(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のセラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板とを交互に積層してAl‐Si系ろう材によりろう付け接合するとともに、前記セラミックス基板に形成した貫通孔を介して該セラミックス基板の両側の金属板を接続状態とするパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板と前記金属板とを積層する際に、前記セラミックス基板の貫通孔内に、該貫通孔内部の空間に対して体積率が40%以上100%以下とされる純アルミニウムからなる金属部材をしまり嵌め状態に圧入しておき、前記金属部材を介して前記セラミックス基板の両側の金属板を接合することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
複数のセラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板とを交互に積層してろう付け接合するとともに、前記セラミックス基板に形成した貫通孔の内部に挿入された純アルミニウムからなる金属部材を介して該セラミックス基板の両側の金属板を接続状態としたパワーモジュール用基板であって、前記貫通孔の中心軸を通る径方向断面において、前記貫通孔内のSi濃度が1.6質量%以上とされるAl‐Si共晶部分の面積率が8%以上25%以下とされることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール用基板として、絶縁層となるセラミックス基板の一方の面にアルミニウム板等の回路層が接合されるとともに、セラミックス基板の他方の面にアルミニウム板等の放熱層が接合された構成のものが知られている。
【0003】
この種のパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板に回路層等をろう付けして接合することにより製造されるが、絶縁基板としての機能、放熱基板としての機能の他に、近年の高集積化に伴って配線基板としての機能が求められるようになっており、多層化することが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、複数のセラミックス基板と金属板とを交互に積層するとともに、セラミックス基板に形成した貫通孔を介して両側の金属板を接続状態とするパワーモジュール用基板が提案されている。
このパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の貫通孔内にその貫通孔よりも長い柱状の金属部材を挿入しておき、セラミックス基板と金属板とを積層する際に、金属部材を加圧して塑性変形させて、その金属部材によってセラミックス基板の両側の金属板を接合することにより製造される。このため、セラミックス基板の厚みの寸法ばらつきを金属部材の塑性変形量によって調整でき、安定して接合することができる。そして、熱応力の発生が軽減されるので、セラミックス基板の剥離や割れ等の発生を防止できることが、特許文献1に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載のパワーモジュール用基板においては、各部材の接合はろう付けにより行われ、金属部材と貫通孔の内周面との間に隙間を形成した状態で金属板を接合するため、その隙間に溶融したろう材が流れ込み易くなっている。このため、ろう付け時に大量のろう材が貫通孔内に流れ込むことで、セラミックス基板の両側に積層される金属板を溶解し、金属板に窪みや孔が形成されるおそれがある(エロージョン現象)。そして、金属板に窪み等が形成されることにより、パワーモジュール用基板の耐久性や耐食性を損なうおそれがある。
【0007】
また、特許文献1に記載のパワーモジュール用基板のように、セラミックス基板の貫通孔の内径よりも小径の金属部材を用いて接合を行う場合においては、各部材の組立中(搬送中)に貫通孔から金属部材が抜け落ち易く、製造工程が複雑化することも懸念される。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、セラミックス基板と金属板とを多層に積層し、セラミックス基板の両側の金属板を耐久性や耐食性を損なうことなく容易に接続状態とすることができ、これら金属板間の導通を良好に維持することができるパワーモジュール用基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、複数のセラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板とを交互に積層してAl‐Si系ろう材によりろう付け接合するとともに、前記セラミックス基板に形成した貫通孔を介して該セラミックス基板の両側の金属板を接続状態とするパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板と前記金属板とを積層する際に、前記セラミックス基板の貫通孔内に、該貫通孔内部の空間に対して体積率が40%以上100%以下とされる純アルミニウムからなる金属部材をしまり嵌め状態に圧入しておき、前記金属部材を介して前記セラミックス基板の両側の金属板を接合することを特徴とする。
【0010】
純アルミニウムで形成された金属部材をセラミックス基板の貫通孔内に圧入しているので、その貫通孔内に挿入した金属部材の周囲には隙間がない状態とされる。このため、貫通孔内の空間に溶融したろう材が多量に流れ込むことを防止することができるので、エロージョン現象が引き起こされることを回避でき、耐久性や耐食性を損なうことなくセラミックス基板の両側の金属板を容易に接続状態とすることができる。
また、このろう付け接合時において、貫通孔内に金属部材が隙間なく圧入されているので、その純アルミニウムで形成された金属部材の上下面がろう材と接触するのみで、金属部材とろう材との接触面積を極力小さくすることができる。このため、ろう材中に含まれるSiが金属部材に拡散されにくくなり、引張り強度や耐力が小さい純アルミニウムからなる金属部材によって、緩衝効果を確実に発揮できる状態で接合することができる。したがって、セラミックス基板の割れやクラックの発生を防止することができ、パワーモジュール用基板の長期的な接合信頼性を維持することができるとともに、金属板間の導通を良好に維持することが可能となる。
なお、金属部材の体積が貫通孔内部の空間体積に比べて小さすぎると、金属部材に拡散させることができるSi量が少なくなるため、金属部材が完全に溶融して貫通孔内に液相が集中することにより、エロージョン現象が発生するおそれがある。一方で、金属部材の体積が貫通孔内部の空間体積よりも大きすぎると、金属部材の端部がセラミックス基板から突出することとなり、セラミックス基板と金属板との接合時に荷重を均一に負荷することが難しくなるため、接合不良を引き起こすおそれがある。このため、金属部材は、貫通孔内部の空間に対して体積率を40%以上100%以下として形成することとしている。
さらに、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法においては、セラミックス基板の貫通孔内に金属部材を圧入しておくこととしているので、各部材の組立中(搬送中)に貫通孔から金属部材が抜け落ちることなく、製造工程を円滑に進めることができる。
【0011】
本発明のパワーモジュール用基板は、複数のセラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板とを交互に積層してろう付け接合するとともに、前記セラミックス基板に形成した貫通孔の内部に挿入された純アルミニウムからなる金属部材を介して該セラミックス基板の両側の金属板を接続状態としたパワーモジュール用基板であって、前記貫通孔の中心軸を通る径方向断面において、前記貫通孔内のSi濃度が1.6質量%以上とされるAl‐Si共晶部分の面積率が
8%以上25%以下とされることを特徴とする。
【0012】
金属板どうしを接続する貫通孔内部の領域において、Si濃度が1.6質量%以上とされるAl‐Si共晶部分の面積率が25%以下であれば、硬度の上昇も抑えられるので、それ以外の引張り強度や耐力が小さい純アルミニウムを主とする部分によって、緩衝効果を十分に発揮させることができる。このため、セラミックス基板の割れやクラックの発生を防止することができ、パワーモジュール用基板の長期的な接合信頼性を維持することができるとともに、金属板間の導通を良好に維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セラミックス基板と金属板とを多層に積層し、セラミックス基板の両側の金属板を耐久性や耐食性を損なうことなく容易に接続状態とすることができ、これら金属板間の導通を良好に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1〜
図4は、第1実施形態のパワーモジュール用基板を示している。このパワーモジュール用基板1は、
図1及び
図2に示すように、複数のセラミックス基板2,3と金属板4A〜4E,5A,5B,6とが交互に積層され、相互にろう付けにより接合されている。そして、このパワーモジュール用基板1の最上段に配置される金属板4A〜4Eの一部(図示例では4D,4E)に半導体チップ等の電子部品7が搭載され、最下段に配置される金属板6にヒートシンク8が接合されることにより、パワーモジュールが構成される。
【0016】
セラミックス基板2,3は、AlN、Al
2O
3、SiC、Si
3N
4等により、例えば0.32mm〜1.0mmの厚みに形成される。また、金属板4A〜4E,5A,5B,6は、純度99.90%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金により、例えば0.25mm〜2.5mmの厚みに形成される。そして、これらセラミックス基板2,3と金属板4A〜4E,5A,5B,6との接合には、例えばAl−Si系のろう材が用いられる。
【0017】
図示例では、パワーモジュール用基板1には、符号2,3に示されるセラミックス基板が二枚用いられ、符号4A〜4E,5A,5B,6で示される金属板が三層となるように配置されている。また、金属板4A〜4E,5A,5B,6は、最上段に五枚、両セラミックス基板2,3の間に二枚、最下段に一枚それぞれ設けられている。そして、最上段の金属板4A〜4Eは、中間の位置に一枚(4C)、その両側にそれぞれ二枚ずつ(4A,4B,4D,4E)配置されている。また、両セラミックス基板2,3の間の金属板5A,5Bは、
図2及び
図3に示すように、最上段の両側位置に配置されている金属板4A,4D及び金属板4B,4Eをそれぞれ連結し得る長さの細長い帯板状に形成され、二枚が面方向に相互間隔をあけて平行に並んで配置されている。そして、これら金属板4A〜4Eと金属板5A,5Bとの間に配置されるセラミックス基板2には、
図1及び
図2に示すように、その厚み方向に貫通する貫通孔11が形成されている。そして、最上段の両側部の金属板4A,4D及び金属板4B,4Eが組になって、中間位置の金属板4Cの下方で連結するように、中央(中段)の金属板5A,5Bを介して相互に電気的接続状態とされている。
【0018】
その接続状態としては、セラミックス基板2に4個の貫通孔11が形成され、これら貫通孔11を介して前述の五枚の最上段の金属板4A〜4Eのうちの中間位置の金属板4Cを除く四枚の金属板4A,4B,4D,4Eが、両セラミックス基板2,3の間の金属板5A,5Bに接続された構造とされている。詳細については後述するが、この場合、例えば
図4に示すように、貫通孔11内に圧入された純アルミニウムからなる金属部材12を介して、セラミックス基板2の両側の金属板4A,4B,4D,4Eと金属板5A,5Bとが接続状態とされる。そして、このように構成されるパワーモジュール用基板1では、貫通孔11の中心軸を通る径方向断面において、貫通孔11内部のSi濃度が1.6質量%以上とされるAl‐Si共晶部分の面積率が25%以下となるように形成されている。
【0019】
次に、このように構成したパワーモジュール用基板1を製造する方法について説明する。
二枚のセラミックス基板2,3のうち、貫通孔11を有するセラミックス基板2は、セラミックスの焼成前のグリーンシートにプレス加工により貫通孔を形成した後に焼成することにより得ることができる。なお、セラミックス基板2の外形は、焼成後に加工される。また、貫通孔を有しないセラミックス基板3についても、グリーンシートを焼成した後に外形が加工される。
そして、貫通孔11を有するセラミックス基板2の貫通孔11内には、例えば、その貫通孔11の内周径よりも径の大きい円柱状で、貫通孔11内部の空間に対して体積率が40%以上100%以下とされる純アルミニウムからなる金属部材12がしまり嵌め状態に圧入される。これにより、セラミックス基板2の貫通孔11から金属部材12が抜け落ちることなく、製造工程を円滑に進めることができるようになっている。なお、円柱状の金属部材12は、純アルミニウムの板材をプレス加工により打ち抜くことにより形成することができる。金属部材12としては、純度99.9%以上の純アルミニウムを用いることが好ましい。また、金属部材12を予め400℃以上で焼きなまし処理を行っておくことが好ましい。
【0020】
次に、金属板4A〜4E,5A,5B,6は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板材の表面に、Al‐Si系のろう材箔13をオクタンジオール等の揮発性有機媒体等により仮固定しておき、これらをプレス加工によって一体に打ち抜くことにより、ろう材箔13が貼り付けられた金属板とされる。この場合、
図5に示すように、最上段の金属板4A〜4E及び最下段の金属板6には片面にろう材箔13が貼り付けられ、中段の金属板5A,5Bには両面にろう材箔13が貼り付けられる。
【0021】
このようにして形成したセラミックス基板2,3と金属板4A〜4E,5A,5B,6とを交互に重ね合せ、その積層体Sを積層方向に加圧しながら加熱することにより、ろう付けする。
この際、積層体Sの積層方向への加圧は、例えば
図7に示すように二枚の加圧板111とその四隅に設けられた支柱112によって構成された加圧治具110を用いて行われ、この加圧板111間に積層体Sを載置することにより加圧が行われる。
【0022】
なお、加圧治具110の二枚の加圧板111はステンレス鋼材により形成され、この加圧板111を挟むように、両端に螺子が切られた支柱112にナット113が締結されている。また、支柱112に支持された天板114と加圧板111との間に、加圧板111を下方に付勢するばね等の付勢手段115が備えられており、積層体Sの積層方向の加圧力は、この付勢手段115とナット113の締付けによって調整される。なお、積層体Sの両面には、加圧を均一にするためにカーボンシート116が配設される。
【0023】
そして、積層体Sを、加圧治具110により積層方向に0.2MPa以上0.6MPa以下で加圧した状態で、加圧治具110ごと加熱炉(図示略)内に設置し、真空中で620℃以上650℃以下のろう付け温度に加熱することにより、各部材がろう付けされ、パワーモジュール用基板1が製造される。
【0024】
このろう付け接合時において、セラミックス基板2の貫通孔11内には、加熱前の状態において
図6に示すように金属部材12がしまり嵌め状態に圧入されているので、貫通孔11の内周面と金属部材12の外周面との間は隙間がない状態とされる。このため、加熱されることにより溶融したろう材は、金属部材12の上下面側に形成される貫通孔11内の僅かな空間に流れ込むだけで、液相の集中を抑制することができ、エロージョン現象が引き起こされることが回避できる。
【0025】
そして、貫通孔11内では、ろう材中に含まれるSiは、主に純アルミニウムで形成される金属部材12に拡散しながら、セラミックス基板2の両側に配置される金属板4A,4B,4D,4E,5A,5Bと金属部材12とをろう付けし、これら最上段の金属板4A,4B,4D,4Eと中段の金属板5A,5Bとを、金属部材12を介して接続状態とすることができる。また同時に、セラミックス基板2とその両側の最上段の金属板4A,4B,4D,4E及び中段の金属板5A,5Bとがろう付けされ、パワーモジュール用基板1が製造される。
【0026】
このように構成されるパワーモジュール用基板1においては、上述したように、ろう付け時において金属部材12が多量のろう材と接触することを防止することができるので、ろう材中に含まれるSiが金属部材12に拡散される範囲が制限され、貫通孔11の中心軸を通る径方向断面において、貫通孔11内のSi濃度が1.6質量%以上とされるAl‐Si共晶部分の面積率を25%以下にすることができる。
このように、最上段の金属板4A,4B,4D,4Eと中段の金属板5A,5Bとを接続する貫通孔11内部の領域において、Si濃度が1.6質量%以上とされるAl‐Si共晶部分の面積率が25%以下であれば、硬度の上昇が抑えられるので、それ以外の引張り強度や耐力が小さい純アルミニウムを主とする部分によって、緩衝効果を十分に発揮させることができる。したがって、セラミックス基板2の割れやクラックの発生を防止することができ、パワーモジュール用基板1の長期的な接合信頼性を維持することができるとともに、最上段の金属板4A,4B,4D,4Eと中段の金属板5A,5Bとの間の導通を良好に維持することが可能となる。
【0027】
また、上記パワーモジュール用基板の製造方法においては、貫通孔11内の空間に溶融したろう材が多量に流れ込むことを防止することができるので、エロージョン現象が引き起こされることを回避でき、耐久性や耐食性を損なうことなくセラミックス基板2の両側の最上段の金属板4A,4B,4D,4Eと中段の金属板5A,5Bとを接続状態とすることができる。
【0028】
なお、金属部材12の体積が貫通孔11内部の空間体積に比べて小さすぎると、金属部材12に拡散させることができるSi量が少なくなるため、金属部材12が完全に溶融して貫通孔11内に液相が集中することにより、エロージョン現象が発生するおそれがある。一方で、金属部材12の体積が貫通孔11内部の空間体積よりも大きすぎると、金属部材12の端部がセラミックス基板2から突出することとなり、セラミックス基板2と両側の金属板4A,4B,4D,4E,5A,5Bとの接合時に荷重を均一に負荷することが難しくなるため、接合不良を引き起こすおそれがある。このため、金属部材12は、貫通孔11内部の空間に対して体積率を40%以上100%以下として形成することとしている。
【0029】
さらに、本実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法においては、上述したように、セラミックス基板2の貫通孔11内に金属部材12を圧入しておくこととしているので、各部材の組立中(搬送中)に貫通孔11から金属部材12が抜け落ちることなく、製造工程を円滑に進めることができる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の効果を確認するために行った本発明例及び比較例について説明する。
各試料のパワーモジュール用基板は、20mm×25mm、厚み0.635mmのAlNに直径1.5mmの貫通孔を10個形成したセラミックス基板と、そのセラミックス基板の両面に配置する18mm×23mm、厚み0.4mmの純度99.99%のアルミニウムからなる金属板とを、Al‐7.5Siろう材(厚み20μm)により接合して作製した。また、セラミックス基板の各貫通孔内に挿入する金属部材は、4N‐Alにより直径1.5mmで厚みを表1に示すように変量して円柱状に形成し、セラミックス基板の貫通孔と金属部材とがしまり嵌め状態で圧入可能となるように直径を50μm程度の公差で形成した。また、表1には、各試料の金属部材の厚みの違いによる「貫通孔に対する金属部材の体積率」を算出して記載した。
なお、各金属部材には、それぞれ400℃、60分の焼きなまし処理を施した。
【0031】
そして、これらのパワーモジュール用基板の試料について、金属板表面の窪み等の有無、セラミックス基板割れの有無、貫通孔内部のAl‐Si共晶部分の面積率及び最大ボイド面積の評価を行った。
金属板表面の窪み等の有無は目視により行い、10個の貫通孔に対して、窪みや孔等の形状不良が1つも確認されずに良好な結果が得られたものを「○」、形状不良が1つでも確認されたものを「×」と評価した。
また、セラミックス基板割れの有無も目視により行い、セラミックス基板と金属板とのろう付け後のパワーモジュール用基板について、セラミックス基板に割れやクラックが確認されずに良好な結果が得られたものを「○」、割れ等が確認されたものを「×」と評価した。
【0032】
また、貫通孔内部のAl‐Si共晶部分の面積率の評価は、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)により貫通孔の中心軸を通る径方向断面におけるSiの分析を行うことにより、Si濃度が1.6質量%以上とされるAl‐Si共晶部分の面積率を算出した。なお、Al‐Si共晶部分の面積率は、貫通孔の中心軸を通る径方向断面の断面積を100とした値である。EPMAによる各試料のSiの断面分析画像の一例として、
図8に本発明例2の断面分析画像を示す。この
図8において、Al‐Si共晶部分は、符号15で示す白色で示される領域であり、セラミックス基板2の貫通孔11の開口部付近に沿ってAl‐Si共晶部分が分布していることがわかる。なお、
図8の符号4,5は金属板を示す。
【0033】
また、最大ボイド面積は、超音波探傷装置(日立パワーソリューションズ社製ES5000)でセラミックス基板と金属板の接合界面を測定することにより求めた。最大ボイド面積は、金属板の全面を測定し、上記接合界面に存在する最も大きいボイドの面積である。そして、最大ボイド面積が1.5mm
2未満とされ良好な結果が得られたものを「○」、1.5mm
2以上の場合を「×」と評価した。
表1に、各試料の評価結果を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1からわかるように、セラミックス基板の貫通孔に対する金属部材の体積率を40%以上で形成した本発明例1〜3の試料においては、金属板表面の窪み等が生じることなく、またセラミックス基板の割れが生じることなく、良好にろう付けを行うことができた。そして、これら本発明1〜3の試料においては、貫通孔の中心軸を通る径方向断面において、貫通孔内のSi濃度が1.6質量%以上とされるAl‐Si共晶部分の面積率が25%以下となっていた。
一方、セラミックス基板の貫通孔に対する金属部材の体積率を40%未満の33%で形成した比較例1の試料においては、金属板表面の窪み等が生じ、またセラミックス基板の割れが生じる結果となった。さらに、貫通孔の径方向断面における貫通孔内のAl‐Si共晶部分の面積率が25%を超えていた。
また、セラミックス基板の貫通孔に対する金属部材の体積率を110%とした比較例2では、最大ボイド面積が1.5mm
2以上となり、セラミックス基板と金属板との接合に接合不良が発生した。
【0036】
このように、セラミックス基板の貫通孔に圧入する金属部材は、貫通孔内部の空間に対して体積率を40%以上100%以下として形成することにより、貫通孔の中心軸を通る径方向断面において、貫通孔内のSi濃度が1.6質量%以上とされるAl‐Si共晶部分の面積率を25%以下にすることができる。また、このようにして製造されるセラミックス基板の製造方法においては、エロージョン現象が引き起こされることを回避でき、耐久性や耐食性を損なうことなくセラミックス基板の両側の金属板を接続状態とすることができる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の実施形態において金属部材12として円柱状のものを用いたが、これに限らず、球状の純アルミニウムを金属部材として用いることも可能である。さらに、金属部材を小径の球状の純アルミニウムを複数用いることにより形成することも可能である。この場合、小径の球状の純アルミニウムを複数貫通孔内に詰めることで、しまり嵌め状態にすることができる。