特許第6233073号(P6233073)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233073スリット付き連続鋳造用ロールの再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233073
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】スリット付き連続鋳造用ロールの再生方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/128 20060101AFI20171113BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   B22D11/128 340B
   B22D11/128 340G
   B23K9/04 R
   B23K9/04 L
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-21205(P2014-21205)
(22)【出願日】2014年2月6日
(65)【公開番号】特開2015-147233(P2015-147233A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】池内 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】藤井 彰
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−050430(JP,A)
【文献】 特開平03−264164(JP,A)
【文献】 特開2001−340991(JP,A)
【文献】 特開2004−195517(JP,A)
【文献】 特開平09−164461(JP,A)
【文献】 特開平06−079455(JP,A)
【文献】 特開平03−264165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
B23K 9/00−9/013
B23K 9/04
B23K 9/14−10/02
B22D 19/00−19/16
F16C 13/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に延びる多数のスリットを外周面に開口させたスリット付き連続鋳造用ロールが摩耗した際に、摩耗した外周面にスリットの開口部を塞ぐように肉盛溶接の入熱量を残厚に応じて制御して広幅の肉盛溶接を行なうことにより、溶接された肉盛溶接部にスリットに沿ってクラックを発生させ、肉盛溶接部にスリットを再加工することなく、発生したクラックをスリットの開口として機能させることを特徴とするスリット付き連続鋳造用ロールの再生方法。
【請求項2】
肉盛溶接を、母材硬さを超える硬さを有するマルテンサイト系ステンレス材を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載のスリット付き連続鋳造用ロールの再生方法。
【請求項3】
クラックを周方向に断続的に発生させることを特徴とする請求項1に記載のスリット付き連続鋳造用ロールの再生方法。
【請求項4】
前記スリットは10〜30mmの深さを有するものであり、その軸方向ピッチが10〜20mmであることを特徴とする請求項1に記載のスリット付き連続鋳造用ロールの再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼の連続鋳造設備に用いられるスリット付き連続鋳造用ロールの再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造設備には、モールドで凝固させた高温の鋳片を引き出すために、多数の連続鋳造用ロールが用いられている。これらの連続鋳造用ロールは低速で回転するため、鋳片と接する表面は高温となるが、鋳片の反対側の面は冷却されて降温するヒートサイクルを繰り返している。このため熱膨張と熱収縮との繰り返しによって表面が座屈したり亀裂が入ったりすることがあり、使用寿命は短いものであった。
【0003】
そこで特許文献1に示されるように、周方向に延びる多数のスリットを外周面に開口させたスリット付き連続鋳造用ロールが開発されている。このスリット付き連続鋳造用ロールは、電解加工によって0.3〜1mm程度の幅のスリットをロール外周面に形成したもので、これらのスリットによってロール表面の熱応力を緩和し、使用寿命を大幅に伸ばすことに成功している。
【0004】
ところが長期間にわたり使用すると、スリットを外周面に形成していない通常のロール同様にロール外周面が徐々に摩耗することは避けられない。この場合の再生方法としては、摩耗した外周面に肉盛溶接を行うことが一般的である。しかしスリット付き連続鋳造用ロールの場合にはスリット間の軸方向のピッチが10〜20mmであるため、そのような幅が狭い部分に肉盛溶接を行うためには多くの手数と時間を要するという問題があった。しかもスリットの開口部が肉盛溶接により塞がれないように肉盛溶接部にスリットの再加工を行なっていたため、再生作業はかなりの工数を要する高コストの作業となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004〜195517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、外周面が摩耗したスリット付き連続鋳造用ロールを迅速かつ安価に再生することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、周方向に延びる多数のスリットを外周面に開口させたスリット付き連続鋳造用ロールが摩耗した際に、摩耗した外周面にスリットの開口部を塞ぐように肉盛溶接の入熱量を残厚に応じて制御して広幅の肉盛溶接を行なうことにより、溶接された肉盛溶接部にスリットに沿ってクラックを発生させ、肉盛溶接部にスリットを再加工することなく、発生したクラックをスリットの開口として機能させることを特徴とするものである。
【0008】
なお、請求項2のように、肉盛溶接は母材硬度を超える硬度を有するマルテンサイト系ステンレス材を用いて行うことが好ましい。また請求項3のように、クラックを周方向に断続的に発生させることができる。なお請求項4のように、前記スリットは10〜30mmの深さを有するものであり、その軸方向ピッチが10〜20mmである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、摩耗した外周面にスリットの開口部を塞ぐように肉盛溶接の入熱量を残厚に応じて制御して広幅の肉盛溶接を行ない、溶接された肉盛溶接部にスリットに沿ってクラックを発生させる。このため従来のようにスリット間の幅の狭い部分にのみ肉盛溶接を行なったり、肉盛溶接部にスリットを再加工したりする必要がなくなり、従来よりも非常に迅速かつ低コストでスリット付き連続鋳造用ロールを再生させることができる。
【0010】
なお本発明では、肉盛溶接の入熱量を残厚に応じて制御することにより、溶接後に好ましいクラックを発生させることができる。また請求項2のように肉盛溶接は外周面の硬さを超える硬さを有するマルテンサイト系ステンレス材を用いて行うことにより、補修された表面の材料強度を向上させ、寿命延長効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】スリット付き連続鋳造用ロールの説明図である。
図2】要部の拡大断面図である。
図3】溶接条件を示すグラフと溶接部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1はスリット付き連続鋳造用ロールの説明図である。図示のようにスリット付き連続鋳造用ロールの外周面には、周方向に延びる多数のスリット1が電解加工により形成されている。スリット1の幅は0.3〜1mm程度であり、母材2の表面からの深さは10〜30mm、スリット1のピッチは10〜20mmである。なおスリット1の底部には図示のような断面が円形の空洞部3を形成して、応力集中を緩和しておくことが好ましい。母材2は高温強度に優れたステンレス鋼であるのが一般的である。
【0013】
このようなスリット付き連続鋳造用ロールはスリット1によって熱応力が緩和されるので表面に座屈や亀裂が発生せず、スリットのない従来品に比べてはるかに長い使用寿命を有する。しかし永年の使用によって外周面が摩耗することは避けられない。摩耗したスリット付き連続鋳造用ロールは取り外され、修理工場に送られる。
【0014】
修理工場においては、スリット付き連続鋳造用ロールの摩耗した外周面を大型旋盤にセットし、バイトにより表面切削を行なってスリット以外の外周面の凹凸をなくしたうえで、図2に示すようにスリット1の開口部を塞ぐように広幅の肉盛材4を肉盛溶接する。本発明においては肉盛材4の材質は特に限定されるものではないが、肉盛溶接部の硬さを硬くしてスリット付き連続鋳造用ロールの肉盛溶接部の摩耗量を低減するには、肉盛材4としては、マルテンサイト系ステンレス鋼材を用いることが好ましい。また、マルテンサイト系ステンレス鋼材を肉盛材4に用いれば、母材の外周がステンレス鋼材であっても、肉盛溶接部硬さを母材部硬さより高くすることが可能である。また、母材の外周がマルテンサイト系でないステンレス鋼材(例えば析出硬化型ステンレス鋼材)の場合には、肉盛溶接部硬さを母材部硬さに比べ十分に硬くすることができる。マルテンサイト系ステンレス鋼材を肉盛材に選定するには、500℃における高温硬さが120Hv以上であることが、スリット付き連続鋳造用ロールの肉盛溶接部の高温摩耗を低減するには好ましい。
【0015】
本発明では溶接された肉盛溶接部にスリットに沿ってクラックを発生させるため、溶接条件を適切に設定することが必要である。図3に残厚(mm)と溶接時の入熱量(J/mm)との関係をまとめた。ここで残厚とは、図3に示す通り、本発明では肉盛溶接前のロール外周のスリット残存深さである。また、残厚とは、ロール外周面を大型旋盤にセットし、バイトにより表面切削を行なってスリット以外の外周面の凹凸をなくした後のロール外周のスリット残存深さであっても構わない。
【0016】
残厚の増加とともに多くの入熱が必要となるが、図3中に最適条件として示した領域よりも入熱量が多い場合には肉盛材4の溶け込みが過多となり、スリット1の内部にまで浸入してしまう。この状態ではスリット1の本来の機能が損なわれることとなるので好ましくない。逆に最適条件として示した領域よりも入熱量が少ない場合には、肉盛材4の溶け込みが不足し、母材2との接合が不十分となるため、肉盛溶接部にスリットに沿ったクラックを形成させることができなくなる。
【0017】
上記した最適条件においてスリット1の開口部を塞ぐように広幅の肉盛材4を肉盛溶接すれば、溶接後の冷却時の凝固割れあるいはその後の使用時にロールに付与される熱履歴による熱応力によって肉盛溶接部に、周方向のスリット1に沿ったクラックを発生させることができると発明者らは考えている。このクラックはスリット1を起点として自然発生するものであり、多くの場合、そのクラックの幅はスリット1の幅の1/2以下である。しかしクラックの幅があまり狭いと、鋳片と接触した際の熱膨張により座屈が発生する可能性があるので、0.15mm以上であることが好ましい。
【0018】
なおこのクラックはスリット1に沿って周方向に断続的に発生するものであり、全周にわたり連続している必要はない。何故ならばスリット1の役割は軸方向の熱応力を緩和することであり、周方向の応力とは無関係であるためである。
【0019】
このようにしてスリット1に沿って肉盛溶接部にクラックを発生させたスリット付き連続鋳造用ロールは、従来のように肉盛溶接部にスリット1を再加工することなく、そのままの状態で連続鋳造機にセットされ、発生したクラックをスリット1の開口として機能させる。このため再生作業の能率は従来に比べて飛躍的に向上し、しかもスリット1の持つ熱応力の緩和能力が損なわれることもない。
【実施例】
【0020】
製鉄工場の連続鋳造機から取り外したスリット付き連続鋳造用ロールを、本発明の方法により再生した。このロールは析出硬化型ステンレス鋼材からなるもので、その外周面には、幅が0.4mm、深さが20mmのスリットが15mmピッチで電解加工されているものである。
【0021】
摩耗した外周面の表面層を旋盤によって削り、スリットを除く外周面全体が凹凸のない円柱状となるように整形したうえ、マルテンサイト系ステンレス材からなるフープ(帯状鋼板)肉盛材をサブマージアーク溶接機に用いて肉盛溶接した。残厚は4.5mmであり、サブマージアーク溶接の入熱量は3960J/mmとした。また溶接速度は250mm/min、電流は750A、電圧は22V、冷却はエアー冷却とした。
【0022】
溶接後の冷却過程において肉盛溶接部にはスリットに沿って周方向に断続的にクラックが発生した。そのクラック幅は0.2〜0.4mmであり、そのままスリットの開口部として機能させることが可能であった。従って、肉盛溶接部にスリットを再加工する必要はなかった。
【0023】
このようにして再生されたスリット付き連続鋳造用ロールをそのまま連続鋳造機にセットして使用したが、使用再開後から現在までの摩耗量から推測される使用寿命は5〜6年であり、新品の使用寿命である5年と同等もしくはそれ以上に長くなる。また再生処理に要する時間は従来法の1/10以下となり、大幅な時間短縮が可能となった。
【0024】
この実施例からも明らかなように、本発明はスリットの開口部を塞ぐように広幅の肉盛溶接を行ない、溶接された肉盛溶接部にスリットに沿ってクラックを発生させるという従来にない斬新な着想により、摩耗したスリット付き連続鋳造用ロールを迅速かつ安価に再生することに成功したものであり、経済的効果を含め、その実用的効果は極めて大きいものである。
【符号の説明】
【0025】
1 スリット
2 母材
3 空洞部
4 肉盛材
図1
図2
図3