(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232984
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】空冷エンジンおよびエンジン作業機
(51)【国際特許分類】
F01P 5/06 20060101AFI20171113BHJP
F01P 1/06 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
F01P5/06 504A
F01P5/06 502D
F01P5/06 502C
F01P1/06 K
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-250914(P2013-250914)
(22)【出願日】2013年12月4日
(65)【公開番号】特開2015-108319(P2015-108319A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】一橋 直人
(72)【発明者】
【氏名】川口 健文
(72)【発明者】
【氏名】久下沼 淳
【審査官】
小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−068140(JP,A)
【文献】
特開2003−129840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 1/06、 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダに取り付けられ駆動軸を回転可能に支持するクランクケースと、前記駆動軸に取り付けられる冷却ファンと、前記シリンダの排気口に取り付けられ内部を通過した排気ガスを排気出口から排出するマフラと、前記冷却ファンを覆うファンケースと、前記シリンダを覆ってシリンダ室を形成するシリンダカバーと、前記マフラを覆ってマフラ室を形成するマフラカバーと、を具備する空冷エンジンであって、
前記マフラ室と前記シリンダ室を分割する仕切り板を更に備え、前記仕切り板は、前記マフラ室と前記シリンダ室を連通する第1の連通口を備え、
前記マフラカバーは、前記マフラの少なくとも一部を覆うとともに、前記仕切り板と垂直な方向視において前記第1の連通口と重なる位置に端部が位置する第1のマフラカバーと、前記第1のマフラカバーの少なくとも一部を覆う第2のマフラカバーとを備え、
前記第1の連通口は、前記仕切り板と垂直な方向視において、前記マフラと前記第1のマフラカバーとの間の第1の空間と、前記第1のマフラカバーと前記第2のマフラカバーとの間の第2の空間とに跨って配置され、前記冷却ファンによって発生した冷却風の一部が、前記第1の連通口を通過して前記第1の空間と前記第2の空間の両方に供給される構成とされることを特徴とする空冷エンジン。
【請求項2】
前記シリンダ室と前記第2の空間を連通する第2の連通口を前記第1の連通口とは別に有し、前記冷却風の一部は前記第2の連通口を通過して前記第2の空間に供給されることを特徴とする請求項1に記載の空冷エンジン。
【請求項3】
前記第1の空間と前記第2の空間における冷却風の流れを略同一方向としたことを特徴とする請求項1または2に記載の空冷エンジン。
【請求項4】
前記第1の連通口は、前記マフラ室の一端側に設けられ、前記マフラ室の他端側に前記第1の空間と前記第2の空間を連通させる混合空間を設けたことを特徴とする請求項1乃至3に記載の空冷エンジン。
【請求項5】
前記混合空間に前記マフラの排気出口を連通させたことを特徴とする請求項4に記載の空冷エンジン。
【請求項6】
前記第1の連通口は前記駆動軸方向における前記冷却ファン側に配置され、前記第1の空間への冷却風の入口と前記第2の空間への冷却風の入口が冷却ファン側に配置されたことを特徴とする請求項4または5に記載の空冷エンジン。
【請求項7】
前記シリンダを冷却する前の冷却風を前記マフラ室に供給したことを特徴とする請求項1乃至6のうち何れか一項に記載の空冷エンジン。
【請求項8】
前記第1のマフラカバーを前記第2のマフラカバーに取り付けたことを特徴とする請求項1乃至7のうち何れか一項に記載の空冷エンジン。
【請求項9】
前記第2のマフラカバーにおいて、前記第2のマフラカバーの混合空間側の少なくとも一部を隙間を有して覆う第3のマフラカバーを設けたことを特徴とする請求項1乃至8のうち何れか一項に記載の空冷エンジン。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の空冷エンジンを備えたことを特徴とするエンジン作業機。
【請求項11】
シリンダと、前記シリンダに取り付けられ駆動軸を回転可能に支持するクランクケースと、前記駆動軸に取り付けられる冷却ファンと、前記シリンダの排気口に取り付けられ内部を通過した排気ガスを排気出口から排出するマフラと、前記冷却ファンを覆うファンケースと、前記シリンダを覆ってシリンダ室を形成するシリンダカバーと、前記マフラを覆ってマフラ室を形成するマフラカバーと、前記マフラ室と前記シリンダ室を分割する仕切り板と、を具備する空冷エンジンであって、
前記マフラカバーは、前記マフラの少なくとも一部を覆う第1のマフラカバーと、前記第1のマフラカバーの少なくとも一部を覆う第2のマフラカバーとを備え、
前記仕切り板は、前記マフラと前記第1のマフラカバーとの間の第1の空間と前記シリンダ室とを連通する第1の連通口と、前記第1の連通口とは別に設けられ、前記第1のマフラカバーと前記第2のマフラカバーとの間の第2の空間とを連通する第2の連通口とを有し、
前記冷却ファンによって発生した冷却風の一部が、前記第1の連通口を通過して前記第1の空間に供給されるとともに、前記第2の連通口を通過して前記第2の空間に供給されることを特徴とする空冷エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に刈払機、送風機などの携帯型作業機、発電機などの作業機の動力源として用いられる空冷エンジンの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
刈払機やチェンソー等の小型の作業機には、動力源として小型の空冷エンジンが広く用いられている。
図11はエンジン作業機の一例である刈払機101の外観図である。
図11に示すように、小型の空冷エンジン110を搭載したエンジン作業機は、パイプ状のメインパイプ105に図示しない駆動軸を通し、この駆動軸を、メインパイプ105の一端に設けたエンジン110にて回転させることで、メインパイプ105の他端に設けた回転刃106を回転させる。回転刃106の近傍には、刈り払った草の飛散防止のための飛散防御カバー106aが設けられる。エンジン作業機101は図示しない肩掛け用吊りベルト等で携帯されるもので、メインパイプ105の長手中央部付近に作業者が操作するための正面視略U字状を呈するハンドル104が取り付けられる。エンジン作業機101の回転数は、グリップ部103の近傍に取り付けられたスロットルレバー107により作業者により制御される。スロットルレバー107の操作は、スロットルワイヤー118によってエンジンの気化器に伝達される。グリップ部103の先端付近にはエンジン110を停止させるためのスイッチ129(図では見えない)が設けられる。
【0003】
主に刈払機、送風機などの携帯型作業機、発電機などの作業機の動力源として用いられる小型空冷エンジンにおいては、駆動軸の一端に冷却ファンが取り付けられ、冷却ファンおよびエンジン本体を覆うカバーによって冷却風路が形成される。冷却風は冷却風路内を冷却ファン側から反対側にかけて流れる。また、シリンダにはマフラが取り付けられ、マフラはマフラ冷却室を形成するマフラカバーが取り付けられる。例えば上述のエンジン作業機において、マフラから排出されるガスやシリンダを冷却した後の空気は、エンジン110に対して作業者の位置と反対側である後方側に向かって排出されるよう構成される。しかしながら、マフラ内においては高温の排出ガスが流動するため、マフラ表面は高温となる(たとえば300〜500℃)。そのため、マフラからの輻射熱や自然対流による熱を受けてマフラカバーが溶損などの熱害を受ける可能性があった。特に、外部から目視可能な領域における熱害(焦げ、変色、変形)は外観不良となり、製品価値を著しく低下させるという課題がある。
【0004】
この問題に対応すべく、マフラとマフラカバーの間の空間に冷却風を供給することでマフラおよびマフラカバーの冷却を実施することにより、溶損等の熱害を抑制したものがある。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−68140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マフラとマフラカバーの間の空間に冷却風を供給しても、マフラを冷却し終える頃には冷却風自身がマフラの熱を吸収することで高温となるので、特にマフラカバーの外表面温度を十分に低減できず、熱害を抑制する効果が不十分であるという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、マフラとマフラカバーの間の空間に冷却風を供給する小型空冷エンジンにおいて、マフラと共にマフラカバーの特に外表面の温度を十分に冷却して熱害を抑制して製品価値の低下を回避し得る冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく、シリンダと、前記シリンダに取り付けられ駆動軸を回転可能に支持するクランクケースと、前記駆動軸に取り付けられる冷却ファンと、前記シリンダの排気口に取り付けられ内部を通過した排気ガスを排気出口から排出するマフラと、前記冷却ファンを覆うファンケースと、前記シリンダを覆ってシリンダ室を形成するシリンダカバーと、前記マフラを覆ってマフラ室を形成するマフラカバーと、を具備する空冷エンジンであって、前記マフラカバーは、前記マフラの少なくとも一部を覆う第1のマフラカバーと、前記第1のマフラカバーの少なくとも一部を覆う第2のマフラカバーとを備え、前記冷却ファンによって発生した冷却風の一部が、前記マフラと前記第1のマフラカバーの間の第1の空間または前記第1のマフラカバーと前記第2のマフラカバーの間の第2の空間の少なくとも一方に供給される構成とされ、前記マフラーカバーの内部において、前記第1の空間または前記第2の空間に供給された冷却風を、前記マフラの排気出口側に導く導風部を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1によれば、マフラの少なくとも一部を隙間を有して覆う第1のマフラカバーを有し、第1のマフラカバーの少なくとも一部を隙間を有して覆う第2のマフラカバーを有し、第1のマフラカバーと第2のマフラカバーによってマフラ冷却室を構成し、冷却ファンによって発生した冷却風の一部をマフラ冷却室に供給した小型空冷エンジンにおいて、冷却風をマフラと第1のマフラカバーの間の第1の空間または第1のマフラカバーと第2のマフラカバーの間の第2の空間の少なくとも一方に供給したので、マフラの輻射熱から第2のマフラカバーを保護しながら冷却風によりマフラ、第1のマフラカバー、第2のマフラカバーを冷却することができるとともに、導風部によりマフラの排気ガスの排出方向にガイドする構成としたので、第2のマフラカバーの熱害を効果的に抑制することができる。
【0010】
請求項2によれば、前記シリンダ室と前記第2の空間を連通する第2の連通口を有し、前記冷却風は少なくとも前記第2の空間に供給されるようにしたので、マフラと直接触れていない空気をマフラの排気ガスの排出方向に向けることができるため、より効果的にマフラ周辺の温度低減を図ることが可能となる。
【0011】
請求項3によれば、冷却風を第1の空間と第2の空間の双方に供給したので、第1の空間内でマフラを冷却することで高温となった第1の冷却風により第1のマフラカバー温度が高温となっても、第2の空間内を流動する第2の冷却風によって冷却することができるので、第1のマフラカバー内に熱が篭ってマフラ冷却が滞ることを抑制すると同時に、第2のマフラカバーの温度上昇を一層効果的に抑制することができる。
【0012】
請求項4によれば、第1の空間と第2の空間における冷却風の流れを同一方向としたので、マフラないし第1のマフラカバーを冷却して温度上昇した第1の冷却風ないし第2の冷却風が他方の上流側に向かって流れることがないため、高い冷却効果を得ることができる。
【0013】
たとえば、第1の冷却風が第2の冷却風の上流側に向かって流れると、第1のマフラカバーの第2の冷却風の上流側にマフラ冷却を終えて温度上昇した第1の冷却風が流れるため、第2の冷却風の上流側が温度上昇する。従って、第2の冷却風は入口の時点で第1のマフラカバーによって温度上昇してしまうため、冷却効果の低下を招いてしまう。
【0014】
請求項5によれば、第1の冷却風出口と第2の冷却風出口を連通させる混合空間を設けたので、混合空間においてより高温となる第1の冷却風と、第1の冷却風よりも温度が低い第2の冷却風を混合させ、空気温度を均一化できるので、第1の冷却風による局所的な温度上昇増大を抑制し、第2のマフラカバーの溶損等の熱害を効果的に抑制することができる。また、第2のマフラカバーから排出されるマフラ冷却風の温度を低減できる。
【0015】
請求項6によれば、混合空間にマフラの排気出口を連通させたので、排ガスを第1の冷却風および第2の冷却風と混合させることができるので、排ガス温度を低減することができる。
【0016】
請求項7によれば、連通口を駆動軸方向において冷却ファン側に配置すると共に、第1の冷却風入口と第2の冷却風の入口を冷却ファン側に配置したので、冷却ファンから冷却風を取り出しやすく、第1の冷却風および第2の冷却風の風量を容易に増大させることができる。
【0017】
請求項8によれば、仕切り板に設けられた共通の切り欠きによりシリンダ室と第1の空間と第2の空間とを連通させるようにしたので、簡単な構成で冷却効率を向上させることができる。
【0018】
請求項9によれば、シリンダを冷却する前の冷却風をマフラ冷却室に供給したので、より冷たい冷却風をマフラ冷却室内に供給することができるので、高い冷却効果を得ることができる。
【0019】
請求項10によれば、第1のマフラカバーを第2のマフラカバーに取り付けたので、第1のマフラカバーがマフラに直接接することがなく、第1のマフラカバーの温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0020】
請求項11によれば、第2のマフラカバーにおいて、第2のマフラカバーの混合空間側の少なくとも一部を隙間を有して覆う第3のマフラカバーを設けたので、混合空間の容積を容易に増大させることができ、第1の冷却風と第2の冷却風と排ガスの混合をより促進できる。従って、局所的な温度上昇増大を抑制し、熱害を抑制できる。
【0021】
請求項12によれば、駆動源の局所的な温度上昇が抑制された作業性の良いエンジン作業機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例による小型空冷エンジン100の組立方法の斜視説明図である。
【
図2】本発明の実施例による小型空冷エンジン100の正面図である。
【
図3】本発明の実施例による小型空冷エンジン100の側面図である。
【
図4】本発明の実施例による小型空冷エンジン100のC−C断面図である。
【
図5】本発明の実施例による小型空冷エンジン100のB−B断面図である。
【
図6】本発明の実施例による小型空冷エンジン100のA−A断面図である。
【
図7】本発明の実施例による第2のマフラカバーの斜視図である。
【
図8】本発明の実施例による第3のマフラカバーの斜視図である。
【
図9】本発明の実施例による第1のマフラカバーの斜視図である。
【
図10】本発明の実施例による仕切り板の斜視図である。
【
図11】エンジン作業機としての刈払機101の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態となる空冷エンジン(エンジン)の構成について説明する。ここで、この空冷エンジンとは、シリンダ、クランクケース等からなる2サイクルのエンジン本体と、シリンダ等を覆うシリンダカバーとを含んで構成されるものとする。このエンジン本体における駆動軸には冷却ファンが固定され、この冷却ファンが回転することによって生成された冷却風によってシリンダカバー内でシリンダが冷却される。また、シリンダにおいては、燃焼室が内部に形成された略円筒形状のシリンダ筒部の外周面に、放熱用の複数のフィンが形成されている。
【0024】
このエンジンは、例えば、刈払機、送風機等、作業者が携帯して使用する携帯用作業機で使用され、上記の構造はエンジン作業機本体に搭載される。このため、実際には、エンジン作業機本体を駆動するための減速機等も駆動軸に接続され、かつこのエンジンをエンジン作業機本体(例えば刈払機の操作管、ハンドル、刈刃など)に固定するための構造もエンジンに設けられる。
しかしながら、これらのエンジン作業機本体との間の接続構造については本願発明とは直接の関係がなく、かつこれらについては従来から知られるものと同様であるため、以下ではこれらについての説明は省略し、主にエンジンの冷却に関わる構造、機能について説明する。
【0025】
図1は、このエンジン(空冷エンジン)100の構成を示す斜視組立図である。このエンジン100においては、駆動軸21を回転可能に支持するクランクケース4の上部に、内部にピストン17(
図1では図示されず)等を具備し、表面に冷却効率を高めるために複数のフィンが上下方向に略平行に並んで形成されたシリンダ2が設けられている。シリンダ2の上部には、シリンダ2内の混合気を点火するための点火プラグ(図示せず)が設けられ、点火プラグにはプラグカバー20が取り付けられている。点火プラグはシリンダ2に取り付けられた点火装置19(
図4)と図示しない高圧コードにて電気的に接続されており、点火装置19の動作によって点火プラグがシリンダ2内部で火花を発生させることができるよう構成されている。このエンジン100において駆動される駆動軸21には冷却ファン18が固定され、これによって冷却風が生成される。
【0026】
図2はエンジン100の正面図であり、
図5はB−B水平断面図である。クランクケース4の下部には燃料が内部に溜められた燃料タンク5が取り付けられる。正面からみてシリンダ2の右側には、この燃料と空気とが混合された混合気をシリンダ2内に導入するための吸気口23が設けられている。吸気口23には吸気管22が取り付けられ、更に混合気を生成する気化器10が取り付けられ、更にその右側には気化器10に導入される空気中の埃等を除去するためにエアクリーナ6が固定される。エアクリーナ6は、埃等を除去するフィルタエレメント(図示省略)を収容した状態で固定される。気化器10と燃料タンク5とはゴムチューブ等によって形成される燃料通路(図示せず)によって接続され、燃料が気化器に供給される。燃料タンク5への燃料の供給は、給油口に取り付けられたタンクキャップ30を取り外して行われる。
【0027】
シリンダ2の排気口3には、排気ガスの浄化や消音のためにマフラ8が仕切り板7を介してネジ材52により接続され、排気ガスはマフラ8を介して外部に放出される。仕切り板7は、例えば鉄板を黒鉛で被覆したシート状の部材として構成され、マフラ8と排気口3の間のガスケットとしての役割を果たすものであり、
図10に示すように排気口3よりも大きく広がっており、シリンダカバー1によって形成されるシリンダ冷却室34とマフラ冷却室35を区切っている。また、仕切り板7には切欠き部24a、切欠き部25aにより第1の連通口24、第2の連通口25が画成されており、第1の連通口24と第2の連通口25によってシリンダ冷却室34とマフラ冷却室35が連通するよう構成されている。
【0028】
マフラ8は、排気口3に取り付けられる排気入口と、排気出口14を備えて略箱状に構成され、マフラ8の内部には内部空間を区切る仕切り板15が設けられており、仕切り板15には排ガスの有害成分を燃焼させることで浄化する触媒16が溶接によって取り付けられている。
【0029】
マフラ8の周囲には、マフラ8の少なくとも一部を覆うマフラカバー36が設けられ、マフラ8はマフラカバー36内部に収容されている。マフラカバー36は、マフラ8と対向して配置される第1のマフラカバー11と、第1のマフラカバー11と対向して配置された第2のマフラカバー12と、第2のマフラカバー12の排気出口14側に配置される第3のマフラカバー13によって構成される。
【0030】
第1のマフラカバー11はアルミや鉄等の金属製であり、
図9に示されるよう右側面と後側面が開放された略箱状に形成され、特にマフラ8の左側面と対向する面と、冷却ファン側である前側面と対向する面を備え、後述する冷却風の導風部28Aを構成している。
【0031】
また、第2のマフラカバー12は、耐熱性を有する樹脂により形成され、
図7に示されるよう一面が開放された略箱状に形成され、開放された一面がシリンダ2に向いた状態でシリンダカバーに取り付けられる。尚、第2のマフラカバー12は、複数のリブにより表面が網目状に形成されているが、冷却風の外部への漏れを抑制して効率的に誘導するため隣り合うリブの間に壁面を備え、一部のリブ間にのみ風窓43として貫通穴が構成されている。すなわち、第2のマフラカバー12は、左側面と前側面に冷却風の導風部28Bを備える。また、マフラカバー12の後側面には、マフラ8の排気出口14に対応する位置に開口により排風口50が形成されている。
【0032】
また、第3のマフラカバー13は、耐熱性を有する樹脂により形成され、
図8に示されるよう第2のマフラカバー12と同様に一面が開放された箱状に形成され、開放された一面がマフラ8の後側面に向いた状態で第2のマフラカバー12の後側面に形成された雌ねじを有するネジボス部29にネジ材44を介して装着される。また、マフラカバー13の後側面には、第2のマフラカバー12と同じく、マフラの排気出口14に対応する位置に開口が形成されている。
【0033】
第1のマフラカバー11はネジ材37によって第2のマフラカバー12に締結され、第3のマフラカバー13はネジ材44によって第2のマフラカバー12に締結され、側壁(外)47が第2のマフラカバー12の排気出口14側から左側側面(
図5)の一部までを覆うように形成される。従って、第1のマフラカバー11はマフラ8に対向し、マフラ8との間に第1の空間32Aを形成するが、マフラ8と接することがないよう構成される。尚、第1のマフラカバー11は第2のマフラカバー12とは別に、例えばマフラ8とシリンダ2を取り付けるネジ材によって共通に取り付けられる構成であってもよいが、この場合、スペーサ等を用いてマフラ8との間に空間32Aを形成して取り付けられることが望ましい。また、第1のマフラカバー11と第2のマフラカバー12の間には第2の空間32Bが形成され、ネジ材37による締結部でのみ互いに接するよう構成される。
【0034】
以上により、マフラ冷却室35は第1のマフラカバー11によって第1の空間32A、第2の空間32Bに仕切られる。また、第3のマフラカバー13と第2のマフラカバー12の間には小隙間が形成され、ネジ材44による締結部でのみ互いに接するよう構成される。また、仕切り板7と第1のマフラカバー11が組み付けられた状態において、
図6に示す仕切り板と垂直な方向視において、仕切り板7に形成された切り欠き24aと第1のマフラカバー11の端部41が交差し、切り欠き25aが第1のマフラカバーの範囲内に位置する。これにより、第1の連通口24は、第1のマフラカバー11の内外にそれぞれ連通し、言い換えれば、第1の連通口24は、第1の冷却風入口31Aと、第2の冷却風入口31Bにそれぞれ接続され、シリンダ冷却室34と第1の空間32A、第2の空間32Bとをそれぞれ連通させる。第1のマフラカバー11とマフラ8との間に形成された第1の空間32Aと、第1のマフラカバー11と第2のマフラカバー12との間に形成された第2の空間32Bに振り分ける。更に、第1の空間32Aと第2の空間32Bは、少なくともマフラ8の前側面、左側面を介して後側面の第1の混合空間26にて連通される。尚、第2の連通口25を介する冷却風は、第1の連通口24よりシリンダ上死点側にて第1の空間32Aに流入する。
【0035】
駆動軸21の一端には冷却ファン18が配置され、冷却ファン18はファンケース9に収容されている。
図4において、ファンケース9は冷却ファン18の中心からの距離がシリンダ2側に向かって徐々に大きくなるボリュート形状とされ、駆動軸21(冷却ファン18)が反時計方向に回転する場合、冷却風CAがシリンダ2に向かって発生する。
【0036】
シリンダ2には、冷却ファン18に対向するように点火装置19が取り付けられる。冷却ファン18には図示しない磁性体が収容されている。点火装置19は、冷却ファン18と共に図示しない磁性体が回転することによって発電を行うことで、前述のごとく図示しない点火プラグを介してシリンダ2内にて火花を発生させる。また、駆動軸21の他端側には始動装置38が設置されており、始動装置38には把持部39が設けられている。始動装置38内には図示しないクラッチ機構が収容されており、作業者は把持部39を引っ張ることで駆動軸21を手動にて回転させることができる。
【0037】
シリンダ2およびクランクケース4内部にはピストン17が収容され、ピストン17と駆動軸21は図示しないクランク機構によって接続されており、駆動軸21が回転することによりピストン17がシリンダ2内部には往復動を行う。従って、作業者が把持部39を操作することで駆動軸21を回転させてピストン17を往復動させることにより、シリンダ2内部で混合気を圧縮すると共に火花を発生させることで混合気を燃焼させ、エンジン100を始動することができる。エンジン100が運転を開始すると、シリンダ2およびマフラ8は燃焼および排ガスの熱によって温度上昇し、これを冷却ファン18の回転によって発生させる冷却風にて抑制するよう動作する。
【0038】
以下、シリンダ2の冷却に関して説明する。
図4において、駆動軸21(冷却ファン18)が反時計回りに回転すると冷却風CA1が発生する。冷却風CA1はシリンダ2に向かって下から上に流れる。シリンダ2はシリンダカバー1および仕切り板7によって形成されるシリンダ冷却室34に収容されており、
図5に示すようにシリンダ2を冷却しながら水平方向に流れ、シリンダカバー1に設けられた風窓40から大気に排出される。
【0039】
以下、マフラ8の冷却に関して説明する。
図4において、駆動軸21(冷却ファン18)が反時計回りに回転すると冷却風CA1が発生するが、仕切り板7に設けられた第1の連通口24、第2の連通口25から冷却風CA1の一部がマフラ冷却室35に供給される。このとき、第1の連通口24と第2の連通口25はマフラ冷却室35において冷却ファン18に最も近い側に設置され、シリンダ2より冷却ファン18側において冷却風が分岐されることにより、シリンダ2を冷却する前の、温度上昇していない新鮮な冷却風を供給することができる。
【0040】
図5、
図6に示すようにマフラ冷却室35においては、第1の連通口24に対向して第1のマフラカバー11の端部41が配置される。この端部41により、冷却風は第1の空間32Aを流れる第1の冷却風CA2A、第2の空間32Bを流れる第2の冷却風CA2Bに分けられる。言い換えれば、シリンダ冷却室34から第1の連通口24を介してマフラ冷却室35に流入する冷却風の一部を、第1の連通口24から第1の冷却風入口31Aに導入し、他の一部を同じく第1の連通口24から第2の冷却風入口31Bに導入する。また、第2の連通口25は第1のマフラカバー11によって覆われており、第2の連通口25からマフラ冷却室35に供給された第3の冷却風CA3は、第1のマフラカバー11の一部として形成された案内部51によって全て第1の空間32Aに流入する。
【0041】
第1の空間32Aにおいて、第1の冷却風CA2Aは、第1のマフラカバー11に設けられた導風部28Aによってマフラ8の表面を冷却しながら、排気出口14に向かって流れる。
【0042】
第2の空間32Bにおいて、第2の冷却風CA2Bは、第2のマフラカバー12に設けられた導風部28Bによって第1のマフラカバー11および第2のマフラカバー12の表面を冷却しながら、排気出口14に向かって流れる。
【0043】
なお、第2のマフラカバー12においては、
図7に示すごとく導風部28B以外に風窓43が複数形成されており、エンジン100の運転中および停止後の第2の空間32B内における熱籠りを防止できるようになっている。
【0044】
第1のマフラカバー11においては、排気出口14側を開口させつつ、端部42が排気出口14の開口方向と略一致する方向に延びており、端部42の排気出口14側と第2のマフラカバー12の間には隙間が形成され、この隙間により第1の混合空間26が形成されている。
【0045】
従って、端部42と第1のマフラカバー11の間に形成される第1の冷却風出口33Aから流出した第1の冷却風CA2Aと、端部42と第2のマフラカバー12の間に形成される第2の冷却風出口33Bから流出した第2の冷却風CA2B、更に排気出口14から流出した排ガスEXは、第1の混合空間26に流入すると互いに混合し、空気温度が均一化される。
【0046】
従って、マフラ8表面を冷却した後で著しく空気温度が上昇した第1の冷却風CA2Aや排ガスEXがその温度を保ったまま第2のマフラカバー12の壁面等に衝突することがなく、第2のマフラカバー12の溶損等の熱害を効果的に抑制することができる。
【0047】
また、第2のマフラカバー12の排気出口14側には更に第3のマフラカバー13が設けられ、第3のマフラカバー13によって第2の混合空間27が形成されているので、第1の冷却風CA2A、第2の冷却風CA2B、第3の冷却風CA3、排ガスEXの混合ガスGにおいては空気温度の均一化がより一層進み、空気温度の局所的な高温部がなくなることで、第2のマフラカバー12ないし第3のマフラカバー13に対する熱害を効果的に抑制することができる。また、第3のマフラカバー13においては第2の混合空間27を形成する側壁(内)48と、上壁(内)46が設けられているので(6)、混合ガスGが側壁(外)47ないし上壁(外)45に接することがなく、側壁(外)47ないし上壁(外)45の表面温度を効果的に低減することができる。
【0048】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本実施例では第1のマフラカバー11は金属製としたが、温度上昇との兼ね合いで樹脂製としても良い。また、第1のマフラカバー11と第2のマフラカバー12に関して、第1のマフラカバー11の代用として第2のマフラカバー12から延びるリブ等を活用したり、第1のマフラカバー11を樹脂製とした上で第2のマフラカバー12に溶着するなどして、第1のマフラカバー11と第2のマフラカバー12を同一部品として一体成形しても良い。
【0049】
また、本実施例では第1の連通口24からマフラ冷却室35に供給される冷却風を第1の空間32Aと第2の空間32Bに振り分ける手段として、第1のマフラカバー11の端部41を第1の連通口24に対して対向させて配置させることで構成したが、第1の連通口24を第1の空間32Aに向かって開口する連通口、第2の空間32Bに向かって開口する連通口に分けて形成しても良い。
【符号の説明】
【0050】
1 シリンダカバー、2 シリンダ、3 排気口、4 クランクケース、5 燃料タンク、6 エアクリーナ、7 仕切り板、8 マフラ、9 ファンケース、10 気化器、11 第1のマフラカバー、12 第2のマフラカバー、13 第3のマフラカバー、14 排気出口、15 仕切り板、16 触媒、17 ピストン、18 冷却ファン、19 点火装置、20 プラグカバー、21 駆動軸、22 吸気管、23 吸気口、24 第1の連通口、25 第2の連通口、26 第1の混合空間、27 第2の混合空間、28A 第1の導風部、28B 第2の導風部、29 ネジボス部、30 タンクキャプ、31A 第1の冷却風入口、31B 第2の冷却風入口、32A 第1の空間、32B 第2の空間、33A 第1の冷却風出口、33B 第2の冷却風出口、34 シリンダ冷却室、35 マフラ冷却室、36 マフラカバー、37 ネジ材、38 始動装置、39 把持部、40 風窓、41 端部、42 端部、43 風窓、44 ネジ材、45 上壁(外)、46 上壁(内)、47 側壁(外)、48 側壁(内)、49 排風口、50 排風口、51 案内部、52 ネジ材、CA1 冷却風、CA2A、2B、3 マフラ冷却風、EX 排出ガス、G 混合ガス