(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明基材と、透明基材の少なくとも一方の面上に設けられた導電線条パターンを含む位置検知電極を備えた電極シートであって、該導電線条パターンは、透明基材の一方の面に形成されたニッケル又はその合金よりなる密着層と、該密着層に積層された銅層とを備え、該密着層の線幅を銅層の線幅よりも幅広として銅層の両側に50〜1000nm幅の密着層の延在部を設けてなる電極シートと、該位置検知電極を備えた電極シートとカバーガラスとを密着固定する透明粘着剤層と、カバーガラスとを含むタッチパネル用積層体。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイ画面用電磁波遮蔽シートやタッチパネル用位置検知電極、透明アンテナ等の電極シートとして、一般的には、ガラス板やポリエチレンテレフタレートフィルム等からなる透明基材の片方の面上に、ITO(インジウム錫酸化物)薄膜からなる透明導電膜を形成したものが使用されている。
しかし、ITO薄膜からなる透明導電膜は、インジウムというレアメタル(希土類元素)が使用されるために高価である点、及び、抵抗(表面抵抗率)が大面積化を図るには高抵抗である点で、低コスト化及び大画面化への要求に対応し難い。
【0003】
そこで、ITO薄膜の透明導電膜に代えて、透明基材に、金属細線パターンを形成した電極部材が提案されている。金属メッシュ等の金属細線パターンによれば、ITO薄膜に比べて低コストかつ低抵抗にできる。
一方、金属細線パターン等からなる電極シートは、機能性フィルタや保護用透明ガラス板又は透明プラスチックシート等の透明基材や、電極シート同士、或いは画像表示面等に配置するに際して接着剤層(粘着剤層を含む)を介して配置される。
この種の電極シートとして、銅メッシュ層からなるものが提案されているが銅層と透明基材との密着性が低く銅メッシュ層が基材から剥離し易いこと、及び銅メッシュ層と接着剤層との密着性も低く、特に銅メッシュが透明基材と接合する部分の近傍に於いて接着剤層中に気泡が残留し易いことが課題であった。
【0004】
特許文献1には、透明基体(1)上に、全光線透過率が50%以上になるように、網の目状に灰色系の導電性金属薄膜(2)と銅薄膜(3)が順次積層されてなる電磁波シールド用透明部材が開示され、さらに、銅薄膜(3)上に導電性金属薄膜(4)が積層されたもの、導電性金属薄膜(2)又は(4)がニッケル、クロム又はそれらの合金による各薄膜の一種であるもの等が提案されている。
しかし、得られる電磁波シールド用透明部材は、特許文献1の
図1にも示されているように、パターン部は、透明基材(1)に対して、ニッケル層(2)、銅層(3)の幅が同一で積層されており、後に開口部(非パターン部)に充填される、接着剤層との密着性及び気泡残留等については、課題認識はもとよりその解決手段についても開示も示唆もされていない。
【0005】
また、近時、入力装置としてタッチパネルを備えた表示装置(タッチスクリーン)が、パーソナルコンピュータ、携帯情報端末等、デジタル情報機器を中心に多方面で使用されている。タッチパネルには、種々の方式が提案されているが、その中で抵抗膜方式と静電容量方式が主体を占めている。
静電容量式タッチパネルは、特定の電極パターンを形成し電極間の静電容量値の変化を検出して、指入力またはペン入力により押圧した位置を特定する構造となっている。この静電容量式の1つの方式は、2面の電極をパターン化し、コントローラーにて押圧位置の微弱な電流を電圧に変換して検出しようとするものである。従って、特に静電容量式のタッチパネルに使用される電極としての導電性フィルムまたは導電性シートは、表面抵抗値が小さくかつ透明性が高いものが要求される。
【0006】
抵抗膜式または静電容量式の導電性基板材料として、ITO膜(Indium Tin Oxide)は、フィルムまたはシートの表面に蒸着法やスパッタリング法により形成され、そのため大型化はコスト面で制約されることが問題であった。また、ITO膜は、電気抵抗値が比較的高く、静電容量式の導電性材料として適しているとは言い難い。ITO層の電気抵抗値を低くしようとすれば、膜厚を厚くすればよいが、膜厚の増加は透明性の低下及び屈曲性の低下を来たすので好ましくない。
【0007】
この問題に対処して、透明基板の表面に、導電性金属の微細線にて構成した静電容量式タッチパネル構造体が提案され、配線部の金属光沢反射光によりタッチパネル下に配置されるディスプレイの視認性が低下することなく、メッシュ状として2枚のフィルムの貼り合わせのズレが生じない透明導電性フィルムに適用することが可能な積層体として、少なくとも密着層、黒化層を2層、基材を1層有する積層体が提案されている(特許文献2参照。)。
しかしながら、この特許文献2の積層体によるメッシュ状やストライプ状のパターン状の積層体においても、基材に対する密着層、黒化層及び金属層のパターンの幅は同一であって、特に金属層と粘着剤層との密着が低いことや、これに起因してパターンの隅角部に気泡が残留し、画像表示装置の視認性を低下させるという課題認識はもとより該課題の解決手段についても開示も示唆もされていない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面は概念図であり、説明上の都合に応じて適宜、構成要素の縮尺関係、縦横比等は誇張されていることがある。
なお、以下、膜状乃至層状に形成されたものについて、線条、メッシュ等の特定形状にパターン化されてなる形態を「層」、また、パターン化される前の全面にわたって形成されてなる形態を「膜」と呼称する。
【0015】
[電極シート]
図1は、本発明の電極シートの構成の一実施形態の例を示す模式図であり、(a):概略正断面図、(b):平面図、(c):(a)の部分拡大図である。
図1の構成の電極シート10においては、透明基材1の一方の面(
図1上においては上側の面)に位置検知電極2を有する。
電極シート10は、透明基材1と、その一方の面上に設けられた密着層2aと該密着層に積層された銅層2bからなる線条が複数本所定ピッチで配列された導電線条パターン2Lからなる位置検知電極2により電極シート10が形成されている。密着層2aは、透明基材と銅層との密着性を高める機能を有している。また、本発明において当該密着層2aの線幅は、
図1(c)に示すように、銅層の線幅より広くして、銅層よりΔLだけ突出した延在部を、銅層の両側に有している。
【0016】
透明基材1は、透明な基材であれば特に制限はなく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、トリアセチルセルロース(三酢酸セルロース)等のセルロース系樹脂、ポリカーボネート樹脂などからなる樹脂シート、或いはソーダ硝子、カリ硝子、石英硝子等の硝子、結晶質石英、蛍石等の無機質材料の板を用いることができる。
これら透明基材の厚みは、20〜3000μm程度の範囲から、用途、要求性能、価格等に応じて適宜の厚みを選択する。
【0017】
密着層は、エッチングや保護フィルム剥離等の後工程において、銅層等が剥がれるのを防止するため等のもので、透明基材の上に、ニッケルまたはその合金である金属を、透明基材面に真空蒸着法、イオンプレーティング法又はスパッタリング法等で形成すればよい。中でも低温で、より高速で、かつ透明基体(1)との密着性を安定して得るため、スパッタリング法が好ましい。
ニッケルの合金としては、ニッケル−クロム合金を挙げることができる。
なお、透明基材1への密着膜の形成に先立って、透明基材面を、脱脂洗浄又はコロナ放電、グロー放電、フレーム(炎)、酸化剤等によって、物理的、化学的に前処理する。
密着層の膜厚は、概ね0.0005〜1μm、好ましくは0.001〜0.5μmである。密着層の膜厚が、0.0005〜1μmであれば、透明基体と銅層との高い密着力を確保でき、かつ、透明基体側から視認した場合に、ニッケル層により銅層の赤色が若干黒色を有する灰色(ダークグレイ)に変色できるので好ましい。なお、密着層の膜厚は、0.0005μm未満の場合、銅層(乃至は銅膜)と密着層及び密着層と透明基材との密着力を十分確保できない。
また1μm超過の場合、かかる密着力向上効果は飽和し、余剰の密着層形成による材料費及び加工費の不必要な上昇を招く。
また、密着層の延在部2eは、
図1(b)に示すΔLが50〜1000nm、好ましくは100〜800nm、さらに、100〜500nmであることが特に好ましい。延在部ΔLが50〜1000nmであれば、粘着剤層との密着性が不足することなく、また、電極シートの全光線透過率が低下してコントラストに悪影響を及ぼすこともない。
密着層は、透明基材に積層された密着膜のみ前もってフォトエッチング法などの公知の方法でパターニングしてもよいが、密着膜に銅膜を積層した後に、銅膜および密着膜をパターニングして形成することが、延在部2eのΔLを制御する点で好ましい。
なお、密着層は、ニッケルまたはその合金を含む金属のほかに、チタン、クロム、又はそれらの合金であってもよい。
【0018】
なお、密着層及び銅層を備えた線条パターンにおいて、密着層に延在部を形成するには、腐蝕液でエッチングするにあたり、銅膜の上部より順次腐蝕して銅膜の全厚みが腐蝕された後、ニッケルを含む密着膜の腐蝕に移行した後、パターン間の開口部の中央部の腐蝕が完了して、透明基材が露出する段階で、密着膜の腐蝕度合いを調整することによって、延在部の距離ΔLを調整することができる。より具体的には、腐蝕液としては銅膜の腐蝕に一般的に用いられる塩化第二鉄水溶液を用い、腐蝕液の濃度及び流速等の腐蝕の進行を左右する要因を調整することによって、延在部の距離ΔLを調整することができる。
【0019】
導電線条パターンの銅層は、透明基材の全面にニッケル等による密着膜を形成した後、該密着膜上に真空蒸着法、イオンプレーティング法又はスパッタリング法等で比較的薄い銅膜を形成し、さらに電解メッキ法で銅膜の厚みを増すことが、コスト的に好ましい。
銅層(銅膜)の厚みは0.1〜3μmが好ましく、0.5〜2μmであることがより好ましい。
【0020】
本発明において導電線条パターンは、従来公知のフォトエッチング法などにより、所定のパターン状の密着層及び銅層を備えた線条パターンを形成すればよい。
本発明において、線条パターンには、
図1に示す如きストライプ状のパターンに限定されるものではなく、網状、格子状などのメッシュ状パターンも含まれる。
メッシュ状パターンの場合は、タッチパネルの位置検知方式及び設計仕様に応じて、有効検知領域(active area)全面にわたって連続的にメッシュ状パターンが形成される形態、或いは所定の位置関係で配置された長方形、特定対角線方向に連結された菱形等の輪郭形状内にメッシュ状パターンが形成される形態の何れの形態にも本発明の線条パターンを採用することがで出来る。
【0021】
本発明においては、
図2に示すように、導電線条パターン2の外面の少なくとも、透明基材と反対面上に黒化層3aを形成することができる。以後、この黒化層を「1面黒化層」と呼ぶ。
1面黒化層3aを形成するには、銅膜(乃至これをメッシュ化した銅層)表面の外光反射による赤銅色の光沢が目視で視認されなくさせるに足りる金属からなる材料の中から、加工適正、及び当該電極シートの各種要求物性を満たすものを適宜選択すればよい。
具体的には、銅を含む酸化物が代表的なものであり、CuO(酸化銅(II)、或いは酸化第二銅とも呼称される)、CuO−Cr
2O
3、CuO−Fe
3O
4−Mn
2O
3、CoO−Fe
2O
3−Cr
2O
3等が挙げられる。前記材料中には、適宜、許容不純物として、或いは黒色度や要求物性を調整する添加物として、化学式に表記した以外の各種元素を含んでいてもよい。
さらに銅の窒化物による黒化層、または銅の酸化物と窒化物の複合体であってもよい。
また、黒化膜は、前記材料2種以上を含んでいてもよい。
その他、黒色酸化鉄(Fe
3O
4)、チタンブラックとして知られているチタン及び酸化チタンからなる化合物、微粒子状の銅−コバルト合金等が挙げられる。
1面黒化層を形成するには、透明基材に密着膜、銅膜を積層した後、銅膜上に黒化膜13(
図6(c2))を形成する。黒化膜13の成膜方法としては、酸化銅のスパッタリングもしくは蒸着を採用することが好ましい。
【0022】
次に、フォトリソグラフィー技術を用いたパターニングにより、
図6(c2)に示す透明基材1上の密着膜12a、銅膜12bおよび黒化膜13を所望のパターンにて、パターニングする。
具体的には、まず、黒化膜13上にレジスト膜14を設け(
図6(d2))、当該レジスト膜をパターン露光および現像して、線条(ストライプ模様)、網目模様又は格子模様にパターニングする(
図6(e2))。次に、パターニングされたレジストパターン層4をマスクとして、黒化膜13、銅膜12b、および密着(ニッケル)膜12aをエッチングする。エッチング液として45〜50°ボーメの塩化第2鉄水溶液を用いて35〜45℃でエッチングするのが好ましい。
これにより、黒化膜13から黒化層3aが形成され、銅膜12bから銅層2bが形成される。このようにして、透明基材10上に、密着層2a、銅層2b、および黒化層3aを含んでなる電極10が、所望のパターンで形成される(
図6(g2))。
なお、エッチングに用いられるエッチング液としては、前記の塩化第二鉄の外に、燐酸、硝酸および酢酸を含む燐硝酢酸水溶液や、過酸化水素水および硫酸に代表される酸化剤を混合した系、臭化水素酸やハロゲン化水素酸等を挙げることができる。
【0023】
本発明の電極シートにおいて、5μm×5μmの面積において、3×10
7〜4×10
7nm
2の表面積を有する粗面である黒化層とすることができる。
表面積が3×10
7〜4×10
7nm
2の範囲であれば、表面の形状が
図11や
図12のSEM写真に示すような凹凸を有しており、光の乱反射が生じ、表面が一層黒く見える状態を呈する。また、表面凹凸により、粘着剤層との積層において投錨効果により密着強度を向上させることができる。
なお、表面積は、5μm×5μmの大きさについて、AFM(原子間力顕微鏡)を用い測定し、算出される。
【0024】
かかる表面積を有する粗面とするには、透明基材層に密着層及び銅層が積層されたパターンシート(エッチング済)をマット化処理して、銅層にマット化処理層を設けた後、当該マット化処理層を黒化処理することで、
図8(g4)に示す如く銅層の外面のうち透明基材と反対側の面(以下、上面とも呼称する)及び両側面が黒化された3面黒化層を設けてなる電極シートとすることができる。
マット化処理は、エッチング処理された銅層の上面及び両側面に微細な凹凸層を形成するためのもので、結果として、事後に施される黒化処理液による黒化処理により形成される黒化膜の外面をも粗面化する作用、及び粘着剤層との密着性を更に高める効果を有している。
本発明において、銅層のマット化処理は、公知の化学薬品による化成処理により形成することができる。例えば、処理液BO−7770V(メック社製、処理液商品名)が用いられる。なお、
図8(h)にマット化処理表面の模式図を拡大して示す。処理液を用いて、ディッピング(浸漬)法により、液温20〜60℃程度で、15〜45秒間程度浸漬する。マット化処理表面2mを形成した後は、水洗を行ってから乾燥する。
【0025】
このようにマット化処理表面2mを形成することにより、銅層2bの線条の側面(土手の側面)に微細な凹凸が形成される。なお、マット化処理は、銅層上に黒色物質の層を積層する黒化処理と異なり、銅層の露出面を粗面化する処理である。
【0026】
次いで、マット化処理面が設けられた面に黒化処理が施される。得られたマット化処理面2mを有する銅層2bの3面(導電線条パターンを構成する銅の線条の透明基材1とは反対面及び両側面;
図8(h))が未黒化のものを黒化処理液に接触させて、当該銅メッシュ層21の上面及び両側面に3面黒化層3cを形成する(
図8(g4))。
【0027】
黒化層の形成は、黒化処理として、銅膜(層)の酸化処理、硫化処理、クロム合金等の黒色メッキ等により行うことができる。
【0028】
黒化処理は、銅層の酸化還元処理又は硫化処理によって行うことが好ましい。特に酸化還元処理は、より優れた銅赤色の低減効果を得ることができ、さらに廃液処理の簡易性及び環境安全性の点からも好ましい。
また、短時間における黒色化にすぐれ、かつ低温での処理のため基材への熱ダメージもない。
【0029】
前記黒化処理として酸化還元処理を行う場合には、黒化処理液として、一般には次亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、ペルオキソ二硫酸と水酸化ナトリウムの混合水溶液等を使用することが可能であり、特に経済性の点から、次亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、又は亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液を使用することが好ましい。
【0030】
前記黒化処理として硫化処理を行う場合には、黒化処理液として、一般には硫化カリウム、硫化バリウム及び硫化アンモニウム等の水溶液を使用することが可能であり、好ましくは、硫化カリウム及び硫化アンモニウムであり、特に低温で使用可能である点から、硫化アンモニウムを使用することが好ましい。
【0031】
黒化層の厚さは、特に制限されないが、0.01〜1μm、好ましくは0.01〜0.5μmとするのがよい。前記厚さが、0.01μm未満であると、銅赤色の低減効果が充分でない恐れがあり、1μmを超えると、斜視した際の見かけ上の開口率が低下する恐れがある。
【0032】
また、黒化処理の方法として、黒ニッケルを使用する場合、当該黒化処理液の硫酸濃度は、10〜50g/リットルで行うのが好ましく、さらに好ましくは20〜40g/リットルである。硫酸ニッケルの濃度が10g/リットルより低いと、メッキ析出が遅くなりコストアップとなり、50g/リットルより高いと黒化処理の仕上げ色が安定しないから好ましくない。
【0033】
また、硫酸ニッケルと硫酸スズを併用した黒化処理液を用いることも好ましい。この場合、硫酸ニッケル濃度は、10〜50g/リットルで行うのが好ましく、さらに好ましくは20〜40g/リットルである。また、硫酸スズ濃度は、1〜10g/リットルで行うのが好ましく、さらに好ましくは4〜8g/リットルである。硫酸スズの濃度が1g/リットルより低いと、黒化処理の仕上げ色が不安定となり、10g/リットルより高くても黒化処理の仕上げ色が安定しないから好ましくない。
【0034】
黒化処理液のpHは、pH1〜12が好ましく、さらに好ましくはpH3〜7である。pHが1より低いと黒化処理の仕上げ色が不安定となり、pHが12より高いと黒化処理液が不安定となるので好ましくない。
黒化処理液の温度は、20〜60℃が好ましく、さらに好ましくは30〜50℃である。黒化処理液の温度が、20℃より低いと黒化成分析出が悪くなり、60℃より高いとスズが酸化して黒化処理の仕上げ色が不安定となるから好ましくない。
【0035】
さらに、テルルが溶解された塩酸溶液である黒化処理液を使用することができる。このテルルの供給源として、酸化テルルを用いることが好ましい。本発明でテルル供給源として使用される酸化テルルは、TeO
2で表すことができる。
この黒化処理液(100重量%)中には、テルルは、酸化物換算で、0.01〜0.45重量%の範囲内の量、好ましくは0.05〜0.40重量%の量で含有されている。本発明で用いる黒化処理液は、従来のテルル系の黒化処理液よりもテルル濃度が低いため、黒化層の堆積速度が小さくなり、薄く、金属−黒化層間の密着性が高い黒化層を堆積させることができる。
黒化処理液のテルル含有量が0.45重量%を超える場合、黒化層の堆積速度が大きすぎて、金属表面に堆積する黒化層にはひびが入り、黒化層−金属間の密着性が不十分になるおそれがあり、0.01重量%未満の場合は、黒化層−金属間の密着性は充分だが、黒化層の堆積速度が小さく処理効率に劣るおそれがある。
酸化テルルを溶解する塩酸水溶液は、通常は35%塩酸(以下、単に塩酸とも呼称する。)に水を配合することにより形成される。この塩酸水溶液中のHCl(塩化水素)濃度は、0.05〜8重量%の範囲内にあり、好ましくは0.1〜2重量%、さらに好ましくは0.3〜1重量%である。このような濃度の塩酸水溶液を使用することにより、上記酸化テルルを完全に溶解することができる。
【0036】
なお、テルル黒化処理は置換メッキの一種であり、マット化処理された後の銅の表面及びニッケル層の延在部は黒色の化合物に置換されるが、開口部の非金属であるPETフィルムなど透明基材1表面はテルルと置換反応する金属原子がないため、黒くはならない。黒化層3の組成は、その分析結果によれば、塩化テルルを含む。また、これに加えて更に、塩化銅を含む場合もある。
かくして、導電線条パターンの3面が黒化された本発明の電極シート10が得られる。
【0037】
[電極シートの用途]
(タッチパネル)
本発明の電極シートは、タッチパネルセンサー(位置検知電極)として好ましく使用することができ、当該タッチパネルセンサーを含むタッチパネルは、携帯用小型端末、電子ペーパー、コンピュータディスプレイ、電子黒板、小型ゲーム機、現金自動支払機の表示面、乗車券自動販売機などの表示面等に装着されるタッチパネルとして好ましく使用することができる。なお、このような表示面の表示装置は、液晶表示装置(LCD)、プラズマ表示装置(PDP)、電場発光(EL)表示装置、陰極線管(CRT)表示装置、電気泳動表示装置等のいずれであってもよい。
【0038】
(タッチパネル用接着剤(粘着剤))
電極シートを積層してタッチパネルを構成するには接着剤を介して電極シート同士或いは電極シートとカバーガラス(タッチパネル及び画像表示パネルの表面を保護するガラス板)とを密着させ、固定する。
【0039】
接着剤には、硬化性を有さないいわゆる粘着剤も含まれる。粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。
アクリル系粘着剤としては、例えば、水酸基含有モノマー0.1〜10重量%共重合してなる(メタ)アクリル系ポリマーが挙げられ、当該水酸基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アクリル系粘着剤としては、共重合されるアルキル基を有するアクリル系モノマーが使用され、例えば、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、へプチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
接着剤(粘着剤)の塗布方法は、公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ロールコート法等が挙げられる。
【0041】
接着剤(粘着剤)の厚さは特に限定されないが、通常、5〜200μmであり、好ましくは25〜50μmである。
【0042】
(その他)
また、本発明の電極シートは、導電性でメッシュ不可視性なので、タッチパネルセンサー以外の用途として、PDPなどの画像表示装置のディスプレイ前面、建築物や乗物の窓に貼付する電磁波シールド材として好ましく使用することができる。
さらに、本発明の電極シートは、透明アンテナ用エレメントとして好ましく使用することができ、当該透明アンテナ用エレメントは、透視性と送受信機能の両機能を具備するため、各種の透明アンテナに利用できる。
当該透明アンテナは、透明性が要求される部位に取付けて好ましく使用することができる。特に携帯電話などモバイル通信機器のディスプレイ前面に取付けて地上波や衛星放送の受信に利用することができ、自動車、バス、トラック、鉄道車両、新交通システムの車両等の窓ガラスに取付けてGPS衛星の位置情報電波、テレビジョン、ラジオ、車輌無線等の電波の受信に使用でき、家屋並びに各種ビル、パーティションにおける窓ガラスに取付けて、地上波や衛星放送を受信するための建築物窓用透明アンテナ等として利用できる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例により何ら限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
透明基材1として、連続帯状で無着色透明な2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ100μm)11を用意し(
図5(a))の表側とする面に、まず、スパッタリング法(DCマグネトロンスパッタリング法による。真空度:0.5Pa、ターゲット:ニッケル、ターゲット印加電圧325V、導入ガス分率:アルゴン100%)にて厚み0.005μmのニッケル膜からなる密着膜12aを形成した(
図5(b))。
次いで、抵抗加熱による真空蒸着法(真空度:3×10
-3Pa)にて銅蒸着を行い、上記密着膜12aの上に厚み2μmの銅膜12bを形成した(
図5(c))。
次いで、上記の密着膜12a/銅膜12b部分に対して、フォトリソグラフィー法を利用した腐食加工で、線条パターン状に加工し、透明基材1上に線条パターン状のニッケルからなる密着層2a及び銅層2bによる導電線条パターン2Lが形成された線条パターン電極シート10を作製した。ここで、『A/B』はA層及びB層をこの順序で積層した積層体を現わすものとする。
【0045】
具体的には、カラーTVシャドウマスク用の製造ラインを流用して、透明基材1/密着膜11/銅膜12の積層体を連続した帯状シートとして、巻取から巻き出して供給し、この帯状シート(積層体)に対してマスキングからエッチングまでを行った。
まず、該積層体の銅膜12b表面の全体へ、カゼイン系の感光性ネガ型レジストからなる感光性のレジスト膜14(ドライレジストフィルム使用)をラミネートで貼合した(
図5(d))。次のステーションへ間歇搬送し、ネガパターン版(フォトマスク)を用いて、水銀灯からの紫外線を照射して、該ネガパターンを該レジスト膜14上に密着露光した(図示略)。
該ネガパターン版は、透明硝子板表面に所定の電極パターンのネガ(陰画)の遮光パターンを形成したものからなる。該電極パターンは、開口部を間に介して長方形が平行配列する平行線群状ストライプターンで、各長方形の内部が正方格子状の導電線条パターンに区画されてなる。該正方格子を構成する導電線条パターンの線条の線幅5μm、線間隔(周期)500μmで50個の単位格子が長方形の短辺方向に平行配列されてなる検知電極パターンを含む。更に、各長方形領域の一端には取出回路パターンが接続されてなる形態とした。
【0046】
露光後、該レジスト膜14を現像し、硬膜処理し、該ネガパターン状のレジストパターン層14を得た(
図5(e))。更に次のステーションへ搬送し、腐食液として50℃、49゜ボーメの塩化第二鉄溶液を用いて、スプレイ法で吹きかけて腐食し、レジストパターン層4の開口部(レジスト層不在部)の銅膜12bを除去した。当該開口部には密着膜12aの延在部2eが残留しており、ΔLは、250nmであった。(
図5(f))
次いで、ステーションを搬送しながら、水洗し、レジストパターン層4を剥離し、洗浄し、さらに60℃で乾燥して、該電極パターン状に残留してなるストライプ状(各長方形の輪郭内に正方格子の導電線条パターンが形成されてなる)に形成された延在部2eを有する密着層2a/銅層2bの積層体を透明基材1上に形成した位置検知用電極シート10を得た(
図5(g)、密着層の延在部2eについては
図1(b)参照)。
【0047】
[タッチパネル]
この電極シート2枚とカバーガラスを用い、位置検知電極を透明基材の片面に有する電極シートを2枚積層するタイプの静電容量式タッチパネルセンサー組み立てるべく、線条パターンの開口部にアクリル系粘着剤(リンテック社製、商品名:TA015c )をラミネートで貼合し、粘着剤層(接着層)を形成した。
粘着剤層は、線条パターンの開口部において銅層の底部や密着層との接触部において、気泡は生じていなかった。
次いで、粘着剤層を施した電極シート10を2枚用意し、一方を
図1(a)におけるX方向に長方形電極パターンの長辺方向を向けた配置とし、他方をY方向に長方形電極パターンの長辺方向を向けた配置とし、上下2枚の電極シートの電極パターンが平面視した場合に相互にその長辺方向が直交するようにして、上部電極シート側の基材10の導電線条パターンが形成されていない面S2に下部電極シート側の粘着剤層5を接触させて密着させた積層構成とし、更に、上部電極シートの粘着剤層5は、カバーガラス6に密着させて、
図13に示す如くの電極シート2枚積層タイプの静電容量式タッチパネル100センサーを組み立てた。
なお、かかるタッチパネル100は
図14に示す如く、画像表示パネル200の画面上に粘着劑層5を介して積層されて、画像表示裝置1000を構成することができる。
【0048】
[変形形態]
なお、以上に説明した実施形態においては、
図1の如く透明基材1の一方の面にのみ位置検知電極2を形成し、
図13の如くこれを2枚積層した構成のタッチパネル100としたが、これ以外の各種実施形態も含まれる。
例えば、透明基材1の両側の面(図示は略すが、
図1でいえば、透明基材1の上側の面及び下側の面)に前記した各種形態の位置検知電極2を形成し、一方の面の位置検知電と他方の面の位置検知電極とを互いに電極パターンの長辺を交叉させ、必要に応じて更にカバーガラス6と積層して、タッチパネルパネル100を構成することができる(図示は略)。
或いは、透明基材1の一方の面に、X方向に長方形電極パターンの長辺方向を向けた位置検知電極2とY方向に長方形電極パターンの長辺方向を向けた位置検知電極2とを、互いに電気的に絶縁して形成し、必要に応じて更にカバーガラス6と積層して、タッチパネルパネル100を構成することができる(図示は略)。
【0049】
[実施例2]
実施例1と同様にして、密着膜12aの上に厚み2μmの銅膜12bを形成した(
図5(c))後、窒化銅をDCマグネトロンスパッタリング法(真空度:0.1Pa、ターゲット:酸化銅、ターゲット印加電圧500V、導入ガス分率:窒素100%)にて厚み0.05μmの窒化銅による黒化膜13とした(
図6(c2))。
次いで、上記の密着膜12a/銅膜12b/黒化膜13部分に対して、レジスト膜14を形成し(
図6(d2))、該ネガパターン状のレジストパターン層4を得た(
図6(e2))。更に次のステーションへ搬送し、腐食液として50℃、49゜ボーメの塩化第二鉄溶液を用いて、スプレイ法で吹きかけて腐食し、レジストパターン層4の開口部(レジスト層不在部)の黒化膜13、銅膜12b、及び密着膜12aの一部を除去した。当該開口部には
図1(b)の如く密着膜12aの延在部2eが残留しており、ΔLは、250nmであった(
図6(f2))。
次いで、ステーションを搬送しながら、水洗し、レジストパターン層4を剥離し、洗浄し、さらに60℃で乾燥して、該電極パターン状に残留してなるストライプ状(各長方形の輪郭内に正方格子の導電線条パターンが形成されてなる)に形成された延在部2eを有する密着層2a(延在部2eを含む)/銅層2b/1面黒化層3aの積層体を透明基材1上に形成した位置検知用電極シート20を得た(
図6(g2))。
この1面黒化層を有する電極シートに実施例1と同じ粘着剤層を形成し、実施例1と同一構成のタッチパネルを作製した。
【0050】
[実施例3(実施例3−1〜実施例3−7]
実施例1と同様にして、電極が線条パターン状に残留してなるストライプ状に形成された、延在部2eのΔLが250nmの密着層2a(延在部2eを含む)/銅層2bの積層体10を得た(
図5(g))。
(マット化処理)
この積層体10にマット化処理液BO−7770V(メック社製、処理液商品名)を用い、ディッピング法により、液温25℃程度で、35秒間浸漬し、マット化処理層を形成した後は、水洗を行い乾燥した(
図8(h))。
次いで、金属黒化処理液として、二酸化テルル0.25重量%(テルル濃度として0.2質量%)、塩酸0.45質量%、硫酸20質量%の水溶液を用い、当該処理液にマット化処理済みの上記積層体(
図8(h))を処理温度25℃条件下、30〜90秒間浸漬し、マット化処理済の銅が露出している部分に塩化テルル(TeCl
2)を含む黒化層3cを被覆形成し、線条パターン状となった密着層2a(延在部2e付き)/銅層2b/及び粗面化3面黒化層3cからなる導電線条パターン2Lからなる電極シート40を得た(
図8(g4))。
その後、水洗、乾燥工程を経て、透明基材1/電極40(密着層2a、銅層2b、及び粗面状黒化層3cを3面に有する)導電線条パターンからなる)の積層構成のタッチパネル用電極シート40を得た(
図8(g4))。
【0051】
なお、本実施例3において、マット化処理時間及び黒化処理時間を各々変更させた組み合わせにより、黒化層表面の5μm×5μmの面積において、3×10
7〜4×10
7nm
2の範囲の表面積を有する粗面としてなる電極シートを、表1に実施例3−1〜3−7として示す。
【0052】
[比較例1、比較例2]
実施例1において、エッチングの段階で、腐食液として50℃、49゜ボーメの塩化第二鉄溶液を用いて、スプレイ法で吹きかけて腐食するに際して、実施例1に加えて密着層を選択的にエッチングする処理を施し、延在部2eのΔLが40nmの電極シート(比較例1)、及び実施例1より塩化第二鉄のボーメを下げ、銅のサイドエッチングが入りやすいようにコントロールして得た延在部2eのΔLが1500nmの電極シート(比較例2)について、実施例1と同様の静電容量式タッチパネルセンサー組み立てた。
【0053】
[評価]
以下に示すように、実施例1〜3、比較例1、2について、透明基材と銅層の密着性、電極シート単体の外光反射率、気泡の混入性、粘着剤層との密着性、視認性を評価した。
(透明基材と銅層の密着性)
クロスカット法を用いて、各実施例及び各比較例の電極シートの銅層側表面に、カッター(ナイフ)で縦10本×横10本の100桝の切れ目を銅層及び透明基材の厚み方向の途中迄の深さで入れ、被試験体をガラスに両面テープで固定する。
その後、ニチバン社製粘着テープ(No.405)24mm幅をクロスカットした部位表面に貼合し、手前45°(ガラス板表面に対する角度)方向に引き剥がす。
該当部位の桝目が全く剥がれなければ評価良好、又桝目が1つでも剥がれれば不良とした。
(電極シート単体の外光反射率)
実施例及び比較例で得られた電極シートについて、電極シート単体の透明基材の導電線条パターンを有していない面に黒色アクリル樹脂板を配置して、入射角5〜65°の外光反射率を分光光度計UV−3100PC(島津製作所製)にて測定した。
(気泡の混入性:電極シートへの粘着剤層形成時の気泡の混入状態)
電極シートの開口部に形成した粘着剤層5において、直径0.5mm以上の気泡が1つでもあれば「×」、直径0.5mm未満の気泡が30個以上であれば「△」、直径0.5mm未満の気泡が10個以上30個未満であれば「○」、直径0.5mm未満の気泡が10個未満であれば「◎」とした。
(視認性)
電極シートを用いて組み立てたタッチパネルを液晶表示装置の表示画面に貼り付け、液晶表示装置を駆動して白色を表示させた際に、線条が目立つかどうかを肉眼で確認した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1より本発明電極シートは透明基材との密着性に優れ、かつ、粘着剤層中への気泡混入抑制効果にも優れている。
本実施例3の電極シートは、粗面状黒化層3cによって銅層の赤味が解消され、表示装置に関しても良好なコントラストで視認でき、特に視認性に優れるものであった。