(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エンジンは、車幅方向に沿って複数のシリンダーが配列され、車体側面視で前記シリンダーの軸線が上方を向いたシリンダーアッセンブリーを備えた並列多気筒エンジンであり、
前記吸気タービンケーシングから延出する吸気インレット管と吸気アウトレット管とが、双方とも車体側面視で前記シリンダーの軸線に略平行する角度で平行に上方に延び、且つ、車体正面視で前記吸気タービンケーシングと前記補助電動機との間に配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に示されている電動アシスト式ターボ装置は、いずれも排気タービンと吸気タービンとの間に補助電動機が設置されているため、排気タービン側の高熱がタービン軸やタービンケーシングを経て補助電動機に伝わりやすく、補助電動機に熱害が及ぶ虞がある。このため、補助電動機の材質等の耐熱性を考慮するとともに、補助電動機に専用の遮熱部材や冷却装置を設ける必要があり、これによってターボ装置のシステムとしてコンパクト性が損なわれ、重量が大きくなるとともに、製造コストの高いものとなる。
【0008】
また、補助電動機でタービン軸を高速回転させるためには高い電流を流す必要があり、この時に補助電動機の雰囲気温度が高いと、モーターコイルが溶損する虞があるため、必要な電流を流せなくなるという不具合が懸念される。
【0009】
さらに、このような電動アシスト式ターボ装置を自動二輪車のエンジンに適用する場合には、これまで設けられていなかったターボチャージャーや補助電動機等の機材がエンジンに設置されることにより、車体の左右重量バランスが不均等になったり、車幅が拡がることにより車両のバンク角度が小さくなったりして自動二輪車の乗車性、走行安定性、および運動性が低下する虞があるため、これらの機材の配置には充分な配慮が必要である。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、タービン軸の回転上昇をアシストする補助電動機に熱害が及ぶことを防止するとともに、自動二輪車特有の車体レイアウトに適合し、自動二輪車の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することのできる、自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置、これを備えたエンジン、および自動二輪車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置は、上記課題を解決するため、エンジンに過給を行うターボチャージャーのタービン軸の回転上昇を補助電動機でアシストするように構成された自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置であって、前記タービン軸には排気タービンと吸気タービンと前記補助電動機とが同軸的に設けられ、前記補助電動機は、前記吸気タービンが収容される吸気タービンケーシングを挟んで、前記排気タービンが収容される排気タービンケーシングの反対側に配置
され、前記補助電動機と前記排気タービンケーシングとの間に配置された前記吸気タービンケーシングから、前記吸気タービンに圧縮される前の空気を吸入するための吸気インレット管と、前記吸気タービンで圧縮された後の圧縮空気を送気するための吸気アウトレット管とが、それぞれ上方に向かって延出していることを特徴とする。
【0012】
上記構成の電動アシスト式ターボ装置によれば、高温になる排気タービンケーシングと、熱を嫌う補助電動機との間に吸気タービンケーシングが介在し、吸気タービンケーシングは排気タービンケーシングに比べて温度が格段に低いため、補助電動機に排気タービン側の熱害が及ぶことを効果的に防止することができる。
【0013】
このため、補助電動機の材質には特に耐熱性が要求されなくなり、また、専用の冷却装置や遮熱装置を設ける必要もなくなるので、電動アシスト式ターボ装置の重量軽減およびコンパクト化を図るとともに、製造コストを低減させることができる。しかも、補助電動機の雰囲気温度が低いため、補助電動機に大電流を流してもモーターコイルが溶損する虞が無く、これによって補助電動機の性能を最大限に発揮させてターボラグを解消することができる。
【0014】
また、本発明に係る自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置は、上記構成において、前記タービン軸は、その軸方向が自動二輪車の車幅方向に沿うように配置され、自動二輪車の正面視で、前記排気タービンケーシングは、車体中心線に対して前記エンジンの排気マフラー側にオフセットして配置され、前記吸気タービンケーシングと前記補助電動機は、前記車体中心線を挟んで前記排気タービンケーシングの反対側に配置されていることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、自動二輪車の車体中心線に対して一側に排気マフラーと排気タービンケーシングが設置され、他側に吸気タービンケーシングと補助電動機が配置されるので、自動二輪車の左右の車体重量バランス配分が適正化され、これによって自動二輪車の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる
【0016】
また、本発明に係る自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置は、上記構成において、前記エンジンは、車幅方向に沿って複数のシリンダーが配列され、車体側面視で前記シリンダーの軸線が上方を向いたシリンダーアッセンブリーを備えた並列多気筒エンジンであり、前記吸気タービンケーシングから延出する吸気インレット管と吸気アウトレット管とが、双方とも車体側面視で前記シリンダーの軸線に略平行する角度で平行に上方に延び、且つ、車体正面視で前記吸気タービンケーシングと前記補助電動機との間に配置されていることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、近年の一般的な自動二輪車においてはエンジンの前上方にエアクリーナーやサージタンク等の吸気装置が配置されているため、このような吸気装置と吸気タービンとの間を接続する吸気インレット管および吸気アウトレット管を最短化および直線化することができる。また、吸気インレット管および吸気アウトレット管の設置によって自動二輪車の車幅が広がることを防止でき、車両のバンク角を充分に確保することができる。
【0018】
このため、電動アシスト式ターボ装置の設置が自動二輪車特有の車体レイアウトに適合したものとなり、自動二輪車の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる。
【0019】
また、本発明に係る自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置は、上記構成において、前記吸気インレット管および前記吸気アウトレット管が、車体側面視
でタービン軸よりも車体前方にオフセットして
設けられており、さらに、前記吸気インレット管および前記吸気アウトレット管は、車体側面視でシリンダーよりも車体前方に設けられ、さらにまた、前記吸気インレット管および前記吸気アウトレット管は、車体側面視で排気マフラーよりも車体前方に設けられたことを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、ターボチャージャーの吸気タービンケーシングから上方に延びる吸気インレット管および吸気アウトレット管と、エンジンのシリンダーアッセンブリー前面から延出してターボチャージャーの排気タービンケーシングに接続される複数の排気管とが互いに干渉することを防止できる。また、自動二輪車の走行時においては、前方からの走行風の流れの上流側に吸気インレット管および吸気アウトレット管が位置し、その下流側に排気管が位置するため、排気管の熱が吸気インレット管および吸気アウトレット管に及ぶことを防止することができる。
【0021】
また、本発明に係る自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置は、上記構成において、車体側面視で、前記ターボチャージャーは、前記シリンダーアッセンブリーの前面側、且つ前記シリンダーアッセンブリーの前面上部に開口している排気ポートの中心延長線よりも下方に設けられていることを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、自動二輪車においてはエンジンのシリンダーアッセンブリーの前方にラジエーターが設置されているため、このラジエーターにターボチャージャーが機械的および熱的に干渉することを防止し、ラジエーターの配置スペースを確保しつつ、ターボチャージャーの高さをエンジンのクランク軸付近とし、車体の低重心化を図ることができる。このため、電動アシスト式ターボ装置の設置が自動二輪車特有の車体レイアウトに適合したものとなり、自動二輪車の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる。
【0023】
また、本発明に係る自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置は、上記構成において、前記補助電動機が、車体正面視で、前記シリンダーアッセンブリーの全幅よりも内側に収まるように配置されていることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、電動アシスト式ターボ装置(補助電動機)の設置によりエンジン幅が拡がることを防止し、自動二輪車の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる。
【0025】
また、本発明に係る自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置は、上記構成において、前記エンジンの始動および前記補助電動機に賄う電力の発電を行うEVモーターを備え、前記EVモーターは前記シリンダーアッセンブリーの後面側に搭載され、前記EVモーターの主軸は、ギアを介して前記エンジン内部の回転軸に常時駆動されるようになっていることを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、エンジンのシリンダーアッセンブリー後面に設けられたEVモーターによってエンジンの始動が行われ、エンジンの始動後は、このEVモーターがエンジンに逆駆動されて発電機として機能し、電動アシスト式ターボ装置の補助電動機の電力を賄う。
【0027】
このように、EVモーターが、エンジン始動用のスターターモーターとしての機能と、電動アシスト式ターボ装置の補助電動機に電力を供給する発電機としての機能を併せ持つため、電動アシスト式ターボ装置をコンパクト化し、自動二輪車特有の車体レイアウトに適合させて、自動二輪車の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる。
【0028】
また、本発明に係るエンジンは、上記のいずれかの自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置を備えたことを特徴とする。
【0029】
さらに、本発明に係る自動二輪車は、上記のエンジンを搭載したことを特徴とする。
【0030】
上記のエンジンおよび自動二輪車によれば、電動アシスト式ターボ装置の補助電動機に排気タービン側の熱害が及ぶことを防止しつつ、電動アシスト式ターボ装置を設けたことによって自動二輪車の乗車性、走行安定性、および運動性が低下することを回避することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明に係る自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置、これを備えたエンジン、および上記エンジンを搭載した自動二輪車によれば、補助電動機でタービン軸の回転上昇をアシストすることにより、エンジンの低速回転域からのタービン軸回転速度の立ち上がりの遅れ、即ちターボラグを解消し、エンジンの出力応答性を改善することができる。
【0032】
しかも、タービン軸の回転をアシストする補助電動機に排気タービン側からの熱害が及ばなくなるため、補助電動機に耐熱構造、遮熱部材、冷却装置等を適用する必要性がなくなり、電動アシスト式ターボ装置の構造簡素化、コンパクト化、重量軽減を図るとともに、製造コストを飛躍的に低減させることができる。
【0033】
さらに、電動アシスト式ターボ装置を自動二輪車特有の車体レイアウトにうまく適合させ、自動二輪車の左右の車体重量バランス配分等を適正化するとともに、車幅寸法の増大を防止して、自動二輪車の乗車性、走行安定性、運動性等の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一実施形態について、
図1から
図10を参照して説明する。
【0036】
図1は、本発明に係る電動アシスト式ターボ装置が適用された自動二輪車の一例を示す左側面図であり、
図2は車体フレームの前半部分およびエンジン等の平面図、
図3はエンジンおよび電動アシスト式ターボ装置の左側面図である。
【0037】
この自動二輪車1は、例えばツインチューブ型の車体フレーム2を備えており、この車体フレーム2の前半部分にエンジン3が搭載される。エンジン3は、クランクケース4の上にシリンダーアッセンブリー5が設置された並列多気筒(例えば4気筒)エンジンであり、そのクランク軸6が車幅方向に延びるように軸支され、シリンダーアッセンブリー5の内部には車幅方向に沿って4つのシリンダー(非図示)が配列される。
【0038】
シリンダーアッセンブリー5のシリンダー軸線4aは斜め前上方を向いて前傾しており、
図2に示すように、車体フレーム2の前半部分を構成する左右一対のメインチューブ2aの間にシリンダーアッセンブリー5が挟まる車体レイアウトとなっている。また、
図1に示すように、エンジン3の上部に燃料タンク9が設置され、燃料タンク9の後部に続くように着座シート10が設置される。
【0039】
一方、車体フレーム2の前頭部に位置するヘッドパイプ2bにフロントフォーク14が左右操舵自在に軸支されており、このフロントフォーク14の先端に前輪15が支持される。フロントフォーク14の上部にハンドルバー16が設けられる。ハンドルバー16の右側のグリップがエンジン3の出力を調節するスロットルグリップとされ、そのスロットル開度を検出するスロットル開度センサー17が設けられる。
【0040】
他方、車体フレーム2の中央下部に架設されたピボット軸20にスイングアーム21が上下揺動自在に軸支され、その後端に後輪22が支持され、エンジン3の動力が
図8に示すチェーン23によって後輪22に伝達されるようになっている。スイングアーム21は、クッションユニット24およびリンク機構25によってその上下動を緩衝、復元される。
【0041】
図2,
図3および
図5に示すように、シリンダーアッセンブリー5の上部を構成するシリンダーヘッド8の後面に4つの吸気ポート27が開口しており、この吸気ポート27に、
図1および
図4に示す電子制御スロットル装置28が接続される。電子制御スロットル装置28は、吸気ポート27を流れる空気に燃料を噴射するとともに、スロットル開度に応じて吸気ポート27の通気面積を調整する。
【0042】
また、
図1に示すように、燃料タンク9の前下部には上方に抉れた凹部があり、その中に設置されているサージタンク29に下方から電子制御スロットル装置28が接続されている。燃料タンク9の底部には電子制御スロットル装置28に燃料を供給する燃料ポンプ30が設けられる。なお、エンジン3の排気マフラー32は、例えばエンジン3の右側下方に配置される。また、エンジン3の冷却水を熱交換するラジエーター33がシリンダーアッセンブリー5の頂部前方付近に設置される。
【0043】
さらに、着座シート10の下部に、大容量のバッテリー35と、インバーター(コンバーター)ユニット36と、ミッションコントローラー37と、その他のコントローラー38とが設置される。ミッションコントローラー37は、エンジン3のクランクケース4に設置されたオートマチックミッション装置39を制御するものである。また、例えば燃料タンク9とサージタンク29との間のスペースにエンジンコントロールユニット40が配置される。
【0044】
図1,
図3および
図4に示すように、エンジン3には電動アシスト式ターボ装置41が設けられる。この電動アシスト式ターボ装置41は、
図6、
図7にも示すように、ターボチャージャー42と、このターボチャージャー42に隣接して設けられた補助電動機43とを備えて構成される。ターボチャージャー42は、エンジン3の排気ガスのエネルギーを利用してエンジン3の吸気ポート27に空気を過給する過給機である。
【0045】
また、補助電動機43は、ターボチャージャー42の内部に軸支されたタービン軸44(
図6参照)の回転上昇時に、その回転をアシスト(助勢)してターボラグを解消するとともに、過給を行わない時にはタービン軸44に逆駆動されて発電を行う発電機として機能するものである。この補助電動機43は、タービン軸44に対して同軸的に設けられて一体に回転するようになっているが、両者の中間に減速機構または増速機構、あるいは変速機構を介装してもよい。
【0046】
図3および
図4に示すように、エンジン3のシリンダーヘッド8の前面に4つの排気ポート46が開口しており、これらの排気ポート46の下方となるエンジン3の前面側にターボチャージャー42が設置されている。
図4、
図6、
図7に示すように、ターボチャージャー42は、排気タービンケーシング48と、吸気タービンケーシング49とが車幅方向に沿って同軸的に配列されている。
図6に示すように、ターボチャージャー42の内部に軸支されているタービン軸44には、排気タービンケーシング48の内部に位置する排気タービン51と、吸気タービンケーシング49の内部に位置する吸気タービン52とが同軸的に設けられて一体に回転するようになっている。
【0047】
図3,
図4,
図6および
図7に示すように、エンジン3の4つの排気ポート46から延びる4本の排気管54が、それぞれ排気タービンケーシング48に集合するように連結される。また、排気タービンケーシング48から車体右方に延出する排気集合管55が、車体右側の下部後方に延びて排気マフラー32に繋がっている。
【0048】
図4および
図6に示すように、自動二輪車1およびエンジン3の正面視で、補助電動機43は、吸気タービンケーシング49(吸気タービン52)を挟んで排気タービン51の反対側、即ち本実施形態では吸気タービンケーシング49の左側に配置される。
【0049】
また、同じく車体正面視で、排気タービンケーシング48(排気タービン51)は、車体中心線C1に対して排気マフラー32(排気集合管55)側、即ち本実施形態では車体中心線C1の右側にオフセットして配置される。一方、吸気タービンケーシング49(吸気タービン52)と補助電動機43は、車体中心線C1を挟んで排気タービンケーシング48(排気タービン51)の反対側、即ち本実施形態では車体中心線C1の左側(
図4および
図6の右側)に配置される。
【0050】
また、
図1および
図3に示すように、車体側面視でシリンダーアッセンブリー5の前面側に設置されているターボチャージャー42と補助電動機43は、シリンダーアッセンブリー3の車両前方側で、排気ポート27の中心延長線C2よりも下方に配置される。ここで、ターボチャージャー42と補助電動機43とが、前傾しているシリンダーアッセンブリー5の最前部5aよりも前方に突出しないように配置することが望ましい。これにより、ターボチャージャー42と前輪15との間隔を短くして自動二輪車1のホイールベースの拡大を防ぐことができる。
【0051】
さらに、
図4に示すように、ターボチャージャー42から車幅方向左側に突出するように設けられている補助電動機43は、車体正面視で、シリンダーアッセンブリー5の全幅Wよりも内側に収まるように配置される。
【0052】
図1,
図3および
図4に示すように、ターボチャージャー42の吸気タービンケーシング49からは、吸気タービン52に圧縮される前の空気を外部から吸入するための吸気インレット管58と、吸気タービン52に圧縮された後の圧縮空気をサージタンク29に送気するための吸気アウトレット管59とが、それぞれ上方に向かって延出している。この吸気インレット管58と吸気アウトレット管59は、車体正面視(
図4、
図6参照)で吸気タービンケーシング49と補助電動機43との間に配置されており、車体側面視(
図1参照)でシリンダー軸線4aに略平行する角度で平行に上方に延びている。また、
図3に示すように、吸気インレット管58と吸気アウトレット管59は、車体側面視でターボチャージャー42のタービン軸44よりも車体前方にオフセットして設けられる。
【0053】
図1に示すように、吸気インレット管58は、車体フレーム2の前頭部付近に設けられたエアクリーナー61に接続される。エアクリーナー61は前方に向かって広く開口した形状であり、その開口部にはエアフィルター62が設けられる。
【0054】
一方、
図1〜
図3および
図5,
図8に示すように、エンジン3には、エンジン始動および補助電動機43等に賄う電力の発電を行うEVモーター65が備えられる。このEVモーター65は、その主軸65aを車幅方向に沿わせるようにしてシリンダーアッセンブリー5の後面側で、クランクケース4の上面側に搭載される。そして、
図8〜
図10に示すように、EVモーター65の主軸65aがギア列66を介してクランクケース4の内部に軸支されたカウンター軸67(回転軸)に常時駆動されるようになっている。
【0055】
カウンター軸67は、クランクケース4の内部でドライブ軸68および多段変速ギアセット69と共にミッション装置70を構成している。また、カウンター軸67の右端部にクラッチ機構71が設けられる。一方、ドライブ軸68の左端がクランクケース4から突出し、ここに固定されたドライブスプロケット73と、後輪22に固定されたドリブンスプロケット74との間に前述のチェーン23が巻装される。
【0056】
以上のように構成された電動アシスト式ターボ装置41を装備した自動二輪車1において、エンジン3の始動はEVモーター65により行われる。即ち、EVモーター65の主軸65aの回転がギア列66により減速されてカウンター軸67に伝達され、カウンター軸67の回転がクラッチ機構71を経てクランク軸6に伝達され、エンジン3が始動する。
【0057】
また、エンジン3の始動後は、クランク軸6の回転がギア列66により増速されてEVモーター65を逆駆動し、EVモーター65が発電機として機能するため、車体各部の電源および補助電動機43の電力が賄われる。余剰に発電された電力はバッテリー35に充電される。
【0058】
エンジン3の作動中電動アシスト式ターボ装置41は、排気ポート46から排出される排気ガスが排気管54を経てターボチャージャー42の排気タービンケーシング48に流入し、その内部の排気タービン51に当たってタービン軸44を高速で回転させる。これによってタービン軸44に設けられた吸気タービン52が一体回転し、吸気インレット管58から吸気タービンケーシング49の内部に外気が吸入される。吸入された空気は吸気タービン52に圧縮されて吸気アウトレット管59とサージタンク29とを経て電子制御スロットル装置28に送気され、ここで燃料ポンプ30から供給される燃料を混合されて燃料混合気となり、エンジン3に過給される。
【0059】
急加速時等、エンジン3が低速回転域から急速に立ち上がる時には、排気ガス排出量の増大に伴いタービン軸44の回転速度が上昇し、それから過給圧が立ち上るため、どうしても過給の遅れ、即ち過給圧上昇遅れのターボラグが発生してしまう。この場合には、スロットル開度が大きくなると同時に補助電動機43によりタービン軸44の回転がアシスト(助勢)され、ターボラグが解消される。
【0060】
即ち、エンジンコントロールユニット40がスロットル開度センサー17からのスロットル開度信号を常に受信しており、エンジン3の回転速度に対してスロットル開度の上昇率が所定の閾値を越えた場合には補助電動機43を作動させてタービン軸44の回転をアシストする。これにより、タービン軸44の回転上昇が速くなり、迅速に過給圧が立ち上がってターボラグが解消される。
【0061】
また、エンジンコントロールユニット40は、過給圧に見合ったスロットル開度となるように電子制御スロットル装置28を制御し、エンジン3の急激な出力変動を抑えて自動二輪車1の走行安定性を高める。
【0062】
ターボによる過給を必要としない減速時等においては、タービン軸44の回転によって補助電動機43が逆駆動される。この時、補助電動機43は発電機に切り替えられて回生電力を発電する。この回生電力はバッテリー35に充電され、再加速時における補助電動機43への供給電力として有効に利用される。
【0063】
本実施形態の電動アシスト式ターボ装置41は、ターボチャージャー42におけるタービン軸44の回転を補助するための補助電動機43が、吸気タービン52が収容される吸気タービンケーシング49を挟んで、排気タービン51が収容される排気タービンケーシング48の反対側に配置されている。
【0064】
このように、自動二輪車1の運転時に非常に高温化する排気タービンケーシング48と、熱を嫌う補助電動機43との間に、排気タービンケーシング48よりも格段に温度が低い吸気タービンケーシング49が介在することにより、補助電動機43に排気タービン51側の排気による熱害が及ぶことが防止される。
【0065】
このため、補助電動機43の材質には特に耐熱性が要求されなくなり、また、専用の冷却装置や遮熱装置を設ける必要もなくなるので、電動アシスト式ターボ装置41の重量軽減およびコンパクト化を図るとともに、製造コストを低減させることができる。しかも、補助電動機43の雰囲気温度が低いため、補助電動機43に大電流を流してもモーターコイルが溶損する虞が無く、これによって補助電動機43の性能を最大限に発揮させてターボラグを解消することができる。
【0066】
また、ターボチャージャー42のタービン軸44の軸方向が自動二輪車1の車幅方向に沿うように配置され、自動二輪車1の正面視で、排気タービンケーシング48が車体中心線C1に対して排気マフラー32側(ここでは右側)にオフセットして配置され、吸気タービンケーシング49と補助電動機43とが、車体中心線C1を挟んで排気タービンケーシング48の反対側(ここでは左側)に配置される。
【0067】
このため、車体中心線C1の一側に排気タービンケーシング48と排気集合管55と排気マフラー32とが設置され、車体中心線C1の他側に吸気タービンケーシング49と補助電動機43とが配置されるので、自動二輪車1の左右の車体重量バランス配分が適正化され、これによって自動二輪車1の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる。
【0068】
また、吸気タービンケーシング49から延出する吸気インレット管58と吸気アウトレット管59とが、双方とも車体側面視でシリンダーの軸線4a(
図1参照)に略平行する角度で平行に上方に延び、且つ、これらの管58,59が、車体正面視で吸気タービンケーシング49と補助電動機43との間に配置される。
【0069】
このため、自動二輪車1のエンジン3の前上方に設置されているエアクリーナー61やサージタンク29等の吸気装置に対して吸気インレット管58と吸気アウトレット管59とを最短化および直線化して接続することができ、吸気抵抗を低減させてエンジン性能を向上させるとともに、吸気インレット管58および吸気アウトレット管59の設置によって自動二輪車1の車幅が広がることを防止することができる。
【0070】
ターボチャージャー42は、クランクケース6より車体前側で、シリンダーヘッド8より車体下側、車体中心C1を結ぶ直線の下方に配置することで、車体前側への突出を抑制でき、前後車輪15,22の軸間距離の増加を抑えることができる。電動アシスト式ターボ装置41の設置が自動二輪車特有の車体レイアウトに適合したものとなり、自動二輪車1の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる。
【0071】
さらに、吸気インレット管58および吸気アウトレット管59が、車体側面視でタービン軸44よりも車体前方にオフセットして設けられているので、吸気タービンケーシング49から上方に延びる吸気インレット管58および吸気アウトレット管59と、エンジン3のシリンダーアッセンブリー5の前面から延出してターボチャージャー42の排気タービンケーシング48に接続される複数の排気管54とが互いに干渉することを防止できる。
また、自動二輪車1の走行時においては、前方から吹く走行風の流れの上流側に吸気インレット管58および吸気アウトレット管59が位置し、その下流側に排気管54が位置するため、走行風の流れによって排気管54の熱が吸気インレット管58および吸気アウトレット管59に及ぶことが防止され、吸入空気の温度上昇による密度低下、即ちエンジン3の性能低下を防止することができる。
【0072】
さらに、車体側面視で、ターボチャージャー42が、シリンダーアッセンブリー5の前面側、且つシリンダーアッセンブリー5の前面上部に開口している排気ポート46の中心延長線C2よりも下方に設けられているため、一般にシリンダーアッセンブリー5の前方に設置されるラジエーター33にターボチャージャー42が機械的および熱的に干渉することを防止し、ラジエーター33の配置スペースを確保しつつ、ターボチャージャー42の高さをエンジン1のクランク軸6付近とし、車体の低重心化を図ることができる。このため、電動アシスト式ターボ装置41の設置が自動二輪車特有の車体レイアウトに適合したものとなり、自動二輪車1の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる。
【0073】
ターボチャージャー42に付設されている補助電動機43は、車体正面視でシリンダーアッセンブリー5の全幅Wよりも内側に収まるように配置されているため、電動アシスト式ターボ装置41(補助電動機43)の設置によりエンジン3の幅が拡がることを防止し、車両のバンク角度を充分に確保することができ、自動二輪車1の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる。
【0074】
さらに、この電動アシスト式ターボ装置41においては、エンジン3の始動および補助電動機43に賄う電力の発電を行うEVモーター65がシリンダーアッセンブリー5の後面側に搭載されており、このEVモーター65の主軸65aがギア列66を介してエンジン1の内部の回転軸、例えばクランクケース4内のカウンター軸67に常時駆動されるようになっている。
【0075】
本構成によれば、EVモーター65によってエンジン3の始動が行われ、エンジン3の始動後は、このEVモーター65がエンジン3に逆駆動されて発電機として機能し、電動アシスト式ターボ装置41の補助電動機43の電力を賄うため、電動アシスト式ターボ装置41をコンパクト化し、自動二輪車特有の車体レイアウトに適合させて、自動二輪車1の乗車性、走行安定性、および運動性の低下を防止することができる。
【0076】
以上のように、本発明に係る自動二輪車の電動アシスト式ターボ装置41、およびこれを備えたエンジン3、ならびにエンジン3を搭載した自動二輪車1によれば、補助電動機43でタービン軸44の回転上昇をアシストすることにより、エンジン3の低速回転域からのタービン軸44の回転速度の立ち上がりの遅れ、即ちターボラグを解消し、エンジン3の出力応答性を改善することができる。
【0077】
しかも、タービン軸44の回転をアシストする補助電動機43に排気タービン51側からの熱害が及ばなくなるため、補助電動機43に耐熱構造、遮熱部材、冷却装置等を適用する必要性がなくなり、電動アシスト式ターボ装置41の構造簡素化、コンパクト化、重量軽減を図るとともに、製造コストを飛躍的に低減させることができる。
【0078】
さらに、電動アシスト式ターボ装置41を自動二輪車特有の車体レイアウトにうまく適合させ、自動二輪車1の左右の車体重量バランス配分等を適正化するとともに、車幅寸法の増大を防止して、自動二輪車1の乗車性、走行安定性、運動性等の低下を防止することができる。
【0079】
なお、本発明は上記実施形態の構成のみに限定されるものではなく、自動二輪車のみでなく、三輪車両や四輪車両に採用することができ、さらに、エンジン駆動とモーター駆動のハイブリッド車両だけでなく、燃料電池と二次電池とを備えたハイブリッド車両にも適用することができる。本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更や改良を加えることができ、このように変更・改良等を加えた実施形態も本発明の権利範囲に含まれるものとする。