【実施例1】
【0040】
図1、
図2、
図3および
図4は、この発明に係る第1実施例の半導体装置の検査装置100の説明図であり、
図1は要部構成図、
図2は要部回路図、
図3は三極電極部の要部断面図、
図4は
図3の三極電極部の拡大図である。ここでは供試品(被試験品)である半導体装置をMOSFETで示したがIGBTの場合もある。また、この検査装置100は、半導体装置のサージ電圧耐量(イグナイタの火花放電耐量)を高精度で検査できる装置である。
【0041】
図1において、この検査装置100は、バッテリーなどの電源1と、この電源1の高電位側(正極)に一次コイル2の一端が接続するトランス3(昇圧変圧器)とを備える。トランス3の一次コイル2の他端に接続する高電位側プローブ6と、グランド(GND)に接続するグランド側プローブ8と、MOSFET4のゲート端子9に接続するゲートプローブ9aを備える。高電位側プローブ6は破線で示したMOSFET4のドレイン端子5(高電位側端子)に接続し、グランド側プローブ8は破線で示したMOSFET4のソース端子7(低電位側端子)に接続する。
【0042】
検査装置100はまた、ゲートプローブ9aおよびグランド側プローブ8を介してMOSFET4のゲート端子9(制御端子)およびソース端子7に接続する制御回路11と、MOSFET4を載置する支持台10を備える。これらのプローブ6,8,9aは測子とも呼ばれている。トランス3の一次コイル2の一端にアノード12が接続し、二次コイル13の一端にカソード14が接続するダイオード15を備える。トランス3の二次コイル13の他端に高電位側放電プラグ16と、この高電位側放電プラグ16に接続する第1主電極17を備える。GNDに接続するグランド側放電プラグ18と、グランド側放電プラグ18に接続する第2主電極19を備える。第1主電極17に隣接して配置され、第1主電極17と静電容量Cを介して接続する補助電極20(浮遊電位電極)を備える。電極17,19,20間の放電時に発生するオゾンや放電で発生する物質(金属粉など)を除去するために排気ファンや真空ポンプなどの吸引機21を備える。各電極17,19,20を固定する樹脂製支持体22を備える。各電極17,19,20を収納し、側壁に吸引口23を、底面に開口部24を設けるとともに、吸引口23から入る込む気流25を開口部24から排気する吸引機21を設置した放電箱26を備える。尚、電源1の高電位側とトランス3の一次コイル2を接続する配線には、図示しないが、スイッチが設けられている。
【0043】
放電プラグ27は、前記の高電位側放電プラグ16、グランド側放電プラグ18、高電位側放電プラグ16に接続する第1主電極17と、グランド側放電プラグ18に接続する第2主電極19および浮遊電位状態にある補助電極20で構成され、それぞれの電極17,19,20の先端は球状表面(球状の表面)をしている。前記の各電極17,19,20は樹脂製支持体22に固定され、放電箱26内に収納されている。また、高電位側放電プラグ16およびグランド側放電プラグ18は放電箱26に固定される。また、前記のグランド側放電プラグ18は設けずに、直接第2主電極19をグランドGNDに接続しても構わない。
【0044】
前記の第1主電極17、第2主電極19、補助電極20の材質としては、融点が高く、硬度が高いタングステンが好適である。放電現象は一般に火花放電と呼ばれ、強い音に伴って火花を発しながら電流が流れる。この際に電極表面には熱ストレスが加わり、オゾンや電極金属粉などが発生し、電極の表面状態を変化させて放電電圧の偏差電圧を大きくする。これを回避するためには、電極材料としては融点が高くまた硬度が高い材料(例えば、モリブデンなど)を使用するとよい。
【0045】
図2において、電源1の高電位側にトランス3の一次コイル2の一端が接続し、トランス3の一次コイル2の他端に供試品であるMOSFET4のドレイン端子5が接続する。MOSFET4のソース端子7とゲート端子9は制御回路11に接続する。トランス3の一次コイル2の一端にダイオード15のアノード12が接続し、二次コイル13の一端にダイオード15のカソード14が接続する。トランス3の二次コイル13の他端に第1主電極17が接続する。第2主電極19はグランドGNDに接続する。第1主電極17に補助電極20が浮遊容量である静電容量Cを介して接続する。ゲート端子9は制御回路11に接続する。この回路動作は、従来回路での検査手順で説明した通りであるので説明は省く。
【0046】
図3において、第1主電極17、第2主電極19および補助電極20は樹脂製支持体22に固定されている。第1主電極17は構造的には高電位側放電プラグ16の一部として形成され、高電位側放電プラグ16は放電箱26の壁面に固定される。第2主電極19は構造的にはグランド側放電プラグ18の一部として形成され、グランド側放電プラグ18は放電箱26の壁面に固定される。また、補助電極20は浮遊電位状態であり静電容量Cを介して第1主電極17に接続する。高電位側放電プラグ16、グランド側放電プラグ18、補助電極20を含めて放電プラグ27が構成される。また放電箱26の側壁には多数の吸引口23が形成され、底部の開口部24には排気ファンなどの吸引機21が設置されている。この吸引機21を稼動させることで、各電極17,19,20に当たる気流25の速度を制御し、放電で発生するオゾンや発生物質を素早く除去して、良好な放電を確保する。気流25の速度は0.3m/s〜0.7m/sの間に調整される。
【0047】
図4において、前記の第1主電極17の先端の球状表面とグランド側の第2主電極19の先端の球状表面の最短距離を結ぶ第1直線31上で、第2主電極19とは反対方向に第1主電極17内に第1直線31を延ばす。第1主電極17の先端の球状表面から第1主電極17に入った第1直線31上の所定の位置Pまでの距離をL1とする。この距離L1の箇所で前記の第1直線31に対し直角方向に伸ばした第2直線32上に、第1主電極17の先端の球状表面から離して補助電極20の先端の球状表面を配置する。第1主電極17の先端の球状表面から補助電極20の先端の球状表面までの距離をL2とし、このL2を0.1mm〜0.5mmにする。また、前記のL1を1.0mm〜1.5mmとする。
【0048】
前記の第1主電極17の先端の球状表面の曲率半径(=補助電極の先端の球状表面の曲率半径)をr1とし、第2主電極19の先端の球状表面の曲率半径をr2としたとき、r1/r2=0.03〜0.1とする。ここでは補助電極20の先端の球状表面の曲率半径をr3としたとき、r3=r1とした。
【0049】
L1,L2,r1/r2および気流25の速度の値を前記の範囲にすることで、放電電圧の偏差電圧を3.5kV以下に小さくすることができる。
【0050】
図5は、L1,L2,r1/r2および気流25の速度の値を前記の範囲にしたときの放電時の等電位線図の推定図である。等電位線33が第1主電極17と第2主電極19の間で乱れずに形成され、最短経路34が安定して形成されるために、放電電圧の偏差電圧を小さくすることができる。
【0051】
図6は、L1,L2,r1/r2および気流25の速度の値を前記の範囲にしたときの放電電圧波形を重ねた波形図である。横軸は時間であり縦軸は放電電圧である。放電電圧の偏差電圧が3.5kV以下であることが分かる。
【0052】
また、前記の第1主電極17と第2主電極19の間隔Hを30mm程度とすることで、放電電圧を35kV〜38.5kVの範囲内にすることができて、偏差電圧を3.5kV以下にすることができる。
【0053】
このように放電電圧の偏差電圧を小さくすることで、高い精度の検査装置とすることができる。この高い精度の検査装置を用いて検査することで、内燃機関の動作中に内燃機関に搭載された半導体装置が破壊や動作を停止するという不具合を防止できる。また、検査工程での良品率を向上させることができる。
【0054】
つぎに、前記したL1,L2,r1/r2の範囲を決めるために行った実験について説明する。この実験を説明する前にこの実験に係る放電について説明する。
【0055】
放電の動作原理は、第1主電極17と第2主電極19間に電圧を印加する。印加電圧の上昇と共にまず第1主電極17と補助電極20間で絶縁破壊を起こす。これがトリガーとなり第1主電極17と第2主電極19間に絶縁破壊が起こる。これが放電現象であり、放電電圧が発生する。
【0056】
絶縁破壊のメカニズムを説明する。高電圧電場により空気分子の電子が加速的に空気のプラズマ化と運動電子を生み出すことによって経路ができ、この経路を伝わって電気が流れ、絶縁破壊が起こる。そのため絶縁破壊電圧と経路長は密接に関係し、経路長が長くなると絶縁破壊電圧は大きくなり、また、経路長さの変動が放電電圧のばらつきを引き起こす。
【0057】
つまり、気中間を最短経路で電流を流すことが、放電電圧のバラツキを小さく抑えるためには重要になる。この気中の電流経路を最短にするためには、第1主電極と第2主電極の間の等電位線の乱れを出来るだけ小さくして、最短の放電経路を形成する必要がある。
【0058】
三針電極法では、第1主電極17と補助電極20の間の距離が短いために、この間での放電経路を所定の距離にすることで再現性よく放電を開始させることができる。この補助電極20と第1主電極17の間の放電により第1主電極17の表面が活性化され、第1主電極17と第2主電極19の間で放電が開始される。第1主電極17と第2主電極19の間の放電電圧は、第1主電極17に対する補助電極20の位置に依存する。そのため、補助電極20の位置(前記の距離L1)を求めるための実験を行った。
【0059】
図7は、L1と放電電圧の偏差電圧の関係を示す図である。L1が0.5mm未満および1mm超の範囲では偏差電圧は共に増大する。そのため、L1=0.5mm〜1mmの範囲が偏差電圧3.5kV以下で安定しており、好適である。但し、距離L2が0.2mmの場合を示したが、L2=0.1mm〜0.5mmの範囲でもほぼ同じ結果が得られた。
【0060】
図8は、L2と放電電圧の偏差電圧の関係を示す図である。L2が0.1mm未満および0.5mm超の範囲では偏差電圧は共に増大する。そのため、L2=0.1mm〜0.5mmの範囲が偏差電圧が3.5kV以下で安定しており、好適である。但し、距離L1は0.2mmの場合であるが、L1=0.1mm〜1.0mmの範囲でほぼ同じ結果が得られた。
【0061】
図9は、r1/r2と放電電圧の偏差電圧の関係を示す図である。気中を最短経路で放電電流を流すことが、放電電圧のバラツキを小さく抑えることになる。そのため、第1主電極17と第2主電極19の先端の球状表面の影響について実験した。本実験において、第1主電極17の先端の球状表面の曲率半径r1を0.1mm〜5.5mmとし、第2主電極19の先端の球状表面の曲率半径r2を0.2mm〜5.5mmとして、r1、r2の組み合わせを変えて、r1/r2としては0.018〜27.5の範囲で実験した。
図8ではr1/r2は0.14以下の範囲を示したが、r1/r2が0.14より大きい範囲では偏差電圧は3.5kVを超えて高くなり、r1/r2が1以上になると偏差電圧は8kVでほぼ一定になる。
【0062】
図9から、r1/r2=0.03〜0.1の範囲で放電電圧の偏差電圧は3.5kV以下になることが分かった。但し、L1が0.2mm,L2が0.2mm,r3が0.2mmの場合であるが、L1=0.1mm〜1.0mm,L2=0.1mm〜0.5mm、r3/r2=0.03〜0.1の範囲でもほぼ同じ結果が得られた。
【0063】
本発明の検査装置100は、従来の検査装置500を構成する三針電極の電極構造(曲率半径)と配置(距離)を適正化して、検査精度を高めた。本検査装置100を用いることで、放電電圧の偏差電圧を3.5kV以下と小さくすることができる。
【0064】
また、従来の簡便で安価な検査装置500と構成を同じにすることで、本検査装置100は、簡便で安価な装置にできる。
【0065】
放電現象は先に説明した通り電極間の気中における電流経路を最短にする必要がある。しかし、気中では放電が行なわれる毎(20回〜50回/1秒程度)にイオン、オゾン、金属粉などが発生する。そのため、常に最短経路が形成されることは困難であり、繰り返しす毎に経路が微妙に変化し、放電電圧の偏差電圧を大きくする。そのため、発生した不純物を気流で流し去って、放電電圧のばらつきが減少することを確かめる実験を行なった。
【0066】
図10は、気流25の速度と放電電圧の偏差電圧の関係を示す図である。放電電極軸の下部に気流の吸引機21として排気ファンを設け、電極17,19,20で挟まれた空間における気流25の速度と放電電圧の偏差電圧の関係を求めた。この実験結果より、気流25の速度を0.3m/s〜0.7m/sの範囲にすると放電電圧の偏差電圧を小さくできて、検査精度を高めることができる。風速が0.7m/s超では、気中の電流が吹き飛ばされて電流経路が最短にならない。また、風速が0.3m/s未満では、放電で発生したオゾンや金属粉などの除去が不十分で放電経路が最短にならない。
【0067】
従って、吸引機21としては、各電極で挟まれる空間の気流25の速度を、0.3m/sec〜0.7m/secの範囲に調整できる吸引能力が必要になる。
【0068】
尚、気流25を吸引機21で吸引するのは、放電で発生した物質(オゾンや金属粉など)を乱れの少ない気流で電極17,19,20から除去するためである。乱れの少ない気流にすることで最短の放電経路が得られる。一方、従来のように、電極に気流25を吹き付ける方法は、電極17,19,20に当たった気流は乱気流となり放電経路をかき乱し最短の放電経路が得られないので好ましくない。