(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233022
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】HLA−A*24グループの判定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20060101AFI20171113BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
C12Q1/68 AZNA
C12Q1/68 Z
!C12N15/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-551860(P2013-551860)
(86)(22)【出願日】2012年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2012084130
(87)【国際公開番号】WO2013100139
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2015年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2011-289336(P2011-289336)
(32)【優先日】2011年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山根 明男
(72)【発明者】
【氏名】東 友彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅人
【審査官】
池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−185176(JP,A)
【文献】
特表2007−512014(JP,A)
【文献】
特表2007−530031(JP,A)
【文献】
Tissue Antigens (2005) vol.65, no.6, p.567-570
【文献】
J. Transl. Med. (2004) vol.2, no.1, 30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 15/00−15/90
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA−A*24グループを判定する方法であって、
被験者のゲノムDNA中の、HLA遺伝子の開始コドンのA(アデニン)を第1番目として、(a)第211番目の塩基及び(b)第395番目の塩基のみのタイピング結果に基づいて判定することを特徴とする、HLA−A*24グループの判定方法。
【請求項2】
HLA−A*24グループを判定する方法であって、
被験者のゲノムDNA中の、HLA遺伝子の開始コドンのA(アデニン)を第1番目として、(a)第211番目の塩基と、(b)第395番目の塩基と、(c)第437番目の塩基、第441番目の塩基、第443番目の塩基、第444番目の塩基、第447番目の塩基、及び第449番目の塩基からなる群より選択される1以上の塩基とのタイピング結果に基づいて判定することを特徴とする、HLA−A*24グループの判定方法。
【請求項3】
前記被験者のHLA型がHLA−A*24:02であるか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載のHLA−A*24グループの判定方法。
【請求項4】
少なくとも1のアリルにおいて、第211番目の塩基がC(シトシン)であり、第395番目の塩基がG(グアニン)であり、前記(c)の塩基について、第437番目の塩基を含む場合に当該塩基がCであり、第441番目の塩基を含む場合に当該塩基がT(チミン)であり、第443番目の塩基を含む場合に当該塩基がGであり、第444番目の塩基を含む場合に当該塩基がCであり、第447番目の塩基を含む場合に当該塩基がTであり、第449番目の塩基を含む場合に当該塩基がCである場合に、前記被験者のHLA型はHLA−A*24:02であると判定することを特徴とする請求項3に記載のHLA−A*24グループの判定方法。
【請求項5】
前記(a)及び(b)の塩基のタイピングを、シークエンス解析又は一塩基検出方法により行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のHLA−A*24グループの判定方法。
【請求項6】
前記(c)の塩基のタイピングを、シークエンス解析又は一塩基検出方法により行うことを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載のHLA−A*24グループの判定方法。
【請求項7】
前記(c)の塩基のタイピングを、配列番号7に示す塩基配列からなるプライマーを用いたポリメラーゼによる伸長反応により、伸長産物が得られた場合に、第437番目の塩基がCであり、第441番目の塩基がTであり、第443番目の塩基がGであり、第444番目の塩基がCであり、第447番目の塩基がTであり、第449番目の塩基がCであるとタイピングすることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載のHLA−A*24グループの判定方法。
【請求項8】
配列番号7に示す塩基配列からなるHLA−A*24:02判定用プライマーを含むことを特徴とするHLA−A*24:02判定用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLA型がHLA−A*24グループか否かを判定する方法に関する。
本願は、2011年12月28日に、日本に出願された特願2011−289336号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
HLA(Human Leukocyte Antigen)は、第6染色体短腕部に存在するMHC(Major Histocompatibility Complex) 領域にコードされた遺伝子群の遺伝子産物である。HLAは非常に多様性に富んでおり、特に造血幹細胞の移植や輸血等の医療現場の作業においては、HLAの適合度を向上させることが重要である。このため、できるだけ少ない労力で正確なHLAタイピングを行うことが、医療現場で要求されている。
【0003】
HLAタイピングの方法は、血清学的タイピング方法とDNAタイピング方法とに大別される。DNAタイピング方法では、血清学的タイピング方法と比較して詳細にHLA型を特定できる。但し、DNAタイピングの方法でも、DNAタイピング結果では判別出来ないアリルが2種類以上存在し、正確にHLA型を特定することができない、というアンビギュイティ(Ambiguity)の問題が生じる場合がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、HLA−A抗原のサブタイプ(型)を遺伝子レベルでタイピングする方法が開示されている。具体的には、HLA−A対立遺伝子(アリル)を特定のグループに分類し、各グループのHLA−Aアリルを特異的に増幅可能なプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物に対してRFLP法、PCR−RFLP法、SSOP法、PCR−SSOP法、PCR−SSP法又はPCR−SSCP法を行うことにより、HLA−A型をタイピングする。当該方法のように多段階のアッセイによって、アンビギュイティを解消し、HLA−A型を詳細にタイピングできることが期待されるが、多大な労力を有する、という問題がある。
【0005】
また、HLA型の分布は人種によって異なっている。特定非営利活動法人HLA研究所の報告によれば、日本人5538家族21705人のタイピング結果(2011年12月19日現在)では、日本人のHLA−A型の遺伝子頻度は、表1に示すように、HLA−A*24:02型が35.936%で最も高い(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
【表1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−216000号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“アリル頻度検索 1座/A検索”[on line]、特定非営利活動法人HLA研究所、[平成23年12月19日検索]、インターネット<URL: http://www.hla.or.jp/haplo/haplo_search.php?type=aril&loci=A&lang=ja>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、HLA−A*24グループのタイピングを、アンビギュイティが少なく、かつ簡便に判定するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、HLA遺伝子の開始コドンのA(アデニン)を第1番目として、(a)第211番目の塩基と、(b)第395番目の塩基とのタイピング結果に基づくことにより、非常に少ない工程で、アンビギュイティを充分に少なくして高精度に、HLA−A*24グループのアリルを判定できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) HLA−A*24グループを判定する方法であって、
被験者のゲノムDNA中の、HLA遺伝子の開始コドンのA(アデニン)を第1番目として、(a)第211番目の塩基及び(b)第395番目の塩基のみのタイピング結果に基づいて判定することを特徴とする、HLA−A*24グループの判定方法、
(2)
HLA−A*24グループを判定する方法であって、
被験者のゲノムDNA中の、HLA遺伝子の開始コドンのA(アデニン)を第1番目として、(a)第211番目の塩基と、(b)第395番目の塩基と、(c)第437番目の塩基、第441番目の塩基、第443番目の塩基、第444番目の塩基、第447番目の塩基、及び第449番目の塩基からなる群より選択される1以上の塩基
とのタイピング結果に基づいて判定することを特徴とする、HLA−A*24グループの判定方法、
(3) 前記被験者のHLA型がHLA−A*24:02であるか否かを判定することを特徴とする前記(2)のHLA−A*24グループの判定方法、
(4) 少なくとも1のアリルにおいて、第211番目の塩基がC(シトシン)であり、第395番目の塩基がG(グアニン)であり、
前記(c)の塩基について、第437番目の塩基を含む場合に当該塩基がCであり、
第441番目の塩基を含む場合に当該塩基がT(チミン)であり、
第443番目の塩基を含む場合に当該塩基がGであり、
第444番目の塩基を含む場合に当該塩基がCであり、
第447番目の塩基を含む場合に当該塩基がTであり、
第449番目の塩基を含む場合に当該塩基がCである場合に、前記被験者のHLA型はHLA−A*24:02であると判定することを特徴とする前記(3)のHLA−A*24グループの判定方法、
(5) 前記(a)及び(b)の塩基のタイピングを、シークエンス解析又は一塩基検出方法により行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つのHLA−A*24グループの判定方法、
(6) 前記(c)の塩基のタイピングを、シークエンス解析又は一塩基検出方法により行うことを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれか一つのHLA−A*24グループの判定方法、
(7) 前記(c)の塩基のタイピングを、配列番号7に示す塩基配列からなるプライマーを用いたポリメラーゼによる伸長反応により、伸長産物が得られた場合に、第437番目の塩基がCであり、第441番目の塩基がTであり、第443番目の塩基がGであり、第444番目の塩基がCであり、第447番目の塩基がTであり、第449番目の塩基がCであるとタイピングすることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれか一つのHLA−A*24グループの判定方法、
(8) 配列番号7に示す塩基配列からなるHLA−A*24:02判定用プライマーを含むことを特徴とするHLA−A*24:02判定用キット、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のHLA−A*24グループの判定方法により、HLA−A*24グループのタイピングを精度よくかつより簡便に判定することができる。本発明のHLA−A*24グループの判定方法は、特に日本人において遺伝子頻度の高いHLA−A*24グループのアリルを高精度に判定できるため、被験者が日本人である場合の判定に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】HLA遺伝子のゲノムDNAの塩基配列中、HLA遺伝子の開始コドンのAを第1番目として、−300番目の塩基から600番目の塩基までを示した図である。
【
図1B】HLA遺伝子のゲノムDNAの塩基配列中、HLA遺伝子の開始コドンのAを第1番目として、601番目の塩基から1500番目の塩基までを示した図である。
【
図1C】HLA遺伝子のゲノムDNAの塩基配列中、HLA遺伝子の開始コドンのAを第1番目として、1501番目の塩基から2400番目の塩基までを示した図である。
【
図1D】HLA遺伝子のゲノムDNAの塩基配列中、HLA遺伝子の開始コドンのAを第1番目として、2401番目の塩基から3202番目の塩基までを示した図である。
【
図2】HLA遺伝子のゲノムDNAの第2エキソン中の第211番目の塩基(図中、「(a)」)及びその付近、第395番目の塩基(図中、「(b)」)及びその付近、並びに第437番目〜第449番目の塩基(図中、「(c)」)及びその付近の各アリルの塩基配列を示した図である。
【
図3】(a)〜(c)の塩基のタイピング方法の一態様を模式的に示した図である。
【
図4】(a)〜(c)の塩基のタイピング方法の一態様を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明及び本願明細書において、「塩基をタイピングする」とは、当該塩基が、A(アデニン)であるか、G(グアニン)であるか、C(シトシン)であるか、T(チミン)であるかを特定することを意味する。
【0015】
本発明のHLA−A*24グループの判定方法(以下、「本発明の判定方法」ということがある。)は、HLA−A*24グループのアリルを判定する方法であって、被験者のゲノムDNA中の、HLA遺伝子の開始コドンのAを第1番目として、(a)第211番目の塩基と、(b)第395番目の塩基とのタイピング結果に基づいて判定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の判定方法では、前記(a)の塩基と前記(b)の塩基のタイピング結果に加えて、さらに(c)第437番目の塩基、第441番目の塩基、第443番目の塩基、第444番目の塩基、第447番目の塩基、及び第449番目の塩基からなる群より選択される1以上の塩基のタイピング結果に基づいてもよい。なお、第437番目の塩基、第441番目の塩基、第443番目の塩基、第444番目の塩基、第447番目の塩基、及び第449番目の塩基は連鎖しているため、第437番目の塩基、第441番目の塩基、第443番目の塩基、第444番目の塩基、第447番目の塩基、及び第449番目の塩基については、これらのうちの少なくとも1の塩基をタイピングすればよい。また、HLA−A*24:02を特徴付けるSNP(Single Nucleotide Polymorphism)であれば上記に限定されないが、アリル頻度が0.001%以上で存在するHLA−Aグループと区別できる塩基であることが好ましい。
【0017】
図1に、HLA遺伝子のゲノムDNAの塩基配列(配列番号1)を示す。
図1A〜D中、四角で囲われた領域がコーディング領域であり、各塩基の番号は、HLA遺伝子の開始コドンのAを第1番目として振られている。第211番目の塩基(C)、第395番目の塩基(G)、第437番目の塩基(C)、第441番目の塩基(T)、第443番目の塩基(G)、第444番目の塩基(C)、第447番目の塩基(T)、及び第449番目の塩基(C)は、網掛けしている。また、配列番号2に、HLA遺伝子のコーディング領域の塩基配列と対応するアミノ酸配列を示す。
【0018】
これらの塩基は、いずれも第2エキソンに存在する。
図2に、第2エキソン中の第211番目の塩基(図中、「(a)」)及びその付近、第395番目の塩基(図中、「(b)」)及びその付近、並びに第437番目〜第449番目の6塩基(図中、「(c)」)及びその付近の各アリルの塩基配列を示す。図中の各アリルの塩基において、「−」はHLA−A*24:02と相同な塩基であることを示す。
【0019】
各アリルの日本人における遺伝子頻度及び前記(a)〜(c)の塩基を表2に示す。なお、(c)の塩基としては、第437番目の塩基を用いた。また、表2中、「他」は、表2に具体的に示したHLA−A型以外の残りの全てのHLA−A型を意味する。
【0021】
少なくとも1のアリルにおいて、第211番目の塩基(前記(a))がA又はCであり、第395番目の塩基(前記(b))がG又はCであり、かつ第211番目の塩基と第395番目の塩基がいずれもがCではない場合に、前記被験者のHLA型はHLA−A
*24グループであると判定する。
【0022】
被験者のゲノムDNAに含まれるHLA遺伝子中の前記(a)及び(b)の塩基をタイピングし、得られたタイピング結果に基づいて当該被験者のHLA−A型を判定した場合の判定結果と、実際の遺伝子型とを、遺伝子頻度と共に表3に示す。表3中、「A」欄はアリルタイプ(HLA−A型)を示し、「他」は表2と同じ意味である。また、「タイプ」欄の「+」はHLA−A*24グループのアリルを含むゲノムDNAを、「−」はHLA−A*24グループのアリルを含まないゲノムDNAを示す。また、「(a)」欄に少なくとも1のA又はCがあり、「(b)」欄に少なくとも1のG又はCがある場合(但し、「(a)」欄がCのみであり(両アリルが共にCである)、かつ「(b)」欄がCのみである場合を除く。)に、当該ゲノムDNAはHLA−A*24グループのアリルを含むと判定し(すなわち、「判定」欄を「+」)、それ以外の場合に、当該ゲノムDNAはHLA−A*24グループのアリルを含まないと判定した(すなわち、「判定」欄を「−」)。さらに、「タイプ」欄と「判定」欄が一致する場合に「正誤」欄を「○」とし、不一致の場合に「×」とした。「遺伝子頻度」は、各アリルの遺伝子頻度の積とした(例えば、A*24:02のホモタイプの場合には、35.936%×35.936%=12.91%)。表3に示すように、本発明の判定方法では、前記(a)及び(b)の塩基についてのタイピング結果のみに基づいて、被験者のゲノムDNA中にHLA−A*24グループのアリルが含まれているかどうかを、非常に精度よく判定することができる。
【0024】
また、表2に示すように、HLA−A*24グループのうち、HLA−A*24:04以外は、前記(c)の塩基が、HLA−A*24グループ以外のアリルと相違する。そこで、前記(a)及び(b)の塩基についてのタイピング結果に加えて、前記(c)の塩基のタイピング結果を用いてもよい。
【0025】
被験者のゲノムDNA中にHLA−A*24グループのアリルが含まれているかどうかの判定には、前記(a)及び(b)の塩基についてのタイピング結果のみで充分であるが、さらにその他の塩基のタイピング結果を併用することにより、より詳細にHLA型を判定することができる。例えば、前記(a)及び(b)の塩基についてのタイピング結果に加えて、さらに前記(c)の塩基のタイピング結果を用いることにより、HLA−A*24グループのうちのHLA−A*24:02を、より精度よく判定することができる。HLA−A*24:02は日本人で最も遺伝子頻度の高いため、当該態様は、特に被験者が日本人である臨床検査等に特に有用である。
【0026】
具体的には、少なくとも1のアリルにおいて、これらの塩基がいずれもHLA−A*24:02と同じである場合、すなわち、第211番目の塩基がCであり、第395番目の塩基がGであり、第437番目の塩基がCであり、第441番目の塩基がTであり、第443番目の塩基がGであり、第444番目の塩基がCであり、第447番目の塩基がTであり、第449番目の塩基がCである場合に、前記被験者のHLA型はHLA−A
*24:02であると判定する。なお、第437番目の塩基がCの場合、常に、第441番目の塩基はTであり、第443番目の塩基はGであり、第444番目の塩基はCであり、第447番目の塩基はTであり、第449番目の塩基はCである。つまり、本発明の判定方法では、3つの塩基についてのタイピング結果に基づいて、被験者のゲノムDNA中にHLA−A*24:02が含まれているかどうかを判定することができる。
【0027】
表2に示すように、前記(a)〜(c)の塩基のタイピング結果は、HLA−A*24:07、HLA−A*24:03、及びHLA−A*24:25がHLA−A*24:02と同じであるが、その他のHLA−A型のアリルはHLA−A*24:02と相違する。
つまり、前記(a)〜(c)の塩基のタイピング結果からは、HLA−A*24:02は、HLA−A*24:07、HLA−A*24:03、及びHLA−A*24:25と判別不可能であるが、その他の型のアリルとは判別可能である。
【0028】
被験者のゲノムDNAに含まれるHLA遺伝子中の前記(a)〜(c)の塩基をタイピングし、得られたタイピング結果及び表4に示す判定規準に基づいて当該被験者のHLA−A型を判定した場合の判定結果と、実際の遺伝子型とを、遺伝子頻度と共に表5に示す。表5中、「A」欄はアリルタイプ(HLA−A型)を示し、「他」は表2と同じ意味である。また、「タイプ」欄の「+」はHLA−A*24:02を含むゲノムDNAを、「−」はHLA−A*24:02を含まないゲノムDNAを示す。表4及び5において、「判定」欄の「+」は被験者のゲノムDNAがHLA−A*24:02を含むと判定することを、「−」は被験者のゲノムDNAがHLA−A*24:02を含まないと判定することを示す。すなわち、「(a)」欄に少なくとも1のCがあり、「(b)」欄に少なくとも1のGがあり、「(c)」欄に少なくとも1のCがあり、かつ「(a)」欄にAがある場合には「(c)」欄にGがない場合に、当該ゲノムDNAはHLA−A*24:02を含むと判定し(すなわち、「判定」欄を「+」)、「(a)」欄にCがない場合と、「(b)」欄にGがない場合と、「(c)」欄にCがない場合と、「(a)」欄に少なくとも1のAがあり、「(b)」欄に少なくとも1のGがあり、「(c)」欄に少なくとも1のGがある場合に、当該ゲノムDNAはHLA−A*24:02を含まないと判定した(すなわち、「判定」欄を「−」)。さらに、「タイプ」欄と「判定」欄が一致する場合に「正誤」欄を「○」とし、不一致の場合に「×」とした。
【0031】
前記(a)〜(c)塩基のタイピング結果からは、被験者が、表5中の「正誤」欄が×のゲノムDNAを有する場合には、実際にはHLA−A*24:02が含まれていないにもかかわらず、当該被験者はHLA−A*24:02を有すると誤って判定してしまう(偽陽性)。しかしながら、日本人においては、これらの偽陽性となるゲノムDNAの遺伝子頻度はいずれも極めて低く、偽陽性と判定される被験者の割合はわずか0.05%にまで抑えられる。例えば、本発明の判定方法のうち、前記(a)及び(b)に加えて前記(c)の塩基のタイピング結果を用いて、被験者のHLA型がHLA−A*24:02であるか否かを判定する方法(以下、「本発明のHLA−A*24:02判定方法」ということがある。)を日本人100万人に対して実施した場合、たった3塩基のタイピング結果に基づくにも関わらず、表6に示すように、理論的には、偽陰性は0人であり、偽陽性は530人と非常に少なくなる。
【0033】
HLA−Aのアリルの多くは、複数の多型の組み合わせに係るものであるため、アリル中の他のアリルと異なる部位(多型部位)の一部分のみをタイピングした場合には、複数のアリルを互いに判別することが難しい。ある特定のアリルの判定を目的とする検査を行う場合、アンビギュイティが発生していると、実際には目的のアリルではないアリルであっても、当該目的のアリルである、と判定されてしまう(偽陽性)。アンビギュイティを全て解消することによりこの偽陽性の問題を解消し得るが、アンビギュイティを全て解消するためには非常に多数の塩基をタイピングする必要があり、検査コストが過大となる。
つまり、HLA判定方法を臨床検査等の医療現場に適用するためには、検査精度とコストのバランスを図ることが重要となる。
【0034】
本発明のHLA−A*24:02判定方法では、HLA−A*24:02を判定するために、遺伝子頻度を加味してアンビギュイティによる偽陽性の発生確率をできるだけ小さくし、かつタイピングすべき塩基の数も最小限にするように、タイピングに用いる塩基を特定している。つまり、本発明のHLA−A*24:02判定方法は、HLA−A*24:02の判定精度が高く、かつ検査コストの点からも優れているため、臨床検査等にも好適である。
【0035】
仮に、前記(a)及び(b)の塩基のタイピング結果のみで判定した場合には、表7に示すように、遺伝子頻度の高い「HLA−A*24:20と他(表2に記載されたアリル以外のアリル)」である被験者が、HLA−A*24:02を含むと誤って判定されてしまう。この結果、偽陽性の確率が0.97%と大きくなり、日本人100万人に検査した時に、理論上、9,749人もが偽陽性と判定されてしまう。この試算からも、本発明のHLA−A*24:02判定方法の判定精度が優れていることが明らかである。
【0037】
本発明の判定方法に供される核酸サンプルとしては、被験者のゲノムDNAの前記(a)及び(b)の塩基(本発明のHLA−A*24:02判定方法の場合、被験者のゲノムDNAの前記(a)〜(c)の塩基)を含む領域の塩基配列が反映されている核酸が含まれていればよく、被験者由来のゲノムDNAであってもよく、mRNAであってもよい。
mRNA中の各塩基のタイピングは、mRNAを直接タイピングしてもよく、mRNAから逆転写反応により合成されたcDNAを用いて行ってもよい。被験者由来のゲノムDNA又はmRNAは、被験者から採取された生体試料から抽出・精製された核酸であってもよく、精製前の核酸であってもよい。さらに、被験者由来のゲノムDNA又はmRNA中の前記(a)及び(b)の塩基を含む領域又は前記(a)〜(c)の塩基を含む領域をPCR等により増幅して得られた増幅産物であってもよい。
【0038】
本発明の判定方法において、前記(a)〜(c)の塩基のタイピング方法は特に限定されるものではなく、サンガー法を基礎とするシークエンス解析法であってもよく、一塩基検出方法であってもよい。一塩基検出方法としては、遺伝子の変異や多型の検出等において用いられる公知の各種手法、例えば、PCR−SSO(sequence specific oligonucleotide)法、PCR−SSP(sequence specific プライマー)法や、それらを改変した方法等を用いることができる。PCR−SSO法は、特定のアリルと特異的にハイブリダイズするプローブ(アリル特異的プローブ)を用いて、当該プローブとの会合体形成の有無によりタイピングする方法である。PCR−SSP法は、特定のアリルと特異的にハイブリダイズするプライマー(アリル特異的プローブ)を用いてPCRを行い、PCR産物の有無によりタイピングする方法である。これらを改変した方法としては、例えば、インベーダー法やTaqmanプローブ法、QProbe法、Scorpion−ARMS法等が挙げられる。検出感度に優れているため、蛍光を利用して検出する方法であることが好ましく、検出感度及び精度に優れているため、インベーダー法やTaqmanプローブ法、QProbe法、Scorpion−ARMS法等のように、特定のアリルを認識するプローブやプライマーを用いる方法であることが好ましい。前記(a)〜(c)の塩基のタイピングに用いられるプローブやプライマーは、例えば、塩基配列1又は2に基づき、常法により設計し、合成することができる。
【0039】
シークエンス解析法によりタイピングする場合、例えば、
図3に示すように、被験者から抽出されたゲノムDNA又はmRNA(以下、単に「ゲノムDNA」ということがある。)を鋳型として、前記(a)の塩基を挟む領域を増幅するPCRプライマー(
図3中、プライマー−1及びプライマー−2)を用いてPCRを行い、得られた増幅産物の塩基配列を解析することによって、前記(a)の塩基をタイピングすることができる。同様に、前記(b)及び(c)の塩基を挟む領域を増幅するPCRプライマー(
図3中、プライマー−3及びプライマー−4)を用いてPCRを行い、得られた増幅産物の塩基配列を解析することによって、前記(b)及び(c)の塩基をタイピングすることができる。
図3の(c)にある6塩基は、上流から第437番目の塩基、第441番目の塩基、第443番目の塩基、第444番目の塩基、第447番目の塩基、及び第449番目の塩基を示す。
プライマー−1〜4としては、前記(a)〜(c)の各塩基を含む目的の領域を増幅し得るプライマーであれば特に限定されるものではない。例えば、表8に示す塩基配列からなるプライマーが挙げられる。なお、前記(a)及び(b)の塩基のみをシークエンス解析法によりタイピングする場合には、前記(c)の塩基は含まず、かつ前記(b)の塩基を含む領域を増幅するPCRプライマーを用いてPCRを行い、得られた増幅産物の塩基配列を解析してもよい。
【0041】
また、塩基のタイピングは、シークエンス解析法と一塩基検出方法とを組み合わせて行ってもよい。例えば、前記(a)〜(c)の塩基のいずれかを、HLA−A*24グループのアリルと特異的にハイブリダイズするプライマーを用いてPCRを行い、PCR産物の有無によりタイピングし、残る塩基をシークエンス解析によりタイピングしてもよい。
【0042】
なお、「ある特定のアリルに特異的にハイブリダイズするプライマー」は、標的とするアリルと完全に相補的な塩基配列を有するプライマーに限定されず、その他のアリルよりも標的とするアリルに優先的にハイブリダイズするプライマーであればよく、標的とするアリルとハイブリダイズする領域内に1〜数塩基のミスマッチ塩基を含んでいてもよい。
【0043】
本発明のHLA−A*24:02判定方法では、例えば、前記(a)〜(c)の塩基のいずれかを、HLA−A*24:02と特異的にハイブリダイズするプライマー(HLA−A*24:02特異的プライマー)を用いてPCRを行い、PCR産物の有無によりタイピングし、残る塩基をシークエンス解析によりタイピングしてもよい。
【0044】
例えば、
図4に示すように、被験者から抽出されたゲノムDNAを鋳型として、前記(c)の6塩基を含む領域と特異的にハイブリダイズするプライマー(
図4中、プライマー−5)と、前記(b)の塩基の上流の領域を認識するプライマー(
図4中、プライマー−3)とを用いて、PCR等のポリメラーゼによる伸長反応を行い、PCR産物の有無を調べ、かつ当該PCR産物の塩基配列を解析することによって、前記(b)及び(c)の塩基をタイピングすることができる。前記(a)の塩基のタイピングは、
図3と同様にして実施することができる。
【0045】
図3に示すタイピング方法の場合には、ゲノムDNAに含まれているHLA遺伝子の多くのアリルが鋳型となってPCR産物が得られる。このため、HLA遺伝子がヘテロタイプの場合、前記(a)〜(c)の塩基は、タイピング方法によっては、2種類の塩基がタイピングされる場合があり、(a)〜(c)のタイピング結果を用いても誤判定になる場合がある。これに対して、
図4に示すタイピング方法のように、(c)の6塩基を含む領域をプライマーで識別したうえで(b)の塩基をシークエンス解析法等によりタイピングした場合には、(b)の塩基と(c)の塩基を総合した結果が得られる。すなわち、HLA−A*24:02を含むグループに特異的なプライマーを用いて増幅する場合には、ゲノムDNAがHLA−A*24:02を含むヘテロタイプであった場合でも、(a)及び(b)の塩基の検出のみにより、HLA−A*24:02のタイピングを、
図3のタイピング方法よりも精度よくかつより簡便に判定できる。
【0046】
プライマー−5としては、前記(c)の6塩基の少なくとも1塩基を含む領域に特異的にハイブリダイズし得るプライマーであれば特に限定されない。HLA−A*24:02特異的プライマーとして用いられるものとしては、例えば、表9に示す塩基配列からなるプライマー−5が挙げられる。表9に示すプライマー−6〜8も、プライマー−5と同様に、前記(c)の塩基をタイピングするためのHLA−A*24:02特異的プライマーとして用いることができる。
【0048】
図4に示す場合のように、PCR産物の有無によりタイピングする場合には、PCR産物が得られなかった場合に、鋳型としたゲノムDNAがHLA−A*24グループを含んでいなかったためか、それとも反応系自体に問題が生じていたためかの判断が難しい。そこで、ゲノムDNAがHLA−A*24グループを含んでいなかった場合に必ずPCR産物が得られるように設計されたプライマーを用いて、当該ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことも好ましい。本発明のHLA−A*24:02判定方法の場合も同様に、ゲノムDNAがHLA−A*24:02を含んでいなかった場合に必ずPCR産物が得られるように設計されたプライマーを用いて、当該ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことが好ましい。前記(c)の塩基をタイピングするためのHLA−A*24:02特異的プライマー(すなわち、第437番目の塩基がCであり、第441番目の塩基がTであり、第443番目の塩基がGであり、第444番目の塩基がCであり、第447番目の塩基がTであり、第449番目の塩基がCであるアリルと特異的にハイブリダイズするプライマー)によってはPCR産物が得られない場合に必ずPCR産物が得られるように設計されたプライマーとしては、例えば、表10に示すようなプライマー−9〜12が挙げられる。
【0050】
前記(a)〜(c)の塩基のタイピングに用いられるプローブやプライマーをキット化することにより、本発明の判定方法をより簡便に行うことができる。例えば、
図3に示すプライマー−1〜4を組み合わせたものをHLA−A*24グループ判定用キットとすることができる。本発明においては、HLA−A*24:02特異的プライマーであるプライマー−5を含むHLA−A*24グループ判定用キットとすることが好ましい。HLA−A*24:02特異的プライマーを含むキットは、HLA−A*24:02であるか否かの判定に好適に用いられる。
【0051】
また、HLA−A*24グループ判定用キットには、被験者から採取された生体試料から核酸を抽出・精製するための試薬や器具等を含ませることも好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
HLA−A型が[A*24:02/A*24:02]ホモタイプ、[A*24:02/A*24:08]のヘテロタイプ、[A*24:20/A*32:01]のヘテロタイプ、及び[A*32:01/A*24:04]のヘテロタイプである被験者から採取された生体試料から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表8に示すプライマー−1及びプライマー−2を用いたPCRと、プライマー−3及びプライマー−4を用いたPCRとを行い、各PCR産物についてシークエンス解析した。
シークエンス解析の結果及び、得られたタイピング結果に基づいて判定した結果を表11に示す。表中、「判定」欄の「+」はゲノムDNAがHLA−A*24:02を含むという判定を、「−」はゲノムDNAがHLA−A*24:02を含まないという判定を、それぞれ示す。この結果、A*24:02/A*24:02]ホモタイプ、[A*24:02/A*24:08]のヘテロタイプ、及び[A*32:01/A*24:04]のヘテロタイプはいずれも正確に判定された。一方で[A*24:20/A*32:01]のヘテロタイプは、想定どおり、偽陽性となった。
【0054】
【表11】
【0055】
[実施例2]
プライマー−4に代えて表9に示すプライマー−5を用いた以外は、実施例1と同様にして、HLA−A型が[A*24:02/A*24:02]ホモタイプ、[A*24:02/A*24:08]のヘテロタイプ、[A*24:20/A*32:01]のヘテロタイプ、及び[A*32:01/A*24:04]のヘテロタイプである被験者から採取された生体試料から抽出したゲノムDNAを鋳型として、PCRを行った。この結果、いずれのゲノムDNAを鋳型とした場合でも、プライマー−3及びプライマー−5を用いたPCRによってPCR産物が得られた。よって、全被験者のゲノムDNAが、第437番目の塩基がCであり、第441番目の塩基がTであり、第443番目の塩基がGであり、第444番目の塩基がCであり、第447番目の塩基がTであり、第449番目の塩基がCである、とタイピングされた。各PCR産物についてシークエンス解析したところ、表12に示すように、実施例8と同様の判定結果となった。但し、[A*32:01/A*24:04]のヘテロタイプ由来のゲノムDNAを用いた場合には、実施例1では(b)の塩基はCとGの2種類がタイピングされたが、本実施例では(b)の塩基はCの1種類のみタイピングされた。
【0056】
【表12】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の判定方法により、HLA−A*24グループのタイピングを精度よくかつより簡便に判定できることから、臨床用遺伝子診断事業等の分野、特に細胞又は臓器移植のためのHLA型判定において利用が可能である。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]