(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定の範囲は、前記上限値および前記下限値の絶対値が前記コイル部の定格通電電流値の20%以下となるように設定される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超電導コイル機器。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に、本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0013】
(1) この発明に従った超電導コイル機器は、超電導線材が巻回されることによって形成されたコイル部を含む超電導コイルと、超電導コイルのクエンチを検出するクエンチ検出装置とを備える。クエンチ検出装置は、コイル部の中点から一方端までの区間にかかる電圧と、コイル部の中点から他方端までの区間にかかる電圧との電圧差を検出する電圧差検出部と、コイル部の通電電流を検出する電流検出部と、電圧差検出部の検出値に基づいて、超電導コイルの異常の有無を判定する判定動作を実行する異常判定部とを含む。異常判定部は、電流検出部の検出値が、零を中心とし、かつ、上限値および下限値の絶対値がコイル部の定格通電電流値よりも小さくなるように設定された所定の範囲を超えるときにのみ、判定動作を実行する。
【0014】
この構成によれば、コイル部の通電電流が、零を中心とし、かつ、上限値および下限値の絶対値がコイル部の定格通電電流値よりも小さくなるように設定された所定の範囲内にあるときには、超電導コイルの異常の有無を判定する判定動作が不実行とされる。通電電流が上記所定の範囲内にあるときには、ノイズ電圧が著しく増加する一方で、超電導コイルがクエンチに至る可能性は皆無に等しい。したがって、上記所定の範囲内に限って判定動作を不実行とすることで、ノイズ電圧の影響による誤判定を防止しつつ、クエンチを精度良く検出することができる。
【0015】
(2) この発明に従った超電導コイル機器は、超電導線材が巻回されることによって形成されたコイル部を含む超電導コイルと、超電導コイルのクエンチを検出するクエンチ検出装置とを備える。クエンチ検出装置は、コイル部の中点から一方端までの区間にかかる電圧と、コイル部の中点から他方端までの区間にかかる電圧との電圧差を検出する電圧差検出部と、コイル部の通電電流を検出する電流検出部と、電圧差検出部の検出値に基づいて、超電導コイルの異常の有無を判定する判定動作を実行する異常判定部とを含む。異常判定部は、電圧差検出部の検出値と閾値とを比較した結果に基づいて、超電導コイルの異常の有無を判定するための判定手段と、電流検出部の検出値が、零を中心とし、かつ、上限値および下限値の絶対値がコイル部の定格通電電流値よりも小さくなるように設定された所定の範囲を超えるときには、閾値の絶対値を第1の値とする一方で、電流検出部の検出値が、当該所定の範囲内にあるときには、閾値の絶対値を第1の値よりも大きい第2の値に変更するための変更手段とを含む。
【0016】
この構成によれば、コイル部の通電電流が、零を中心とし、かつ、上限値および下限値の絶対値がコイル部の定格通電電流値よりも小さくなるように設定された所定の範囲内にあるときには、超電導コイルの異常の有無の判定動作に用いる閾値を、ノイズ電圧よりも大きい値に増加させる。通電電流が上記所定の範囲内にあるときには、ノイズ電圧が著しく増加する一方で、超電導コイルがクエンチに至る可能性は皆無に等しい。したがって、上記所定の範囲内に限って判定動作を無効とすることで、ノイズ電圧の影響による誤判定を防止しつつ、クエンチを精度良く検出することができる。
【0017】
(3) 上記超電導コイル機器において、変更手段は、コイル部の励磁速度が高くなるに従って、第2の値を増加させる。
【0018】
通電電流が所定の範囲内にあるときに発生するノイズ電圧は、コイル部の励磁速度、すなわち通電電流の変化速度が高くなるほど大きくなる。そのため、励磁速度が高くなるに従って、閾値の絶対値を増加させることにより、コイル部の励磁速度に拘わらず、誤判定を確実に防止することができる。
【0019】
(4) 上記超電導コイル機器において、所定の範囲は、上限値および下限値の絶対値がコイル部の定格通電電流値の20%以下となるように設定される。
【0020】
このようにすれば、通電電流が定格通電電流値に比べて十分に小さいときに判定動作が不実行となるため、ノイズの影響による誤判定を防止しつつ、クエンチを確実に検出することができる。
【0021】
(5) 上記超電導コイル機器は、異常判定部が超電導コイルの異常と判定したことに応答してオフ状態にされることにより、コイル部への電流供給を遮断するスイッチと、コイル部への電流供給を遮断した後、コイル部に蓄積されたエネルギーを放出させるための抵抗とをさらに備える。
【0022】
このようにすれば、クエンチ検出装置が超電導コイルのクエンチを精度良く検出することで、超電導コイルを発熱から確実に保護することができる。
【0023】
(6) 上記超電導コイル機器において、超電導コイルは、コイル部の中および外の少なくとも一方に配置された磁性体をさらに含む。
【0024】
コイル部に磁性体を配置した超電導コイルにおいては、通電電流が上記所定の範囲内にあるときにノイズ電圧が著しく増加するところ、この発明によれば、ノイズ電圧の影響による誤判定を防止しつつ、クエンチを精度良く検出することができる。
【0025】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明については繰り返さない。
【0026】
(実施の形態1)
[超電導コイル機器の構成]
図1は、この発明の実施の形態1における超電導コイル機器の構成を概略的に示す断面図である。
図2は、
図1の一部拡大図であり、
図3の線II−IIに沿う断面図である。
図3は、
図2の概略平面図である。
【0027】
図1を参照して、本実施の形態に係る超電導コイル機器100は、超電導コイル91と、断熱容器111と、冷却装置121と、ホース122と、コンプレッサ123と、ケーブル131と、電源132とを備える。断熱容器111は超電導コイル91を収めている。本実施の形態においては、磁場が印加される試料(図示せず)を収めるための磁場印加領域SCが、断熱容器111を貫くように断熱容器111に設けられている。冷却装置121は冷却ヘッド20を含む。
【0028】
図2および
図3を参照して、超電導コイル91は、コイル部10と、パイプ部81(磁性体)と、取付部71とを含む。
【0029】
コイル部10は、ダブルパンケーキコイル11および伝熱板31を含む。ダブルパンケーキコイル11は、コイル部10の軸方向Aaに沿って積層されている。径方向Arは軸方向Aaに垂直な方向に対応している。ダブルパンケーキコイル11は、互いに積層された2つのパンケーキコイル(図示せず)を有する。2つのパンケーキコイルの各々は、帯状の形状を有する酸化物超電導線が巻き回されることによって形成されている。たとえば、酸化物超電導線は、その延在方向に延びるBi系超電導体と、この超伝導体を被覆するシースとを有する。シースは、たとえば銀や銀合金により形成されている。酸化物超電導線は、帯状面に垂直な磁場が印加されるほど交流損失が増大するような特性を有する。
【0030】
冷却装置121の冷却ヘッド20は、ダブルパンケーキコイル11を冷却することができるように、伝熱板31によってダブルパンケーキコイル11に繋がっている。伝熱板31の材料は、非磁性体であり、具体的には100未満の最大透磁率を有するものである。また伝熱板31の材料は、熱伝導率および可撓性が大きい材料であることが好ましい。伝熱板31の材料は、たとえばアルミニウム(Al)または銅(Cu)である。AlまたはCuの純度は99.9%以上が好ましい。冷却されたダブルパンケーキコイル11に超電導電流が流れることで磁束MFが発生する。
【0031】
パイプ部81は、コイル部10の軸方向Aaに沿った貫通孔HLを有する。好ましくは、パイプ部81は、1mm以上の肉厚を有するパイプを含む。パイプ部81はコイル部10の中に配置されている。好ましくは、パイプ部81は、パイプ部81の中心がコイル部10の中心CPと一致するように配置されている。
【0032】
パイプ部81は、磁性体から形成されており、具体的には100以上の最大透磁率を有する。パイプ部81をなす磁性体は、たとえば、鉄、電磁軟鉄、電磁鋼、パーマロイ合金、またはアモルファス磁性合金である。なお、鉄の最大透磁率は一般に5000程度である。
【0033】
軸方向Aaにおけるパイプ部81の長さは、酸化物超電導線の帯状面の幅(
図2における各ダブルパンケーキコイル11の高さの半分)以上である。好ましくは、軸方向Aaにおけるパイプ部81の長さは、各ダブルパンケーキコイル11の高さ以上である。軸方向Aaにおけるパイプ部81の長さは、軸方向Aaにおけるコイル部10の長さの半分以上であってもよい。より好ましくは、軸方向Aaにおけるパイプ部81の長さは、軸方向Aaにおけるパイプ部81の長さは、軸方向Aaにおけるコイル部10の長さよりも大きい。
【0034】
パイプ部81は取付部71によってコイル部10に取り付けられている。本実施の形態においては、パイプ部81のうちコイル部10から突出した部分が取付部71によってコイル部10に固定されている。好ましくは、取付部71の材料は非磁性体であり、具体的には100未満の最大透磁率を有するものである。
【0035】
ここで、超電導コイル91においては、磁場の発生を停止させることを意図してコイル部10への電流印加を停止しても、遮断電流の影響によってコイル部10は残留磁場を有する。本実施の形態では、パイプ部81が設けられることで、コイル部10への電流印加が停止された状態における磁場の大きさ、すなわち残留磁場を抑えることができる。好ましくは、磁性体は100以上の最大透磁率を有する。これによりパイプ部81は、残留磁場の抑制に必要な磁気的特性をより十分に有する。
【0036】
[クエンチ検出装置の構成]
図4は、超電導コイル91のクエンチ検出装置の構成を示すブロック図である。以下、
図4を用いてクエンチ検出方法の基本原理を説明する。
【0037】
図4を参照して、超電導コイル機器100は、超電導コイル91と、超電導コイル91に電流Iを供給する励磁電源5と、クエンチ検出装置110と、電流Iを検出する電流検出部14とを備える。
【0038】
励磁電源5は、電流源12と、スイッチSWと、抵抗体RPとを含む。電流源12は、超電導コイル91のコイル部10(
図2)に電流Iを供給する。スイッチSWは、電流源12と超電導コイル91との間に接続される。スイッチSWは、クエンチ検出装置110から与えられる、クエンチ検出を示す異常信号に応答して導通(オン)状態から非導通(オフ)状態に駆動される。これにより、超電導コイル91への電流供給が遮断される。
【0039】
抵抗体RPは、電流源12に対して並列に接続される。抵抗体RPは、超電導コイル91への電流供給が遮断された後、コイル部10に蓄積されたエネルギーを放出させるための保護抵抗として機能する。すなわち、スイッチSWおよび抵抗体RPは、クエンチが生じたときに超電導コイル91を保護するための保護回路を構成する。
【0040】
クエンチ検出装置110は、端子MT,ETA,ETBと、電圧差検出部DUと、電流検出部14と、異常判定部114とを含む。端子MTはコイル部10の中点MPに接続される。端子ETA,ETBは、コイル部10の両端EPA,EPBにそれぞれ接続される。コイル部10のコイル導体のうち、中点MPから端子EPAまでを区間SGA、中点MPから端子EPBまでを区間SGBと称する。区間SGBは、中点MPに関して区間SGAと対称である。
【0041】
電圧差検出部DUは、区間SGAの両端EPA,MPにかかる電圧(すなわち、端子ETA,MT間の電圧)と、区間SGBの両端EPB,MPにかかる電圧(すなわち、端子ETB,MT間の電圧)とを比較し、これらの電圧差を検出する。
【0042】
具体的には、電圧差検出部DUは、可動端子T1および固定端子T2,T3を有する可変抵抗器PM(ポテンショメータとも称される)と、電圧計112とを含む。固定端子T2,T3は、端子ETA,ETBにそれぞれ接続される。電圧計112は、可動端子T1と端子MTとの間に接続される。可動端子T1の位置に応じて、端子T1,T2間の抵抗値と、端子T1,T3間の抵抗値とが変化する。
【0043】
可変抵抗器PMは、可動端子T1と固定端子T2との間に接続された抵抗体RCと、可動端子T1と固定端子T3との間に接続された抵抗体RDとが直列に接続されたものに置き換えることができる。可動端子T1の位置が変化することによって、抵抗体RC,RDの一方の抵抗値が増加し、他方の抵抗値が減少する。より一般的には、抵抗体RC,RDの少なくとも一方の抵抗値が調整可能であればよい。
【0044】
クエンチが発生していない正常時において、電圧計112で検出される電圧が0になるように可動端子T1の位置が調整される。これにより、区間SGA,SGBのいずれか一方でクエンチが発生したとき、電圧計112によって閾値を超える電圧が検出される。以下の説明において、ブリッジ間に発生する電圧(すなわち、電圧計112の検出値)を「バランス電圧Vb」とも称する。
【0045】
異常判定部114は、電圧計112の検出電圧(バランス電圧)Vbが閾値を超えたときに異常と判定し、励磁電源5内部の保護回路(スイッチSW)に異常信号を出力する。異常信号を受けてスイッチSWがオフ状態に駆動されることにより、コイル部10への電流供給が遮断される。保護回路は、抵抗体RPを介してコイル部10に蓄積されたエネルギーを放出させる。
【0046】
異常判定部114は、たとえばマイクロコンピュータによって構成することができる。マイクロコンピュータに設けられた中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)は、A/D(Analog-to-Digital)変換器を介して取り込んだ電圧計112の検出値Vbに基づいて異常の有無を判定する。なお、電流源12の出力電流や可変抵抗器PMの抵抗値などもCPUからの指令によって調整できるようにしてもよい。
【0047】
図5は、
図4の電流源12から出力される電流Iに応じて、コイル部10に生じる電圧VCLの時間変化を示す図である。
【0048】
図4、
図5を参照して、電流源12から出力される電流Iは、時刻t0から時刻t1までの間、一定の割合で増加し、時刻t1以降、定常値I1になる。この電流値の変換に伴なって、コイル部10に生じる電圧VCLが変化する。時刻t0から時刻t1までの間における電圧V1は、自己誘導によって生じる誘起電圧、交流損失によって生じる電圧、常伝導転移した部分によって生じる電圧、およびノイズ電圧の和になる。ここで、コイル部10のインダクタンスをLとすると、自己誘導によって生じる誘導電圧Vindは、
Vind=L×dI/dt ・・・(1)
で表される。ノイズ電圧は、外来の電磁波や、電流源12の出力電流のリップルなどに起因する。時刻t1以降の電圧Vbは、電流Iが一定になるため、常伝導転移した部分の電圧およびノイズ電圧などの和によって表わされる。
【0049】
電流Iが変化する時刻t0から時刻t1までの時間帯におけるクエンチ検出が特に重要となる。この時間帯において常伝導部分の電圧を測定するためには、自己誘導による誘起電圧を取り除く必要がある。たとえば、コイル部10のインダクタンスを10[H]とし、励磁速度を3.2[A/秒]とすると、コイル部10には自己誘導によって32[V]の誘起電圧が発生する。クエンチか否かを判断する基準となる常伝導電圧は数mV程度であるため、自己誘導によって生じる誘起電圧に比べて極めて小さい。コイル部10に生じた電圧VCLから自己誘導によって生じる誘起電圧を取り除くため、
図4に示したブリッジ回路が利用される。可変抵抗器PMの可動端子T1は、区間SGA,SGBの各々において生じる誘起電圧が打ち消されるように調整される。
【0050】
図6は、超電導線材に流れる電流Iと電圧Vとの関係を示す図である。
図6を参照して、超電導線材に電流Iが流れる場合、超電導線材の一部の常伝導転移した部分に電圧Vが発生し、これによって超電導線材に発熱が生じる。この発熱が冷却能力を超えた場合、超電導部分の多くが常伝導化してクエンチに至る。したがって、冷却能力を超える直前の値、たとえば数mVに閾値Vthを設定し、常伝導部分に生じた電圧が閾値Vthを超えたときに異常と判定される。
【0051】
この常伝導部分の電圧を測定する際に問題となるのがノイズである。特に、超電導コイル91において、磁性体から形成されるパイプ部81をコイル部10に取り付けた場合、電磁的作用により、コイル部10を流れる電流Iの電流値が0A近傍となるときにノイズ電圧が著しく増加する。なお、このようなノイズ電圧の増加は、
図2に示したように、コイル部10の中に残留磁場抑制部としての磁性体を配置した構成以外に、コイル部10の外部(たとえばコイル部10までの距離が4m以下の範囲内)に磁性体を配置した構成においても起こる可能性がある。
【0052】
図7は、コイル部10の通電電流Iおよびバランス電圧Vbの時間変化を示す図である。なお、コイル部10は、外径を600mmとし、内径を300mmとするダブルパンケーキコイル11(
図2)を10,000ターン(高さ500mm)積層した構成を有している。
【0053】
図7を参照して、電流源12から出力される電流Iは、時刻t0から時刻t1までの間、0Aから一定の割合で増加し、時刻t1から時刻t2までの間、一定値(たとえば250A)となる。そして、時刻t2から時刻t3までの間、通電電流Iは一定の割合で減少し、時刻t3以降、0Aとなる。その後、通電電流Iは、時刻t4から時刻t5までの間、0Aから一定の割合で減少し、時刻t5以降、一定値(たとえば−250A)となる。このようにして、通電電流Iは、一定時間間隔(本実施の形態では約11分)で正の電流値と負の電流値とが交互に切り替わる。
【0054】
電圧計112により検出されるバランス電圧Vbは、クエンチが発生していない正常時において、理想的に0Vを示す。しかしながら、コイル部10が外部から到来したノイズや励磁電源5が発生したノイズを拾うことにより、バランス電圧Vbにはノイズ電圧が重畳する。
【0055】
特に、通電電流Iが0Aから正の電流値に変化するタイミング(時刻t0)の前後、および通電電流Iが正の電流値から0Aに変化するタイミング(時刻t3)の前後において、ノイズ電圧が著しく増加する。同様に、通電電流Iが0Aから負の電流値に変化するタイミング(時刻t4)の前後、および通電電流Iが負の電流値から0Aに変化するタイミング(図示せず)の前後においても、ノイズ電圧が著しく増加する。
【0056】
異常判定部114は、クエンチを検出するための上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lを有しており、電圧計112により検出されるバランス電圧Vbと上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lとの比較結果に基づいて異常の有無を判定する。上述したように、クエンチか否かを判断する基準となる常伝導電圧は数mV程度であるため、上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lは常伝導電圧よりも低い電圧に設定される。本実施の形態では、たとえばVth_UおよびVth_Lを+50mV,−50mVにそれぞれ設定する。
【0057】
一方、
図7に示すように、通電電流Iが0A近傍となるとき、バランス電圧Vbには数百mVに至る大きなノイズ電圧が発生する。このため、異常判定部114は、上限閾値Vth_Uを超える(または下限閾値Vth_Lを下回る)ノイズ電圧を検出して誤って異常と判定してしまう。このようにノイズの影響を受けてクエンチの検出精度が低下する。
【0058】
上述したノイズの影響を抑制するためには、上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lの絶対値を、ノイズ電圧の絶対値よりも大きくすることが要求される。しかしながら、上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lの絶対値を数百mV(本実施の形態では300mV程度)にまで増加させると、もはや数mV程度の常伝導電圧を検出することが困難になる。
【0059】
[クエンチ検出装置によるクエンチ検出動作]
本実施の形態では、以下に示すように、コイル部10の通電電流Iが0A近傍となるときには異常判定部114がバランス電圧Vbに基づく判定動作を行なわないものとする。
【0060】
具体的には、異常判定部114は、電流検出部14により検出される通電電流Iが0Aを中心とする所定の範囲を超えるときにのみ判定動作を実行する。この所定の範囲は、上限値IUおよび下限値ILの絶対値が、コイル部10の定格通電電流値よりも十分に小さくなるように設定する。超電導コイル91は、コイル部10に定格通電電流値に近い電流が流れたときにクエンチが発生する可能性が高くなる。その一方で、
図6に示したように、通電電流Iが0A近傍となるときに超電導線材の一部の常伝導転移した部分に発生する電圧Vは閾値電圧Vthに比べて小さいため、超電導線材がクエンチに至る可能性は皆無に等しい。したがって、電流Iが0A近傍となるときに判定動作を不実行としても、クエンチ検出には何ら問題がない。そこで、本実施の形態では、通電電流Iが定格通電電流値に比べて十分に小さいときに判定動作を不実行とすることで、ノイズの影響による誤判定を防止しつつ、クエンチを確実に検出する。
【0061】
たとえば、所定の範囲は、上限値IUおよび下限値ILの絶対値がコイル部10の定格通電電流値の20%以下となるように設定する。本実施の形態では、コイル部10の定格通電電流値を250Aとしたときに、上限値IUおよび下限値ILを+30A,−30Aにそれぞれ設定する。なお、上限値IUおよび下限値ILの絶対値を定格通電電流値の何%とするかは、コイル部10を形成する超電導線材の特性(たとえば
図6の電流Iおよび電圧Vの関係)などに応じて設定することができる。
【0062】
図8は、この発明の実施の形態1に係るクエンチ検出装置によるクエンチ検出動作を説明するフローチャートである。なお、
図8に示すフローチャートは、異常判定部114において予め格納したプログラムを実行することで実現できる。
【0063】
図8を参照して、まず、異常判定部114は、電流検出部14により検出される通電電流I、および電圧計112により検出されるバランス電圧Vbを取得する(ステップS01)。
【0064】
次に、異常判定部114は、バランス電圧Vbに基づく判定動作の実行/不実行を判断するために、通電電流Iが所定の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS02)。通電電流Iが所定の範囲の上限値IUより大きいとき、または通電電流Iが所定の範囲の下限値ILより小さいとき(ステップS02においてYES)、すなわち通電電流Iが所定の範囲内にないとき、異常判定部114は、バランス電圧Vbに基づく判定動作を実行する。
【0065】
具体的には、異常判定部114は、バランス電圧Vbと上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lとを比較する(ステップS03)。バランス電圧Vbが上限閾値Vth_Uを超えるとき、またはバランス電圧Vbが下限閾値Vth_Lを下回るときには(ステップS03においてYES)、異常判定部114は内蔵する異常判定用タイマをカウントアップする(ステップS04)。一方、バランス電圧Vbが上限閾値Vth_U以下となるとき、またはバランス電圧Vbが下限閾値Vth以上となるときには(ステップS03においてNO)、異常判定部114は、タイマのカウント値をリセットする(ステップS08)。
【0066】
次に、異常判定部114は、タイマのカウント値が予め設定された基準値Trefに達したか否かを判定する(ステップS05)。カウント値が基準値Trefに達したとき(ステップS05においてYES)、異常判定部114は超電導コイル91が異常と判定する(ステップS06)。異常判定部114は異常信号を生成して保護回路のスイッチSWへ出力する。スイッチSWが異常信号に応答してオフ状態に駆動されることにより、超電導コイル91への電流供給が遮断される(ステップS07)。この後、保護回路は抵抗体RPを介して超電導コイル91に蓄積されたエネルギーを放出させる。
【0067】
一方、カウント値が基準値Trefに満たないときには(ステップS05においてNO)、異常判定部114は超電導コイル91が正常と判定し(ステップS09)、処理は最初に戻される。このようにして異常判定部114は、バランス電圧Vbが上限閾値Vth_Uを超える状態、またはバランス電圧Vbが下限閾値Vth_Lを下回る状態が一定時間継続したことを検出して超電導コイル91の異常と判定する。これにより、断続的に発生するノイズ電圧を誤って超電導コイル91の異常と判定するのを防止することができる。
【0068】
これに対して、ステップS02に戻って、通電電流Iが上限値IU以下となるとき、または通電電流Iが下限値IL以上となるとき(ステップS02においてNO)、すなわち通電電流Iが所定の範囲内にあるときには、異常判定部114は、ステップS03〜S09に示したバランス電圧Vbに基づく判定動作を不実行とする。異常判定部114が判定動作を停止することにより(ステップS10)、処理が最初に戻される。
【0069】
この発明の実施の形態1によれば、コイル部の通電電流が、零を中心とし、かつ、上限値および下限値の絶対値がコイル部の定格通電電流値よりも小さくなるように設定された所定の範囲を超えるときにのみ、超電導コイルの異常の有無を判定する判定動作を実行する。すなわち、通電電流が上記所定の範囲内にあるときには、判定動作を不実行とする。
【0070】
通電電流が上記所定の範囲内にあるときには、ノイズ電圧が著しく増加する一方で、超電導コイルがクエンチに至る可能性は皆無に等しい。したがって、上記所定の範囲内に限って判定動作を不実行とすることで、ノイズ電圧の影響による誤判定を防止しつつ、クエンチを精度良く検出することができる。
【0071】
(実施の形態2)
上記の実施の形態1では、コイル部10の通電電流Iが0A近傍となるときには異常判定部114がバランス電圧Vbに基づく判定動作を行なわない構成について説明したが、異常判定部114が判定動作に用いる閾値を変更することで、実質的に誤判定を防止するようにしてもよい。この発明の実施の形態2では、閾値を変更することで、実質的に誤判定を防止する構成について説明する。なお、この発明の実施の形態2に係る磁気コイル機器およびクエンチ検出装置の構成は、
図1から
図4と同様であるので詳細な説明は繰り返さない。
【0072】
図9は、この発明の実施の形態2に係るクエンチ検出装置によるクエンチ検出動作を説明するフローチャートである。
図9に示すフローチャートは、
図8に示すフローチャートにおいて、ステップS10に代えてステップS021,S022を設けたものである。
【0073】
図9を参照して、まず、異常判定部114は、電流検出部14により検出される通電電流I、および電圧計112により検出されるバランス電圧Vbを取得する(ステップS01)。
【0074】
次に、異常判定部114は、バランス電圧Vbに基づく判定動作を判断するために、通電電流Iが所定の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS02)。通電電流Iが所定の範囲の上限値IUより大きいとき、または通電電流Iが所定の範囲の下限値ILより小さいとき(ステップS02においてYES)、すなわち通電電流Iが所定の範囲を超えるとき、異常判定部114は、上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lの絶対値を通常値に設定する(ステップS021)。この通常値は、
図6に示す超電導線材に流れる電流Iと電圧Vとの関係を参照して、超電導線材の発熱が冷却能力を超える直前の値に設定される。たとえば
図7の場合、上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lを+50mV、−50mVにそれぞれ設定する。
【0075】
これに対して、通電電流Iが所定の範囲の上限値IU以下となるとき、または通電電流Iが所定の範囲の下限値IL以上となるとき(ステップS02においてNO)、すなわち通電電流Iが所定の範囲内にあるとき、異常判定部114は、上限閾値Vth_Hおよび下限閾値Vth_Uの絶対値を上述した通常値の絶対値よりも大きい値に変更する(ステップS022)。たとえば
図7の場合、上限閾値Vth_Hおよび下限閾値Vth_Lを+300mV、−300mVにそれぞれ設定する。
【0076】
次に、異常判定部114は、ステップS021,S022によって設定された上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lを用いて、バランス電圧Vbに基づく判定動作を実行する(ステップS03〜S09)。
【0077】
このように通電電流Iが所定の範囲内にあるときには、上限閾値Vth_Hおよび下限閾値Vth_Lの絶対値を増加させる。このときの上限閾値Vth_Hおよび下限閾値Vth_Lの絶対値を、ノイズ電圧の絶対値よりも大きい値に設定することで、バランス電圧Vbと上限閾値Vth_Hおよび下限閾値Vth_Lとの比較動作(ステップS03)では、常にバランス電圧Vbが上限閾値Vth_U以下、またはバランス電圧Vbが下限閾値Vth_L以上と判定されることになる(ステップS03においてNO)。この結果、通電電流Iが所定の範囲内にあるとき、異常判定部114は常に超電導コイル91が正常と判定するため(ステップS09)、実質的に誤判定を防止することができる。
【0078】
なお、ステップS022に示す処理については、コイル部10の励磁速度に応じて閾値Vth_U,Vth_Lを変化させる構成としてもよい。
図10は、コイル部10の通電電流Iおよび閾値Vth_U,Vth_Lの時間波形を示す図である。
【0079】
図10を参照して、実線はコイル部10の励磁速度が相対的に遅いときの通電電流Iおよび閾値Vth_U,Vth_Lの時間波形を示す。点線はコイル部10の励磁速度が相対的に速いときの通電電流Iおよび閾値Vth_H,Vth_Lの時間波形を示す。
【0080】
励磁速度が相対的に遅い場合、通電電流Iが所定の範囲内にあるときには(時刻t12以前の時間、時刻t13からt16までの時間、時刻t17以降の時間)、上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lの絶対値を、通電電流Iが所定の範囲内にないとき(時刻t12からt13までの時間、時刻t16からt17までの時間)の上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lの絶対値よりも大きい第1の値に設定する。
【0081】
これに対して、励磁速度が相対的に遅い場合には、通電電流Iが所定の範囲内にあるときには(時刻t11以前の時間、時刻t14からt15までの時間、時刻t18以降の時間)、上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lの絶対値を、通電電流Iが所定の範囲内にないとき(時刻t11からt14までの時間、時刻t15からt18までの時間)の上限閾値Vth_Uおよび下限閾値Vth_Lの絶対値よりも大きく、かつ、上記第1の値よりも大きい第2の値に設定する。
【0082】
通電電流Iが所定の範囲内にあるときに発生するノイズ電圧は、コイル部10の励磁速度、すなわち通電電流Iの変化速度が高くなるほど大きくなる。そのため、励磁速度が高くなるに従って、上限閾値Vth_Hおよび下限閾値Vth_Lの絶対値を増加させることにより、コイル部10の励磁速度に拘わらず、誤判定を確実に防止することができる。
【0083】
この発明の実施の形態2によれば、コイル部の通電電流が、零を中心とし、かつ、上限値および下限値の絶対値がコイル部の定格通電電流値よりも小さくなるように設定された所定の範囲内にあるときには、超電導コイルの異常の有無の判定動作に用いる閾値を、ノイズ電圧よりも大きい値に増加させる。通電電流が上記所定の範囲内にあるときには、ノイズ電圧が著しく増加する一方で、超電導コイルがクエンチに至る可能性は皆無に等しい。したがって、上記所定の範囲内に限って判定動作を無効とすることで、ノイズ電圧の影響による誤判定を防止しつつ、クエンチを精度良く検出することができる。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。