特許第6232990号(P6232990)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232990
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】内燃機関の始動制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 1/02 20060101AFI20171113BHJP
   F02M 59/20 20060101ALI20171113BHJP
   F02M 59/32 20060101ALI20171113BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   F02D1/02 311B
   F02M59/20 D
   F02M59/32
   F02D29/02 321B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-254984(P2013-254984)
(22)【出願日】2013年12月10日
(65)【公開番号】特開2015-113743(P2015-113743A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】陶山 博伸
【審査官】 堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−155774(JP,A)
【文献】 特開2001−041088(JP,A)
【文献】 特開2011−213181(JP,A)
【文献】 特開2011−202617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 1/00− 1/18、29/00−29/06
F02M 39/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁(10)を備える内燃機関(40)と、前記燃料噴射弁により噴射される燃料を圧送する高圧燃料ポンプ(30)と、前記機関の回転速度を停止状態から少なくともアイドル回転速度まで上昇させることが可能なモータ(50)と、を備える車両に適用される内燃機関の始動制御装置(60)であって、
前記機関を始動させる際に、前記モータにより前記機関に回転力を付与させる回転力付与部と、
前記機関を始動させる際に、前記機関の通常運転時よりも前記ポンプによる圧送回数を減少させるとともに、前記ポンプによる1回の圧送量を前記燃料噴射弁による複数回の燃料噴射が可能な圧送量とする圧送制御部と、
前記機関を始動させる際に、前記高圧燃料ポンプから前記燃料噴射弁までの燃料通路における燃圧の目標圧力を算出する算出部と、を備え、
前記算出部は、複数回の噴射を実施しても、次の圧送が行われるまでの間に前記燃料噴射弁による噴射が可能となる最低噴射可能圧未満にならないように、前記燃料噴射弁により噴射させる噴射量、及び算出した前記噴射量を前記燃料噴射弁が噴射する際の前記燃圧の降下量を算出し、
前記圧送制御部は、前記算出部により算出された前記目標圧力と前記燃圧との偏差が小さいほど、前記機関を始動させる際の前記圧送回数を前記機関の通常運転時の前記圧送回数に近づけ、前記圧送の前における前記燃圧よりも次の前記圧送の前における前記燃圧の方が高くなるように圧力降下許容量を設定するとともに、前記算出部により算出された前記降下量に基づいて、前記圧送と次の前記圧送との間における前記燃圧の総降下量が前記許容量よりも小さくなるように前記圧送回数を減少させることを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記機関を始動させる際の前記圧送回数が前記機関の通常運転時の前記圧送回数に近づくほど、前記燃料噴射弁による前記燃料の噴射量を着火可能な最小噴射量以上から目標噴射量に向けて増加させる噴射制御部を備える請求項に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記圧送制御部は、前記内燃機関の始動開始時からの経過時間が長いほど前記許容量を小さくする請求項1又は2に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項4】
前記圧送制御部は、前記偏差が小さいほど前記許容量を小さくする請求項1又は2に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項5】
前記車両はハイブリッド車両であり、前記モータは前記車両の駆動用のモータであって、
前記回転力付与部は、前記モータの駆動力による前記車両の走行中に前記機関を始動させる際に、前記車両の回転状態にある車輪(74)からの回転力を受ける車軸(73)から、停止状態にある前記機関の出力軸に回転力を付与させ、
前記圧送制御部は、前記モータの駆動力による前記車両の走行中に前記機関を始動させる際に、前記圧送回数を減少させる請求項1〜のいずれかに記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項6】
前記車両は、前記機関を自動停止及び自動始動させるアイドルストップ機能を有する車両であり、前記モータは前記機関を始動させるスタータモータであって、
前記回転力付与部は、前記機関を自動始動させる際に、前記モータにより前記機関に回転力を付与させ、
前記圧送制御部は、前記機関を自動始動させる際に、前記圧送回数を減少させる請求項1〜のいずれかに記載の内燃機関の始動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧燃料ポンプにより圧送される燃料を筒内に直接噴射する内燃機関の始動を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)及び走行用モータを車両の駆動源として備えたハイブリッド車両や、エンジンを自動停止及び自動始動させるアイドルストップ機能を備える車両が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、エンジンを始動させる際に、少量の燃料でエンジンの燃焼を開始させて燃焼開始時のエンジンの出力トルクを抑制している。そして、その後、燃料を増加させてエンジンの出力トルクを徐々に増加させ、エンジン始動時に乗員に与えるショックを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3500999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直噴エンジンの場合、燃料噴射システムは高圧燃料ポンプを備えている。この高圧燃料ポンプにより燃料を圧送する際に、騒音としてポンプの作動音が発生する。エンジンの始動時には、静かな状態からポンプの作動音が発生する騒音状態に変化するため、車両の乗員や周囲の通行者に不快感を与える。特に、自動的なエンジンの始動時には、高圧燃料ポンプの作動音が不意に発生するため、周囲に与える不快感が大きい。そのため、エンジン始動時に、高圧燃料ポンプの作動音を抑制することが望まれる。しかしながら、特許文献1のようにトルク制御を行っても、高圧燃料ポンプの作動音を抑制することはできない。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑み、内燃機関の始動時に高圧燃料ポンプの作動音の発生を抑制可能な内燃機関の始動制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、気筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を備える内燃機関と、前記燃料噴射弁により噴射される燃料を圧送する高圧燃料ポンプと、前記機関の回転速度を停止状態から少なくともアイドル回転速度まで上昇させることが可能なモータと、を備える車両に適用される内燃機関の始動制御装置であって、前記機関を始動させる際に、前記モータにより前記機関に回転力を付与させる回転力付与部と、前記機関を始動させる際に、前記機関の通常運転時よりも前記ポンプによる圧送回数を減少させるとともに、前記ポンプによる1回の圧送量を前記燃料噴射弁による複数回の燃料噴射が可能な圧送量とする圧送制御部と、を備える。
【0007】
本発明によれば、高圧燃料ポンプにより圧送された燃料が、燃料噴射弁により内燃機関の気筒内に直接噴射される。また、内燃機関を始動させる際に、内燃機関の回転速度を停止状態からアイドル回転速度まで上昇させることが可能なモータ、すなわち燃料の燃焼トルクを必要とせずアイドル回転速度まで上昇させることが可能なモータにより、内燃機関に回転力が付与される。そのため、内燃機関を始動させる際に、小さな燃焼トルクで内燃機関を始動させることができ、内燃機関の通常運転時よりも燃料噴射弁による1回の噴射量を少なくすることができる。
【0008】
そこで、圧送制御部により、内燃機関の通常運転時よりも高圧燃料ポンプによる圧送回数が減らされるとともに、高圧燃料ポンプによる1回の圧送量が、燃料噴射弁による複数回の燃料噴射が可能な圧送量にされる。これにより、内燃機関を始動させる際に、通常運転時よりも高圧燃料ポンプの作動音の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両の構成を示すブロック図。
図2】高圧燃料ポンプの動作を示す図。
図3】エンジンの始動時における圧送回数、噴射回数、燃圧、許容圧力降下量、及び噴射量の時間変化を示すタイムチャート。
図4】エンジンの始動制御を実行する処理手順を示すフローチャート。
図5】低騒音制御を実行する処理手順を示すサブルーチン。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、エンジンの始動制御装置を具現化した各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る車両の概略構成について、図1を参照して説明する。第1実施形態に係る車両は、エンジンの駆動力とモータの駆動力とを組み合わせて走行するハイブリッド車両である。本車両は、モータ50、エンジン40(内燃機関)、高圧燃料ポンプ30、トランスミッション71、ディファレンシャルギア72、車軸73、車輪74、及びECU60(内燃機関の始動制御装置)を備える。
【0012】
エンジン40の出力軸は、モータ50の回転軸と接続している。エンジン40の出力軸及びモータ50の回転軸は、トランスミッション71及びディファレンシャルギア72を介して、車軸73及び左右一対の車輪74と接続している。
【0013】
モータ50は、電動機と発電機との双方の機能を有するモータジェネレータである。電動機として作動する場合、モータ50のトルクは、トランスミッション71により変速されてディファレンシャルギア72に入力され、ディファレンシャルギア72により2つに分割されて左右の車輪74へ伝達される。そして、モータ50のトルクにより、左右の車輪74が駆動される。
【0014】
また、発電機として作動する場合は、モータ50は、エンジン40又は車軸73から伝達される駆動力により回転して発電する。モータ50により発電された電力は、図示しないバッテリに供給される。
【0015】
本実施形態では、エンジン40は、圧縮自着火式の4気筒のディーゼルエンジンを想定している。エンジン40は、各気筒#1〜#4に搭載されたインジェクタ10(燃料噴射弁)を備える。各気筒のインジェクタ10は、予め設定された順番で順次、気筒内に燃料(軽油)を直接噴射する。エンジン40の燃焼トルクは、トランスミッション71により変速されてディファレンシャルギア72に入力され、ディファレンシャルギア72により2つに分割されて左右の車輪74へ伝達される。そして、エンジン40の燃焼トルクにより、左右の車輪74が駆動される。
【0016】
各気筒のインジェクタ10は、それぞれ高圧燃料配管22に接続されており、各高圧燃料配管22はコモンレール20に接続されている。コモンレール20は、高圧燃料配管31を介して高圧燃料ポンプ30に接続されている。高圧燃料ポンプ30は、エンジン40のクランク軸の回転に伴い駆動され、インジェクタ10により噴射される燃料を圧送する。詳しくは、高圧燃料ポンプ30は、図示しない燃料タンクから低圧燃料ポンプにより汲み上げられた燃料を加圧して、高圧燃料配管31を介してコモンレール20へ圧送する。高圧燃料ポンプ30により圧送された燃料は、コモンレール20内に高圧状態で保持される。コモンレール20内に保持された燃料は、高圧燃料配管22を通って、各気筒のインジェクタ10へ分配されて供給される。また、コモンレール20には圧力センサ21が設置されており、圧力センサ21はコモンレール20内の燃圧を検出する。
【0017】
高圧燃料ポンプ30は、図2に示すように、プランジャタイプの燃料ポンプであり、シリンダ38、プランジャ34、シュー35、ローラ36、PCV32(Pressure Control Valve)及び吐出弁33を備える。
【0018】
シリンダ38内には高圧室39が形成されている。高圧室39は、プランジャ34及びシリンダ38によって区画されている。高圧室39は、低圧燃料配管38aを介して低圧燃料ポンプに連通しているとともに、低圧燃料配管38bを介して燃料タンクに連通しいている。さらに、高圧室39は、高圧燃料配管31を介してコモンレール20内に連通している。
【0019】
プランジャ34は、略円柱形状の部材であって、シリンダ38内にシリンダ38の軸線方向(上下方向)に摺動が可能に挿入されている。シュー35は、略円筒形状の部材であって、上側の内部には、プランジャ34の下端部やプランジャ34に付勢力を付与するコイルばねなどが収容されている。また、シュー35の下側にはローラ36が回転可能に支持されている。ローラ36は、外周面がカム37の外周面に当接可能となっている。カム37は、エンジン40のクランク軸の回転に伴い回転する。カム37が回転すると、カム37の外周面形状に応じてローラ36が回転しながらシリンダ38の軸方向に直線往復運動する。これに伴い、シュー35及びプランジャ34もシリンダ38の軸方向に直線往復運動する。
【0020】
PCV32は、シリンダ38の上端部に設置されており、電磁ソレノイド32a、コイルばね32b、吸入弁32c等を備えている。電磁ソレノイド32aへ通電させると、吸入弁32cを上側へ引き寄せる吸引力が発生する。この吸引力により、吸入弁32cはシリンダ38の上端部に引き寄せられて、低圧燃料配管38a,bと高圧室39との連通が閉弁状態になる。このとき、吸入弁32cがシリンダ38の内壁に当たって打音が発生する。この打音が高圧燃料ポンプ30の作動時の騒音となる。一方、電磁ソレノイド32aへの通電を停止させると、コイルばね32bの付勢力により、吸入弁32cはプランジャ34に向けて移動する。これにより、低圧燃料配管38a,bと高圧室39との連通が開弁状態になる。
【0021】
吐出弁33は、高圧室39と高圧燃料配管31との接続部である吐出口部に設けられている。吐出弁33は、高圧室39内の燃圧が所定値に達した時点で開弁する。
【0022】
次に、図2を参照して、高圧燃料ポンプ30の動作について説明する。吸入弁32cの開閉タイミングは、PCV駆動パルスにより制御される。図2(a)〜(c)は、電磁ソレノイド32aへの通電が停止された状態を示し、図2(d)〜(e)は、電磁ソレノイド32aへ通電された状態を示す。
【0023】
上述したように電磁ソレノイド32aへの通電が停止されているときには、低圧燃料配管38a,bと高圧室39とが連通した状態になり、低圧燃料ポンプから送り出された低圧の燃料が低圧燃料配管38aを経て高圧室39内に吸入される。この状態において、カムリフト量が最大の時点(図2(a))からカム37が回転すると、これに伴いローラ36及びシュー35が下降するとともにプランジャ34も下降し、高圧室39の容積が最大になる(図2(c))。
【0024】
さらにカム37が回転すると、これに伴いローラ36及びシュー35が上昇するとともに、プランジャ34が上昇して高圧室39の容積は減少する。ここで、電磁ソレノイド32aへ通電させると、低圧燃料配管38a,bと高圧室39との連通が遮蔽され、高圧室39内の燃料が加圧される(図2(d))。そして、高圧室39内の燃圧が所定値に達した時点で吐出弁33が開弁して、高圧の燃料が高圧燃料配管31を通じてコモンレール20へ圧送される。なお、吸入弁32cが閉弁状態になった時に、高圧室39から溢れた低圧の燃料は、低圧燃料配管38bを通じて燃料タンクへ戻される。
【0025】
ECU60は、CPU、メモリ、及びI/O等を備えるマイクロコンピュータであり、図示しない各種センサの検出値に基づいて、モータ50、高圧燃料ポンプ30、インジェクタ10等の動作を制御する。特に、ECU60は、エンジン40を始動させる際に、メモリに記憶されている各種プログラムを実行することにより、回転力付与部、算出部、圧送制御部、及び噴射制御部の機能を実現して、エンジン40の始動制御を行う。以下、回転力付与部、算出部、圧送制御部、及び噴射制御部について、図3を参照して説明する。
【0026】
回転力付与部は、エンジン40を始動させる際に、モータ50によりエンジン40に回転力を付与させる。一般的なセルモータの出力では、エンジン40の回転速度を停止状態からアイドル回転速度まで上昇させることはできないが、車両の駆動用モータであるモータ50の出力では、エンジン40の回転速度を停止状態からアイドル回転速度まで上昇させることができる。すなわち、回転力付与部は、燃料の燃焼トルクを必要とせずに、アイドル回転速度まで上昇させることが可能なモータ50により、エンジン40に回転力を付与する。
【0027】
モータ50の駆動力による車両の走行中にエンジン40を始動させる際は、回転力付与部は、モータ50の動力をエンジン40へ伝達させる。これにより、図1の実線矢印で示すように、車輪74の回転が、車軸73、ディファレンシャルギア72、トランスミッション71及びモータ50を経てエンジン40の出力軸に入力され、エンジン40の出力軸は車輪74とともに回転する。この場合、押しがけ始動のような状態になり、エンジン40は、図3(a)に実線で示すように、エンジン40が燃焼トルクを生成する前からアイドル回転速度よりも高い回転速度(1000rpm)で回転する。
【0028】
また、車両の停止中にエンジン40を自動始動させる際は、回転力付与部は、モータ50を回転させて、図1の破線矢印で示すように、モータ50の回転力によりエンジン40をクランキングする。このため、エンジン40の回転速度は、図3(a)に破線で示すように、エンジン40が燃焼トルクを生成する前から、モータ50の回転力により滑らかにアイドル回転速度まで上昇する。なお、車両の停止中にエンジン40を自動始動させる状況としては、車両の停止中にエアコンの駆動や、バッテリ容量が低下した場合などがある。
【0029】
車両の停止中にエンジン40を自動始動させる場合の方が、モータ50の駆動力による車両の走行中にエンジン40を始動させる場合よりも、エンジン40を始動させるために必要な燃焼トルクは大きい。しかしながら、上記どちらの始動の場合でも、モータ50の回転アシストにより、小さな燃焼トルクでエンジン40を始動させることができる。そのため、エンジン40の通常運転時よりもインジェクタ10による1回の噴射量を少なくすることができ、ひいては、エンジン40の通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30による圧送回数を減らすことができる。
【0030】
そこで、エンジン40の始動要求が発生すると、算出部、圧送制御部、及び噴射制御部は、エンジン40の始動開始から始動終了までにおける燃料の噴射量、燃料圧送の間引き回数等を設定し、エンジン40の始動時に通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30による圧送回数を減らす。本実施形態では、エンジン40の通常運転時において、1回の燃料圧送に対して1気筒に燃料を噴射することを想定しており、エンジン40の始動の際には、1回の燃料圧送に対して複数気筒に燃料噴射を行うようにする。これにより、エンジン40の始動時に、エンジン40の通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30の作動回数が減少し、作動音が抑制される。
【0031】
算出部は、エンジン40を始動させる際に、高圧燃料ポンプ30からインジェクタ10の噴孔までの高圧燃料通路における燃圧の目標圧力(図3(g)の一点鎖線)を算出する。この目標圧力は、エンジン40をアイドル回転速度で回転させるための目標圧力であり、インジェクタ10から燃料を噴射させることが可能な最低圧力(最低噴射可能圧)よりも大きい。
【0032】
また、算出部は、インジェクタ10により噴射させる1回の噴射量、すなわち1気筒当りの噴射量を、エンジン40の温度等に応じて算出する(図3(i))。1回の圧送に対して複数回噴射させる場合は、1回の圧送に対して同じ噴射量で複数回噴射させてもよいし、1回の圧送に対して異なる噴射量で複数回噴射させてもよい。さらに、算出部は、算出した噴射量をインジェクタ10が噴射する際の燃圧の降下量ΔPcを次の式(1)から算出する。
ΔPc=インジェクタによる燃料噴射量×(体積弾性係数/高圧部容積)・・・(1)
【0033】
燃料噴射量は、噴射前、すなわちインジェクタ10内の圧力における燃料の量である。高圧部容積は、高圧燃料ポンプ30の容積、高圧燃料配管31、コモンレール20、高圧燃料配管22、及びインジェクタ10内の高圧燃料通路の合計容積である。インジェクタ10内の高圧燃料通路は、高圧燃料配管22との接続部から噴孔までの通路である。
【0034】
圧送制御部は、エンジン40を始動させる際に、エンジン40の通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30による圧送回数を減少させる。さらに、圧送制御部は、エンジン40を始動させる際に、高圧燃料ポンプ30による1回の圧送量を、インジェクタ10による複数回の燃料噴射が可能な圧送量にする。
【0035】
詳しくは、圧送制御部は、算出部により算出された目標圧力と、上記高圧燃料通路における燃圧との偏差が小さいほど、エンジン40を始動させる際の圧送回数を、エンジン40の通常運転時の圧送回数に近づける。図3(g)の実線は、上記高圧燃料通路において圧力センサ21により検出された燃圧を示し、破線の矢印は燃圧と目標圧力との偏差を示す。圧送制御部は、エンジン40の始動要求発生時において圧力センサ21により検出された燃圧、算出部により算出された噴射量及び燃圧の降下量等から、エンジン40の始動終了までの燃圧の変化を推定する。そして、圧送制御部は、推定した燃圧と目標圧力との偏差が小さいほど、図3(b),(e)に示すように、間引き回数を少なく設定する。具体的には、最初は間引き回数を3回にし、1回の燃料圧送で4気筒分の噴射を行う。次は間引き回数を2回にし、1回の燃料圧送で3気筒分の噴射を行う。続いて、間引き回数を1回にし、1回の燃料圧送で2気筒分の噴射を行う。その後、間引きをなくし、エンジン40の通常運転時の燃料圧送を行う。
【0036】
また、圧送制御部は、燃料圧送の前における燃圧よりも次の燃料圧送の前における燃圧の方が高くなるように、圧力降下許容量(図3(g)の実線矢印)を設定する。圧力降下許容量は、燃料の圧送後に噴射に伴い燃圧が低下しても、燃圧が目標圧力に向けて上昇可能な燃圧の降下量の範囲である。そして、圧送制御部は、算出部により算出された燃圧の降下量に基づいて、燃料圧送と次の燃料圧送との間における燃料の総降下量が、圧力降下許容量よりも小さくなるように、エンジン40の通常運転時よりも圧送回数を減少させる。
【0037】
さらに、圧送制御部は、図3(h)に示すように、エンジン40の始動開始時からの経過時間が長いほど、又は燃圧と目標圧力との偏差が小さいほど、圧力降下許容量を小さく設定する。このように圧力降下許容量を設定することにより、燃圧は目標圧力まで滑らかに上昇する。また、圧送制御部は、高圧燃料ポンプ30に対する駆動指令期間(図3(f))、すなわち電磁ソレノイド32aへの通電期間を制御して、高圧燃料ポンプ30による1回の圧送量を調整する。
【0038】
噴射制御部は、図3(b),(i)に示すように、間引き回数を3、2、1と減らすのに応じて、1気筒当りの噴射量を増加させる。すなわち、噴射制御部は、エンジン40を始動させる際の圧送回数が、エンジン40の通常運転時の圧送回数に近付くほど、インジェクタ10による燃料の噴射量を増加させる。これにより、エンジン40の通常運転時における燃料の噴射量に滑らかに移行される。
【0039】
次に、エンジン40の始動制御を実行する処理手順について、図4のフローチャートを参照して詳しく説明する。本処理手順は、ECU60が所定間隔で実行する。
【0040】
まず、始動スイッチがオフか否か判定する(S10)。始動スイッチがオフの場合は(S10:YES)、エンジン40の停止処理を行う(S23)。詳しくは、今回の処理実行時に初めて始動スイッチがオフになった場合は、高圧燃料ポンプ30による燃料の圧送を停止するとともに、インジェクタ10による燃料の噴射を停止して、エンジン40の出力を0にし、本処理を終了する。すでに、高圧燃料ポンプ30による燃料の圧送が停止されているとともに、インジェクタ10による燃料の噴射が停止されている場合には、そのまま本処理を終了する。
【0041】
一方、始動スイッチがオフでない場合、すなわち始動スイッチがオン又はアクセサリの場合は(S10:NO)、低騒音のエンジン始動が選択されたか否か判定する(S11)。低騒音のエンジン始動は、ドライバがスイッチを押すことにより選択される。あるいは、ヘッドライトが点灯している時間帯では、自動的に低騒音のエンジン始動が選択されるようにしてもよい。低騒音のエンジン始動が選択されていない場合は(S11:NO)、通常のエンジン制御を行う(S22)。すなわち、エンジン40の始動要求が発生した場合でも、エンジン40の通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30による圧送回数を減らす制御を行わない。その後、本処理を終了する。
【0042】
低騒音のエンジン始動が選択されている場合には(S11:YES)、低騒音始動用の噴射量、圧送の間引き回数、圧送のセット数を設定する(S12)。詳しくは、低騒音始動用の噴射量を算出するとともに、算出した噴射量を噴射可能な圧力値を算出する。そして、算出した噴射量、圧力値、高圧燃料ポンプ30による最大圧送量等に基づいて、許容圧力降下量、1回の圧送に対する噴射回数、圧送の間引き回数、及び圧送のセット数を算出する。圧送のセット数は、エンジン40の始動開始から始動終了までに行う圧送の回数であり、図3では圧送のセット数は3である。さらに、算出した噴射量及び圧送の間引き回数から1回の圧送量を算出するとともに、電磁ソレノイド32aの駆動時間を算出する。なお、モータ50の駆動力による車両の走行中にエンジン40を始動させる場合、及び車両の停止中にエンジン40を自動始動させる場合のそれぞれにつて、噴射量、許容圧力降下量、1回の圧送に対する噴射回数、圧送の間引き回数、及び圧送量を算出する。
【0043】
続いて、モータ50の駆動力により走行中か否か判定する(S13)。詳しくは、エンジン40の出力軸が車輪74とともに回転しているか否か判定する。すなわち、押しがけ始動のように、小さな燃焼トルクでエンジン40を始動させることができるか否か判定する。
【0044】
エンジン40の出力軸が車輪74とともに回転している場合は(S13:YES)、気筒判別が完了しているか否か判定する(S14)。気筒判別が完了していない場合は(S14:NO)、気筒判別が完了するまでS14の処理を繰り返し実行する。
【0045】
気筒判別が完了している場合は(S14:YES)、エンジン40の始動要求があるか否か判定する(S15)。エンジン40の始動要求がない場合は(S15:NO)、エンジン40の停止中の通常制御を行い(S22)、本処理を終了する。
【0046】
エンジン40の始動要求がある場合は(S15:YES)、低騒音制御によりエンジン40を始動させる(S16)。低騒音制御によるエンジン40の始動については、後で説明する。モータ50の駆動力による走行中に、エンジン40の始動要求が発生する状況としては、ハイブリッド車両では、低速領域で効率のよいモータ50の駆動力で走行を開始し、その後の加速要求に応じてエンジン40の始動要求が発生する状況がある。また、モータ50の駆動力による走行中に、バッテリの容量が低下してエンジン40の始動要求が発生する状況がある。
【0047】
続いて、低騒音制御を脱出する条件が成立したか否か判定する(S17)。脱出する条件は、圧送の間引き回数が0になる、燃圧が目標圧力に到達する、エンジン40の始動が終了する等である。低騒音制御によるエンジン40の始動では、噴射量を少量から除々に増加させるため、エンジン40の始動開始から始動終了までの時間が、圧送回数を低減させない通常のエンジン40の始動時よりも長くなる。そこで、エンジン40の発生要求トルクによっては、低騒音制御から脱出する条件が早く成立するような処置をしてもよい。例えば、エンジン40の発生要求トルクが所定値よりも大きい場合は、圧送の間引き回数が2になった時点で、低騒音制御を脱出する条件が成立するようにしてもよい。
【0048】
低騒音制御を脱出する条件が成立していない場合は(S17:NO)、S16の低騒音制御によるエンジン40の始動処理に戻る。一方、低騒音制御を脱出する条件が成立している場合は(S17:YES)、エンジン40の通常運転時の制御を実行し(S22)、本処理を終了する。なお、エンジン40の始動が終了した場合は、ドライバの要求トルクや発電要求等に応じてエンジン40及びモータ50が制御される。したがって、エンジン40の始動終了後に、モータ50を停止させてもよい。
【0049】
S13においてモータ50の駆動力により走行中でない場合、すなわちエンジン40の出力軸が車輪74とともに回転していない場合は(S13:NO)、エンジン40の始動要求があるか否か判定する(S18)。エンジン40の始動要求がない場合は(S18:NO)、S18の処理を繰り返し実行する。
【0050】
エンジン40の始動要求がある場合は(S18:YES)、S14の処理と同様に気筒判別が完了しているか否か判定する(S19)。気筒判別が完了していない場合は(S19:NO)、気筒判別が完了するまでS19の処理を繰り返し実行する。気筒判別が完了している場合は(S19:YES)、低騒音制御によりエンジン40を始動させる(S20)。低騒音制御によるエンジン40の始動については、後で説明する。
【0051】
車両の停止中に、エンジン40の始動要求が発生する状況としては、始動スイッチをアクセサリにしてバッテリの容量を消費し、エンジン40の始動要求が発生する状況がある。また、冷機、停車状態で始動スイッチをオンにして所定時間経過し、暖機目的でエンジン40の始動要求が発生する状況がある。
【0052】
続いて、S17の処理と同様に、低騒音制御を脱出する条件が成立したか否か判定する(S21)。騒音制御を脱出する条件が成立していない場合は(S21:NO)、S20の低騒音制御によるエンジン40の始動処理に戻る。一方、低騒音制御を脱出する条件が成立している場合は(S21:YES)、エンジン40の通常運転時の制御を実行し(S22)、本処理を終了する。
【0053】
次に、低騒音制御によりエンジン40を始動させる処理(S16,S20)について、図5のサブルーチンを参照して詳しく説明する。低騒音制御によりエンジン40を始動させる際は、モータ50の回転力をエンジン40に付与する。そのため、通常のスタータモータによるエンジン40のクランキング時のように、エンジン40の回転速度がオーバーシュートするほどの燃料を、インジェクタ10により噴射させる必要がない。よって、燃焼を実現する少量(着火可能な少量)の燃料を、インジェクタ10により噴射させればよい。
【0054】
まず、高圧燃料ポンプ30に、S12で設定した複数回の噴射を可能とする燃料の圧送、すなわちS12で設定した圧送の間引き回数、圧送量を指令し、高圧燃料ポンプ30により燃料の圧送を実行させる(S110)。
【0055】
続いて、高圧燃料ポンプ30による燃料供給量が、S12で設定した回数の噴射を行うことが可能な噴射量になっているか否か判定する(S111)。燃料供給量は、圧力センサ21により検出される燃圧から確認できる。ただし、初回の噴射時には、コモンレール20内の圧力が非常に低くなっているため、1回の燃料圧送では、燃料供給量がS12で設定した回数の噴射を行うことができる噴射量を満たさない場合がある。この場合(S111:NO)、S110の処理に戻り、S12で設定した回数の噴射を行うことが可能な燃圧になるまで、高圧燃料ポンプ30により全量圧送を実行させる。
【0056】
一方、燃料供給量が、S12で設定した回数の噴射を行うことが可能な噴射量になっている場合(S111:YES)、1つの気筒に対してインジェクタ10により燃料を噴射させる(S112)。
【0057】
続いて、燃料噴射後の燃圧状態が問題ないか否か判定する(S113)。詳しくは、燃料噴射後に圧力センサ21により検出された燃圧に基づいて、噴射に伴う燃圧の降下量が許容圧力降下量よりも大きいか否か、及び燃料噴射後の燃圧が噴射可能な最低圧力より低いか否かを判定する。噴射に伴う燃圧の降下量が許容圧力降下量よりも大きい場合、あるいは燃料噴射後の燃圧が噴射可能な最低圧力よりも低い場合は(S113:NO)、圧送の間引きカウンタをリセットして、S110の処理に戻る。
【0058】
噴射に伴う燃圧の降下量が許容降下量よりも小さく、且つ燃料噴射後の燃圧が噴射可能な最低圧力よりも高い場合は(S113:YES)、気筒カウンタを更新し、次の気筒へ移行したか否か判定する(S114)。次の気筒へ移行していない場合は(S114:NO)、次の気筒へ移行するまでS114の処理を繰り返し実行する。
【0059】
次の気筒へ移行している場合は(S114:YES)、高圧燃料ポンプ30による圧送の間引きカウンタを更新する(S115)。続いて、間引きカウンタに基づいて、S12で設定したセット数の間引き圧送が完了したか否か判定する(S116)。設定したセット数分の圧送が行われ、各圧送に対して設定された気筒数分の噴射が完了した場合には(S116:YES)、本処理を終了する。例えば、図3の場合には、圧送を3セット行い、且つ間引きカウンタが3番目のセットに対して設定した噴射回数2の場合に、本処理を終了する。
【0060】
一方、S12で設定したセット数の間引き圧送が完了していない場合には(S116:NO)、S110の処理に戻る。所定のセットに対する噴射回数が完了している場合には、次のセットへ移りS110の圧送処理から繰り返し実行する。所定のセットに対する噴射回数が完了していない場合には、S110の圧送処理を行わないで、S111の処理から繰り返し実行する。
【0061】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0062】
・エンジン40を始動させる際に、モータ50によりエンジン40に回転力が付与される。そのため、エンジン40を始動させる際に、小さな燃焼トルクでエンジン40を始動させることができ、エンジン40の通常運転時よりもインジェクタ10による1回の噴射量を少なくすることができる。よって、エンジン40の通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30による圧送回数を減少させることができる。これにより、エンジン40を始動させる際に、通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30の作動音の発生を抑制できる。
【0063】
・目標圧力と燃圧との偏差が小さいほど、エンジン40を始動させる際の圧送回数がエンジン40の通常運転時の圧送回数に近づけられるため、エンジン40の通常運転時における高圧燃料ポンプ30の圧送回数に滑らかに移行させることができる。
【0064】
・高圧燃料ポンプ30による圧送回数を多くすると、インジェクタ10による1回の噴射量を多くすることができる。よって、高圧燃料ポンプ30による圧送回数がエンジン40の通常運転時の圧送回数に近づくほど、インジェクタ10による燃料の噴射量を増加させることができ、ひいては、エンジン40の通常運転時の燃料噴射量に滑らかに移行させることができる。
【0065】
・圧送の前の燃圧よりも次の圧送の前の燃圧の方が高くなるように、圧力降下許容量が設定される。そして、圧送と次の圧送との間における噴射に伴って降下する燃圧の総降下量が、圧力降下許容量よりも小さくなるように、圧送回数が減少される。これにより、エンジン40の通常運転時よりも圧送回数を減少させても、高圧燃料ポンプ30により燃料を圧送するごとに、確実に燃圧を目標圧力に向けて上昇させることができる。
【0066】
・エンジン40の始動開始時からの経過時間が長いほど、目標圧力と燃圧との偏差は小さくなる。目標圧力と燃圧との偏差が小さいほど、圧力降下許容量を小さくすることにより、燃圧を目標圧力まで滑らかに上昇させることができる。
【0067】
・ハイブリッド車両がモータ50の駆動力により走行している場合に、モータ50の動力をエンジン40に伝達させると、エンジン40の出力軸は車輪74とともに回転する。そのため、モータ50の駆動力による走行中にエンジン40を始動させる際は、小さな燃焼トルクでエンジン40を始動させることができる。よって、エンジン40を始動させる際に、エンジン40の通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30による圧送回数を減少させることができ、ひいては、高圧燃料ポンプ30の作動音を抑制できる。
【0068】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る内燃機関の始動制御装置について、第1実施形態と異なる点について説明する。第2実施形態に係る内燃機関の始動制御装置は、ハイブリッド車両ではなく、エンジン40を自動停止及び自動始動させるアイドルストップ機能を備えた車両に適用する。第2実施形態に係る車両の構成は、図1の構成と同様である。ただし、第2実施形態では、モータ50はエンジン40を始動させるスタータモータであって、モータ50の駆動力により、エンジン40の回転速度を、停止状態からアイドル回転速度まで上昇させることができるが、モータ50の駆動力だけで車両を走行させることはできない。
【0069】
第2実施形態では、圧送制御部は、エンジン40を自動始動させる際に、エンジン40の通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30による圧送回数を減少させるとともに、インジェクタ10による複数回の燃料噴射が可能な圧送量を圧送させる。
【0070】
第2実施形態におけるエンジン40の始動制御では、図4のフローチャートのS13〜S17の処理は実行しない。S12の処理の後、S18の処理を続けて行う。S12では、車両の停止中にエンジン40を自動始動させる場合の設定のみを行う。なお、ドライバの手動によりエンジン40を始動させる際に、特にヘッドライトが点灯する時間帯に、低騒音制御によるエンジン40の始動を行ってもよい。
【0071】
以上説明した第2実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0072】
・エンジン40を自動始動させる際に、モータ50によりエンジン40に回転力を付与させると、エンジン40の回転速度をアイドル回転速度まで上昇させることができるため、小さな燃焼トルクでエンジン40を始動させることができる。よって、交差点等においてエンジン40を自動始動させる際に、高圧燃料ポンプ30の作動音を抑制して、周囲の通行者に不快感を与えることを抑制できる。
【0073】
(他の実施形態)
・圧力降下許容量は、噴射量、燃圧、エンジン40の始動開始時からの累積圧送回数等から算出してもよい。
【0074】
・噴射量、間引き回数、圧送量は、圧送する度に設定してもよい。
【0075】
・圧送ごとに目標圧力を設定してもよい。この場合、目標圧力を、エンジン40をアイドル回転速度で回転させることが可能な目標圧力まで除々に上げる。また、圧力降下許容量は、燃圧が目標圧力よりも低くならないような燃圧の降下量の範囲にする。
【0076】
・エンジン40の自動始動時は、ドライバの意図しない始動であるため、高圧燃料ポンプ30の作動音の発生頻度、又はエンジン40の回転速度の上昇が、ドライバの意図する始動時よりも滑らかになるように、圧力降下許容量を設定してもよい。
【0077】
・S113の処理で、噴射に伴う圧力の降下量が圧力降下許容量よりも大きい場合、圧送の間引き回数をS12で設定した回数よりも少ない回数に更新してもよい。
【0078】
・急発進が要求され、エンジン40の始動中に目標圧力が変化した場合には、低騒音制御によるエンジン40の始動から、通常のエンジン40の始動に切り替えるようにしてもよい。通常のエンジン40の始動に切り替えた後は、インジェクタ10により噴射する燃料噴射量は、低騒音制御時の燃料噴射量よりも所定量を超えて多くするとよい。
【0079】
・上記各実施形態では、エンジン40の通常運転時において、1回の燃料圧送に対して1気筒に燃料を噴射することを想定していたが、エンジン40の通常運転時において、1回の燃料圧送に対して複数気筒に燃料を噴射してもよい。また、燃料圧送と噴射とが非同期であってもよい。このような場合でも、エンジン40を始動する際に、エンジン40の通常運転時よりも高圧燃料ポンプ30による燃料の圧送回数を減らすことができ、ひいては、高圧燃料ポンプ30の作動音の発生頻度を、エンジン40の通常運転時よりも抑制できる。
【0080】
・上記各実施形態ではディーゼルエンジンの例を示したが、ガソリン直噴エンジンでもよい。この場合、デリバリパイプがコモンレール20に相当する。また、エンジン40の気筒数は4気筒に限らない。要するに、気筒内に燃料を噴射可能な燃圧まで上昇させることのできる高圧燃料ポンプを備える車両であれば、エンジン始動時に高圧燃料ポンプの作動音が騒音として問題になるため、本発明を適用する利点がある。
【符号の説明】
【0081】
10…インジェクタ、30…高圧燃料ポンプ、40…エンジン、50…モータ、60…ECU。
図1
図2
図3
図4
図5