1および18.2の出力電圧の組合せは25通り(5レベル×5レベル)であるが、スイッチングパターンは48通り存在する。これは、+E、−E、0を出力する場合の電流の経路が2パターン存在するためである。この冗長なスイッチングパターンにより、同じ電圧出力であっても、フライングキャパシタCFC1,CFC2の充放電の状態が変わる場合がある。
【0062】
以上により、この交直変換回路は、任意のマルチレベル交流電圧をそれぞれの出力端子に出力することができ、またフライングキャパシタの充放電に対して選択を行うことが可能になる。
【0063】
次に、
図1の回路の動作および作用を
図7の構成例に基づいて説明する。
図7の回路構成では、直流電圧源を構成する直流キャパシタ1に対して交直変換回路を並列に3つ接続し、さらに例として各交直変換回路が2つずつ備える交流出力端子(18.1_1、18.1_2、18.1_3又は18.2_1、18.2_2、18.2_3)のうち、それぞれ一方を三相電圧源Vsに、他方を三相負荷M(モータ)に各々接続している。
【0064】
ここで、各交直変換回路4−1,4−2,4−3は、
図6及び表2、表3、表4により、それぞれが備える2つの交流出力端子に任意の5レベル電圧を出力することが可能であることが示されている。
【0065】
また、それぞれの交直変換回路同士で、その出力電圧レベルの選択に制限がないことも自明である。従って、
図1の回路において、6つの交流出力端子(18.1_1、18.1_2、18.1_3、18.2_1、18.2_2、18.2_3)に、それぞれ任意の5レベル電圧が出力できる。
【0066】
実際の適用においては、三相電圧源Vsや三相負荷Mに接続した変換器の電圧/電流制御や、フライングキャパシタの電圧制御、直流電圧源(直流キャパシタ1)の中性点制御など各種制御、その他スナバやリアクトル・フィルタなどの補助回路などが必要であるが、それらは既存技術でるため、ここでは記さない。
【0067】
次に、導通損失について説明する。ここでは、三相交流−三相交流変換を行う回路を考える。
【0068】
5レベルの交流電圧出力が可能な交流−交流電力変換回路の既存技術例としては、
図18に示すように、
図6の5レベルインバータを三相分用いた三相電力変換回路を、直流電圧側でバックトウバックに接続した回路があげられる。素子の耐電圧およびキャパシタの容量などを考慮しない場合、
図18の回路はスイッチング素子48個、フライングキャパシタ6個で構成される。一方、
図7に示す本実施形態例の回路もスイッチング素子48個、フライングキャパシタ6個で構成される。そのため、出力電圧レベルおよび回路要素数としては同等である。
【0069】
次に、これら2つの回路構成における導通損失について考える。まず、
図18に示した従来の電力変換回路について考える。
図8に電力変換回路1相あたりのスイッチングパターンと電流経路を示す。
図8は
図18における例えば交直変換部42.1の回路を示しており、各部の符号は
図16の各部と同一の符号を
図8(a)に付している。
【0070】
図8(a)〜(h)の全てのスイッチングパターンにおいて、電流が通過するスイッチング素子の数は3つになる。従って、このとき発生する導通損失pは、次の式(1)で表すことができる。
【0071】
P=i
2×(3×R
ON)…(1)
ここで、iは
図8の電流経路に流れる電流、R
ONはスイッチング素子のオン抵抗である。ここでは、全てのスイッチング素子が同じオン抵抗を持つと仮定する。また、スイッチング素子内部のゲート駆動素子部のオン抵抗と逆並列ダイオード部のオン抵抗は等しいと仮定する。
【0072】
次に本発明の回路の導通損失について考える。
図9に、本発明の
図1、
図7の回路における1相分の交直変換回路を示す。
図9において
図6と同一部分は同一符号をもって示している。
【0073】
この回路の導通損失を考える上で、2つの出力端子18.1、18.2の電圧V1,V2および電流の極性の状態によって3つの状態に分けて考える。表5にその3つの状態を示す。
【0075】
<状態1>
状態1の時の電流経路の一例を
図10に示す。
図10は表5の状態1のうち、V1>0、V2>0、I1>0、I2>0の場合の例を示している。
図10(a)はスイッチング素子S2がオフであり、スイッチング素子S1,S5.1,S5.2,S9.1,S9.2がオンであるパターンを示し、
図10(b)はスイッチング素子S1がオフであり、スイッチング素子S2,S6.1,S6.2,S9.1,S9.2がオンであるパターンを示している。
【0076】
図10においては、出力電流I1とI2は同じ極性なので、スイッチング素子S1またはS2に|I1|と|I2|を加算した電流が流れる。従って、このときの導通損失は次の式(2)で示すことができる。
【0077】
P=I
12×(2×R
ON)+I
22×(2×R
ON)+(|I
1|+|I
2|)
2×R
ON…(2)
<状態2>
状態2の時の電流経路の一例を
図11に示す。
図11は表5の状態2のうち、V1>0、V2>0、I1<0、I2>0の場合の例を示している。
図11(a)はスイッチング素子S2がオフであり、スイッチング素子S1,S5.1,S5.2,S9.1,S9.2がオンであるパターンを示し、
図11(b)はスイッチング素子S1がオフであり、スイッチング素子S2,S6.1,S6.2,S9.1,S9.2がオンであるパターンを示している。
【0078】
図11においては、出力電流I1とI2は異なる極性なので、スイッチング素子S1またはS2に|I1|から|I2|を減算した電流が流れる。従って、このときの導通損失は次の式(3)で示すことができる。
【0079】
P=I
12×(2×R
ON)+I
22×(2×R
ON)+(|I
1|−|I
2|)
2×R
ON…(3)
<状態3>
状態3の時の電流経路の一例を
図12に示す。
図12は表5の状態3のうち、V1>0、V2<0、I1<0、I2>0の場合の例を示しており、電流I1はスイッチング素子S9.1、S5.1、S1の各逆並列ダイオード部を介して流れ、電流I2はスイッチング素子S4、S8.2、S10.2の各逆並列ダイオード部を介して流れる。
【0080】
状態3においては、I1の電流経路とI2の電流経路とが互いに干渉しない。従って、このときの導通損失は次の式(4)で示すことができる。
【0081】
P=I
12×(3×R
ON)+I
22×(3×R
ON)…(4)
以上の3つの状態における導通損失と、
図18に示す従来回路における導通損失とを比較する。従来回路と本発明回路における電流/電圧条件を一致させるため、従来回路においては本発明回路と同様に2相の交直変換回路とし、同じ電流I1,I2であるとする。
【0082】
従来回路の2相の導通損失は、いかなる電圧状態においても下記式(5)となる。
【0083】
P=I
12×(3×R
ON)+I
22×(3×R
ON)…(5)
この式(5)の損失と本発明回路の各状態における損失を比較すると以下のとおりとなる。
【0084】
・状態1のときの本発明回路の導通損失である式(2)と比較すると、本発明回路の方が導通損失は大きくなる。
【0085】
・状態2のときの本発明回路の導通損失である式(3)と比較すると、本発明回路の導通損失は小さくなる。
【0086】
・状態3のときの本発明回路の導通損失である式(4)と比較すると、本発明回路と従来回路の導通損失は同じである。
【0087】
次に交流−交流変換装置において、本発明回路は状態1、2、3のうちどの状態が支配的になるかを以下に示す。
【0088】
交流−交流変換装置は、ある交流電源(負荷)から別の周波数・電圧の交流電源(負荷)に対して電力を授受する動作を行う。そのとき、一般的には双方の力率は1に近くなるように制御される。そこで、
図7に示す二つの三相交流端子(18.1_1、18.1_2、18.1_3と18.2_1、18.2_2、18.2_3)に、三相交流電源(Vs)と三相交流モータ(M)を図示のように接続した場合について、交流電源の周波数が50H
Z、モータの周波数が40H
Zにおける、以下の条件(a)時の導通損失について説明する。
【0089】
<条件(a);交流電源側変換器の力率=1、モータ側変換器の力率=1>
この条件時のそれぞれの電圧と電流の関係は
図13のようになる。
図13の上段が交流電源側の電圧V1・電流I1、下段がモータ側の電圧V2・I2である。
図13で分かるとおり、条件(a)では状態2および3しか存在しない。これは、交流電源側変換器の力率が1およびモータ側変換器の力率が1の条件時では、V1とI1は常に逆極性となり、かつ、V2とI2が常に同極性となるため、表5からわかるように状態1が存在しえないからである。
【0090】
従って、この運転条件においては、従来回路よりも導通損失が低下する。このことは、モータの周波数が40Hz以外で運転した条件においても同様である。
【0091】
前述のように、一般的に交流−交流変換装置では、交流電源側変換器の力率=1、モータ側変換器の力率=1に近くなるように制御されるので、条件(a)の時に導通損失を低減することが大きな効果となる。
【0092】
参考として、モータ側変換器の力率=1以外の条件(条件(b)、(c))についても説明する。
【0093】
<条件(b);交流電源側変換器の力率=1、モータ側変換器の力率=遅れ0.8>
この条件時のそれぞれの電圧と電流の関係は
図14のようになる。
図14では従来の変換器よりも損失が増加する状態1の領域が現われるので、その分だけ条件(a)と比較すると導通損失が増加する。しかし、状態2の領域の方が状態1の領域よりも広くて支配的である。したがって、同条件時の従来回路と比較して導通損失は概ね低下する。
【0094】
<条件(c);交流電源側変換器の力率=1、モータ側変換器の力率=0>
この条件時のそれぞれの電圧と電流の関係は
図15のようになる。
図15では従来の変換器に対して導通損失が増加する状態1の領域と低下する状態2の領域が均等に現われる。従って、同条件時の従来回路とほぼ同等の導通損失となる。
【0095】
参考として、上記の各条件(a)〜(c)時の変換器の導通損失の計算結果を表6に示す。電流値、スイッチング素子のオン抵抗値等は、所定の条件を設定して計算した。
【0097】
なお、本実施例ではモータ負荷を例としたが、他の負荷においても本発明は適用できる。また、
図1の回路は3相構成であるが、交直変換回路が4−1と4−2のみの単相構成としても適用できる。また、スイッチング素子の耐電圧もしくは耐電流の関係で、
図1の回路のいずれかのスイッチング素子の直列数を2直列以上、もしくは、並列数を2並列以上に構成してもよい。