特許第6233061号(P6233061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233061
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】品質管理装置、品質管理方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 13/00 20060101AFI20171113BHJP
   H05K 13/08 20060101ALI20171113BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20171113BHJP
   H05K 13/04 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H05K13/00 Z
   H05K13/08 Q
   G05B19/418 Z
   H05K13/04 B
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-15374(P2014-15374)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-142084(P2015-142084A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【弁理士】
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】光田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】森 弘之
(72)【発明者】
【氏名】小倉 克敏
【審査官】 福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/137775(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/065428(WO,A1)
【文献】 特開2009−21348(JP,A)
【文献】 特開2006−339445(JP,A)
【文献】 特開2013−168539(JP,A)
【文献】 特開平7−212098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 13/00−13/08
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産ラインの品質管理を行う品質管理装置であって、
前記生産ラインには、自機の動作の異常を検知するため複数の観測項目についての観測値を監視する機能を有する生産設備と、前記生産設備で処理された製品の検査を行う検査装置とが設けられており、
前記品質管理装置は、
各製品を処理したときに前記生産設備で観測された各観測項目の観測値が記録された観測データを取得する観測データ取得手段と、
前記検査装置によってある製品で不良が検出された場合に、前記観測データを用いて、不良品を処理したときの観測値と良品を処理したときの観測値とを比較することにより、前記不良の要因となり得る前記生産設備の動作の異常が発生しているか判断する不良要因推定手段と、
を有することを特徴とする品質管理装置。
【請求項2】
前記不良要因推定手段は、ある観測項目について、不良品を処理したときの観測値と良品を処理したときの観測値とのあいだに有意な変化が認められた場合に、当該観測項目に関連する前記生産設備の動作の異常が前記不良の要因であると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の品質管理装置。
【請求項3】
前記不良要因推定手段は、不良品を処理したときの観測値が、良品を処理したときの観測値分布の平均から、所定距離より離れていた場合に、当該観測値に有意な変化があるとみなす
ことを特徴とする請求項2に記載の品質管理装置。
【請求項4】
前記所定距離は、良品を処理したときの観測値分布の標準偏差のn倍である
ことを特徴とする請求項3に記載の品質管理装置。
【請求項5】
前記生産設備で発生し得る異常事象と当該異常事象が原因となり発生し得る製品の不良との対応付け、および、前記生産設備で発生し得る異常事象と当該異常事象が発生したときに観測値に変化が現れる観測項目との対応付けを含むテーブルを記憶する記憶手段をさらに有し、
前記不良要因推定手段は、
ある製品で不良が検出された場合に、前記テーブルにて前記不良に対応付けられている前記生産設備の異常事象を、不良要因候補として抽出し、
前記テーブルにて前記不良要因候補たる異常事象に対応付けられている観測項目の観測データを用いて、当該異常事象が前記不良の要因か否かを推定する
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の品質管理装置。
【請求項6】
前記不良要因推定手段は、前記不良の種類を示す情報、前記抽出した不良要因候補を示す情報、及び、前記不良の要因の推定結果を示す情報を出力する
ことを特徴とする請求項5に記載の品質管理装置。
【請求項7】
前記不良要因推定手段は、前記不良が検出された製品を処理したときの観測値と、良品を処理したときの観測値の情報も出力する
ことを特徴とする請求項6に記載の品質管理装置。
【請求項8】
前記不良要因推定手段は、前記不良の要因と推定した異常事象に関し、前記生産設備の異常個所とその異常動作を示す情報を出力する
ことを特徴とする請求項5〜7のうちいずれか1項に記載の品質管理装置。
【請求項9】
前記不良要因推定手段は、前記生産設備の異常個所とその異常動作を示す情報とともに、前記不良の種類を示す情報及び前記不良が検出された製品を示す情報も出力する
ことを特徴とする請求項8に記載の品質管理装置。
【請求項10】
前記生産設備の前記監視する機能は、ある観測項目の観測値が、予め設定される監視基準値により定められる正常範囲から外れた場合に、前記生産設備の動作に異常が生じたと判定する機能であり、
前記品質管理装置は、複数の製品の観測値の分布に基づいて、当該観測値の監視に用いる新たな監視基準値を決定する監視基準設定手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項1〜9のうちいずれか1項に記載の品質管理装置。
【請求項11】
前記監視基準設定手段は、前記新たな監視基準値を出力するか、又は、前記新たな監視基準値を前記生産設備に対し自動で設定するか、又は、前記生産設備の監視基準値の変更許可をユーザから受け付けた後に前記新たな監視基準値を前記生産設備に対し設定する
ことを特徴とする請求項10に記載の品質管理装置。
【請求項12】
前記生産ラインは、プリント基板の表面実装ラインであり、
前記生産設備は、プリント基板の上に電子部品を実装するマウンタである
ことを特徴とする請求項1〜11のうちいずれか1項に記載の品質管理装置。
【請求項13】
生産ラインの品質管理を行う品質管理装置の制御方法であって、
前記生産ラインには、自機の動作の異常を検知するため複数の観測項目についての観測値を監視する機能を有する生産設備と、前記生産設備で処理された製品の検査を行う検査装置とが設けられており、
前記制御方法は、
各製品を処理したときに前記生産設備で観測された各観測項目の観測値が記録された観測データを取得する観測データ取得ステップと、
前記検査装置によってある製品で不良が検出された場合に、前記観測データを用いて、不良品を処理したときの観測値と良品を処理したときの観測値とを比較することにより、前記不良の要因となり得る前記生産設備の動作の異常が発生しているか判断する不良要因推定ステップと、
を有することを特徴とする品質管理装置の制御方法。
【請求項14】
請求項13に記載の品質管理装置の制御方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不良発生の要因または予兆となる生産設備の異常を検知するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動化・省力化が進む生産ラインでは、ラインの中間工程や最終工程に検査装置を設置し、不良の検出や不良品の仕分けなどを自動化しているものがある。また、検査装置の検査結果から不良の要因を推定し、品質管理や生産設備のメンテナンスに活用する試みも採られている。
【0003】
一例としてプリント基板の表面実装ラインに関する従来例を挙げると、特許文献1には、マウント後検査の結果(不良率、マウント位置のバラツキ)を、マウンタ装置のノズル別、カセット別、又は、ノズルとカセットの組み合わせ別に集計し分析することで、問題のあるノズルやカセットの特定に役立てるというアイデアが開示されている。また特許文献2には、リフロー後の最終検査における不良率をマウンタ装置のノズル別に集計することで、品質レベルを低下させているノズルの情報を提示するというアイデアが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−38279号公報
【特許文献2】特開2005−156156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例のように、生産設備が具備する部材(設備部材と呼ぶ)別に不良率などの情報を提示すれば、不具合個所を推定する手がかりになる可能性がある。しかし、この情報から分かるのは、あくまで、その設備部材によって処理された製品に不良が多かったという事実関係だけであり、その不良の直接の原因が本当にその設備部材にあるのかどうかの確証は得られない。マウンタの例でいえば、ノズルやカセット以外の設備部材に原因がある可能性もあるし、はんだ印刷工程やリフロー工程など他のプロセスに原因がある可能性もあるからである。
【0006】
また、仮にその設備部材が不良の原因であったとしても、従来の方法ではその設備部材にどのような異常が生じているのかまでは特定できない。したがって、たとえ不具合箇所が分かったとしても、実際に起きている異常を突き止め、それを解消するための適切な処置を行うには、エキスパートの知識及び経験が不可欠であったり、トライアンドエラーによる調整作業が必要であった。マウンタの例を挙げれば、あるノズルで不良が多発していることが分かったとしても、部品の吸着、移動、位置決め、装着(押し込み)、部品の解放という一連の動作のなかのどこでどのような異常が生じているのかまで特定できなければ、ノズルの交換が必要なのか、ノズルの洗浄や取り付け調整でよいのか、マウンタの実装プログラムの改変で対処すべきなのか、それとも、ノズル以外の設備部材に処置を施すべきなのかといった判断がつけられないのである。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、不良の直接の原因となっている生産設備の異常を具体的に特定し、設備のメンテナンスおよび品質管理を簡易化するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、各製品を処理したときに生産設備で観測された観測値のデータを分析することで、不良の原因となった生産設備の異常を推定する、という構成を採用する。
【0009】
具体的には、本発明に係る品質管理装置は、自機の動作の異常を検知するため複数の観測項目についての観測値を監視する機能を有する生産設備と、前記生産設備で処理された製品の検査を行う検査装置とが設けられている生産ラインの品質管理を行うものであり、各製品を処理したときに前記生産設備で観測された各観測項目の観測値が記録された観測データを取得する観測データ取得手段と、前記検査装置によってある製品で不良が検出された場合に、前記観測データを用いて、不良品を処理したときの観測値と良品を処理したときの観測値とを比較することにより、前記不良の要因となり得る前記生産設備の動作の異常が発生しているか判断する不良要因推定手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、不良品と良品それぞれを処理したときに生産設備で実際に観測された観測データを用いて、不良の要因となり得る生産設備の動作異常が発生しているかを判断するため、検査装置で検出された不良の直接の原因を高い確度で且つ具体的に特定することができる。そして、このように具体的に原因が特定されれば、生産設備のメンテナンスや生産ラインの品質管理が簡易となる。
【0011】
前記不良要因推定手段は、ある観測項目について、不良品を処理したときの観測値と良品を処理したときの観測値とのあいだに有意な変化が認められた場合に、当該観測項目に関連する前記生産設備の動作の異常が前記不良の要因であると判断するとよい。このように、良品の観測値に対する不良品の観測値の変化を評価することで、生産設備の動作異常を高い確度で検出することができる。
【0012】
このとき、前記不良要因推定手段は、不良品を処理したときの観測値が、良品を処理したときの観測値分布の平均から、所定距離より離れていた場合に、当該観測値に有意な変化があるとみなすとよい。このような統計的手法により、簡易な処理で観測値の変化を評価できる。所定距離は、良品を処理したときの観測値分布の標準偏差のn倍(例えば3σ)であるとよい。
【0013】
また、品質管理装置が、前記生産設備で発生し得る異常事象と当該異常事象が原因となり発生し得る製品の不良との対応付け、および、前記生産設備で発生し得る異常事象と当該異常事象が発生したときに観測値に変化が現れる観測項目との対応付けを含むテーブルを記憶する記憶手段をさらに有しているとよい。この場合に、前記不良要因推定手段は、ある製品で不良が検出された場合に、前記テーブルにて前記不良に対応付けられている前記生産設備の異常事象を、不良要因候補として抽出し、前記テーブルにて前記不良要因候補たる異常事象に対応付けられている観測項目の観測データを用いて、当該異常事象が前記不良の要因か否かを推定するとよい。このようなテーブルを用いることで、エキスパート(熟練者)の知識・知見に基づく判断と同等の不良要因推定を装置化(自動化)できる。しかも、テーブル参照だけでよいので、処理の簡易化、処理時間の短縮を図ることもできる。
【0014】
前記不良要因推定手段は、前記不良の種類を示す情報、前記抽出した不良要因候補を示す情報、及び、前記不良の要因の推定結果を示す情報を出力するとよい。また、前記不良要因推定手段は、前記不良が検出された製品を処理したときの観測値と、良品を処理したときの観測値の情報も出力するとなおよい。このような情報を提供することで、ユーザ自身が不良要因の推定処理の過程を確認できるようになり、推定結果に対する納得性を高め
ることができる。
【0015】
前記不良要因推定手段は、前記不良の要因と推定した異常事象に関し、前記生産設備の異常個所とその異常動作を示す情報を出力するとよい。また、前記不良要因推定手段は、前記生産設備の異常個所とその異常動作を示す情報とともに、前記不良の種類を示す情報及び前記不良が検出された製品を示す情報も出力するとさらによい。このような情報をユーザに提供することにより、生産設備のどの個所にどのような異常が発生しているのかを簡単に特定できる。
【0016】
前記生産設備の前記監視する機能は、ある観測項目の観測値が、予め設定される監視基準値により定められる正常範囲から外れた場合に、前記生産設備の動作に異常が生じたと判定する機能である。前記品質管理装置は、複数の製品の観測値の分布に基づいて、当該観測値の監視に用いる新たな監視基準値を決定する監視基準設定手段をさらに有するとよい。この場合も、生産設備で実際に観測された観測データを用いるため、より妥当な監視基準値を設定できると期待できる。
【0017】
前記監視基準設定手段は、前記新たな監視基準値を出力するか、又は、前記新たな監視基準値を前記生産設備に対し自動で設定するか、又は、前記生産設備の監視基準値の変更許可をユーザから受け付けた後に前記新たな監視基準値を前記生産設備に対し設定するとよい。
【0018】
前記生産ラインは、プリント基板の表面実装ラインであり、前記生産設備は、プリント基板の上に電子部品を実装するマウンタであることが好ましい。表面実装ラインの生産設備、なかでもマウンタは、ノズル、ヘッド、フィーダ、カメラ、ポンプ、ステージなどの複数種の設備部材が様々な動作を行うため、不良の原因がどの設備部材のどの動作の異常にあるのか特定するのは容易でないからである。
【0019】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を含む品質管理装置として捉えることができる。また、本発明は、品質管理装置の制御方法や、その方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムや、当該プログラムを非一時的に記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体として捉えることもできる。上記構成および処理の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、不良の直接の原因となっている生産設備の異常を具体的に特定し、設備のメンテナンスおよび品質管理を簡易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】表面実装ラインにおける生産設備および品質管理システムの構成を示す図。
図2】本実施形態にかかるマウンタの構成を示す模式図。
図3】マウンタによる部品実装処理の流れを示すフローチャート。
図4】実装プログラムに含まれる部品リスト(実装条件)の一例。
図5】マウンタで検知される異常とその是正方法を対応付けたテーブル。
図6】分析装置の機能ブロック図。
図7】分析装置による不良要因の推定処理の流れを示すフローチャート。
図8】検査データの一例。
図9】観測データの一例。
図10】マウンタ異常−検査不良テーブルの一例。
図11】マウンタ異常−観測項目テーブルの一例。
図12】要因リストの一例。
図13】分析装置による監視基準値の設定処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0023】
<システム構成>
図1は、プリント基板の表面実装ラインにおける生産設備及び品質管理システムの構成例を模式的に示している。表面実装(Surface Mount Technology:SMT)とはプリント基板の表面に電子部品をはんだ付けする技術であり、表面実装ラインは、主として、はんだ印刷〜部品のマウント〜リフロー(はんだの溶着)の三つの工程から構成される。
【0024】
図1に示すように、表面実装ラインでは、生産設備として、上流側から順に、はんだ印刷装置X1、マウンタX2、リフロー炉X3が設けられる。はんだ印刷装置X1は、スクリーン印刷によってプリント基板上の電極部(ランドと呼ばれる)にペースト状のはんだを印刷する装置である。マウンタX2は、基板に実装すべき電子部品をピックアップし、該当箇所のはんだペーストの上に部品を載置するための装置であり、チップマウンタとも呼ばれる。リフロー炉X3は、はんだペーストを加熱溶融した後、冷却を行い、電子部品を基板上にはんだ接合するための加熱装置である。これらの生産設備X1〜X3は、ネットワーク(LAN)を介して生産設備管理装置X4に接続されている。生産設備管理装置X4は、生産設備X1〜X3の管理や統括制御を担うシステムであり、各生産設備の動作を定義する実装プログラム(動作手順、製造条件、設定パラメータなどを含む)、各生産設備のログデータなどを記憶、管理、出力する機能などを有している。また、生産設備管理装置X4は、作業者又は他の装置から実装プログラムの変更指示を受け付けると、該当する生産設備に設定されている実装プログラムの更新処理を行う機能も有する。
【0025】
また、表面実装ラインには、はんだ印刷〜部品のマウント〜リフローの各工程の出口で基板の状態を検査し、不良あるいは不良のおそれを自動で検出する、品質管理システムYが設置されている。品質管理システムYは、良品と不良品の自動仕分けの他、検査結果やその分析結果に基づき各生産設備の動作にフィードバックする機能(例えば、実装プログラムの変更など)も有している。図1に示すように、本実施形態の品質管理システムYは、はんだ印刷検査装置Y1、部品検査装置Y2、外観検査装置Y3、X線検査装置Y4の4種類の検査装置と、検査管理装置Y5、分析装置Y6、作業端末Y7などから構成される。
【0026】
はんだ印刷検査装置Y1は、はんだ印刷装置X1から搬出された基板に対し、はんだペーストの印刷状態を検査するための装置である。はんだ印刷検査装置Y1では、基板上に印刷されたはんだペーストを2次元ないし3次元的に計測し、その計測結果から各種の検査項目について正常値(許容範囲)か否かの判定を行う。検査項目としては、例えば、はんだの体積・面積・高さ・位置ずれ・形状などがある。はんだペーストの2次元計測には、イメージセンサ(カメラ)などを用いることができ、3次元計測には、レーザ変位計や、位相シフト法、空間コード化法、光切断法などを利用することができる。
【0027】
部品検査装置Y2は、マウンタX2から搬出された基板に対し、電子部品の配置状態を検査するための装置である。部品検査装置Y2では、はんだペーストの上に載置された部品(部品本体、電極(リード)など部品の一部でもよい)を2次元ないし3次元的に計測し、その計測結果から各種の検査項目について正常値(許容範囲)か否かの判定を行う。検査項目としては、例えば、部品の位置ずれ、角度(回転)ずれ、欠品(部品が配置され
ていないこと)、部品違い(異なる部品が配置されていること)、極性違い(部品側と基板側の電極の極性が異なること)、表裏反転(部品が裏向きに配置されていること)、部品高さなどがある。はんだ印刷検査と同様、電子部品の2次元計測には、イメージセンサ(カメラ)などを用いることができ、3次元計測には、レーザ変位計や、位相シフト法、空間コード化法、光切断法などを利用することができる。
【0028】
外観検査装置Y3は、リフロー炉X3から搬出された基板に対し、はんだ付けの状態を検査するための装置である。外観検査装置Y3では、リフロー後のはんだ部分を2次元ないし3次元的に計測し、その計測結果から各種の検査項目について正常値(許容範囲)か否かの判定を行う。検査項目としては、部品検査と同じ項目に加え、はんだフィレット形状の良否なども含まれる。はんだの形状計測には、上述したレーザ変位計、位相シフト法、空間コード化法、光切断法などの他、いわゆるカラーハイライト方式(R、G、Bの照明を異なる入射角ではんだ面に当て、各色の反射光を天頂カメラで撮影することで、はんだの3次元形状を2次元の色相情報として検出する方法)を用いることができる。
【0029】
X線検査装置Y4は、X線像を用いて基板のはんだ付けの状態を検査するための装置である。例えば、BGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)などのパッケージ部品や多層基板の場合には、はんだ接合部が部品や基板の下に隠れているため、外観検査装置Y3では(つまり外観画像では)はんだの状態を検査することができない。X線検査装置Y4は、このような外観検査の弱点を補完するための装置である。X線検査装置Y4の検査項目としては、例えば、部品の位置ずれ、はんだ高さ、はんだ体積、はんだボール径、バックフィレットの長さ、はんだ接合の良否などがある。なお、X線像としては、X線透過画像を用いてもよいし、CT(Computed Tomography)画像を用いることも好
ましい。
【0030】
これらの検査装置Y1〜Y4は、ネットワーク(LAN)を介して検査管理装置Y5に接続されている。検査管理装置Y5は、検査装置Y1〜Y4の管理や統括制御を担うシステムであり、各検査装置Y1〜Y4の動作を定義する検査プログラム(検査手順、検査条件、設定パラメータなど)や、各検査装置Y1〜Y4で得られた検査結果やログデータなどを記憶、管理、出力する機能などを有している。
【0031】
分析装置Y6は、検査管理装置Y5に集約された各検査装置Y1〜Y4の検査結果(各工程の検査結果)を分析することで、不良の予測、不良の要因推定などを行う機能や、必要に応じて各生産設備X1〜X3へのフィードバック(実装プログラムの変更など)を行う機能などを有するシステムである。
【0032】
作業端末Y7は、生産設備X1〜X3の状態、各検査装置Y1〜Y4の検査結果、分析装置Y6の分析結果などの情報を表示する機能、生産設備管理装置X4や検査管理装置Y5に対し実装プログラムや検査プログラムの変更(編集)を行う機能、表面実装ライン全体の動作状況を確認する機能などを有するシステムである。
【0033】
生産設備管理装置X4、検査管理装置Y5、分析装置Y6はいずれも、CPU(中央演算処理装置)、主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置(ハードディスクなど)、入力装置(キーボード、マウス、コントローラ、タッチパネルなど)、表示装置などを具備する汎用的なコンピュータシステムにより構成可能である。これらの装置X4、Y5、Y6は別々の装置としてもよいが、一つのコンピュータシステムにこれらの装置X4、Y5、Y6の全ての機能を実装することも可能であるし、生産設備X1〜X3や検査装置Y1〜Y4のいずれかの装置が具備するコンピュータに、これらの装置X4、Y5、Y6の機能の全部又は一部を実装することも可能である。また、図1では、生産設備と品質管理システムのネットワークを分けているが、相互にデータ通信が可能であればどのような構成のネッ
トワークを用いてもよい。
【0034】
<マウンタ>
図2を参照して、本実施形態のマウンタX2の構成をより詳細に説明する。図2は、マウンタが具備する設備部材の構成を示す模式図である。
【0035】
マウンタX2は、基板Bを載置するステージ20、電子部品Pを供給する複数のフィーダ21、電子部品Pをピックアップする可動式のヘッド22、ヘッド22に取り付けられた複数のノズル23、各ノズルのエア圧を制御する真空ポンプ24などを備えている。各列のフィーダ21には異なる品番の部品Pがセットされている。また、マウンタX2は、自機の動作の異常を検知するための観測系として、上カメラ25、下カメラ26、ノズル端面の接触圧を計測する接触センサ27、ノズルのエア圧を計測する圧力センサ28などを備えている。制御部29は、マウンタX2の各部の制御、演算、情報処理を担うブロックであり、CPU(中央演算処理装置)、メモリなどを備えている。
【0036】
図3は、マウンタX2による部品実装処理の流れを示すフローチャートである。
【0037】
まず、制御部29はステージ20を制御して、対象となる基板Bを搬入し、所定の位置に位置決めする(ステップS30)。そして、上カメラ25で基板Bを撮影し、制御部29が基板Bの画像から基板Bに印字又は貼付されている基板IDを読み取る(ステップS31)。
【0038】
次に、制御部29は、基板Bに対応する実装プログラムを読み込む(ステップS32)。図4は、実装プログラムに含まれる部品のリストの一例である。リストの各行が一つの部品の実装条件を表している。実装条件には、部品の装着先となる基板上の回路番号、部品の品番、部品を供給するフィーダ21のID、部品のピックアップに使用するノズル23のID、部品の装着位置のX座標およびY座標、部品を装着するときの回転角度、部品の高さなどの情報が定義されている。実装プログラムには、図4に示すリストの他、マウンタX2の動作手順、動作の異常判定に用いる監視基準、各種設定パラメータなどが含まれている。
【0039】
以下、リストの1行目に記載された部品を例にとり、マウンタX2による一連の実装シーケンスを説明する。
【0040】
(1)部品送り
制御部29が、ID:1のフィーダ21を制御し、品番:AAAAの部品を所定の部品吸着位置まで送る(ステップS33)。
【0041】
(2)部品吸着
制御部29が、ヘッド22を制御して、ID:1のノズル23を部品吸着位置に移動した後、そのノズル23の先端が部品上面に接触するまで下降させる(ステップS34)。ノズル先端と部品との接触は、ID:1のノズル23に設けられた接触センサ27の出力(接触圧)により検知する。
【0042】
続いて、制御部29は真空ポンプ24を制御して、ID:1のノズル23のエア圧を下げ、部品を吸着する(ステップS35)。このとき、制御部29は、ID:1のノズル23に設けられた圧力センサ28により吸着真空圧を観測し、吸着真空圧が監視基準値よりも低いかチェックする(ステップS36)。吸着真空圧が監視基準値より低い(正常)場合は、吸着真空圧の観測値をメモリに記録して次の処理に進むが、吸着真空圧が監視基準値を超える(異常)の場合は、実装処理を中断し例外処理を実行する。吸着ミスや吸着不
足による不良の発生を未然に防ぐためである。例外処理の詳細は後述する。
【0043】
(3)部品認識
制御部29が、ヘッド22を制御して部品を下カメラ26の上方まで移動し、部品の下面を下カメラ26によって撮影する(ステップS37)。
【0044】
そして、制御部29は、画像認識処理によって、ノズル23に吸着されている部品が品番:AAAAの部品であるかをチェックする(ステップS38)。具体的には、画像内の部品の外形を認識し、予めメモリに登録されている品番:AAAAの部品のモデルデータと比較することで部品一致率を計算し、部品一致率が監視基準値より高い(正常)か否かで同一部品か否かの判定を行う。同一部品と判定された場合は部品一致率の値をメモリに記録して次の処理に進み、そうでない場合(異常)には実装処理を中断し例外処理を実行する。異種部品の装着を防ぐためである。例外処理の詳細は後述する。
【0045】
また、制御部29は、画像認識処理によって、ノズル23に吸着されている部品の位置および姿勢をチェックする(ステップS39)。例えばフィーダの歪みなどが原因で、部品吸着時にノズル23が部品の中心からずれていたりすると、部品に位置ずれや回転ずれが生じる。これらのずれ量を部品装着時に補正するため、ステップS39において位置ずれ量(X、Y)および回転ずれ量(θ)を計算するのである。なお、位置ずれ量や回転ずれ量が監視基準値より小さい(正常)場合は位置ずれ量および回転ずれ量の値をメモリに記録して次の処理に進み、そうでない場合(異常)には実装処理を中断し例外処理を実行する。ずれ量があまりに大きい場合は、フィーダ等に異常が生じている蓋然性が高いからである。例外処理の詳細は後述する。
【0046】
(4)部品装着
制御部29は、ヘッド22を制御して、実装条件で与えられた部品装着位置および角度(X:10000μm、Y:10000μm、θ:0度)にしたがって部品を移動・回転させる(ステップS40)。このとき、ステップS39で求めた位置ずれ量および回転ずれ量の補正も行う。
【0047】
次に、制御部29は、ノズル23の先端と基板上面の間隔が実装条件で与えられた部品高さ(h:300μm)に一致するまで、ヘッド22を下降させる(ステップS41)。このとき、制御部29は、ヘッド22を下降させつつ接触センサ27の出力を観測することで、部品の下面がはんだに接触した時点の高さを検知するとともに、その高さからの部品の押し込み量を観測する(ステップS42)。なお、押し込み量が監視基準値で定義される正常範囲に収まっている場合は押し込み量の値をメモリに記録して次の処理に進み、そうでない場合(異常)には実装処理を中断し例外処理を実行する。押し込み量が不適切な場合は、リフロー時に不良が発生するおそれがあるからである。例外処理の詳細は後述する。
【0048】
ヘッド22が所定の高さまで下降したら、制御部29は真空ポンプ24を制御して、ノズル23のエア圧を上げ、部品をノズル23から解放する(ステップS43)。このとき制御部29は、圧力センサ28により装着空気圧を観測し、装着空気圧が監視基準値(下限)と監視基準値(上限)のあいだの正常範囲に収まっているかチェックする(ステップS44)。装着空気圧が正常範囲の場合は、その観測値をメモリに記録して次の処理に進むが、正常範囲を外れている場合は、実装処理を中断し例外処理を実行する。装着空気圧過多により部品ずれを招いたり、装着空気圧不足により部品がノズルから離れなかったりする可能性があるからである。例外処理の詳細は後述する。
【0049】
(5)持ち帰り確認
部品装着後、制御部29はノズル23を下カメラ26の上方まで移動し、下カメラ26による撮影を行い(ステップS45)、画像認識処理によってノズル23に部品が付着したままになっていないかをチェックする(ステップS46)。もし部品が付着していた場合には、実装処理を中断し例外処理を実行する。部品の付着がなければ、制御部29はヘッド22を開始位置まで復帰し、次の部品に対する処理(ステップS33〜S46)を繰り返す(ステップS47)。なお、本実施形態では1つの部品の実装シーケンスを説明したが、複数のノズルのそれぞれで異なる部品をピックアップし複数の部品を一回のシーケンスで実装することもできる。
【0050】
部品実装処理のあいだに観測し記録された観測値のデータは、例えば、一つの部品に対する処理が終了したタイミング、一つの基板に対する処理が終了したタイミング、一定の時間間隔などの所定のタイミングで、生産設備管理装置X4にログデータとして保存される。
【0051】
<自己診断機能>
前述のように、本実施形態のマウンタX2は、カメラやセンサなどの観測系を用いて自機の動作を常に監視し、観測値が予め定められた監視基準値を外れた場合に(つまり動作に異常が認められた場合に)実装処理を中断し、所定の例外処理を実行する、という自己診断機能を有している。
【0052】
図5は、マウンタX2で検知される異常とその是正方法を対応付けたテーブルである。このテーブルは、生産設備管理装置X4から与えられるか、制御部29のメモリに予め記憶されている。テーブルには、マウンタX2の設備部材・動作・観測項目の組み合わせごとに是正方法が対応付けられている。なお、図5の例では、さらに異常の原因も対応付けられているが、この情報は省略しても構わない。
【0053】
例えば、図3のステップS36において、ID:nのノズル23の吸着真空圧が監視基準値を超えていたとする。このような異常は部品の吸着ミスや吸着不足を生じ、部品の落下、部品ずれ、欠品などの不良につながる蓋然性が高い。吸着真空圧が増加する原因として最も多いのは、ノズル先端の摩耗によりノズルと部品のあいだに隙間があくことであるが、これを解消するための是正方法としては、ID:nのノズルの交換が適当である。そこで、制御部29は、例外処理として、「n番目のノズルが摩耗していますので、新しいノズルに交換してください。」といったメッセージを出力し、オペレータに異常の原因とその対処を通知する。これにより熟練者でなくても、迅速かつ適切なメンテナンスが可能となる。なお、メッセージの出力は、マウンタX2から行ってもよいし、生産設備管理装置X4や分析装置Y6や作業端末Y7などの他の装置から行ってもよい。メッセージの出力方法は、モニタへの表示、プリンタへの印刷、スピーカへの音声出力、メール送信などどのような方法でもよい。
【0054】
<分析装置>
次に、分析装置Y6による不良要因の推定処理と監視基準値の設定処理について説明する。不良要因の推定処理は、検査装置で不良が検出された場合に、その不良の直接の原因となっている生産設備の異常を具体的に特定するための処理である。また、監視基準値の設定処理は、検査装置の検査結果に基づいて、生産設備の自己診断機能で用いる監視基準値をより良い値に追い込むための処理である。以下、検査結果をマウンタX2の異常特定や監視基準値の更新に利用する例について説明する。
【0055】
図6は、分析装置Y6の機能ブロック図である。分析装置Y6は、検査データ取得部60、観測データ取得部61、不良要因推定部62、テーブル記憶部63、監視基準設定部64などの機能を有している。これらの機能は、分析装置Y6(のCPU)がコンピュー
タプログラムを実行することにより実現されるものである。なお、図6では、分析装置Y6が有する機能のうち、不良要因の推定処理と監視基準値の設定処理に関する機能だけを示しており、他の機能については省略している。
【0056】
(1)不良要因の推定処理
図7は、分析装置Y6による不良要因の推定処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、所定の開始条件に合致したとき(例えば、不良判定された部品数が規定値を上回ったとき、不良率が規定値を上回ったとき、オペレータが開始命令を入力したときなど)に実行される。
【0057】
まず、検査データ取得部60が、検査装置で得られた検査結果のデータ(検査データと呼ぶ)を取得する(ステップS70)。検査データ取得部60は、各検査装置Y1〜Y4から検査データを直接取得してもよいし、検査管理装置Y5に集約された検査データを読み込んでもよい。蓄積されているすべての検査データを読み込んでもよいし、一部の検査データのみ(例えば、前回の処理以降に蓄積されたデータのみ、オペレータが指定した期間のデータのみなど)を読み込んでもよい。なお、検査データには、はんだ印刷検査装置Y1による印刷後検査の結果、部品検査装置Y2による実装後検査の結果、外観検査装置Y3およびX線検査装置Y4によるリフロー後検査の結果が含まれるが、本実施形態では、マウンタX2の異常有無を判断するため、実装後検査とリフロー後検査の検査データのみ用いる。
【0058】
図8に検査データの一例を示す。検査データには、基板ID、部品品番、回路番号などの「基板・部品情報」と、検査工程情報、検査装置IDなどの「検査装置情報」と、複数の検査項目に関する「検査結果・計測値情報」とが含まれている。検査結果・計測値情報は、検査において部品から計測した指標である計測値と、その計測値に基づきOK(良)/NG(不良)を判定した結果である検査結果とのペアである。
【0059】
次に、観測データ取得部61が、マウンタX2で観測された観測値のデータ(観測データと呼ぶ)を取得する(ステップS71)。観測データ取得部61は、マウンタX2から観測データを直接取得してもよいし、生産設備管理装置X4に集約された観測データを取得してもよい。このとき、ステップS70で取得した検査データと同じ基板・部品のすべての観測データが取得される。
【0060】
図9に観測データの一例を示す。観測データには、基板ID、部品品番、回路番号などの「基板・部品情報」と、ヘッドID、ノズルID、フィーダIDなどの「マウンタ情報」と、吸着真空圧、部品一致率、吸着位置ずれ量(X)、吸着位置ずれ量(Y)、吸着回転ずれ量(θ)、押し込み量、装着空気圧などの「マウンタ観測値情報」とが含まれている。
【0061】
次に、不良要因推定部62が、検査データのなかから不良判定された部品(不良品と呼ぶ)のデータを取得する(ステップS72)。取得した複数の不良品のデータのなかに、回路番号の異なる部品のデータが含まれていた場合には、以降の処理を回路番号ごとに実行すればよい。本実施形態では、回路番号の同じいくつかの部品で「部品ずれ」不良が検出されたものと仮定して、以降の説明を行う。
【0062】
続いて、不良要因推定部62は、テーブル記憶部63に格納されている「マウンタ異常−検査不良テーブル」を参照し、ステップS72で検出された不良(部品ずれ)の原因になり得るマウンタX2の異常事象を、不良要因候補E1〜Enとして選択する(ステップS73)。マウンタ異常−検査不良テーブルとは、マウンタX2で発生し得る異常事象と当該異常事象が原因となり発生し得る製品の不良との対応付けを定義したテーブル(知識
ベース)である。ここでは図10に示すように、マウンタX2の異常事象を「設備部材種」と「動作」と「異常内容」の組で定義し、異常事象のそれぞれに対し不良の種類(検査項目の名称)を対応付けている。一つの異常事象に複数種類の不良が対応付けられていてもよい。本実施形態の場合、「部品ずれ」に対応する不良要因候補として、「ノズルの吸着動作における吸着位置ずれ」、「ノズルの装着動作における装着時供給圧力過多」、…、「カメラの認識動作におけるカメラ不良」など複数の異常事象が抽出される。なお、マウンタ異常−検査不良テーブルの中にステップS72で検出された不良に該当するものが無ければ、当該不良の原因はマウンタX2にはないとみなせるので、処理を終了する(ステップS74)。
【0063】
変数xを1で初期化した後(ステップS75)、各不良要因候補Ex(x=1〜n)について以下の処理を行う。
【0064】
まず、不良要因推定部62は、テーブル記憶部63に格納されている「マウンタ異常−観測項目テーブル」を参照し、不良要因候補Exに対応する観測項目と観測値の増減方向を確認する(ステップS76)。マウンタ異常−観測項目テーブルとは、マウンタX2で発生し得る異常事象と当該異常事象が発生したときに観測値に変化(増加又は減少)が現れる観測項目との対応付けを定義したテーブル(知識ベース)である。ここでは図11に示すように、マウンタX2の異常事象を「設備部材種」と「動作」と「異常内容」の組で定義し、異常事象のそれぞれに対し観測項目と観測値の増減方向を対応付けている。例えば、不良要因候補E2である「ノズルの装着動作における装着時供給圧力過多」という異常事象に対しては、「装着空気圧の増加」という観測値の異常がみられることが分かる。なお、図10図11の二つのテーブルは一つにまとめてもよい。
【0065】
次に、不良要因推定部62は、観測データのなかから、不良要因候補Exに対応する観測項目の観測値を抽出する。このとき、不良品を実装したときの観測値(以下、単に「不良品の観測値」と記す)だけでなく、不良品と品番が同じで、且つ、同じ設備部材により処理された良品を実装したときの観測値(以下、単に「良品の観測値」と記す)も抽出する(ステップS77)。そして、不良要因推定部62は、抽出した良品の観測値と不良品の観測値とを比較し、両者のあいだで有意な変化が認められるか評価する(ステップS78)。有意な変化が認められる場合、つまり不良品の観測値に異常が認められる場合は(ステップS78;YES)、不良要因候補Exが不良要因(の一つ)であると判断し要因リストに追加する(ステップS79)。一方、有意な変化が認められない場合は(ステップS78;NO)、不良要因候補Exは不良要因でないと判断する。
【0066】
良品の観測値と不良品の観測値のあいだに有意な変化があるか否かを判定する方法はどのようなものでもよいが、例えば、不良品の観測値が良品の観測値分布の平均から所定距離より離れていた場合に、当該観測値に有意な変化があったとみなせばよい。判定に用いる「所定距離」は任意に設定可能であるが、例えば、良品の観測値分布の標準偏差σのn倍(nの値は要求される品質基準に応じて決める)を用いるとよい。このような統計的手法を用いれば、簡易な処理で、良品の観測値分布に対する不良品の観測値の変化を評価できるからである。
【0067】
本実施形態では、3σによる判定を行う。すなわち、複数の良品の観測値を用いて、その平均Aと標準偏差σを計算する。そして、以下の条件に合致する不良品の観測値vが一つでも存在した場合に、良品の観測値と不良品の観測値のあいだに有意な変化があるとみなす。
【0068】
・増減の方向が「増加」の場合: v>A+3σ
・増減の方向が「減少」の場合: v<A−3σ
なお、テーブルで定義された増減の方向とは逆方向に観測値が変化しているときには、そのような変化は(マウンタの異常とは関係がないとして)無視すればよい。
【0069】
xをインクリメントしてステップS76〜S79を繰り返し、すべての不良要因候補E1〜Enの分析を終えたら、処理を終了する(ステップS80、S81)。
【0070】
以上の処理によって、不良の直接の原因と考えられるマウンタX2の異常事象を記した要因リストが生成される。図12は、要因リストの一例である。この例では、「ノズルの装着動作における装着時供給圧力過多」という異常事象が不良要因として特定されていることが分かる。また要因リストには、不良の種類、不良品の基板・部品情報、異常が認められた設備部材のID、異常が認められた観測値なども記録される。このように不良要因が特定されれば、例えば「不良(部品ずれ)の原因は、マウンタのn番目のノズルの装着時の供給圧力過多にあります。」のようなメッセージをモニタに表示する等して、異常個所(異常の生じた設備部材)と異常動作を具体的に特定した情報をオペレータに提供することができる。さらには図5のテーブルを参照することで、「不良(部品ずれ)の原因は、マウンタのn番目のノズルの装着時の供給圧力過多にあります。ノズルが摩耗していますので、新しいノズルに交換してください。」のようなメッセージをモニタに表示する等して、異常の是正方法をオペレータに通知することも可能である。これにより熟練者でなくても、迅速かつ適切なメンテナンスが可能となる。なお、メッセージの出力は、分析装置Y6が具備するモニタから行ってもよいし、作業端末Y7などの他の装置が具備するモニタ等から行ってもよい。また、モニタへの表示に限られず、例えば、プリンタへの印刷、スピーカへの音声出力、メール送信などの方法でもよい。
【0071】
また、不良要因推定部62は、ステップS72で検出された不良の種類、ステップS73で抽出した不良要因候補E1〜Enの一覧、ステップS79で特定された不良要因(推定結果)などの情報を出力することも好ましい。このときさらに、ステップS77で抽出した良品の観測値の情報(観測値分布、平均、分散など)と不良品の観測値の情報、良品と不良品の観測値の差異を示す情報などを出力してもよい。このような情報をユーザに対し提供することで、ユーザ自身が不良要因の推定処理の過程を確認できるようになり、推定結果に対する納得性を高めることができる。この場合の情報の出力方法についても、モニタへの表示、プリンタへの印刷、スピーカへの音声出力、メール送信などどのような方法を用いてもよい。
【0072】
(2)監視基準値の設定処理
図13は、分析装置Y6による監視基準値の設定処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、所定の開始条件に合致したとき(例えば、不良判定された部品数が規定値を上回ったとき、不良率が規定値を上回ったとき、オペレータが開始命令を入力したときなど)に実行される。
【0073】
まず、検査データ取得部60によって検査データが取得され(ステップS130)、観測データ取得部61によって観測データが取得される(ステップS131)。ここまでの処理は、図7のステップS70、S71と同じである。
【0074】
次に、監視基準設定部64がマウンタX2の実装プログラムを読み込む(ステップS132)。そして、監視基準設定部64は、実装プログラムに含まれる部品のリスト(図4)と、テーブル記憶部63内の「マウンタ異常−観測項目テーブル」とを参照し、部品種(品番)と設備部材と観測項目と観測値の増減方向の全通りの組み合わせC1〜Cnを生成する(ステップS133)。例えば、「品番:AAAA+ID:1のノズル+吸着真空圧+増加」、「品番:AAAA+ID:1のノズル+部品位置ずれ量+増加」、「品番:AAAA+ID:1のフィーダ+部品一致率+減少」などの組み合わせが得られる。この
組み合わせ毎に監視基準値が設定される。
【0075】
変数xを1で初期化した後(ステップS134)、各組み合わせCx(x=1〜n)について以下の処理を行う。
【0076】
まず、監視基準設定部64は、観測データのなかから、組み合わせCxに該当する部品の観測値を抽出する(ステップS135)。例えば、Cx=「品番:AAAA+ID:1のノズル+吸着真空圧+増加」の場合には、品番:AAAAの部品をID:1のノズルで吸着したときに観測された吸着真空圧の値が抽出される。
【0077】
次に、監視基準設定部64は、ステップS135で抽出された該当部品の観測値の平均Aと標準偏差σを計算する(ステップS136)。このとき、該当部品のなかに不良品が存在する場合には、不良品の観測値を除外し、良品の観測値だけを用いて(つまり良品分布の)平均Aと標準偏差σを計算する。
【0078】
以降の処理は、該当部品のなかに不良品が存在するか否かで異なる(ステップS137)。
【0079】
(不良品が存在する場合)
監視基準設定部64は、不良品の観測値と良品の観測値とを比較し、不良品の観測値に異常が認められるか評価する(ステップS138)。このときの異常判定は、図7のステップS78と同じ方法を用いることができる。すなわち、不良品の観測値vが下記の条件を満たす場合に、異常値と判定する。
・増減の方向が「増加」の場合: v>A+3σ
・増減の方向が「減少」の場合: v<A−3σ
【0080】
観測値vが異常値と判定された場合には、その観測値vを当該観測項目の新たな監視基準値に決定する(ステップS139)。なお、異常値と判定された観測値vが複数存在する場合には、良品分布の平均Aに最も近い異常観測値vを監視基準値とすればよい。ステップS138で異常値が検出されなかった場合は、ステップS140へ進む。
【0081】
(不良品が存在しない場合)
監視基準設定部64は、良品分布の3σを監視基準値とする。すなわち、組み合わせCxで定義された増減方向が「増加」である場合(ステップS140;増加)、A+3σの値を監視基準値とし(ステップS141)、増減方向が「減少」である場合(ステップS140;減少)、A−3σの値を監視基準値とする(ステップS142)。
【0082】
xをインクリメントしてステップS135〜S142を繰り返し、すべての組み合わせC1〜Cnに対して監視基準値を決定したら、処理を終了する(ステップS143、S144)。
【0083】
以上の方法により、マウンタX2の観測データと各検査装置の検査データに基づき、適切な監視基準値が決定される。監視基準設定部64は、決定した監視基準値の情報を分析装置Y6又は作業端末Y7のモニタに出力して、オペレータにマウンタX2の実装プログラムの修正を促してもよいし、マウンタX2又は生産設備管理装置X4に格納された実装プログラムを自動で設定(書き換え)してもよい。なお、実装プログラムの設定(書き換え)を行う前に、分析装置Y6又は作業端末Y7などのモニタに「監視基準値を更新しますか?」と表示するなどして、オペレータに更新の可否を問い合わせ、監視基準値の変更許可を受け付けた上で実装プログラムの設定処理を実行することが好ましい。以上の方法により、熟練者でなくても、マウンタX2の自動診断機能で利用される監視基準値をより
適切な値に更新することができ、異常の「見過ぎ」や「見逃し」を極力少なくすることができる。なお、情報の出力方法は、モニタへの表示に限られず、例えば、プリンタへの印刷、スピーカへの音声出力、メール送信などの方法でもよい。
【0084】
<本実施形態の利点>
上述した本実施形態の構成によれば、不良品と良品それぞれを処理したときにマウンタで実際に観測された観測データを用いて、不良の要因となり得るマウンタの動作の異常が発生しているかを判断するため、検査装置で検出された不良の直接の原因を高い確度で且つ具体的に特定することができる。そして、具体的に原因が特定されるため、マウンタのメンテナンスや品質管理が簡易となる。
【0085】
また本実施形態では、図10図11に示すようなテーブルを用いることで、エキスパート(熟練者)の知識・知見に基づく判断と同等の不良要因推定を、装置化(自動化)できる。しかも、テーブル参照だけでよいので、処理の簡易化、処理時間の短縮を図ることもできる。
【0086】
また、観測データを用いて各観測項目の監視基準値を更新する機能を設けたので、見過ぎや見落としの少ない、より妥当な監視基準値に自動で追い込むことができると期待できる。
【0087】
<その他>
上記の実施形態の説明は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0088】
例えば上記実施形態では、分析装置Y6により、マウンタX2の異常特定や監視基準値の更新を行う処理を例示したが、本発明の方法は、はんだ印刷装置X1やリフロー炉X3などの他の生産設備の異常特定や監視基準値の更新にも適用可能である。さらには、本発明の方法は、表面実装ラインに限らず、生産設備と検査装置を含む生産ラインであればどのような種類の生産ラインの品質管理にも好ましく適用することができる。
【0089】
また上記実施形態の監視基準設定部64は、組み合わせCxに該当する部品の中に不良品が存在しないときは、A+3σ又はA−3σを監視基準値に設定したが、他の方法により監視基準値を求めてもよい。例えば、Cxに該当する複数の部品について、観測値と計測値(当該部品の検査で計測された値)の相関分析を行い、予め定めた検査基準(例えば計測値分布における出現確率がm%)に対応する観測値を、新たな監視基準値に設定してもよい。
【符号の説明】
【0090】
20:ステージ、21:フィーダ、22:ヘッド、23:ノズル、24:真空ポンプ、25:上カメラ、26:下カメラ、27:接触センサ、28:圧力センサ、29:制御部
60:検査データ取得部、61:観測データ取得部、62:不良要因推定部、63:テーブル記憶部、64:監視基準設定部
B:基板、P:電子部品
X1:はんだ印刷装置、X2:マウンタ、X3:リフロー炉、X4:生産設備管理装置
Y1:印刷検査装置、Y2:部品検査装置、Y3:外観検査装置、Y4:X線検査装置、Y5:検査管理装置、Y6:分析装置、Y7:作業端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13