(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1の構造では、孔部の高さhを大きくすることが難しいという課題がある。上記の車室空間の音のうち、特にこもり音は、ロードノイズ領域(200〜300Hz)よりも低い低周波音で乗員の耳を圧迫するような不快感を与えることがあり、積極的に低減させたい音である。これに対して、特許文献1の構造では、スペアタイヤハウスの共鳴周波数をロードノイズ領域よりもさらに低い低周波域に設定することは困難である。
なお、特許文献1の第三実施例のように、スペアタイヤハウスに通じる連結路を別体で形成するような場合は、高さhを大きくすることはできても構造が複雑化し、別体を設ける分のコスト増や重量増は避けられない。
【0006】
本件の目的の一つは、このような課題に鑑み案出されたもので、簡素な構成で車室空間の低周波騒音を抑制することができるようにした、車両の吸音構造を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示する車両の吸音構造は、車両のラゲッジルームのフロア部材の下方に凹設され、上方を前記フロア部材によって覆われて形成される閉空間と、前記閉空間を容器部とダクト部とに仕切る仕切壁と、前記仕切壁に設けられ、前記容器部と前記ダクト部とを連通する連通口と、前記ダクト部の前記連通口とは逆側の端部に設けられ、車室空間に開口した開口部と、を備える。前記車室空間は、前記車両の内部の空間を意味し、前記ラゲッジルームは前記車室空間の一部である。また、前記ダクト部は、一方に連通口,他方に開口部を有し、前記車室空間と前記容器部とを連通する部分である。これにより、前記吸音構造は、ヘルムホルツ共鳴器を構成する。
【0008】
(2)前記ダクト部は、前記容器部の車幅方向外側において車両前後方向に延設されることが好ましい。
(3)前記開口部は、上方を向いて設けられることが好ましい。
(4)前記開口部に覆設された網目状のカバーを備えることが好ましい。
【0009】
(5)前記閉空間は、前記フロア部材に沿って延びることが好ましい。すなわち、前記閉空間は、前記フロア部材の下方に前記フロア部材に沿って延びた空間であって、前記フロア部材により上方が覆われることで一定の高さを有する空間となることが好ましい。
(6)前記閉空間は、収納空間であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
開示の車両の吸音構造によれば、ラゲッジルームのフロア部材の下方に凹設される、例えば収納空間として利用される閉空間を、仕切壁によって容器部とダクト部とに分けるとともに連通口及び開口部を設けることで、この閉空間をヘルムホルツ共鳴器として利用することができる。ここで、ヘルムホルツ共鳴器は、容器部の容積V,ダクト部の長さL,開口部の面積Sによって共振周波数fが決まる。
【0011】
本吸音構造であれば、ダクト部の長さLが開口部から連通口までの長さに相当するので、ダクト部の長さLを大きくすることができ、共振周波数fをロードノイズ領域よりもさらに低い低周波域に設定することができる。したがって、本吸音構造によれば、車室空間のこもり音のような低周波音を吸収することができ、低周波騒音を抑制することができる。また、ラゲッジルームのフロア部材の下方には、一般的に修理道具などを収納するための空間が備えられており、本吸気構造では、もともと備わっている閉空間に仕切壁と二つの開口を設けるだけなので、構成を簡素にすることができ、部品コストや製造コストや重量を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0014】
[1.吸音構造]
本実施形態に係る吸音構造は、
図4に示すように、車両1のラゲッジルーム2の下方に設けられる。ラゲッジルーム2は、車室空間3のうち後部座席4の後方の空間であり、主に収納スペースとして利用される。なお、ここでいう車室空間3とは車両1の内部空間を意味し、ラゲッジルーム2も車室空間3に含まれる(すなわち、ラゲッジルーム2は車室空間3の一部である)。ラゲッジルーム2へは、テールゲート5を開放することで外部からアクセス可能であり、荷物の出し入れをすることができる。
【0015】
ラゲッジルーム2の床面を構成するフロア部材6は、非通気性の板状部材であり、車幅方向(左右方向)に沿って延在する回動軸6A(
図2参照)を最前部に有する。フロア部材6は、この回動軸6Aを中心として後部が上方へ移動するように回動可能(開閉可能)となっている。ラゲッジルーム2の下方、すなわちフロア部材6の下方には、修理道具などの使用頻度の低い道具を収納するための収納空間7が凹設されている。
【0016】
収納空間7は、フロア部材6の下方にフロア部材6に沿って延在する空間であり、その上方をフロア部材6によって覆われることで(すなわちフロア部材6が閉鎖されているときに)、一定の高さを有する閉空間となる。本吸音構造10(
図1参照)は、この収納空間7を用いてヘルムホルツ共鳴器を形成し、車室空間3の音を吸収して騒音を抑制するものである。
【0017】
ヘルムホルツ共鳴器とは、
図5に示すような空洞部分91とネック部分92とが連結した容器90のことであり、このような容器90の中で起こる共鳴がヘルムホルツ共鳴と呼ばれる。
図5に示すように、ヘルムホルツ共鳴器90の空洞部分91の容積をV
0,ネック部分92の長さをL
0,ネック部分92の開口93の面積をS
0とすると、この共鳴器90の共振周波数f
0は、以下の式[1]で表される。なお、以下の式においてaは音速である。
【0019】
この式[1]から分かるように、共振周波数f
0は、空洞部分91の容積V
0と、ネック部分92の長さL
0と、開口93の面積S
0とによって決定する。このような容器90に共振周波数f
0に相当する周波数の音波が入射すると、共振(共鳴)が生じてネック部分92の空気は激しく振動する。そのとき、ネック部分92から音が再放射されるが、管壁で粘性抵抗が働き、入射した音波のエネルギの一部は熱に変換されて吸音効果が生じる。つまり、ヘルムホルツ共鳴器90は、共振周波数f
0に近い周波数の音波を吸収して音を低減することができる。
【0020】
車室空間3の音は、主に、パワープラントから伝達される音(いわゆるエンジン音),こもり音,路面から伝わる音(ロードノイズ),風切り音の四つの要素から構成されることが知られている。これらのうち、特にこもり音は、低周波音で乗員の耳を圧迫するような不快感を与えることがある。そこで、本吸音構造10は、ヘルムホルツ共鳴器90の原理を利用し、吸音構造10の共振周波数fを低周波数に設定することで、低周波音(特にこもり音)を抑制するようにした。
【0021】
吸音構造10について、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1及び
図2は、
図4の車両1のテールゲート5を開放し、ラゲッジルーム2を斜め上方から見た斜視図であり、
図1はフロア部材6を取り除いて吸音構造10を示したもの、
図2は吸音構造10をフロア部材6で覆ったものである。
図3は
図1の吸音構造10を模式的に示した上面図である。
図2に示すように、ラゲッジルーム2の底面であるフロア部材6は、収納空間7にアクセスする場合以外は閉鎖されており、これにより収納空間7は閉空間となる。
【0022】
図1〜
図3に示すように、吸音構造10は、上方をフロア部材6によって覆われて形成される閉空間(すなわち収納空間7)を水平方向に二つの空間に仕切る仕切壁15と、この仕切壁15に設けられ、二つの空間を連通する連通口14と、フロア部材6に形成された開口部13とを備える。仕切壁15は、収納空間7の底面に立設された板状部材であり、フロア部材6が閉鎖されたときにフロア部材6の下面に密接する高さ(すなわち、閉空間7の高さと同等の高さ)を有する。ここでは、仕切壁15は、収納空間7内で車両前後方向(以下、単に前後方向という)に延設され、大小二つの空間が車幅方向に並ぶように収納空間7を仕切る。
【0023】
仕切壁15により仕切られた二つの空間のうち、大きい空間を容器部11,小さい空間をダクト部12という。容器部11は上記の空洞部分91に対応し、ダクト部12は上記のネック部分92に対応する。ここでは、ダクト部12は、容器部11の車幅方向外側(左側)において前後方向に延設される。連通口14は、上記の空洞部分91とネック部分92とを連結する部分に対応し、フロア部材6が閉鎖された状態で容器部11とダクト部12とが連通する唯一の開口である。
【0024】
開口部13は、上記の開口93に対応し、ダクト部12の連通口14が設けられる部分(ここでは後部)とは逆側の端部(前端部)に設けられる。開口部13は、上方に向いて設けられ、ラゲッジルーム2(すなわち車室空間3)に開口している。フロア部材6の閉鎖状態では、開口部13によってダクト部12とラゲッジルーム2とが連通され、ダクト部12内の空気は、開口部13を通じて車室空間3の空気によって圧縮される。すなわち、吸音構造10は、ヘルムホルツ共鳴器として構成される。
【0025】
図3に示すように、容器部11の容積をVとし、ダクト部12の連通口14のある後端部から開口部13の前端部までの前後方向長さ(すなわち、収納空間7の前後方向長さの全長)をLとし、開口部13の面積をSとすると、吸音構造10の共振周波数fは、以下の式[2]で定義される。
【0027】
本実施形態に係る吸音構造10では、特にダクト部12の長さLを大きくすることができるため、共振周波数fを低周波数に設定することができる。ここで、周波数に対する車内音(車室空間3の音)の大きさを
図6に示す。
図6中の実線は吸音構造10を設けた場合、破線は吸音構造10がない場合を示す。車内音は、破線で示すように周波数が所定値Fのときにピークを持っており、この周波数Fは上記のロードノイズ領域よりもさらに低い30〜100Hz程度である。本吸音構造10は、この周波数Fの音(すなわちこもり音)を効果的に低減させるべく、吸音構造10の共振周波数fが周波数Fと略同一になるように、容器部11の容積V,ダクト部12の長さL及び開口部13の面積Sを設定する。これにより、実線で示すように、周波数F(すなわち共振周波数f)に近い音波を吸収して、車内音のピークを下げることができる。
【0028】
なお、ダクト部12の長さLは、開口部13の位置及び大きさと仕切壁15の位置とに応じて容易に設定することができる。例えば、
図7(a)に示すように、開口部13をフロア部材6ではなく、後部座席4と収納空間7との間の空間に開口するように収納空間7の側壁となる部分に設けることも可能である。このように開口部13を設けることで、後述のカバー16が不要となり、荷物の落下等の可能性をなくすことができる。また、開口部13を側壁に設ければ、ダクト部12の長さ方向に直交して開口するため、ヘルムホルツ共鳴器90のネック部分92の長さL
0に相当するダクト部12の長さLを確実に確保することができる。また、
図7(b)に示すように、仕切壁15を車幅方向に延設させ、一端に開口部13,他端に連通口14を設けることで、ダクト部12の長さLをさらに大きくすることができる。
【0029】
ダクト部12の長さLは、収納空間7の本来の役割である収納性(収納力)や車室空間3の空気の出入りのし易さ等を勘案して設定することが好ましい。仕切壁15は、前後方向に延設された方が車幅方向に延設されたときよりも、収納スペースを大きくすることができる。また、開口部13は、側壁となる部分に設けるよりも上方を向くようにフロア部材6に設けた方が、車室空間3の空気の出入りをし易くすることができる。
【0030】
また、本実施形態では、
図2に示すように、開口部13を覆う網目状(メッシュ状)のカバー16が設けられ、フロア部材6に載置される荷物が収納空間7(ダクト部12)内に落下したり、傾いたりすることが防がれる。なお、カバー16はメッシュ状のため、通気性は確保されている。
【0031】
[2.作用・効果]
上記の吸音構造10では、ラゲッジルーム2のフロア部材6の下方に凹設される、例えば収納空間として利用される閉空間7を、仕切壁15によって容器部11とダクト部12とに分けるとともに開口部13及び連通口14を設けることで、この閉空間をヘルムホルツ共鳴器として利用することができる。ヘルムホルツ共鳴器は、上述したように、容器部11の容積V,ダクト部12の長さL及び開口部13の面積Sによって共振周波数fが決まる。
【0032】
本吸音構造10であれば、ダクト部12の長さLが開口部13から連通口14までの長さに相当するので、ダクト部12の長さLを大きくすることができ、共振周波数fをロードノイズ領域よりもさらに低い低周波域に設定することができる。したがって、本吸音構造10によれば、車室空間3のこもり音のような低周波音を吸収することができ、低周波騒音を抑制することができる。また、ラゲッジルーム2のフロア部材6の下方には、一般的に修理道具などを収納するための空間が備えられており、本吸気構造10では、もともと備わっていた閉空間7に仕切壁15と二つの開口13,14を設けるだけなので、構成を簡素にすることができ、部品コストや製造コストや重量を抑制することができる。
【0033】
また、上記の吸音構造10では、ダクト部12が容器部11の車幅方向外側において前後方向に延設されるため、容器部11の容積Vを大きく確保することができ、共振周波数fを小さくすることができる。さらに、閉空間7の収納スペースを広くすることができ、利便性を向上させることができる。
【0034】
また、上記の吸音構造10では、開口部13がフロア部材6に形成されて上方を向いて設けられるため、車室空間3の空気を開口部13からダクト部12へ出入りし易くすることができる。これにより、吸音性能をより高めることができる。
なお、フロア部材6に形成された開口部13には、網目状のカバー16が覆設されているため、開口部13からの荷物の落下や荷物の傾き等を防ぐことができ、ラゲッジルーム2に安定して荷物を収納することができる。
【0035】
また、上記の吸音構造10では、閉空間7がフロア部材6に沿って延びる空間であるため、高さの低い仕切壁15を立設するだけでこの閉空間7を容器部11とダクト部12とに仕切ることができる。そのため、構成をさらに簡素化することができ、部品コスト及び製造コストの低減を図ることができる。
【0036】
さらにここでは、閉空間7が修理道具などを収納するために備えられた収納空間であり、この空間7を吸音構造10の一部として活用するため、騒音を低減するための専用品を設ける場合と比べて部品コスト及び製造コストを低減することができる。また、騒音低減用の専用品を設置するスペースも不要であり、スペース効率を高めることもできる。
【0037】
[3.その他]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0038】
例えば、閉空間7の形状は上記のものに限られない。例えば、
図7(c)に示すように、車両1のラゲッジルーム2の形状に応じて、後端の一方の角部が内側へ凹んだような形状であってもよいし、閉空間7の側壁となる部分が曲面であってもよい。閉空間7は、車両1の車体形状や車載機器の搭載位置などに応じて様々な形状を取ることができ、少なくとも上方をフロア部材6によって覆われることで閉空間として形成されるものであればよい。また、閉空間7に修理道具などの物が収納されている場合であっても、ヘルムホルツ共鳴器として機能しうる程度の空間が残されていれば、上記実施形態と同様の作用,効果を得ることができる。なお、閉空間7が収納空間でなくてもよい。
【0039】
また、開口部13の位置や形状も上記したものに限られない。例えば、開口部13が円形や楕円形等であってもよいし、
図7(a)に示すような側壁に形成されていてもよい。また、
図7(c)に示すように、ダクト部12をフロア部材6よりも車両前方へ突出するように形成し、フロア部材6で覆われない部分を開口部13としてもよい。なお、カバー16は必須ではなく、開口部13が上方を向いていないような場合には省略してもよい。
また、上記のフロア部材6の構造は一例であって、ラゲッジルーム2の下方に閉空間7を形成できるものであればよく、その形状や回動方向は特に限定されない。