(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記圧電体層に、さらにLi(リチウム)、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、Mn(マンガン)から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素については同一の符号を付す。また、上下左右の位置関係は図面に示す通りである。また、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0027】
(圧電素子)
図1に本実施形態に係る圧電素子100を示す。圧電素子100は、基板4と、基板4上に設けられた絶縁層6および第一電極層8と、第一電極層8上に形成された圧電体層10と、圧電体層10上に形成された第二電極層12とを備える。
【0028】
基板4には、(100)面方位を有するシリコン基板を用いることができる。基板4は、一例として、50μm以上、1000μm以下の厚さを有する。また、基板4として、(100)面とは異なる面方位を有するシリコン基板、Silicon on Insulator(SOI)基板、石英ガラス基板、GaAs等からなる化合物半導体基板、サファイア基板、ステンレス等からなる金属基板、MgO基板、SrTiO
3基板等を用いることもできる。
【0029】
絶縁層6は、基板4が導電性である場合に用いられる。絶縁層6にはシリコンの熱酸化膜(SiO
2)、Si
3N
4、ZrO
2、Y
2O
3、ZnO、Al
2O
3等を用いることができる。基板4が導電性を持たない場合、絶縁層6は備えなくてもよい。絶縁層6は、スパッタリング法、真空蒸着法、熱酸化法、印刷法、スピンコート法、ゾルゲル法などにより形成することができる。
【0030】
第一電極層8は、一例として、Pt(白金)から形成される。第一電極層8は、一例として、0.02μm以上、1.0μm以下の厚さを有する。第一電極層8をPtから形成することにより、高い配向性を有する圧電体層10を形成できる。また、第一電極層8として、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Au(金)、Ru(ルテニウム)、Ir(イリジウム)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)等の金属材料、又はSrRuO
3、LaNiO
3等の導電性金属酸化物を用いることもできる。第一電極層8は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、ゾルゲル法などにより形成することができる。
【0031】
圧電体層10に用いる材料としては、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト化合物であって、Taを添加物として含有し、TaがAサイトおよびBサイト双方に配置されている(Ka、Na)NbO
3(ニオブ酸カリウムナトリウム)が用いられる。
【0032】
TaがAサイトおよびBサイト双方に配置されているニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)薄膜を備えることで、圧電素子100の誘電率の温度依存性を低減することができるとともに、圧電特性を向上することができる。
【0033】
圧電体層10は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、ゾルゲル法などにより成膜した後に、窒素・酸素混合ガスを供給しながら熱処理することにより形成する。
【0034】
熱処理温度は500℃以上700℃以下が好ましく、600℃以上700℃以下がより好ましい。500℃以上で熱処理することにより、圧電体層10が含むTaをAサイトおよびBサイト双方に配置することができ、圧電素子100の信頼性を高めることができる。これは圧電体層10の誘電率の温度依存性が小さくなること、および圧電特性の劣化が防止されたことに起因する。熱処理温度を700℃以下とすることで、圧電体層10と接する他層との反応を防止することができ、圧電素子100の圧電特性の劣化を防止できる。
【0035】
圧電体層10のTaの含有量は0.1at%以上、10at%以下であることが好ましい。
【0036】
Taの含有量を0.1at%以上とすることにより、圧電体層10の誘電率の温度依存性をさらに小さくすることができ、圧電素子100の信頼性をさらに高めることができる。また10at%以下とすることで圧電素子100の圧電特性の劣化をより一層抑えることができる。
【0037】
また、圧電素子100の圧電体層10はZrを添加物として含有し、ZrはAサイトおよびBサイト双方に配置することが好ましい。これにより、圧電素子100の圧電特性をより一層改善することができる。
【0038】
圧電体層10のZrの含有量は0.1at%以上、5.0at%以下であることが好ましい。
【0039】
Zrの含有量を0.1at%以上とすることにより、圧電素子100の圧電特性をさらに高めることができ、5.0at%以下とすることで圧電特性の劣化をより一層抑えることができる。
【0040】
圧電体層10成膜後の熱処理時の酸素分圧は1.5%以上30%以下が好ましい。1.5%以上とすることで、ZrをA、Bサイト双方に配置することができ、圧電特性をさらに向上させることができる。30%以下とすることで、ZrがAサイトに過剰に配置されることを防ぎ、圧電特性の劣化をより一層抑えられる。
【0041】
また、圧電体層10が含有するTaのAサイト分配率が25%以上75%以下であることが好ましい。
【0042】
TaのAサイト分配率を25%以上とすることにより、誘電率の温度依存性をより小さくでき、圧電素子100の圧電素子の信頼性をさらに高めることができ、75%以下とすることで、圧電特性の劣化をより一層抑えることができる。
【0043】
また、圧電体層10が含有するZrのAサイト分配率が25%以上75%以下であることが好ましい。
【0044】
ZrのAサイト分配率を25%以上とすることにより、圧電素子100の圧電特性をさらに高めることができ、75%以下とすることで、圧電特性の劣化をより一層抑えることができる。
【0045】
圧電体層10には、更にLi(リチウム)、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、Mn(マンガン)から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含むことが好ましい。これらの各元素の含有量は0.1at%以上、5.0at%以下であることがより好ましい。これにより、圧電素子100の圧電特性をさらに高めることができる。
【0046】
なお、Taをはじめとする前記各元素の添加量は、各元素を含むKNN薄膜全体で100at%となるように含有させる。
【0047】
さらに、下式(1)で表されるTaの含有量とTaのAサイト分配率から計算される値が5.0以上75以下であることがより好ましい。これにより、圧電素子100の圧電特性をさらに高めることができる。
TaのAサイト分配率(%)/Taの含有率(%) ・・・式(1)
【0048】
第二電極層12は、一例として、Ptから形成される。第二電極層12は、一例として、0.02μm以上、1.0μm以下の厚さを有する。また、第二電極層12として、Pd、Rh、Au、Ru、Ir、Mo、Ti、Ta等の金属材料、又はSrRuO
3、LaNiO
3等の導電性金属酸化物を用いることもできる。第二電極層12は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、ゾルゲル法などにより形成することができる。
【0049】
なお、圧電素子100から基板4を除去してもよい。これにより、圧電素子の変位量や感度を高めることができる。
【0050】
また、圧電素子100を保護膜によりコーティングしてもよい。これにより、信頼性を高めることができる。
【0051】
圧電素子100では第一電極層8、および第二電極層12のいずれか一方あるいは両方と圧電体層10との間に中間層を備えてもよい。
【0052】
この中間層としては導電性酸化物が用いられる。とくにSrRuO
3、SrTiO
3、LaNiO
3、CaRuO
3、BaRuO
3、(La
xSr
1−x)CoO
3、YBa
2Cu
3O
7、La
4BaCu
5O
13 などは導電性が高く耐熱性もあり好ましい。
【0053】
(圧電アクチュエータ)
図2(a)は、これらの圧電素子を用いた圧電アクチュエータの一例としてのハードディスクドライブ(以下HDDとも呼ぶ)に搭載されたヘッドアセンブリの構成図である。この図に示すように、ヘッドアセンブリ200は、その主なる構成要素として、ベースプレート9、ロードビーム11、フレクシャ17、駆動素子である第1及び第2の圧電素子13、及びヘッド素子19aを備えたスライダ19を備えている。
【0054】
そして、ロードビーム11は、ベースプレート9に例えばビーム溶接などにより固着されている基端部11bと、この基端部11bから先細り状に延在された第1及び第2の板バネ部11c及び11dと、第1及び第2の板バネ部11c及び11dの間に形成された開口部11eと、第1及び第2の板バネ部11c及び11dに連続して直線的かつ先細り状に延在するビーム主部11fと、を備えている。
【0055】
第1及び第2の圧電素子13は、所定の間隔をもってフレクシャ17の一部である配線用フレキシブル基板15上にそれぞれ配置されている。スライダ19はフレクシャ17の先端部に固定されており、第1及び第2の圧電素子13の伸縮に伴って回転運動する。
【0056】
第1及び第2の圧電素子13は、第一電極層と、第二電極層と、この第一および第二電極層に挟まれた圧電体層から構成されており、本発明の圧電アクチュエータの圧電体層として、誘電率の温度依存性が小さく、大きな変位量の圧電体層を用いることで、高い信頼性と十分な変位量を得ることができる。
【0057】
図2(b)は、上記の圧電素子を用いた圧電アクチュエータの他の例としてのインクジェットプリンタヘッドの圧電アクチュエータの構成図である。
【0058】
圧電アクチュエータ300は、基材20上に、絶縁膜23、下部電極層24、圧電体層25および上部電極層26を積層して構成されている。
【0059】
所定の吐出信号が供給されず下部電極層24と上部電極層26との間に電圧が印加されていない場合、圧電体層25には変形を生じない。吐出信号が供給されていない圧電素子が設けられている圧力室21には、圧力変化が生じず、そのノズル27からインク滴は吐出されない。
【0060】
一方、所定の吐出信号が供給され、下部電極層24と上部電極層26との間に一定電圧が印加された場合、圧電体層25に変形を生じる。吐出信号が供給された圧電素子が設けられている圧力室21ではその絶縁膜23が大きくたわむ。このため圧力室21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル27からインク滴が吐出される。
【0061】
ここで、本発明の圧電アクチュエータの圧電体層として、誘電率の温度依存性が小さく、大きな変位量の圧電体層を用いることで、高い信頼性と十分な変位量を得ることができる。
【0062】
(圧電センサ)
図3(a)は、上記の圧電素子を用いた圧電センサの一例としてのジャイロセンサの構成図(平面図)であり、
図3(b)は
図3(a)のA−A線矢視断面図である。
【0063】
ジャイロセンサ400は、基部110と、基部110の一面に接続する二つのアーム120、130を備える音叉振動子型の角速度検出素子である。このジャイロセンサ400は、上述の圧電体素子を構成する圧電体層30、上部電極層31、及び下部電極層32を音叉型振動子の形状に則して微細加工して得られたものであり、各部(基部110、及びアーム120、130)は、圧電素子によって一体的に形成されている。
【0064】
一方のアーム120の第一の主面には、駆動電極層31a、31b、及び検出電極層31dがそれぞれ形成されている。同様に、他方のアーム130の第一の主面には、駆動電極層31a、31b、及び検出電極層31cがそれぞれ形成されている。これらの各電極層31a、31b、31c、31dは、上部電極層31を所定の電極形状にエッチングすることにより得られる。
【0065】
なお、基部110、及びアーム120、130のそれぞれの第二の主面(第一の主面の裏側の主面)にべた状に形成されている下部電極層32は、ジャイロセンサ400のグランド電極として機能する。
【0066】
ここで、それぞれのアーム120、130の長手方向をZ方向とし、二つのアーム120、130の主面を含む平面をXZ平面とした上で、XYZ直交座標系を定義する。
【0067】
駆動電極層31a、31bに駆動信号を供給すると、二つのアーム120、130は、面内振動モードで励振する。面内振動モードとは、二つのアーム120、130の主面に平行な向きに二つのアーム120、130が励振する振動モードのことを称する。例えば、一方のアーム120が−X方向に速度V1で励振しているとき、他方のアーム130は+X方向に速度V2で励振する。
【0068】
この状態でジャイロセンサ400にZ軸を回転軸として角速度ωの回転が加わると、二つのアーム120、130のそれぞれについて速度方向に直交する向きにコリオリ力が作用し、面外振動モードで励振し始める。面外振動モードとは、二つのアーム120、130の主面に直交する向きに二つのアーム120、130が励振する振動モードのことを称する。例えば、一方のアーム120に作用するコリオリ力F1が−Y方向であるとき、他方のアーム130に作用するコリオリ力F2は+Y方向である。
【0069】
コリオリ力F1、F2の大きさは、角速度ωに比例するため、コリオリ力F1、F2によるアーム120、130の機械的な歪みを圧電体層30によって電気信号(検出信号)に変換し、これを検出電極層31c、31dから取り出すことにより角速度ωを求めることができる。
【0070】
本発明の圧電センサの圧電体層として、誘電率の温度依存性が小さく、大きな変位量の圧電体層を用いることで、高い信頼性と十分な検出感度を得ることができる。
【0071】
図3(c)は、上記の圧電素子を用いた圧電センサの第二の例としての圧力センサの構成図である。
【0072】
圧力センサ500は、圧力を受けたときに対応するための空洞45を有するとともに、圧電素子40を支える支持体44と、電流増幅器46と、電圧測定器47とから構成されている。圧電素子40は共通電極層41と圧電体層42と個別電極層43とからなり、この順に支持体44に積層されている。ここで、外力がかかると圧電素子40がたわみ、電圧測定器47で電圧が検出される。
【0073】
本発明の圧電センサの圧電体層として、誘電率の温度依存性が小さく、大きな変位量の圧電体層を用いることで、高い信頼性と十分な検出感度を得ることができる。
【0074】
図3(d)は、上記の圧電素子を用いた圧電センサの第三の例としての脈波センサの構成図である。
【0075】
脈波センサ600は、基材51上に送信用圧電素子、及び受信用圧電素子を搭載した構成となっており。ここで、送信用圧電素子では送信用圧電体層52の厚み方向の両面には電極層54a、55aが形成されており、受信用圧電素子では受信用圧電体層53の厚み方向の両面にも電極層54b、55bが形成されている。また、基板51には、電極56、上面用電極57が形成されており、電極層54a、54bと上面用電極57とはそれぞれ配線58で電気的に接続されている。
【0076】
生体の脈を検出するには、先ず脈波センサ600の基板裏面(圧電素子が搭載されていない面)を生体に当接させる。そして、脈の検出時に、送信用圧電素子の両電極層54a、55aに特定の駆動用電圧信号を出力させる。送信用圧電素子は両電極層54a、55aに入力された駆動用電圧信号に応じて励振して超音波を発生し、該超音波を生体内に送信する。生体内に送信された超音波は血流により反射され、受信用圧電素子により受信される。受信用圧電素子は、受信した超音波を電圧信号に変換して、両電極層54b、55bから出力する。
【0077】
本発明の圧電センサの両圧電体層として、誘電率の温度依存性が小さく、大きな変位量の圧電体層を用いることで、高い信頼性と十分な検出感度を得ることができる。
【0078】
(ハードディスクドライブ)
図4は、
図2(a)に示したヘッドアセンブリを搭載したハードディスクドライブの構成図である。
【0079】
ハードディスクドライブ700は、筐体60内に、記録媒体としてのハードディスク61と、これに磁気情報を記録及び再生するヘッドスタックアセンブリ62とを備えている。ハードディスク61は、図示を省略したモータによって回転させられる。
【0080】
ヘッドスタックアセンブリ62は、ボイスコイルモータ63により支軸周りに回転自在に支持されたアクチュエータアーム64と、このアクチュエータアーム64に接続されたヘッドアセンブリ65(200)とから構成される組立て体を、図の奥行き方向に複数個積層したものである。ヘッドアセンブリ65の先端部には、ハードディスク61に対向するようにスライダ19が取り付けられている(
図2(a)参照)。
【0081】
ヘッドアセンブリ65は、ヘッド素子19a(
図2(a)参照)を2段階で変動させる形式を採用している。ヘッド素子19aの比較的大きな移動はボイスコイルモータ63によるヘッドアセンブリ65、及びアクチュエータアーム64の全体の駆動で制御し、微小な移動はヘッドアセンブリ65の先端部によるスライダ19の駆動により制御する。
【0082】
このヘッドアセンブリ65に用いられる圧電素子において、圧電体層として誘電率の温度依存性が小さく、大きな変位量の圧電体層を用いることで、高い信頼性と十分なアクセス性を得ることができる。
【0083】
(インクジェットプリンタ装置)
図5は、
図2(b)に示したインクジェットプリンタヘッドを搭載したインクジェットプリンタ装置の構成図である。
【0084】
インクジェットプリンタ装置800は、主にインクジェットプリンタヘッド70、本体71、トレイ72、ヘッド駆動機構73を備えて構成されている。圧電アクチュエータ300はインクジェットプリンタヘッド70に備えられている。
【0085】
インクジェットプリンタ装置800は、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの計4色のインクカートリッジを備えており、フルカラー印刷が可能なように構成されている。また、このインクジェットプリンタ装置800は、内部に専用のコントローラボード等を備えており、インクジェットプリンタヘッド70のインク吐出タイミング及びヘッド駆動機構73の走査を制御する。また、本体71は背面にトレイ72を備えるとともに、その内部にオートシートフィーダ(自動連続給紙機構)76を備え、記録用紙75を自動的に送り出し、正面の排出口74から記録用紙75を排紙する。
【0086】
このインクジェットプリンタヘッド70の圧電アクチュエータに用いられる圧電素子において、圧電体層として誘電率の温度依存性が小さく、大きな変位量の圧電体層を用いることで、高い信頼性と高い安全性を有するインクジェットプリンタ装置を提供することができる。
【0087】
例えば、本発明の圧電素子は、ジャイロセンサ、ショックセンサ、マイクロフォンなどの圧電効果を利用したもの、あるいはアクチュエータ、インクジェットヘッド、スピーカー、ブザー、レゾネータなどの逆圧電効果を利用したものに用いることができるが、逆圧電効果を利用した圧電素子に特に好適である。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
(圧電素子の作製)
(実施例1)
本実施例において、「基体」とは、各工程における被成膜体を意味する。
【0090】
熱酸化膜(SiO
2:絶縁層6)付きの直径3インチのシリコンウエハ(基板4)をRFスパッタリング装置の真空チャンバ内に設置し、真空排気を行ったのちに、第一電極層8としてPtを成膜した。成膜時の基体温度は400℃、第一電極層8の厚さは200nmとした。
【0091】
続いて、基体をスパッタリングターゲットを装着したRFスパッタリング装置のチャンバに移し、真空排気を行ったのちに、圧電体層10として、Taを1.0at%含む(K
0.5Na
0.5)NbO
3薄膜を成膜した。スパッタリングターゲットとして、Taを1.0at%含む(K
0.5Na
0.5)NbO
3焼結体を用いた。成膜時の基体温度は550℃、圧電体層10の厚さは2000nmとした。
【0092】
圧電体層10を成膜後、基体を熱処理装置に移し、熱処理を行った。熱処理温度は500℃とし、窒素・酸素混合ガスを供給しながら1時間処理熱処理を行った。また、酸素分圧は1.0%とした。
【0093】
圧電体層10を成膜後、添加物であるTaが結晶構造中に配置されているサイトおよびそのAサイト、Bサイトへの分配率を算出するため、Atom−Location by Channeling Enhanced Microanalysis法(以下ALCHEMI法という)による分析を行った。
【0094】
ALCHEMI法とは、入射電子が特定の原子位置を通過する現象(電子チャンネリング)を利用し、結晶中の不純物原子の位置を決定する手法である。透過電子顕微鏡で電子回折パターンを見ながら電子ビームをブラッグ条件のプラス側およびマイナス側に順次傾斜してエネルギー分散型X線分析法(Energy Dispersive Spectroscopy:以下EDSという)、もしくはエネルギー損失分光法(Energy Loss Spectroscopy:以下EELSという)で得た強度の違いを観察することから、不純物原子の占有位置(サイト)が区別できる。本実施例においてはEDSを用いた。
【0095】
圧電体層10はニオブ酸カリウムナトリウムを主成分とする一般式ABO
3で表されるペロブスカイト化合物である。そこで、Taのサイト分配率算出に当たり、主成分であるK(カリウム)およびNa(ナトリウム)はAサイト、Nb(ニオブ)はBサイトに100%配置されていると仮定した。
【0096】
前記ALCHEMI分析により算出された、圧電体層10におけるTaのAサイト分配率は12.0%、Bサイト分配率は88.0%であった。500℃未満の熱処理では、TaのAサイト分配率はより小さくなる。
【0097】
その後、基体を再びRFスパッタリング装置の別チャンバに移し、真空排気を行った後に、第二電極層12としてPtを成膜した。成膜時の基体温度は200℃、第二電極層12の厚さは200nmとした。
【0098】
第二電極層12を形成後、フォトリソグラフィおよびドライエッチング、ウエットエッチングにより圧電体層を含む積層体をパターニングし、ウエハを切断加工することで、可動部分寸法が5mm×20mmである圧電素子100を得た。
【0099】
表1に本実施例における圧電体層10の主成分、並びに添加物とその含有量、熱処理温度および熱処理時の酸素分圧を示す。さらに、ALCHEMI分析から算出したTaのA、Bサイト分配率と、TaのAサイト分配率/Ta含有量 の値を示す。
【0100】
【表1】
【0101】
(比較例1)
実施例1の圧電素子100の作製工程において、第一電極層を形成した後に、基体をRFスパッタリング装置の別チャンバに移し、真空排気を行ったのちに、圧電体層として、(K
0.5Na
0.5)NbO
3薄膜を成膜した。スパッタリングターゲットとして、他の添加物を含まない(K
0.5Na
0.5)NbO
3焼結体を用いた。成膜時の基体温度は550℃、圧電体層10の厚さは2000nmとした。圧電体層成膜後の熱処理は行わなかった。
【0102】
圧電体層以外の素子構成、作製工程は実施例1と同様にして、比較例1の圧電素子を作製した。
【0103】
表1に比較例1における圧電体層の主成分を示す。
【0104】
(比較例2)
圧電体層として、Taを1.0at%を含む(K
0.5Na
0.5)NbO
3薄膜を成膜した。スパッタリングターゲットとして、Taを1.0at%含む(K
0.5Na
0.5)NbO
3焼結体を用いた。成膜時の基体温度は550℃、圧電体層の厚さは2000nmとした。圧電体層成膜後の熱処理は行わなかった。
【0105】
圧電体層以外の素子構成、作製工程は実施例1と同様にして、比較例2の圧電素子を作製した。
【0106】
表1に比較例2における圧電体層の主成分、並びに添加物とその含有量を示す。さらに、ALCHEMI分析から算出したTaのA、Bサイト分配率と、TaのAサイト分配率/Ta含有量 の値を示す。
【0107】
(実施例2〜3)
圧電体層10として、Taを1.0at%、Zrを1.0at%含む(K
0.5Na
0.5)NbO
3薄膜を成膜した。スパッタリングターゲットとして、Taを1.0at%、Zrを1.0at%含む(K
0.5Na
0.5)NbO
3焼結体を用いた。成膜時の基体温度は550℃、圧電体層10の厚さは2000nmとした。
【0108】
圧電体層10成膜後に、表1に示す条件で熱処理を行った。その他の素子構成、作製工程は実施例1と同様にして、実施例2〜3の圧電素子100を作製した。
【0109】
表1に実施例2〜3における圧電体層10の主成分、並びに添加物とその含有量、熱処理温度および熱処理時の酸素分圧を示す。さらに、ALCHEMI分析から算出したTaとZrのA、Bサイト分配率と、TaのAサイト分配率/Ta含有量 の値を示す。
【0110】
(実施例4〜7)
表1に示す材料をスパッタリングターゲットとして用い、圧電体層10を形成した。また圧電体層10の成膜後、表1に示す条件にて熱処理を行った。その他の素子構成、作製工程は実施例1と同様にして、実施例4〜7の圧電素子100を作製した。
【0111】
表1に実施例4〜7における圧電体層10の主成分、並びに添加物とその含有量、熱処理温度および熱処理時の酸素分圧を示す。さらに、ALCHEMI分析から算出したTaのA、Bサイト分配率と、TaのAサイト分配率/Ta含有量 の値を示す。
【0112】
(実施例8〜17)
表1に示す材料をスパッタリングターゲットとして用い、圧電体層10を形成した。また圧電体層10の成膜後、表1に示す条件にて熱処理を行った。その他の素子構成、作製工程は実施例1と同様にして、実施例8〜17の圧電素子100を作製した。
【0113】
表1に実施例8〜17における圧電体層10の主成分、並びに添加物とその含有量、熱処理温度および熱処理時の酸素分圧を示す。さらに、ALCHEMI分析から算出したTaとZrのA、Bサイト分配率と、TaのAサイト分配率/Ta含有量 の値を示す。
【0114】
(実施例18)
表1に示す材料をスパッタリングターゲットとして用い、圧電体層10を形成した。また圧電体層10の成膜後、表1に示す条件にて熱処理を行った。
【0115】
圧電体層10の形成後、添加物であるTaとZrが結晶構造中に配置されているサイトおよびそのAサイト、Bサイトへの分配率を算出するため、Atom−Location by Channeling Enhanced Microanalysis法(以下ALCHEMI法という)による分析を行った。
【0116】
図6および
図7に、実施例18に用いた圧電体層10のALCHEMI分析に用いたEDSスペクトルを示す。
図6はTaに関する信号であり、
図7はZrに関する信号である。これらの信号からALCHEMI分析によりTaおよびZrのサイト分配率を算出した。その他の素子構成、作製工程は実施例1と同様にして、実施例18の圧電素子100を作製した。
【0117】
(実施例19〜25)
表1に示す材料をスパッタリングターゲットとして用い、圧電体層10を形成した。また圧電体層10の成膜後、表1に示す条件にて熱処理を行った。その他の素子構成、作製工程は実施例1と同様にして、実施例19〜25の圧電素子100を作製した。
【0118】
表1に実施例18〜25における圧電体層10の主成分、並びに添加物とその含有量、熱処理温度および熱処理時の酸素分圧を示す。さらに、ALCHEMI分析から算出したTaとZrのA、Bサイト分配率と、TaのAサイト分配率/Ta含有量の値を示す。
【0119】
(圧電素子の評価)
実施例1〜25、および比較例1〜2の各圧電素子の誘電率の温度依存性をインピーダンスアナライザ(インステック社製)を用いて評価した。周波数1kHzの正弦波(±1V)を印加し容量を測定し、誘電率を計算した。測定時には圧電素子をホットプレートの上に設置し、20℃から10℃刻みで加熱し、設定温度に到達してから5分後に容量の測定を行った。測定で得られた20℃から150℃間での誘電率の変化率を表2に示す。なお変化率は下式2を用い計算した。
誘電率変化率=(150℃時の誘電率−20℃時の誘電率)/20℃時の誘電率 ・・・(式2)
【0120】
【表2】
【0121】
さらに各圧電素子に電圧を印加した際の変位量をレーザドップラー振動計(グラフテック社製)を用いて測定した。第一電極層を正極、第二電極層を負極に接続し、周波数1kHzの正弦波(±20V)の電圧を印加して測定した変位量の値を表2に示す。
【0122】
一般式ABO
3で表されるペロブスカイト化合物であって、Ta(タンタル)がAサイトおよびBサイト双方に配置されているニオブ酸カリウムナトリウム薄膜を圧電体層として備える実施例1〜25の圧電素子は、この要件を備えない比較例1〜2の圧電素子より±20V印加時の変位量が大きいことが確認された。また20℃から150℃間での誘電率の変化率が小さいことが確認された。特に比較例1の圧電素子は、リーク電流が大きく、十分な変位量が得られなかった。
【0123】
ZrがAサイトおよびBサイト双方に配置されているニオブ酸カリウムナトリウム薄膜を圧電体層として備える実施例3の圧電素子は、Zrが添加されているものの、Bサイトのみに配置されていることを除いては同じ構成である実施例2の圧電素子より±20V印加時の変位量が大きいことが確認された。また20℃から150℃間での誘電率の変化率が小さいことが確認された。
【0124】
TaのAサイト分配率が25%以上75%以下であるニオブ酸カリウムナトリウム薄膜を圧電体層として備える実施例4〜6および実施例8〜25の圧電素子は、この要件を備えない比較例1〜2、実施例1〜3、実施例7の圧電素子より±20V印加時の変位量が大きいことが確認された。また20℃から150℃間での誘電率の変化率が小さいことが確認された。このときの熱処理温度は600〜700℃である。
【0125】
ZrがAサイトおよびBサイト双方に配置されており、かつZrのAサイト分配率が25%以上75%以下であるニオブ酸カリウムナトリウム薄膜を圧電体層として備える実施例9〜12、実施例14〜25の圧電素子は、ZrがAサイトおよびBサイト双方に配置されているものの、ZrのAサイト分配率が前記範囲外である実施例8、実施例13の圧電素子より±20V印加時の変位量が大きいことが確認された。また20℃から150℃間での誘電率の変化率が小さいことが確認された。このときの酸素分圧は15〜25%である。
【0126】
Li(リチウム)、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、
Mn(マンガン)から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む実施例14〜25の圧電素子は、前記要件を備えない実施例1〜13の圧電素子より±20V印加時の変位量が大きいことが確認された。
【0127】
下式(1)で表されるTaの含有量とTaのAサイト分配率から計算される値が5.0以上75以下であるニオブ酸カリウムナトリウム薄膜を圧電体層として備える実施例20〜24の圧電素子は、この値が前記範囲外であること以外は同様の構成を備える実施例19および実施例25の圧電素子より、±20V印加時の変位量が大きいことが確認された。
TaのAサイト分配率(%)/Taの含有量(at%) ・・・式(1)
【0128】
以上の実施例においては、Aサイトの主成分であるKとNaとの比率は1、即ち、K
1−XNa
Xにおけるxは0.5としたが、xが0.5以外である組成においても、本発明の効果は変わるものではない。また、以上の実施例において、添加物であるZr、Li、Ba、Sr、Mnはそれぞれ1at%添加した場合の例のみを挙げたが、既述の好適な含有量の範囲でそれぞれの含有量を増加させた場合には、変位量はやや減少する傾向にあり、誘電率の変化率は大きくなる傾向にあるが、好適な範囲が維持される。