(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。本願の半導体積層体は、III−V族化合物半導体からなるベース層と、ベース層上に接触して配置され、III−V族化合物半導体からなる半導体層と、を備えている。半導体層を構成するIII−V族化合物半導体はV族元素としてSbを含んでいる。そして、半導体層は、1×10
18cm
−3以上1×10
21cm
−3以下のAsを含有する砒素含有領域を含んでいる。
【0012】
本発明者らは、V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなる半導体層を、優れた表面性状を確保しつつ形成する方策について検討を行った。その結果、V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなる半導体層を形成するに際して、濃度1×10
18cm
−3以上1×10
21cm
−3以下のAsを導入しつつ当該半導体層を形成することにより、半導体層の平坦性、原子ステップの規則性、ピット状欠陥密度といった表面性状を優れたものとできることを見出した。Asの導入により半導体層の表面性状が改善する理由は、たとえば以下のようなものが考えられる。
【0013】
V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなる半導体層が結晶成長するに際しては、Sbが表面に偏析しやすい傾向にある。そのため、優れた表面性状を確保しつつ当該半導体層を成長させるためには、供給されるIII族元素とSbを含むV族元素との比を厳密に制御する必要がある。この結晶成長の制御の困難性が、上記半導体層の表面性状の改善が難しい理由となっている。一方、Asは、III−V族化合物半導体からなる半導体層の結晶成長に際して、結晶中に取り込まれやすい。そのため、上記半導体層の形成に際してAsを導入することにより、Sbの偏析およびこれに起因した結晶成長の制御の困難性が緩和され、上記半導体層の表面性状が改善されるものと考えられる。
【0014】
本願の半導体積層体においては、半導体層は、1×10
18cm
−3以上1×10
21cm
−3以下のAsを含有する砒素含有領域を含んでいる。その結果、半導体層において、砒素含有領域における結晶成長の制御の困難性が緩和され、半導体層の表面性状が改善される。以上のように、本願の半導体積層体によれば、優れた表面性状を有し、V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなる半導体層を備えた半導体積層体を提供することができる。なお、上記半導体層においては、その一部が砒素含有領域であってもよいし、その全体が砒素含有領域であってもよい。また、ベース層は、たとえば基板であってもよいし、基板上に形成された層であってもよい。砒素含有領域のAsの濃度が1×10
18cm
−3未満の場合、上記効果が十分に得られない。そのため、砒素含有領域のAsの濃度は1×10
18cm
−3以上とされる。上記効果をより確実に得るためには、砒素含有領域のAsの濃度を1×10
19cm
−3以上とすることが好ましい。一方、砒素含有領域のAsの濃度が1×10
21cm
−3を超えると、Asを含有することによる格子定数の変化が大きくなり、半導体層における歪の発生などの問題を生じるおそれがある。そのため、砒素含有領域のAsの濃度は1×10
21cm
−3以下とされる。この問題をより確実に回避する観点からは、砒素含有領域のAsの濃度は1×10
20cm
−3未満とすることが好ましい。
【0015】
上記半導体積層体においては、砒素含有領域の厚みは50nm以上であってもよい。これにより、上記表面性状の改善効果をより確実に得ることができる。上記表面性状の改善効果をさらに確実に得るためには、砒素含有領域の厚みは100nm以上であることが好ましい。
【0016】
上記半導体積層体においては、半導体層とベース層とは、同一のIII−V族化合物半導体からなっていてもよい。このようにすることにより、ベース層上に格子整合するように半導体層を形成することが容易となる。
【0017】
上記半導体積層体において、砒素含有領域の厚みは800nm以下であってもよい。半導体層とベース層とを同一のIII−V族化合物半導体からなるものとした場合、砒素含有領域の厚みを800nm以下とすることにより、砒素含有領域とベース層との格子定数の違いに起因した半導体層における歪の発生を、許容可能な範囲に抑制することができる。この歪をより低減するためには、砒素含有領域の厚みは500nm以下とすることが好ましく、400nm以下とすることがより好ましい。
【0018】
上記半導体積層体において、砒素含有領域は、ベース層に接触して配置されていてもよい。このようにすることにより、結晶成長の制御が困難な半導体層の成長開始時点から、結晶成長の制御の困難性が緩和される。
【0019】
上記半導体積層体においては、ベース層の、半導体層との界面を含む領域には、酸化被膜が形成されていてもよい。酸化被膜が形成されたベース層上に上記半導体層を成長させる場合、半導体層の2次元成長が阻害されるため、半導体層の表面性状を良好なものとすることは特に困難である。しかし、砒素含有領域をベース層に接触するように配置することにより、半導体層の表面性状を良好なものとすることが容易となる。
【0020】
上記半導体積層体においては、上記半導体層を構成するIII−V族化合物半導体はGaSbであってもよい。GaSbは、たとえば中赤外域の光に対応した受光素子のバッファ層を構成する材料として好適である。そのため、上記半導体層をGaSbからなるものとすることにより、中赤外域の光に対応した受光素子の製造に適した半導体積層体を得ることができる。
【0021】
上記半導体積層体においては、半導体層上に配置された量子井戸構造をさらに備えていてもよい。この量子井戸構造は、たとえば受光素子の受光層として利用可能であり、特に優れた界面急峻性が要求される。そのため、このようにすることにより、受光素子の製造に使用可能な半導体積層体を得ることができる。量子井戸構造は、たとえばIII−V族化合物半導体からなるものとすることができる。
【0022】
上記半導体積層体においては、上記半導体層は有機金属気相成長法により形成されていてもよい。有機金属気相成長法は、たとえばMBE(Molecular Beam Epitaxy)法に比べて結晶成長の温度が高いため、高温で取り込まれにくいSbをV族元素として含む半導体層の表面性状の改善が難しい。半導体層が砒素含有領域を含む本願の半導体積層体においては、このような場合でも、半導体層の表面性状の改善が可能である。
【0023】
本願の半導体装置は、上記半導体積層体と、半導体積層体上に形成された電極と、を備えている。本願の半導体装置は、表面性状に優れた半導体層を有する上記半導体積層体を含んでいる。そのため、本願の半導体装置によれば、高性能な半導体装置を得ることができる。
【0024】
本願の半導体積層体の製造方法は、III−V族化合物半導体からなるベース層を準備する工程と、ベース層上に、III−V族化合物半導体からなる半導体層を形成する工程と、を備えている。半導体層を形成する工程では、V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなる半導体層が形成される。そして、半導体層を形成する工程では、1×10
18cm
−3以上1×10
21cm
−3以下のAsを含有する砒素含有領域を含むように、半導体層が形成される。
【0025】
本願の半導体積層体の製造方法においては、V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなる半導体層が、砒素含有領域を含むように形成される。そのため、本願の半導体積層体の製造方法によれば、優れた表面性状を有し、V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなる半導体層を備えた半導体積層体を製造することができる。
【0026】
本願の半導体装置の製造方法は、上記本願の半導体積層体の製造方法により製造された半導体積層体を準備する工程と、半導体積層体上に電極を形成する工程と、を備えている。本願の半導体装置の製造方法では、表面性状に優れた半導体層を有する半導体積層体上に電極が形成されて半導体装置が製造される。そのため、本願の半導体装置の製造方法によれば、高性能な半導体装置を製造することができる。
【0027】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本発明にかかる半導体積層体の一実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0028】
図1を参照して、本実施の形態における半導体積層体10は、III−V族化合物半導体からなるベース層としての基板20と、III−V族化合物半導体からなる半導体層としてのバッファ層30と、量子井戸構造40と、コンタクト層50とを備えている。
【0029】
基板20は、III−V族化合物半導体からなっている。また、基板20の直径は50mm以上であり、たとえば3インチである。基板20を構成するIII−V族化合物半導体としては、たとえばGaSb(ガリウムアンチモン)、InAs(インジウム砒素)、GaAs(ガリウム砒素)、InP(インジウムリン)などを採用することができる。これらのIII−V族化合物半導体からなる基板20を採用することにより、中赤外光用の受光素子の製造に適した半導体積層体10を得ることができる。基板20の直径は、半導体積層体10を用いた半導体装置の生産効率および歩留りの向上を目的として、80mm以上(たとえば4インチ)とすることができ、さらに105mm以上(たとえば5インチ)、さらに130mm以上(たとえば6インチ)とすることができる。
【0030】
バッファ層30は、基板20の一方の主面20A上に接触するように配置された半導体層である。バッファ層30は、III−V族化合物半導体からなっている。バッファ層30を構成するIII−V族化合物半導体は、V族元素としてSbを含んでいる。バッファ層30を構成するIII−V族化合物半導体としては、たとえばGaSb(ガリウムアンチモン)、AlSb(アルミニウムアンチモン)、InSb(インジウムアンチモン)といった2元系、およびGaInSb(ガリウムインジウムアンチモン)、AlInSb(アルミニウムインジウムアンチモン)、AlGaSb(アルミニウムガリウムアンチモン)といった3元系の材料などを採用することができる。具体的には、たとえば導電型がp型であるGaSb(p−GaSb)が、バッファ層30を構成する化合物半導体として採用される。バッファ層30に含まれるp型不純物としては、たとえばZn(亜鉛)、C(炭素)、Be(ベリリウム)などを採用することができる。そして、バッファ層30は、1×10
18cm
−3以上1×10
21cm
−3以下のAsを含有する砒素含有領域を含んでいる。この砒素含有領域の詳細について、
図2〜
図6を参照して以下に説明する。
【0031】
図2〜
図6は、半導体積層体10のうち、基板20およびバッファ層30について示したものである。
図2〜
図6において、バッファ層30内のドットの分布は、バッファ層30内のAsの分布を模式的に示したものである。
図2に示すように、バッファ層30の全域が砒素含有領域31であってもよい。このとき、砒素含有領域31内のAsの分布は、
図2のように一様であってもよいし、
図3に示すように濃淡を有していてもよい。具体的には、たとえば
図3に示すように、砒素含有領域31内においてAsは基板20の主面20Aから離れるにしたがって低濃度となるように分布していてもよい。
【0032】
一方、バッファ層30内の一部が砒素含有領域31であってもよい。具体的には、たとえば
図4に示すように、砒素含有領域31は、ベース層としての基板20の主面20Aに接触するように配置され、砒素含有領域31以外のバッファ層30内の領域は、Asの濃度が1×10
18cm
−3未満である砒素フリー領域32とすることができる。砒素フリー領域32内のAsは、製造上不可避な濃度レベル、すなわち実質的に含まれない濃度レベルとすることができる。
図2〜
図4に示すように砒素含有領域31がベース層としての基板20の主面20Aに接触するように配置されることにより、結晶成長の制御が困難なバッファ層30の成長開始時点から、結晶成長の制御の困難性が緩和される。また、
図3、
図4に示すようにAsの濃度が低い領域を設けることにより、砒素含有領域31の格子定数の変化による歪の発生を、許容可能な範囲に抑制することができる。
【0033】
また、
図2〜
図4を参照して、半導体積層体10においては、ベース層としての基板20の、バッファ層30との界面である主面20Aを含む領域には、酸化被膜21が形成されていてもよい。酸化被膜21が形成された基板20上にバッファ層30を成長させる場合、バッファ層30の表面性状を良好なものとすることは特に困難である。しかし、
図2〜
図4に示すように、砒素含有領域31を基板20に接触するように配置することにより、バッファ層30の主面30Aの表面性状を良好なものとすることが容易となる。具体的には、界面における酸素の濃度が1×10
18cm
−3以上1×10
21cm
−3以下の範囲にあっても、バッファ層30の表面性状を良好なものとすることができる。
【0034】
また、
図5に示すように、砒素含有領域31が、砒素フリー領域32に挟まれるように配置されてもよい。さらに、砒素含有領域31を含むバッファ層30の土台となるベース層は必ずしも基板である必要はなく、
図6に示すように、III−V族化合物半導体からなるベースバッファ層60であってもよい。すなわち、
図6を参照して、半導体積層体10は、III−V族化合物半導体からなる基板20と、基板20の主面20A上に接触して配置され、III−V族化合物半導体からなるベースバッファ層60と、ベースバッファ層60の主面60A上に接触して配置され、砒素含有領域31を含むバッファ層30とを備えたものであってもよい。つまり、ベース層は基板であってもよいし、基板上に形成された層であってもよい。
【0035】
図1を参照して、量子井戸構造40は、バッファ層30の、基板20に面する側とは反対側の主面30A上に接触するように配置されている。量子井戸構造40は、III−V族化合物半導体からなる2つの要素層が交互に積層された構造を有している。より具体的には、量子井戸構造40は、第1要素層41と第2要素層42とが交互に積層された構造を有している。第1要素層41を構成する材料としては、たとえばInAsを採用することができる。また、第2要素層42を構成する材料としては、たとえばGaSbを採用することができる。半導体積層体10を受光素子の製造に使用する場合、量子井戸構造40の厚みは500nm以上とすることが好ましい。これにより、半導体積層体10を用いて製造される受光素子の受光感度を向上させることができる。
【0036】
第1要素層41および第2要素層42の厚みは、たとえばそれぞれ3nmとすることができる。そして、量子井戸構造40は、第1要素層41と第2要素層42とからなる単位構造が、たとえば100組積層されたものとすることができる。すなわち、量子井戸構造40の厚みは、たとえば600nmとすることができる。量子井戸構造40は、このような構造を有するタイプII量子井戸とすることができる。
【0037】
InAs層とGaSb層とが交互に積層された構造を有する量子井戸構造40は、中赤外光用の受光層として好適である。そのため、このような構造を採用することにより、半導体積層体10を、中赤外光用の受光素子の製造に適したものとすることができる。なお、第1要素層41および第2要素層42を構成するIII−V族化合物半導体の組み合わせはこれに限られず、たとえばGaSb(ガリウムアンチモン)とInAsSb(インジウム砒素アンチモン)との組み合わせ、GaInSb(ガリウムインジウムアンチモン)とInAs(インジウム砒素)との組み合わせなどであってもよい。また、量子井戸構造40の歪を補償するために、量子井戸構造40を構成する単位構造を、第1要素層41および第2要素層42に歪補償層を加えたものとしてもよい。歪補償層には、たとえばInSb(インジウムアンチモン)層、InSbAs(インジウムアンチモン砒素)層、GaInSb(ガリウムインジウムアンチモン)層などを採用することができる。さらに、受光層は量子井戸構造に限られず、InSb(インジウムアンチモン)層、InAs(インジウム砒素)層、GaInSb(ガリウムインジウムアンチモン)層、AlInSb(アルミニウムインジウムアンチモン)層といった単一の層から成るものとしてもよい。
【0038】
図1を参照して、コンタクト層50は、量子井戸構造40の、バッファ層30に面する側とは反対側の主面40A上に接触するように配置されている。コンタクト層50は、III−V族化合物半導体からなっている。
【0039】
コンタクト層50を構成するIII−V族化合物半導体としては、たとえばInAs(インジウム砒素)、GaSb(ガリウムアンチモン)、GaAs(ガリウム砒素)、InP(インジウムリン)、InGaAs(インジウムガリウム砒素)などを採用することができる。具体的には、たとえば導電型がn型であるInAs(n−InAs)が、コンタクト層50を構成する化合物半導体として採用される。コンタクト層50に含まれるn型不純物としては、たとえばSi(珪素)、Te(テルル)などを採用することができる。
【0040】
本実施の形態の半導体積層体10においては、バッファ層30は、1×10
18cm
−3以上1×10
21cm
−3以下のAsを含有する砒素含有領域31を含んでいる。そのため、バッファ層30において、砒素含有領域31における結晶成長の制御の困難性が緩和され、バッファ層30の表面性状が改善される。その結果、本実施の形態における半導体積層体10によれば、優れた表面性状の主面30Aを有し、V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなるバッファ層30を備えた半導体積層体10を得ることができる。Asの濃度が1×10
21cm
−3を超える場合、砒素含有領域31の格子定数の変化による歪の発生が、半導体積層体10を用いて製造される半導体装置の特性に悪影響を及ぼす恐れが生じる。
【0041】
また、砒素含有領域31の厚みは50nm以上とすることが好ましい。これにより、バッファ層30の表面性状の改善効果をより確実に得ることができる。
【0042】
さらに、バッファ層30と、ベース層としての基板20(またはベース層としてのベースバッファ層60)とは、同一のIII−V族化合物半導体からなるものとすることができる。このようにすることにより、基板20(またはベースバッファ層60)上に格子整合するようにバッファ層30を形成することが容易となる。
【0043】
また、砒素含有領域31の厚みは800nm以下とすることができる。バッファ層30と基板20(またはベースバッファ層60)とを同一のIII−V族化合物半導体からなるものとした場合、砒素含有領域31の厚みを800nm以下とすることにより、砒素含有領域31と基板20(またはベースバッファ層60)との格子定数の違いに起因したバッファ層30における歪の発生を、許容可能な範囲に抑制することができる。
【0044】
さらに、バッファ層30を構成するIII−V族化合物半導体はGaSbであってもよい。これにより、中赤外域の光に対応した受光素子の製造に適した半導体積層体10を得ることができる。
【0045】
また、バッファ層30は有機金属気相成長法により形成されていてもよい。結晶成長の温度が高い有機金属気相成長法によりバッファ層30が形成された場合でも、本実施の形態のバッファ層30は砒素含有領域31を含むため、優れた表面性状を確保することができる。
【0046】
次に、上記半導体積層体10を用いて作製される半導体装置の一例である赤外線受光素子(フォトダイオード)について説明する。
図7を参照して、本実施の形態における赤外線受光素子1は、上記本実施の形態の半導体積層体10を用いて作製されたものであって、半導体積層体10と同様に積層された基板20と、バッファ層30と、量子井戸構造40と、コンタクト層50とを備えている。そして、赤外線受光素子1には、コンタクト層50および量子井戸構造40を貫通し、バッファ層30に到達するトレンチ99が形成されている。すなわち、トレンチ99の側壁99Aにおいて、コンタクト層50および量子井戸構造40が露出している。また、トレンチ99の底壁99Bは、バッファ層30内に位置している。
【0047】
さらに、赤外線受光素子1は、パッシベーション膜80と、p側電極91と、n側電極92とを備えている。パッシベーション膜80はトレンチ99の底壁99B、トレンチ99の側壁99Aおよびコンタクト層50において量子井戸構造40に面する側とは反対側の主面50Aを覆うように配置されている。パッシベーション膜80は、窒化珪素、酸化珪素などの絶縁体からなっている。
【0048】
トレンチ99の底壁99Bを覆うパッシベーション膜80には、パッシベーション膜80を厚み方向に貫通するように開口部81が形成されている。そして、開口部81を充填するようにp側電極91が配置されている。p側電極91は、開口部81から露出するバッファ層30に接触するように配置されている。p側電極91は金属などの導電体からなっている。より具体的には、p側電極91は、たとえばTi(チタン)/Pt(白金)/Au(金)からなるものとすることができる。p側電極91は、バッファ層30に対してオーミック接触している。
【0049】
コンタクト層50の主面50Aを覆うパッシベーション膜80には、パッシベーション膜80を厚み方向に貫通するように開口部82が形成されている。そして、開口部82を充填するようにn側電極92が配置されている。n側電極92は、開口部82から露出するコンタクト層50に接触するように配置されている。n側電極92は金属などの導電体からなっている。より具体的には、n側電極92は、たとえばTi/Pt/Auからなるものとすることができる。n側電極92は、コンタクト層50に対してオーミック接触している。
【0050】
この赤外線受光素子1に赤外線が入射すると、量子井戸構造40内の量子準位間で赤外線が吸収され、電子と正孔とのペアが生成する。そして、生成した電子と正孔とが光電流信号として赤外線受光素子1から取り出されることにより、赤外線が検出される。
【0051】
なお、上記n側電極92は画素電極である。そして、上記赤外線受光素子1は、
図7に示すように画素電極であるn側電極92が1つだけ含まれるものであってもよいし、複数の画素電極(n側電極92)を含むものであってもよい。具体的には、赤外線受光素子1は、
図7に示す構造を単位構造とし、当該単位構造が、
図7において基板20の主面20Aが延在する方向に複数繰り返される構造を有していてもよい。この場合、赤外線受光素子1は、画素に対応する複数のn側電極92を有する一方で、p側電極91については1つだけ配置される。
【0052】
本実施の形態の赤外線受光素子1は、優れた表面性状を有するバッファ層30上に受光層である量子井戸構造40が形成された構造を有している。そのため、赤外線受光素子1は、量子井戸構造40内の界面急峻性といった周期構造の出来栄えが良好なものになるとともに欠陥密度が低減されることにより優れた受光特性を有するものとなる。
【0053】
次に、本実施の形態における半導体積層体10および赤外線受光素子1の製造方法の概要について説明する。
【0054】
図8を参照して、本実施の形態における半導体積層体10および赤外線受光素子1の製造方法では、まず工程(S10)として基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、
図9を参照して、たとえば直径2インチ(50.8mm)のGaSbからなる基板20が準備される。より具体的には、GaSbからなるインゴットをスライスすることにより、GaSbからなる基板20が得られる。この基板20の表面が研磨された後、洗浄等のプロセスを経て主面20Aの平坦性および清浄性が確保された基板20が準備される。
【0055】
次に、工程(S20)として動作層形成工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において準備された基板20の主面20A上に、動作層であるバッファ層30、量子井戸構造40およびコンタクト層50が形成される。この動作層の形成は、たとえば有機金属気相成長により実施することができる。有機金属気相成長による動作層の形成は、たとえば基板加熱用のヒータを備えた回転テーブル上に基板20を載置し、基板20をヒータにより加熱しつつ基板上に原料ガスを供給することにより実施することができる。
【0056】
具体的には、
図9を参照して、まず基板20の主面20A上に接触するように、たとえばIII−V族化合物半導体(V族元素がSbであるIII−V族化合物半導体)であるp−GaSbからなるバッファ層30が有機金属気相成長により形成される。p−GaSbからなるバッファ層30の形成では、Gaの原料としてたとえばTEGa(トリエチルガリウム)、TMGa(トリメチルガリウム)などを用いることができ、Sbの原料としてたとえばTMSb(トリメチルアンチモン)、TESb(トリエチルアンチモン)、TIPSb(トリイソプロピルアンチモン)、TDMASb(トリジメチルアミノアンチモン)、TTBSb(トリターシャリーブチルアンチモン)などを用いることができる。また、p型不純物としてCを添加する場合、たとえばCBr
4(四臭化炭素)、CCl
4(四塩化炭素)などを原料ガスに添加することができる。
【0057】
ここで、バッファ層30を形成する工程では、1×10
18cm
−3以上1×10
21cm
−3以下のAsを含有する砒素含有領域31を含むように、バッファ層30が形成される。具体的には、バッファ層30の形成に際し、所望の濃度分布(たとえば
図2〜
図5参照)となるようにAsが導入される。Asの導入は、たとえばTBAs(ターシャリーブチルアルシン)、TMAs(トリメチル砒素)などを原料ガスに添加することにより実施することができる。
【0058】
次に、
図9および
図10を参照して、バッファ層30の、基板20に面する側とは反対側の主面30A上に接触するように、たとえばIII−V族化合物半導体であるInAsからなる第1要素層41と、III−V族化合物半導体であるGaSbからなる第2要素層42とが交互に積層して形成されることにより、量子井戸構造40が形成される。量子井戸構造40の形成は、上記バッファ層30の形成に引き続いて有機金属気相成長により実施することができる。すなわち、量子井戸構造40の形成は、バッファ層30の形成の際に用いた装置内に基板20を配置した状態で、原料ガスを変更することにより実施することができる。
【0059】
InAsからなる第1要素層41の形成では、Inの原料としてたとえばTMIn(トリメチルインジウム)、TEIn(トリエチルインジウム)などを用いることができ、Asの原料としてはたとえばTBAs(ターシャリーブチルアルシン)、TMAs(トリメチル砒素)などを用いることができる。第1要素層41および第2要素層42は、たとえばそれぞれ厚み3nmとし、第1要素層41と第2要素層42とからなる単位構造が、たとえば100組積層するように形成することができる。これにより、タイプII量子井戸である量子井戸構造40を形成することができる。
【0060】
次に、
図10および
図1を参照して、量子井戸構造40の、バッファ層30に面する側とは反対側の主面40A上に接触するように、たとえばIII−V族化合物半導体であるn−InAsからなるコンタクト層50が形成される。コンタクト層50の形成は、上記量子井戸構造40の形成に引き続いて有機金属気相成長により実施することができる。すなわち、コンタクト層50の形成は、量子井戸構造40の形成の際に用いた装置内に基板20を配置した状態で、原料ガスを変更することにより実施することができる。n型不純物としてSiを添加する場合、たとえばTeESi(テトラエチルシラン)を原料ガスに添加することができる。
【0061】
以上の手順により、本実施の形態における半導体積層体10が完成する。上述のように、工程(S20)を有機金属気相成長により実施することにより、半導体積層体10の生産効率を向上させることができる。なお、工程(S20)は有機金属原料のみを用いた有機金属気相成長法に限られず、たとえばAsの原料にAsH
3(アルシン)、Siの原料にSiH
4(シラン)などの水素化物を用いた有機金属気相成長法で実施してもよい。また、有機金属気相成長以外の方法により実施することも可能であって、たとえばMBE法を用いてもよい。
【0062】
次に、
図8を参照して、工程(S30)としてトレンチ形成工程が実施される。この工程(S30)では、
図1および
図11を参照して、上記工程(S10)〜(S20)において作製された半導体積層体10に、コンタクト層50および量子井戸構造40を貫通し、バッファ層30に到達するトレンチ99が形成される。トレンチ99は、たとえばコンタクト層50の主面50A上にトレンチ99の形状に対応する開口を有するマスク層を形成した上で、エッチングを実施することにより形成することができる。
【0063】
次に、工程(S40)としてパッシベーション膜形成工程が実施される。この工程(S40)では、
図11および
図12を参照して、工程(S30)においてトレンチ99が形成された半導体積層体10に対し、パッシベーション膜80が形成される。具体的には、たとえばCVD(Chemical Vapor Deposition)により酸化珪素、窒化珪素などの絶縁体からなるパッシベーション膜80が形成される。パッシベーション膜80は、トレンチ99の底壁99B、トレンチ99の側壁99Aおよびコンタクト層50において量子井戸構造40に面する側とは反対側の主面50Aを覆うように形成される。
【0064】
次に、工程(S50)として電極形成工程が実施される。この工程(S50)では、
図12および
図7を参照して、工程(S40)においてパッシベーション膜80が形成された半導体積層体10に、p側電極91およびn側電極92が形成される。具体的には、たとえばp側電極91およびn側電極92を形成すべき領域に対応する位置に開口を有するマスクをパッシベーション膜80上に形成し、当該マスクを用いてパッシベーション膜80に開口部81,82を形成する。その後、たとえば蒸着法により適切な導電体からなるp側電極91およびn側電極92を形成する。以上の工程により、本実施の形態における赤外線受光素子1が完成する。その後、たとえばダイシングにより各素子に分離される。
【実施例】
【0065】
V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなる半導体層に砒素含有領域を形成することの効果を確認する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。
【0066】
GaSbからなる基板を準備し、当該基板上にGaSbからなる半導体層を有機金属気相成長法により形成することにより試料を作製した。このとき、半導体層には、その全域に6×10
19cm
−3の濃度でAsを導入した(実施例)。一方、比較のため、半導体層に導入するAsの濃度を3×10
17cm
−3とした試料も作製した(比較例)。そして、得られた試料の半導体層の表面性状をAFM(Atomic Force Microscope)により確認した。得られたAFM像を
図13および
図14に示す。
【0067】
図14を参照して、Asの濃度が本願の範囲外である比較例の試料においては、原子ステップの方向が揃っておらず、良好なステップフロー成長が達成されなかったことが分かる。このように、比較例の試料の表面性状は良好であるとはいえない。これに対し、
図13を参照して、Asの濃度が本願の範囲内である実施例の試料においては、良好なステップフロー成長により、良好な表面性状が得られていることが分かる。このような良好なステップフロー成長を達成することにより、半導体層の表面の二乗平均平方根粗さ(RMS)を、例えば10μm×10μmの範囲で1nm以下、2μm×2μmの範囲で0.5nm以下とすることができる。
【0068】
以上の実験結果から、本発明に従った半導体積層体および半導体装置によれば、優れた表面性状を有し、V族元素としてSbを含むIII−V族化合物半導体からなる半導体層を備えた半導体積層体および半導体装置が得られることが確認される。
【0069】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。