(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233028
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】製鋼用ペレットの製造方法および製鋼用ペレット
(51)【国際特許分類】
C22B 1/244 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
C22B1/244
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-2254(P2014-2254)
(22)【出願日】2014年1月9日
(65)【公開番号】特開2015-129340(P2015-129340A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 秀美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 達也
【審査官】
米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−139633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00〜61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラッジを含鉄亜鉛ダストおよびバインダーとともに混合した後、造粒して生ペレットを形成後、乾燥工程を経て製鋼用のペレットとする製鋼用ペレットの製造方法であって、
前記バインダーとして、製紙工程で排出される黒液であって、アルカリ性でその蒸発残渣成分中に含まれる「S」量が、0.02質量%未満のものを2.0質量%以上〜8.0質量%未満添加することを特徴とする製鋼用ペレットの製造方法。
【請求項2】
スラッジを含鉄亜鉛ダストおよびバインダーとともに混合した後、造粒して生ペレットを形成後、乾燥工程を経て得られた製鋼用ペレットであって、
バインダー原料として、製紙工程で排出される黒液であって、アルカリ性でその蒸発残渣成分中に含まれる「S」量が、0.02質量%未満のものを2.0質量%以上〜8.0質量%未満含有させたことを特徴とする製鋼用ペレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼用ペレットの製造方法および製鋼用ペレットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所等で発生したスラッジ中に含まれる鉄分等の有効資源を再利用する技術として、スラッジをペレット化して、製鋼工程で固体酸素源として利用する技術が開示されている(特許文献1)。
【0003】
通常、固体酸素源としては、鉄鉱石が使用されることが多いが、高価な鉄鉱石に変えて、特許文献1に記載の製鋼用ペレットを用いることにより、コストの削減を図ることができる。
【0004】
ただし、従来の製鋼用ペレットでは、通常、バインダーとして、短時間で強い強度を発現する早強ポルトランドセメントを使用しており、ポルトランドセメント中には、石膏由来の硫黄(以下、ペレット中に含有する硫黄を「S」と記す)が1.1質量%程度含まれている。
【0005】
したがって、極低硫鋼(例えばS≦0.014質量%)の酸化精錬プロセスで、前記ペレットを使用する場合には、酸化精錬中に溶銑中へ溶出したペレット由来の「S」を除去するため、酸化精錬後に、再度、溶銑脱硫処理を行うことが必要となり好ましくないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−55718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は前記の問題を解決し、低硫鋼の製鋼プロセスにおける使用に適した、「S」含有量の少ない製鋼用ペレットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の製鋼用ペレットの製造方法は、スラッジを含鉄亜鉛ダストおよびバインダーとともに混合した後、造粒して生ペレットを形成後、乾燥工程を経て製鋼用のペレットとする製鋼用ペレットの製造方法であって、前記バインダーとして、製紙工程で排出される
黒液であって、アルカリ性
でその蒸発残渣成分中に含まれる「S」量が、0.02質量%未満のものを2.0質量%以上〜8.0質量%未満添加することを特徴とするものである。
【0011】
請求項2記載の製鋼用ペレットは、スラッジを含鉄亜鉛ダストおよびバインダーとともに混合した後、造粒して生ペレットを形成後、乾燥工程を経て得られた製鋼用ペレットであって、バインダー原料として、製紙工程で排出される
黒液であって、アルカリ性
でその蒸発残渣成分中に含まれる「S」量が、0.02質量%未満のものを2.0質量%以上〜8.0質量%未満含有させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
スラッジを含鉄亜鉛ダストおよびバインダーとともに混合した後、造粒して生ペレットを形成後、乾燥工程を経て製鋼用のペレットとする製鋼用ペレットの製造方法において、前記バインダーとして、製紙工程で排出されるアルカリ性の製紙抽出液を2.0質量%以上〜8.0質量%未満添加することにより、低硫鋼(S≦0.014質量%)用の溶銑の酸化精錬処理の際に、溶銑トン当り5〜8Kg添加することが可能で、かつ、該酸化精錬処理後に、追加の脱硫処理を不要とした、低硫鋼の製鋼プロセスにおける使用に適した、「S」含有量の少ない製鋼用ペレットを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0014】
(ペレット原料の準備プロセス)
ペレット原料の準備プロセスでは、高水分のCr含有スラッジと含鉄亜鉛ダスト(高亜鉛ダスト、低亜鉛ダスト)と湿細粒鉄源と焼結乾ダストを混合して水分含有量が8〜10質量%の混合物とする。その他、製鋼用ペレットのリターン品(粒径が過大又は過小)を混合することもできる。
【0015】
前記Cr含有スラッジは、50〜60質量%の高水分を含むものであり、このままホッパー等に貯留するとブリッジを形成して正確に切り出し配合することができない。そのため、本実施形態では、Cr含有スラッジと含鉄亜鉛ダストと湿細粒鉄源を、予めヤードで、ショベルカーなどの重機を用いて混合してプレ混合物とし、このプレ混合物に燒結乾ダストを添加して、ミキサーで混合したものをホッパーに貯留している。このように、Cr含有スラッジと含鉄亜鉛ダストを、予めヤードでショベル混合してプレ混合物とすることにより、製鋼用ペレット間の原料成分バラつきを低減させることができる。なお、前記のヤードでのプレ混合を行わず、全ての原料をミキサーやボールミルに投入して混合し、前記の水分含有量が8〜10質量%の混合物とすることもできるが、プレ混合プロセスを追加することにより、後段の各プロセスとペレット原料の混合プロセスとの並列処理が可能となり、生産性の向上を図ることができる。
【0016】
含鉄亜鉛ダストは、後述するように製造した製鋼用ペレットを転炉に投入した場合にスラグ層を通過して溶銑内に入り込むだけの十分な質量を付与するためのものである。即ち、製鋼用ペレットの比重調整を行うためのものであり、炉内スラグの比重よりも大きくなるように調製し添加する。なお、含鉄亜鉛ダストとしては、高亜鉛ダストと低亜鉛ダストの2種類を用いることが好ましい。ここで高亜鉛ダストとは、亜鉛含有量が約2質量%程度のものをいい、低亜鉛ダストとは、亜鉛含有量が約0.5質量%以下のものをいう。高亜鉛ダストは微粒であるため、後工程で造粒した場合に核を形成できず所望形状の製鋼用ペレットが得られないおそれがあり、本発明では径の大きい粗粒ダストである低亜鉛ダストを加えることで、造粒時の核として利用している。
【0017】
また、前記ホッパーにはバインダーも貯留されている。
【0018】
本発明では、バインダーとして、製紙工程で排出されるアルカリ性の製紙抽出液(以下、黒液)であって、黒液の蒸発残渣成分中に含まれる「S」量が、0.02質量%未満のものを使用している。この黒液は、リグニンを主成分とする液体(含水分量は60〜90質量%程度)であり、S含有量が少なく0.008質量%未満、フェノール樹脂接着剤に似て重合反応を起こし易く、接着力が強いという特性を有している。
【0019】
(ペレット原料の混合および造粒プロセス)
次いで、ホッパーに貯留された各原料を所定量ずつ切り出しして、ボールミルのような混合装置で混合を行った後、得られた混合物をパンペレタイザーのような造粒装置で造粒して、粒径が20〜30mm程度、水分含有率が10〜12質量%の湿ペレットを形成する。ここで、バインダーである黒液の添加率は、ペレット乾燥後における圧潰強度(MPa)を確保する観点から、2.0質量%以上とすることが好ましい。ただし、黒液添加率が、8.0質量%以上となると、酸化精錬中におけるフレーム発生の要因となるため、黒液添加率は8.0質量%未満とする。なお、ここで、黒液の添加率とは、他の原料からなる混合物(8質量%程度の水分を含有するもの)100質量%に対する、液体状態の黒液添加量を意味する。
【0020】
本発明では、前記のように、バインダーとして、リグニンを主成分とする黒液を使用しているため、混合物と黒液との重合反応により、造粒中に、接着強度を発現させることが出来る。当該接着強度とは、後の篩いプロセスにおける篩でのペレット選別時に、ペレットが崩壊することはないレベルの強度を意味する。
【0021】
従来、バインダーとして早強ポルトランドセメントを使用していたものでは、水和反応(3CaO・SiO
2+H
2O→Ca(OH)
2+nCaO・SiO
2・H
2O)により強度発現していたため、結合強度発現には、乾燥前に養生ヤードで養生(3日程度)が必要であったのに対し、このように、本発明によれば、極めて短時間で、造粒中に、圧潰強度の高い湿ペレットを生成できるため、養生ヤードを不要とすることができる。
【0022】
(篩いプロセス)
篩いプロセスでは、上記の造粒プロセスで形成されたペレットを適切な粒度に調整する。転炉精錬用としては、粒径が5〜25mmが好ましい。湿ペレットの粒径が過小または過大のペレットは、そのまま前記の混合装置に装入して、再度、混合物の原料して使用することが出来る。早強セメントをバインダーで使用した湿ペレッの粒径が過大の場合には、破砕後に混合装置に装入しなければならない。
【0023】
(乾燥プロセス)
次いで湿ペレットを水分3質量%以下の減率乾燥域(高温の炉へ投入時の爆裂回避)まで乾燥して製鋼用ペレットとする。本実施形態では、下部に蒸気配管を配列したピットに湿ペレットを装入する蒸気乾燥方法(乾燥温度:蒸気温度 150度(配管圧0.4Mpa、乾燥時間:1〜2日)により乾燥を行ったが、その他、バンド乾燥機のような乾燥装置で乾燥を行うこともできる。このように、ペレット中の自由水分を除去して3%以下の減率乾燥域まで乾燥することにより、ペレットを転炉へ投入した場合の急激な水分蒸発をなくし炉内爆裂が生じるのを的確に防止することができる。
【0024】
その後、得られた製鋼用ペレットは、地上バンカーまでトラック輸送して転炉の炉上ホッパーまで搬送される。そして該ホッパー内の製鋼用ペレットは、高炉溶銑を装入後に副原料とともに投入することにより利用に供されることとなる。
【0025】
以上のようにして得られた製鋼用ペレットは、ペレット中の「S」含有量を、従来の製鋼用ペレットと比べて、1/2以下に低減させたものであり、低硫鋼(S≦0.014質量%)用の溶銑の酸化精錬処理の際に、溶銑トン当り5〜8Kg添加することが確認されている。この酸化精錬後に、追加の脱硫処理は不要である。なお、従来の製鋼用ペレットでは、追加の脱硫処理を行わない場合、低硫鋼(S≦0.014質量%)用の溶銑の酸化精錬処理時に添加できるペレット量は、溶銑トン当り1kg以上〜2.6kg未満に制限されている。
【0026】
また、製鋼用ペレットのうち、粒径が過大・過少のものをリターン品として、製鋼用ペレット原料として再利用する場合に、従来のものは、セメントで固化しているため、ボールミルでの粉砕が必要であったが、本発明の製鋼用ペレットは、塊のまま、他の原料とともに混合させることができる。
【実施例】
【0027】
(黒液添加率と製造したペレットの圧潰強度の関係)
上記の製造プロセスにおいて、黒液添加率を、下記(表1)のように変化させて、ペレット(減率乾燥域まで乾燥(蒸気乾燥1日)後の水分含有量が3質量%のもの)の圧潰強度圧潰強度の測定を行った。圧潰強度は、JIS8841「造粒物の強度試験方法」に準拠して測定した。
【0028】
【表1】
上記(表1)において、黒液を7.0質量%添加とは、黒液を除く混合物100質量部に対して黒液を7.0質量部添加したことを示す。
【0029】
圧潰強度(MPa)を確保する観点から、黒液添加率は、2.0質量%以上とすることが好ましい。ただし、黒液添加率が、8.0質量%以上となると、酸化精錬中におけるフレーム発生の要因となるため、黒液添加率は8.0質量%未満とする。
【0030】
(黒液添加率と転炉におけるフレーム発生の関係)
溶銑予備処理用転炉に溶銑を280ton装入し溶銑脱硫−(脱珪)脱燐で、脱珪脱燐処理の際に、各々、黒液2.0〜8.0質量%を添加して製造した製鋼用ペレットを、転炉の炉上ホッパーより溶銑トン当り5kg投入し、目視で転炉からのフレームの発生有無を評価した。製鋼用ペレットを投入した溶銑は、低硫鋼(S≦0.014質量%)用の溶銑である。
<結果>
黒液の添加率が5.0質量%以下の場合には、ペレットを全量一括投入してもフレーム発生はなかった。
黒液の添加率が比較的多い6.0質量%、7.0質量%、8.0質量%の場合には、300Kg分を初期投入して、フレーム発生が無ければ、残量を投入した。黒液の添加率が7.0%以下の場合には、フレーム発生はなかったので、残量を全て投入した。
一方、黒液の添加率が8.0質量%の場合には、初期投入でフレーム発生を目視したので、残量の添加を中止した。
【0031】
(バインダーとして早強ポルトランドセメントを使用した従来の製鋼用ペレットとの比較)
混合物の合計質量を100質量%として、100質量%に対して、早強セメントを5質量%添加し、特許文献1記載のプロセスで製鋼用ペレットを製造した。
この製鋼用ペレットを、鋳片S≦0.014質量%用の溶銑に、溶銑トン当り1.5Kg添加した場合には、脱珪脱燐処理後の溶銑中のS含有量は許容範囲内であり、脱珪脱燐処理後に、追加の脱硫処理は不要であった。
一方、鋳片S≦0.014質量%用の溶銑に、溶銑トン当り2.6Kg添加した場合には、脱珪脱燐処理後の溶銑中のS含有量が高くなったので、脱珪脱燐処理後に、更に溶銑の脱硫処理を追加した。